説明

ビナフチル誘導体、それよりなるホスト材料、ホール輸送材料およびそれを用いた有機EL素子

【課題】 新規なリン光材料に適したワイドギャップなホール輸送層を形成するための新規なビナフチル誘導体の提供および新規なビナフチル誘導体よりなるホスト材料、ホール輸送材料、およびこれを用いた新規な有機EL素子の提供。
【解決手段】例えば3,3´−ジフェニルアミノ−2,2´−ジメトキシ−1,1´−ビナフチルのようなビナフチル誘導体およびそれよりなるホスト材料、ホール輸送材料、これを用いた新規な有機EL素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なビナフチル誘導体、それよりなるホスト材料、ホール輸送材料およびそれを用いた有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELの実用化に向けた研究開発が、国内外の電気メーカーや材料メーカーなどが中心になって進められている。液晶表示素子や発光ダイオードなどの既に世間に知られているディスプレイなどと、互角に渡り歩いていくには消費電力の低減および素子の長寿命化が必須の課題としてあげられている。
そこで、この問題を解決する目的で、近年リン光材料による有機EL素子の検討が成されている。
リン光材料は従来の蛍光材料と異なり、三重項励起状態を使用することができるため量子効率が非常に高く、エネルギー失活がほとんどなく内部発光量子収率でほぼ100%に達する材料である。
しかしこのリン光材料は、濃度消光を起こしやすいため蛍光材料同様にホスト材料との併用が必要になってくる。
高効率発光を得るためには、輸送材料やホスト材料の最適化を図らないといけないが、リン光材料は蛍光材料とは異なり三重項エネルギーを完全に閉じこめないと満足な効果が得られない。特に青色の材料に関してはエネルギーレベルが非常に高い。そのためこれまで使用していたα−NPDでは十分なエネルギーの閉じこめができない。これまでこの青色リン光エネルギーを閉じ込めることができるワイドギャップ化された輸送材料やホスト材料が無く、青色リン光材料の開発を妨げる一つの要因になっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の第1の目的は、新規なリン光材料に適したワイドギャップなホール輸送層を形成するための新規なビナフチル誘導体を提供する点にある。
本発明の第2の目的は、新規なビナフチル誘導体よりなるホスト材料、ホール輸送材料、およびこれを用いた新規な有機EL素子を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1は、下記一般式(1)
【化4】

(式中、Q、Q、QおよびQは、下記式
【化5】

であり、ArとArは置換基を有することもあるアリール基およびヘテロアリール基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基であり、ArとArはそれぞれ一体になってヘテロアリール基を形成していてもよく、RおよびRは水素、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリール基、ヘテロアリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロアリールオキシカルボニル基およびハロゲンよりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基であり、mおよびnは、それぞれ独立して0または1の整数を表わし、少なくともmまたはnのいずれか一方は1である)
で示されるビナフチル誘導体に関する。
本発明の第2は、一般式(1)におけるQとQのうちの少なくともいずれか一方およびQとQのうち少なくともいずれか一方が、ArとArが一体になったヘテロアリール基である請求項1記載のビナフチル誘導体に関する。
本発明の第3は、前記ヘテロアリール基が、下記式(2)
【化6】

