説明

ビニルピロリドン系重合体水溶液およびその製造方法

【課題】水性媒体中でN−ビニルピロリドン等の単量体の重合により得られるPVP水溶液を加熱乾燥して得られる粉体状のPVP中へのゲル状物の混入を、簡便かつ安価な手法により抑制しうる手段を提供する。
【解決手段】少なくともN−ビニルピロリドンを含む単量体を、水性媒体中、過酸化水素、金属触媒およびアンモニアの存在下で重合させる段階と、重合により得られるビニルピロリドン系重合体を含有する水溶液に不揮発性有機塩基を添加する段階と、不揮発性有機塩基が添加された前記水溶液を蒸留して、前記水溶液中のアンモニアを除去する段階とを有する、ビニルピロリドン系重合体水溶液の製造方法により、上記課題は解決されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルピロリドン系重合体に関する。詳細には、本発明は、ビニルピロリドン系重合体が添加される製品の品質を向上させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニルピロリドン系重合体は、化粧品、医薬品、粘接着剤、塗料、分散剤、インキ、電子部品等の種々の製品の添加剤として、広く用いられている。ビニルピロリドン系重合体の添加により、これらの製品の生体適合性や安定性、親水性などが向上しうる。また、ビニルピロリドン系重合体の架橋体は、吸水性や保水性を示すことから、紙おむつなどを構成するための吸水性樹脂としても用いられている。
【0003】
ビニルピロリドン系重合体を製造する手法としては、例えば、N−ビニルピロリドンを含む単量体を、水性媒体中、過酸化水素および塩基の存在下で重合させる方法が知られている(例えば、特許文献1および2を参照)。かような手法は安全性が高く、さらに安価であることから、ビニルピロリドン系重合体の製法として、広く用いられている。
【0004】
また、上記の文献に記載の製法を改良するものとして、例えば、特許文献3に記載の技術が提案されている。特許文献3に記載の手法によれば、重合開始剤として銅のアンミン錯塩を採用することにより、低温でかつ短時間でビニルピロリドン系重合体が製造可能である。さらに、重合開始時の反応系にアンモニアを添加すると、さらに反応速度を増大させうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許第922378号明細書
【特許文献2】特開昭62−62804号明細書
【特許文献3】特開2002−155108号公報(特に、請求項3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記文献3の手法により得られるビニルピロリドン系重合体(以下、単に「PVP」とも称する)を含む水溶液(以下、単に「PVP水溶液」とも称する)は、種々の用途への適用を可能とする目的で、粉体化されるのが一般的である。粉体化には、通常、得られたPVP水溶液を加熱乾燥させるという手法が用いられる。水溶液を加熱乾燥させることにより、溶媒が揮発し、粉体状のPVPが得られる。
【0007】
しかしながら、粉体化工程において、前記文献3の手法により得られるPVP水溶液を加熱すると、得られる粉体中に、水に不溶性のゲル状物が混入する。かようなゲル状物が混入した粉体状のPVPを、そのまま種々の用途に適用することは、製品の品質を低下させる虞が高いため、好ましくない。一方、混入したゲル状物を粉体化後に除去することは困難であり、このゲル状物の混入により使用できなくなる虞も用途によっては生じうる。また、たとえゲル状物の除去が可能であったとしても、かような除去処理をさらに施すことは、製造工程における工数の増加や処理装置の設置に伴うコストの上昇を招くことから、やはり好ましくない。
【0008】
そこで本発明は、水性媒体中でN−ビニルピロリドン等の単量体の重合により得られるPVP水溶液を加熱乾燥して得られる粉体状のPVP中へのゲル状物の混入を、簡便かつ安価な手法により抑制しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、ゲル状物が粉体中へ混入する原因を、鋭意探索した。
【0010】
その結果、本発明者らは、重合反応の進行やPVP水溶液の貯蔵時間の経過に伴って生成するギ酸(HCOOH)が、粉体化工程における加熱処理によりゲル状物が生成する原因となっていることを見出した。また、ギ酸の存在によりゲル状物が生成するには、水溶液中にアンモニアが共存することが必要であることも見出した。
【0011】
そこで本発明者らは、上記の知見に基づき、重合反応の進行やPVP水溶液の貯蔵時間の経過に伴うギ酸の生成を抑制することで、粉体化工程におけるゲル状物の生成を防止しうることを見出した。さらに、重合により得られたPVP水溶液中のアンモニアの含有量を低減させ、その後に粉体化処理を施すことによっても、ゲル状物の生成を防止しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、少なくともN−ビニルピロリドンを含む単量体を、水性媒体中、過酸化水素、金属触媒およびアンモニアの存在下で重合させる段階を有する、ビニルピロリドン系重合体水溶液の製造方法であって、前記重合させる段階の反応系に一重項酸素消光剤を存在させることを特徴とする、ビニルピロリドン系重合体水溶液の製造方法である。
【0013】
また本発明は、少なくともN−ビニルピロリドンを含む単量体を、水性媒体中、過酸化水素、金属触媒およびアンモニアの存在下で重合させる段階と、重合により得られるビニルピロリドン系重合体を含有する水溶液に不揮発性有機塩基を添加する段階と、不揮発性有機塩基が添加された前記水溶液を蒸留して、前記水溶液中のアンモニアを除去する段階と、を有する、ビニルピロリドン系重合体水溶液の製造方法である。
