説明

ビニルアルコール系重合体を含有するコーティング剤

【課題】 表面強度が高く、耐久性、耐水性、耐候性、光沢、インク吸収性、印刷適性、にじみ防止性などの特性に優れ、ひび割れのない、高品質の印刷用面(コーティング層)を形成する、特にインクジェット記録材におけるインク受理層の形成に好適なコーティング剤の提供。
【解決手段】 粘度平均重合度4000〜8000;ケン化度99.50〜99.97モル%;1,2−グリコール結合単位含有量1〜1.5モル%;粘度1000mPa・sのPVA系重合体水溶液が10℃で粘度20000mPa・sまで増粘する時間が50〜250分;並びにPVA系重合体水溶液の光路長30mmのセルを使用してなる波長280nm及び320nmにおける濃度補正後の吸光度(測定温度20℃)が0.02L/g以下であるPVA系重合体を含有するコーティング剤、当該コーティング剤を用いて形成した塗工物、特にインクジェット記録材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定のビニルアルコール系重合体を含有するコーティング剤およびそれを用いて形成した塗工物、特にインクジェット記録材に関する。より詳細には、本発明は、表面強度が高く、耐久性、耐水性、耐候性、光沢、インク吸収性、印刷適性、にじみ防止性などの特性に優れ、ひび割れのない、高品質の印刷用面(コーティング層)を形成するコーティング剤およびそれを用いて形成した塗工物に関するものであり、本発明のコーティング剤は、特にインクジェット記録材におけるインク受理層を形成するためのコーティング剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコールで代表されるビニルアルコール系重合体は水溶性の合成高分子として知られており、合成繊維ビニロンの原料、紙や繊維の加工剤、接着剤、乳化重合および懸濁重合用の安定剤、無機物のバインダー、フィルムなど種々の用途に広く用いられている。ビニルアルコール系重合体は、他の合成高分子と比べて強度特性および造膜性が特に優れており、それらの特性を活かして、インクジェット記録材用のインク受理層を形成するためのコーティング剤、紙の表面特性を改善するためのクリアーコーティング剤、顔料コーティングにおけるバインダー、水溶性フィルムや光学用フィルムの製造原料などとして重用されている。
【0003】
ビニルアルコール系重合体をインクジェット記録材に用いることは既に商用化されている。インクジェット記録方法は、騒音が少ないこと、カラー化が容易であること、高速記録が可能であることなどの理由から、ファクシミリ、各種プリンターなどへの応用が進められており広い範囲で普及が進んでいる。最近、特に注目されているインクジェットプリンターの利用方法としては、写真に近い高画質が要求される印刷分野におけるカラープルーフの作成やデザイン分野におけるデザインイメージの出力などがある。なかでも表面に光沢を有するグロスタイプのインジェット記録材が写真代替として注目されている。
このようなインクジェット記録方式で使用される記録シートに要求される特性としては、インク受理層表面の光沢が高いこと、画像濃度が高いこと、色再現性が良好なこと、インク吸収性が高いこと、ドット再現性が良好であることなどが挙げられる。
【0004】
インクジェット記録材に関する従来技術としては、例えば、ガラス粉、ケイ石粉、コロイダルシリカなどの屈折率1.44〜1.55の無機質微粉末、合成シリカおよび水溶性バインダーを含有する水性液を支持体表面に被覆して形成した記録用紙(特許文献1を参照)、透明な基材上に多孔性アルミナ水和物および水溶性バインダーを含む水性液を塗工して形成した層の上に、更に多孔性微細シリカと水溶性バインダーを含有する水性液を塗工して多孔性微細シリカ層を形成した記録用シート(特許文献2を参照)が知られている。これらの従来技術では、水溶性バインダーとして、主に平均重合度が2000以下のポリビニルアルコールが用いられているが、インク受理層の表面がひび割れたり、光沢に劣っていたり、さらにはドット再現性やインク吸収性が十分でないなどの問題があり、インクジェット記録材に要求される特性を十分に満足することができない。
【0005】
また、シリル基を有する変性ビニルアルコール系重合体を水溶性バインダーとして含有するコーティング剤を基材上に被覆してインク受理層を形成したインクジェット記録材が知られている(特許文献3、4および5を参照)。これらの従来技術で用いている変性ビニルアルコール系重合体は、少量で無機顔料をバインドする能力には優れているが、本発明者らが検討したところ、インク受理層のひび割れ防止、光沢性の点で改良の余地があることが判明した。
【0006】
また、ビニルアルコール系重合体の特性である強度特性、無機物に対するバインダー力、造膜性などを更に向上させる目的で、ビニルアルコール系重合体を高重合度化することが従来から試みられており、そのような従来技術として、例えば、ビニルエステルの重合に当たって、重合系内の圧力を500mmHg以下に保ちつつ、重合系内の温度を50℃以下にして、ビニルエステルを沸騰させながら重合を行ってビニルエステル系重合体を製造し、それにより得られるビニルエステル系重合体をケン化して製造したポリビニルアルコールが知られている(特許文献6を参照)。しかし、この従来技術では、重合度が4000以上の高重合度のポリビニルアルコールが得られにくく、しかも得られるポリビニルアルコールは、着色が生じていて無色透明性に劣っていたり、耐水性に劣っていたり、水溶液にしたときの粘度安定性に劣るなどの問題があり、コーティング剤、特にインクジェット記録材の製造に使用するコーティング剤用のバインダー樹脂としての機能を十分に備えていない。
【0007】
さらに、他の従来技術として、ビニルエステルを乳化剤の存在下に減圧下で乳化重合してビニルエステル系重合体を製造し、それにより得られるビニルエステル系重合体をケン化して製造したビニルアルコール系重合体が知られているが(特許文献7)、この特許文献7にはそこで得られたビニルアルコール系重合体をコーティング剤やインクジェット記録材などに用いることは開示されていない。さらに、この従来技術によるビニルアルコール系重合体は、乳化重合に用いた乳化剤が混入していて着色などを生ずる恐れがあり、また重合度が高過ぎる(一般に10,000を超している)ため、コーティング剤、特にインクジェット記録材の製造に使用するコーティング剤用のバインダー樹脂として好適であるとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭61−60793号公報
【特許文献2】特開平3−215081号公報
【特許文献3】特開2002−67477号公報
【特許文献4】特開2004−91774号公報
【特許文献5】特開2004−43817号公報
【特許文献6】特公昭33−003045号公報
【特許文献7】特開平5−117307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、表面強度が高く、耐水性、耐久性、耐候性、光沢、インク吸収性、印刷適性、インクなどのにじみ防止性などの諸特性に優れ、しかもひび割れがなく、高品質の塗膜(コーティング層)を形成することのできるコーティング剤およびそれを用いてなる塗工物を提供することである。
さらに、本発明は、耐久性、耐水性、耐候性、光沢、インク吸収性、印刷適性などの諸特性に優れ、インクのにじみやひび割れのない、鮮明で色調の良好な高品質の印刷物を形成することのできる、インクジェット記録材におけるインク受理層を形成するためのコーティング剤およびそれを用いて形成したインクジェット記録材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく検討を重ねてきた。その結果、粘度平均重合度(P)が4000〜8000およびケン化度が99.50〜99.97モル%で、且つ1,2−グリコール結合単位の含有量が特定の範囲にあり、しかも水溶液にしたときに特定の増粘特性および吸光度を示すビニルアルコール系重合体が、力学的特性、耐水性、耐候性、無色透明性に優れ、しかも水溶液にしたときの粘度安定性に優れていること、そして当該ビニルアルコール系重合体を用いると無機物との混合溶液が容易に調製でき、当該混合溶液から形成した皮膜は水に対する膨潤度が小さく耐水性に優れていることなど見出した。
【0011】
そこで、本発明者らは、前記知見に基づいて、前記したビニルアルコール系重合体をバインダー成分として用いてコーティング剤を調製し、当該コーティング剤を基材に塗工して塗膜(コーティング層)を形成したところ、当該塗膜は、表面強度が高く、耐水性、耐久性、耐候性、光沢、インク吸収性、印刷適性などの特性に優れ、しかもひび割れがなく、高い品質を有していることを見出した。
そして、前記ビニルアルコール系重合体をバインダー成分として含むコーティング剤を基材に塗工してインクジェット記録材を製造したところ、それにより得られるインクジェット記録材は、前記コーティング剤から形成されたインク受理層の耐久性、耐水性、耐候性、光沢、インク吸収性、印刷適性に優れ、ひび割れがなく、当該インクジェット記録材を用いてインクジェット方式で印刷すると、耐久性、耐水性、耐候性、光沢に優れる、鮮明で色調の良好な、高品質の印刷物が得られることを見出し、それらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1) 下記の要件《1》〜《5》;
《1》粘度平均重合度(P)が4000〜8000である;
《2》ケン化度が99.50〜99.97モル%である;
《3》1,2−グリコール結合単位の含有量が1〜1.5モル%である;
《4》当該ビニルアルコール系重合体を水に溶解して10℃での粘度が10000mPa・sであるビニルアルコール系重合体水溶液を調製し、その水溶液を10℃で静置したときに、粘度が20000mPa・sまで増加するのに要する時間が50〜250分である;および、
《5》当該ビニルアルコール系重合体を水に溶解して調製した濃度30g/Lのビニルアルコール系重合体水溶液[粘度平均重合度(P)が6000未満のビニルアルコール系重合体の場合]または濃度10g/Lのビニルアルコール系重合体水溶液[粘度平均重合度(P)が6000以上のビニルアルコール系重合体の場合]の、光路長30mmのセルを用いて測定してなる、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(測定温度20℃)が、いずれも0.02L/g以下である;
を満足するビニルアルコール系重合体を含有することを特徴とするコーティング剤である。
【0013】
そして、本発明は、
(2) 前記した要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体が、
《6》酢酸ナトリウムの含有量が2質量%以下である;
という要件《6》を更に満足する、前記(1)のコーティング剤;および、
(3) インクジェット記録材におけるインク受理層を形成するためのコーティング剤である前記(1)または(2)のコーティング剤;
である。
さらに、本発明は、
(4) 前記(1)〜(3)のいずれかのコーティング剤を基材に塗布してなる塗工物;および、
(5) 前記(1)〜(3)のいずれかのコーティング剤を基材に塗布して形成したインクジェット記録材;
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のコーティング剤で用いている、上記した要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体は、力学的特性、耐水性、耐候性、無色透明性に優れ、しかも水溶液にしたときの粘度安定性に優れ、更に無機物との混合溶液の調製が容易で、当該混合溶液から形成した皮膜は水に対する膨潤度が小さく耐水性に優れている。
そのため、上記した要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体を含有する本発明の 本発明のコーティング剤を基材に塗工して、コーティング剤中に含まれる要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体を基材中に含浸させるか、または当該ビニルアルコール系重合体よりなる被覆層を基材の片面もしくは両面上に形成させることにより、表面強度が高く、耐久性、耐水性、耐候性、光沢、インク吸収性、印刷適性、にじみ防止性などの特性に優れ、ひび割れがなく、高品質の印刷面などを与える塗膜(コーティング層)を有する各種塗工物を円滑に製造することができる。
特に、前記ビニルアルコール系重合体をバインダー成分として含有する本発明のコーティング剤は、インクジェット記録材におけるインク受理層を形成するためのコーティングとして適しており、当該コーティング剤から形成したインク受理層を有するインクジェット記録材は、インク受理層の耐久性、耐水性、耐候性、光沢、インク吸収性、印刷適性に優れ、ひび割れがなく、当該インクジェット記録材を用いてインクジェット方式で印刷すると、耐久性、耐水性、耐候性、光沢に優れ、鮮明で色調の良好な、高品質の印刷物を円滑に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明のコーティング剤は、上記したように、下記の要件《1》〜《5》、すなわち、
《1》粘度平均重合度(P)が4000〜8000である;
《2》ケン化度が99.50〜99.97モル%である;
《3》1,2−グリコール結合単位の含有量が1〜1.5モル%である;
《4》当該ビニルアルコール系重合体を水に溶解して10℃での粘度が10000mPa・sであるビニルアルコール系重合体水溶液を調製し、その水溶液を10℃で静置したときに、粘度が20000mPa・sまで増加するのに要する時間が50〜250分である;および、
《5》当該ビニルアルコール系重合体を水に溶解して調製した濃度30g/Lのビニルアルコール系重合体水溶液[粘度平均重合度(P)が6000未満のビニルアルコール系重合体の場合]または濃度10g/Lのビニルアルコール系重合体水溶液[粘度平均重合度(P)が6000以上のビニルアルコール系重合体の場合]の、光路長30mmのセルを用いて測定してなる、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(測定温度20℃)が、いずれも0.02L/g以下である;
という5つの要件を満足するビニルアルコール系重合体を含有する。
【0016】
本発明で用いるビニルアルコール系重合体は、「粘度平均重合度(P)が4000〜8000である」という上記の要件《1》を満足することが必要である。本発明で用いるビニルアルコール系重合体は当該要件《1》を満足することにより、コーティング剤の調製の容易性、コーティング剤の安定性に優れ、しかもコーティング剤から形成される塗膜は表面強度、耐久性、光沢性、印刷適性に優れ、しかもひび割れがなく、印刷したときににじみがなくて、鮮明で色調に優れる高品質の印刷物を与えるインク受理層を形成することができる。
ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度(P)が4000未満であると、コーティング剤から形成した塗膜が水に膨潤し易くなり、耐水性が低下する。また、ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度(P)が4000未満であると、コーティング剤の粘度安定性が低下して経時的な増粘が大きくなることがある。一方、ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度(P)が8000を超えると、コーティング剤の粘度が高くなりすぎて取り扱い性に劣るようになり、しかもビニルアルコール系重合体と共に充填剤などを含むコーティング剤の調製が困難になり易い。
本発明で用いるビニルアルコール系重合体は、コーティング剤の取り扱い性、粘度安定性、コーティング剤を調製する際のビニルアルコール系重合体と充填剤などとの混合容易性、塗膜の強度、耐久性、耐候性、ひび割れ防止性、光沢、印刷適性などの点から、粘度平均重合度(P)が4200〜7500であることが好ましく、4500〜7000であることがより好ましい。
【0017】
ここで、本明細書におけるビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される粘度平均重合度である。すなわち、ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度(P)は、ビニルアルコール系重合体をケン化度99.5モル%以上に再ケン化し、精製した後、その水溶液を用いて30℃の水中で測定した極限粘度[η]から、以下の数式(I)に従って求められる。