(式中、R20〜R27は水素、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリール基、ヘテロアリールオキシ基およびハロゲンよりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。)
で示されるカルバゾリル基である請求項2記載のビナフチル誘導体に関する。
本発明の第4は、3.1eVを越える広いエネルギーギャップを有するものである請求項1〜3いずれか記載のビナフチル誘導体に関する。
本発明の第5は、請求項1〜4いずれか記載のビナフチル誘導体よりなることを特徴とするホスト材料に関する。
本発明の第6は、請求項1〜4いずれか記載のビナフチル誘導体よりなることを特徴とするホール輸送材料に関する。
本発明の第7は、請求項1〜4いずれか記載のビナフチル誘導体を用いたことを特徴とする有機EL素子に関する。
本発明の第8は、請求項1〜4いずれか記載のビナフチル誘導体を発光層またはホール輸送層に用いたことを特徴とする有機EL素子に関する。
本発明の第9は、発光材料として燐光材料を用いた請求項7または8記載の有機EL素子に関する。
本発明の第10は、その発光ピーク波長が480nmよりも短波長の青色発光を示す燐光材料を発光材料として用いた請求項9記載の有機EL素子に関する。
【0005】
前記、Ar、Ar、R〜RおよびR20〜R27におけるアリール基としては、置換基を有することもある1環または多環構造のいずれのものであってもよい。具体例を挙げるとフェニル、ビフェニル、ターフェニル、クオーターフェニル、クウィンクフェニル、セスキフェニル、セプチフェニル、オクチフェニル、ノビフェニル、デシフェニル、ナフチル、アズレニル、アントラニル、フェナンソレニル、ナフタセニル、クリセニル、ペンタレニル、インデニル、アズレニル、ヘプタデニル、ビフェニレル、as−インダセニル、s−インダセニル、アセナフチレニル、フルオレニル、フェナレニル、フルオラセニル、アセフェナンソラレニル、アセアンソリレニル、トリフェニレル、ピレニル、プレイアデニル、ピセニル、ペリレニル、ペンタフェニル、ペンタセニル、テトラフェニレニル、ヘキサフェニル、ヘキサアセニル、ルビセニル、コロネリル、トリナフチレニル、ヘキサフェニル、ヘキサアセニル、ルビセニル、コロネリル、トリナフテレニル、ヘプタフェニル、ヘプタセニル、ピランセニル、オバレニルなどを挙げることができる。
【0006】
前記、Ar、Ar、R〜RおよびR20〜R27におけるヘテロアリール基としては、置換基を有することもある各種へテロアリール基であり、1環または多環構造のいずれのものであってもよい。具体例を挙げると、フラニル、ピロロニル、3−ピロロニル、ピラゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、チアゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、トリアゾリル、ピラニル、ピリジニル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、1,3,5−トリアジニル、ベンゾフラニル、インドリル、ベンゾ〔b〕チオフェニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾチアゾリル、プリニル、キノリニル、イソキノリニル、シンノリニル、キノキサリニル、カルバゾリル、アクリジニル、1,10−フェントレニルなどを挙げることができる。
【0007】
また、ArとArが結合した場合の形としてはArとArが結合しているN原子も含めてその構造例を示すと
【化7】

などを挙げることができる。
勿論これらの環構造においても必要に応じて置換基を有する場合も含んでいる。
【0008】
前記R〜RおよびR20〜R27におけるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシルなどを挙げることができる。これらについては直鎖でも枝分かれでも構わない。
【0009】
前記R〜RおよびR20〜R27におけるアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペントキシ、ヘキシロキシ、ヘプチロキシ、オクトキシ、ノニロキシ、デシロキシ、フンデシロシキシ、ドデシロキシ、トリデシロキシ、テトラデシロキシ、ペンタデシロキシ、ヘキサデシロキシ、ヘプタデシロキシ、オクタデシロキシ、ノナデシロキシ、エイコシロキシなどを挙げることができる。これらについては直鎖でも枝分かれでも構わない。R〜Rのアルコキシカルボニル基におけるアルコキシ部分は前記アルコキシ基と同様である。
【0010】
前記R〜RおよびR20〜R27におけるハロゲンとしては、いずれのハロゲンでもよい。
【0011】
前記アリールオキシ基、アリールオキシカルボニル基におけるアリール部分は前記アリール基と同様であり、ヘテロアリールオキシ基、ヘテロアリールオキシカルボニル基におけるヘテロアリール部分はヘテロアリール基と同様であり、アリール基、アリーロキシ基、ヘテロアリール基、ヘテロアリールオキシ基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロアリーロキシカルボニル基における置換基としては、アルキル基、アルコキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基およびハロゲンをあげることができ、アルキル基やアルコキシ基としては前述のものを例示することができ、アルコキシカルボニル基につくアルキルグループやアリールオキシカルボニル基につくアリールグループについても同様に前述のものを例示することができる。
また、アルキル基やアルコキシ基における置換基としては、エステル基やハロゲンを挙げることができる。
【0012】
本発明化合物の代表的な合成方法の1例を下記に示す。R〜RおよびAr、Arは前記のとおりである。
【化8】