【0014】
さらに本発明は、ビニルピロリドン系重合体と、ギ酸と、アンモニアと、を含有するビニルピロリドン系重合体水溶液の貯蔵方法であって、前記水溶液中に一重項酸素消光剤を存在させることを特徴とする、ビニルピロリドン系重合体水溶液の貯蔵方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡便かつ安価な手法により、PVP水溶液を加熱乾燥により粉体化する際に、得られるPVP中へゲル状物が混入する問題が解決される。さらに本発明は、PVPが添加される製品の品質を向上させうる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の製造方法においては、N−ビニルピロリドン等の単量体を、水性媒体中、過酸化水素、金属触媒およびアンモニアの存在下で重合させる。これにより、ビニルピロリドン系重合体(PVP)を含有する水溶液(PVP水溶液)が得られる。
【0017】
上述したように、上記の重合反応の進行時には、ギ酸が副生することが見出された。そして副生したギ酸は、PVP水溶液の粉体化工程において、アンモニアの共存下で加熱されると、ゲル状物の生成を促進する。本発明においては、このゲル状物の生成を効果的に抑制する方法を提供する。
【0018】
なお、ギ酸およびアンモニアを含むPVP水溶液の加熱によりゲル状物が生成するメカニズムは必ずしも明らかではないが、アンモニアがPVPのポリマー鎖に対してグラフト重合し、2本のポリマー鎖を架橋することで、水不溶性のゲル状物が生成するというメカニズムが推定されている。そしてギ酸は、このメカニズムの進行を促進させるための触媒として作用するものと考えられる。ただし、かようなメカニズムはあくまでも推測に過ぎず、別のメカニズムによりゲル状物が生成していたとしても、本発明の技術的範囲は何ら影響を受けることはない。
【0019】
本発明の第1においては、単量体を重合してPVP水溶液を製造する際に、反応系に一重項酸素(以下、「Δ」とも称する)消光剤(以下、単に「消光剤」とも称する)を存在させる。すると、重合反応の進行時におけるギ酸の生成が抑制されうる。その結果、粉体化工程におけるゲル状物の生成が防止され、得られるPVPの品質の向上に寄与しうる。
【0020】
一重項酸素(Δ)とは、励起電子を有する活性酸素の1種であり、Δでは、π分子軌道にある2つの電子のスピンが逆向きとなっている。このΔは基底状態の酸素分子よりも高いエネルギを有することから、反応性が高い。Δは求電子特性を有し、電子供与性の大きい基質と特に反応しやすい。
【0021】
重合反応中のギ酸の生成には、過酸化水素の分解により生成したΔが、電子供与性の大きい、N−ビニルピロリドンの二重結合に結合することで単量体の過酸化物が生成し、この過酸化物が分解してギ酸が生成するというメカニズムが推定される。従って、重合反応の反応系に消光剤が存在すると、過酸化水素の分解により生成したΔが当該消光剤により捕捉され、ギ酸の生成が防止されるものと考えられる。ただし、メカニズムにより本発明の技術的範囲が影響を受けないことは、上記と同様である。
【0022】
本発明の第2においては、重合段階で得られたPVP水溶液に不揮発性有機塩基を添加し、これを蒸留することで、PVP水溶液からアンモニアを除去する。上述した通り、粉体化工程におけるゲル状物の生成にはアンモニアの存在が必要であるため、本発明の第2によれば、粉体化工程におけるゲル状物の生成が防止され、得られるPVPの品質が向上しうる。
【0023】
ここで、重合段階後のPVP水溶液からアンモニアを除去する手法として、当該PVP水溶液を単に蒸留し、アンモニアを揮発させるという手法が考えられる。重合反応終了後のPVP水溶液を単に蒸留すると、ある程度のアンモニアは揮発し、水溶液中のアンモニア濃度は低減されうる。しかしながら、塩基であるアンモニアが揮発するにつれて、水溶液のpHは低下し、水溶液は酸性化する。そして、アンモニアの揮発がさらに進行すると、水溶液のpHは酸性側(pH<7)へと移動する。酸性の水溶液中において、アンモニアは、もはや単体(NH)の形態としてではなく、プロトン(H)と結合したイオン(NH)の形態として存在する。このイオンの形態のアンモニアは、蒸留操作によっても揮発せず、水溶液中に残留する。その結果、粉体化工程におけるゲル状物の生成は充分に抑制されず、得られるPVPの品質はやはり低下してしまうという問題は残る。
【0024】
本発明の第2によれば、かような問題が解決されうる。すなわち、不揮発性有機塩基の添加により、水溶液のpHを低下させることなく、PVP水溶液の蒸留によりアンモニアを除去することが可能になるのである。
【0025】
このように、粉体化工程におけるゲル状物の生成の原因物質を除去するという点においては、本発明の第1と第2とは同様である。
【0026】
続いて、本発明の第1について詳細に説明する。
【0027】
まず、N−ビニルピロリドン等の単量体を、水性媒体中、過酸化水素、金属触媒およびアンモニアの存在下で重合させる。これにより、PVP水溶液が得られる。
【0028】
この重合段階においては、まず、N−ビニルピロリドンを含む単量体、過酸化水素、金属触媒、およびアンモニアを準備する。その後、準備した各成分の所定量を、反応溶媒である水性媒体中に添加する。本発明の第1においては、重合段階の反応系に消光剤が存在する点に特徴を有する。消光剤の詳細については、後述する。
【0029】
