説明

ビニル系重合体の製造方法

【課題】 原子移動ラジカル重合を用いてビニル系重合体を得る際に、周期律表第8族、9族、10族、または11族の遷移金属を中心金属とする金属錯体の触媒を効率的に除く方法を提供する。
【解決手段】 原子移動ラジカル重合により重合したビニル系重合体含有溶液に、有機スルホン酸や有機カルボン酸などの有機酸を添加し所定の温度に加温することで、触媒として使用した周期律表第8族、9族、10族、または11族の遷移金属錯体の不溶化を促進させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニル系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニル系化合物を精密に重合させる方法としては、リビングアニオン重合やリビングラジカル重合等がある。リビングラジカル重合は、分子量および構造制御の点ならびに架橋性官能基を有する単量体を共重合できる点から注目されている。その中でも、有機ハロゲン化物などを開始剤とし、遷移金属錯体を触媒とする原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)法が、分子量分布の狭い、分子鎖の末端に特定の官能基を有するビニル系重合体が得られることから、近年、積極的に研究が進められている。
【0003】
原子移動ラジカル重合を用いる際には、有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤、周期律表第8族、9族、10族、または11族の遷移金属を中心金属とする金属錯体が触媒として用いられており、重合反応を行った後は、実用上、重合体から重合触媒を除く必要がある。
【非特許文献1】「Journal of American Chemical Society」,1994年,第116巻,p.7943
【非特許文献2】「Macromolecules」,1994年,第27巻,p.7228
【非特許文献3】「Journal of American Chemical Society」,1995年,第117巻,p.5614
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
原子移動ラジカル重合法を利用してビニル系重合体を製造した場合の重合触媒除去方法としては、たとえば、特開平11−193307号公報に開示された、活性炭、活性アルミナ、アルミニウムシリケート、二酸化ケイ素などの吸着剤に接触させ、引き続き吸着剤を取り除くことによってビニル系重合体を精製する方法などがあげられる。また特開2003−147015号公報には、固体の有機酸を直接添加して錯体を破壊し、金属を不溶化させて除去する方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、前者の方法においては、吸着剤が高コストであったり、吸着に時間がかかったり、吸着が不完全であることが問題となる場合があった。後者の方法においては、固体酸の溶媒中への溶解性が低く、固体酸を錯体に対して過剰に投入する必要があり、触媒失活反応に長時間を有することがあった。さらに不溶化した銅は極微粉状で重合体含有溶液中に浮遊しており、その触媒を固液分離で取り除く際にも、多大な時間を必要としていた。
【0006】
本発明は使用する、触媒除去を容易に行うことが可能なビニル系重合体の製造方法を提供するものである。本発明に係る方法によれば、触媒除去に要する処理時間を短縮することも可能である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ビニル系重合体の製造の際、重合反応が終了した後、有機酸を添加し所定の温度で加温することで、効率よく金属錯体を不溶化させ除去することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、周期律表第8族、9族、10族、または11族の遷移金属(X)を中心金属とする金属錯体を触媒として、原子移動ラジカル重合により重合したビニル系重合体含有溶液に、有機酸を添加し所定の温度に加温することで金属錯体を凝集させ除去することを特徴としたビニル系重合体の製造方法に関する(請求項1)。
【0009】
好ましい実施態様としては、有機酸が、有機スルホン酸、あるいは有機カルボン酸であるビニル系重合体の製造方法(請求項2)、
有機スルホン酸が、ベンゼンスルホン酸、あるいはその誘導体であるビニル系重合体の製造方法(請求項3)、
ベンゼンスルホン酸の誘導体が、p−トルエンスルホン酸であるビニル系重合体の製造方法(請求項4)、
重合体含有溶液に加える温度が60℃以上である、ビニル系重合体の製造方法(請求項5)、
Xを中心金属とする金属錯体が、ハロゲン化されたXと、窒素を含有する配位子との反応により生成したものであるビニル系重合体の製造方法(請求項6)、
窒素を含有する配位子が、2以上の配位座を有するキレート配位子であるビニル系重合体の製造方法(請求項7)、
重合体が、有機ハロゲン化物またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤とし、Xを中心とする金属錯体を触媒として製造されたものであるビニル系重合体の製造方法(請求項8)
が挙げられる。
【0010】
また、本発明は、上記方法で製造されたことを特徴とする重合体(請求項9)に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のビニル系重合体の製造方法によれば、重合後の重合体溶液から効率的に重合触媒である金属錯体を除去することが可能であって、金属錯体を不溶化するために要する時間を短縮し、さらに凝集肥大化した金属触媒は濾過時の抵抗が下がり固液分離操作等で取り除くために要する時間も短縮することが可能である。さらには、凝集させたことにより固液分離操作で取り出された金属触媒ケークは、微粉状のまま固液分離され取り出されたケークに比べ崩れやすく、払い出しが容易になりハンドリング性も簡便にすることできるうえ、自動排出機能を備えた固液分離器にも適用性が高くなる。その結果、生産性を向上させつつ設備コストの面で有利な生産工程を提供することができ、その工業的価値は非常に大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
