説明

ビンフルニンおよびトラスツズマブを含んでなる癌治療の組合せ療法

本発明は、ビンフルニンおよびトラスツズマブを含んでなる組み合わせの使用を含んでなる、癌の治療方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌、さらに詳細には、治療を必要とする人々における乳癌(breast cancer)の治療方法であって、ビンフルニン(vinflunine)の投与工程をトラスツズマブ(trastuzumab)の投与工程と組み合わせて含んでなる方法に関する。
【0002】
抗癌化学療法は異なる薬剤の組合せを必要とすることがある。主として単独使用したときの薬剤の一方の毒性を減少させかつ場合によっては組合せによって単独と考えられる薬剤のそれぞれと比較して効力の増加を誘発することがあるからである。
【0003】
ビンカアルカロイドの抗新生物特性を検討すると、ビンクリスチン、ビンブラスチンまたはそれらの誘導体、例えば、ビンフルニン、すなわち20',20'-ジフルオロ-3',4'-ジヒドロビノレルビンであって、その式が欧州特許第710 240号明細書に記載されているようなインドール構造を含んでなる化合物の興味深い活性を示しうる。
【0004】
ビンフルニンの特性はイン・ビボで検討されてきており、乳癌の治療についてそれを使用することの利点が確立されており(Bennouna et al. 2003. Ann. Oncol. 14 : 630-637)、最近のフェーズII研究で確認されている(Campone et al. 2006. British Journal of Cancer. 95 : 1161-1166)。ビンフルニンを用いる治療で観察された効力の他に、RECIST法によって測定した選択された患者の総合効果(overall response)は、乳癌について約30%であった。RECIST(固形腫瘍における応答評価基準)法は、化学療法の場合に腫瘍応答の評価に向けられた詳細に記録されかつ立証された測定である(Duffaud, et al, 「固形腫瘍の治療に対する応答評価の新指針(New guidelines to evaluate the response to treatment in solid tumors)」. Journal of the National Cancer Institute, 2000. Vol 92, No 3, 205-216。
【0005】
転移性乳癌(MBC)は標準的療法では本質的に治療不能であり、MBCの患者の平均生存期間は転移が裏付けられた後約2年である。したがって、治療の目的は生活の質の維持(または幾つかの場合には改善)を試みながら、患者の症状を改善することである。生存延長は、特にher-2オンコジーンを過剰発現または増幅する乳癌では明確な目的である。
【0006】
ハーセプチン(Herceptin)(登録商標)(トラスツズマブ)は、HER2タンパク質を過剰発現する転移性乳癌に対するFDAによって承認された治療用モノクローナル抗体である。トラスツズマブは、(1)1回以上の化学療法の投薬計画により以前に転移性乳癌の治療を行った後の単一薬剤として、および(2)転移性乳癌について以前に化学療法を受けたことのない患者でのパクリタキセルとの組合せで、HER2を過剰発現する転移性乳癌の治療を目的として現在FDAによって承認されている。さらに、タキサンによるアジュバントまたはネオアジュバント化学療法にトラスツズマブを添加することにより、初期段階の乳癌の患者が改善されるという証拠がある。
【0007】
本発明は、新生物の治療におけるビンフルニンとトラスツズマブとを含んでなる組合せ療法の使用を提供する。
【0008】
本発明は、哺乳類の新生物の治療における同時、個別または逐次使用を目的として処方されたトラスツズマブとビンフルニンとを含む製品も提供する。
【0009】
本発明による方法、投薬計画、組合せおよび生成物は、気管支肺胞癌や非小細胞肺癌のような肺癌、乳癌、骨髄腫、前立腺癌、頭部および頸部癌、または移行上皮癌、すなわち子宮頸部の小細胞および大細胞神経内分泌癌などの様々な新生物の治療に有用である。
【0010】
一態様によれば、トラスツズマブおよびビンフルニンは、乳癌、詳細には転移性乳癌の治療に特に適している。
【0011】
本明細書で用いられるビンフルニンという用語は、その式が欧州特許第710 240号明細書に記載されている20',20'-ジフルオロ-3',4'-ジヒドロビノレルビンを意味するが、ジアセチルビンフルニンのようなその代謝物も包含する。また、ビンフルニンという用語には、例えば、ビンフルニンジタルトレートのようなビンフルニンの薬学上許容可能な塩も包含される。
【0012】
本発明で用いられる「治療」という用語は、新生物を有する哺乳類における新生物による疾患の進行、腫瘍の成長を阻害し、新生物による疾患を根絶し、哺乳類の生存および/または哺乳類の緩和を延長することを目的として、上記哺乳類にビンフルニンとトラスツズマブの組合せの有効量を提供することによる新生物を有する哺乳類の治療を意味する。
【0013】
本発明の組合せは、部品のキットの形態であってもよい。したがって、本発明は、治療を必要とする哺乳類における新生物の治療において、同時、個別または逐次投与するための配合製剤としての、ビンフルニンとトラスツズマブとを含む製品を包含する。一態様によれば、製品は、治療を必要とする哺乳類の新生物の治療において、同時、個別または逐次使用のための配合製剤としての、ビンフルニンおよびトラスツズマブを含む。一態様によれば、本発明は、1個体哺乳類に対する抗新生物治療の治療単位(a course)を含む医薬パックであって、 (a)少なくとも1単位のビンフルニンと(b)少なくとも1単位のトラスツズマブとを単位投薬形態に含むパックを提供する。一態様によれば、新生物は転移性乳癌である。
