説明

ヒ素汚染土壌の復元方法

【課題】 ヒ素汚染土壌の復元方法を提供する。
【解決手段】 ヒ素で汚染された土壌を収集する収集段階と、酸性の、土壌に還元条件を提供する洗浄液に土壌を投入して、土壌からヒ素を除去して洗浄液に移動させる洗浄段階と、洗浄段階後、土壌と洗浄液とを互いに分離する固液分離段階と、固液分離段階で分離された洗浄液と土壌とを処理する後処理段階と、を備えるヒ素汚染土壌の復元方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染された環境を復元するためのものであって、特に、ヒ素で汚染された土壌からヒ素を分離及び処理して土壌を復元するためのヒ素汚染土壌の復元方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌汚染は、廃棄物の投棄、有害物質の漏れ、農薬及び肥料の使用、焼却などの多様な経路を通じて発生する。土壌汚染は、土壌生態系の撹乱、農作物の汚染、汚染物質の人体吸収など多様な直接的な問題を引き起こすだけでなく、地表水、地下水、大気の2次汚染を誘発させる汚染源として作用する。また土壌汚染は、大気と水質汚染に比べて慢性的であるため、復元に長時間及び高コストがかかる。
【0003】
韓国は、土壌汚染が人類と生態系に及ぶ悪影響の深刻性を認識して、土壌環境保全法を制定して施している。土壌環境保全法に16個の項目(Cd、Cu、As、Hg、Pb、Cr6+、Zn、Ni、F、有機リン化合物、CN、BTEX、TPH、TCE、PCE)に対する基準値を定めて管理している。
【0004】
前記16個の項目のうちヒ素で汚染された土壌の復元方法には、固形化、微生物及び化学剤を用いた安定化などの多様な工法が開発されて適用されている。固形化及び安定化工法は、土壌に存在するヒ素を毒性と移動性の少ない形態に変形させる工法である。
【0005】
韓国は、土壌のヒ素汚染程度を測定するために、従来に1N HClを用いたヒ素抽出法を用いたが、2009年に土壌汚染工程試験法が改正されて、王水を用いた抽出法に代替された。すなわち、既存の1N HClを用いた抽出法を使用すれば、生体毒性の強い形態のヒ素が主に抽出され、抽出された量が一定基準値を超過するかどうかを判断したが、新たに適用された王水を用いた抽出法を使用すれば、土壌に存在するヒ素全体が抽出され、抽出されたヒ素が基準値を超過するかどうかを判断する。これにより、既存の安定化及び固形化工法を適用して汚染土壌を復元した時、新たに改正された土壌汚染工程試験法を適用する場合、基準値を満たし困難であった。すなわち、既存の安定化工法では、土壌にあるヒ素の除去率が低くて、復元された土壌に対して王水で再びヒ素を抽出すれば、多量のヒ素が抽出されるためである。
【0006】
一方、ヒ素で汚染された土壌を対象にして酸性溶液を用いた洗浄工法を適用する場合、相対的に不安定した形態(水溶性形態、吸着形態、炭酸塩形態)のヒ素は抽出できるが、相対的に安定した結晶質の酸化鉄形態、残留(residual)形態のヒ素を抽出するには限界がある。
【0007】
また酸性溶液を用いたヒ素汚染土壌の洗浄により、溶出されたヒ素イオンが酸性環境で正電荷を持つ酸化鉄に吸着されて、汚染程度をかえって劣化させるケースが頻繁に発生している。
【0008】
すなわち、ヒ素汚染土壌を、酸性溶液を用いて洗浄すれば、酸化鉄や酸化マンガンと共に共沈されていたヒ素が溶出されつつ負電荷形態を帯びるようになるが、酸性環境では酸化鉄や酸化マンガンが表面に正電荷を形成するので、溶出されたヒ素イオンは酸化鉄や酸化マンガンに再び吸着されることによって、ヒ素除去効率が低下する。
【0009】
