説明

ビスマス置換型ガーネット厚膜材料及びその製造方法

【課題】 Hs,I.L.,θF,θTの特性に優れた高性能なビスマス置換型ガーネット厚膜材料及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 NGG基板上に、組成比が、Tb3-xBixFe5-yAly12であり、x=0.9〜1.5,y=0.02〜0.52である単結晶厚膜を液相成長法により育成する。熱処理温度は、900〜1120℃の範囲とし、熱処理における雰囲気の酸素濃度は、10〜100%の範囲とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ファラデー効果を有する光学用ガーネット材料の中でも、特にビスマス(Bi)置換型ガーネット厚膜材料及びその製造方法に関し、特に、液相成長法(LPE法)にて育成した(Tb,Bi)3(Fe,Al)512系ガーネット単結晶厚膜及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、光通信において、ファラデー回転を応用したデバイスが開発、実用化されている。また、光通信の中でも半導体レーザを使用した光通信において、光ファイバーケーブルやコネクタ等からの反射光が半導体レーザ等に戻ると、発信が不安定となる。この不安定性を防止するために、光アイソレータやサーキュレータが使用されている。
【0003】大きなファラデー回転能を持つBi置換型希土類鉄ガーネットは、LPE法、フラックス法等で育成され、近赤外線領域での光アイソレータに使用されている。特に、LPE法で育成されるガーネット厚膜は、生産性に優れているので、現在、市販品の殆どは、この製法によっている。
【0004】このLPE法で製造された市販のBi置換型ガーネット厚膜は、GdBi系ガーネットとTbBi系ガーネットに分けられる。前者は結晶の格子定数が大きいのでNGG基板(格子定数約12.509オングストローム)上に、後者は結晶の格子定数が小さいので、SGGG基板(格子定数約12.496オングストローム)上に育成されるのが通例である。
【0005】また、市販されているGdBi系ガーネットは、必要な印加磁界が小さくて済むが温度特性が劣り、TbBi系ガーネットは、温度特性は良いが、高い印加磁界を要する。また、TbBi系ガーネットは、GdBi系ガーネットに比べ、格子定数のばらつきが大きいSGGG基板を使用するので、結晶欠陥が発生しやすく、均質化も劣る傾向が見られていた。しかしながら、NGG基板上にTbBi系ガーネット厚膜を育成することは、その格子定数の差が大きいことから、結晶育成が困難とされ、市販されることはなかった。
【0006】ところで、このような光アイソレータ材料に用いられるBi置換型ガーネットの液相成長は、次のようにして行われている。白金るつぼの中に、酸化鉛(PbO)、酸化ビスマス(Bi23)、酸化ホウ素(B23)等をフラックス成分とし、ガーネット成分[酸化テルビウム(Tb23)、酸化第二鉄(Fe23)、酸化アルミニウム(Al23)]を約900〜1100℃にて溶解して溶液(メルト)を作製した後、降温し、過飽和状態(過飽和溶液状態)とする。そのメルトに、ガーネット基板を浸漬し、長時間回転することにより、Bi置換型ガーネット厚膜を育成する。
【0007】育成されるガーネット単結晶の格子定数は、この基板の格子定数とほぼ同程度に拘束されることになる。従って、過飽和成分の濃度管理が極めて重要となり、溶液の温度や流動状態によって育成ガーネットの組成や結晶性が変化し、材料特性の変化や結晶欠陥や割れの発生を生じる。このLPE法の現状は、溶液の組成、温度制御や基板との格子定数差や回転数等を制御することにより、結晶育成状況を管理している。しかしながら、育成の最適状態は極めて狭い範囲に制限され、独立に要因を変化させて調整することは不可能に近い。
【0008】特に、ガーネット単結晶厚膜の割れ発生は、育成基板とガーネットの格子定数や熱膨張が異なることが主要因となっている。従って、育成されるガーネットの膜厚が大きくなるに従い、割れ発生の頻度が高くなる。従って、ガーネット膜のファラデー回転能を向上し、必要膜厚を低減することは、割れ発生の低減効果をもたらし、工業上、有益となる。