【0014】
腫瘍治療にはよく見られるように、投薬法は、疾患の重篤度、疾患に対する応答、任意の治療に関連した毒性、患者の年齢および健康などの多数の要因に基づいて治療に当たる医師によって特に検討される。投薬法は、投与経路によって変化しうる。
【0015】
トラスツズマブの最初の静脈内輸液投薬量は、週1回の投薬法で投与するときには、約2〜約4 mg/kg/週であってよい。一態様によれば、トラスツズマブは週1回投与し、詳細には3週間の治療期間について、換言すれば、第1週については1日目に、第2週については8日目に、第3週については15日目にトラスツズマブを投与する。治療期間は、反復することができる。サイクル数は3〜20回、好ましくは約3〜19回、さらに好ましくは約8回のサイクル数の範囲とすることができる。
【0016】
本発明によれば、「サイクル」という表現は、最初に投与した投薬量を含んでなる1日目から出発する3週間を意味する。一態様によれば、トラスツズマブの投薬量は1日目に負荷投与量として約2 mg/kgまたは1日目に4 mg/kgに続いて、第2週について8日目に2mg/kgの後、第3週については15日目に2 mg/kg投与してもよい。これは、1日目の治療サイクルとしての3週間の治療サイクルを提供する。毎週1回の投与のこの3週間の投薬法は、反復することができる。
【0017】
ビンフルニンについては、計画静脈内投薬量は250 mg/m2〜320 mg/m2の間で変化することができる。一態様によれば、ビンフルニンの投薬量は約320mg/m2である。別態様によれば、ビンフルニンの投薬量は約280 mg/m2である。したがって、ビンフルニンに関する投薬計画は、3週間の負荷投与量として、1日目には250 mg/m2〜320 mg/m2であり、好ましくは約320 mg/m2である。この投薬量に続いて22日目に同一投薬を行うことによって新たなサイクルを開始することができ、22日目は第二の治療サイクルの1日目である。このように1日目にビンフルニンを250 mg/m2〜約320 mg/mg、好ましくは320 mg/m2の投薬量で1回投与する3週間サイクルは、約3〜20回、好ましくは約3〜19回、さらに好ましくは約8回反復することができる。
【0018】
組成物の投与は、経口、静脈内、呼吸器(例えば、鼻内または気管支内)、非経口(静脈内の他に、腹腔内および皮下注射など)、腹腔内、経皮(身体の表面を横切る総ての投与など)でよい。好ましくは、本発明の組合せによる組成物は、静脈内に投与される。
【0019】
本発明の成分は同一経路で投与することができるが、本発明による製品またはパックは、トラスツズマブの経路とは異なる経路により投与するためのビンフルニンを含むことができ、例えば、一方の成分は経口投与し、他方は静脈内投与することができる。もう一つの態様によれば、ビンフルニンおよびトラスツズマブは、共に同一経路、例えば、静脈内に投与される。他の変法は当業者には明らかであろうし、本発明の範囲内にあると考えられる。
【0020】
注射可能な使用に適する好ましい医薬形態としては、滅菌水溶液または分散液、および滅菌した注射用溶液または分散液の即時調製のための滅菌粉末が挙げられる。いずれの場合にも、形態は滅菌していなければならずかつ容易に注射できる程度まで流動性でなければならない。これは、製造および保管の条件下で安定でなければならず、また細菌や真菌のような微生物の汚染作用から保護されるものでなければならない。一態様によれば、ビンフルニンの好ましい注射用組成物が、WO2005070425号明細書に記載されている。トラスツズマブは、注射用制菌水で再構成した後に静脈内(IV)投与用の滅菌した白色-淡黄色の防腐剤を含まない凍結乾燥した粉末としてハーセプチン(HERCEPTINE)(登録商標)という名称でGENENTECHから発売されている。
【実施例】
【0021】
オープンラベル第I相では、中間年齢(medium age)が55(34〜75)歳の30名の患者を、予め承諾書を得て登録した。総ての患者は、組織学的に確認されたHER-2陽性の乳癌を有していた。他の適格基準としては、
−(RECIST評価法による)少なくとも測定可能な病変を有する進行性の転移性疾患の徴候、
−MBCに対する1回だけの以前の化学療法、
−18歳<年齢<75歳、
−WHOパーフォーマンスステータス: 0または1、
−適合骨髄、肝および腎機能、
−通常のECGおよびMUGAスキャン(LVEF 50%)
が挙げられる。
【0022】
患者に、3週間毎の1日目に、ビンフルニン280 mg/m2(9名)または320 mg/m2(21名)をトラスツズマブ(D1における負荷投与量4 mg/kgに続いて、その後の投与に2mg/kg/週をD8から出発して毎週継続した)と組み合わせて与えた。
【0023】
最初のビンフルニン投与量(280 mg/m2)では、0/6名の患者は用量規定毒性を体験した。推奨用量(RD)を、下記の6名の患者で320 mg/m2と確定した。
【0024】
30名の患者全員を安全性について評価し、血液学的および非血液学的毒性が許容可能なものと判定し、有意な心臓障害は見られなかった。
【0025】
効力は、RECIST法に準じて放射線医学者によって判定された。その結果を、表1に要約している。
【0026】
【表1】

【0027】
総合効果(Overall Response: OR)は、1日目に負荷投与量4mg/kgに続いて毎週2 mg/kg/週のトラスツズマブと組み合わせたビンフルニン(320 mg/m2、3週間毎の1日目)の場合には、8サイクルのサイクルのメジアン数の期間にわたって76.2%と評価される。
【0028】
