説明

ビーズミルの起動方法

【課題】微小ビーズが充填されたビーズミルを円滑に起動させる。
【解決手段】ビーズミル10は、ステータ11とそのステータ11内にシャフト15が上下方向に延びるように設けられた攪拌ロータ12とを備え、ステータ11内の有効分散室空間に平均粒径0.1mm以下の微小ビーズが70容量%以上充填されている。ステータ11の下部には、ステータ11内に設けられた攪拌ロータ12のシャフト15の位置よりも外側に位置する液体供給口13を含む複数の液体供給口13が設けられている。複数の液体供給口13からステータ11内に液体を供給して微小ビーズを浮遊させ、微小ビーズが浮遊している間に、攪拌ロータ12を回転駆動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビーズミルの起動方法に関する。特には、近年盛んに研究が行われている超微粒子或いはナノ粒子を製造するために用いられる微小ビーズが充填されたビーズミルの起動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビーズミルを用いた分散や解砕により微粒子を連続して生産する方法が知られている(例えば、特許文献1及び2)。その対象となる材料としては、例えば、インク、トナー、カラーフィルターなどの表示材料となる有機顔料や無機顔料、化粧品材料となる酸化チタンや酸化亜鉛、電子材料となるチタン酸バリウム等が挙げられる。
【0003】
また、ビーズミルにおいて微小ビーズ(メディア)を用いる湿式分散手法は、近年ナノ粒子を製造するための主流の技術となっている(例えば、特許文献3)。最近では、従来小さいとされてきた粒径が0.3〜0.5mmのビーズよりもさらに粒径が0.015〜0.05mmと一桁小さい微小ビーズを製造することができるようになっている。そして、このビーズの微小化に伴い、微小ビーズに対応した縦型、横型、及びアニュラー型のビーズミルの開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−143707号公報
【特許文献2】WO96/39251パンフレット
【特許文献3】WO2007/108217A1パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、ビーズミルにおいて、ビーズの粒径が大きいほど攪拌ロータを回転駆動させるときの負荷が大きく、一方、ビーズの粒径が小さいほど攪拌ロータを回転駆動させるときの負荷が小さくなるとの知見に基づいて、小型、中型、及び大型のものが設計されてきた。
【0006】
ところが、ビーズの粒径がさらに微小化すると、この考え方が妥当せず、逆に非常に大きな抵抗が生じて攪拌ロータを回転駆動させることができない現象が起こる場合がある。
【0007】
本発明の課題は、微小ビーズが充填されたビーズミルを円滑に起動させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ステータと該ステータ内にシャフトが上下方向に延びるように設けられた攪拌ロータとを備え、該ステータ内の有効分散室空間に平均粒径0.1mm以下の微小ビーズが70容量%以上充填されたビーズミルを起動する方法であって、
上記ステータの下部には、該ステータ内に設けられた上記攪拌ロータの上記シャフトの位置よりも外側に位置する液体供給口を含む複数の液体供給口が設けられており、
上記複数の液体供給口から上記ステータ内に液体を供給して上記微小ビーズを浮遊させ、該微小ビーズが浮遊している間に、上記攪拌ロータを回転駆動させるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ステータ内に設けられた攪拌ロータのシャフトの位置よりも外側に位置する液体供給口を含む複数の液体供給口からステータ内に液体を供給するので、パッキングしているビーズを多面的に崩し、またステータ内壁とビーズとの摩擦抵抗力を低減できることから、微小ビーズが充填されたビーズミルを円滑に起動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係る縦型ビーズミルの(a)縦断面図及び(b)横断面図である。
【図2】(a)〜(f)はそれぞれ実施例1〜6の水供給態様を示す説明図である。
【図3】(a)〜(f)はそれぞれ比較例1〜6の水供給態様を示す説明図である。
【図4】(a)は実施例1及び(b)は比較例1のそれぞれの起動負荷動力の経時的変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について説明する。