式中、R、R、Ar、Arは前記と同一であり、Xはハロゲンである。好ましくは臭素または塩素である。
【0013】
また、本発明の化合物の例を下記に示す。
【0014】
【化9】

【0015】
【化10】

【0016】
【化11】

【0017】
【化12】

【0018】
【化13】

【0019】
【化14】

【0020】
【化15】


【0021】
【化16】

【0022】
【化17】

【0023】
【化18】

【0024】
【化19】

【0025】
【化20】

【0026】
【化21】

【0027】
【化22】

【0028】
【化23】

【0029】
【化24】

【0030】
【化25】

【0031】
【化26】

【0032】
【化27】

【0033】
【化28】

【0034】
【化29】

【0035】
【化30】

【0036】
【化31】

【0037】
【化32】

【0038】
【化33】

【0039】
【化34】

【0040】
【化35】

【0041】
【化36】

【0042】
【化37】

【0043】
【化38】

【0044】
【化39】

【0045】
【化40】

【0046】
【化41】

【0047】
【化42】

【0048】
【化43】

【0049】
【化44】

【0050】
【化45】

【0051】
【化46】

【0052】
【化47】

【0053】
【化48】

【0054】
【化49】

【0055】
【化50】

【0056】
【化51】

【0057】
【化52】

【0058】
【化53】

【0059】
【化54】

【0060】
【化55】

【0061】
【化56】

【0062】
多くの発光材料は濃度消光を起こしやすくこのため効率の低下を起こしやすい。リン光材料もこの例外でなく、高効率化を維持するめには発光材料よりもエネルギーレベルの大きな材料(すなわちホスト材料)の中に分散させて使用する必要がある。
ホスト材料に求められる特性としては、均一なアモルファス膜になることやキャリアーの輸送能力があること等が挙げられる。
特に青色リン光材料に使用されるホスト材料としてはリン光材料の三重項エネルギーが他の緑や赤に比べて大きいため、これまで使用されているようなホスト材料では十分な青色の効率を達成するのが困難であり、ワイドギャップ化させる必要がある。
すなわちリン光ゲスト材料よりも大きな三重項エネルギーを有していること(ワイドギャップ化)の必要である。
今回のホスト材料としての本発明化合物はこの点に着目し合成を行ったものである。ホスト材料に混ぜられるゲスト化合物の量はおよそ4%から8%程度が理想的とされている。また、その膜厚は、40nm〜60nm位が適当とされている。
【0063】
ホスト材料については、あくまでもゲスト材料(例えばこの場合ではリン光材料であるが)にホスト内で発生させた励起子を与え、ゲスト材料を発光に導くのが本来の目的である。しかしホスト内にゲスト分子が存在しない場合、ホスト内で生成した励起子同士はホスト内で再結合を起こしホスト材料が発光を起こす。このためホスト材料が発光材料として機能することになる。もしホストの中で発生した励起子がホストの膜を突き抜けてホスト層の外へ出るような場合、良好な励起子移動が起こらないためゲスト材料が発光しなくなる。
このためホスト材料が良好な発光材料であることは、ホスト−ゲスト効果の一つの基本だと考えられる。
このビナフチル化合物については、その3位にトリアリールアミン骨格を有しているためホール輸送機能を持つ。このためこの材料は、ホール輸送層に使用することが可能である。
【0064】
請求項9についてみると、本発明化合物のビナフチル骨格は広いエネルギーレベルを持つ化合物であり、大きな三重項エネルギーを有しているため、青色リン光材料から赤色リン光材料にかけてのゲスト材料であるリン光材料に対して使用できるホスト材料である。
【0065】
現在既存のホスト材料としてCBP(4,4′−ジカルバゾリル−1,1′−ビフェニル)があるが、この化合物の三重項エネルギーが青色のリン光材料に対して十分ではないため満足のできるリン光発光を得ることができなかった。しかし今回開発した新規ビナフチル誘導体に関しては、材料のねじれが大きいため十分な三重項エネルギーをもっており、多大なエネルギーが必要な480nmより短波長な青色リン光材料を組み合わせてみると、有機EL素子としても良好な結果が得られる。
【0066】
バッファー層とは一般に注入層のことをさしているが、その中には、電荷注入層やホール注入層も含まれている。
電荷注入層は、電極(ITO電極、Al電極)からそれぞれホールと電子を有機材料に効率よく注入する役目を持っている。
【発明の効果】
【0067】
(1)新規なビナフチル誘導体を提供することができた。
(2)この新規なビナフチル誘導体をホール輸送材料として使用して、リン光材料を含有する有機EL素子を作成したところ、従来に使用されているホール輸送層にα−NPDを用いた有機EL素子に比べ最大で約1.3倍の効率向上が認められた〔例えば、図5において、輝度が10の場合の視感効率はα−NPDの値(◇印)、3DTA2MBNの値(△印)の方が1.3倍位高い位置にある〕。すなわち、本発明の新規ビナフチル誘導体はα−NPDの代換品として極めてすぐれたものであり、この分野の材料の豊富化に貢献するものである。
(3)本発明のビナフチル誘導体のエネルギーギャップ(ビナフチル化合物のHOMO値からLUMO値を引いた値)を測定したところ、3.4eVであり、α−NPDの3.1eVに比べてワイドギャップ化が図られており、大きなエネルギーを必要とする青色リン光材料を駆動させるためにも適応でき、これまで懸念されていた有機EL素子の高効率化、低消費電力化に貢献できる。いいかえれば、α−NPDのエネルギーギャップでは青色リン光材料を充分発光させることができなかったが、本発明の化合物をホスト材料とすることにより、青色リン光材料を発光させることができた。
【実施例】
【0068】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0069】
実施例1
(1)1,1′−ビ−2−ナフトール〔1,1′−Bi−2−Naphthol(BINOL)〕の合成
【化57】