したがって、高濃度の安定した形態のヒ素で汚染された土壌に、既存の酸性洗浄液を用いた土壌洗浄工法を適用する場合、復元目的を達成し難いと予想される。このような既存工法の限界を乗り越えられる新たな工法の開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記問題点を解決するためのものであり、ヒ素汚染土壌を非常に経済的かつ効率的に復元できるヒ素汚染土壌の復元方法を提供するところにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するための本発明によるヒ素汚染土壌の復元方法は、ヒ素で汚染された土壌を収集する収集段階と、酸性の、前記土壌に還元条件を提供する洗浄液に前記土壌を投入して、前記土壌からヒ素を除去して前記洗浄液に移動させる洗浄段階と、前記洗浄段階後、前記土壌と洗浄液とを互いに分離する固液分離段階と、前記固液分離段階で分離された洗浄液と土壌とを処理する後処理段階と、を備える。
【0012】
本発明では、ヒ素を共沈している第1形態のヒ素汚染物と、ヒ素が電気的に吸着されている第2形態のヒ素汚染物、及びヒ素と金属との化合物からなる第3形態のヒ素汚染物からヒ素を分離して除去する。
【0013】
本発明の一実施形態で、前記洗浄段階で使われる洗浄液には還元剤が含まれ、亜ジチオン酸ナトリウム(Na)が還元剤として使われうる。
【0014】
また本発明の一実施形態では、前記洗浄液は、土壌洗浄が終了した時点で、水素イオン濃度(pH)が5.5〜7.5範囲であり、酸化還元電位(Eh)は−100〜−400mV範囲に設定する。
【0015】
また本発明の一実施形態では、前記後処理段階では、前記固液分離段階で分離された洗浄液に酸化剤を投入してヒ素を沈殿させた後、再び洗浄液を固液分離してヒ素を除去し、前記酸化剤は、過酸化水素を使用できる。
【0016】
また本発明の一実施形態では、前記後処理段階で、前記洗浄液に酸化剤と共に塩化カルシウム二水和物(CaCl・2H0)を投入してヒ素を沈殿させ、前記洗浄液に陽イオン性凝集剤を投与できる。
【0017】
また本発明の一実施形態では、前記洗浄液は、0.01N塩酸水溶液に2%の亜ジチオン酸ナトリウムを混合して製造できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、還元剤を含む酸性の洗浄液を用いて酸性の還元条件を組成することによって、ヒ素を共沈しているか、またはヒ素が吸着されている酸化鉄または酸化マンガン、または金属とヒ素との化合物のようなヒ素汚染物の溶解度を高めて、ヒ素汚染物からヒ素イオンを容易に除去できる。
【0019】
さらに、土壌洗浄が完了する時点で洗浄液のpHが相対的に高く形成されることによって、溶出されたヒ素イオンが残留する酸化鉄または酸化マンガンに再吸着される従来の問題を解決して、ヒ素除去率が画期的に向上した。
【0020】
また酸化剤、塩化カルシウム二水和物、陽イオン性凝集剤などを使用して洗浄液からヒ素と微細土壌粒子とを容易に除去でき、洗浄液をリサイクルできるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態によるヒ素汚染土壌の復元方法の概略的なフローチャートである。
【図2】酸化鉄鉱物のpH−Ehダイヤグラムである。
【図3】酸化マンガン鉱物のpH−Ehダイヤグラムである。
【図4】pHとEhとの変化によるヒ素イオンの種類を示したダイヤグラムである。
【図5】硫黄のpH−Ehダイヤグラムである。
【図6】洗浄液を決定するための予備実験の結果を示した表である。
【図7】本発明の一実施形態を試験した結果を示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付した図面を参照して、本発明の一実施形態によるヒ素汚染土壌の復元方法についてさらに詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態によるヒ素汚染土壌の復元方法の概略的なフローチャートである。図1を参照すれば、本発明の一実施形態によるヒ素汚染土壌の復元方法では、ヒ素で汚染された土壌を収集するが、主に復元対象地域の土壌を一定深さまで掘削して土壌を収集する。
【0024】
処理対象になるヒ素は、癌を誘発する遺体元素として知られている。土壌でヒ素は3価(AsO3−)あるいは5価(AsO3−)で存在するが、還元環境の土壌では3価ヒ素が優勢し、酸化環境の土壌では5価ヒ素が優勢し、土壌でイオンと固体状態にも存在する。
【0025】