粘度平均重合度(P)=([η]×1000/8.29)(1/0.62) (I)
【0018】
本発明で用いるビニルアルコール系重合体は、「ケン化度が99.50〜99.97モル%である」という上記の要件《2》を満足することが必要であり、当該要件《2》を満足することにより、コーティング剤の調製が容易にあり、しかも耐水性、耐ひび割れ性、印刷適性、インク吸収性などに優れる塗膜が形成される。
ビニルアルコール系重合体のケン化度が99.50モル%未満であると、ビニルアルコール系重合体を水に溶解して10℃での粘度が10000mPa・sであるビニルアルコール系重合体水溶液を調製し、その水溶液を10℃で静置したときに、粘度が20000mPa・sまで増加するのに要する時間が250分を超えるようになり、当該ビニルアルコール系重合体を含むコーティング剤から形成した塗膜の水膨潤度が大きくなって、耐水性が低下する。しかも、ビニルアルコール系重合体のケン化度が99.50モル%未満であると、当該ビニルアルコール系重合体を含むコーティング剤を用いて形成したインクジェット記録材に印字したインク液滴のドットのにじみが大きくなり、印刷品質が低下することがある。
一方、ビニルアルコール系重合体のケン化度が99.97モル%を超えると、コーティング剤の調製が困難になり、しかもコーティング剤の経時増粘が大きくなり、安定性および取り扱い性が不良になり易い。さらに、ビニルアルコール系重合体のケン化度が99.97モル%を超えると、当該ビニルアルコール系重合体を含むコーティング剤を用いて形成したインクジェット記録材の表面にひび割れが生じたり、印字した際の印刷品質が低下することがある。
本発明で用いるビニルアルコール系重合体のケン化度は、99.58〜99.96モル%であることが好ましく、99.65〜99.95モル%であることがより好ましい。
【0019】
本発明で用いるビニルアルコール系重合体は、「1,2−グリコール結合単位の含有量が1〜1.5モル%である」という上記の要件《3》を満足することが必要である。ビニルアルコール系重合体が当該要件《3》を満足することにより、粘度安定性に優れるコーティング剤を容易に調製することができ、しかも塗膜の耐水性、耐ひび割れ性、印刷適性、インク吸収性などが良好になる。
ビニルアルコール系重合体における1,2−グリコール結合単位の含有量が1モル%未満であると、コーティング剤の調製が困難になり、コーティング剤の安定性が低下し易い。一方、ビニルアルコール系重合体における1,2−グリコール結合単位の含有量が1.5モル%を超えると、塗膜の耐水性、耐ひび割れ性、印刷適性、インク吸収性などが低下したものになり易い。
本発明で用いるビニルアルコール系重合体は、1,2−グリコール結合単位をビニルアルコール系重合体を構成する全構造単位の合計モル数に基づいて、1.2〜1.5モル%の割合で有することが好ましい。
【0020】
本明細書における「1,2−グリコール結合単位の含有量」とは、ビニルアルコール系重合体における「全ビニルアルコール単位」に対する「1,2−グリコール結合単位」の割合(モル%)を意味する。
1,2−グリコール結合単位の含有量は、以下の実施例に記載するように、NMRを使用して求めることができる。
【0021】
後記する製造方法を採用することによって、1,2−グリコール結合単位の含有量が1〜1.5モル%の範囲にあるビニルアルコール系重合体を円滑に製造することができる。また、下記の製造方法にしたがってビニルアルコール系重合体を製造するに当たり、ビニルエステル系重合体の製造時にビニルエステル系単量体に少量のエチレンカーボエートを共重合させたり、重合温度を変化させることなどによっても、1,2−グリコール結合単位の含有量を更に調整することができる。
【0022】
本発明で用いるビニルアルコール系重合体は、「当該ビニルアルコール系重合体を水に溶解して10℃での粘度が10000mPa・sであるビニルアルコール系重合体水溶液を調製し、その水溶液を10℃で静置したときに、粘度が20000mPa・sまで増加するのに要する時間が50〜250分である」という上記の要件《4》を満足することが必要である。ビニルアルコール系重合体が当該要件《4》を満足することによって、長時間にわたって増粘の少ない、粘度安定性および取り扱い性に優れるコーティング剤を調製することができ、しかもコーティング剤から形成した塗膜は耐水性、耐にじみ性、印刷適性、インク吸収性などに優れる。
粘度10000mPa・sのビニルアルコール系重合体水溶液の粘度が10℃で20000mPa・sまで増加するのに要する時間が50分未満であるビニルアルコール系重合体を用いると、無機充填剤などを添加してコーティング剤を調製した際に早期にゲル化が生じて、安定なコーティング剤を調製することができない。一方、粘度10000mPa・sのビニルアルコール系重合体水溶液の粘度が10℃で20000mPa・sまで増加するのに要する時間が250分を超えるビニルアルコール系重合体を用いると、塗膜の耐水性の低下、インクジェット記録材を形成した際のインキ液滴のドットのにじみが大きくなり、印刷適性が低下する。
本発明で用いるビニルアルコール系重合体は、当該ビニルアルコール系重合体を水に溶解して10℃での粘度が10000mPa・sであるビニルアルコール系重合体水溶液を調製し、その水溶液を10℃で静置したときに、粘度が20000mPa・sまで増加するのに要する時間が60〜240分であることが好ましい。
【0023】
重合度、ケン化度および1,2−グリコール結合単位の含有量を、本発明で規定する範囲内で調整することによって、上記の要件《4》を満足する水溶液粘度挙動を示すビニルアルコール系重合体にすることができる。
また、ビニルアルコール系重合体における酢酸ナトリウムなどの含有量を調整することによっても、上記の要件《4》を満足する水溶液粘度挙動を示すビニルアルコール系重合体を得ることができる。すなわち、酢酸ナトリウムの含有量が多いとビニルアルコール系重合体水溶液の増粘速度が増加し、一方酢酸ナトリウムの含有量が少ないとビニルアルコール系重合体水溶液の増粘速度が低下する。そのため、本発明で用いるビニルアルコール系重合体では、要件《4》を満足する限りは酢酸ナトリウムの含有量は特に制限されないが、酢酸ナトリウムの含有量をビニルアルコール系重合体の質量に基づいて2質量%以下、更には1質量%以下、特に0.5質量%以下にすることによって、上記の要件《4》を満足する水溶液挙動を有するビニルアルコール系重合体をより円滑に得ることができる。
【0024】
ビニルアルコール系重合体が上記の要件《4》を満足するか否かを調べるための「10℃での粘度が10000mPa・sであるビニルアルコール系重合体水溶液」は、ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度(P)(以下単に「重合度」ということがある)に応じて、ビニルアルコール系重合体の水溶液の調製時にビニルアルコール系重合体の濃度を変化調節することによって調製することができる。例えば、ビニルアルコール系重合体の重合度が2400であれば約11質量%の濃度に、重合度が4000であれば約8質量%の濃度に、重合度が5000であれば約7質量%の濃度に、重合度が6000であれば約6質量%の濃度に、また重合度が8000であれば約4質量%の濃度にすることによって、10℃での粘度が10000mPa・sのビニルアルコール系重合体水溶液を調製することができる。但し、微調整は必要である。
【0025】
本発明で用いるビニルアルコール系重合体は、「当該ビニルアルコール系重合体を水に溶解して調製した濃度30g/Lのビニルアルコール系重合体水溶液[粘度平均重合度(P)が6000未満のビニルアルコール系重合体の場合]または濃度10g/Lのビニルアルコール系重合体水溶液[粘度平均重合度(P)が6000以上のビニルアルコール系重合体の場合]の、光路長30mmのセルを用いて測定してなる、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(測定温度20℃)が、いずれも0.02L/g以下である」という上記の要件《5》を満足することが必要である。
ここで、本明細書でいう、『ビニルアルコール系重合体を水に溶解して調製した濃度30g/Lのビニルアルコール系重合体水溶液[粘度平均重合度(P)が6000未満のビニルアルコール系重合体の場合]または濃度10g/Lのビニルアルコール系重合体水溶液[粘度平均重合度(P)が6000以上のビニルアルコール系重合体の場合]の、光路長30mmのセルを用いて測定してなる、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(測定温度20℃)』とは、前記した濃度30g/Lまたは濃度10g/Lのビニルアルコール系重合体水溶液の吸光度を、光路長30mmのセルを用いて測定して得られる、波長280nmにおける吸光度および波長320nmにおける吸光度の値を、測定に使用したビニルアルコール系重合体水溶液の濃度(単位g/L)で除した値(単位L/g)をいう。
以下、当該濃度補正後の吸光度を、「波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)」というように記載することがある。
【0026】
ビニルアルコール系重合体が当該要件《5》を満足することにより、着色がなく色調に優れ、しかも耐候性にも優れていて変色のない塗膜を形成することができる。
前記濃度のビニルアルコール系重合体水溶液の波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)が0.02L/gを超えると、塗膜に着色が生じたり、耐候性が低下する。
本発明で用いるビニルアルコール系重合体では、当該ビニルアルコール系重合体を水に溶解して調製した前記濃度のビニルアルコール系重合体水溶液の波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)(測定温度20℃)がいずれも0.018L/g以下であることが好ましい。
前記ビニルアルコール系重合体水溶液の波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)の下限値は特に制限されないが、前記吸光度が0.00L/g未満となるビニルアルコール系重合体は、製造工程中に生じる不純物除去などに手間やコストがかかるので、前記吸光度は0.008L/g以上であることが実用的である。
後述する製造方法を採用することによって、前記濃度のビニルアルコール系重合体水溶液の波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)がいずれも0.02L/g以下となるビニルアルコール系重合体を円滑に製造することができる。
【0027】
本発明で用いるビニルアルコール系重合体は、本発明の目的および効果を損なわない範囲内であれば、必要に応じて他の共重合性単量体に由来する構造単位の1種または2種以上を有していてもよい。本発明で用いるビニルアルコール系重合体が有していてもよい他の共重合性単量体に由来する構造単位の割合は、他の単量体に由来する構造単位の種類、ビニルアルコール系重合体の用途などに応じて異なりうるが、一般的には、ビニルアルコール系重合体を構成する全構造単位に対して20モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることが更に好ましい。
【0028】
本発明で用いるビニルアルコール系重合体が必要に応じて有することのできる他の共重合性単量体に由来する構造単位としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセンなどのα−オレフィン類;フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などのカルボン酸またはその誘導体;アクリル酸またはその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸またはその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピルなどのメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミドなどのアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミドなどのメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテルなどのヒドロキシ基含有ビニルエーテル類;アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテルなどのアリルエーテル類;オキシアルキレン基を有する単量体;酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オールなどのヒドロキシ基含有α−オレフィン類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミンなどのカチオン基を有する単量体;ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリエトキシシランなどのシリル基を有する単量体などに由来する構造単位を挙げることができる。本発明で用いるビニルアルコール系重合体は前記した単量体に由来する構造単位の1種または2種以上を有することができる。
【0029】
本発明で用いるビニルアルコール系重合体は、上記した5つの要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体であればいずれの製法で得られたものであってもよい。
そのうちでも、本発明で用いるビニルアルコール系重合体は、(i)ビニルエステル系単量体100質量部に対してアルコールを2.5〜10質量部の割合で含むビニルエステル系単量体混合物を重合槽内に仕込み、当該ビニルエステル系単量体混合物の大気圧下での沸点以下の温度で、重合槽内の圧力を減圧状態に保ちながら沸騰状態で、重合率8〜30質量%でビニルエステル系単量体を重合して、ケン化後に粘度平均重合度(P)が4000〜8000のビニルアルコール系重合体となる重合度を有するビニルエステル系重合体を製造し、次いで(ii)前記(i)の工程で得られるビニルエステル系重合体を含む反応生成物に重合禁止剤を添加し、反応生成物中に残存するビニルエステル系単量体をアルコールで置換して除去した後、アルカリ性物質の存在下に、ビニルエステル系重合体を、ケン化度99.50〜99.97モル%でビニルアルコール系重合体を生成する条件下でケン化する方法によって円滑に製造される。
【0030】
ビニルエステル系単量体の重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などが知られているが、上記(i)の重合工程[以下「重合工程(i)」ということがある]において、ビニルエステル系単量体100質量部に対して2.5〜10質量部という少量のアルコールを含むビニルエステル系単量体混合物を用いる溶液重合法(溶液重合法に準じた方法)によってまずビニルエステル系重合体を製造する。ビニルエステル系重合体を製造するための重合工程(i)およびその後の上記(ii)の工程は、回分式(バッチ式)で行ってもよいし、連続式で行ってもよいが、生産効率などの観点から連続式が好ましく採用される。
