説明

ビアリール化合物およびその製造方法、ならびにそのビアリール化合物を使用するカルバゾール誘導体の製造方法

【課題】 医農薬、機能性材料等に用いられるカルバゾール誘導体の原料として有用な新規ビフェニル化合物およびその効率的な製造方法、ならびにその用途を提供する。
【解決手段】 ジクロロニトロベンゼン類と芳香族ホウ素化合物とを塩基の存在下に反応させることにより、新規のビアリール化合物を得る。このビアリール化合物を亜リン酸エステルと反応させてカルバゾール誘導体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬、機能性高分子等の原料として有用な新規クロロニトロビアリールおよびその製造方法、ならびにそのビアリール化合物を使用するカルバゾール誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オルト位にニトロ基を有するビアリールは、カルバゾール化合物を合成する原料として有用であることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。カルバゾール誘導体は、光・電子機能性材料等として有用であるが、その原料となるオルト位にニトロ基を有するビアリール化合物として、4,4’−ジクロロ−2−ニトロビフェニルが、カルバゾール系機能性ポリマーの原料として知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
また、上記のようなハロゲン置換基およびオルト位にニトロ基を有するビアリール化合物の製造方法としては、特許文献1,2に記載のブロモクロロニトロベンゼンとクロロフェニルボロン酸とをカップリング反応させる方法が知られている。
【0004】
しかし、上記の4,4’−ジクロロ−2−ニトロビフェニルは、ジクロロビフェニル(PCB)のニトロ誘導体化合物であるため、安全衛生上、取り扱いが困難となる可能性がある。
【0005】
また、従来のクロロビフェニル誘導体化合物の製造法においても、ジクロロビフェニルの混入および副生が懸念される4−クロロフェニルボロン酸を原料に使用している。その上、もう一方の使用原料であるブロモクロロニトロベンゼンは、工業的な入手が困難な化合物である。
【0006】
さらに、オルトニトロビフェニル誘導体を原料とするカルバゾール誘導体の合成は、多種類の副生物が生成し、目的物の選択率が60〜70%と不十分であることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−339432公報(実施例)
【特許文献2】特開2006−307086公報(実施例)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(Journal of Organic Chemistry)」,(米国),1989年,第54巻,p3106−3113(実験項)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、医農薬、機能性高分子等に用いられる各種カルバゾール原料等として有用な新規クロロニトロビアリールおよびその効率的な製造方法、ならびにその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、新規化合物であるモノクロロニトロビアリールを見出した。本化合物は、同一芳香環上にクロロ基とニトロ基が置換されていることから、カルバゾール類縁体へ高収率で短時間に変換できることが明らかとなった。
【0011】
また、当該化合物を効率的に製造するための方法として、ジクロロニトロベンゼン化合物と芳香族ホウ素化合物とを鈴木カップリング反応させると、ブロモクロロニトロベンゼンを原料に用いる従来法と同じ位置で高選択的に反応が進行した上、従来法よりも高い反応性でクロロニトロビアリールを与えることを見出した。通常、パラジウム触媒を用いた鈴木カップリング反応は、クロロ基を脱離基とした場合には反応性が非常に低いために特殊な配位子を必要とし、また比較的安価でクロロ脱離に有効なニッケル触媒を用いた場合でも、高価な配位子の使用、または多量の触媒使用量の点で課題があった。本発明者らは、ジクロロニトロベンゼン化合物を基質に適用することにより、ニトロ基に隣接するクロロ基を選択的に反応させ、クロロニトロビアリールを得ることが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち本発明は、
[1]
下記式(1)で示されるクロロニトロビアリール。
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Clはベンゼン環上の置換可能な4箇所の炭素のうち任意の位置に置換可能な一置換のクロロ基を表す。RはClと同様に置換可能な水素または炭素数1〜10のアルキル基を表す。nは1〜3の整数を表す。Arはクロロ基を有するフェニル基以外の芳香族置換基を表す。)
[2]
Rが水素であることを特徴とする式(1)に記載のクロロニトロビアリール。
[3]
下記式(2)〜(4)で示されるクロロニトロビアリール。
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、R,R,Rは各々独立して、水素または炭素数1〜10のアルキル基を表す。Arはクロロ基を有するフェニル基以外の芳香族置換基を表す。)
[4]
,R,Rがいずれも水素であることを特徴とする式(2)〜(4)で示されるクロロニトロビアリール。
[5]
式(1)〜(4)中のArの置換部位に対するオルト位の少なくとも1箇所が水素であることを特徴とするクロロニトロビアリール。
[6]
Arがフェニル基、炭素数1〜10のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基、ピリジル基、1−ナフチル基、もしくは2−ナフチル基からなる群より選ばれる芳香族置換基であることを特徴とする式(1)〜(4)に記載のクロロニトロビアリール。
[7]
Arがフェニル基であることを特徴とする式(1)〜(4)に記載のクロロニトロビアリール。
[8]
下記式(5)で示されるジクロロニトロベンゼンと芳香族ホウ素化合物とを塩基の存在下に反応させることを特徴とする式(1)に記載のクロロニトロビアリールの製造方法。
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、置換位置を特定しないClはベンゼン環上の置換可能な4箇所の炭素のうち任意の位置に置換可能な一置換のクロロ基を表す。RはClと同様に置換可能な水素または炭素数1〜10のアルキル基を表す。nは1〜3の整数を表す。)
[9]
式(1)に記載のクロロニトロビアリールと下記式(6)で示される化合物とを反応させることを特徴とする下記式(7)で示されるクロロカルバゾール誘導体の製造方法。
【0019】
【化4】