固体状態のヒ素の場合、還元環境で安定した3価ヒ素は、主に硫化鉱物形態に存在し、酸化環境で安定した5価ヒ素は、酸化鉄鉱物及び酸化マンガンと共沈して存在する場合が多い。湿地土壌など特別な環境の土壌を除外した大部分の土壌は酸化環境であり、土壌内のヒ素は主に陰イオンを形成するため、表面が正電荷を表す酸化鉄に吸着されているか、または酸化鉄と酸化マンガンとに共沈した形態に存在する場合が最も多い。
【0026】
土壌で粒子が小さく表面積が大きくて化学的に高い活性を持つ鉱物は、粘土鉱物、酸化鉄、酸化マンガンと知られている。粘土鉱物は表面永久負電荷を持っていて、ヒ素イオンの吸着に制限的である。一方、酸化鉄と酸化マンガンとは、pHの変化によって表面電荷が変わる表面可変電荷を持つ。したがって、ヒ素は、零電荷点(PZC、point of zero charge)以下のpHで、表面正電荷を持つ酸化鉄と酸化マンガンとに電気的に吸着する。
【0027】
固体状態のヒ素は、酸化環境土壌でFeAsO、Fe(AsO、Mn(AsOなど鉄−ヒ素及びマンガン−ヒ素化合物が最も多く、還元環境の土壌ではAsS、As、Asなどのヒ素硫化鉱物が優勢である。また弱い還元環境では、Fe(AsO、Ca(AsOが生成されることもある。強い還元環境を持つ湿地土壌を除外した大部分の土壌で、固体状態のヒ素は鉄、マンガン化合物を形成している。これらのうち、鉄−ヒ素化合物が最も一般的な固体状態のヒ素と知られている。
【0028】
本発明では説明の便宜上、ヒ素が存在する形態によって3種の形態に区切る。すなわち、ヒ素を共沈している第1形態のヒ素汚染物と、ヒ素が電気的に吸着されている第2形態のヒ素汚染物と、ヒ素と化合物とを形成している第3形態のヒ素汚染物とに任意に区切る。
【0029】
第1形態のヒ素汚染物は、主にヒ素を共沈している酸化鉄鉱物または酸化マンガン鉱物であり、第2形態のヒ素汚染物は、ヒ素が吸着されている酸化鉄鉱物または酸化マンガン鉱物であり、第3形態のヒ素汚染物は、鉄、アルミニウム、カルシウムなどの金属とヒ素とが組み合わせられた形態である。
【0030】
前記の第1形態ないし第3形態のヒ素汚染物からヒ素を除去するためには、先ずヒ素汚染物を溶解させてヒ素イオンを溶出させねばならない。すなわち、ヒ素を共沈しているか、またはヒ素が吸着されている酸化鉄または酸化マンガンが溶解されれば、鉄イオンまたはマンガンイオンと共にヒ素イオンが溶出される。またヒ素と鉄化合物、ヒ素とアルミニウム化合物なども溶解されれば、金属イオンと共にヒ素イオンが溶出される。
【0031】
第1形態ないし第3形態のヒ素汚染物を溶解させるための洗浄液として酸が使われるが、図2及び図3の酸化鉄鉱物と酸化マンガン鉱物とのpH−Ehダイヤグラムを参考にすれば、酸の強度が強いほど、すなわち、pHが低いほど溶解度は増大することが分かる。
【0032】
しかし、強酸を用いて第1形態ないし第3形態のヒ素汚染物を溶解させる場合、2つの問題点が発生する。その一つは、経済性及び後処理の問題である。実験室レベルで少量の強酸を使用する場合ならば、経済性にあまり影響されないが、実際土壌復元の場合、大規模で行われるため、経済性を鑑みれば強酸を使用することは困難である。また強酸を洗浄液として使用すれば、後処理コストも増大するので、望ましくない。
【0033】
他の一つの問題は、ヒ素の除去効率に関する。すなわち、酸化マンガンのPZCはpH2−4であり、酸化鉄の平均PZCはpH8である。すなわち、洗浄液のpHが酸化鉄と酸化マンガンとのPZCより低い場合、表面が正電荷を帯びるようになり、pHが低ければ低いほど、その電荷量が増大する。酸によって溶出されたヒ素イオンは陰イオンを形成するので、洗浄液のpHが低いほど溶出されたヒ素イオンが、溶解されずに残留する酸化鉄鉱物または酸化マンガン鉱物に再び吸着される。
【0034】
さらに、強酸の洗浄液を使用する場合、酸化鉄と酸化マンガンとの溶解度も高くなるが、溶解されずに残留する酸化鉄と酸化マンガンとが、洗浄液のpHが低く形成されつつ非常に強い吸着剤として作用するということである。これに、溶出されたヒ素イオンが再び酸化鉄と酸化マンガンとに強く吸着されて、ヒ素除去効率がかえって低下するという問題点がある。