【0031】
連続式によって重合工程(i)(ビニルエステル系重合体の製造)および上記(ii)の工程(残留単量体の重合禁止処理とそれに続くビニルエステル系重合体のケン化処理)を行なう場合は、ビニルエステル系単量体とアルコールを両者の質量比が上記した範囲内になるように重合槽に連続的に供給し、上記した重合率および重合度になるように重合槽内に所定の時間滞留させながら重合を行なって所定の重合度のビニルエステル系重合体を形成させると共に、ビニルエステル系重合体を含む反応生成物を重合槽から連続的に取り出した後に、当該反応生成物に重合禁止剤を添加し、反応生成物中に残存するビニルエステル系単量体をアルコールで置換して除去した後、アルカリ性物質の存在下にビニルエステル系重合体を所定のケン化度にケン化する。
その際に、重合槽へのビニルエステル系単量体を主体とする単量体およびアルコールの供給量と反応生成物の重合槽からの取り出し量(単位時間当たりの供給量と取り出し量)、重合槽内での滞留時間などは、ビニルエステル系単量体とアルコールの質量比、重合温度、重合率、重合槽の規模、重合速度などに応じて調整する。重合率を8〜30質量%の範囲内にするためには、重合槽内での滞留時間は、一般的に1〜12時間、特に2〜6時間であることが好ましい。
【0032】
また、回分式(バッチ式)で重合工程(i)(ビニルエステル系重合体の製造)および上記(ii)の工程(重合の停止とビニルエステル系重合体のケン化)を行なう場合は、ビニルエステル系単量体の重合と重合により生成したビニルエステル系重合体のケン化の両方を同じ重合槽内で行なってもよいし、または重合槽内でビニルエステル系単量体を重合した後にビニルエステル系重合体を含む反応生成物を重合槽から取り出して、重合槽外でビニルエステル系重合体のケン化を行なってもよい。その際の、重合槽へのビニルエステル系単量体を主体とする単量体およびアルコールの供給量、重合槽内での重合時間などは、ビニルエステル系単量体とアルコールの質量比、重合温度、重合率、重合槽の規模、重合速度などに応じて調整する。重合率を8〜30質量%の範囲内にするためには、重合槽内での重合時間は、一般的に1〜12時間、特に2〜6時間であることが好ましい。
【0033】
重合工程(i)で用いるビニルエステル系単量体としては、ビニルエステル系重合体の製造に用い得ることが従来から知られているビニルエステル系単量体のいずれもが使用でき、具体例としては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニルなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、ビニルエステル系単量体としては、酢酸ビニルが、汎用性、取り扱い性などの点から好ましく用いられる。
【0034】
重合工程(i)で用いるビニルエステル系単量体混合物は、本発明の目的および効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて、他の共重合性単量体を含有していてもよく、他の共重合性単量体を含有する場合は、ビニルエステル系単量体混合物中に含まれる全単量体の合計モル数に対して20モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることが更に好ましい。
ビニルエステル系単量体混合物が含有し得る他の共重合性単量体の種類としては、本発明で用いるビニルアルコール系重合体が必要に応じて有していてもよい他の共重合単量体に由来する構造単位を構成する単量体として、上記の段落0027に例示したものを挙げることができ、それらの1種または2種以上を用いることができる。
【0035】
重合工程(i)で用いるアルコールとしては、メタノール(メチルアルコール)、エタノール(エチルアルコール)、プロパノール(プロピルアルコール)などの低級アルコールが、取り扱い性の点から好ましく用いられ、そのうちでもメタノールが汎用性の点からより好ましく用いられる。
【0036】
重合工程(i)で用いる重合開始剤としては、ビニルエステル系単量体の重合に用い得ることが従来から知られている重合開始剤のいずれもが使用でき、具体例としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、その他のアゾ系開始剤、過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシジカーボネート、その他の過酸化物系開始剤などを挙げることができる。そのうちでも、重合開始剤としては、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)が低温活性が高い点から好ましく用いられる。
重合開始剤の使用量は、一般に、ビニルエステル系単量体をも含めた全重合性単量体の合計質量に対して、0.0001〜0.02質量%(1〜200質量ppm)、特に0.0005〜0.01質量%(5〜100質量ppm)程度とすることが、上記の要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体が円滑に得られる点から好ましい。
【0037】
また、重合工程(i)を、ビニルエステル系単量体混合物中に2−メルカプトエタノール、n−ドデシルメルカプタン、メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物を存在させて行い、それにより得られるビニルエステル系重合体を上記(ii)の工程でケン化すると、上記の要件《1》〜《5》を満足する、チオール化合物に由来する官能基が末端に導入されたビニルアルコール系重合体を得ることができ、本発明ではビニルアルコール系重合体として当該ビニルアルコール系重合体を使用してもよい。
【0038】
重合工程(i)で用いるビニルエステル系単量体混合物(重合槽内中のビニルエステル系単量体混合物)は、上記の要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体を高い生産効率で円滑に得るために、ビニルエステル系単量体100質量部に対してアルコールを2.5〜10質量部、特に2.5〜8質量部の割合で含有していることが好ましい。
【0039】
重合工程(i)は、上記の要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体を円滑に得るために、ビニルエステル系単量体混合物(ビニルエステル系単量体とアルコールの混合液)の大気圧下における沸点以下の温度で、重合槽内の圧力を減圧状態に保ちながら沸騰状態で、ビニルエステル系単量体を重合することが好ましい。
ビニルエステル系単量体の重合時の温度が、ビニルエステル系単量体混合物の大気圧下での沸点よりも高い温度であると、ビニルアルコール系重合体における1,2−グリコール結合単位の含有量が1.5モル%を超えてしまい、要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体を得ることが困難になり易い。
また、ビニルエステル系単量体の重合時の温度が、ビニルエステル系単量体混合物の大気圧下での沸点以下の温度であっても、減圧状態にせず(沸騰させず)に重合を行った場合には、ビニルアルコール系重合体水溶液の波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)(測定温度20℃)がいずれも0.02L/gを超えることがあり、要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体を得ることが困難になり易い。
【0040】
重合工程(i)における重合槽内の温度(重合温度)は、5〜60℃であることが好ましく、20〜50℃であることがより好ましく、30〜50℃であることがさらに好ましい。
また、前記した温度における重合槽内のビニルエステル系単量体混合物を沸騰状態にするために、重合槽内の圧力(絶対圧)は1〜100KPa、特に20〜90KPaであることが好ましい。
酢酸ビニルの大気圧下での沸点は73℃、メタノールの大気圧下での沸点は64℃であることから、ビニルエステル系単量体として酢酸ビニルを用い、アルコールとしてメタノールを用いて重合工程(i)でビニルエステル系重合体を製造する場合には、重合工程(i)での重合槽内の温度(重合温度)を5〜60℃、特に20〜50℃とし、且つ重合槽内の圧力(絶対圧)を1〜100KPa、特に30〜90KPaにしてビニルエステル系重合体を製造することが好ましい。
【0041】
さらに、重合工程(i)では、上記の要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体を生産効率よく円滑に得るために、ビニルエステル系単量体の重合率を8〜30質量%の範囲に維持しながら重合槽内でビニルエステル系単量体を重合させるとよい。
重合工程(i)では、ビニルエステル系単量体の重合率が10〜20質量%の範囲になるようにして重合を行うことが好ましい。
【0042】
また、重合工程(i)において、ビニルエステル系単量体の分解によるアルデヒド生成を抑制するために、ビニルエステル系単量体混合物中に乳酸、酒石酸などの有機酸類を添加すると、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)がより低くて、着色のより少ないビニルアルコール系重合体水溶液を与えるビニルアルコール系重合体を得ることができる。
ビニルエステル系単量体混合物中に乳酸、酒石酸などの有機酸類を添加する場合は、当該有機酸類の添加量は、ビニルエステル系単量体の質量に基づいて、0.0001〜0.02質量%(1〜200質量ppm)であることが好ましく、0.0001〜0.01質量%(1〜100質量ppm)であることがより好ましい。
【0043】
重合工程(i)でビニルエステル系重合体を製造した後、次いで上記(ii)の工程[以下「工程(ii)」ということがある]において、重合工程(i)で得られたビニルエステル系重合体を含む反応生成物に重合禁止剤を添加して以降の重合を禁止または抑制し、その状態で反応生成物中に残存するビニルエステル系単量体をアルコールで置換して除去した後、アルカリ性物質の存在下にビニルエステル系重合体をケン化してビニルアルコール系重合体を製造する。
【0044】
重合禁止剤の種類および添加量によって、ケン化後に得られるビニルアルコール系重合体の水溶液吸光度が影響を受ける。重合禁止剤の添加量は、一般に重合工程(i)で得られる反応生成物中に含まれる未分解の重合開始剤1モルに対して、1〜10モルであることが好ましく、1〜5モルであることがより好ましく、1〜3モルであることが更に好ましい。
【0045】
重合禁止剤の種類としては、ラジカルを安定化させて重合反応を阻害する、分子量が1000以下の共役二重結合を有する化合物や、芳香族化合物などが好ましく用いられる。
重合禁止剤として用い得る共役二重結合を有する化合物の具体例としては、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジエチル−1,3−ブタジエン、2−t−ブチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ペンタジエン、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、3,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、3−エチル−1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエン、1,3−オクタジエン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1−メトキシ−1,3−ブタジエン、2−メトキシ−1,3−ブタジエン、1−エトキシ−1,3−ブタジエン、2−エトキシ−1,3−ブタジエン、2−ニトロ−1,3−ブタジエン、クロロプレン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、1−ブロモ−1,3−ブタジエン、2−ブロモ−1,3−ブタジエン、フルベン、トロポン、オシメン、フェランドレン、ミルセン、ファルネセン、センブレン、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩、アビエチン酸などの炭素−炭素二重結合2個の共役構造よりなる共役ジエン;1,3,5−ヘキサトリエン、2,4,6−オクタトリエン−1−カルボン酸、エレオステアリン酸、桐油、コレカルシフェロールなどの炭素−炭素二重結合3個の共役構造からなる共役トリエン;シクロオクタテトラエン、2,4,6,8−デカテトラエン−1−カルボン酸、レチノール、レチノイン酸などの炭素−炭素二重結合4個以上の共役構造からなる共役ポリエンなどが挙げられる。なお、1,3−ペンタジエン、ミルセン、ファルネセンのように、複数の立体異性体を有するものについては、そのいずれを用いてもよい。
【0046】
また、重合禁止剤として用い得る芳香族化合物の具体例としては、p−ベンゾキノン、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2−フェニル−1−プロペン、2−フェニル−1−ブテン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、3,5−ジフェニル−5−メチル−2−ヘプテン、2,4,6−トリフェニル−4,6−ジメチル−1−ヘプテン、3,5,7−トリフェニル−5−エチル−7−メチル−2−ノネン、1,3−ジフェニル−1−ブテン、2,4−ジフェニル−4−メチル−2−ペンテン、3,5−ジフェニル−5−メチル−3−ヘプテン、1,3,5−トリフェニル−1−ヘキセン、2,4,6−トリフェニル−4,6−ジメチル−2−ヘプテン、3,5,7−トリフェニル−5−エチル−7−メチル−3−ノネン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエンなどの芳香族系化合物が挙げられる。
重合工程(i)で用いる重合開始剤の種類などに応じて、上記した重合禁止剤の1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、重合禁止剤としては、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩が、皮膜の耐候性の点から好ましく用いられる。
【0047】
反応生成物に重合禁止剤を添加した後、反応生成物中に含まれる未反応のビニルエステル系単量体およびその他の共重合性単量体(以下これらを総称して「未反応のビニルエステル系単量体類」ということがある)をアルコールで置換して反応生成物外に排出させて除き、ビニルエステル系重合体のアルコール溶液にする。ビニルエステル系重合体のアルコール溶液中に未反応のビニルエステル系単量体類が混入すると、次のケン化処理時に当該単量体が分解し、アルデヒドなどが生成し、得られるビニルアルコール系重合体の水溶液吸光度の増大を招く原因となる。そのため、反応生成物からの未反応のビニルエステル系単量体類の除去率は99%以上であることが好ましく、99.5%以上であることがより好ましく、99.8%以上であることが更に好ましい。