単量体は、少なくともN−ビニルピロリドンを含む。この単量体は重合段階においてラジカル重合し、ビニルピロリドン系重合体となる。なお、本願において「N−ビニルピロリドン」とは、N−ビニル−2−ピロリドンを意味する。単量体は、必要に応じて、N−ビニルピロリドンと共重合可能なその他の単量体を含んでもよい。従って、本願において「ビニルピロリドン系重合体(PVP)」とは、N−ビニル−2−ピロリドンの単重合体に加えて、N−ビニル−2−ピロリドンとその他の単量体との共重合体をも含む概念である。
【0030】
N−ビニルピロリドンと共重合可能な単量体としては、例えば、1)(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;2)(メタ)アクリルアミドおよびその誘導体(例えば、N−モノメチル(メタ)アクリルアミド、N−モノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドなど);3)(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の塩基性不飽和単量体並びにその塩および第4級化物;4)ビニルホルムアミド、ビニルアセトアミド、ビニルオキサゾリドン等のビニルアミド類;5)(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基含有不飽和単量体およびその塩;6)無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和無水物類;7)酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;8)ビニルエチレンカーボネートおよびその誘導体;9)スチレンおよび薗誘導体;10)(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチルおよびその誘導体;11)ビニルスルホン酸およびその誘導体;12)メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;13)エチレン、プロピレン、オクテン、ブタジエン等のオレフィン類;などが挙げられる。なかでも、N−ビニルピロリドンとの共重合性に優れるという観点からは、1)〜8)が好ましく用いられうる。なお、これらの単量体は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0031】
単量体として、N−ビニルピロリドンに加えてその他の単量体を用いる場合、N−ビニルピロリドンの配合量は、特に制限されない。ただし、本発明の効果を充分に発揮させるという観点から、N−ビニルピロリドンの配合量は、用いられる単量体の全量に対して、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0032】
過酸化水素は、「H」の化学式で表される化合物である。この過酸化水素は、重合段階において、ラジカル重合の開始に必要なラジカルを生成させるための重合開始剤として機能する。また、上述したように、過酸化水素は、一重項酸素(Δ)の生成を介して、ギ酸の副生にも関与していると考えられる。
【0033】
過酸化水素は、常温にて気体状の単体の形態で反応系に添加されてもよく、水溶液(過酸化水素水)の形態で添加されてもよい。
【0034】
金属触媒は、重合段階において、単量体の重合を促進させる機能を有する。金属触媒の具体的な形態は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。金属触媒の一例としては、遷移金属塩が挙げられる。具体的には、銅、鉄、コバルト、ニッケル等の遷移金属のカルボン酸塩や塩化物、錯塩などが挙げられる。また、錯塩としては、アンミン錯塩、アコ錯塩などが挙げられる。触媒活性に優れるという観点から、金属触媒として好ましくは、銅のアンミン錯塩が用いられる。銅のアンミン錯塩としては、例えば、ジアンミン銅塩([Cu(NHSO・HO、[Cu(NH]Clなど)、テトラアンミン銅塩([Cu(NH]SO・HO、[Cu(NH]Clなど)などが挙げられる。これらの金属触媒は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0035】
アンモニアは重合反応の反応系において、助触媒として機能する。すなわち、アンモニアが反応系に含まれると、アンモニアが含まれない場合と比較して、重合反応の進行がより一層促進されうる。
【0036】
アンモニアは、常温にて気体状の単体の形態で反応系に添加されてもよく、水溶液(アンモニア水)の形態で添加されてもよい。
【0037】
PVPの製造に用いる単量体などの各成分は、従来公知の知見を適宜参照しつつ、製造するPVPの所望の形態に応じて選択されうる。
【0038】
反応溶媒である水性媒体は、水を主成分として含む。水性媒体は、場合によっては、水に溶解しうる水以外の溶媒をさらに含んでもよい。従って、本発明の製造方法により製造される「PVP水溶液」には、水のみを溶媒として含む溶液のみならず、重合反応に用いられうるその他の溶媒を含む溶液もまた、包含されうる。
【0039】
水性媒体に含まれうる水以外の溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコール等のアルコール類が挙げられる。なかでも、イソプロパノールおよび/またはn−ブタノールを含む水性媒体を用いると、共沸効果によって反応温度である水の沸点が低下し、副反応の進行が抑制されうるため、好ましい。なお、これらのその他の溶媒は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0040】