【0035】
逆に洗浄液のpHが高ければ、ヒ素イオンは残留している酸化鉄と酸化マンガンとに吸着されず、既に吸着されていたヒ素も酸化鉄と酸化マンガンとから脱着されるので、土壌からのヒ素の除去率が向上する。
【0036】
結局、第1形態ないし第3形態のヒ素汚染物を溶解させつつも、溶出されたヒ素イオンが再び吸着されることを防止するように、洗浄液のpHを調節する必要がある。特に、洗浄液のpHは、反応初期より溶解反応が最終終了する時点を基準に高く形成されて初めて、ヒ素イオンの再吸着を効果的に防止できる。
【0037】
これに、本発明では、酸化鉄または酸化マンガンなどの第1形態ないし第3形態のヒ素汚染物の溶解度を増大させつつも、反応が終了した時点で洗浄液の最終pHを高めるために、洗浄液に還元剤を混合して使用する。
【0038】
還元剤を洗浄液に含めれば、洗浄液のEhが低くなることによって溶解度が上昇して、洗浄液に使われる酸のpHを初期に相対的に高く設定できるだけでなく、溶解反応時に水素イオンの消耗が促進されて土壌洗浄が完了する時点で洗浄液のpHを高く維持できるためである。本実施形態で洗浄液の最終pHは、5.5ないし7.5ほどに維持できる。
【0039】
図2及び図3のダイヤグラムを見れば、酸化鉄が溶解されて鉄イオンに溶出されるか、または酸化マンガンが溶解されてマンガンイオンとして溶出されるための条件では、pHとEhとが低くなければならないということが分かる。本発明では、pHを低める場合、ヒ素イオンが再び溶解されずに残留する酸化鉄または酸化マンガンに再吸着されてヒ素除去率が低下するので、洗浄液のpHを低める代わりにEhを低めて溶解度を増大させた。
【0040】
還元剤としては、強い還元力を持つ亜ジチオン酸ナトリウム(Na)を使用する。ただし、還元剤としては多様な物質が使われうる。また還元剤を使用すれば、洗浄液のEhが低くなると同時に、溶解反応で電子を供与することによって洗浄液内の水素イオンの消耗を促進させて、洗浄液のpHを上昇させ続ける作用をする。
【0041】
前記のように、洗浄液は塩酸水溶液または硝酸水溶液を用いて製造し、亜ジチオン酸ナトリウムを洗浄液に混合してpHとEhとを調節する。
【0042】
洗浄液が製造されれば、収集段階で掘削されたヒ素汚染土壌を洗浄液に投入した後、攪拌する。ヒ素汚染土壌と洗浄液との間に下記のような溶解反応が起きることによって、第1形態及び第2形態の酸化マンガン及び酸化鉄からヒ素イオンが溶出される。
<第1形態及び第2形態の酸化マンガン鉱物からのヒ素イオン溶出反応>
MnO・AsO3−(吸着あるいは共沈)+4H+2e<−−−>Mn2++AsO3−+2HO (式1)
<第1形態及び第2形態の酸化鉄鉱物からのヒ素イオン溶出反応>
Fe・AsO3−(吸着あるいは共沈)+8H+2e<−−−>3Fe2++AsO3−+4HO (式2)
前記の(式1)、(式2)で第1、2形態の酸化鉄及び酸化マンガンが溶解されつつ水素イオンを消耗し、鉄とマンガンとは酸化数が減少して還元される。水素イオンが消耗されるにつれて洗浄液のpHは順次上昇して、反応が終了する時点では、前記のように洗浄液のpHが5.5〜7.5ほどに維持される。このように洗浄液のpHが相対的に高く形成されることによって、反応が終了する時点でも溶解されずに残留する酸化鉄または酸化マンガンにヒ素イオンが再び吸着するという問題が発生しないところ、ヒ素除去効率が上昇する。
【0043】
第3形態のヒ素汚染物であるAlAsO、Ca(AsO、FeAsO、Fe(AsO、Mn(AsO、Ba(AsOの溶解を通じるヒ素溶出反応は次の通りである。
【0044】
AlAsO+H<−−−>Al3++HAsO2−
Ca(AsO+H<−−−>3Ca2++HAsO2−
FeAsO+H<−−−>Fe3++HAsO2−
Fe(AsO+2H<−−−>3Fe2++2HAsO2−
Mn(AsO+2H<−−−>3Mn2++HAsO2−
Ba(AsO+2H<−−−>3Ba2++2HAsO2−
すなわち、ヒ素と金属との化合物は酸性の条件で溶解されて、ヒ素イオンが溶出される。