【0013】
本発明は、有機ハロゲン化物などを開始剤とし、遷移金属錯体を触媒とする原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)により製造されるビニル系重合体の製造方法に関し、詳しくは、重合体含有溶液から、効率的に金属錯体を除去する方法に関する。
【0014】
ATRPは、制御の容易さなどから、ブロック共重合体の製造の際によく用いられるため、以下においては、アクリル系ブロック共重合体(A)の製造を例に挙げて、説明を進める。
【0015】
<アクリル系ブロック共重合体(A)>
本発明に係る方法で製造されるアクリル系重合体ブロック(a)およびメタアクリル系重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体(A)の構造は、特に限定されないが、線状ブロック共重合体であってもよく、分岐状(星状)ブロック共重合体であってもよく、これらの混合物であってもよい。ブロック共重合体(A)の構造は、必要とされるブロック共重合体(A)の物性に応じて使いわければよい。また、その分子量や、アクリル系重合体ブロック(a)とメタアクリル系重合体ブロック(b)の組成比は、要求されるブロック共重合体(A)を含有する組成物の成型時の形状保持や溶融性、エラストマーとしての弾性等の物性から適宜決定される。
【0016】
<アクリル系重合体ブロック(a)>
アクリル系重合体ブロック(a)は、アクリル酸エステルを主成分とする単量体を重合してなるブロックであり、このようなものとして、例えば、アクリル酸エステルおよびこれと共重合可能なビニル系単量体とからなるものが挙げられる。
【0017】
アクリル酸エステルは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。いずれの単量体を用いるかは、ゴム弾性や低温特性、圧縮永久歪み等の諸物性およびコスト等を勘案して、適宜決定する。
【0018】
アクリル系重合体ブロック(a)を構成するアクリル酸エステルと共重合可能なビニル系単量体としては、たとえば、メタアクリル酸エステル、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ケイ素含有不飽和化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド系化合物などをあげることができる。共重合可能なビニル系単量体は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらは、アクリル系重合体ブロック(a)に要求されるガラス転移温度および耐油性、メタアクリル系重合体ブロック(b)との相溶性などのバランスの観点から、好ましいものを選択することができる。なお、耐熱性を上げる為に、酸無水物をブロック(a)中に導入する場合があるが、その場合の前駆体としては、アクリル酸−t−ブチルを用いるのが好ましい。
【0019】
<メタアクリル系重合体ブロック(b)>
メタアクリル系重合体ブロック(b)は、メタアクリル酸エステルを主成分とする単量体成分を重合してなるブロックであり、このようなものとして、例えば、メタアクリル酸エステルおよびこれと共重合可能なビニル系単量体とからなるものが挙げられる。
【0020】
メタアクリル酸エステルおよびビニル系単量体成分は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。その中でも、加工性、コストおよび入手しやすさの点で、メタアクリル酸メチルが好ましい。また、メタアクリル酸イソボルニル、メタアクリル酸シクロヘキシルなどを共重合させることによって、ガラス転移点を高くすることができる。更には、耐熱性を上げる為に、酸無水物を導入する場合があるが、その場合の前駆体としては、メタアクリル酸−t−ブチルを用いるのが好ましい。
【0021】
メタアクリル系重合体ブロック(b)を構成するメタアクリル酸エステルと共重合可能なビニル系単量体としては、たとえば、アクリル酸エステル、芳香族アルケニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ケイ素含有不飽和化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド化合物などをあげることができる。
【0022】
ビニル系単量体は、メタアクリル系重合体ブロック(b)に要求されるガラス転移温度の調整、アクリル系重合体ブロック(a)との相溶性などの観点から好ましいものを選択することができる。
【0023】
<ブロック共重合体(A)の製造方法>
本発明においては、ブロック共重合体の分子量および構造制御の点ならびに架橋性官能基を有する単量体を共重合できる点に優れ、制御の容易な原子移動ラジカル重合法により、ブロック共重合体を製造する。
【0024】
原子移動ラジカル重合は、有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤、周期律表第8族、9族、10族、または11族元素を中心金属とする金属錯体を触媒として重合される。
【0025】
これらの方法によると、一般的に非常に重合速度が高く、ラジカル同士のカップリングなどの停止反応が起こりやすいラジカル重合でありながら、重合がリビング的に進行し、分子量分布の狭いMw/Mn=1.1〜1.5程度の重合体が得られ、分子量はモノマーと開始剤の仕込み時の比率によって自由にコントロールすることができる。
【0026】
原子移動ラジカル重合法において、開始剤として用いられる有機ハロゲン化物またはハロゲン化スルホニル化合物としては、一官能性、二官能性、または、多官能性の化合物を使用できる。これらは目的に応じて使い分けることができる。ジブロック共重合体を製造する場合は、一官能性化合物が好ましく、具体例としては、2−臭化プロピオン酸エチル、2−臭化プロピオン酸ブチルが、アクリル酸エステル単量体の構造と類似しているために重合を制御しやすい点から、より好ましい。a−b−a型のトリブロック共重合体、b−a−b型のトリブロック共重合体を製造する場合は二官能性化合物を使用することが好ましく、具体例としては、ビス(ブロモメチル)ベンゼン、2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル、2,6−ジブロモピメリン酸ジエチルが、原料の入手性の点から、より好ましい。分岐状ブロック共重合体を製造する場合は多官能性化合物を使用することが好ましい。