重合禁止剤を添加した反応生成物に含まれる未反応のビニルエステル系単量体類をアルコールで置換して除く方法としては、(1)反応生成物をアルコール蒸気と接触させる方法、(2)反応生成物にアルコールを添加して減圧操作で未反応のビニルエステル系単量体類と添加したアルコールを共沸させる方法、(3)反応生成物に含まれる未反応のビニルエステル系単量体類を直接蒸発留去する方法、などを挙げることができる。その中でも(1)の方法が経済性および操作性の点から好ましく採用される。
【0048】
前記したアルコールによる置換処理によって得られるビニルエステル系重合体のアルコール溶液にアルカリ性物質を加えて、アルカリ性物質の存在下にビニルエステル系重合体をケン化して、ケン化度が99.50〜99.97モル%のビニルアルコール系重合体を製造する。
ビニルエステル系重合体のケン化用触媒であるアルカリ性物質としては、ビニルエステル系重合体のケン化用触媒として従来から知られているアルカリ性物質のいずれもが使用でき、そのうちでも、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物およびナトリウムメトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドの1種または2種以上が好ましく用いられ、特に水酸化ナトリウムが、汎用性、取り扱い性の点からより好ましく用いられる。
ケン化用触媒であるアルカリ性物質の使用量は、ビニルエステル系重合体中のビニルエステル系単量体単位1モルに対して0.005〜0.2モルの範囲内であることが好ましく、0.007〜0.1モルの範囲内であることがより好ましい。ケン化用触媒であるアルカリ性物質は、ケン化反応の初期に一括して添加してもよいし、またはケン化反応の初期に一部を添加し、残りをケン化反応の途中で追加して添加してもよい。
【0049】
ケン化反応はアルコール溶媒、特にメタノール中で行なうことが好ましいが、必要に応じて、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどのアルコール以外の有機溶媒中で行なってもよいし、またはアルコールと前記したアルコール以外の有機溶媒の混合溶媒中で行なってもよい。ビニルエステル系重合体のケン化に当たっては、ケン化反応を円滑に行なうために、有機溶媒(特にアルコール、そのうちでもメタノール)の含水率が0.001〜1質量%であることが好ましく、0.003〜0.9質量%であることがより好ましく、0.005〜0.8質量%であることが更に好ましい。
【0050】
ケン化処理の温度は、5〜80℃、特に20〜70℃が好ましく、ケン化処理の時間は5分間〜10時間、特に10分間〜5時間が好ましい。
ケン化度が99.50〜99.97モル%のビニルアルコール系重合体を得るために、ケン化処理に用いるビニルエステル系重合体の重合度、ケン化処理溶液中でのビニルエステル系重合体の濃度、含水率などに応じて、上記したアルカリ性物質の濃度、温度、処理時間の範囲から、ケン化度が99.50〜99.97モル%のビニルアルコール系重合体を得るのに適した条件を採用する。
上記した条件のうちでも、アルカリ性物質(特に水酸化ナトリウム)の濃度をビニルエステル系単量体1モルに対して0.007〜0.100モル、特に0.010〜0.050モルにし、温度を20〜70℃、特に30〜60℃にし、ケン化処理時間を10分〜5時間、特に20分〜4時間にしてケン化処理を行なうと、ケン化度が99.50〜99.97モル%のビニルアルコール系重合体を円滑に製造することができる。
ケン化処理の終了後に、必要に応じて、残存するケン化触媒(アルカリ性物質)を中和してもよく、使用可能な中和剤として、例えば、酢酸、乳酸などの有機酸、酢酸メチルなどのエステル化合物などを挙げることができる。
【0051】
上記した一連の工程によって、上記の要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体が得られる。
要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体を含有する本発明のコーティング剤は、インクジェット記録材製造用のコーティング剤、ガラス繊維用のコーティング剤、金属の表面コート剤、防曇用のコーティング剤などの各種コーティング剤として有効に使用することができる。そのうちでも、本発明のコーティング剤は、上記した優れた耐水性、耐久性、耐候性、光沢、インク吸収性、印刷適性、にじみ防止性、ひび割れ防止性などの特性によって、インクジェット記録材製造用のコーティング剤、すなわちインクジェット記録材におけるインク受理層を形成させるためのコーティング剤として適している。
【0052】
本発明のコーティング剤は、コーティング剤の用途や使用形態に応じて、要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体のみを溶媒中に溶解させた溶液からなっていてもよいし(例えばクリアコート用)、または要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体を溶媒中に溶解した溶液中に、他の成分、例えば、要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体以外の水溶性重合体、水不溶性重合体、無機充填材、有機充填材、無機顔料、有機顔料、有機染料、分散安定剤などの1種または2種以上を含有した溶液または分散液からなっていてもよい。
【0053】
本発明のコーティング剤の調製に当たって、要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体を溶解するのに用いる溶媒としては、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ヘキサフルオロイソプロパノールなどの水溶性有機溶媒、前記した溶媒の2種または3種以上を混合した混合溶媒などを挙げることができる。そのうちでも、溶媒としては、水単独、または水と水溶性有機溶媒を混合してなる水性溶媒、特に水が、コーティング剤の調製容易性、取扱性、コーティング剤から得られる塗膜の品質、環境に対する安全性、コストなどの点から好ましく用いられる。
コーティング剤における要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体の含有量は、コーティング剤の用途、コーティング剤中に含まれる他の成分の種類や含有量などに応じて異なり得るが、一般的には、コーティング剤の全質量に基づいて1〜80質量%であることが好ましく、2〜50質量%であることがより好ましい。
ビニルアルコール系重合体を水やその他の溶媒に溶解した溶液中には、必要に応じて、酸、塩基、塩類などを溶解含有させておいてもよい。
【0054】
本発明のコーティング剤が、要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体と共に、他の水溶性重合体および/または水不溶性重合体を含有する場合は、含有し得る他の水溶性重合体として、例えば、アルブミン、ゼラチン、カゼイン、でんぷん、カチオン化でん粉、アラビヤゴム、ポリアミド樹脂、メラミン樹脂、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性ポリエステル、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)などのセルロース誘導体、アニオン変性ポリビニルアルコールやその他の要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体以外のビニルアルコール系重合体などを挙げることができる。また、含有し得る水不溶性重合体(水不溶性重合体分散液など)としては、SBRラテックス、NBRラテックス、酢酸ビニル系エマルジョン、エチレン/酢酸ビニル共重合体エマルジョン、(メタ)アクリルエステル系エマルジョン、塩化ビニル系エマルジョンなどを挙げることができる。
本発明のコーティング剤は、前記した重合体の1種または2種以上を含有することができる。
【0055】
本発明のコーティング剤中に、要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体と共に、前記した他の水溶性重合体および/または水不溶性重合体を含有させる場合は、当該他の重合体の含有量(2種以上の他の重合体を含有する場合はその合計含有量)は、要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体100質量部に対して、200質量部以下であることが好ましく、100質量部以下であることがより好ましく、50質量部以下あることが更に好ましい。他の重合体の含有量が多すぎると、要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体の上記した優れた特性が発揮されにくくなることがある。
【0056】
本発明のコーティング剤が充填材を含有する場合は、含有し得る充填材としては、例えば、沈降シリカ、ゲル状シリカ、気相法シリカ、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、酸化アルミニウム、擬ベーマイト、クレー、タルク、ケイソウ土、ゼオライト、炭酸カルシウム、アルミナ、酸化亜鉛、サチンホワイト、有機顔料などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を含有することができる。
特に、本発明のコーティング剤をインクジェット記録材のインク受理層形成用のコーティング剤として用いる場合は、上記した充填材の1種または2種以上、そのうちでもコロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、酸化アルミニウムの1種または2種以上を含有することが、インク受理層の表面強度、耐ひび割れ性、インク吸収性、光沢度などの点から好ましい。
本発明のコーティング剤中に充填材を含有させる場合は、要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体:充填材の質量比が、5:100〜100:100の範囲内であることが好ましく、7:100〜80:100の範囲内であることがより好ましく、10:100〜60:100の範囲内であることが更に好ましい。
【0057】
また、本発明のコーティング剤がインクジェット記録材のインク受理層形成用のコーティング剤である場合は、必要に応じてインク定着剤を含有することができる。インク定着剤としては、例えば、水に溶解したときに離解してカチオン性を呈する1級〜3級アミノ基または4級アンモニウム塩基を有するモノマー、オリゴマー、ポリマーであり、そのうちでもオリゴマーおよび/またはポリマーが好ましく、具体例としては、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン重縮合物、アクリルアミド・ジアリルアミン共重合物、ポリビニルアミン共重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合体、ポリエチレンイミンなどを挙げることができる。
【0058】
本発明のコーティング剤を塗工するための基材の種類は制限されず、従来から知られている透明または不透明な支持基材であればいずれであってもよい。限定されるものではないが、本発明のコーティング剤を塗工し得る透明な支持基材としては、例えば、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、酢酸セルロース、ポリカーボネート、ポリイミド、セロハン、セルロイドなどの透明なフィルム、シート、透明なプラスチック成形体、透明性の高い紙などが挙げられる。また、本発明のコーティング剤を塗工し得る不透明な支持基体としては、例えば、一般の紙、顔料コート紙、布帛、木材、金属板、合成紙、不透明化処理した合成樹脂系フィルムやシート、不透明なその他の重合体成形体などを挙げることができる。前記で例示した透明な支持基材および不透明な支持基材は、いずれも、インクジェット記録材用の支持基材およびその他の塗工物用の支持基材として用いることができる。
【0059】
本発明のコーティング剤を基材に塗工する際の塗工方法は特に制限されず、従来から知られているコーティング剤の塗工方法のいずれもが採用でき、例えば、サイズプレス、エアーナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、ブレードコーター、カーテンコーター、キャストコーターなどを用いて基材に塗工する方法を挙げることができる。
本発明のコーティング剤を基材に塗工して、コーティング剤中に含まれる要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体を基材中に含浸させるか、または当該ビニルアルコール系重合体よりなる被覆層を基材の片面もしくは両面上に形成させることにより、表面強度が高く、耐久性、耐水性、耐候性、光沢、インク吸収性、印刷適性、にじみ防止性などの特性に優れ、ひび割れのない、高品質の印刷面を与える塗膜(コーティング層、特にインク受理層)を有する、インクジェット記録材やその他の塗工物を円滑に得ることができる。
【実施例】
【0060】
以下に実施例などにより本発明について具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例などにより何ら限定されるものではない。
以下の例において、重合率、反応生成物からの未反応の酢酸ビニル単量体の除去率(追出し率)、ビニルアルコール系重合体(ポリビニルアルコール)の重合度(粘度平均重合度)、ケン化度、1,2−グリコール結合単位の含有量および酢酸ナトリウムの含有量、ビニルアルコール系重合体水溶液(ポリビニルアルコール水溶液)の粘度安定性、ビニルアルコール系重合体水溶液(ポリビニルアルコール水溶液)の波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)、およびビニルアルコール系重合体皮膜(ポリビニルアルコール皮膜)の耐候性は、以下のようにして算出または評価した(以後「ポリビニルアルコール」を「PVA」ということがある)。
更に、PVAを含有するコーティング剤を用いて形成したインクジェット記録紙におけるインク受理層(塗膜層、コーティング層)の表面硬度、ひび割れ、インク吸収性、インクのにじみ度合、印刷品質および光沢については、以下の方法で測定または評価した。
【0061】
(1)重合率の算出方法および算出のための操作方法:
重合槽から取り出したポリ酢酸ビニルを含む反応生成物の1〜2gを採取して、その質量(A)(g)を正確に測定する。測定後に重合禁止剤であるヒドロキノンの0.25質量%メタノール溶液1mlを加えて、160〜170℃の乾燥機内で30分間乾燥して未反応の酢酸ビニルおよびメタノールを除去し、乾燥後の残留物(ポリ酢酸ビニル)の質量(B)(g)を測定して、下記の数式(II)から重合率を求める。

