説明

ビタミンC、ビタミンC塩またはビタミンC立体異性体添加の豆乳

【課題】ビタミンC、ビタミンC塩またはビタミンC立体異性体添加の豆乳を提供する。
【解決手段】ビタミンC添加の豆乳は、アスコルビン酸を少なくとも一つの豆類を製造原料の飲料品に添加して作られ、アスコルビン酸の添加量は25〜50 mg/100mlであり、小腸内で鉄の吸収率を向上させることができる。ビタミンC塩添加の豆乳は、アスコルビン酸塩を少なくとも一つの豆類を製造原料の飲料品に添加して作られる。アスコルビン酸塩によりもたらされるアスコルビン酸イオンの量は25〜50 mg/100mlである。ビタミンC立体異性体添加の豆乳は、アスコルビン酸の立体異性体を少なくとも一つの豆類を製造原料の飲料品に添加して作られ、アスコルビン酸の立体異性体によりもたらされるアスコルビン酸イオンの量は25〜50 mg/100mlである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豆乳に関し、特に小腸による鉄の吸収効果の向上に有用なビタミンC、ビタミンC塩またはビタミンC立体異性体添加の豆乳に関する。
【背景技術】
【0002】
国際連合農業食糧機関と世界保健機関(FAO/WHO)の報告によると、体内の鉄が不足していることは、現代人が無視できない栄養不足問題の一つとされている。体内の鉄が不足する課題は、発展途上国以外、経済が富有の欧米先進国家も完全に解決されていない。鉄の欠乏現象は、漸進しながら連続して変化するプロセスである。初めは体内に蓄えていた鉄が消尽され、血液が運ぶ鉄が段々と造血組織の需要に間に合わなくなり、ついに赤血球の合成が不完全になり、貧血症状を引き起こす。よって、貧血は、鉄欠乏の末期症状である。
【0003】
米国では1943年より、小麦粉の栄養強化を強制的に実施する施策が始められている。添加される栄養素は、ビタミンB1、B2、ナイアシンと鉄である。しかし、米国NHANES III (1988−1994)によれば、米国での鉄欠乏率は、生育年齢の女性が9−11%で最高となり、そのつぎ1−2歳の幼児が9%、男性の鉄欠乏率は2%以下となっている。
【0004】
人体と動物実験を通じて、鉄の欠乏は、体に2種類の免疫機能に影響を与えることがわかっている。それは、好中球による貪食殺菌能力の低下と、T細胞が細胞増殖剤または免疫抗原に対する反応を低下させる。このほか、鉄の欠乏は、鉛中毒の危険性を高める恐れがある。その原因は、体内で鉄を欠乏すると、小腸内で鉄を吸収する役目の金属輸送蛋白質DMT1(2価金属輸送蛋白質)が多くなるが、特異性がないため、鉛、クロムなど重金属に対する吸収率も高くなる。
【0005】
さらに、研究によれば、鉄の吸収が影響を与える主な要因は、鉄の化学式と鉄の生物学的利用率(bioavailability)とを含んでいる。そのうち、鉄の化学形式は、ヘム鉄(heme iron)と非ヘム鉄(non−heme iron)の2種類に分けられる。ヘム鉄は、肉類から由来し、その吸収は他の飲食成分に影響を与えず、吸収率は平均25%である。これに対して、非ヘム鉄は、各種の植物性食品から由来し、フェリチン(ferritin)と鉄分補充保健薬など、吸収率は平均約7.5%とされている。食事の成分は、非ヘム鉄の吸収率に影響する。よって、鉄の生物学的利用率は、食物または食事を通じて体によって、正常に消化及び吸収され、かつ生物学的利用に提供できる鉄を表す。これは複数の生理プロセスをまとめた結果である。それらの生理プロセスは、(イ)消化、(ロ)小腸細胞が鉄を取り込み(iron uptake)、血液に輸送、(ハ)機能タンパク質を形成し生理機能を行う、3つのステップを含める。このほか、多くの研究と実験の結果から、鉄吸収率を促進する成分は、ビタミンC及び家禽、家畜、魚介類など動物の筋肉タンパク質を含み、ビタミンC含量は25−100 mgの間にあり、鉄吸収率と正比例関係を有する。しかし、ビタミンCの添加量が100 mgを超えると、さらなるの効果は認められなかった。家禽、家畜、魚介など動物の筋肉タンパク質によって消化分解された小さい分子の生成物は、鉄と可溶性複合体を形成し、鉄の溶解度が増加して、吸収を促進する。
【0006】
ヒトの日常生活において、豆乳はごく普通の飲料の一つである。豆乳は、大豆(または黒豆)を原料として、作られた一種の飲料品である。概略的な製造方法は、以下の通りである。(イ)大豆を水の中に3−8時間を浸して、大豆が膨れ上がり、楕円形の球状を形成する。(ロ)大豆をミキサーなどで砕いた後、ガーゼーなどで液体とおからを分離させ、生の豆乳を作り出す。(ハ)水を生の豆乳に加えて、5−10分間沸騰させる。豆乳にアレルギー症を引き起こす第一鉄フィチン酸塩(ferrous phytate)があるため、おからから絞られた生豆乳を沸騰させて、アレルギー症を引き起こす第一鉄フィチン酸塩(ferrous phytate)を壊さなければ、豆乳を飲んでアレルギー症を引き起こす恐れがある。