【0027】
本発明においては、原子移動ラジカル重合の触媒として用いられる遷移金属Xの錯体として、周期律表第8族、9族、10族、または11族の遷移金属(X)を中心金属とする金属錯体を触媒に用いる。このうち、好ましいものとして、1価および0価の銅、2価のルテニウム、2価の鉄または2価のニッケルの錯体をあげることができる。これらの中でも、コストや反応制御の点から銅の錯体が好ましい。
【0028】
1価の銅化合物としては、例えば、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、過塩素酸第一銅などがあげられる。その中でも塩化第一銅、臭化第一銅が、重合の制御の観点から好ましい。
【0029】
1価の銅化合物を用いる場合、触媒活性を高めるために、2,2’−ビピリジル、その誘導体(例えば4,4’−ジノリルー2,2’−ビピリジル、4,4’−ジ(5−ノリル)−2,2’−ビピリジルなど)などの2,2’−ビピリジル系化合物、1,10−フェナントロリン、その誘導体(例えば4,7−ジノリル−1,10−フェナントロリン、5,6−ジノリル−1,10−フェナントロリンなど)などの1,10−フェナントロリン系化合物、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチル(2−アミノエチル)アミンなどのポリアミンなどを配位子として添加しても良い。
【0030】
原子移動ラジカル重合は、無溶媒(塊状重合)または各種溶媒中で行うことができる。溶媒としては、例えば、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、ニトリル系溶媒、エステル系溶媒などをあげることができ、これらは単独で又は二種以上を混合して用いることができる。反応制御の観点から、これらのうち、アクリル系重合体ブロック(a)の重合溶媒としてはニトリル系溶剤のアセトニトリル、メタアクリル系重合体ブロック(b)の重合溶媒としてはアセトニトリルと炭化水素系溶剤であるトルエンの混合溶媒が好ましく用いられる。溶媒を使用する場合、その使用量は、系全体の粘度と必要とする攪拌効率の関係から適宜決定することができる。
【0031】
また、原子移動ラジカル重合は、室温〜200℃で行うのが好ましく、50〜150℃の範囲で行うのがより好ましい。原子移動ラジカル重合温度が室温より低いと、粘度が高くなり過ぎて反応速度が遅くなる場合があり、200℃を超えると安価な重合溶媒を使用できない。
【0032】
原子移動ラジカル重合によりブロック共重合体を重合する方法としては、単量体を逐次添加する方法、あらかじめ合成した重合体を高分子開始剤としてつぎのブロックを重合する方法、別々に重合した重合体を反応により結合する方法などをあげることができる。これらの方法は、目的に応じて使い分けることができる。重合工程の簡便性の点から、あらかじめ合成した重合体を高分子開始剤として、次のブロックを重合する方法が好ましい。
【0033】
重合工程について以下に詳細に説明する。
【0034】
<(1)アクリル系重合体ブロック(a)の重合工程>
アクリル系重合体ブロック(a)の重合工程(1)の具体例を以下に示す。本発明におけるアクリル系重合体ブロック(a)の重合工程では、例えば、反応機に撹拌型耐圧反応機を用いて、反応機内を十分に窒素置換し、酸素を取り除いた状態にして、アクリル系単量体、重合触媒である遷移金属触媒、重合溶媒および重合開始剤をそれぞれ所定量順次仕込み、室温〜200℃で所定量の触媒配位子を添加してラジカル重合を開始する方法にてアクリル系重合体ブロック(a)が製造される。
【0035】
重合に使用する反応機の種類は、特に限定されないが、低粘性から高粘性に至る条件における重合体溶液の十分な混合と重合体溶液の迅速な昇温および冷却と重合反応中の重合体溶液からの発熱の除去が必要となることから、撹拌型反応機を使用することが製法上有利である。
【0036】
重合における原料の仕込み順序は、モノマー溶液中に遷移金属触媒を十分に分散させることが重合反応の安定性に著しく寄与することから、触媒を最も良く分散できる順序で仕込むことが肝要である。この場合、触媒は、最初に添加するよりもモノマー溶液が反応機に仕込まれた段階で添加することが好ましく、より好ましくは、モノマー溶液を撹拌している段階で添加することが好ましい。また重合溶媒が触媒を凝集させる性質を持つ場合には、触媒を添加後に触媒を凝集させる重合溶媒を添加することが好ましい。
【0037】
触媒配位子を添加してラジカル重合を開始する際の溶液温度は、重合活性を十分に発現し得る温度となる60℃以上で、かつラジカル重合特有の強い初期発熱を抑えるためには85℃以下とすることが製造上有利となる。従って、本発明においては重合開始時の溶液温度は60℃〜85℃であることが好ましく、重合反応の安定化には70℃〜80℃がより好ましい。
【0038】
アクリル系重合体ブロック(a)の重合を行う工程(1)においては、アクリル系単量体の転化率が99%を超えるとラジカル同士のカップリング、不均化などの副反応により反応のリビング性が損なわれ、設計通りの重合体が得られない場合が見られる。一方、アクリル系単量体の転化率を90%以下として終了すると未反応アクリル系単量体が次の重合工程への不純物となって製品物性を低下させたり、未反応アクリル系単体量の回収を煩雑化させたりする場合がある。従って、アクリル系単量体の転化率は90%〜99%とすることが好ましく、不純物低減や、副反応の低減のためには95〜99%とすることがより好ましい。
【0039】