重合率(質量%)={B/A(100−C)}×100 (II)

[式中、Cは反応生成物に含まれているメタノール量(質量%)を示す。]
【0062】
(2)未反応の酢酸ビニル除去率(追出し率)の算出方法及び算出のための操作方法:
(i)重合槽より取り出した反応生成物にソルビン酸を添加して重合反応を停止させた後、メタノール蒸気と向流的に接触させて未反応の酢酸ビニルを除去する処理(追い出し処理)を行って得られる、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を4〜6g採取して、その質量(D)(g)を測定する。測定後にメタノールを添加して溶解し、臭素の1.7質量%酢酸溶液を5ml加え、さらにヨウ化カリウムの5質量%水溶液を10ml加える。指示薬として澱粉の0.5質量%水溶液を2〜4ml加え、0.1Nチオ硫酸ナトリウム水溶液で無色になるまで滴定して滴定量を(E1)とする。別に、メタノールのみを用いて同様の操作を行い、その時の0.1Nチオ硫酸ナトリウム水溶液で無色になるまでの滴定量を(E0)(ml)とする。次式(III) に従って、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液中に残存する酢酸ビニル[F](質量%)を求める。

酢酸ビニルの含有量(F)(質量%)=0.0043×(E0−E1)×100/D (III)

(ii)(i)と同様に追い出し処理後のポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を用いて、ポリ酢酸ビニルの含有量を求めるために、該メタノール溶液を1〜2g採取して、その質量(G)(g)を測定する。160〜170℃の乾燥機内で30分間乾燥する。乾燥後の質量(H)(g)を測定して、次式(IV)に従ってポリ酢酸ビニル[P](質量%)を求める。

ポリ酢酸ビニル[P](質量%)=(H/G)×100 (IV)

(iii)上述の(i)及び(ii)より得られた、酢酸ビニルの含有量(F)及びポリ酢酸ビニル(P)を用い、次式(V)に従って、追い出し率を求める。

追い出し率(%)={P/(P+F)}×100 (V)
【0063】
(3)PVAの重合度(粘度平均重合度):
JIS−K6726に準じて、上記した数式(I)により、以下の製造例および比較製造例で得られたPVAの重合度[粘度平均重合度(P)]を求めた。
【0064】
(4)PVAのケン化度:
JIS−K6726に記載されている方法に従って、以下の製造例および比較製造例で得られたPVAのケン化度(モル%)を求めた。
【0065】
(5)PVAの1,2−グリコール結合単位の含有量:
(i) 以下の製造例または比較製造例で得られたPVAに、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を、PVA中のビニルアルコール単位1モルに対して水酸化ナトリウム量が0.1モルとなる量で加え、60℃で5時間再ケン化し、得られたPVAをメタノールにて1週間ソックスレー抽出することで、ケン化度が99.9モル%以上の精製PVAを得る。
(ii) 上記(i)で得られるケン化度が99.9モル%以上の精製PVAを90℃で2日間減圧乾燥してメタノールを完全に除去した後、ジメチルスルホキシド−d6(DMSO−d6)に溶解して0.1質量%溶液にし、当該溶液にトリフルオロ酢酸を数滴(約0.1ml)加えて、80℃で核磁気共鳴装置(日本電子社製「AL−400」)を使用して、そのプロトンNMRを測定した。
PVA(PVA)に含まれる1,2−グリコール結合単位の含有量は、ビニルアルコール単位のメチンに由来する3.2〜4.0ppmのピーク(積分値α)と、1,2−グリコール結合単位の1つのメチンに由来する3.25ppmのピーク(積分値β)とから、次の数式(V)に従って算出される。

PVAの1,2−グリコール結合単位の含有量(モル%)=100×β/α (VI)
【0066】
(6)PVAの酢酸ナトリウムの含有量:
JIS−K6726に記載の溶解電導法に従って、PVAの酢酸ナトリウムの含有量を求めた。
【0067】
(7)PVA水溶液の粘度安定性:
以下の製造例および比較製造例で得られたPVAのそれぞれを用いて、濃度を調整して10℃での水溶液の粘度がB型粘度計(東京計器社製「B型粘度計」)にて10000mPa・sであるPVA水溶液をそれぞれ調製し、当該PVA水溶液を10℃の恒温槽中に放置して、所定時間ごとに当該PVA水溶液の粘度をB型粘度計にて測定して、横軸に時間を、縦軸に粘度をプロットし、それによって得られたグラフからPVA水溶液の粘度が10℃で20000mPa・sに到達した時間を求めて、粘度安定性の評価を行なった。なお、PVA水溶液の粘度の測定は最大で360分まで行なった。
具体的には、上記で調製した1つの製造例または比較製造例のPVA水溶液を13個のトールビーカー(容量300ml)に等分に分注し、13個のトールビーカーの全てを10℃の恒温水槽中に同時に入れて放置しながら、1番目のビーカー内のPVA水溶液の粘度を測定開始時に測定し、2番目のビーカー内のPVA水溶液の粘度を測定開始から30分後に測定し、3番目のビーカー内のPVA水溶液の粘度を測定開始から60分後に測定し、4番目のビーカー内のPVA水溶液の粘度を測定開始から90分後に測定し、以後5〜13番目のビーカー内のPVA水溶液について30分毎に測定して、横軸に時間を、縦軸に粘度をプロットし、それによって得られたグラフから粘度が20000mPa・sに到達した時間を求めた。
なお、ビーカー内のPVA水溶液の粘度が測定開始から360分を経過する前に20000mPa・sに到達した場合には、その時点で粘度の測定を終了した。
【0068】
(8)PVA水溶液の波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm):
(i) 以下の製造例および比較製造例で得られたPVAのそれぞれを用いて、PVA水溶液を調製し、JIS−K0115に記載の分光光度計(島津製作所製「UV−1700」)を使用し、光路長30mmの石英製セル(島津製作所製「S10−UV30」)を用いて、温度20℃で波長190〜400nmの紫外線領域での吸光度を測定し、波長280nmにおける吸光度(Aa280)および波長320nmにおける吸光度(Aa320)を求めた。
前記した吸光度(Aa280)および吸光度(Aa320)の測定に使用したPVA水溶液の濃度は、重合度が6000未満のPVAでは30g/Lとし、重合度が6000以上のPVAでは10g/Lとした。その際にPVA水溶液の濃度の測定は、JIS−K6726に記載の方法により行なった。
(ii) 前記(i)と同じ分光光度計および石英製セルを使用して、温度20℃で、PVA水溶液の調製に使用した水の波長190〜400nmの紫外線領域での吸光度を測定し、波長280nmにおける水の吸光度(Ab280)および波長320nmにおける水の吸光度(Ab320)を求めた。
(iii) 下記の数式(VII−1)および(VII−2)から、PVA水溶液の波長280nmおよび320nmにおける水質補正した吸光度(A280)および吸光度(A320)を求めた。

水質補正した吸光度(A280)=吸光度(Aa280)−吸光度(Ab280) (VII−1)
水質補正した吸光度(A320)=吸光度(Aa320)−吸光度(Ab320) (VII−2)