【0045】
前記のように、酸性であり還元環境の洗浄液で、酸化マンガンと酸化と鉄は容易に溶解される。酸化マンガンと酸化鉄との溶解過程でHイオンが消耗されることによって、反応が進む間に洗浄液のpHは上昇する。
【0046】
重要なのは、酸と還元剤とを共に使用するという点にある。酸のみ使用する場合、ヒ素汚染物質の溶解度を高めるために高濃度の強酸を使用せねばならないが、この場合、前記のように洗浄液のpHが低く維持されてヒ素イオンの再吸着問題が発生する。そして、還元剤のみ使用してヒ素汚染物質を溶解しようとすれば、反応時間が非常に遅いだけでなく溶解度にも限界がある。
【0047】
酸と還元剤とを同時に使用する場合、2つの利点がある。第1は、還元剤によって洗浄液のEhが低くなることによってヒ素汚染物質の溶解度が増大するので、洗浄液に使われるpHを最初から相対的に高く維持できるということである。
【0048】
第2は、還元剤を使用すれば、前記の(式1)及び(式2)のように還元剤から電子が提供されて溶解反応を促進させ、水素イオンを多く消耗させることによって、洗浄液のpHを反応過程で上昇させることができるということである。
【0049】
すなわち、反応初期に相対的に強酸を使用する場合であっても、還元剤と共に使用する場合に最終洗浄液のpHを高めることができて、ヒ素イオンの再吸着問題が解決されうる。例えば、同じpHを持つ酸を洗浄液として使用しつつ還元剤を共に使用するかどうかによって、反応終了後の洗浄液の最終pHは、還元剤を使用した場合がはるかに高く示される。
【0050】
結局、洗浄液が酸性条件と還元条件とを同時に満たした時、ヒ素の除去に最も有利な環境を付与する。
【0051】
一方、図4のダイヤグラムに示されたように、ヒ素汚染物から溶出されたヒ素は、pH、Ehの変化によって酸化還元状態(3価、5価)とイオンの種類とが変わり、イオン種類によって土壌粒子に対する吸着程度が変わる。土壌に吸着されることを最小化するためには、図4のダイヤグラムでヒ素が電荷を帯びていない形態に存在する領域、すなわち、HAsOの安定領域に存在することが望ましい。
【0052】
pH6以上で、酸化鉄と酸化マンガンとからヒ素イオンの脱着が活発に進むという点と、溶出されたヒ素イオンが電荷を帯びていない形態に存在する安全領域の条件とを考慮すれば、洗浄液と土壌との反応中に、洗浄液のpHは5.5〜7.5、Ehは−100〜−400mVの範囲、さらに望ましくは、pHは6〜7、Ehは−200〜−300mVの範囲に維持されることが適正であると判断される。洗浄液のpH及びEhが前記の範囲より小さければ、溶出されたイオンが再び土壌粒子に吸着されるので望ましくなく、前記の範囲より大きい場合には、ヒ素汚染物の溶解度が低下して望ましくない。
【0053】
前記のように酸と還元剤とを用いて洗浄液のpHとEhとを調節して、土壌からヒ素を溶出させる。
【0054】
本発明の一実施形態では、ヒ素汚染土壌の復元を行う前に、図1に示されたように、予備段階を経て最適の洗浄液条件を導出する。すなわち、予備実験を通じて洗浄液の酸と還元剤濃度、土壌と洗浄液との比率及び反応時間を決定する。多様な酸と還元剤の濃度、土壌と洗浄液との比率、反応時間でヒ素溶出試験を行って、溶出効率及び経済性を考慮して最適の条件を決定できる。
【0055】
予備段階で重要なのは、洗浄液のpHとEhとを決定することである。すなわち、前述したように、洗浄液のpHとEhとは、溶解反応が終了する時点で一定レベルを維持せねばならないところ、実際復元対象である土壌を対象に、反応過程でpHとEhとの変化する程度を予備実験を通じて確認して、初期の洗浄液のpHとEhとを設定できる。溶解度を考慮して過度に低いpHの酸を使用すれば、反応終了後のpH範囲を合せることができないので、予備実験が要求される。
【0056】
前記のように、洗浄液と土壌とを攪拌してヒ素が溶出されれば、洗浄液と土壌とを互いに分離する固液分離段階を行う。すなわち、遠心分離など既存の固液分離技法を用いて、土壌粒子と洗浄液とを分離する。
【0057】
次いで、固液分離された土壌と洗浄液についての後処理段階を行う。