アクリル系重合体ブロックの重合反応時間は、アクリル系単量体の重合転化率の追跡上および目標の転化率(90〜99%)で終了させるために1時間以上とし、また生産性から8時間以下とすることが好ましく、重合コントロールのし易さから3〜6時間とすることがより好ましい。また重合中の重合体溶液温度は、重合反応速度を安定させることを目的に、目標温度から±10℃以内に制御することが好ましく、精度向上のためには±5℃以内とすることがより好ましい。重合終了後は、アクリル系重合体ブロックの重合進行を抑制するために、可能な限り迅速に工程(2)の実施に移る必要がある。
【0040】
<(2)メタアクリル系重合体ブロック(b)の重合工程>
メタアクリル系重合体ブロック(b)の重合工程(2)の具体例を以下に示す。工程(1)と同様、重合溶媒、重合触媒である遷移金属触媒、およびメタアクリル系単量体をそれぞれ所定量順次反応容器に導入し、所定の温度範囲で所定量の触媒配位子を添加する。これにより、ラジカル重合が開始される。この場合、アクリル系重合体ブロックのカップリング、不均化などの副反応を抑制するために、重合溶媒添加による溶液の希釈を速やかに行うことが好ましい。
【0041】
メタアクリル系重合体ブロック(b)の重合における原料の添加順序は、特に限定されないが、遷移金属触媒を添加するにあたり、重合体溶液中に触媒を十分に分散させることが反応の安定化に必要であることから、前記のように重合溶媒を添加して重合体溶液を低粘性とした後に遷移金属触媒を添加することが好ましい。また遷移金属触媒を添加後は、アクリル系重合体ブロックのカップリング反応等の副反応を低減するために、速やかに(10分以内)メタアクリル系単量体を添加することが好ましい。
【0042】
メタアクリル系重合体ブロック(b)の重合反応時間は、アクリル系重合体ブロック重合工程と同様に、メタアクリル系単量体の重合転化率の追跡を可能にし、目標の転化率で終了させるために1時間以上とし、また生産性から8時間以下とすることが好ましく、重合コントロールのし易さから3〜6時間とすることがより好ましい。また重合中の重合体溶液温度も、アクリル系重合体ブロック重合工程と同様に重合反応速度を安定させることを目的に、目標温度から±10℃以内に制御することが好ましく、精度向上のためには±5℃以内とすることがより好ましい。
【0043】
メタアクリル系重合体ブロック(b)の重合を行う工程(2)においては、未反応メタアクリル系単量体が多量に残った状態で重合を終了すると溶媒回収工程の煩雑化や溶媒回収時におけるメタアクリル系単量体の劣化によってリサイクル使用が困難となる場合があるため、90%を超える高転化率とすることが望ましい。一方、転化率が99%を超えると、ラジカル同士のカップリング、不均化などの副反応により反応のリビング性が損なわれ、設計通りの重合体が得られない場合があるため、実用的にはメタアクリル系単量体の転化率は90〜99%であることが好ましく、副反応の抑制のためには95〜99%がより好ましい。
【0044】
また、メタアクリル系単量体の重合を高転化率とするためには、重合溶媒の重量をメタアクリル系重合体ブロック100重量部に対して300重量部以下とするのが望ましく、より重合活性を高めるには重合体溶液中のメタアクリル系単量体の濃度を高くするのがよい。しかしながら、重合溶媒量が10重量部未満となると、60%を超える転化率になった時に、重合体溶液粘度が著しい増加を示し、反応活性を維持するために添加するポリアミン化合物の重合体溶液中への混合・拡散が著しく悪化するために、高転化率を実現できない場合がある。従って、メタアクリル系重合体ブロックの重合工程において、メタクリル系単量体の転化率を90〜99%とするためには、重合溶媒の量を、メタアクリル系重合体ブロック(b)100重量部に対して10〜300重量部とすることが好ましく、混合・拡散および反応活性のアップのためには、メタアクリル系重合体ブロック(b)100重量部に対して150〜250重量部とすることがより好ましい。
【0045】
重合開始剤に対する遷移金属触媒の添加量は、可能な限り削減することが原料費のコストダウンから重要である。開始剤のハロゲン基に対して遷移金属添加量が0.1倍モル未満では、反応活性が低いばかりでなく発現しない場合もある。また、20倍モルを超える触媒添加は、反応活性向上に寄与しないばかりでなく、重合反応終了後の触媒除去工程を煩雑化させる場合がある。従って、遷移金属触媒の添加量は、重合開始剤に対して0.1〜20倍モルにすることが好ましく、十分な反応性と制御性を確保するためには0.5〜10倍モルがより好ましい。
【0046】
触媒活性は、ポリアミン化合物の添加量によっても制御可能である。錯体形成における必要量以上のポリアミン化合物の添加は、分子量分布を増大させるだけでなく、触媒除去工程にも悪影響となるため可能な限り削減することのが望ましい。遷移金属錯体として銅化合物を使用する場合には、通常の原子移動ラジカル重合の条件では、遷移金属の配位座の数と、配位子の配位する基の数から決定され、ほぼ等しくなるように設定される。たとえば、通常、2,2’−ビピリジルおよびその誘導体を銅化合物に対して加える量がモル比で2倍であり、ペンタメチルジエチレントリアミンの場合はモル比で1倍であり、金属原子が配位子に対して過剰になる方が好ましい。本発明の場合は、ポリアミン化合物量が原子移動ラジカル重合反応時に加える重合開始剤に対して、0.1倍モル未満では充分な重合活性が得られず、重合開始剤に対して4倍モルを超えると重合反応が速すぎて制御できない場合がある。また、遷移金属触媒錯体へのポリアミン化合物の過剰な配位により、反応が進行しなくなるなどの問題が生じる場合がある。以上のことから、好ましいポリアミン化合物の添加量は重合開始剤に対して0.1〜4倍モルが好ましく、十分な反応性と制御性を確保するためには0.2〜3倍モルがより好ましい。
【0047】
<(3)アクリル系ブロック共重合体溶液の精製工程>
重合によって得られた重合体溶液は、重合体および触媒である金属錯体を含んでいるため、重合活性を消失させるとともに、これら金属錯体を分離除去する必要がある。金属錯体は、有機酸溶液を添加して金属錯体を失活させた後にこれを除去する。本発明で使用することができる有機酸は、特に限定されないが、カルボン酸基またはスルホン酸基を含有する有機物を用いるのが好ましい。
【0048】