(iv) 上記の数式(VII−1)で得られた水質補正した吸光度(A280)を、測定に使用したPVA水溶液の濃度(C)(g/L)で除し、それにより得られた値[吸光度(A280)/C](L/g)を、本発明における「PVA水溶液の波長280nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)」とした。
また、上記の数式(VII−2)で得られた水質補正した吸光度(A320)を、測定に使用したPVA水溶液の濃度(C)(g/L)で除し、それにより得られた値[吸光度(A320)/C](L/g)を、本発明における「PVA水溶液の波長320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)」とした。
【0069】
(9)PVA皮膜の耐候性:
(i) 蒸留水を用いてPVAの2質量%水溶液を調製し、この水溶液を20℃で膜状に流延した後、20℃で1週間乾燥して厚さ150μmのPVA皮膜を製造した。これにより得られたPVA皮膜を120℃で10分間熱処理した後、縦×横=10cm×10cmの大きさに切り出して試験片を作製した。
(ii) 上記(i)で作製した試験片を用いて、サンシャインウェザーメーター(スガ試験機製「S80」)を使用して、ブラックパネル温度63℃、湿度50%の条件で2000時間放置し、放置前後のb値の変化量(Δb)を求めて、耐候性の評価を行なった。
なお、b値はSMカラーコンピューター(スガ試験機製)で測定した。b値の変化量(Δb)の値が大きいほど黄変し易く、耐候性に劣ることを示す。
【0070】
(10)インク受理層の表面強度:
以下の実施例および比較例で製造したインクジェット記録紙のインク受理層(塗膜層)の表面に粘着テープ[ニチバン製:セロテープ(登録商標)]を貼り、0.5kg/cm2の圧力を加えて圧着した後、25℃、60%RHで24時間放置した。その後、粘着テープを180度の角度で剥離して、粘着テープの粘着層表面に付着したインク受理層からの脱離物の多さを目視により観察して、以下の評価基準にしたがって評価した。
[インク受理層の表面強度の評価基準]
A:インク受理層からの脱離物が粘着テープ表面に全く観察されない。
B:インク受理層からの脱離物が粘着テープ表面にごく僅かに観察された。
C:インク受理層からの脱離物が粘着テープ表面に部分的に観察された。
D:インク受理層からの脱離物が粘着テープ表面全体に観察された。
【0071】
(11)インク受理層のひび割れ:
以下の実施例および比較例で製造したインクジェット記録紙のインク受理層(塗膜層)の表面を光学顕微鏡(100倍に拡大)で観察して、下記の評価基準にしたがって評価した。
[インク受理層のひび割れの評価基準]
A:表面にひび割れが全く観察されない。
B:表面に部分的にひび割れが発生。
C:表面全体にひび割れが発生
【0072】
(12)インク受理層のインク吸収性:
以下の実施例および比較例で製造したインクジェット記録紙のインク受理層(塗膜層)面に、インクジェットプリンター[セイコーエプソン(株)製「PM2000C」]を使用して、黒インクで印字し、印刷直後、3秒後、5秒後、8秒後、10秒後、以後は5秒間隔で印字面を指でこすって、かすれ具合を観察し、インクがインク受理層に完全に吸収してかすれが生じなくなるまでの時間を測定し、下記の評価基準に従って評価した。
[インク受理層のインク吸収性の評価基準]
A:5秒未満でかすれが生じなくなり、インク吸収性が良好。
B:5秒以上〜10秒未満でかすれが生じなくなり、インク吸収性がやや不良。
C:10秒以上〜30秒未満でかすれが生じなくなり、インク吸収性が不良。
D:かすれが生じなくなるまで30秒以上を要し、インク吸収性が極めて不良。
【0073】
(13)インク受理層のインクのにじみ度合:
以下の実施例および比較例で製造したインクジェット記録紙のインク受理層(塗膜層)面に、インクジェットプリンター[セイコーエプソン(株)製「PM2000C」]を使用して、黒インクで1ドットのみを単独で印字し、黒インクの印字ドットの直径を実体顕微鏡(KEYENCE社製「VH−7000」、倍率100倍)で測定して、インク滴(直径30μm)の何倍になったかを測定して、インクのにじみ度合の指標とした。なお、インク滴の直径は、スケール付きスライドガラスを用いて実測した。
【0074】
(14)印刷品質:
以下の実施例および比較例で製造したインクジェット記録紙のインク受理層(塗膜層)面に、インクジェットプリンター[セイコーエプソン(株)製「PM−970C」]を使用して、黒インクで画像を印刷し、印刷面を目視により観察して、下記の評価基準に従って印刷品質を評価した。
[印刷品質の評価規準]
A:印刷した領域全体で記録濃度が一様であり、良好な画像が得られた。
B:記録濃度の斑がごく僅かに観察されたが、画像に大きな影響はなかった。
C:記録濃度の斑が部分的に発生し、画像の品質が損なわれていた。
D:記録濃度の斑が全体的に発生し、著しく画像の品質が損なわれていた。
【0075】
(15)印刷面の光沢度:
以下の実施例および比較例で製造したインクジェット記録紙のインク受理層(塗膜層)面に、インクジェットプリンター[セイコーエプソン(株)製「PM2000C」]を使用して、ブラック、イエロー、マジェンタおよびシアンのインクを使用してカラー印刷し、印刷面について、JIS−Z−8714の方法(入射角60度の鏡面光沢度)に従い、グロスメーター(日本電色工業社製)で光沢度を測定した。測定は5回行ない、その平均を採った。
【0076】
《製造例1》[「PVA−1a」の製造]
(1) 撹拌機、温度計、温水ジャケットおよび水冷コンデンサーを備え付けた内容積6600リットル、高さ3m、塔径(内径)1.8mの重合槽に、予め脱酸素した酢酸ビニルを679.5kg/毎時、メタノールを22.9kg/毎時、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)の0.5質量%メタノール溶液を7.0kg/毎時、および酢酸ビニルに対する酒石酸の添加量が20ppmとなるように酒石酸の0.3質量%メタノール溶液を連続的に仕込み(4.5kg/毎時)、重合槽内での滞留時間が4.5時間となるように重合槽内に維持しながら酢酸ビニルを重合させると共に、重合槽内の内容物(反応生成物)をギヤーポンプで連続的に重合槽から取り出した。このときの重合槽内における全メタノール量は、酢酸ビニル100質量部に対して5.06質量部であった。
その際に、重合槽内およびコンデンサー内を36±1KPa(絶対圧)の減圧状態に保って内容物を沸騰させると、内容物の温度は40±0.5℃に保持され、重合槽から取り出した内容物(反応生成物)中の酢酸ビニルの重合率は12質量%であった。
(2) 重合槽より取り出した反応生成物に、ソルビン酸の0.26質量%メタノール溶液を7.0kg/毎時の割合で添加して重合反応を停止させた後、反応生成物をトレイを備えた塔の頂部から常温の状態で且つ716.8kg/毎時の割合で流下させ、一方塔の下部から温度90℃および圧力(ゲージ圧)190KPaのメタノール蒸気を600kg/毎時の量で吹き込んで、反応生成物に含まれている未反応の酢酸ビニルを反応生成物から向流的に追い出して[未反応の酢酸ビニルの除去率(追出し率)99.9%]、塔の下部からポリ酢酸ビニルを21質量%の割合で含有するメタノール溶液を回収した。
【0077】
(3) 上記(2)で得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液に、ポリ酢酸ビニルの酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.023となるように水酸化ナトリウムの6質量%メタノール溶液を撹拌下に加えて、30℃でケン化反応を開始させた。ケン化反応の進行に伴ってゲル化物が生成し、ケン化反応の開始から50分経過した時点でゲル化物を粉砕してメタノールで膨潤したPVAを得た。PVAをその5質量倍のメタノールで洗浄し、次いで55℃で1時間、100℃で2時間乾燥してPVA(「PVA−1a」という)を得た。
(4) 上記(3)で得られた「PVA−1a」の重合度は5500、ケン化度は99.51モル%、1,2−グリコール結合単位の含有量は1.4モル%、酢酸ナトリウムの含有量は0.4質量%であった。
また、上記(3)で得られた「PVA−1a」の水溶液の粘度安定性、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)、並びに「PVA−1a」から形成した皮膜の耐候性を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0078】
《製造例2〜6》[「PVA−2a」〜「PVA−6a」の製造]
(1) 下記の表1に示す条件を採用した以外は製造例1と同様にして、「PVA−2a」〜「PVA−6a」をそれぞれ製造した。なお、「PVA−2a」〜「PVA−6a」を製造するための、酢酸ビニルの重合工程では、製造例1と同様に、酢酸ビニルに対する酒石酸の添加量が20ppmとなるように酒石酸の0.3質量%メタノール溶液を重合槽に連続的に仕込んだ。
(2) 上記(1)で得られた「PVA−2a」〜「PVA−6a」の重合度、ケン化度、1,2−グリコール結合単位の含有量および酢酸ナトリウムの含有量は下記の表1に示すとおりであった。
また、上記(1)で得られた「PVA−2a」〜「PVA−6a]の水溶液の粘度安定性、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)、並びに[PVA−2a」〜「PVA−6a」から得られた皮膜の耐候性を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0079】
《製造例7〜12》[「PVA−7a」〜「PVA−12a」の製造]
(1) 下記の表3に示す条件を採用した以外は製造例1と同様にして、「PVA−7a」〜「PVA−12a」をそれぞれ製造した。なお、「PVA−7a」〜「PVA−12a」を製造するための、酢酸ビニルの重合工程では、製造例1と同様に、酢酸ビニルに対する酒石酸の添加量が20ppmとなるように酒石酸の0.3質量%メタノール溶液を重合槽に連続的に仕込んだ。
(2) 上記(1)で得られた「PVA−7a」〜「PVA−12a」の重合度、ケン化度、1,2−グリコール結合単位の含有量および酢酸ナトリウムの含有量は下記の表2に示すとおりであった。
また、上記(1)で得られた「PVA−7a」〜「PVA−12a]の水溶液の粘度安定性、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)、並びに[PVA−7a」〜「PVA−12a」から得られた皮膜の耐候性を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0080】
《比較製造例1〜8》[「PVA−1b」〜「PVA−8b」の製造]
(1) 下記の表3に示す条件を採用した以外は製造例1と同様にして、「PVA−1b」〜「PVA−8b」をそれぞれ製造した。なお、「PVA−1b」〜「PVA−8b」を製造するための、酢酸ビニルの重合工程では、製造例1と同様に、酢酸ビニルに対する酒石酸の添加量が20ppmとなるように酒石酸の0.3質量%メタノール溶液を重合槽に連続的に仕込んだ。
(2) 上記(1)で得られた「PVA−1b」〜「PVA−8b」の重合度、ケン化度、1,2−グリコール結合単位の含有量および酢酸ナトリウムの含有量は下記の表3に示すとおりであった。
また、上記(1)で得られた「PVA−1b」〜「PVA−8b]の水溶液の粘度安定性、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)、並びに[PVA−1b」〜「PVA−8b」から得られた皮膜の耐候性を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0081】
《比較製造例9〜13》[「PVA−9b」〜「PVA−13b」の製造]
(1) 下記の表4に示す条件を採用した以外は製造例1と同様にして、「PVA−9b」〜「PVA−13b」をそれぞれ製造した。なお、「PVA−9b」〜「PVA−13b」を製造するための、酢酸ビニルの重合工程では、製造例1と同様に、酢酸ビニルに対する酒石酸の添加量が20ppmとなるように酒石酸の0.3質量%メタノール溶液を重合槽に連続的に仕込んだ。
(2) 上記(1)で得られた「PVA−9b」〜「PVA−13b」の重合度、ケン化度、1,2−グリコール結合単位の含有量および酢酸ナトリウムの含有量は下記の表4に示すとおりであった。
また、上記(1)で得られた「PVA−9b」〜「PVA−13b」の水溶液の粘度安定性、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)、並びに「PVA−9b」〜「PVB−13b」から得られた皮膜の耐候性を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表4に示すとおりであった。
【0082】
《比較製造例14》[「PVA−14b」の製造]
(1) 特許文献7(特開平5−117307号公報)の製造例1と同様にしてPVA(PVA−14b)を製造した。
すなわち、撹拌機、温度計、窒素導入管およびドライアイス冷却管を取り付けた反応器にイオン交換水100質量部、酢酸ビニル1000質量部、ポリオキシエチレン[POE(40)]ノニルフェニルエーテル(三洋化成株式会社製「ノニポール400」)40質量部、ロンガリット1.25質量部およびFeSO4・7H2Oを0.12質量部の割合で仕込み、30分間煮沸した後、窒素を導入しながら5℃まで冷却し、別途脱気したイオン交換水を用いて調製した0.07質量%の過酸化水素水を10質量部/毎時で均一に連続添加しながら減圧度35Torr(絶対圧)(4.7KPa)で重合を開始した。重合中は、酢酸ビニルを絶えず還流していた。重合率が64.7質量%に達した時点(重合開始4.1時間後)に過酸化水素の添加を停止して重合を停止した。
(2) 上記(1)で得られたポリ酢酸ビニルのエマルジヨンを、室温下でメタノール25000質量部にヒドロキノンモノメチルエーテル1質量部を溶解した液に投入し、撹拌しながら溶解した。減圧下でメタノールを添加しながら、未反応の酢酸ビニルを除去し、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を得た。
(3) 上記(2)で得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を、濃度6質量%、[NaOH]/[酢酸ビニル単位](モル比)=0.15および温度40℃の条件下でケン化してPVAにした。ケン化反応の進行に伴って生成したゲル化物を粉砕してメタノールで膨潤したPVAを得た。PVAをその5質量倍のメタノールで洗浄し、次いで55℃で1時間、100℃で2時間乾燥してPVA(「PVA−13b」という)を得た。
【0083】
(4) 上記(3)で得られた「PVA−14b」の重合度は19800、ケン化度は99.75モル%、1,2−グリコール含有量は0.5モル%、酢酸ナトリウム含有量は1.5質量%であった。なお、「PVA−14b」の前記重合度は、上記(3)で得られたPVA−14bを再酢化して得られたポリ酢酸ビニルのアセトン溶液を30℃で測定した極限粘度から求めた値であり、当該極限粘度から粘度平均重合度(P)を算出するために、P=([η]×1000/7.94)(1/0.62)の数式を採用した(ポリ酢酸ビニルの極限粘度から重合度を求めたため)。
また、上記(3)で得られた「PVA−14b」の水溶液の粘度安定性、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)、「PVA−14b」から形成した皮膜の耐候性を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表4に示すとおりであった。
【0084】
《比較製造例15》[「PVA−15b」の製造]
(1) 特許文献4(特開2004−91774号公報)の段落0061に記載されている「PVA1」の製造例1と同様にしてPVA(PVA−15b)を製造した。
すなわち、攪拌機、温度センサー、滴下漏斗および還流冷却管を備え付けた6リットルのセパラブルフラスコに、酢酸ビニル2450質量部、メタノール315質量部、ビニルトリメトキシシランを1質量%の濃度で含有するメタノール溶液735質量部を仕込み、攪拌下に系内を窒素置換した後、内温を60℃まで上げた。この系に2,2'−アゾビスイソブチロニトリルを0.8質量部含有するメタノール20質量部を添加し、重合反応を開始した。重合開始時点よりビニルトリメトキシシランを1質量%の濃度で含有するメタノール55質量%を系内に添加しながら4時間重合反応を行い、その時点で重合反応を停止した。重合反応を停止した時点における系内の固形分濃度は34.6質量%であった。次いで、系内にメタノール蒸気を導入することで未反応の酢酸ビニル単量体を追い出し、ビニルエステル系重合体を40質量%の割合で含有するメタノール溶液を得た。
【0085】
(2) 上記(1)で得られたビニルエステル系重合体のメタノール溶液に対して、ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.02、ビニルエステル系重合体の固形分濃度が30質量%となるように、メタノールと、水酸化ナトリウムを10質量%の濃度で含有するメタノール溶液をこの順序で撹拌下に加え、40℃でケン化反応を開始した。ケン化反応の進行に伴ってゲル化物が生成した直後にこれを反応系から取り出して粉砕し、次いで、この粉砕物に対して、ケン化反応の開始から1時間が経過した時点で酢酸メチルを添加することで中和し、メタノールで膨潤したPVAを得た。このメタノールで膨潤したPVAに対して質量基準で6倍量(浴比6倍)のメタノールを加え、還流下に1時間洗浄し、次いで65℃で16時間乾燥してPVA(「PVA−14b」を得た。
(3) 上記(2)で得られた「PVA−15b」におけるビニルトリメチルシランに由来する構造単位の含有量は0.20モル%、1,2−グリコール結合単位の含有量は1.56モル%、重合度は1700、ケン化度は98.5モル%であった。
また、上記(2)で得られた「PVA−15b」の水溶液の粘度安定性、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)、「PVA−15b」から形成した皮膜の耐候性を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表4に示すとおりであった。
【0086】
《比較製造例16》[「PVA−16b」の製造]
(1) 比較製造例15の(2)において、ケン化条件を変更して、ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.007となるようにして水酸化ナトリウムの10質量%メタノール溶液を添加してケン化反応を行った以外は、比較製造例14と同様にしてPVA(「PVA−16b」)を製造した。
(2) 上記(1)で得られた「PVA−16b」におけるビニルトリメトキシシランに由来する構造単位の含有量は0.20モル%、重合度1700、ケン化度は88.11モル%、1,2−グリコール結合単位の含有量は1.6モル%であった。
また、上記(2)で得られた「PVA−16b」の水溶液の粘度安定性、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)、「PVA−16b」から形成した皮膜の耐候性を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表4に示すとおりであった。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【0090】
【表4】