1000mL四つ口フラスコに塩化鉄六水和物30.9g(0.114mol)、脱イオン水750mlを加え溶解させた。この水溶液に2−ナフトール(2−Naphthol)15.0g(0.104mol)を加え室温で17時間、40℃で7時間撹拌した。析出物を濾別乾燥し、メタノールを溶媒として活性炭脱色後、溶媒を留去してエタノールで再結晶することにより、白色結晶の目的物を得た〔収量7.79g(0.027mol),収率52%〕。
【0070】
(2)2,2′−ジメトキシ−1,1′−ビナフチル〔2,2′−Dimethoxy−1,1′−binaphthyl(2MBN)〕の合成
【化58】

200mL四つ口フラスコに1,1′−ビ−2−ナフトール(BINOL)5.00g(17.5mmol)、炭酸カリウム5.04g(36.5mmol)、ジメチルホルムアミド80mlを加えしばらく撹拌した後、ヨウ化メチル12.0g(84.0mmol)を加えて50℃で48時間撹拌した。反応後室温に戻し、脱イオン水にて再沈澱をおこない、6時間分散洗浄をおこなった。析出物を濾別乾燥することにより、白色粉末の目的物を得た〔収量5.40g(17.2mmol),収率98%〕。
【0071】
(3)3,3′−ジブロモ−2,2′−ジメトキシ−1,1′−ビナフチル
〔3,3′−Dibromo−2,2′−dimethoxy−1,1′−binaphthyl(3B2MBN)〕の合成
【化59】

300mL四つ口フラスコに窒素気流下、脱水ジエチルエーテル200ml、テトラメチルエチレンジアミン3.84ml(25.5mmol)、n−ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液)21.8ml(34.7mmol)を入れ室温で15分撹拌し、さらに2,2′−ジメトキシ−1,1′−ビナフチル(2MBN)3.64g(11.6mmol)を加えて3時間撹拌した。反応液をメタノール−ドライアイスバスにて−78℃に冷却し、臭素7.2ml(140mmol)を20分かけて滴下した。滴下後、徐々に室温に戻しながら18時間撹拌し、反応後、亜硫酸水素ナトリウム飽和水溶液120mLを加えて4時間撹拌した。反応液をジエチルエーテル、脱イオン水で希釈し、エーテル層を抽出、飽和食塩水で洗浄後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー〔展開溶媒:酢酸エチル/n−ヘキサン=1:8(v/v)〕により精製し、白色固体の目的物を得た〔収量3.22g(6.82mmol),収率58.8%〕。
【0072】
(4)3,3′−ジフェニルアミノ−2,2′−ジメトキシ−1,1′−ビナフチル
〔3,3′−Diphenylamino−2,2′−dimethoxy−1,1′−binaphthyl(3DPA2MBN)〕の合成
【化60】

