説明

ビニルアルコール系重合体の洗浄方法

【課題】 本発明は、アルカリ金属塩の含有量が少ない高品質のビニルアルコール系重合体を得るための方法として、高効率でかつ環境負荷の低い洗浄方法を提供する。
【解決手段】 上記課題は、ビニルアルコール系重合体を、二酸化炭素が溶解した溶液の存在下に洗浄することによって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルアルコール系重合体に含まれるアルカリ金属塩を、効率よく低減させ、かつ環境負荷の低い洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニルアルコール系重合体(以降PVAと略す場合がある)は水溶性に優れているなどの特性を生かして、繊維、経糸糊、製紙用コーティング剤、食料品包装材、薬品包装材、農業用フィルム、工業用フィルム、乳化剤、保護コロイド、ガスバリアー材等、様々な用途に用いられている。
【0003】
PVAは、一般に酢酸ビニル系重合体をけん化して得られるが、多い場合で数%のアルカリ金属塩(酢酸ナトリウム等)を含有している。しかし、PVAに含まれるアルカリ金属塩は、用途によっては悪影響を及ぼすことがある。例えば、光学用フィルムとしての用途において、アルカリ金属塩は、PVAを加熱して延伸する際に、不必要な着色を発生させる原因となる。また、液晶ディスプレイなどに用いられるPVAフィルムは、屋外や社内での利用も多いため、耐熱性、耐光性に優れたフィルムであることが求められているが、ここでもアルカリ金属塩は悪影響を及ぼすことが知られている。
このようなPVA中のアルカリ金属塩の除去方法としては、PVAを水および/またはメタノールを用いて洗浄する方法が知られている(特許文献1〜3)。しかしながら、水および/またはメタノールのみで洗浄する場合、アルカリ金属塩の除去効率が高くないため、洗浄に要する時間が長くなり、必ずしも工業的に有利な洗浄方法とは言いがたい。
【0004】
一方、アルカリ金属塩が塩基であることを考慮すると、PVAに酸を添加して洗浄することも効果的である。水および/またはメタノールに酸を添加する場合、酸としては塩酸、硫酸、硝酸、燐酸などの無機酸や、酢酸、酪酸、p−トルエンスルホン酸などの有機酸などが考えられる。しかしながら、これらの酸は、洗浄後に水および/またはメタノールと共に排出されることになり、排水処理にコストがかかる上、環境負荷が高いという問題点を有している。
【0005】
【特許文献1】特開2001−311828号公報
【特許文献2】特開平10−325907号公報
【特許文献3】特開平9−15618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アルカリ金属塩の含有量が少ない高品質のPVAを得るための方法として、高効率でかつ環境負荷の低い洗浄方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、PVAを、二酸化炭素が溶解した溶液の存在下に洗浄する方法によって解決される。
【0008】
このとき、二酸化炭素を加圧しながら洗浄することが好ましく、その圧力は0.1〜5MPaであることがより好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のPVAの洗浄方法によれば、アルカリ金属塩の残存が極めて少ない高品質のPVAを得ることができる。その洗浄方法は、アルカリ金属塩の除去効率が高く、洗浄に用いた後の洗浄水を排水処理する際の環境負荷が低いという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で使用されるPVAは、特に制限はなく、用途に応じて適宜選択される。PVAの平均重合度は、200〜4000であることが好ましい。また、PVAのけん化度は、水および/またはアルコールに対する溶解性を考慮した場合、80モル%以上であることが好ましい。けん化度は、より好適には90モル%以上であり、さらに好適には99モル%以上である。また、共重合可能な他のモノマーと共重合させた共重合体を使用することも可能であり、例えばエチレン−ビニルアルコール共重合体などが挙げられる。PVAの形状としては、粉末、顆粒、ペレット、フィルムなど任意の形状が使用できる。また、PVAの主鎖、側鎖または末端がカルボキシル基などの官能基で変性されたPVAを使用することも可能である。
【0011】
本発明は、PVAを、二酸化炭素が溶解した溶液の存在下に洗浄することが特徴である。二酸化炭素を溶解させる溶媒としては、水および/又はアルコールが好ましい。
ここでアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールなどの水溶性アルコールが例示される。これらのアルコールは、二種以上併用してもよい。水溶性であるPVAは重合度、けん化度によってはアルコールの共存下で洗浄することが好ましい場合がある。
二酸化炭素の溶解性を考慮すれば、溶媒として少なくとも水を使用することが好ましい。水とアルコールの混合溶媒を使用するのであれば、水の含有量が50重量%以上であることが好ましい。また、溶媒の回収の必要性などを考慮すれば、実質的に水のみを使用することが好ましい。