【0091】
《実施例1》[コーティング剤およびインクジェット記録紙の製造]
(1)酸化アルミニウム微粒子の分散液の調製:
酸化アルミニウム粉末[日本アエロジル(株)製「アエロジルAl23・C」、γ型結晶、1次粒子の平均粒子径20nm以下]の600gと、分散安定剤として酢酸12gを溶解したイオン交換水2400gを混合し、攪拌機で撹拌・分散させた酸化アルミニウム粉末の水性分散液(酸化アルミニウム粉末の濃度20質量%)を調製した。この水性分散液を高圧式ホモジナイザー[同栄商事(株)製「ゴーリンホモジナイザー15MR−8TA型」]にて、700kg/cm2の圧力を加えて粉砕し、乳白色のスラリー状の粘稠状分散液(固形分濃度20質量%)を調製した。この水性分散液中に分散している酸化アルミニウム微粒子の平均粒子径は95nmであった。なお、酸化アルミニウム微粒子の平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置[堀場製作所(株)製「LA−910」]を使用して測定した。
【0092】
(2)コーティング剤(インクジェット記録紙におけるインク受理層形成用のコーティング剤)の製造:
上記の製造例1で製造した「PVA−1a」をイオン交換水に溶解して、「PVA−1a」の濃度が4.2質量%の水溶液を調製し、この「PVA−1a」の水溶液の476.2gに、上記(1)で調製した酸化アルミニウム微粒子の水性分散液(酸化アルミニウム微粒子の濃度20質量%)の1000gを加え、よく混合攪拌して、インクジェット記録紙におけるインク受理層形成用のコーティング剤(水性分散液)を製造した。
これにより得られたコーティング剤における酸化アルミニウム微粒子の含有量は200g、PVAの含有量は20g(酸化アルミニウム微粒子:PVAの質量比=10:1)、固形分濃度(コーティング剤の全質量に対する酸化アルミニウム微粒子とPVAの合計含有量の割合)は14.90質量%であった。
また、このコーティング剤の温度20℃における粘度を、B型粘度計(東京計器社製)を使用して測定したところ、110mPa・s(20℃)であった。
【0093】
(3) 上記(2)で得られたコーティング剤を室温にてメイヤーバーを使用して、塗被量(乾燥時)が10g/m2となるようにラミネート紙の表面に塗布し、熱風乾燥機にて100℃で3分間乾燥して、インクジェット記録紙を製造した。
なお、前記のラミネート紙として、市販の塗工紙(王子製紙株式会社製「OKコート」、目付=127.9g/m2)の塗工層表面にポリエチレンをエクストルージョンラミネート法により50μmの厚さラミネートしたものを使用した。
(4) 上記(3)で得られたインクジェット記録紙について、インク受理層の表面強度、インク受理層のひび割れ、インク受理層のインク吸収性、インク受理層のインクのにじみ度合、印刷品質および印刷面の光沢度の測定または評価を上記した方法で行ったところ、下記の表5に示すとおりであった。
【0094】
《実施例2〜6》
(1) 上記の製造例2〜6で製造した「PVA−2a」〜「PVA−6a」のそれぞれをイオン交換水に溶解して、PVAの濃度が4.2質量%の水溶液(実施例2〜4)またはPVAの濃度が3.2質量%の水溶液(実施例5〜6)をそれぞれ調製し、それにより得られたPVAの水溶液の476.2g(実施例2〜4)または625.0g(実施例5〜6)に、実施例1の(1)で調製したのと同じ酸化アルミニウム微粒子の水性分散液(酸化アルミニウム微粒子の濃度20質量%)の1000gを加え、よく混合攪拌して、インクジェット記録紙におけるインク受理層形成用のコーティング剤(水性分散液)を製造した。
これにより得られたコーティング剤における酸化アルミニウム微粒子の含有量は200g、PVAの含有量は20g(酸化アルミニウム微粒子:PVAの質量比=10:1)、固形分濃度(コーティング剤の全質量に対する酸化アルミニウム微粒子とPVAの合計含有量の割合)は14.90質量%(実施例2〜4)または13.54質量%(実施例5〜6)であった。
これらのコーティング剤の温度20℃における粘度を実施例1と同様にして測定したところ、下記の表5に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られたそれぞれのコーティング剤を用いて、実施例1の(3)と同様にして、インクジェット記録紙をそれぞれ製造した。
(3) 上記(2)で得られたそれぞれのインクジェット記録紙について、インク受理層の表面強度、インク受理層のひび割れ、インク受理層のインク吸収性、インク受理層のインクのにじみ度合、印刷品質および印刷面の光沢度の測定または評価を上記した方法で行ったところ、下記の表5に示すとおりであった。
【0095】
《実施例7〜12》
(1) 上記の製造例7〜12で製造した「PVA−7a」〜「PVA−12a」のそれぞれをイオン交換水に溶解して、PVAの濃度が3.2質量%の水溶液(実施例7)、5.2質量%の水溶液(実施例8〜9)、4.6質量%の水溶液(実施例10)、5.7質量%の水溶液(実施例11)または4.2質量%の水溶液(実施例12)をそれぞれ調製し、それにより得られたPVAの水溶液の625.0g(実施例7)、384.6g(実施例8〜9)、434.8g(実施例10)、350.9g(実施例11)または476.2g(実施例12)に、実施例1の(1)で調製したのと同じ酸化アルミニウム微粒子の水性分散液(酸化アルミニウム微粒子の濃度20質量%)の1000gを加え、よく混合攪拌して、インクジェット記録紙におけるインク受理層形成用のコーティング剤(水性分散液)を製造した。
これにより得られたコーティング剤における酸化アルミニウム微粒子の含有量は200g、PVAの含有量は20g(酸化アルミニウム微粒子:PVAの質量比=10:1)、固形分濃度(コーティング剤の全質量に対する酸化アルミニウム微粒子とPVAの合計含有量の割合)は13.54質量%(実施例7)、15.89質量%(実施例8〜9)、15.33質量%(実施例10)、16.29質量%(実施例11)または14.90質量%(実施例12)であった。
これらのコーティング剤の温度20℃における粘度を実施例1と同様にして測定したところ、下記の表6に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られたそれぞれのコーティング剤を用いて、実施例1の(3)と同様にして、インクジェット記録紙をそれぞれ製造した。
(3) 上記(2)で得られたそれぞれのインクジェット記録紙について、インク受理層の表面強度、インク受理層のひび割れ、インク受理層のインク吸収性、インク受理層のインクのにじみ度合、印刷品質および印刷面の光沢度の測定または評価を上記した方法で行ったところ、下記の表6に示すとおりであった。
【0096】
《比較例1〜8》
(1) 上記の比較製造例1〜7で製造した「PVA−1b」〜「PVA−7b」のそれぞれをイオン交換水に溶解して、PVAの濃度が4.2質量%の水溶液(比較例1〜2)、3.2質量%の水溶液(比較例3〜4)、5.2質量%の水溶液(比較例5〜6)、5.7質量%の水溶液(比較例7)および6.6質量%の水溶液(比較例8)をそれぞれ調製し、それにより得られたPVAの水溶液の476.2g(比較例1〜2)、625.0g(比較例3〜4)、384.6g(比較例5〜6)、350.9g(比較例7)または303.0g(比較例8)に、実施例1の(1)で調製したのと同じ酸化アルミニウム微粒子の水性分散液(酸化アルミニウム微粒子の濃度20質量%)の1000gを加え、よく混合攪拌して、インクジェット記録紙におけるインク受理層形成用のコーティング剤(水性分散液)を製造した。
これにより得られたコーティング剤における酸化アルミニウム微粒子の含有量は200g、PVAの含有量は20g(酸化アルミニウム微粒子:PVAの質量比=10:1)、固形分濃度(コーティング剤の全質量に対する酸化アルミニウム微粒子とPVAの合計含有量の割合)は下記の表7に示すとおりであった。
また、これらのコーティング剤の温度20℃における粘度を実施例1と同様にして測定したところ、下記の表7に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られたそれぞれのコーティング剤を用いて、実施例1の(3)と同様にして、インクジェット記録紙をそれぞれ製造した。
(3) 上記(2)で得られたそれぞれのインクジェット記録紙について、インク受理層の表面強度、インク受理層のひび割れ、インク受理層のインク吸収性、インク受理層のインクのにじみ度合、印刷品質および印刷面の光沢度の測定または評価を上記した方法で行ったところ、下記の表7に示すとおりであった。
【0097】
《比較例9〜16》
(1) 上記の比較製造例9〜16で製造した「PVA−9b」〜「PVA−16b」のそれぞれをイオン交換水に溶解して、PVAの濃度が6.6質量%の水溶液(比較例9)、8.3質量%の水溶液(比較例10)、5.2質量%の水溶液(比較例11)、3.2質量%の水溶液(比較例12)、4.2質量%の水溶液(比較例13)、1.2質量%の水溶液(比較例14)、10.1質量%の水溶液(比較例15)または10.8質量%の水溶液(比較例16)をそれぞれ調製し、それにより得られたPVAの水溶液の303.0g(比較例9)、241.0g(比較例10)、384.6g(比較例11)、625.0g(比較例12)、476.2g(比較例13)、1666.7g(比較例14)、198.0g(比較例15)または185.2g(比較例16)に、実施例1の(1)で調製したのと同じ酸化アルミニウム微粒子の水性分散液(酸化アルミニウム微粒子の濃度20質量%)の1000gを加え、よく混合攪拌して、インクジェット記録紙におけるインク受理層形成用のコーティング剤(水性分散液)を製造した。
これにより得られたコーティング剤における酸化アルミニウム微粒子の含有量は200g、PVAの含有量は20g(酸化アルミニウム微粒子:PVAの質量比=10:1)、固形分濃度(コーティング剤の全質量に対する酸化アルミニウム微粒子とPVAの合計含有量の割合)は下記の表8に示すとおりであった。
また、これらのコーティング剤の温度20℃における粘度を実施例1と同様にして測定したところ、下記の表8に示すとおりであった。
なお、比較例14では、「PVA−14b」の水溶液と、酸化アルミニウム微粒子の水性分散液の混合時にゲル化が生じてコーティング剤を調製することができず、そのため以下の(2)においてインクジェット記録紙を製造することができなかった。
(2) 上記(1)で得られたそれぞれのコーティング剤を用いて、実施例1の(3)と同様にして、インクジェット記録紙をそれぞれ製造した。
(3) 上記(2)で得られたそれぞれのインクジェット記録紙について、インク受理層の表面強度、インク受理層のひび割れ、インク受理層のインク吸収性、インク受理層のインクのにじみ度合、印刷品質および印刷面の光沢度の測定または評価を上記した方法で行ったところ、下記の表8に示すとおりであった。
【0098】
【表5】