【0020】
(式中、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、およびフェニル基からなる群より選ばれる置換基を表す。)
【0021】
【化5】

【0022】
(式中、Clはベンゼン環上の置換可能な4箇所の炭素のうち任意の位置に置換可能な一置換のクロロ基を表す。RはClと同様に置換可能な水素または炭素数1〜10のアルキル基を表す。nは1〜3の整数を表す。Ar’はクロロ基を有するフェニレン基以外のオルト置換芳香族基を表す。)
である。
【0023】
本発明におけるクロロニトロビアリールは、下記式(1)で示される構造の化合物であればよく、特に限定されるものではない。式(1)において、Rは水素または炭素数1〜10のアルキル基を表すが、このうち水素原子であるものが、製造し易さの観点から好ましい。また、式(1)において、Arはクロロ基を有するフェニル基以外の芳香族置換基を表すが、このうち、フェニル基、炭素数1〜10のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基、ピリジル基、1−ナフチル基、もしくは2−ナフチル基からなる群より選ばれる芳香族置換基であるものが、製造し易さの観点から好ましく、特にフェニル基であるものがより好ましい。
【0024】
【化6】

【0025】
(式中、Clはベンゼン環上の置換可能な4箇所の炭素のうち任意の位置に置換可能な一置換のクロロ基を表す。RはClと同様に置換可能な水素または炭素数1〜10のアルキル基を表す。nは1〜3の整数を表す。Arはクロロ基を有するフェニル基以外の芳香族置換基を表す。)
本発明のクロロニトロビフェニル化合物としては、具体的には、3−クロロ−2−ニトロビフェニル、4−クロロ−2−ニトロビフェニル、5−クロロ−2−ニトロビフェニル、6−クロロ−2−ニトロビフェニル、4−クロロ−2−ニトロ−2’−メチルビフェニル、4−クロロ−2−ニトロ−3’−メチルビフェニル、4−クロロ−2−ニトロ−4’−メチルビフェニル、4−クロロ−2−ニトロ−4’−エチルビフェニル、4−クロロ−2−ニトロ−4’−プロピルビフェニル、4−クロロ−2−ニトロ−4’−ブチルビフェニル、4−クロロ−2−ニトロ−4’−ペンチルビフェニル、4−クロロ−2−ニトロ−4’−ヘキシルビフェニル、4−クロロ−2−ニトロ−4’−オクチルビフェニル、4−クロロ−2−ニトロ−4’−デシルビフェニル、4−クロロ−5−メチル−2−ニトロ−4’−オクチルビフェニル、4−クロロ−2−ニトロ−1−(1−ナフチル)ベンゼン、4−クロロ−2−ニトロ−1−(2−ナフチル)ベンゼン等が例示され、これら化合物群の一種もしくは二種以上の混合物でもよい。
【0026】
本発明のクロロニトロビアリール化合物は、下記式(5)で示されるジクロロニトロベンゼン類と芳香族ホウ素化合物とを塩基の存在下で反応させることにより効率的に製造することができる。
【0027】
【化7】