重合反応に用いられる各成分の配合量は、特に制限されず、適宜調節されうる。一例を挙げると、単量体が水性媒体100質量部に対して20〜60質量部程度、過酸化水素が単量体の全量に対して0.6〜4.0質量部(過酸化水素の単体換算)程度、金属触媒が単量体の全量に対して200質量ppb(金属原子換算)程度、アンモニアが単量体の全量に対して50〜4000質量ppm(アンモニアの単体換算)程度である。場合によっては、各成分の配合量がこれらの範囲を外れても、勿論よい。
【0041】
重合段階における反応条件は、特に制限されない。反応温度は、好ましくは55〜100℃程度である。かような範囲内の温度で重合反応を進行させると、残存モノマー量が低減されうるため好ましい。なお、反応温度は、K熱電対などの温度センサを用いて測定されうる。また、反応圧力も特に制限されず、減圧下、常圧下、加圧下のいずれの圧力条件下において重合反応を行ってもよい。さらに、重合反応が充分に進行しうるのであれば、反応時間も特に制限されない。
【0042】
本発明の第1においては、重合段階の反応系に、一重項酸素(Δ)消光剤(以下、単に「消光剤」とも称する)を存在させる。反応系に消光剤が存在すると、上述したメカニズムにより、Δによるギ酸の生成が抑制されうる。なお、本願において「消光剤」とは、Δとの相互作用によりΔを失活させうる物質を意味する。消光剤の具体例としては、例えば、メチオニン、α−トコフェロール、1,4−ジアゾビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)、アジ化ナトリウム、β−カロチン、ヒスチジン、トリプトファン、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、およびビリルビンなどが挙げられる。これらの消光剤は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0043】
消光剤の存在形態についても、特に制限はなく、重合反応の開始時点から終了時点までの任意の時点において、反応系に消光剤が存在していれば、本発明の効果は得られる。従って、重合反応の開始前に反応混合物中に消光剤を予め添加しておく形態のみならず、ある程度重合反応が進行した後に消光剤の添加を開始する形態もまた、採用されうる。さらに、重合反応中に消光剤を逐次添加する形態が採用されてもよい。ただし、本発明の効果を充分に発揮させるという観点からは、重合反応の開始時点から終了時点までのいずれの時点においても、反応系に消光剤が存在することが好ましい。
【0044】
消光剤の存在量も特に制限されないが、過酸化水素の分解により生成するΔを効率的に失活させるという観点から、反応系における消光剤の存在量は、単量体の全量100質量部に対して、好ましくは0.5〜2.0質量部、より好ましくは0.8〜1.2質量部である。消光剤の存在量が少なすぎると、Δを充分に失活させることができず、ギ酸の生成が充分に抑制されない虞がある。一方、消光剤の存在量が多すぎると、重合時間(重合の開始から終了までに要する時間)が延びたり、場合によっては反応が停止する場合がある。その結果、最終的な製造コストが高騰してしまう虞がある。
【0045】
本発明の製造方法においては、必要に応じて、重合反応の反応系にその他の添加剤を添加してもよい。その他の添加剤としては、例えば、pH調節剤、連鎖移動剤、緩衝剤などが挙げられる。これらのその他の添加剤は1種のみが単独で反応系に添加されてもよいし、2種以上が併せて反応系に添加されてもよい。また、これらの添加剤の反応系への添加量は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0046】
本発明の第1によれば、上述した手法により、製造されるPVP水溶液におけるギ酸の含有量が低減されうるが、重合段階後に、得られたPVP水溶液に対してさらなる処理を施して、ギ酸の含有量をさらに低減させてもよい。ギ酸の含有量をさらに低減させることで、粉体化工程におけるゲル状物の生成がより確実に防止されうる。かような処理としては、例えば、蒸留精製処理などが挙げられる。また、上述したように、PVP水溶液中におけるアンモニアの含有量を低減させることによっても、粉体化工程におけるゲル状物の生成を抑制可能である。従って、本発明の第1において、重合段階後に、得られたPVP水溶液におけるアンモニアの含有量を低減させるための処理を、得られたPVP水溶液に対して施してもよい。かような処理としては、例えば、蒸留精製処理などが挙げられる。アンモニアの含有量を低減させるための処理として、好ましくは、後述する本発明の第2の手法が用いられる。
【0047】
本発明の第1の製造方法によれば、ギ酸の含有量が従来よりも低減されたPVP水溶液が製造されうる。すなわち、本発明は、ギ酸の含有量が低減されたPVP水溶液をも提供する。この際、本発明により提供されるPVP水溶液におけるギ酸の含有量は、ビニルピロリドン系重合体の全量に対して好ましくは2000質量ppm以下であり、より好ましくは1700質量ppm以下であり、さらに好ましくは1500質量ppm以下であり、特に好ましくは1100質量ppm以下である。上述したように、ギ酸はゲル状物の発生原因となる不純物であることから、得られるPVP水溶液におけるギ酸の含有量は少ないほど好ましい。しかしながら、ギ酸の含有量がある程度低減されればゲル状物の発生は防止されうる。これに対し、ギ酸の含有量の下限値については特に制限されることはないが、ギ酸量をあまり低減させようとすると、多量の一重項酸素消光剤の添加が必要となり、製造コストが高騰してしまうばかりか、重合時に重合が停止してしまう虞がある。従って、得られるPVP水溶液におけるギ酸の含有量は、ビニルピロリドン系重合体の全量に対して好ましくは100質量ppm以上であり、より好ましくは300質量ppm以上、さらに好ましくは900質量ppm以上である。ただし、本発明の第1の製造方法の技術的範囲が、かような量のギ酸を含有するPVP水溶液を製造する形態のみに制限されるわけではない。場合によっては、この範囲を外れる量のギ酸を含有するPVP水溶液が製造されてもよい。また、本発明のPVP水溶液の技術的範囲が、本発明の第1の製造方法により製造される形態のみに制限されるわけではなく、場合によっては、他の製造方法により製造されたものであってもよい。なお、製造されたPVP水溶液におけるギ酸の含有量としては、後述する実施例に記載の手法により測定される値を採用するものとする。