【0099】
【表6】

【0100】
【表7】

【0101】
【表8】

【0102】
上記の表5〜表8の結果にみるように、実施例1〜11のコーティング剤は、上記の要件《1》〜《5》を満足すると共に酢酸ナトリウムの含有量が2質量%以下であるPVAを含有している。そのため、当該コーティング剤を基材に塗工してインク受理層を形成した実施例1〜11のインクジェット記録紙は、インク受理層の表面強度、インク受理層のひび割れ、インク受理層のインク吸収性および印刷品質のすべてAランクであり、前記した特性に極めて優れている。しかも、そのインク受理層は、インクのにじみ度の数値が1.3以下と小さくて、印刷時にインクのにじみが生じず、且つ光沢度が49〜58と高く、高い品質を有している。
【0103】
また、実施例12のコーティング剤は、コーティング剤中のPVAが要件《1》〜《5》を満足するものの、酢酸ナトリウム含有量が2.5質量%であって多少高いために、当該コーティング剤を基材に塗工してインク受理層を形成した実施例12のインクジェット記録紙は、インク受理層の表面強度、インク受理層のひび割れおよび印刷品質の評価結果のランクがBであって、実施例1〜11に比べてそれらの品質が少し低いが実用上はそれほど問題がない。そして、実施例12のインクジェット記録紙では、インク受理層のインク吸収性の評価はAランクで、インクのにじみ度の数値が1.2と小さく、光沢度が52と高くて、耐にじみ性および光沢性の点で優れている。
なお、実施例11では、インク受理層の光沢度が他の実施例に比べて多少低いが、これはPVAの重合度が本発明で規定する4000〜8000の範囲の下限値に近いことに起因するものと思われる。
【0104】
それに対して、比較例1〜13、15および16のコーティング剤では、コーティング剤中に含まれるPVAが、上記の要件《1》〜《5》の1つまたは2つ以上を満足していないことにより、当該コーティング剤を基材に塗工して製造したインクジェット記録紙におけるインク受理層の表面強度、インク受理層のひび割れ、インク受理層のインク吸収性および印刷品質のうちの少なくとも1つにおいて、その評価結果がCランクまたはDランクであったり、インクのにじみ度の数値が1.6以上と高くて印刷時にインクのにじみが生じ易かったり、光沢度の数値が47以下と低くて、光沢性に劣っており、実施例1〜12で得られたインクジェット記録紙に比べて、品質に大きく劣っている。
【0105】
具体的には、比較例1、3および5で得られたインクジェット記録紙では、インク受理層の形成に用いたコーティング剤中に含まれるPVAのケン化度が99.40モル%または99.30モル%であって上記の要件《2》を満足しておらず(ケン化度が本発明で規定する下限値よりも小さく)、さらに当該PVAが、粘度10000mPa・sのPVA水溶液が10℃で粘度20000mPa・sに増加するまでの時間が300分または280分であって上記の要件《4》をも満足していない(増粘時間が本発明における上限値を超えている)ために、インクのにじみ度の数値が1.6以上と大きく、しかも他の物性もいずれもランクBであり、ランクAがない。
【0106】
また、比較例2、4、6および7で得られたインクジェット記録紙では、インク受理層の形成に用いたコーティング剤中に含まれるPVAのケン化度がいずれも99.99モル%であって上記の要件《2》を満足しておらず(ケン化度が本発明で規定している上限値を超えており)、さらに当該PVAが、粘度10000mPa・sのPVA水溶液が10℃で粘度20000mPa・sに増加するまでの時間が5分、30分、20分または15分であって上記の要件《4》をも満足していない(増粘時間が本発明で規定している下限値よりも短い)ことにより、インク受理層のひび割れおよび印刷品質のランクがいずれもCで劣っており、しかも比較例7ではインク受理層の表面強度および黄濁度においても大きく劣っている。
【0107】
比較例8〜10で得られたインクジェット記録紙では、インク受理層の形成に用いたコーティング剤中に含まれるPVAの1,2−グリコール結合単位の含有量が1.6モル%または1.7モル%であって、上記の要件《3》を満足しておらず(1,2−グリコール結合単位が本発明で規定している上限値を超えており)、しかもPVAの重合度が3500または2400であって上記の要件《1》を満足していない(重合度が本発明で規定している下限値よりも小さい)ことにより、インク受理層の表面強度、インク受理層のひび割れ、インク吸収性および印刷品質の評価結果のすべてがランクCまたはDと劣っており、さらにインクのにじみ度が高く(特に比較例9〜11)、しかも光沢度が32〜42と低くて、品質が大きく劣っている。
また、比較例11で得られたインクジェット記録紙では、インク受理層の形成に用いたコーティング剤中に含まれるPVAの1,2−グリコール結合単位の含有量が1.6モル%または1.7モル%であって、上記の要件《3》を満足していない(1,2−グリコール結合単位が本発明で規定している上限値を超えている)ことにより、インクのにじみ度が1.6と高く、しかも光沢度が42と低くて、品質が劣っている。
【0108】
比較例12および13で得られたインクジェット記録紙では、インク受理層の形成に用いたコーティング剤中のPVAが、その水溶液の波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)(測定温度20℃)がいずれも0.02L/gを超えていて上記の要件《5》を満足していないために、光沢度が41または40と低くて、光沢性に劣っている。
また、比較例14では、重合度が19800と高すぎて上記の要件《1》を満足しておらず、1,2−グリコール結合単位の含有量が0.5モル%で上記の要件《3》を満足しておらず、しかも当該PVAの水溶液の波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)(測定温度20℃)がいずれも0.02L/gを超えているPVAを用いてコーティング剤を調製しようとしたために、上記したように、コーティング剤の調製時にゲル化が生じてコーティング剤を得ることができない。
さらに、比較例15および16で得られたインクジェット記録紙では、インク受理層の形成に用いたコーティング剤中の、ビニルメトキシシランに由来する構造単位を有するPVAの重合度がいずれも1700であって上記の要件《1》を満足しておらず、ケン化度が98.50モル%または88.11モル%であって上記の要件《2》を満足しておらず、しかも粘度10000mPa・sのPVA水溶液が10℃で粘度20000mPa・sに増加するまでの時間が360分以上であって上記の要件《4》をも満足していないことにより、インクのにじみ度の数値が大きくてインクがにじみ易く、しかも光沢度の数値が小さく、光沢性に劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明のコーティング剤は、調製が容易であり、粘度の経時変化が少なくて、保存安定性に優れ、しかも表面強度が高く、耐久性、耐水性、耐候性、光沢、インク吸収性、印刷適性、にじみ防止性などの特性に優れ、ひび割れのない、高品質の印刷用面(コーティング層)を形成する。そのため、本発明のコーティング剤は種々の用途に有効に使用することができ、特にインクジェット記録材におけるインク受理層を形成するためのコーティング剤として有用である。そして、本発明のコーティング剤を用いて形成したインクジェット記録材は、インク受理層の耐久性、耐水性、耐候性、光沢、インク吸収性、印刷適性に優れ、ひび割れがなく、当該インクジェット記録材を用いてインクジェット方式で印刷することにより、耐久性、耐水性、耐候性、光沢に優れ、鮮明で色調の良好な、高品質の印刷物を円滑に得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の要件《1》〜《5》;
《1》粘度平均重合度(P)が4000〜8000である;
《2》ケン化度が99.50〜99.97モル%である;
《3》1,2−グリコール結合単位の含有量が1〜1.5モル%である;
《4》当該ビニルアルコール系重合体を水に溶解して10℃での粘度が10000mPa・sであるビニルアルコール系重合体水溶液を調製し、その水溶液を10℃で静置したときに、粘度が20000mPa・sまで増加するのに要する時間が50〜250分である;および、
《5》当該ビニルアルコール系重合体を水に溶解して調製した濃度30g/Lのビニルアルコール系重合体水溶液[粘度平均重合度(P)が6000未満のビニルアルコール系重合体の場合]または濃度10g/Lのビニルアルコール系重合体水溶液[粘度平均重合度(P)が6000以上のビニルアルコール系重合体の場合]の、光路長30mmのセルを用いて測定してなる、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(測定温度20℃)が、いずれも0.02L/g以下である;
を満足するビニルアルコール系重合体を含有することを特徴とするコーティング剤。
【請求項2】
前記した要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体が、
《6》酢酸ナトリウムの含有量が2質量%以下である;
という要件《6》を更に満足する、請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項3】
インクジェット記録材におけるインク受理層を形成するためのコーティング剤である請求項1または2に記載のコーティング剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のコーティング剤を基材に塗布してなる塗工物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のコーティング剤を基材に塗布して形成したインクジェット記録材。

【公開番号】特開2009−221463(P2009−221463A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33419(P2009−33419)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】