【0028】
(式中、置換位置を特定しないClはベンゼン環上の置換可能な4箇所の炭素のうち任意の位置に置換可能な一置換のクロロ基を表す。RはClと同様に置換可能な水素または炭素数1〜10のアルキル基を表す。nは1〜3の整数を表す。)
本発明のクロロニトロビアリール化合物の製造方法において、使用可能な芳香族ホウ素化合物としては、通常の鈴木カップリング反応に用いられる化合物であれば特に限定するものではないが、例えば、芳香族ボロン酸、芳香族ボロン酸エステル、および芳香族ボロントリフルオリド塩等を挙げることができる。
【0029】
本発明のクロロニトロビアリール化合物の製造方法において、ジクロロニトロベンゼン類に対する芳香族ホウ素化合物の使用量は、特に限定されるものではないが、通常、0.8〜1.2倍モル比量を使用する。使用量が0.8倍モル未満の場合には、ジクロロニトロベンゼン類が多量に残存するため経済的に不利となり、また使用量が1.2倍モルを超える場合には、芳香族ホウ素化合物が多量に残存したり、副生物が生成または増加するため経済的に不利となる。
【0030】
本発明のクロロニトロビアリール化合物の製造方法において、使用可能な塩基としては、通常の鈴木カップリング反応に用いられる化合物であれば特に限定するものではないが、具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム等を挙げることができる。
【0031】
本発明のクロロニトロビアリール化合物の製造方法において、ジクロロニトロベンゼン類に対する塩基の使用量は、特に限定されるものではないが、通常、1.0〜3.0倍モル比量を使用する。使用量が1.0倍モル未満の場合には、反応が円滑に進行せず、また使用量が3.0倍モルを超える場合には、使用量の割には収率が向上せず、かえって経済的に不利となる。
【0032】
本発明のクロロニトロビアリール化合物の製造方法において、触媒を共存させることにより反応を大幅に促進させることができる。
【0033】
本発明の方法で使用される触媒としては特に限定されないが、例えば、パラジウム系触媒、ニッケル系触媒、鉄系触媒、銅系触媒およびロジウム系触媒よりなる群から選ばれる一種または二種以上が挙げられる。
【0034】
本発明の方法に用いるパラジウム系触媒とは、パラジウム元素を有効成分とする触媒のことであり、特に限定するものではないが、例えば、パラジウム粉末、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、ヨウ化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、硝酸パラジウム(II)、硫酸パラジウム(II)、シアン化パラジウム(II)、パラジウム(II)アセチルアセトナート、パラジウム(II)トリフルオロアセテート、パラジウムカーボン等の化合物、それら化合物の水和物、またはそれら化合物から誘導される各種錯体触媒等が挙げられる。
【0035】
本発明の方法に用いるニッケル系触媒とは、ニッケル元素を有効成分とする触媒のことであり、特に限定するものではないが、例えば、ニッケル粉末、フッ化ニッケル(II)、塩化ニッケル(II)、臭化ニッケル(II)、ヨウ化ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)、硝酸ニッケル(II)、過塩素酸ニッケル(II)、硫化ニッケル(II)、ギ酸ニッケル(II)、シュウ酸ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、フマル酸ニッケル(II)、乳酸ニッケル(II)、グルコン酸ニッケル(II)、安息香酸ニッケル(II)、ステアリン酸ニッケル(II)、スルファミン酸ニッケル(II)、アミド硫酸ニッケル(II)、炭酸ニッケル(II)、ニッケル(II)アセチルアセトナート、ニッケルカーボン等の化合物、それら化合物の水和物、またはそれら化合物から誘導される各種錯体触媒等が挙げられる。
【0036】