使用することができる有機カルボン酸、すなわちカルボン酸基を含有する有機物としては、特に限定されないが、たとえば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ヘキサン酸、4−メチル吉草酸、ヘプタン酸、ウンデカン酸、イコサン酸などの飽和脂肪族の一官能性のカルボン酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸などのハロゲンを含有する飽和脂肪族の一官能性のカルボン酸、アセトキシコハク酸、アセト酢酸、エトキシ酢酸、4−オキソ吉草酸、グリコール酸、グリシド酸、グリセリン酸、2−オキソ酪酸、グルタル酸などの置換基を含有する飽和脂肪族の一官能性のカルボン酸、プロピオル酸、アクリル酸、クロトン酸、4−ペンテン酸、アリルマロン酸、イタコン酸、オキサロ酢酸などの脂肪族不飽和の一官能性のカルボン酸、安息香酸、アセチル安息香酸、アセチルサリチル酸、アトロパ酸、アニス酸、ケイ皮酸、サリチル酸などの芳香環あるいは不飽和結合のα位にカルボン酸の炭素が結合した一官能性のカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、3−オキソグルタル酸、アゼライン酸、エチルマロン酸、4−オキソヘプタン2酸、3−オキソグルタル酸などの飽和脂肪族の二官能性のカルボン酸、アセチレンジカルボン酸などの不飽和脂肪族の二官能性のカルボン酸、イソフタル酸などの芳香族の二官能性のカルボン酸、アニコット酸、イソカンホロン酸などのトリカルボン酸、アミノ酪酸、アラニンなどのアミノ酸、などがあげられる。これらの2 種以上を併用してもかまわない。これらの中では、有機溶媒への分散しやすさ、酸と金属錯体の反応との生成物の性状、入手しやすさなどから、シュウ酸が好ましい。
【0049】
本発明で使用することができる有機スルホン酸、すなわちスルホン酸基を含有する有機物としては、特に限定されないが、たとえば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、ペンタンスルホン酸などの飽和脂肪族の一官能性のスルホン酸、1,2−エタンスルホン酸、1,3−プロパンスルホン酸、1,4−ブタンスルホン酸、1,5−ペンタンスルホン酸などの飽和脂肪族の二官能性のスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、o−トルエンスルホン酸、m−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ナフチルアミンスルホン酸、アミノフェノールスルホン酸などの芳香族の一官能性のスルホン酸、などがあげられる。これらの内、2種以上を併用してもかまわない。その中でも、有機溶媒への分散しやすさ、酸と金属錯体の反応との生成物の性状、入手しやすさなどから、ベンゼンスルホン酸もしくはその誘導体が好ましく、それらの中ではp−トルエンスルホン酸がより好ましい。
【0050】
好適に使用可能な有機酸の選定に当たり、条件を詳細に説明する。第一に、その有機酸が、除去したい銅を中心とする金属錯体と、金属塩を生成することである。第二に、生成した金属塩が、重合体の溶液あるいは融液から分離可能であることである。第三に、有機酸が、重合体に致命的な影響を与えないことである。第四に高温の処理温度条件下において、揮発または分解せずに重合体溶液中を酸性に保てることである。有機酸はそれ自体が液体あるいは固体の場合があるが、上の条件を満たせば何れであってもかまわない。
【0051】
これらの条件をさらに詳細に説明する。第一に、有機酸が、除去したい銅を中心とする金属錯体と金属塩を生成するためには、有機酸が、ある程度以上の酸性度を有する必要がある。酸性度の指標として有機化合物の水溶液中の解離定数を用いるならば、第1解離段の酸解離定数の逆数の対数値(pKa)が、6.0以下であることが好ましく、5.5以下であることがより好ましく、5.0以下であることがさらに好ましい。この解離定数については、たとえば、化学便覧(改訂3版、日本化学会編、1984、基礎編II、339ページの表10,11)などを参考にすることが出来る。たとえば、酢酸のpKaは4.56、安息香酸のpKaは4.20、シュウ酸のpKaは1.04(第1段)、3.82(第2段)である。上表にはベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸の値が記載されていないが、いずれも水に可溶であり、ベンゼンスルホン酸のpKaは−2.7(有機化合物辞典942ページ、有機合成化学協会編、1985)、また、p−トルエンスルホン酸は塩酸や硫酸と同程度の強酸であるとされていることから(有機化合物辞典645ページ、有機合成化学協会編、1985)そのpKaは大きくとも2程度であるとすることができる。水に溶けない有機酸の場合は、その誘導体で水溶性の有機酸や、他の酸との強弱関係から類推することができる。
【0052】
第二に、生成した金属塩が、重合体の溶液あるいは融液から分離可能であるためには、生成した金属塩の溶媒に対する溶解度が小さいことが好ましく、難溶であることがさらに好ましく、不溶であることが最も好ましい。金属塩の溶解度を事前に予測することは難しいが、金属錯体の溶媒に対する溶解度、用いる有機酸の溶媒に対する溶解度を参考にすることが出来る。
【0053】
第三に、有機酸が、重合体に致命的な影響を与えないためには、重合体の主鎖や側鎖が酸によって分解されない構造であること、重合体に酸と反応する官能基がないことが好ましい。好ましい場合に該当しない場合は、反応させる有機酸の量や濃度、反応温度、反応時間、溶媒などを調整する必要がある。ただし、重合体の官能基を酸と反応させることで所望の官能基に変換させる場合や、官能基が酸と反応しても化学的手段などで元の状態に戻せる場合などは除く。
【0054】
第四に、銅を凝集肥大化させるために、重合体含有物に温度を加えるわけだが、所定の処理温度においても有機酸は一定の溶解度を示すことが必要で、処理温度が有機酸の沸点以下である有機酸を選択することが好ましい。その処理温度において有機酸が重合体含有物に溶解していても、または融点を超えて融解している状態であっても、どちらでもかまわない。
【0055】