【0007】
一方、豆乳には豊富な栄養と保健価値を有し、タンパク質、カルシウム、リン、鉄、亜鉛など数十種類の鉱物質、ビタミンA、ビタミンBなど多種類のビタミンを含まれている。さらに、豆乳のタンパク質含量は、牛乳より高く、廉価なタンパク質源と言える。加えて、豆乳の中にソヤサポニン、イソフラボン、レシチンなど癌を防げ、脳を良くする特殊な健康因子を有し、豆乳は、ラクトースを含まないため、乳糖不耐性の人には、副作用がない。豆乳に含まれる高度な栄養価値から、学者らは、豆乳を適宜に飲めば、老衰、糖尿病、高血圧、冠状動脈性心疾患、脳卒中、癌、気管支炎、痴呆症、便秘、肥満などの疾患を防げ、健康強化の効果を有すると報告している。
【0008】
豆乳は豊富な栄養成分を有する一方、大量な蓚酸とフィチン酸が含まれている。この2つの物質は、鉄イオンと容易にキレート作用し、不溶性の蓚酸第二鉄と大豆サポニン(soybean saponin)の沈殿物を形成するため、体が鉄に対する吸収力が大幅に低下される。よって、豆乳を長期に飲用する人は、鉄の吸収機能が抑制され、鉄欠乏性貧血を引き起しかねない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hallberg L, Brune M, Rossander−Hulth?n L (1987). Is there a physiological role of vitamin C in iron absorption? Ann N Y Acad Sci., 498:324−32
【非特許文献2】Hunt JR, Mullen LM, Lykken GI, Gallagher SK, Nielsen FH (1990). Ascorbic acid: effect on ongoing iron absorption and status in iron−depleted young women. Am J Clin Nutr. Apr;51(4):649−55)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
豆乳は健康強化の補助効果と、人間からだが欠かせない鉄を有するため、本発明人が長期にわたり、鉄の吸収に影響しない豆乳飲料を研究し、複数回の実験と検証を繰り返した結果、本発明のビタミンC、ビタミンC塩またはビタミンC立体異性体添加の豆乳を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の主な目的は、ビタミンC添加の豆乳を提供し、このビタミンCを添加された豆乳を飲用すれば、アスコルビン酸より分解するアスコルビン酸イオンの働きによって、体内の鉄の生物学利用率が抑制されることが避けられるほか、さらに、小腸による鉄の吸収率を増加させることができる。
【0012】
本発明の主な目的を達成するため、本発明人は、小腸に鉄の吸収率を増加させることができる、アスコルビン酸(ascorbic acid)を少なくとも一つの豆類を製造原料の飲料品に添加し製造するビタミンC添加の豆乳を提供する。そのうち、アスコルビン酸の添加量は25〜50 mg/100mlである。
【0013】
本発明もう一つの目的は、ビタミンC塩添加の豆乳を提供し、このビタミンC塩が添加された豆乳を飲用すれば、アスコルビン酸より分解するアスコルビン酸イオンの働きによって、体内の鉄の生物学利用率が抑制されることを避けられるほか、さらに、小腸による鉄の吸収率を増加させることができる。
【0014】
本発明もう一つの目的を達成するため、本発明人は、小腸による鉄の吸収率を増加させることができる、アスコルビン酸塩(ascorbate)を少なくとも一つの豆類を製造原料の飲料品に添加し製造するビタミンC塩添加の豆乳を提供する。そのうち、アスコルビン酸塩によりもたらされるアスコルビン酸イオンの量は25〜50 mg/100mlである。
【0015】
本発明のさらに一つの目的は、ビタミンC立体異性体添加の豆乳を提供し、このビタミンC立体異性体が添加された豆乳を飲用すれば、アスコルビン酸立体異性体より分解するアスコルビン酸イオンの働きによって、体内の鉄の生物学利用率が抑制されることを避けられるほか、さらに、小腸による鉄の吸収率を増加させることができる。
【0016】
本発明のさらに一つの目的を達成するため、本発明人は、ビタミンC立体異性体添加の豆乳を提供し、アスコルビン酸(ascorbate)の立体異性体(stereoisomer)を少なくとも一つの豆類を製造原料とする飲料品に添加し製造する、小腸による鉄の吸収率を増加させることができる。そのうち、アスコルビン酸立体異性体によりもたらされるアスコルビン酸イオンの量は25〜50 mg/100mlである。
【発明の効果】
【0017】