本発明の方法に用いる鉄系触媒とは、鉄元素を有効成分とする触媒のことであり、特に限定するものではないが、例えば、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、臭化鉄(II)、臭化鉄(III)、ヨウ化鉄(II)、フッ化鉄(II)、フッ化鉄(III)、酢酸鉄(II)、シュウ酸鉄(II)、シュウ酸鉄(III)、クエン酸鉄(III)、過塩素酸鉄(III)、鉄(III)アセチルアセトナート、硝酸鉄(III)、リン酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、もしくは鉄粉等の化合物、それら化合物の水和物、あるいはそれら化合物から誘導される各種錯体触媒等が挙げられる。
【0037】
本発明の方法に用いる銅系触媒とは、銅元素を有効成分とする触媒のことであり、特に限定するものではないが、例えば、塩化銅(I)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)、フッ化銅(I)、塩化銅(II)、臭化銅(II)、ヨウ化銅(II)、フッ化銅(II)、酢酸銅(I)、酢酸銅(II)、酸化銅(II)、銅(II)メトキシド、銅(II)エトキシド、銅(II)プロポキシド、銅(II)ブトキシド、硝酸銅(II)、硫酸銅(II)、銅(II)トリフラート、水酸化銅(II)、またはそれら化合物の水和物、あるいはそれら化合物から誘導される各種錯体触媒等が挙げられる。
【0038】
本発明の方法に用いるロジウム系触媒とは、ロジウム元素を有効成分とする触媒のことであり、特に限定するものではないが、例えば、塩化ロジウム(II)、臭化ロジウム(II)、酢酸ロジウム(II)、酢酸ロジウム(III)、ロジウム(II)アセチルアセトナート、ロジウム(III)アセチルアセトナート、ロジウム粉末、ロジウムカーボン等の化合物、それら化合物の水和物、あるいはそれら化合物から誘導される各種錯体触媒等が挙げられる。
【0039】
本発明の方法において、上記した触媒は、単独または混合物として使用することができる。
【0040】
本発明の方法に用いられる触媒の使用量について格別の限定はないが、通常、ジクロロニトロベンゼン類に対して1×10−4〜1×10−1倍モル程度の使用量が選ばれる。使用量が1×10−4倍モル未満の場合には、反応が円滑に進行せず、また使用量が1×10−1倍モルを超える場合には、使用量の割には収率が向上せず、かえって経済的に不利となる。
【0041】
本発明のクロロニトロビアリール化合物の製造方法は、通常、溶媒存在下で実施される。本発明の方法において使用される反応溶媒としては、反応を阻害する溶媒でなければ特に限定するものではないが、例えば、エーテル系溶媒、含酸素系溶媒、含窒素系溶媒、芳香族炭化水素溶媒、脂肪族炭化水素溶媒等が挙げられる。通常、これらの溶媒を単独または混合して使用することができる。これらの溶剤の使用量は、通常、基質重量に対して2〜20倍量使用する。
【0042】
また、本発明の方法は、通常、無機系の塩基を溶解させることで反応を円滑に進行させるため、上記の有機溶剤に加えて水を使用してもよい。水の使用量は、無機塩基が溶解するだけの量であればよく、通常、無機塩基重量に対して1〜10倍量使用する。
【0043】
本発明のクロロニトロビアリール化合物の製造方法における反応温度としては、特に限定するものではないが、通常、室温〜溶媒還流温度の範囲で反応を行うことができる。
【0044】
本発明のクロロニトロビアリール化合物の製造方法における反応時間としては、反応温度などの条件により左右されるため特に限定するものではないが、短時間で反応が完結することが望ましい。通常、1〜24時間の間に反応が完結するようにし、好ましくは1〜5時間の間に反応を完結させる。
【0045】
反応終了後は、酸洗浄、水洗浄、アルカリ洗浄等を適当に組み合わせることにより、副生した無機物や未反応原料等を除去し、さらにクロマトグラフィーや蒸留、再結晶等の通常の精製技術により、目的とするクロロニトロビアリールを得ることができる。
【0046】
本発明のクロロカルバゾール誘導体の製造方法では、上記の方法によって得られたクロロニトロビアリールを、下記式(6)で示される亜リン酸エステルと反応させることにより、下記式(7)で示されるクロロカルバゾール誘導体を効率的に合成することができる。
【0047】
【化8】