【0048】
また、本発明のPVP水溶液は、重合開始剤として無機化合物である過酸化水素を採用していることから、理論的には有機系重合開始剤を含有しないはずである。ただし、場合によっては不純物としての混入も考えられるため、得られたPVP水溶液は、有機系重合開始剤および/またはその分解物を実質的に含有しないことが好ましい。なお、「実質的に含有しない」とは、PVP水溶液製造用の重合開始剤として有機系重合開始剤を用いた場合におけるPVP水溶液へのこれらの開始剤およびその分解物の混入の程度未満の混入は許容されうることを意味する。従って、本発明の製造方法によってPVP水溶液を製造した後に、得られたPVP水溶液に故意に有機系重合開始剤またはその分解物を添加したとしても、故意の添加前のPVP水溶液は、有機系重合開始剤および/またはその分解物を実質的に含有しない限り、本発明の技術的範囲に包含されうる。
なお、「有機系重合開始剤」として具体的には、アゾ化合物および有機過酸化物が挙げられる。アゾ化合物の例としては、例えば、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩、アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオネート、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパンジヒドロクロリドなどが例示される。また、有機過酸化物の例としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、t−ブチルハイドロパーオキシド、イソブチリルハイドロパーオキシド、ジ−t−ブチルハイドロパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド、ジクミルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、ジ−t−ヘキシルパーオキシド、t−ブチルパーオキシピバレート、ジベンゾイルパーオキシドなどが挙げられる。ただし、有機系重合開始剤が、上記に列挙した化合物のみに制限されることはない。
【0049】
また、「有機系重合開始剤の分解物」として、アゾ化合物の分解物は一般的には、下記の化学式に示す構造を有する:
【0050】
【化1】

【0051】
式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、ニトリル基、アルキル基、エステル基、アリール基、アミノ基、イミノ基、アミド基、アルコキシル基、アミジノ基、イミダゾール環を表す。
【0052】
また、有機過酸化物の分解物は一般的には、R1−OH、R1−O−R2、R1−H、R1−C(=O)−OHといった構造を有する。ここで、R1およびR2は、上記と同様の定義である。ただし、有機系重合開始剤の分解物が、上記に列挙した化合物のみに制限されることはない。
【0053】
続いて、本発明の第2について詳細に説明する。
【0054】
本発明の第2においては、重合段階終了後に、得られたPVP水溶液に不揮発性有機塩基を添加し、これを蒸留する。これにより、上述したメカニズムによりPVP水溶液からアンモニアが除去され、アンモニアの含有量が低減されたPVP水溶液が得られる。その結果、粉体化工程におけるゲル状物の生成が防止され、得られるPVPの品質が向上しうる。
【0055】
まず、N−ビニルピロリドン等の単量体を、水性媒体中、過酸化水素、金属触媒およびアンモニアの存在下で重合させる。これにより、PVP水溶液が得られる。N−ビニルピロリドンの重合段階に関しては、反応系に消光剤を存在させる点を除き、本発明の第1と同様である。従って、ここでは詳細な説明を省略する。
【0056】
本発明の第2においては、重合により得られるPVP水溶液に不揮発性有機塩基を添加する。塩基が添加されたPVP水溶液は、後述する蒸留段階において、蒸留される。
【0057】
本願において「不揮発性有機塩基」とは、水性媒体中において、水性媒体の沸点にまで加熱された場合に実質的に揮発しない有機塩基を意味する。不揮発性有機塩基の具体例としては、例えば、第4級アンモニウム塩やグアニジン塩などが挙げられる。さらに、第4級アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムなどのハロゲン化物(例えば、臭化物、フッ化物、塩化物、ヨウ化物)が挙げられ、グアニジン塩としては、例えば、炭酸グアニジンなどが挙げられる。これらの不揮発性有機塩基は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0058】
不揮発性有機塩基は、そのままの形態でPVP水溶液中に添加されてもよく、適当な溶媒に溶解した溶液の形態でPVP水溶液中に添加されてもよい。溶液の形態で添加する場合、当該溶液の溶媒としては、本発明の第1の重合段階において水性媒体として用いられうる溶媒が同様に用いられうる。
【0059】