200mL四つ口フラスコに窒素気流下、o−キシレン80ml、酢酸パラジウム(II)0.04g(0.176mmol)、トリ−tert−ブチルホスフィン(Tri−tert−butylphosphine)0.132g(0.667mmol)を加え、しばらく撹拌したのち3,3′−ジブロモ−2,2′−ジメトキシ−1,1′−ビナフチル(3B2MBN)1.00g(2.12mmol)、ジフェニルアミン(Diphenylamine)0.90g(5.29mmol)、ナトリウム−t−ブチレート(Sodium tert−butylate)0.743g(7.43mmol)を加えて140℃で18時間撹拌した。反応停止後溶媒を留去し、クロロホルムに溶解、脱イオン水、飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)により精製し、白色固体の目的物を得た〔収量1.17g(1.80mmol),収率85%〕。
【0073】
実施例2
(1)3,3′−ジトリルアミノ−2,2′−ジメトキシ−1,1′−ビナフチル(3DTA2MBN)の合成
【化61】

300mL四つ口フラスコに窒素気流下、o−キシレン200ml、酢酸パラジウム(II)〔Palladium(II)acetate〕 0.107g(0.470mmol)、トリ−t−ブチルホスフィン(Tri−tert−butylphosphine)0.352g(1.78mmol)を加えしばらく撹拌したのち実施例1の(3)で得られた3,3′−ジブロモ−2,2′−ジメトキシ−1,1′−ビナフチル(3B2MBN)2.67g(5.66mmol)、p,p′−ジトルイルアミン(p,p′−Ditolylamine)2.78g(14.1mmol)、ナトリウム−t−ブチレート(Sodium tert−butylate)1.98g(19.8mmol)を加えて140℃で18時間撹拌した。反応停止後溶媒を留去し、クロロホルムに溶解、脱イオン水、飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去してシリカゲルカラムクロマトグラフィー〔展開溶媒:クロロホルム/n−ヘキサン=1:1(v/v)〕により精製し、淡黄色固体の目的物を得た〔収量2.89g(4.10mmol),収率72.4%〕。
【0074】
実施例3
(1)5,5′,6,6′,7,7′,8,8′−オクタヒドロ−2,2′−ジメトキシ−1,1′−ビナフチル(5,5′,6,6′,7,7′,8,8′−octahydro−2,2′−dimethoxy−1,1′−binaphthyl)(H−2MBN)の合成
【化62】

100mL四つ口フラスコにアセトン50ml、5,5′,6,6′,7,7′,8,8′−オクタヒドロ−2,2′−ジヒドロキシ−1,1′−ビナフチル(5,5′,6,6′,7,7′,8,8′−octahydro−2,2′−dihydroxy−1,1′−binaphthyl)3.00g(0.01mol)、炭酸カリウム2.70g(0.023mol)、ヨードメタン10.0g(0.1mol)を入れ窒素気流下24時間還流した。24時間後、ヨードメタン5.0g(0.05mol)を加えさらに24時間還流した。反応停止後、溶媒を留去しクロロホルムに溶解させ脱イオン水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)により精製し、白色固体の目的物を得た〔収量1.76g(5.46mmol)、収率54.6%〕。
【0075】
(2)3,3′−ジブロモ−5,5′,6,6′,7,7′,8,8′−オクタヒドロ−2,2′−ジメトキシ−1,1′−ビナフチル
(3,3′−Dibromo−5,5′,6,6′,7,7′,8,8′−octahydro−2,2′−dimethoxy−1,1′−binaphthyl)(H−3B2MBN)の合成
【化63】