【0048】
(式中、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、およびフェニル基からなる群より選ばれる置換基を表す。)
【0049】
【化9】

【0050】
(式中、Clはベンゼン環上の置換可能な4箇所の炭素のうち任意の位置に置換可能な一置換のクロロ基を表す。RはClと同様に置換可能な水素または炭素数1〜10のアルキル基を表す。nは1〜3の整数を表す。Ar’はクロロ基を有するフェニレン基以外のオルト置換芳香族基を表す。)
本発明のクロロカルバゾール誘導体の製造方法における反応機構は、ベンゼン環上のニトロ基が、亜リン酸エステルにより還元される過程で、ニトロ基に隣接する炭素と結合したアリール基との求電子反応を受け、カルバゾール誘導体を形成するものである。
【0051】
この際、求電子反応に係るアリール基は、通常、分子内のアリール基であり、求電子反応に係る分子内アリール基上の炭素位置は、通常、ビアリールを形成する結合に隣接する位置(オルト位)である。
【0052】
本発明のクロロカルバゾール誘導体の製造方法において、使用可能な亜リン酸エステルとしては特に限定するものではないが、具体的には、例えば、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリブチル、および亜リン酸トリフェニル等を挙げることができる。これらのうち、原料入手のし易さの観点から、亜リン酸トリエチルが好ましい。
【0053】
本発明のクロロカルバゾール誘導体の製造方法において、クロロニトロビアリールに対する亜リン酸エステルの使用量は、特に限定されるものではないが、通常、2.0〜3.0倍モル比量を使用する。使用量が2.0倍モル未満の場合には、反応が円滑に進行せず、また使用量が3.0倍モルを超える場合には、使用量の割には収率が向上せず、かえって経済的に不利となる。
【0054】
本発明のクロロカルバゾール誘導体の製造方法において、クロロニトロビアリールと亜リン酸エステルの反応は、大きな発熱を伴う場合が多いため、両基質を混合する際には滴下などの添加方法を採ることが好ましい。具体的には、一方の基質を反応温度に加熱した中へ、もう一方の基質を系内の反応温度の変化を観察しながら添加する。
【0055】
本発明の方法において、クロロニトロビアリールと亜リン酸エステルのうち、どちらの基質を添加させて反応してもよい。操作性向上などの目的のため、基質の性状に応じて加熱融解させて添加してもよいし、反応に不活性な溶剤に溶解させて用いてもよい。
【0056】
本発明のクロロカルバゾール誘導体の製造方法においては、溶剤を使用してもしなくてもよい。本発明のクロロカルバゾール誘導体の製造方法において使用可能な反応溶媒としては、反応を阻害する溶媒でなければ特に限定するものではないが、例えば、エーテル系溶媒、含酸素系溶媒、含窒素系溶媒、芳香族炭化水素溶媒、脂肪族炭化水素溶媒、ハロゲン系炭化水素溶媒等が挙げられる。通常、これらの溶媒を単独または混合して使用することができる。これらの溶剤の使用量は、通常、基質重量に対して2〜20倍量使用する。
【0057】
本発明のクロロカルバゾール誘導体の製造方法における反応温度としては、50〜200℃の範囲が適用できる。亜リン酸エステルのうち、亜リン酸トリメチルや亜リン酸トリエチルは比較的沸点が低いため、これらの還元剤を用いる際には、当該沸点以下の温度で反応を行うことが好ましい。通常、100〜160℃の範囲で反応させることが好ましい。
【0058】
本発明のクロロカルバゾール誘導体の製造方法における反応時間としては、反応温度などの条件により左右されるため特に限定するものではないが、短時間で反応が完結することが望ましい。通常、添加が終了してから1〜24時間の間に反応が完結するようにし、好ましくは1〜5時間の間に反応を完結させる。
【0059】
反応終了後は、酸洗浄、水洗浄、アルカリ洗浄等を適当に組み合わせることにより、副生物や未反応原料等を除去し、さらにクロマトグラフィーや蒸留、再結晶等の通常の精製技術により、目的とするクロロカルバゾール誘導体を得ることができる。
【発明の効果】
【0060】
本発明の方法によれば、新規化合物であるクロロニトロビアリールを効率良く製造することができる。また、当該ビアリール化合物は対応するクロロカルバゾール類縁体へと高収率で変換することが可能である。
【実施例】
【0061】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
なお、本発明における各種分析・測定方法を以下に示す。
[元素分析]
元素分析計:パーキンエルマー全自動元素分析装置 2400II
酸素フラスコ燃焼−IC測定法:東ソー製イオンクロマトグラフ IC−2001
[質量分析]
質量分析装置:JMS−K9
測定方法:DI−MS(EI)分析
[NMR測定]
NMR測定装置:VARIAN Gemini−200
[GC測定]
GC測定装置:SHIMADZU GC−17A