このように、複数組の実験数値より、本発明のビタミンC、ビタミンC塩またはビタミンC立体異性体添加の豆乳は、ヒトの体内の鉄の生物学的利用率を確実に向上させることができる。このほか、本発明は、以下の説明から下記の長所を有することが分かる。
【0018】
イ、本発明のビタミンC、ビタミンC塩またはビタミンC立体異性体添加の豆乳によれば、ヒトの体内の鉄の生物学的利用率を大幅に向上させることができる。よって、ヒトが常用する従来の豆乳に取り代わり、豆乳を常用する人たちは、鉄欠乏性貧血症の罹患を心配することなく、豆乳の飲用習慣を続けられる。
【0019】
ロ、本発明のビタミンC、ビタミンC塩またはビタミンC立体異性体添加の豆乳によれば、玄米、牛乳、コーヒー、紅茶、オート麦、卵などの物質を添加することにより、本発明の豆乳を飲用するとき、小腸による鉄の吸収率を増加させることができるほか、豆乳以外の味も得られるため、一石二鳥の策である。
【0020】
ハ、本発明のビタミンC、ビタミンC塩またはビタミンC立体異性体添加の豆乳によれば、ビタミンC、ビタミンC塩またはビタミンC立体異性体を豆乳に直接添加する方式に限られず、調整済みのビタミンC、ビタミンC塩またはビタミンC立体異性体の粉末配合を豆乳業者に提供し、業者が調製し製造することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】鉄の添加量と豆乳における鉄放出濃度の関係曲線図である。
【図2】アスコルビン酸とアスコルビン酸塩が硫酸第一鉄を添加された豆乳における鉄放出濃度の関係曲線図である。
【図3】硫酸第一鉄を添加された豆乳に、異なるアスコルビン酸塩を添加し、同じアスコルビン酸イオン濃度を有するときの鉄放出の平均濃度の曲線図である。
【図4】アスコルビン酸とアスコルビン酸塩がグリシン酸鉄を添加された豆乳における鉄放出濃度の関係曲線図である。
【図5】グリシン酸鉄を添加された豆乳に、異なるアスコルビン酸塩を添加し、同じアスコルビン酸イオン濃度を有するときの鉄放出の平均濃度の曲線図である。
【図6】アスコルビン酸とアスコルビン酸塩がピロリン酸第二鉄を添加された豆乳における鉄放出濃度の関係曲線図である。
【図7】ピロリン酸第二鉄を添加された豆乳に、異なるアスコルビン酸塩を添加し、同じアスコルビン酸イオン濃度を有するときの鉄放出の平均濃度の曲線図である。
【図8】アスコルビン酸とアスコルビン酸塩がグルコン酸鉄を添加された豆乳における鉄放出濃度の関係曲線図である。
【図9】グルコン酸鉄を添加された豆乳に、異なるアスコルビン酸塩を添加し、同じアスコルビン酸イオン濃度を有するときの鉄放出の平均濃度の曲線図である。
【図10】エリソルビン酸塩ナトリウムがグルコン酸鉄を添加された豆乳における鉄放出濃度の関係曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のビタミンC、ビタミンC塩またはビタミンC立体異性体添加の豆乳をより詳しく説明するため、本発明の実施例を図面と実験を合わせて詳細説明する。
【実施例】
【0023】
豆乳は、ヒトの日常生活でよく見かける飲料品の一つである。よって、ヒトが常に豆乳を飲用していることが想像できる。しかし、研究によれば、豆乳は豊富な栄養成分を有するが、大量な蓚酸とフィチン酸が含まれている。そのうち、蓚酸とフィチン酸は、鉄イオンと容易にキレート作用を引き起し、不溶性の蓚酸第二鉄と大豆サポニン(soybean saponin)を形成及び沈殿し、ヒトの体が鉄の吸収率を降下させる。よって、豆乳を常用する人は、鉄の吸収率が抑制されているため、鉄欠乏性貧血を引き起こすおそれがある。
【0024】
このほか、研究から、ヒトが適量のビタミンCを摂取していれば、小腸による鉄の吸収率が促進される。その原因は、ビタミンCは抑制物質(例えば、蓚酸とフィチン酸)と鉄との結合力を軽減できるため、鉄イオンが小腸において、水溶性をより放出しやすく、ヒトの体に吸収される。Hallberg L, Brune M, Rossander−Hulth?n L (1987). Is there a physiological role of vitamin C in iron absorption? Ann N Y Acad Sci., 498:324−32(非特許文献1)、及びHunt JR, Mullen LM, Lykken GI, Gallagher SK, Nielsen FH (1990). Ascorbic acid: effect on ongoing iron absorption and status in iron−depleted young women. Am J Clin Nutr. Apr;51(4):649−55)(非特許文献2)を参照する。ここで、特に説明すべきことは、ビタミンCは、良く見かける酸形状のアスコルビン酸及び中和後に形成すアスコルビン酸塩がある。例えば、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸カリウム及びアスコルビン酸マグネシウムなど。ビタミンCには、人工合成のビタミンC立体異性体、すなわち、エリソルビン酸が存在している。