【0009】一方、前述のように、TbBi系ガーネットについては、(TbBi)3Fe512の格子定数がSGGG基板に近いことから、この基板にて育成するのが通例とされていた。この製法で、ファラデー回転能θFは約750deg/cmとなっている。そこで、ファラデー回転能θF向上は、TbBi系ガーネット材のTbの一部を、それよりもイオン半径の小さいHoやYbで多量に置換する手法が用いられていたが、これらの置換量により、結晶育成条件が著しく変化するという製造上の不利益がある。
【0010】また、LPE法によるTbBi系ガーネット膜に関する文献としては、日本応用磁気学会誌Vol.No.2,1987,P.157や特開昭60−208730、特開平2−131216等があげられるが、これらは、前述の課題を解決するには至っていない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の課題を解決し、ファラデー回転能,θF等の特性に優れた高性能なビスマス置換型ガーネット厚膜材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、LPE育成用のメルト組成を種々検討した結果、特定なメルト組成において、NGG基板上に、SGGG基板上に育成するものに比べて極めて良好なTbBi系ガーネット厚膜を容易に育成でき、その手法は特に高いファラデー回転能を得るのに有用であることを見出した。
【0013】即ち、本発明は、ガーネット基板上に、液相成長法により育成したTb,Bi,Fe,Alを主成分とするガーネット単結晶厚膜からなるビスマス置換型ガーネット厚膜材料において、前記単結晶厚膜の組成比が、Tb3-xBixFe5-yAly12なる化学式で示され、x=0.9〜1.5,y=0.02〜0.52であるビスマス置換型ガーネット厚膜材料である。
【0014】また、本発明は、前記ガーネット基板として、NGG基板を用いる上記ビスマス置換型ガーネット厚膜材料の製造方法である。
【0015】また、本発明は、単結晶厚膜を、900〜1120℃の温度範囲に保持する熱処理を行う上記ビスマス置換型ガーネット厚膜材料の製造方法である。
【0016】また、本発明は、単結晶厚膜を、酸素濃度が10〜100%の範囲の雰囲気中に保持する熱処理を行う上記ビスマス置換型ガーネット厚膜材料の製造方法である。
【0017】本発明では、TbBi系ガーネット材料としての波長1.55μmにおける要求特性を、薄型化の観点からファラデー回転能θFを800deg/cm以上、小型化の観点から飽和印加磁界強度(飽和印加磁場)Hsを900Oe以下、広範囲な使用可能温度の観点からファラデー回転能の温度係数θTを0.07deg/℃以下、高透過率の観点からファラデー回転角が約45degにおける挿入損失I.L.を0.2dB以下、好ましくは0.1dB以下と設定した。
【0018】なお、これら材料に対する高性能化の要求条件を満足させることにより、例えば、組み合わせて使用する部材の小型化等も可能となり、同時に部品の低価格化も達成することができる。また、ちなみに市販されているGdBi系ガーネットのθTは0.08deg/℃であり、本発明のファラデー回転能の温度係数θTを0.07deg/℃以下とする設定値は、明らかに低いといえる。
【0019】低Hs化は、小型化に関係する。通常、部品化には、印加磁界としては永久磁石から発生する磁束を利用するので、Hsが900Oe以下であれば、比較的温度特性の良好なSm2Co17系磁石の汎用品を大型化することなしに使用することができるのでコストメリットがある(一般的には、永久磁石より取り出せる磁束量は体積と正の相関関係にある)。
【0020】本発明において、育成基板をNGGとしたのは、育成されるガーネット結晶の格子定数を大きくすることで、Hsを増加(悪化)させる要因となるイオン半径の小さなYbやHoの置換量を低減しても、Bi23の含有量を増加することができ、ガーネット膜のθFを向上させることができるからである。