測定条件:
カラム:ジーエルサイエンス NB−5
キャリア:ヘリウム
検出:FID
実施例1
攪拌装置を備えた1Lフラスコ中に、1,4−ジクロロ−2−ニトロベンゼン 192.0g(1.0mol)[東京化成品]、リン酸三ナトリウム 530.7g(2.5mol)[和光純薬品]、フェニルボロン酸 128.0g(1.05mol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム 11.6g(10mmol)[東京化成品]、テトラハイドロフラン 768g[キシダ化学品]、水 1221gを仕込み、70℃にて反応させた。反応をGC分析で追跡したところ、ジクロロ体を基準とした転化率は、3時間後に99.9%以上であった。その後、反応液を室温まで冷却し、有機層を分液した。得られた有機層をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、目的の4−クロロ−2−ニトロビフェニル 234gを得た(収率99%以上、GC純度95%)。
【0063】
<4−クロロ−2−ニトロビフェニル>
(1)質量分析(m/z):234(m
(2)元素分析
計算値:C=61.7%,H=3.5%,N=6.0%,Cl=15.2%
実測値:C=61.4%,H=3.7%,N=5.8%,Cl=15.1%
(3)H−NMR(CDCl):7.12−7.48(6H),7.54−7.64(1H),7.82−7.88(1H)[ppm]
(4)13C−NMR(CDCl):124.13, 127.72, 128.47, 128.71, 132.28, 132.92, 133.84, 134.68, 136.15, 149.08[ppm]
実施例2
1,4−ジクロロ−2−ニトロベンゼンの代わりに、1−ブロモ−4−クロロ−2−ニトロベンゼンを用いた以外は実施例1と同条件で反応を行った。反応をGC分析で追跡したところ、ブロモクロロ体原料を基準とした転化率は、3時間後に96.0%、6時間後に99.9%以上であった(収率99%以上、GC純度95%)。
【0064】
実施例3
攪拌子を備えた50mLフラスコ中に、実施例1で合成した4−クロロ−2−ニトロビフェニル 2.34g(10mmol)を仕込み、140℃に加熱した。この液に、亜リン酸トリエチル 4.15g(25mmol)[和光純薬品]を30分かけて滴下した。反応をGC分析で追跡したところ、ビフェニル体を基準とした転化率は、滴下終了3時間後に99.9%以上であった。また、オクタデカンを内部標準物質として反応液を定量したところ、2−クロロカルバゾールの収率は79%であった。
【0065】
比較例1
4−クロロ−2−ニトロビフェニルの代わりに、4’−クロロ−2−ニトロビフェニルを用いた以外は実施例3と同条件で反応を行った。反応をGC分析で追跡したところ、ビフェニル体を基準とした転化率は、6時間後に99.9%以上であった。また、オクタデカンを内部標準物質として反応液を定量したところ、2−クロロカルバゾールの収率は68%であった。
【0066】
実施例4
攪拌装置を備えた1Lフラスコ中に、1,3−ジクロロ−2−ニトロベンゼン 75.0g(391mmol)[東京化成品]、リン酸三ナトリウム 207.2g(976.2mmol)[和光純薬品]、フェニルボロン酸 47.6g(390.6mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム 9.0g(7.8mmol)[東京化成品]、テトラハイドロフラン 250g[キシダ化学品]、水 311gを仕込み、70℃にて24時間反応させた。その後、反応液を室温まで冷却し、有機層を分液した。得られた有機層をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、目的の3−クロロ−2−ニトロビフェニル 82gをGC純度91%の黄色粉末として得た。
【0067】
<3−クロロ−2−ニトロビフェニル>
(1)H−NMR(CDCl):7.30−7.55(8H)[ppm]
(2)13C−NMR(CDCl):125.20, 127.95, 128.86, 129.01, 129.29, 129.43, 130.66, 135.31, 136.08[ppm]
実施例5
1,3−ジクロロ−2−ニトロベンゼンの代わりに、1,2−ジクロロ−3−ニトロベンゼンを用いた以外は実施例4と同条件で反応を行った。実施例4と同様に後処理を行い、目的の6−クロロ−2−ニトロビフェニル 96gをGC純度97%の黄色粉末として得た。
【0068】
<6−クロロ−2−ニトロビフェニル>
(1)H−NMR(CDCl):7.21−7.29(2H),7.36−7.48(4H),7.65−7.75(2H)[ppm]
(2)13C−NMR(CDCl):121.96, 128.46, 128.55, 128.68, 128.72, 128.92, 133.30, 133.92, 134.69, 135.71, 151.11[ppm]