有機酸の作用により金属錯体の一部が分解してしまう場合を想定して、遊離した配位子をも除去できることが好ましい。すなわち、遊離した配位子が溶媒に不溶であるか、配位子と有機酸との反応により溶媒に不溶な有機塩が生成することが好ましい。この塩の溶解度を事前に予測することは難しいが、配位子の溶媒に対する溶解度、用いる有機酸の溶媒に対する溶解度を参考にすることが出来る。有機酸をそのまま使用するか、水溶液として使用するか、有機溶媒の溶液として使用するかについては、特に制限はないが、上の条件を満たせばいずれであってもかまわない。
【0056】
なお、本発明にかかる方法では、原子移動ラジカル重合の触媒だけでなく、触媒機能を持たない金属錯体も除去することが可能である。
【0057】
本発明で使用する有機酸の量は、金属錯体を十分に除去するために、Xを中心とする金属錯体に含有されるX1mol当たり、有機酸0.6mol以上であることが好ましい、有機酸1.2mol以上であることがさらに好ましい。また、配位子の配位座1mol当たり、使用する有機酸の量は0.8mol以上であることが好ましく、1.5mol以上であることがより好ましく、3.0mol以上であることが更に好ましい。但し、有機酸の量を増やす程反応時間は短縮され凝集しやすくなるものの、コストの観点、失活した金属触媒の分離処理への影響、余剰の有機酸を除く必要の観点などを考慮して、添加量を抑えることが望ましい。
【0058】
有機酸を添加した重合体含有溶液に加える温度は使用する有機酸の種類により適用温度が異なるが50℃以上であることが好ましく、p−トルエンスルホン酸を用いた場合においては60℃以上がより好ましく、より凝集を促進させるために70℃以上であることがさらに好ましい。
【0059】
有機酸は添加してから素早く処理温度まで重合体溶液を昇温することが好ましく、処理温度よりも低い温度で処理が進まないよう重合体溶液を処理温度に加温してから添加することがもっとも好ましい。
【0060】
また本発明の有機酸の添加による金属錯体凝集反応は、各種の溶媒中で行うことができる。高温で処理を行うとより凝集が促進され、濾過速度が向上するが、処理温度を高く設定しようとすると安価な重合溶媒を使用できない場合があるので200℃以下で行うことが望ましい。溶剤を使用する場合、その使用量は、系全体の粘度と必要とする攪拌効率、および反応速度の関係から適宜決定すればよい。
【0061】
以上より、処理温度としては50〜200℃が好ましく、60〜200℃がより好ましく、70〜200℃がさらに好ましい。
【0062】
使用する溶媒としては、たとえばベンゼン、トルエンなどの炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノールなどのアルコール系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒などがあげられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
錯体凝集反応時の気相部の気体種について特に制限はないが、操作の安全上、不活性ガス、特に窒素下で行うことが好ましい。
【0064】
金属錯体凝集反応を行う反応槽内の攪拌動力や流動状態は、特に制限されないが、凝集体は滞留すると槽壁に付着することがあるので、除去すべき触媒固体粒子が槽底に滞留しない攪拌動力を加えることが望ましい。
【0065】
反応の結果生成した金属塩を除去する方法は特に制限されないが、必要に応じて、フィルタープレスなどの濾過、デカンテーション、遠心沈降など公知の方法を使用することが出来る。また必要に応じて、金属塩を除去せずに、次の中和工程に進むことも可能である場合がある。
【0066】
重合体と、銅を中心金属とする金属錯体を含有する混合物に、有機酸を添加することで金属錯体を除去した後、系が酸性側に寄ることがあり、それが高分子構造を破壊する問題になる場合があるので、引き続き塩基性物質を添加して、溶液を中和するのが溶液の取り扱い上望ましい。塩基性物質としては、塩基性活性アルミナ、塩基性吸着剤、固体無機酸、陰イオン交換樹脂、セルロース陰イオン交換体などをあげることができる。塩基性吸着剤としては、キョーワード500SH(協和化学製)などをあげることができる。固体無機酸としては、Na2O、K2O、MgO、CaOなどをあげることができる。陰イオン交換樹脂としては、スチレン系強塩基性陰イオン交換樹脂、スチレン系弱塩基性陰イオン交換樹脂、アクリル系弱塩基型陰イオン交換樹脂などをあげることができる。
【0067】
以上においては、アクリル系ブロック共重合体を重合した後、銅錯体を除去する場合を例に挙げて説明したが、本願発明にかかる方法は、原子移動ラジカル重合によるビニル系重合体の製造の際に、広範に適用することが出来る。
【実施例】
【0068】
本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0069】
<分子量測定法>
本実施例に示す分子量は以下に示すGPC分析装置で測定し、クロロホルムを移動相として、ポリスチレン換算の分子量を求めた。システムとして、ウォーターズ(Waters)社製GPCシステムを用い、カラムに、昭和電工(株)製Shodex K−804(ポリスチレンゲル)を用いた。
【0070】
<重合反応の転化率測定法>
本実施例に示す重合反応の添加率は以下に示す分析装置、条件で測定した。
使用機器:(株)島津製作所製ガスクロマトグラフィーGC−14B
分離カラム:J&W SCIENTIFIC INC製、キャピラリーカラムDB−17、0.32mmφ×30m
分離条件:初期温度50℃、3分間保持
昇温速度40℃/min
最終温度140℃、1.5分間保持
インジェクション温度250℃
ディテクター温度250℃
試料調整:サンプルを酢酸エチルにより約10倍に希釈し、アセトニトリルを内部標準物質とした。
【0071】
<銅の定量方法>
試料約0.1gをPTFE製分解容器にとり、超高純度硫酸および超高純度硝酸を加えてマイルストーンゼネラル社製マイクロウェーブ分解装置MLS−1200MEGAで加圧酸分解し、分解物を50mLに定容した。この溶液について、ICP質量分析器(Agilent7500C、横川アナリティカルシステムズ社製)を使用し、ノーマルプラズマ条件で、内部標準物質を用いて絶対検量線法で定量し、同時に実施したブランク試験値を減算した。