不揮発性有機塩基の添加量は特に制限されず、PVP水溶液におけるアンモニアの含有量や後述する蒸留段階の蒸留条件などを考慮して、適宜調節されうる。この際、不揮発性有機塩基の添加にあたっては、PVP水溶液のpHが8以上となるように添加するとよい。塩基添加後のPVP水溶液のpHが低すぎると、後述する蒸留段階においてアンモニアが充分に除去されない虞がある。一方、PVP水溶液のpHが8以上であれば、それ以上塩基を添加しても効果の向上は特に見られず、製造コストが高騰する虞がある。
【0060】
続いて、不揮発性有機塩基が添加されたPVP水溶液を蒸留する。これにより、PVP水溶液中のアンモニアが揮発し、PVP水溶液におけるアンモニアの含有量が低減されうる。
【0061】
蒸留段階における蒸留条件(例えば、温度、圧力、時間など)は特に制限されず、PVP水溶液の蒸留精製についての従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0062】
本発明の第2によれば、上述した手法により、アンモニアの含有量が低減されたPVP水溶液が得られるが、蒸留段階後に、得られたPVP水溶液に対してさらなる処理を施して、アンモニアの含有量をさらに低減させてもよい。アンモニアの含有量をさらに低減させることで、粉体化工程におけるゲル状物の生成がより確実に防止されうる。
【0063】
本発明の第2の製造方法によれば、アンモニアの含有量が従来よりも低減されたPVP水溶液が製造されうる。よって、本発明の第2の製造方法により製造されるPVP水溶液におけるアンモニアの含有量は、ビニルピロリドン系重合体の全量に対して好ましくは800質量ppm以下であり、より好ましくは600質量ppm以下である。ただし、本発明の第2の技術的範囲が、かような量のアンモニアを含有するPVP水溶液を製造する形態のみに制限されるわけではなく、場合によっては、この範囲を外れる量のアンモニアを含有するPVP水溶液が製造されてもよい。なお、製造されたPVP水溶液におけるアンモニアの含有量としては、後述する実施例に記載の手法により測定される値を採用するものとする。
【0064】
本発明の第1と第2とを組み合わせて用いることも可能である。例えば、N−ビニルピロリドン等の単量体の重合段階において、反応系に一重項酸素消光剤を存在させて、ギ酸の含有量が低減されたPVP水溶液を製造する(本発明の第1)。そして、得られたPVP水溶液に不揮発性有機塩基を添加し、蒸留して、アンモニアを除去する(本発明の第2)。これにより、ギ酸およびアンモニアの双方の含有量が低減されたPVP水溶液が製造されうる。
【0065】
以上、本発明の第1および第2として、PVP水溶液の製造方法について説明したが、本願は、本発明の第3として、本発明の第1の特徴である一重項酸素消光剤の添加を利用した、PVP水溶液の貯蔵方法をも提供する。
【0066】
上述したように、重合段階においては、Δの生成を介して、ゲル状物生成の原因物質であるギ酸が生成する。このギ酸の生成は、重合段階終了後にPVP水溶液を貯蔵する際にも、わずかながら進行する。本発明の第3は、この貯蔵段階におけるギ酸の生成を抑制することで、ゲル状物の生成を防止する。
【0067】
すなわち、本発明の第3は、ビニルピロリドン系重合体と、ギ酸と、アンモニアと、を含有するビニルピロリドン系重合体水溶液の貯蔵方法であって、前記水溶液中に一重項酸素消光剤を存在させることを特徴とする、ビニルピロリドン系重合体水溶液の貯蔵方法である。
【0068】
本発明の第3の貯蔵方法に用いられるPVP水溶液は、ビニルピロリドン系重合体と、ギ酸と、アンモニアと、を含有する。このPVP水溶液の具体的な形態は特に制限されないが、好ましくは、上記の本発明の第1または第2の製造方法の重合段階において得られたPVP水溶液が用いられる。かようなPVP水溶液の具体的な形態については、上述した通りであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0069】
本発明の第3においては、消光剤の存在下で、PVP水溶液を貯蔵する。これにより、本発明の第1と同様のメカニズムによりギ酸の生成が抑制され、PVP水溶液の貯蔵段階における水溶液中でのギ酸の含有量の増加が防止される。その結果、粉体化工程におけるゲル状物の生成が防止され、得られるPVPの品質が向上しうる。
【0070】
本貯蔵方法において用いられる消光剤の具体的な形態についても、本発明の第1において記載した通りであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0071】
消光剤の存在形態についても、特に制限はなく、貯蔵の開始時点から終了時点までの任意の時点において、反応系に消光剤が存在していれば、本発明の効果は得られる。従って、重合段階の終了直後にPVP水溶液中に消光剤を予め添加しておく形態のみならず、ある程度貯蔵時間が経過した後に消光剤の添加を開始する形態もまた、採用されうる。さらに、貯蔵中に消光剤を逐次添加する形態が採用されてもよい。ただし、本発明の効果を充分に発揮させるという観点からは、貯蔵の開始時点(重合段階の終了時点)から貯蔵の終了時点(例えば、後述する噴霧乾燥に供される時点)までのいずれの時点においても、PVP水溶液中に消光剤が存在することが好ましい。
【0072】
消光剤の存在量も特に制限されないが、過酸化水素の分解により生成するΔを効率的に失活させるという観点から、PVP水溶液における消光剤の存在量は、PVP水溶液中の不揮発分(固形分)100質量部に対して、好ましくは0.1〜5.0質量部、より好ましくは0.3〜2.0質量部、さらに好ましくは0.5〜1.5質量部である。消光剤の存在量が少なすぎると、Δを充分に失活させることができず、ギ酸の生成が充分に抑制されない虞がある。一方、一方、消光剤の存在量が多すぎてもギ酸の生成抑制効果の観点からは特に問題はないが、製造コストの高騰を招く虞がある。
