説明

ビニルエーテル共重合体

【課題】 低い温度で成形が可能なビニルエーテル共重合体を提供する。
【解決手段】ビニルエーテル共重合体は、式(1)


(式中、n及びmはそれぞれ30〜600の整数を表す。)で表される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルエーテル共重合体に関し、更に詳しくは、電気電子材料や光学材料樹脂として好適な、側鎖に脂環式骨格と脂肪族骨格を有する新規なビニルエーテル共重合体に関するものである。
【0002】
近年、脂環式骨格を有するアクリレート類やエポキシ樹脂の、透明樹脂、接着剤、コーティング材やフォトレジスト用樹脂としての使用が検討されている。
【0003】
しかしながら、アクリレート類やエポキシ樹脂は、皮膚刺激性や臭気といった作業上、環境上の問題があるばかりか、保存安定性に難があり、又、アクリル樹脂はその吸湿性に由来する寸法安定性に問題があるため、これら諸問題の改善手段として、脂環式骨格を有するビニルエーテル系化合物が注目されている。
【0004】
上記ビニルエーテル系化合物の重合体としては、例えば特開01−102501号公報には、側鎖にノルボルニル基やアダマンチル基のような脂環式骨格を有するポリビニルエーテルと、ポリ(ネオペンペンチルビニルエーテル)とのブレンドポリマー、或いは、側鎖にノルボルニル基やジメタノデカヒドロナフチル基、アダマンチル基などの脂環式骨格を有するビニルエーテルとネオペンチルビニルエーテルとの共重合体が開示されており、又、例えば特開平01−102502号公報には、側鎖にノルボルニル基やジメタノデカヒドロナフチル基、アダマンチル基などの脂環式骨格を有するビニルエーテルポリマー、或いは、アダマンチルビニルエーテルとイソブチルビニルエーテルの共重合体など、側鎖に脂環式骨格と脂肪族骨格を有する共重合体が開示されている。又、これらのビニルエーテルポリマー及び共重合体は、そのガラス転移温度(Tg)が105℃乃至200℃と高く、光透過性にも優れ、且つ吸水性が低いことから、光学用成形体として好適であることが示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平01−102501号公報
【特許文献2】特開平01−102502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、側鎖にノルボルニル基やジメタノデカヒドロナフチル基のような脂環式骨格を有するビニルエーテルポリマーは、高いガラス転移温度(Tg)を有するために、透明性を要求される光学材料に用いられている。しかしながら、従来の脂環式骨格を有するビニルエーテルポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が高いため成形の際は高温に保持する必要があり、熱劣化により透明性が損なわれるという問題があった。又、一般的に脂環式骨格を有する重合体は可撓性が低く、複雑な形状の成形品を得ることは困難であった。このため、光学材料分野の短波長への変遷に伴う透明性への要求や、電気電子材料へ求められる高速化に対応するために、よりガラス転移温度が低く、可撓性の改良された脂環式骨格を有するビニルエーテルポリマーが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らの一部は、光学材料や電気電子材料における課題を解決する手段として、側鎖に新規な脂環式骨格を有し、分子量分布の狭いビニルエーテル重合体を提案し、特許出願をしており(特開2005−113049号公報参照)、該ビニルエーテル重合体は、耐熱性と低吸湿性及び金属への密着性に優れたものであるが、更に可撓性にも優れた新規なビニルエーテル共重合体を提供するため鋭意検討の結果、特定の脂環式骨格を有するビニルエーテルに、直鎖状のアルキルビニルエーテルを共重合させることにより、ガラス転移温度が低く、可撓性の改善された脂環式骨格を有するビニルエーテル共重合体が得られるのではないかとの知見を得、さらに研究を進めた結果、以下の式(1)で表される、脂肪族骨格と脂環式骨格を共に側鎖に有する共重合体を発明するに至った。
【化2】

尚、式中のn及びmはそれぞれ30〜600の整数を表している。
【0008】
上記本発明のビニルエーテル共重合体は、8−ビニロキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン
【化3】

と、n−ブチルビニルエーテル
【化4】

とを、溶媒中で重合することにより製造することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のビニルエーテル共重合体は、側鎖に直鎖状の脂肪族骨格と脂環式骨格を共に有しており、既存の脂環式骨格を有するビニルエーテルポリマーと比較して低いガラス転移温度を有し、可撓性が改良されている。このため、より低い温度で成形が可能となり、これまで困難であった複雑な形状の成形品を得ることも可能であると期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のビニルエーテル共重合体は、以下の式(1)で表される、脂肪族骨格と脂環式骨格を共に側鎖に有するものである。
【化5】