200mL四つ口フラスコに窒素気流下、脱水ジエチルエーテル100ml、テトラメチルエチレンジアミン1.70ml(11.3mmol)、n−ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液)9.65ml(15.4mmol)を入れ室温で15分撹拌し、さらにH−2MBN 1.65g(5.12mmol)を加えて3時間撹拌した。反応液をメタノール−ドライアイスバスにて−78℃に冷却し、臭素3.2ml(61.9mmol)を15分かけて滴下した。滴下後、徐々に室温に戻しながら18時間撹拌し、反応後、亜硫酸水素ナトリウム飽和水溶液60mLを加えて2時間撹拌した。反応液をジエチルエーテル、脱イオン水で希釈し、エーテル層を抽出、飽和食塩水で洗浄後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー〔展開溶媒:酢酸エチル/n−ヘキサン=1:3(v/v)〕により精製し、黄色粘体の目的物を得た〔収量2.35g(4.89mmol),収率95.5%〕。
【0076】
(3)3,3′−ジトルイルアミノ−5,5′,6,6′,7,7′,8,8′−オクタヒドロ−2,2′−ジメトキシ−1,1′−ビナフチル
〔3,3′−Ditolylamino−5,5′,6,6′,7,7′,8,8′−octahydro−2,2′−dimethoxy−1,1′−binaphthyl〕(H−3DTA2MBN)の合成
【化64】

300mL四つ口フラスコに窒素気流下、o−キシレン200ml、酢酸パラジウム(II)〔Palladium(II) acetate〕0.093g(0.406mmol)、トリ−t−ブチルホスフィン(Tri−tert−butylphosphine) 0.304g(1.54mol)、H−3B2MBN 2.35g(4.89 mmol)、p,p′−ジトルイルアミン(p,p′−Ditolylamine)2.40g(12.2mmol)、ナトリウム−t−ブチレート(Sodium tert−butylate)1.71g(17.1mmol)を加えて140℃で18時間撹拌した。反応停止後溶媒を留去し、クロロホルムに溶解、脱イオン水、飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を留去してシリカゲルカラムクロマトグラフィー〔展開溶媒:クロロホルム/n−ヘキサン=1:1(v/v)〕により精製し、薄黄色固体の目的物を得た〔収量2.13g(2.99mmol),収率61.1%〕。
【0077】
実施例4
ビナフチル誘導体よりなる各種のホール輸送材料を用いバッファー層を導入した下記構成の緑色リン光素子を作製し、α−NPDとの比較をおこなった。
デバイス1:〔ITO/TPDPES:TBPAH(200Å)/3DPA2MBN(実施例1)(200Å)/CBP:7wt%Ir(ppy)(300Å)/BCP(100Å)/Alq(200Å)/LiF(5Å)/Al〕
デバイス2:〔ITO/TPDPES:TBPAH(200Å)/3DTA2MBN(実施例2)(200Å)/CBP:7wt%Ir(ppy)(300Å)/BCP(100Å)/Alq(200Å)/LiF(5Å)/Al〕
デバイス3:〔ITO/TPDPES:TBPAH(200Å)/H−3DTA2MBN(実施例3)(200Å)/CBP:7wt%Ir(ppy)(300Å)/BCP(100Å)/Alq(200Å)/LiF(5Å)/Al〕
デバイス4:〔ITO/TPDPES:TBPAH(200Å)/α−NPD(200Å)/CBP:7wt%Ir(ppy)(300Å)/BCP(100Å)/Alq(200Å)/LiF(5Å)/Al〕
【0078】
デバイス1〜3は、本発明の有機EL素子であり、
デバイス4は比較例の有機EL素子である。
また、前記素子構成中のTPDPES、TBPAH、α−NPD、Ir(ppy)、BCP、CBP、Alqは下記のとおりである。
TPDPESは、ポリ〔オキシ−1,4−フェニレンスルホニル−1,4−フェニレンオキシ−1,4−フェニレン(フェニルイミノ)(1,1′−ビフェニル)−4,4′−ジイル(フェニルイミノ)−1,4−フェニレン〕{poly〔oxy−1,4−phenylensulfonyl−1,4−phenyleneoxy−1,4−phenylene)(phenylimino)(1,1′−biphenyl)−4,4′−diyl(phenylimino)−1,4−phenylene〕}(9CI)(CA INDEX NAME)の略称である。
TBPAHはトリス(4−ブロモフェニル)アミニウム ヘキサクロロアンチモネート〔Tris(4−bromophenyl)aminium hexachloroantimonate〕である。
α−NPD〔N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(1−ナフチル)ベンジジン〕
【化65】