【0012】
(縦型ビーズミル)
図1(a)及び(b)は、本実施形態に係る連続式の縦型ビーズミル10の一例を示す。この縦型ビーズミル10は、スラリーを流通させることにより、それに含まれる粒子を粉砕乃至解砕して分散させた分散液、例えばインクジェット記録用水系インクに好適に使用しうる水系の顔料分散液を製造するために用いられるものである。
【0013】
本実施形態に係る縦型ビーズミル10は、ステータ11と攪拌ロータ12とを備えている。
【0014】
ステータ11は、中空の縦長円柱状に形成されている。ステータ11には、下部に各々がボール弁等の開閉機構を有する複数のスラリー供給孔13(液体供給口)が設けられている。なお、ステータ11の下部とは、ステータ11の内部空間の高さの4分の1の高さまでの部分である。また、ステータ11には、上面部に軸受け孔14が形成されている。ステータ11は、例えば、小型のもので、内部空間の高さHが0.15〜0.25m、内径Dが0.06〜0.09m、断面積Sが0.002〜0.007m、及び容積が0.0004〜0.0020mであり、中型のもので、内部空間の高さHが0.3〜0.6m、内径Dが0.15〜0.20m、断面積Sが0.015〜0.035m、及び容積が0.0050〜0.020mであり、大型のもので、内部空間の高さHが0.5〜1.0m、内径Dが0.25〜0.30m、断面積Sが0.04〜0.10m、及び容積が0.020〜0.070mである。ここで、本出願において、「縦型のビーズミル」とは、ステータ11内部空間の内径に対する高さの比(H/D)が1より大きいビーズミルをいう。
【0015】
攪拌ロータ12は、シャフト15を有し、そのシャフト15がステータ11の軸受け孔14に軸回転可能に挿通され軸受けされている。なお、シャフト15とステータ11との間にはシール構造が設けられている。
【0016】
攪拌ロータ12は、シャフト15のステータ11外に露出した部分にプーリ16が外嵌めされている。プーリ16には、図示しない駆動モータとの間で駆動ベルトが巻き掛けられている。駆動モータは図示しない制御部に電気的に接続されている。なお、縦型ビーズミル10には、その構造上の特性から、その他の横型ビーズミルやアニュラー型ビーズミルよりも攪拌ロータ12を回転駆動させるときの負荷が大きく、そのため同容量の横型ビーズミルやアニュラー型ビーズミルと比較すると、一般的には2倍近いハイパワーの駆動モータが取り付けられている。
【0017】
攪拌ロータ12は、シャフト15の上面からステータ11に挿入された部分の上部まで軸方向に延びるように縦孔15aが形成されていると共に、その縦孔15aに連続して側面に貫通してステータ11内に露出するように横孔15bが形成されている。シャフト15には、ステータ11内において、横孔15bを挟むように間隔をおいて一対のディスク17aが外嵌め固定されていると共に、その一対のディスク17aの間には、各々がその一対のディスク17aを連結する複数のブレード17bが周方向に沿って間隔をおいて設けられている。そして、これらの一対のディスク17a及び複数のブレード17bによりセパレータ17が構成されている。
【0018】
攪拌ロータ12は、ステータ11内において、シャフト15のセパレータ17より下方部分に複数の環状部材18が連なるように挿通されて外嵌め固定されている。各環状部材18には、各々、外向きに突出した一対の攪拌ロッド18aが直線をなすように配置されて設けられている。複数の環状部材は、連続する2部材の攪拌ロッド18aが平面視で90°の角度をなすように交互に配置されている。
【0019】
ステータ11の内部空間は、セパレータ17の下側のディスク17aの下面よりも上側がセパレータ空間11aに構成され、下側が分散室空間11bに構成されている。分散室空間11bから攪拌ロータ12の体積を排除した有効分散室空間容積Vは、例えば、小型のもので0.0002〜0.0010mであり、中型のもので0.0030〜0.0120mであり、大型のもので0.015〜0.040mである。
【0020】
ステータ11の下部に設けられた複数のスラリー供給孔13は、図1(b)に示すもののようにステータ11の底部に設けられていてもよく、また、ステータ11の側壁に設けられていてもよく、さらに、それらが組み合わせられていてもよい。複数のスラリー供給孔13は、大きさが同一であってもよく、また、大きさが相互に異なっていてもよく、例えば孔径が1〜50mmである。スラリー供給孔13の数は10個以下であることが好ましく、設備の負荷や操作性の観点からは2〜5個であることがより好ましい。