【0073】
本発明の第3の貯蔵方法は、本発明の第1および/または第2の製造方法と組み合わされてもよい。
【0074】
例えば、本発明の第3の貯蔵方法を用いてPVP水溶液を貯蔵することが前提の場合には、本発明の第1の製造方法によりPVP水溶液を製造し、そのまま本発明の第3の貯蔵方法によりPVP水溶液を貯蔵すると、簡便である。なお、かような形態を採用する場合には、貯蔵期間を考慮して、本発明の第1の製造方法の重合段階において反応系に存在させる消光剤の量を調節することが好ましい。
【0075】
また、本発明の第3の貯蔵方法を本発明の第2の製造方法と組み合わせるには、本発明の第3による貯蔵の開始前、貯蔵中、または貯蔵後のいずれかの時点において、PVP水溶液中に不揮発性塩基を添加し、さらに所望の時点においてこの水溶液を蒸留して、アンモニアを除去すればよい(本発明の第2)。
【0076】
製造されたPVP水溶液は、加熱乾燥により、粉体化される。粉体化により、粉体状のPVPが製造される。粉体状のPVPは、後述する種々の用途の添加剤として利用されうる。
【0077】
上述したように、PVP水溶液を加熱乾燥して粉体化する際にギ酸およびアンモニアが共存すると、PVP鎖の架橋によりゲル状物が生成し、得られる粉体中に混入する。これに対し、上記の本発明の製造方法により製造されたPVP水溶液においては、ギ酸および/またはアンモニアの含有量が低減されている。従って、本発明によれば、粉体化工程におけるゲル状物の生成が防止される。
【0078】
加熱乾燥の具体的な手法は特に制限されず、重合体溶液の粉体化の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。加熱乾燥手段の一例としては、噴霧乾燥法が挙げられる。ただし、場合によってはその他の手段によりPVP水溶液を粉体化しても、勿論よい。その他の加熱乾燥手段としては、例えば、噴霧乾燥法、ドラムドライヤー乾燥法、流動床乾燥法、ベルト乾燥法などが挙げられる。
【0079】
また、加熱乾燥する際の温度条件は、通常は100〜200℃程度であり、好ましくは100〜150℃である。ただし、この範囲を外れる温度条件下で加熱乾燥が行われても、勿論よい。
【0080】
粉体化により得られる粉体状のPVPの平均粒子径は、特に制限されず、添加剤として添加される所望の用途に応じて、適宜設定されうる。
【0081】
必要であれば、加熱乾燥による粉体化工程で得られた粉体状のPVPに対して、さらに粉砕処理または造粒処理を施して、PVPの粒子径を制御してもよい。
【0082】
粉体化工程により得られた粉体状のPVPの用途としては、特に制限されないが、例えば、化粧品、医薬品(医農薬中間体を含む)、分散剤、食品、感光性電子材料、粘着付与剤の添加剤、濾過膜(例えば、中空濾過膜)製造時の添加剤などのほか、特開平11−71414号公報に記載されているような従来公知の用途にもまた、利用されうる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲が下記の形態のみに制限されるわけではない。
【0084】
実施例1
金属触媒である硫酸銅(0.00023質量部)、水(350質量部)および一重項酸素消光剤であるメチオニン(4.5質量部)を反応容器に仕込み、80℃まで昇温した。次いで、80℃を維持しながら、単量体であるN−ビニルピロリドン(450質量部)、25%アンモニア水(3.6質量部)、30%過酸化水素水(16.5質量部)および水(74.9質量部)を、各々それぞれ180分間かけて滴下した。滴下終了後、30%過酸化水素水(2.7質量部)を3回に均等に分けて1.5時間間隔で添加し、3回目の添加後、さらに80℃で1時間維持して、ポリビニルピロリドン水溶液を得た。得られたポリビニルピロリドン水溶液の物性を測定したところ、濃度が50質量%、K値が28であった。さらに、得られたポリビニルピロリドン水溶液における、ポリビニルピロリドンの全量に対するギ酸およびアンモニアの含有量を測定した。測定結果を下記の表1に示す。なお、ギ酸およびアンモニアの含有量の測定は以下の手法により行った。
【0085】
<ギ酸含有量の測定方法>
得られたポリビニルピロリドン水溶液中のギ酸量をイオンクロマトグラフ(日本ダイオネクス株式会社製、「イオンクロマトグラフシステムDX−500」、ギ酸分析用カラム:ICE−AS1、溶離液:0.5mM−オクタンスルホン酸、流量:1.0mL/min)を用いて定量し、別途算出した水溶液中のポリビニルピロリドンの全量に対する質量ppmとしてギ酸含有量を算出した。
【0086】
<アンモニア含有量の測定方法>
得られたポリビニルピロリドン水溶液中のアンモニア量をイオンクロマトグラフ(日本ダイオネクス株式会社製、「イオンクロマトグラフシステムDX−500」、アンモニア分析用カラム:IonpacCS3、溶離液:25mM−HCl/0.1mM−ジアミノプロピオン酸・一塩酸塩、流量:1.0mL/min)を用いて定量し、別途算出した水溶液中のポリビニルピロリドンの全量に対する質量ppmとしてアンモニア含有量を算出した。
【0087】
得られたポリビニルピロリドン水溶液10gを、オーブン(エスペック株式会社製、「PH−100」)を用いて150℃にて1時間加熱し、5gのポリビニルピロリドン乾燥物を得た。得られたポリビニルピロリドン乾燥物を用い、以下の性能評価を行った。
【0088】
得られたポリビニルピロリドン乾燥物5gを、さらに150℃で2時間加熱した後、45gの水を添加して10質量%水溶液を調製した。この水溶液におけるゲル状物の存在を目視にて観察した。観察結果を下記の表1に示す。