【0011】
上記式中のn及びmは、それぞれ30〜600の整数である。又、m/nの比率(%)は、50/50〜95/5が好ましく、60/40〜95/5がより好ましい。mの比率が50%より小さいと、ガラス転移温度が低くなりすぎ、耐熱性や成形性が悪くなる。一方、mの比率が95%を超えると可撓性の改善効果が得られない。
【0012】
上記本発明のビニルエーテル共重合体は、8−ビニロキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン
【化6】

と、n−ブチルビニルエーテル
【化7】

とを、溶媒中で重合することにより製造することができる。
【0013】
上記重合は、公知のカチオン重合により行われ、カチオン重合開始剤として一般的に使用される三弗化のホウ素などのルイス酸や硫酸などを用いた方法を挙げることができ、この場合は、仕込みの原料モノマーの比に応じたランダム共重合体を得ることができる。
【0014】
又、重合度の制御が容易であり且つ単分散に近い共重合体を得ることが可能なリビングカチオン重合では、分子量分布の狭いランダム共重合体や、重合度を制御したブロック共重合体を得ることができる。
【0015】
得られたビニルエーテル共重合体は、重合方法の如何に拘わらず本発明の目的を達成することができるものである。
【0016】
尚、重合に際して使用する溶媒は、ヘキサンなどの脂肪族溶媒や、トルエン、塩化メチレンなどが用いられるが、特に限定されるものではない。
【0017】
以下に実施例を示す。
【0018】
実施例1 ランダム共重合体の合成(1)
窒素置換後、十分に水分を除去したガラス製フラスコ内で、n−ブチルビニルエーテル(以下、NBVEと略す。)30mmolと8−ビニロキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン(以下、TCDVEと略す。)90mmolをトルエンに溶解させた。ついで、イソブチルビニルエーテルの酢酸付加物(IBEA)のトルエン溶液と2,4−ジ−tert−ブチルピリジンのトルエン溶液を加え、0℃まで冷却し、四臭化すず(SnBr)のトルエン溶液を加えて重合を開始した。それぞれの成分の最終濃度は表1に示した。5時間後、反応液を水洗し、トルエンを濃縮した後、メタノールで重合体を析出させた。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算の平均分子量と、示差走査熱量分析装置(DSC)でガラス転移温度を測定した。結果を表1に示した。
【0019】
実施例2〜4
NBVEとTCDVEの仕込み比を変えた以外は、実施例1の方法により重合体の合成と分析を行った。これらの結果を表1に示した。
【0020】
実施例5 ランダム共重合体の合成(2)
窒素置換後、十分に水分を除去したガラス製フラスコ内で、NBVE20mmolとTCDVE80mmolをトルエンに溶解させた。系を−30℃に冷却したところで、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体をモノマーに対して5mol%になるように添加し、5時間反応させた。反応液を水洗しトルエン相を濃縮した後メタノールで重合体を析出させた。GPCによる平均分子量の測定とDSCによるガラス転移温度の測定を行った。結果を表1に示した。
【0021】
実施例6 ブロック共重合体の合成
窒素置換後、十分に水分を除去したガラス製フラスコ内で、NBVE20mmolとTCDVE60mmolをトルエンに溶解させた。ついでIBEAのトルエン溶液と2,4−ジ−tert−ブチルピリジンのトルエン溶液を加え、0℃まで冷却し、四臭化すず(SnBr)のトルエン溶液を加えて重合を開始した。5時間後、予めトルエンに溶解しておいたTCDVEを添加し、更に5時間反応を継続した。反応液を水洗し、トルエンを留去してブロック共重合体を得た。GPCにより標準ポリスチレン換算の平均分子量と、DSCによりガラス転移温度を測定した。ブロック共重合体では、それぞれのセグメントに対応するTgが観測された。結果を表1に示した。
【0022】
比較例 TCDVEホモポリマーの合成
窒素置換後、十分に水分を除去したガラス製フラスコ内で、TCDVE80mmolをトルエンに溶解させた。系を−30℃に冷却したところで、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を添加し、5時間反応させた。反応液を水洗し、トルエン相を濃縮した後、メタノールで重合体を析出させた。GPCにより標準ポリスチレン換算の平均分子量と、DSCによりガラス転移温度を測定した。結果を表1に示した。
【0023】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

(式中、n及びmはそれぞれ30〜600の整数を表す。)
で表されることを特徴とするビニルエーテル共重合体。

【公開番号】特開2007−231227(P2007−231227A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57832(P2006−57832)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年9月5日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集54巻2号(2005)」に発表
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(000157603)丸善石油化学株式会社 (84)
【Fターム(参考)】