同じ投薬量で同じ投薬計画および同一期間でビンフルニンのみを用いる化学療法において、約30%の総合効果を「生じた」または「生成した」ことが観察ことは注目すべきことである(Campone et al. 2006. British Journal of Cancer. 95 : 1161-1166)。
【0029】
本発明による組合せ療法によって得られ、観察されたORは、ビンフルニン単独と比較して250%のORの増加が認められる。他の特に重要なパラメーターは、この組合せの安全性プロフィールであり、ビンフルニン相対用量強度89%で、極めて良好な耐用を示すと判定された。
【0030】
ビンフルニン/トラスツズマブの組合せ療法によるMBCの治療についての上記結果は、明らかに癌治療の領域において特に有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要とする哺乳類における新生物の治療方法であって、トラスツズマブとビンフルニンとを含んでなる活性成分の組み合わせの有効量を前記哺乳類に提供することを含んでなる、方法。
【請求項2】
前記新生物が、HER2の過剰発現または増幅と関連している、請求項1に記載の新生物の治療方法。
【請求項3】
前記新生物が、気管支肺胞癌や非小細胞肺癌のような肺癌、乳癌、骨髄腫、前立腺癌、頭部および頸部癌、または移行上皮癌、すなわち子宮頸部における小細胞および大細胞の神経内分泌癌からなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記新生物が乳癌である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記新生物が転移性乳癌である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
癌の治療方法であって、
ビンフルニンの投薬量を投与し、かつトラスツズマブの投薬量を投与すること
を含んでなる、方法。
【請求項7】
前記癌がHER2の過剰発現または増幅と関連している、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記新生物が、気管支肺胞癌や非小細胞肺癌のような肺癌、乳癌、骨髄腫、前立腺癌、頭部および頸部癌、または移行上皮癌、すなわち子宮頸部における小細胞および大細胞神経内分泌癌からなる群から選択される、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記癌が乳癌である、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記癌が転移性乳癌である、請求項6〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ビンフルニンおよび/またはトラスツズマブを静脈内投与する、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
トラスツズマブ週1回投与する、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
ビンフルニンを3週間に1回ずつ投与する、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
トラスツズマブを3週間にわたって週1回投与する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
トラスツズマブを6〜54週間、好ましくは24週間にわたって週1回投与する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
ビンフルニンを6〜54週間、好ましくは24週間にわたって3週間に1回ずつ投与する、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
ビンフルニンを24週間にわたって投与する、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
ビンフルニンの投薬量が3週間に1回320 mg/m2である、請求項6〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
トラスツズマブの投薬量が2 mg/kg/週である、請求項6〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
哺乳類の新生物の治療において同時、個別または逐次使用するための、配合製剤としての、ビンフルニンおよびトラスツズマブを含む、製品。
【請求項21】
1個体哺乳類に対する抗新生物治療の治療単位を含む医薬パックであって、 (a)少なくとも1単位のビンフルニンと、(b)少なくとも1単位のトラスツズマブとを単位投薬形態に含む、パック。

【公表番号】特表2010−528091(P2010−528091A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509824(P2010−509824)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際出願番号】PCT/EP2008/056620
【国際公開番号】WO2008/145697
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(500033483)ピエール、ファーブル、メディカマン (73)
【出願人】(507196446)エフ・ホフマン−ラ・ロシュ・リミテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】F. Hoffmann−La Roche Ltd.
【Fターム(参考)】