【0025】
前述とおり、豆乳の常用者を鉄欠乏性貧血症の罹患から防ぎ、引き続き豆乳の飲用習慣が続けられるようにするため、本発明は、アスコルビン酸(ascorbic acid)を少なくとも一つの豆類を製造原料とする飲料品に添加することによって、ビタミンC添加の豆乳を製造する。本発明によれば、ビタミンC添加豆乳の添加量は、25〜50 mg/100mlであり、小腸による鉄の吸収率を増加させることができる。このほか、特に説明することは、アスコルビン酸(ビタミンC)は、自然食品より取得できるほか、化学合成によっても取得できる。従って、豆類を製造原料とする飲料品に添加されるアスコルビン酸の取得方式は、自然または化学合成を限定しない。また、大豆と黒豆とも豆乳を作ることができる。よって、豆類の原料は、大豆または黒豆に限定されない。
【0026】
さらに、ビタミンCは、複数の形式を有し、ビタミンCの形式に従い、アスコルビン酸塩(ascorbate)を少なくとも一つの豆類を製造原料とする飲料品に添加し、ビタミンC塩添加の豆乳を製造する。同じく、ビタミンC塩添加の豆乳によりもたらされるアスコルビン酸イオンの量は、25〜50 mg/100mlであり、小腸による鉄の吸収率を増加させることができる。ビタミンC塩添加の豆乳について、アスコルビン酸塩は、アスコルビン酸カルシウムCalcium Ascorbate)、アスコルビン酸ナトリウム(Sodium Ascorbate)、アスコルビン酸亜鉛(Zinc Ascorbate)と、アスコルビン酸カリウム(Potassium Ascorbate)のいずれかである。当然ながら、前述本発明のビタミンC添加の豆乳は、ビタミンC塩添加の豆乳に同じく、アスコルビン酸塩の取得方式は、自然または化学合成に限られない。
【0027】
さらに、本発明は、ビタミンCの形式によって、アスコルビン酸(ascorbate)立体異性体(stereoisomer)を少なくとも一つの豆類を製造原料と飲料品に加えて、ビタミンC立体異性体添加の豆乳を製造する。そのうち、ビタミンC立体異性体添加の豆乳も小腸による鉄の吸収率を増加させることができ、アスコルビン酸立体異性体によりもたらされるアスコルビン酸イオンの量は、25〜50 mg/100mlである。さらに、豆類の飲料品に添加するアスコルビン酸立体異性体は、エリソルビン酸(Erythorbic Acid)、エリソルビン酸塩カルシウム(Calcium Erythorbate)エリソルビン酸塩ナトリウム(Sodium Erythorbate)、エリソルビン酸塩亜鉛(zinc Erythorbate)と、エリソルビン酸塩カリウム(Potassium Erythorbate)のいずれかである。
【0028】
前述のとおり、本発明のビタミンC、ビタミンC塩またはビタミンC立体異性体添加豆乳の詳細は、すでに開示及び説明されている。ヒトの体がビタミンC、ビタミンC塩またはビタミンC立体異性体添加の豆乳を飲用した後、体内の鉄の有用率が確実に増加することを証明するため、以下は複数グループの実験を持って、その事実を証明する。そのうち、実験に使用する分析法は、体外消化透析法(in vitro digestion and dialysis)による。この方法は、擬似ヒトの胃液、腸液によって消化された食物が透析する鉄イオンを測定し、透析された鉄をヒトの鉄生体利用効率とする。
【0029】
実験は、硫酸第一鉄七水合物を標準品とし、硫酸第一鉄七水合物の水溶液の体外消化透析処理を行い、消化後の硫酸第一鉄水溶液の透析される鉄を測定する。その結果から、鉄イオン濃度100 ppmの硫酸第一鉄水溶液が擬似胃液と腸液の働きを経て、50.39%の鉄イオンしか放出されない。つまり、49.61%の鉄は、ヒトの胃腸によって自然に抑制されたため、ヒトの体が摂取した鉄のすべてが放出され吸収されるわけではない。
【0030】
このほか、米国農務省(United States Department of Agriculture, USDA)のデーターベースによれば、豆乳の総鉄含量は、100グラム当たりで0.4 mg (すなわち、4 ppm)である。しかし、体外消化透析測定の結果では、鉄放出はまったく検出されない。このことは、ヒトが豆乳を飲用した後、胃腸系による自然抑制のほか、豆乳に含まれた成分によって、鉄イオンの放出が抑制されているため、豆乳に含まれる鉄のすべてがヒトの体に放出され吸収されるわけではない。
【0031】
このような抑制現象を改善するため、本発明は、第1の実験を行い、アスコルビン酸とアスコルビン酸ナトリウムをそれぞれ豆乳に加え、豆乳が体外消化透析処理後に放出可能な鉄を測定した。表1、つまり、豆乳が体外消化透析処理後、放出可能な鉄の統計表を参照する。
【0032】