【0058】
固液分離された土壌は、本来の掘削地に移送して土壌復元に使われる。ただし、土壌が環境基準値を満たすかどうかを試験する。洗浄後の土壌はほぼ環境基準値を満たすが、一部でヒ素濃度が基準値を上回る場合、再び洗浄段階を行うことができる。本実施形態では、土壌汚染工程試験法を基準に土壌の復元如何を決定する。
【0059】
固液分離された洗浄液に対する後処理は、洗浄液から再びヒ素を除去することである。本発明では、固液分離された洗浄液に酸化剤を添加してヒ素を除去し、本実施形態では過酸化水素を酸化剤として使用する。
【0060】
すなわち、洗浄液に酸化剤を添加して酸化環境を組成すれば、2価鉄イオンFe2+は沈殿されやすいFe3+に酸化され、2価マンガンイオンMn2+は沈殿されやすい4価マンガンイオンMn4+に酸化されて、再び第1形態や第2形態のヒ素汚染物のように、ヒ素を共沈するか、またはヒ素を吸着した形態に沈殿される。反応式は下記の通りである。
【0061】
3Fe2++AsO3−+4H−−−>Fe・AsO3−(吸着あるいは共沈)+8H+2O
マンガンイオンによる吸着または共沈反応は、下記の通りである。
【0062】
Mn2++AsO3−+2H−−−>MnOAsO3−(吸着あるいは共沈)+4H+O
そして、前記の反応のように酸化鉄形態または酸化マンガンの形態に沈殿物が発生すれば、ヒ素イオンはこの沈殿物に吸着されることによってヒ素の除去が加速化する。
【0063】
また洗浄液に酸化環境を形成することによって、洗浄液内のdithionite(S2−)とsulfite(SO2−)とは、SO2−に酸化する。反応式は下記の通りである。
【0064】
2−+3H−−−>2SO2−+2H+2H
SO2−+H−−−>SO2−+H
また過酸化水素と共に塩化カルシウムまたは塩化カルシウム二水和物(CaCl・2HO)を投入すれば、硫酸カルシウム二水和物(CaSO・2HO)が沈殿されつつdithioniteとsulfiteとの分解が促進されて、酸化環境組成時間が短縮されて沈殿反応が加速化し、Ca(AsOが生成されて沈殿される。反応式は、下記の通りである。
【0065】
Ca2++SO2−+2HO−−−>CaSO・2H
2Ca2++3AsO3−−−−>Ca(AsO
ヒ素除去過程に生成された酸化鉄、ヒ素化合物、硫酸カルシウム二水和物(CaSO・2HO)は粒子が非常に小さくて、固液分離を通じて回収し難い。このような問題を解決するために、洗浄液の後処理時に陽イオン性凝集剤を投与すれば、粒子の凝集で粒団が生成されて容易に固液分離できる。
【0066】
また投与された陽イオン性凝集剤は、陰イオンを形成しているヒ素イオンを粒団に吸着させて、洗浄液からヒ素を除去する効果がある。凝集剤使用後の固液分離は、既存の方法の遠心分離などを使用すればよい。
【0067】
一方、洗浄液の後処理時、硫酸カルシウム二水和物(CaSO・2HO)の生成によってSO2−の濃度が低減した洗浄液は、リサイクルに有利である。塩酸、硝酸または水酸化ナトリウムなどを用いて洗浄液のpHを調節し、還元剤を用いてEhを調節して、洗浄液を再び洗浄段階でリサイクルできる。
【0068】
以下、本発明の一実施形態によるヒ素汚染土壌の復元方法を試験してみた。その結果は、図6及び図7に示されている。図6は、洗浄液を決定するための予備実験の結果を示した表であり、図7は、本発明の一実施形態を試験した結果を示した表である。
【0069】
まず、土壌試料を採取して分析した。すなわち、長項製錬所の周辺でヒ素で汚染された土壌を採取して室内で乾燥させた後、ラバーストッパー(rubber stopper)を用いて軽く壊した後、標準篩を用いて2mm以下の粒度を持つ試料を回収して実験に使用した。王水を用いて2mm以下の粒度を持つ土壌試料からヒ素を抽出し、ICP−AESを用いて抽出液のヒ素濃度を測定した。
【0070】
前記の長項製錬所の土壌試料に対する最適の洗浄液を導出するために、予備実験を行った。図6に示されたように、0−0.1N HCl、0−5%Na−dithioniteを含有した洗浄液と汚染土壌とを4:1の質量比で30分間反応させた後、遠心分離機を用いて洗浄液と土壌とを分離して、最適の洗浄液を導出する実験を行った。