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるクロロニトロビアリール。
【化1】

(式中、Clはベンゼン環上の置換可能な4箇所の炭素のうち任意の位置に置換可能な一置換のクロロ基を表す。RはClと同様に置換可能な水素または炭素数1〜10のアルキル基を表す。nは1〜3の整数を表す。Arはクロロ基を有するフェニル基以外の芳香族置換基を表す。)
【請求項2】
Rが水素であることを特徴とする請求項1に記載のクロロニトロビアリール。
【請求項3】
下記式(2)〜(4)で示されるクロロニトロビアリール。
【化2】

(式中、R,R,Rは各々独立して、水素または炭素数1〜10のアルキル基を表す。Arはクロロ基を有するフェニル基以外の芳香族置換基を表す。)
【請求項4】
,R,Rがいずれも水素であることを特徴とする請求項3に記載のクロロニトロビアリール。
【請求項5】
式(1)〜(4)中のArの置換部位に対するオルト位の少なくとも1箇所が水素であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のクロロニトロビアリール。
【請求項6】
Arがフェニル基、炭素数1〜10のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基、ピリジル基、1−ナフチル基、もしくは2−ナフチル基からなる群より選ばれる芳香族置換基であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のクロロニトロビアリール。
【請求項7】
Arがフェニル基であることを特徴とする請求項6に記載のクロロニトロビアリール。
【請求項8】
下記式(5)で示されるジクロロニトロベンゼンと芳香族ホウ素化合物とを塩基の存在下に反応させることを特徴とする請求項1に記載のクロロニトロビアリールの製造方法。
【化3】

(式中、置換位置を特定しないClはベンゼン環上の置換可能な4箇所の炭素のうち任意の位置に置換可能な一置換のクロロ基を表す。RはClと同様に置換可能な水素または炭素数1〜10のアルキル基を表す。nは1〜3の整数を表す。)
【請求項9】
下記式(1)で示されるクロロニトロビアリールと下記式(6)で示される化合物とを反応させることを特徴とする下記式(7)で示されるクロロカルバゾール誘導体の製造方法。
【化4】

(式中、Clはベンゼン環上の置換可能な4箇所の炭素のうち任意の位置に置換可能な一置換のクロロ基を表す。RはClと同様に置換可能な水素または炭素数1〜10のアルキル基を表す。nは1〜3の整数を表す。Arはクロロ基を有するフェニル基以外の芳香族置換基を表す。)
【化5】

(式中、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、およびフェニル基からなる群より選ばれる置換基を表す。)
【化6】

(式中、Clはベンゼン環上の置換可能な4箇所の炭素のうち任意の位置に置換可能な一置換のクロロ基を表す。RはClと同様に置換可能な水素または炭素数1〜10のアルキル基を表す。nは1〜3の整数を表す。Ar’はクロロ基を有するフェニレン基以外のオルト置換芳香族基を表す。)

【公開番号】特開2011−256158(P2011−256158A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36261(P2011−36261)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】