*相対放出率=(鉄の放出率)/(硫酸第一鉄水溶液の鉄の放出率)
【0033】
表1に示すように、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウムを豆乳に添加することによって、豆乳による鉄放出率の抑制能力が明らかに低減されていて、鉄イオンを消化液に放出することができる。もし、アスコルビン酸をより高い量で添加すれば、従来は、胃腸液に抑制されて放出できない鉄も放出される。よって、この実験によって、アスコルビン酸及びアスコルビン酸ナトリウムは、豆乳に含まれる鉄の放出促進作用が証明されている。
【0034】
さらに、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、またはアスコルビン酸立体異性体を豆乳に添加すれば、豆乳による鉄放出率が確かに増加することを証明するため、本発明人は第2実験を実施し、硫酸第一鉄七水合物、グリシン酸鉄、ピロリン酸第二鉄及び、グルコン酸鉄をそれぞれ豆乳に加え、豆乳が体外消化透析処理後の放出可能な鉄量を測定した。引き続き、前述4種類の鉄をそれぞれの濃度勾配に従い豆乳に加え、体外消化透析後の自然放出率を測定する。放出可能な濃度より添加量の増加に従って増加する点を基準点とし、その添加量を対応の鉄が豆乳において、明らかに大量に抑制し始める濃度(すなわち、抑制開始濃度)とする。実験の結果は、表2にまとめた。
【0035】