【0071】
分離された土壌は、王水を用いてヒ素を抽出し、抽出液のヒ素濃度を、ICP−AESを用いて測定した。また洗浄液と土壌との混合直後と、反応30分経過後の洗浄液のEhとpHとを測定した。洗浄後土壌の残留ヒ素濃度が環境基準値以下でありつつ、投入された酸とNa−dithioniteとが少なくかかった洗浄液の条件を最適条件として選定した。
【0072】
前記の予備実験で適正洗浄液の条件は、0.01N塩酸水溶液に2%Na−dithioniteを含有した洗浄液として導出された。
【0073】
図6の表を参照すれば、洗浄液を酸のみで構成し、亜ジチオン酸ナトリウムを混合していない時の最終ヒ素濃度を見れば、いずれも40mg/kgを超過して土壌ヒ素濃度45mg/kgとほとんど差がないということが分かる。酸の濃度変化にはあまり影響されない。ここで濃度変化に大きく影響されないのは、2つに解釈できる。すなわち、濃度が低い場合には、ヒ素汚染物質に対する溶解自体が容易でなくてヒ素を除去できないことと、濃度が高い場合には、溶解度は増大するが、溶出されたヒ素イオンの再吸着でヒ素が除去されないことと解釈できる。
【0074】
また同じ濃度の酸を使用しつつ還元剤を共に使用した場合と、使用していない場合とで、反応終了後の洗浄液の最終pHを見れば、還元剤を使用した場合がはるかに高く示されることが分かる。
【0075】
また初期に高い濃度の酸を使用した場合、最終pHも高いわけである。このため、予備実験を通じて初期pHとEhとの最適条件を探す必要がある。
【0076】
最適の洗浄液導出実験で決定された0.01N HCl(0.365g/L)、2%Na−dithionite洗浄液を汚染土壌と4:1割合で混合して30分間攪拌した。攪拌後、遠心分離機を用いて土壌と洗浄液とを分離した。分離された土壌から王水を用いてヒ素を抽出し、ICP−AESを用いて抽出液のヒ素濃度を測定した。
【0077】
土壌洗浄後に固液分離された洗浄液のEhが200mV以上になるように、過酸化水素(H)を少しずつ添加して10分間攪拌した。攪拌後に上澄みを採取し、ICE−AESを用いてヒ素、鉄、マンガン濃度を測定した。塩化カルシウム二水和物(CaCl・2HO)の重さ濃度が0.4%になるように、洗浄液に添加して10分間攪拌した。
【0078】
また陽イオン性有機凝集剤(韓国のイヤング化学、YANGFLOC C−619P)の濃度が200mg/Lになるように添加して反応させた後、遠心分離して洗浄液のヒ素濃度を測定した。
【0079】
図7の表を参照すれば、ヒ素汚染土壌を対象に洗浄を行った結果、土壌内のヒ素濃度は洗浄前45.1mg/kgから洗浄後19.2mg/kgに減少した。これは、韓国の土壌環境保全法に規定された1地域の基準値である25mg/kg以下を満たす数値であり、本方法によって汚染土壌の復元が可能である。
【0080】
また土壌洗浄後に固液分離された洗浄液を処理した結果、ヒ素濃度が4.16mg/Lから0.76mg/Lに減少して、洗浄液の後処理を通じてヒ素を除去できるということが分かった。
【0081】
以上で説明したように、本発明は土壌内のヒ素を含んでいる物質の溶解度を高めるために洗浄液のpHを低める場合に、かえってヒ素イオンが溶解されずに残留する酸化鉄と酸化マンガンとに再吸着されてヒ素除去率を低下させる問題を解決するために、還元剤を洗浄液に混合してEhを低めることによって、ヒ素汚染物の溶解度を高めると同時にヒ素イオンの再吸着問題を解決した。このような方法を通じてヒ素汚染土壌からヒ素を非常に簡単かつ信頼性のあるように除去できるようになった。
【0082】
また、洗浄液に酸化剤を添加して洗浄液からヒ素を浸出して除去することによって洗浄液をリサイクルできて、後処理問題も解決した。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、ヒ素汚染土壌の復元関連の技術分野に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒ素で汚染された土壌を収集する収集段階と、