Ir(ppy)〔トリス(2−フェニルピリジナト)イリジウム(III)〕
【化66】

Alq〔トリス−(8−キノリノラトアルミニウム)〕
【化67】

BCP(2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナンスロリン)
【化68】

CBP〔4,4′−ジカルバゾリルビフェニル〕
【化69】

【0079】
各有機EL素子の各層は下記のとおりの役目を果たすものである。
ITO:陽極
TPDPES:TBPAH:ホール注入層(バッファー層)
3DPA2MBN,3DTA2MBN,H−3DTA2MBN,α−NPD
:ホール輸送層
CBP:7wt%Ir(ppy):発光層
BCP:ホールブロック層
Alq:電子輸送層
LiF:電子注入層
Al:背面電極
【0080】
(1)デバイス1の製造条件
TPDPES/10wt%TBPAH in 1,2−ジクロロエタン
:スピンコート(1500rpm,10sec)
3DPA2MBN:真空度4.4×10−6torr,蒸着速度3−4Å/sec
Ir(ppy):真空度3.9×10−6torr,蒸着速度35Å/100sec
CBP:真空度3.6×10−6torr,蒸着速度5Å/sec
BCP:真空度3.6×10−6torr,蒸着速度2−3Å/sec
Alq:真空度4.5×10−6torr,蒸着速度3−4Å/sec
LiF:真空度1.8×10−5torr,蒸着速度2Å/sec
Al:真空度3.0×10−5torr,蒸着速度10−11Å/sec
【0081】
(2)デバイス2の製造条件
TPDPES/10wt%TBPAH in 1,2−ジクロロエタン
:スピンコート(1500rpm,10sec)
3DTA2MBN:真空度5.2×10−6torr,蒸着速度3−4Å/sec
Ir(ppy):真空度4.5×10−6torr,蒸着速度35Å/100sec
CBP:真空度4.5×10−6torr,蒸着速度4−5Å/sec
BCP:真空度4.1×10−6torr,蒸着速度3−4Å/sec
Alq:真空度5.2×10−6torr,蒸着速度3−4Å/sec
LiF:真空度1.7×10−5torr,蒸着速度1−2Å/sec
Al:真空度3.0×10−5torr,蒸着速度10−11Å/sec
【0082】
(3)デバイス3の製造条件
TPDPES/10wt%TBPAH in 1,2−ジクロロエタン
:スピンコート(1500rpm,10sec)
−3DTA2MBN:真空度5.6×10−6torr,蒸着速度2−3Å/sec
Ir(ppy):真空度5.0×10−6torr,蒸着速度35Å/100sec
CBP:真空度5.0×10−6torr,蒸着速度4−5Å/sec
BCP:真空度4.7×10−6torr,蒸着速度3Å/sec
Alq:真空度5.0×10−6torr,蒸着速度3Å/sec
LiF:真空度2.0×10−5torr,蒸着速度2Å/sec
Al:真空度2.5×10−5torr,蒸着速度10−11Å/sec
【0083】
(4)デバイス4の製造条件
TPDPES/10wt%TBPAH in 1,2−ジクロロエタン
:スピンコート(1500rpm,10sec)
α−NPD:真空度4.3×10−6torr,蒸着速度2Å/sec
Ir(ppy):真空度3.8×10−6torr,蒸着速度35Å/100sec
CBP:真空度3.8×10−6torr,蒸着速度5Å/sec
BCP:真空度3.5×10−6torr,蒸着速度2−3Å/sec
Alq:真空度3.9×10−6torr,蒸着速度3−4Å/sec
LiF:真空度1.7×10−5torr,蒸着速度1−2Å/sec
Al:真空度3.0×10−5torr,蒸着速度10−11Å/sec
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