*数値が太字で表示されているものは、抑制開始濃度を示す。
【0036】
図1の、鉄添加の量と豆乳が放出可能な鉄の濃度関係曲線図を参照する。そのうち、表2と図1に示すように、硫酸第一鉄、グリシン酸鉄、ピロリン酸第二鉄及び、グルコン酸鉄の抑制開始濃度は、それぞれ20ppm、20ppm、50ppm及び30ppmである。引き続き、硫酸第一鉄20ppm、グリシン酸鉄20ppm、ピロリン酸第二鉄50ppm及びグルコン酸鉄30ppmを基準として、それぞれアスコルビン酸(ビタミンC)及びアスコルビン酸塩を20ppmの硫酸第一鉄が添加された豆乳に加え、硫酸第一鉄添加豆乳の鉄の放出率を測定する。実験結果は、表3ないし、表7にまとめたほか、表3ないし表7において、アスコルビン酸はVC、アスコルビン酸ナトリウムはNaVC、アスコルビン酸カリウムはKVC、アスコルビン酸カルシウムはCaVC、それぞれ略称している。
【0037】

【0038】

*そのうち、アスコルビン酸ナトリウムによって、分解されるアスコルビン酸イオンの含量は87.5%。
【0039】

*そのうち、アスコルビン酸カリウムによって、分解されるアスコルビン酸イオンの含量は82.2%。
【0040】

*そのうち、アスコルビン酸カルシウムによって、分解されるアスコルビン酸イオンの含量は89.8%。
【0041】

【0042】
引き続き、図2の、アスコルビン酸及びアスコルビン酸塩が硫酸第一鉄を添加された豆乳に対する放出可能な鉄濃度の関係曲線図と、図3、硫酸第一鉄添加の豆乳が異なるアスコルビン酸塩を添加していて、同じアスコルビン酸イオン濃度を有するときの放出可能な鉄濃度の関係曲線図を合わせて参照する。表3ないし7及び図2と図3から、硫酸第一鉄添加の豆乳は、基本として、放出可能な鉄濃度は、アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩の添加量に従って増加し、かつアスコルビン酸またはアスコルビン酸塩の添加が一定の量に達したとき、硫酸第一鉄添加の豆乳における放出可能な鉄濃度の、さらなる顕著な上昇は認められない。
【0043】
続いて、アスコルビン酸及びアスコルビン酸塩を、20ppmのグリシン酸鉄が添加された豆乳に添加し、グリシン酸鉄添加豆乳の鉄放出率を測定した。実験結果は、表8ないし12にまとめた。
【0044】

【0045】

*そのうち、アスコルビン酸ナトリウムによって、分解されるアスコルビン酸イオンの含量は87.5%。
【0046】

*そのうち、アスコルビン酸カリウムによって、分解されるアスコルビン酸イオンの含量は82.2%。
【0047】

*そのうち、アスコルビン酸カルシウムによって、分解されるアスコルビン酸イオンの含量は89.8%。
【0048】

【0049】
引き続き、図4のアスコルビン酸及びアスコルビン酸塩がグリシン酸鉄を添加された豆乳に対する放出可能な鉄濃度の関係曲線図と、図5の、グリシン酸鉄添加の豆乳が異なるアスコルビン酸塩を添加していて、同じアスコルビン酸イオン濃度を有するときの鉄放出の平均濃度の関係曲線図を合わせて参照する。表8ないし12と図4、5から、グリシン酸鉄添加の豆乳は、基本として、放出可能な鉄濃度は、アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩の添加量に従って増加し、かつアスコルビン酸またはアスコルビン酸塩の添加が一定の量に達したとき、グリシン酸鉄添加の豆乳における放出可能な鉄濃度の、さらなる顕著な上昇は認められない。
【0050】
続いて、アスコルビン酸及びアスコルビン酸塩を、50ppmのピロリン酸第二鉄が添加された豆乳に添加し、ピロリン酸第二鉄を添加された豆乳の鉄放出率を測定した。実験結果は、表13ないし17にまとめた。
【0051】

【0052】

*そのうち、アスコルビン酸ナトリウムによって、分解されるアスコルビン酸イオンの含量は87.5%。
【0053】

*そのうち、アスコルビン酸カリウムによって、分解されるアスコルビン酸イオンの含量は82.2%。
【0054】

*そのうち、アスコルビン酸カルシウムによって、分解されるアスコルビン酸イオンの含量は89.8%。
【0055】

【0056】
引き続き、図6の、アスコルビン酸及びアスコルビン酸塩がピロリン酸第二鉄を添加された豆乳に対する放出可能な鉄濃度の関係曲線図と、図7の、ピロリン酸第二鉄添加の豆乳が異なるアスコルビン酸塩を添加していて、同じアスコルビン酸イオン濃度を有するときの鉄放出の平均濃度の関係曲線図を合わせて参照する。表13ないし17及び図6と図7から、ピロリン酸第二鉄添加の豆乳は、基本として、放出可能な鉄濃度は、アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩の添加量に従って増加し、かつアスコルビン酸またはアスコルビン酸塩の添加が一定の量に達したとき、ピロリン酸第二鉄添加の豆乳における放出可能な鉄濃度の、さらなる顕著な上昇は認められない。
【0057】
続いて、アスコルビン酸及びアスコルビン酸塩を、30ppmのグルコン酸鉄が添加された豆乳に添加し、グルコン酸鉄を添加された豆乳の鉄放出率を測定した。実験結果は、表18ないし22にまとめた。
【0058】