酸性の、前記土壌に還元条件を提供する洗浄液に前記土壌を投入して、前記土壌からヒ素を除去して前記洗浄液に移動させる洗浄段階と、
前記洗浄段階後、前記土壌と洗浄液とを互いに分離する固液分離段階と、
前記固液分離段階で分離された洗浄液と土壌とを処理する後処理段階と、を備えることを特徴とするヒ素汚染土壌の復元方法。
【請求項2】
前記洗浄段階で使われる洗浄液には、還元剤が含まれていることを特徴とする請求項1に記載のヒ素汚染土壌の復元方法。
【請求項3】
前記還元剤は、亜ジチオン酸ナトリウム(Na)であることを特徴とする請求項2に記載のヒ素汚染土壌の復元方法。
【請求項4】
前記洗浄段階の終了時点に、前記洗浄液の水素イオン濃度(pH)は、5.5〜7.5範囲であることを特徴とする請求項1に記載のヒ素汚染土壌の復元方法。
【請求項5】
前記洗浄段階の終了時点に、前記洗浄液の酸化還元電位(Eh)は、−100〜−400mV範囲であることを特徴とする請求項1または4に記載のヒ素汚染土壌の復元方法。
【請求項6】
前記後処理段階では、前記固液分離段階後に分離された土壌をリサイクルすることを特徴とする請求項1に記載のヒ素汚染土壌の復元方法。
【請求項7】
前記固液分離段階で分離された土壌をリサイクルする前に、前記土壌内のヒ素含有量が一定の基準値以下であるかを試験して、ヒ素含有量が前記基準値より高い場合、前記土壌を再び前記洗浄液に投入することを特徴とする請求項6に記載のヒ素汚染土壌の復元方法。
【請求項8】
前記後処理段階では、前記固液分離段階で分離された洗浄液に酸化剤を投入してヒ素を沈殿させた後、再び洗浄液を固液分離してヒ素を除去することを特徴とする請求項1に記載のヒ素汚染土壌の復元方法。
【請求項9】
前記酸化剤は、過酸化水素であることを特徴とする請求項8に記載のヒ素汚染土壌の復元方法。
【請求項10】
前記後処理段階で、前記洗浄液に酸化剤と共に塩化カルシウムまたは塩化カルシウム二水和物(CaCl・2H0)を投入してヒ素を沈殿させることを特徴とする請求項8に記載のヒ素汚染土壌の復元方法。
【請求項11】
前記後処理段階で、前記洗浄液に陽イオン性凝集剤を投与することを特徴とする請求項8または10に記載のヒ素汚染土壌の復元方法。
【請求項12】
前記後処理段階で固液分離された洗浄液は、pHとEhとを再調節して再び洗浄段階でリサイクルすることを特徴とする請求項8に記載のヒ素汚染土壌の復元方法。
【請求項13】
前記洗浄段階前に土壌復元の対象になる地域のヒ素汚染土壌を採取して予備実験を行うことで、前記洗浄液のpHとEhとを決定する予備段階を行うことを特徴とする請求項1に記載のヒ素汚染土壌の復元方法。
【請求項14】
ヒ素を共沈している第1形態のヒ素汚染物と、ヒ素が電気的に吸着されている第2形態のヒ素汚染物とを酸性及び還元条件の洗浄液に投入して、前記第1形態及び第2形態のヒ素汚染物を溶解させてヒ素イオンを溶出させ、溶解が終了する時点の前記洗浄液は、pH5.5〜7.5、Eh−200〜−400mVの範囲を維持する洗浄段階と、
前記洗浄段階後、前記土壌と洗浄液とを互いに分離する固液分離段階と、
前記固液分離段階で分離された前記洗浄液に酸化剤を添加して、ヒ素を前記第1形態または第2形態を含む形態に変形させて、前記洗浄液から固液分離して除去する後処理段階と、を含むことを特徴とするヒ素汚染土壌の復元方法。
【請求項15】
前記洗浄液は、0.01N塩酸水溶液に2%の亜ジチオン酸ナトリウムを混合して製造されることを特徴とする請求項14に記載のヒ素汚染土壌の復元方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−40544(P2012−40544A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250807(P2010−250807)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(509340872)韓國地質資源研究院 (4)
【Fターム(参考)】