【0021】xを0.9〜1.5としたのは、0.9以上でθFが800deg/cmを示し、1.5を越えると、I.L.が急激に増加(悪化)するためである。yを0.02〜0.52としたのは、0.02以上で、Hsが900Oe以下となり、0.52以下で、θTが0.07deg/℃以下となるためである。
【0022】更に、本発明は、このガーネット膜を酸素濃度が10〜100%の雰囲気中で、900〜1120℃の範囲で熱処理することにより、I.L.の低減を実現している。熱処理雰囲気の酸素濃度を10〜100%としたのは、10%未満では、酸素の欠乏により、ガーネット膜構成元素のイオンバランスの修正が不十分となり、I.L.が増大するためである。また、熱処理温度を900〜1120℃の範囲としたのは、900℃未満では、結晶の均質化が不十分でI.L.が殆ど低減せず、一方、1120℃を越えると、ガーネット膜の分解が生じ、I.L.が著しく増大するからである。
【0023】
【発明の実施の形態】高純度の酸化テルビウム(Tb23)等の粉末を原料として使用し、フラックスとして酸化鉛(PbO)−酸化ビスマス(Bi23)−酸化ホウ素(B23)系を使用して、LPE法により、NGG基板上に、TbBi系ガーネット厚膜を育成した後、基板を除去し、所定の条件で熱処理することで、本発明のBi置換型ガーネット厚膜材料が得られる。
【0024】
【実施例】以下に、本発明の実施例について説明する。
【0025】(実施例1)高純度の酸化テルビウム(Tb23)、酸化第二鉄(Fe23)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化ビスマス(Bi23)、酸化鉛(PbO)、酸化ホウ素(B23)の粉末を原料として使用し、PbO−Bi23−B23をフラックスとして、NGG基板(格子定数12.509オングストローム)上に、組成式が、Tb1.7Bi1.3Fe4.8Al0.212なる約600μmのガーネット厚膜を育成した。
【0026】また、これと全く同様のメルトを使用して、SGGG基板(格子定数12.496オングストローム)上に約600μmのガーネット厚膜を育成した。
【0027】次に、これらの試料の基板を除去した後、約50%の酸素を含有した雰囲気中、1000℃で20時間保持し、熱処理した。次に、これら試料の両面を研磨し、ファラデー回転角が約45degとなる厚さ調整した。なお、上述した組成は、これら試料の両面について10点ずつEPMA分析を行い、平均値として求めたものである。
【0028】次に、これら試料板にSiO2膜による無反射被覆処理を行った後、電磁石を用いて磁界を約1.5kOeまで印加していき、波長1.55μmにおいて、透過率が飽和に達する磁界Hs(飽和印加磁場)とI.L.及びθFを求めた。また、同様にして、室温近傍におけるθTを求めた。その結果を表1に示す。
【0029】


【0030】表1より、NGG基板上に育成したガーネット厚膜の方が、I.L.、θF及びθTについて明らかに優れていることがわかる。また、Hsは、やや高くなっているが、実用上、全く問題とはならない程度である。従って、NGG基板に育成する方が、明らかに有益であるといえる。
【0031】(実施例2)実施例1と同様にして、メルト組成比を変化しNGG基板上に組成比がTb3-xBixFe4.8Al0.212で、x=0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6なるガーネット厚膜を得た後、Hs、I.L.、θF、θTを測定した。θFとI.L.の結果を図1に示す。これら試料のHsは、600〜850Oeであり、xの増加とともに増加する傾向を示し、θTは、0.04〜0.06deg/℃であった。
【0032】図1において、θFは、xが増加するに従い向上し、I.L.は、xが1.5以上で著しく増大する傾向を示す。従って、x=0.9〜1.5の領域が有益である。
【0033】(実施例3)実施例2と同様にして、組成比がTb1.7Bi1.3Fe5-yAly12で、y=0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6なるガーネット厚膜を得た後、Hs、I.L.、θF、θTを測定した。HsとθTの関係を図2に示す。これら試料のI.L.は0.05〜0.08dBであり、θFは約1200deg/cmであった。