【0059】

*そのうち、アスコルビン酸ナトリウムによって、分解されるアスコルビン酸イオンの含量は87.5%。
【0060】

*そのうち、アスコルビン酸カリウムによって、分解されるアスコルビン酸イオンの含量は82.2%。
【0061】

*そのうち、アスコルビン酸カルシウムによって、分解されるアスコルビン酸イオンの含量は89.8%。
【0062】

【0063】

【0064】
引き続き、図8の、アスコルビン酸及びアスコルビン酸塩がグルコン酸鉄を添加された豆乳に対する放出可能な鉄濃度の関係曲線図と、図7の、グルコン酸鉄添加の豆乳が異なるアスコルビン酸塩を添加していて、同じアスコルビン酸イオン濃度を有するときの鉄放出の平均濃度の関係曲線図を合わせて参照する。表18ないし23及び図8と図9から、グルコン酸鉄添加の豆乳は、基本として、放出可能な鉄濃度は、アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩の添加量に従って増加し、かつアスコルビン酸またはアスコルビン酸塩の添加が一定の量に達したとき、グルコン酸鉄添加の豆乳における放出可能な鉄濃度の、さらなる顕著な上昇は認められない。
【0065】
このように、前述各種の実験結果より、各種の鉄を添加された豆乳における鉄の放出濃度を知ることができる。さらに、アスコルビン酸とアスコルビン酸塩が各種の鉄が抑制開始濃度において、鉄放出のもっとも効率的な添加量及び鉄放出の促進率を下表24にまとめた。
【0066】

*そのうち、鉄放出の促進率=(アスコルビン酸添加後の鉄放出量)/(アスコルビン酸無添加の鉄放出量)
【0067】
このように、前述の実験数値から、ビタミンCとビタミンC塩は、ヒトの体内において、鉄放出率を確実に増加させることができることが容易に理解できる。よって、グルコン酸鉄を基準として、ビタミンCを豆乳添加される好ましい添加量は、25〜50 mg/100mlである。
【0068】
このほか、周知のように、アスコルビン酸(ビタミンC)は立体異性体(stereoisomer)を有し、エリソルビン酸といい、物理及び化学性質は非常に近いが、生理機能はやや低いである。しかし、エリソルビン酸は、ヒトの酵素に利用することはできないが、その化学性質は、アスコルビン酸に近いことから、本発明において、実験した結果、アスコルビン酸立体異性体も豆乳に含まれる鉄イオンの放出効果を認めた。実験プロセスは、以下のとおり説明する。エリソルビン酸塩ナトリウムをグルコン酸鉄26.09 mg/100 ml(鉄の添加濃度30 ppm)を含める豆乳に添加し、豆乳における鉄放出量を測定した。実験結果は、表25にまとめた。
【0069】

【0070】
図10の、エリソルビン酸塩ナトリウムがグルコン酸鉄を添加された豆乳に対する放出可能な鉄濃度の関係曲線図を参照する。表25と図10に示すように、豆乳のアスコルビン酸イオン添加量とアスコルビン酸イオンが同じのとき、鉄の放出促進効果もほぼ同じである。エリソルビン酸とアスコルビン酸は互いに光学異性体であり、アスコルビン酸またはその塩基(エリソルビン酸塩ナトリウム、エリソルビン酸塩ンカルシウム及びエリソルビン酸塩亜鉛)を水に溶かすと、負電気を帯びるエリソルビン酸イオンが分離される。その物理性質は、アスコルビン酸イオンとの差が大きくないため、同じく豆乳における鉄イオン放出の促進効果を有する。
【0071】
ほかに、特に説明すべきことは、市販の豆乳は種類が多く、例えば、玄米豆乳、豆乳ミルク、オート麦豆乳、コーヒー豆乳、紅茶豆乳、みつ豆豆乳などがある。よって、本発明のビタミンC、ビタミンC塩またはビタミンC立体異性体添加の豆乳は、玄米、牛乳、コーヒー、紅茶、オート麦、卵などの物質を添加しても良い。使用者が本発明のビタミンC、ビタミンC塩またはビタミンC立体異性体添加の豆乳を飲用するとき、小腸による鉄の吸収率を増加させることができるほか、豆乳以外の味を楽しむことができ、一石二鳥の策である。
【0072】
このほか、本発明のビタミンC、ビタミンC塩またはビタミンC立体異性体添加の豆乳は、ビタミンC、ビタミンC塩またはビタミンC立体異性体を直接豆乳に添加する方式に限られず、調整済みのビタミンC、ビタミンC塩またはビタミンC立体異性体の粉末を豆乳製造業者に提供し、製造業者が調整することも、ビタミンC、ビタミンC塩またはビタミンC立体異性体添加豆乳の製造方式の一つである。そのうち、粉末配合の組成は、表26のとおりである。
【0073】