【0072】
〔製造例1〕
窒素置換した500L反応機にアクリル酸n−ブチル77.8kg、アクリル酸t−ブチル3.47kg、および臭化第一銅0.692kgを仕込み、攪拌を開始した。その後、2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル0.965kgをアセトニトリル2.45kgに溶解させた溶液を仕込み、ジャケットに温水を通水し、内溶液を75℃に昇温しつつ30分間攪拌した。内温が75℃に到達した時点でペンタメチルジエチレントリアミン0.0836kgをアセトニトリル0.0916kgに溶解したものを加えて、第一ブロックの重合を開始した。
【0073】
添加率が99%に到達したところで、トルエン106kg、塩化第一銅0.477kg、メタアクリル酸メチル49.6kg、アクリル酸エチル8.05kg、およびペンタメチルジエチレントリアミン0.0836kgをアセトニトリル0.0916kgに溶解したものを加えて、第二ブロックの重合を開始した。添加率が95%に到達したところで、トルエン400kgを加えて反応溶液を希釈するとともに反応機を冷却して重合を停止させた。得られたブロック共重合体のGPC分析を行ったところ、数平均分子量Mnが79800、分子量分布Mw/Mnが1.48であった。
【0074】
得られたブロック共重合体溶液に対しトルエン30kgを加えて重合体濃度を25重量%に調製した。
【0075】
〔製造例2〕
窒素置換した500L反応機にアクリル酸n−ブチル66.3kg、アクリル酸t−ブチル2.96kg、および臭化第一銅0.590kgを仕込み、攪拌を開始した。その後、2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル0.822kgをアセトニトリル2.42kgに溶解させた溶液を仕込み、ジャケットに温水を通水し、内溶液を75℃に昇温しつつ30分間攪拌した。内温が75℃に到達した時点でペンタメチルジエチレントリアミン0.0712kgをアセトニトリル0.0780kgに溶解したものを加えて、第一ブロックの重合を開始した。
【0076】
添加率が99%に到達したところで、トルエン91.0kg、塩化第一銅0.407kg、メタアクリル酸メチル42.3kg、アクリル酸エチル6.86kg、およびペンタメチルジエチレントリアミン0.0712kgをアセトニトリル0.0780kgに溶解したものを加えて、第二ブロックの重合を開始した。添加率が95%に到達したところで、トルエン210kgを加えて反応溶液を希釈するとともに反応機を冷却して重合を停止させた。得られたブロック共重合体のGPC分析を行ったところ、数平均分子量Mnが76300、分子量分布Mw/Mnが1.50であった。
【0077】
得られたブロック共重合体溶液に対しトルエン30kgを加えて重合体濃度を25重量%に調製した。
【0078】
重合体濃度を25重量%に調整した後、重合体溶液中のアセトニトリルを取り除くために70℃に加温し、マイナス0.07気圧からマイナス0.09気圧条件下で減圧蒸発を行い、重合体濃度を50重量%まで濃縮した。蒸発操作完了後にトルエン228kgを加えて25重量%に再調整した。
【0079】
〔実施例1〕
2Lのセパラブルフラスコに製造例1で得られたブロック共重合体と残存銅錯体の混合溶液700gをとり、湯浴にて50℃に加温した。50℃到達後にp-トルエンスルホン酸・1水和物の結晶を、添加したトリアミンの総量の3倍モル量分になるよう2.89g加え、温度を保ったまま2時間攪拌した。70℃の条件で攪拌したのち湯浴から外し1時間攪拌して、重合体溶液の温度を室温まで戻した。攪拌終了後、バッチ型加圧濾過器を用いて固液分離を行い、無色透明の液体を得た。この得られた液体を乾燥させ、ブロック共重合体の固形物を定量的に取り出した。
【0080】
〔実施例2〕
2Lのセパラブルフラスコに製造例1で得られたブロック共重合体と残存銅錯体の混合溶液700gをとり、湯浴にて70℃に加温した。70℃到達後にp-トルエンスルホン酸・1水和物の結晶を、添加したトリアミンの総量の3倍モル量分になるよう2.89g加え、温度を保ったまま2時間攪拌した。70℃の条件で攪拌したのち湯浴から外し1時間攪拌して、重合体溶液の温度を室温まで戻した。攪拌終了後、バッチ型加圧濾過器を用いて固液分離を行い、無色透明の液体を得た。この得られた液体を乾燥させ、ブロック共重合体の固形物を定量的に取り出した。
【0081】
〔実施例3〕
2Lのセパラブルフラスコに製造例1で得られたブロック共重合体と残存銅錯体の混合溶液700gをとり、湯浴にて90℃に加温した。90℃到達後にp-トルエンスルホン酸・1水和物の結晶を、添加したトリアミンの総量の3倍モル量分になるよう2.89g加え、温度を保ったまま2時間攪拌した。70℃の条件で攪拌したのち湯浴から外し1時間攪拌して、重合体溶液の温度を室温まで戻した。攪拌終了後、バッチ型加圧濾過器を用いて固液分離を行い、無色透明の液体を得た。この得られた液体を乾燥させ、ブロック共重合体の固形物を定量的に取り出した。
【0082】
〔実施例4〕
容量5Lのオートクレーブに製造例2で得られたブロック共重合体と残存銅錯体の混合トルエン溶液を4000gとり、ジャケットに熱媒を通して70℃に加温した。70℃に到達後、内圧を抜き、p−トルエンスルホン酸・1水和物の結晶を、転化したトリアミンの総量の3倍モル量分になるよう16.5g加え、70℃の条件下で2時間攪拌した。攪拌終了後、室温まで冷却し濾過助剤としてラヂオライト#3000(昭和化学製)をポリマーに対して2重量部の20.0g加え攪拌した後、フィルタープレス濾過器(濾過面積100m)を用いて固液分離を行い、その積算濾液量を経時的に記録した。
【0083】
〔実施例5〕
容量5Lのオートクレーブに製造例2で得られたブロック共重合体と残存銅錯体の混合トルエン溶液を4000gとり、ジャケットに熱媒を通して80℃に加温した。80℃に到達後、内圧を抜き、p−トルエンスルホン酸・1水和物の結晶を、添加したトリアミンの総量の3倍モル量分になるよう16.5g加え、80℃の条件下で2時間攪拌した。攪拌終了後、室温まで冷却し濾過助剤としてラヂオライト#3000(昭和化学製)をポリマーに対して2重量部の20.0g加え攪拌した後、フィルタープレス濾過器(濾過面積100m)を用いて固液分離を行い、その積算濾液量を経時的に記録した。