【0034】図2において、Hsは、yが0.02以上で900Oe以下となり、θTはyが0.52以下で、0.07deg/℃以下となる。従って、y=0.02〜0.52の領域が有益である。
【0035】(実施例4)実施例2と同様にして組成比がTb1.7Bi1.3Fe4.8Al0.212なるガーネット膜を得た後、約50%の酸素雰囲気中にて、900、950、1000、1050、1100、1150℃にて20時間保持して熱処理した後、Hs、I.L.、θF、θTを測定した。I.L.の結果を図3に示す。これら試料のHsは約750Oe、θFは約1200deg/cm、θTは0.05deg/℃であった。
【0036】図3において、熱処理によるI.L.の低減効果は、900〜1120℃の範囲で明らかに認められる。従って、900〜1120℃の熱処理温度が有用といえる。
【0037】(実施例5)実施例2と同様にして、組成比がTb1.7Bi1.3Fe4.8Al0.212なるガーネット膜を得た後、雰囲気中の酸素濃度を0、10、20、30、50、70、100%とし、1000℃で10時間保持して熱処理した後、Hs、I.L.、θF、θTを測定した。I.L.の結果を図4に示す。これら試料のHsは約750Oe、θFは約1200deg/cm、θTは0.05deg/℃であった。
【0038】図4において、熱処理によるI.L.の低減効果は、熱処理雰囲気の酸素濃度が10〜100%の範囲で明らかに認められる。従って、熱処理雰囲気の酸素濃度は10〜100%が有用といえる。
【0039】
【発明の効果】本発明によれば、NGG基板上にTb3-xBixFe5-yAly12なる組成式において、x=0.9〜1.5,y=0.02〜0.52なるTbBi系ガーネット厚膜を育成することにより、Hs,I.L,θF,θTの特性に優れた高性能なビスマス置換型ガーネット厚膜材料及びその製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例2におけるTb3-xBixFe4.8Al0.212なる組成式でのBiの置換量xとファラデー回転能θF、挿入損I.L.との関係を示す図。図1(a)は、xとθFの関係を示す図。図1(b)は、xとI.L.との関係を示す図。
【図2】実施例3における、Tb1.7Bi1.3Fe5-yAly12なる組成式でのAlの置換量yと飽和印加磁場Hs、ファラデー回転の温度係数θTとの関係を示す図。図2(a)は、yとHsの関係を示す図。図2(b)は、yとθTの関係を示す図。
【図3】実施例4における、熱処理温度と挿入損失I.L.の関係を示す図。
【図4】実施例5における、熱処理雰囲気の酸素濃度と挿入損失I.L.の関係を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ガーネット基板上に、液相成長法により育成したTb,Bi,Fe,Alを主成分とするガーネット単結晶厚膜からなるビスマス置換型ガーネット厚膜材料において、前記単結晶厚膜の組成比が、Tb3-xBixFe5-yAly12なる化学式で示され、x=0.9〜1.5,y=0.02〜0.52であることを特徴とするビスマス置換型ガーネット厚膜材料。
【請求項2】 前記ガーネット基板として、NGG基板を用いることを特徴とする請求項1記載のビスマス置換型ガーネット厚膜材料の製造方法。
【請求項3】 単結晶厚膜を、900〜1120℃の温度範囲に保持する熱処理を行うことを特徴とする請求項1または2記載のビスマス置換型ガーネット厚膜材料の製造方法。
【請求項4】 単結晶厚膜を、酸素濃度が10〜100%の範囲の雰囲気中に保持する熱処理を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のビスマス置換型ガーネット厚膜材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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