【0074】
表26に示すように、粉末の配合は、アスコルビン酸ナトリウム(NaVC)、乳酸菌、酵母菌と、マルトデキストリンを含めた複数種の内容物を組み合わせてなる。そのうち、乳酸菌はNTU 101乳酸菌粉末を使用し、酵母菌は超高Bグループ酵母粉末を使用する。ここで、特に説明すべきことは、粉末配合は超高温滅菌処理(UHT)すると、約25%のアスコルビン酸ナトリウムのロスが発生する。よって、超高温滅菌処理(UHT)される前は、あらかじめ補償分として、25%のアスコルビン酸ナトリウムを粉末配合に加える。
【0075】
前記した詳細説明は、本発明の好ましい実施例について説明するものである。ただし、該実施例は本発明になんらの制限を加えるものではない。本発明の技術精神に基づく等効果の応用又は変更は、すべて本発明の特許請求範疇に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンC添加の豆乳であって、
小腸への鉄分の吸収率を増加させるべく、アスコルビン酸(ascorbic acid)を、少なくとも一種類の豆を原料とする飲料品に対し25−50mg/100mlの添加量で添加して製造される
ことを特徴とするビタミンC添加の豆乳。
【請求項2】
前記アスコルビン酸は、自然食品から得られることを特徴とする、請求項1記載のビタミンC添加の豆乳。
【請求項3】
前記アスコルビン酸は、化学合成によって得られることを特徴とする、請求項1記載のビタミンC添加の豆乳。
【請求項4】
前記豆は、大豆または黒豆のいずれかであることを特徴とする、請求項1記載のビタミンC添加の豆乳。
【請求項5】
玄米、牛乳、コーヒー、紅茶、オート麦、卵いずれかの添加物をさらに添加できることを特徴とする、請求項1記載のビタミンC添加の豆乳。
【請求項6】
ビタミンC塩添加の豆乳であって、
小腸への鉄分の吸収率を増加させるべく、アスコルビン酸塩(ascorbate)を、少なくとも一種類の豆を原料とする飲料品に対し添加量25−50mg/100mlで添加して製造される
ことを特徴とするビタミンC塩添加の豆乳。
【請求項7】
前記アスコルビン酸塩は、自然食品から得られることを特徴とする、請求項6記載のビタミンC塩添加の豆乳。
【請求項8】
前記アスコルビン酸塩は、化学合成によって得られることを特徴とする、請求項6記載のビタミンC塩添加の豆乳。
【請求項9】
前記アスコルビン酸塩は、アスコルビン酸カルシウム(Calcium Ascorbate)、アスコルビン酸ナトリウム(Sodium Ascorbate)、アスコルビン酸亜鉛(Zinc Ascorbate)、またはアスコルビン酸亜鉛(Potassium Ascorbate)のいずれかであることを特徴とする、請求項6記載のビタミンC塩添加の豆乳。
【請求項10】
前記豆は、大豆または黒豆のいずれかであることを特徴とする、請求項6記載のビタミンC塩添加の豆乳。
【請求項11】
玄米、牛乳、コーヒー、紅茶、オート麦、卵いずれかの添加物をさらに添加できることを特徴とする、請求項6記載のビタミンC塩添加の豆乳。
【請求項12】
ビタミンC立体異性体添加の豆乳であって、
小腸への鉄分の吸収率を増加させるべく、アスコルビン酸(ascorbic acid)立体異性体(stereoisomers)を、少なくとも一種類の豆を原料とする飲料品に対し、当該アスコルビン酸立体異性体によりもたらされるアスコルビン酸塩イオン(ascorbate ion)の当量25−50mg/100mlで添加して製造される
ことを特徴とするビタミンC立体異性体添加の豆乳。
【請求項13】
前記アスコルビン酸立体異性体は、自然食品から得られることを特徴とする、請求項12記載のビタミンC立体異性体添加の豆乳。
【請求項14】
前記アスコルビン酸立体異性体は、化学合成によって得られることを特徴とする、請求項12記載のビタミンC立体異性体添加の豆乳。
【請求項15】
前記アスコルビン酸立体異性体は、エリソルビン酸(Erythorbic Acid)、エリソルビン酸塩カルシウム(Calcium Erythorbate)エリソルビン酸塩ナトリウム(Sodium Erythorbate)、エリソルビン酸塩亜鉛(zinc Erythorbate)、またはエリソルビン酸塩カリウム(Potassium Erythorbate)のいずれかであることを特徴とする、請求項12記載のビタミンC立体異性体添加の豆乳。
【請求項16】
前記豆は、大豆または黒豆のいずれかであることを特徴とする、請求項12記載のビタミンC立体異性体添加の豆乳。
【請求項17】
玄米、牛乳、コーヒー、紅茶、オート麦、卵いずれかの添加物をさらに添加できることを特徴とする、請求項12記載のビタミンC立体異性体添加の豆乳。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−39122(P2013−39122A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−51627(P2012−51627)
【出願日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【出願人】(511227222)晨暉生物科技股▲分▼有限公司 (2)
【Fターム(参考)】