【0084】
〔実施例6〕
容量5Lのオートクレーブに製造例2で得られたブロック共重合体と残存銅錯体の混合トルエン溶液を4000gとり、ジャケットに熱媒を通して85℃に加温した。85℃に到達後、内圧を抜き、p−トルエンスルホン酸・1水和物の結晶を、添加したトリアミンの総量の3倍モル量分になるよう16.5g加え、85℃の条件下で2時間攪拌した。攪拌終了後、室温まで冷却し濾過助剤としてラヂオライト#3000(昭和化学製)をポリマーに対して2重量部の20.0g加え攪拌した後、フィルタープレス濾過器(濾過面積100m)を用いて固液分離を行い、その積算濾液量を経時的に記録した。
【0085】
〔比較例1〕
2Lの三口フラスコに製造例1で得られたブロック共重合体と残存銅錯体の混合溶液700gをとり、p-トルエンスルホン酸・1水和物の結晶を、添加したトリアミンの総量の3倍モル量分になるよう2.69g加え、室温下(20℃前後)3時間攪拌した。攪拌終了後、バッチ型加圧濾過器を用いて固液分離を行い、無色透明の液体を得た。この得られた液体を乾燥させ、ブロック共重合体の固形物を定量的に取り出した。
【0086】
〔比較例2〕
容量5Lのオートクレーブに製造例2で得られたブロック共重合体と残存銅錯体の混合トルエン溶液を4000gとり、p−トルエンスルホン酸・1水和物の結晶を、添加したトリアミンの総量の3倍モル量分になるよう16.5g加え、室温(20℃前後)条件下で3時間攪拌した。攪拌終了後、濾過助剤としてラヂオライト#3000(昭和化学製)をポリマーに対して2重量部の20.0g加え攪拌した後、フィルタープレス濾過器(濾過面積100m)を用いて固液分離を行い、その積算濾液量を経時的に記録した。
【0087】
【表1】

【0088】
表1中の濾過時間は実施例および比較例で処理した混合溶液を濾過器により全て分離するまでに要する時間を表している。以上からわかるように、(結論)実施例2では銅が良好に凝集し、比較例1と比べ、処理温度を上げることにより、濾過時間が7分の2に短縮している。また実施例1や実施例3での処理でも比較例1に比べ約2分の1に濾過時間の時間で全量処理できている。濾液中の銅残存量は比較例1と比べ若干高くなったものの同程度の残存量となった。
【0089】
なお、凝集の具合は目視観察によるもので、×では見た目で凝集はしておらず、○では約2mm程度の凝集体を生じている。
【0090】
【表2】

【0091】
表2中の濾過時間は実施例および比較例で処理した混合溶液を濾過器により3000g分離するまでに要する時間を表している。3000gは濾過面積1平方メートルあたり0.33立方メートルを処理する時間に等しい。以上からわかるように、(結論)実施例5、6は比較例2と比べ、濾過に要した時間は約3分の1となっている。また実施例4は目視で凝集はしていないが比較例2に比べ5割の濾過時間の短縮改善がみられる。濾液も清澄で、十分に良好なブロック体を得ることが出来た。
【0092】
なお、凝集の具合は表1と同様の基準で目視観察を行った。×では見た目で凝集はしておらず、△では約1mm程度の凝集体を生じている。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】実施例4,5,6と比較例2の濾過速度の関係を表した図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表第8族、9族、10族、または11族の遷移金属(X)を中心金属とする金属錯体を触媒として、原子移動ラジカル重合により重合したビニル系重合体含有溶液に、有機酸を添加し所定の温度に加温したのち、金属触媒を固液分離により除去することを特徴としたビニル系重合体の製造方法。
【請求項2】
有機酸が、有機スルホン酸、あるいは有機カルボン酸である、請求項1記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項3】
有機スルホン酸が、ベンゼンスルホン酸、あるいはその誘導体である、請求項2記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項4】
ベンゼンスルホン酸の誘導体が、p−トルエンスルホン酸である、請求項3記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項5】
重合体含有溶液を50℃以上の温度にする、請求項1〜4のいずれかに記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項6】
Xを中心金属とする金属錯体が、ハロゲン化されたXと、窒素を含有する配位子との反応により生成したものである、請求項1〜5のいずれかに記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項7】
窒素を含有する配位子が、2以上の配位座を有するキレート配位子である、請求項6記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項8】
重合体が、有機ハロゲン化物またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤とし、Xを中心とする金属錯体を触媒として製造されたものである、請求項1〜7のいずれかに記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載された方法で製造されたことを特徴とする、重合体。

【図1】
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【公開番号】特開2008−69251(P2008−69251A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−248753(P2006−248753)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】