【0089】
実施例2
硫酸銅(0.00023質量部)および水(350質量部)を反応容器に仕込み、80℃まで昇温した。次いで、80℃を維持しながら、N−ビニルピロリドン(450質量部)、25%アンモニア水(3.6質量部)、30%過酸化水素水(16.5質量部)および水(74.9質量部)を、各々それぞれ180分間かけて滴下した。滴下終了後、30%過酸化水素水(2.7質量部)を3回に均等に分けて1.5時間間隔で添加し、3回目の添加後、さらに80℃で1時間維持して、ポリビニルピロリドン水溶液を得た。得られたポリビニルピロリドン水溶液の物性を測定したところ、濃度が50質量%、K値が28、pH4.3であった。得られたポリビニルピロリドン水溶液のpHを、不揮発性塩基である炭酸グアニジンの添加によりpHが8以上になるまで調整した後、蒸留によりアンモニアを除去した。上記の実施例1と同様の手法により、得られたポリビニルピロリドン水溶液における、ポリビニルピロリドンの全量に対するギ酸およびアンモニアの含有量を測定した。測定結果を下記の表1に示す。
【0090】
アンモニア除去後のポリビニルピロリドン水溶液を用い、上記の実施例1と同様の手法により、ポリビニルピロロドン乾燥物を得て、再溶解性を評価した。観察結果を下記の表1に示す。
【0091】
実施例3
硫酸銅(0.00023質量部)、水(350質量部)およびメチオニン(4.5質量部)を反応容器に仕込み、80℃まで昇温した。次いで、80℃を維持しながら、N−ビニルピロリドン(450質量部)、25%アンモニア水(3.6質量部)、30%過酸化水素水(16.5質量部)および水(74.9質量部)を、各々それぞれ180分間かけて滴下した。滴下終了後、30%過酸化水素水(2.7質量部)を3回に均等に分けて1.5時間間隔で添加し、3回目の添加後、さらに80℃で1時間維持して、ポリビニルピロリドン水溶液を得た。得られたポリビニルピロリドン水溶液の物性を測定したところ、濃度が50質量%、K値が28、pH4.3であった。得られたポリビニルピロリドン水溶液のpHを、炭酸グアニジンの添加によりpHが8以上になるまで調整した後、蒸留によりアンモニアを除去した。上記の実施例1と同様の手法により、得られたポリビニルピロリドン水溶液における、ポリビニルピロリドンの全量に対するギ酸およびアンモニアの含有量を測定した。測定結果を下記の表1に示す。
【0092】
アンモニア除去後のポリビニルピロリドン水溶液を用い、上記の実施例1と同様の手法により、ポリビニルピロロドン乾燥物を得て、再溶解性を評価した。観察結果を下記の表1に示す。
【0093】
比較例
硫酸銅(0.00023質量部)および水(350質量部)を反応容器に仕込み、80℃まで昇温した。次いで、80℃を維持しながら、N−ビニルピロリドン(450質量部)、25%アンモニア水(3.6質量部)、30%過酸化水素水(16.5質量部)および水(74.9質量部)を、各々それぞれ180分間かけて滴下した。滴下終了後、30%過酸化水素水(2.7質量部)を3回に均等に分けて1.5時間間隔で添加し、3回目の添加後、さらに80℃で1時間維持して、ポリビニルピロリドン水溶液を得た。得られたポリビニルピロリドン水溶液の物性を測定したところ、濃度が50質量%、K値が28であった。上記の実施例1と同様の手法により、得られたポリビニルピロリドン水溶液における、ポリビニルピロリドンの全量に対するギ酸およびアンモニアの含有量を測定した。測定結果を下記の表1に示す。
【0094】
得られたポリビニルピロリドン水溶液を用い、上記の実施例1と同様の手法により、ポリビニルピロロドン乾燥物を得て、再溶解性を評価した。観察結果を下記の表1に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
表1に示す結果から、PVP水溶液製造時の反応系に一重項酸素消光剤を存在させることにより、重合時のギ酸の発生が抑制されることが示唆される。また、重合後のPVP水溶液に不揮発性塩基を添加して蒸留することにより、PVP水溶液中のアンモニアが効率的に除去されることが示唆される。そしてこれらのギ酸および/またはアンモニア含有量の低減によって、PVP水溶液の乾燥時のゲル状物の発生が有効に防止されることが示される。
【0097】
よって本発明によれば、PVP水溶液の加熱乾燥により得られるPVP乾燥物へのゲル状物の混入が、簡便かつ安価な手法により抑制されうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともN−ビニルピロリドンを含む単量体を、水性媒体中、過酸化水素、金属触媒およびアンモニアの存在下で重合させる段階と、
重合により得られるビニルピロリドン系重合体を含有する水溶液に不揮発性有機塩基を添加する段階と、
不揮発性有機塩基が添加された前記水溶液を蒸留して、前記水溶液中のアンモニアを除去する段階と、
を有する、ビニルピロリドン系重合体水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記不揮発性有機塩基が、第4級アンモニウム塩および/またはグアニジン塩である、請求項2に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−82441(P2012−82441A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−22081(P2012−22081)
【出願日】平成24年2月3日(2012.2.3)
【分割の表示】特願2005−228563(P2005−228563)の分割
【原出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】