かかる洗浄溶液の使用量としては、PVAに対して、1〜1000重量倍の範囲であることが好ましく、1〜100重量倍の範囲であることがより好ましく、1〜10重量倍の範囲であることがさらに好ましい。
【0012】
本発明の洗浄方法では、装置内に二酸化炭素を導入して該装置内の圧力を0.1〜10MPaとし、前記PVAを洗浄させることが好ましい。ここで、0.1MPaとは、実質的に大気圧と同じ圧力ということであり、大気圧下で、装置内に二酸化炭素を導入して洗浄させてもよいということである。しかしながら、洗浄を効率よく行うためには、二酸化炭素により加圧しながら、PVAを洗浄させることが好ましい。加圧するときの装置内の圧力は0.1MPa以上であることが好ましく、0.3MPa以上であることがより好ましく、0.5MPa以上であることがさらに好ましい。圧力を高くすることによって酸性度が向上し、アルカリ金属塩の洗浄効率が向上する。一方、装置内の圧力が10MPaを超える場合には、設備コストが増加することがある。当該圧力は、より好適には5MPa以下である。ここでいう装置内の圧力とは、洗浄中の二酸化炭素の最高分圧のことをいう。
【0013】
本発明における洗浄温度は、0〜50℃であることが好ましい。反応温度が50℃を超えると、PVAが溶解し始めて洗浄後の回収率が低下したり、PVAが膨潤し始めて乾燥困難になる。また、低温にするほど二酸化炭素の溶解性が向上するので、洗浄温度は、より好適には30℃以下である。
【0014】
前記PVAの洗浄は、バッチ式および連続式のいずれの装置を用いて実施しても構わない。いずれの場合にも、二酸化炭素が漏れないように密封可能な装置で反応させることが好ましい。また、洗浄の効率を向上させるためには、撹拌又は混練のための手段を備えていることが好ましい。
洗浄終了後、二酸化炭素を加圧した場合は常圧に戻し、洗浄混合液をろ過して得られた固形物を乾燥して、アルカリ金属塩の含有量が少ないPVAを得ることができる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、アルカリ金属塩の含有量は次の方法で分析した。
【0016】
[アルカリ金属塩含有量分析]
試料(1g)を定法に従って湿式分解した後、ICP発光分析装置(ジャーレルアッシュ社製ICP発光装置:IRISAP)を用いて測定した。
【0017】
実施例1
1Lガラス製オートクレイブに、株式会社クラレ製ポリビニルアルコールPVA−117BU(重合度:1700、ケン化度:99モル%、ナトリウム含有量:1340ppm)100g及び水400gを投入し、容器内を二酸化炭素で置換した後、20℃、500rpmで攪拌しながら二酸化炭素を導入して反応容器内の圧力を0.5MPaに昇圧した。引き続き1時間攪拌し、二酸化炭素を放圧した後、遠心ろ過機を用いてろ過した。得られた固体を、減圧下50℃で24時間乾燥し、ナトリウム含有量が80ppmのポリビニルアルコール98.9gを得た。
【0018】
実施例2−7
洗浄溶媒、二酸化炭素圧力、洗浄温度、洗浄時間を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にポリビニルアルコールを洗浄した。得られたポリビニルアルコールの回収率とアルカリ金属塩含有量を表1に示す。
【0019】
比較例1−2
雰囲気ガスを窒素とし、大気圧(0.1MPa)にて表1に示す洗浄温度、洗浄時間で洗浄した以外は、実施例1と同様にポリビニルアルコールを洗浄した。得られたポリビニルアルコールの回収率とアルカリ金属塩含有量を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
表1の結果から、本発明の方法で洗浄したPVAは、窒素下で洗浄した場合と比較して、アルカリ金属塩の含有量が低く、高純度であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の洗浄方法で得られたPVAは、光学フィルム、接着剤、バインダー、塗料など、さまざまな用途に使用できる上、ポリビニルアセタール樹脂などの原料としても使用できる。特に、アルカリ金属化合物の残存が忌避される液晶ディスプレイなどの電子部品用途に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルアルコール系重合体を、二酸化炭素が溶解した溶液の存在下に洗浄するビニルアルコール系重合体の洗浄方法。
【請求項2】
二酸化炭素を加圧して洗浄する請求項1記載のビニルアルコール系重合体の洗浄方法。
【請求項3】
二酸化炭素の圧力が0.1〜10MPaである請求項1または2に記載のビニルアルコール系重合体の洗浄方法。
【請求項4】
洗浄温度が0〜50℃である請求項1〜3のいずれかに記載のビニルアルコール系重合体の洗浄方法。
【請求項5】
アルコールの共存下に洗浄する請求項1〜4のいずれかに記載のビニルアルコール系重合体の洗浄方法。
【請求項6】
ビニルアルコール系重合体が、ポリビニルアルコールまたはエチレン−ビニルアルコール共重合体である請求項1〜5のいずれかに記載の洗浄方法。
【請求項7】
ビニルアルコール系重合体が、粉末、顆粒、ペレットまたはフィルム形状である請求項1〜5のいずれかに記載の洗浄方法。