バッファー層を導入することでホールの注入性が向上し3DPA2MBN以外の材料に関してはNPDを用いた素子の発光効率を大きく上回った。
すなわち、100cd/m当りの電力効率の項をみてもα−NPDは32.8(lm/W)であるのに対し、3DTA2MBNは39.0(lm/W)、H−3DTA2MBNは37.0(lm/W)であり、これらはα−NPDを超えている。
【0086】
各素子の電流の入りやすさはα−NPDと3DTA2MBNはほぼ同等であり、以下H−3DTA2MBN、3DPA2MBNの順であった。3DTA2MBNおよびH−3DTA2MBNを用いた素子はα−NPDを用いた素子にくらべ効率が高いことがわかる。
【0087】
ビナフチル誘導体よりなるホール輸送材料を用いた緑色リン光素子はバッファー層を導入しない場合、ホール輸送層にα−NPDを用いた場合よりも電流が入っていかず高電圧駆動し、効率も低いことがわかっている。これはビナフチル系ホール輸送材料のホール注入性が低いためであると考えられる。そこでバッファー層を導入し同様にα−NPDとの比較をおこなったところ、3DTA2MBNとH−3DTA2MBNにおいてα−NPDよりも効率が向上した。このことからこれらの材料がIr(ppy)の発光にもとづく三重項励起子の移動を効率的に抑制しているものと考えられる。さらに3DTA2MBNはNPD並みに電流が入っていっており、ホール注入性は低いもののα−NPDと同等のホール輸送性を有していると考えられる。またホール輸送性は各材料のイオン化ポテンシャルの順と一致しており、3DTA2MBN>H−3DTA2MBN>3DPA2MBNであることがわかった。3DTA2MBNと3DPA2MBNの比較よりアリールアミン系ではジフェニルアミンよりもジトリルアミンを有する方がホール輸送性を有していると言える。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】実施例4におけるデバイス1〜4のそれぞれの電流密度−電圧特性を示すグラフである。
【図2】実施例4におけるデバイス1〜4のそれぞれの輝度−電圧特性を示すグラフである。
【図3】実施例4におけるデバイス1〜4のそれぞれの輝度−電流密度特性を示すグラフである。
【図4】実施例4におけるデバイス1〜4のそれぞれの視感効率−電圧特性を示すグラフである。
【図5】実施例4におけるデバイス1〜4のそれぞれの視感効率−輝度特性を示すグラフである。
【図6】実施例4におけるデバイス1〜4のそれぞれの電流効率−電圧特性を示すグラフである。
【図7】実施例4におけるデバイス1〜4のそれぞれの外部量子効率−輝度特性を示すグラフである。
【図8】実施例4におけるデバイス1〜4のELスペクトルを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、Q、Q、QおよびQは、下記式
【化2】

であり、ArとArは置換基を有することもあるアリール基およびヘテロアリール基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基であり、ArとArはそれぞれ一体になってヘテロアリール基を形成していてもよく、RおよびRは水素、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリール基、ヘテロアリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロアリールオキシカルボニル基およびハロゲンよりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基であり、mおよびnは、それぞれ独立して0または1の整数を表わし、少なくともmまたはnのいずれか一方は1である)
で示されるビナフチル誘導体。
【請求項2】
一般式(1)におけるQとQのうちの少なくともいずれか一方およびQとQのうち少なくともいずれか一方が、ArとArが一体になったヘテロアリール基である請求項1記載のビナフチル誘導体。
【請求項3】
前記ヘテロアリール基が、下記式(2)
【化3】

(式中、R20〜R27は水素、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリール基、ヘテロアリールオキシ基およびハロゲンよりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。)
で示されるカルバゾリル基である請求項2記載のビナフチル誘導体。
【請求項4】
3.1eVを越える広いエネルギーギャップを有するものである請求項1〜3いずれか記載のビナフチル誘導体。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載のビナフチル誘導体よりなることを特徴とするホスト材料。
【請求項6】
請求項1〜4いずれか記載のビナフチル誘導体よりなることを特徴とするホール輸送材料。
【請求項7】
請求項1〜4いずれか記載のビナフチル誘導体を用いたことを特徴とする有機EL素子。
【請求項8】
請求項1〜4いずれか記載のビナフチル誘導体を発光層またはホール輸送層に用いたことを特徴とする有機EL素子。
【請求項9】
発光材料として燐光材料を用いた請求項7または8記載の有機EL素子。
【請求項10】
その発光ピーク波長が480nmよりも短波長の青色発光を示す燐光材料を発光材料として用いた請求項9記載の有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−328037(P2006−328037A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−212187(P2005−212187)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国などの委託成果にかかる特許出願(平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「高効率有機デバイスの開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(394013644)ケミプロ化成株式会社 (63)
【Fターム(参考)】