【0021】
複数のスラリー供給孔13は、ステータ11内に設けられた攪拌ロータ12のシャフト15の位置よりも外側に位置するスラリー供給孔13を含む。図1(b)に示すものでは、複数のスラリー供給孔13は、シャフト15の位置よりも外側に位置する周方向に等間隔で設けられた4つのスラリー供給孔13とシャフト15の位置に位置する中央の1つのスラリー供給孔13とで構成されている。但し、特にこれに限定されるものではなく、シャフト15の位置よりも外側に位置する少なくとも1つのスラリー供給孔13を含んでいればよく、例えば、複数のスラリー供給孔13がシャフト15の位置よりも外側に位置する1つのスラリー供給孔13とシャフト15の位置に位置する1つのスラリー供給孔13との一対で構成されていてもよく、また、複数のスラリー供給孔13がシャフト15の位置よりも外側に位置するスラリー供給孔13のみで構成されていてもよい。複数のスラリー供給孔13がシャフト15の位置よりも外側に位置する1つのスラリー供給孔13とシャフト15の位置に位置する1つのスラリー供給孔13とを含む場合、前者が後者よりも孔径が大きくてもよく、また、後者が前者よりも孔径が大きくてもよい。
【0022】
攪拌ロータ12のシャフト15の位置よりも外側に位置する少なくとも1つのスラリー供給孔13は、ステータ11の底部におけるステータ11の側壁近傍に設けられていてもよい。ここで、ステータ11の底部におけるステータ11の側壁近傍について、具体的には、ステータ11の中心からスラリー供給孔13の中心までの距離が、ステータ11の中心からスラリー供給孔13の中心を通って側壁までの距離の50%以上である位置にスラリー供給孔13の中心が位置していることが好ましく、70%以上である位置にスラリー供給孔13の中心が位置していることがより好ましい。
【0023】
ステータ11の内部空間における分散室空間11bには図示しない微小ビーズが充填されている。
【0024】
微小ビーズは、例えば、スチール、クロム合金などの高硬度金属、アルミナ、ジルコニア、ジルコン、チタニアなどの高硬度セラミックス、ガラス等で形成されている。微小ビーズは、これらのうち比重が大きいジルコニアで形成されたものが好ましい。
【0025】
微小ビーズは、一般的には個々が球状に形成されており、平均粒径が0.1mm以下であり、0.09〜0.01mmであることが好ましく、0.08〜0.02mmであることがより好ましい。ここで、微小ビーズの平均粒径は画像解析等により測定することができる。
【0026】
微小ビーズの充填率は、有効分散室空間容積Vに対して70容量%以上であり、操作安定性の観点から100容量%以下であることが好ましい。ここで、微小ビーズの充填率とは、有効分散室空間容積Vに対する微小ビーズの見かけ容積の割合をいう。
【0027】
この縦型ビーズミル10は、ステータ11のスラリー供給孔13がスラリー供給管に接続されると共に、攪拌ロータ12のシャフト15の上端がロータリージョイントを介して分散液回収管に接続されて用いられる。
【0028】
そして、駆動モータを稼働させて攪拌ロータ12を回転させると共にスラリー供給管を介してスラリー供給孔13からステータ11内に連続的にスラリーを供給することにより、攪拌ロータ12の攪拌部材18によって攪拌される微小ビーズによって微小ビーズ間を流通するスラリーに含まれる粒子がを粉砕乃至解砕されて分散液が生成することとなる。
【0029】
ステータ11内のセパレータ空間11aまで達した分散液は、回転する攪拌ロータ12のセパレータ17を介し、シャフト15の横孔15b及び縦孔15aを流通して分散液回収管に回収されることとなる。このとき、分散液に微小ビーズが含まれていても、セパレータ17により作用する遠心力により微小ビーズがセパレータ17の外側に飛ばされるため、微小ビーズのステータ11外への漏洩が防止される。
【0030】
(縦型ビーズミルの起動方法)
近年、微小ビーズを充填したビーズミルを用いて有機顔料や無機顔料或いは無機酸化物などを対象としてトップダウン方式により粉砕乃至解砕して超微粒子やナノ粒子を製造する研究が盛んに行われている。
【0031】
例えば、微小ビーズを充填したビーズミルを用いてインクジェット用顔料分散液を製造した場合、ビーズ数が非常に多いため、微小ビーズ同士の衝突やずり頻度が非常に高く、高速で粒子の微細化を図ることができ、また、ビーズ1個の質量が非常に小さいため、その運動エネルギーも小さく、過剰なエネルギーが粒子に付与されないので粒子の再凝集などの過分散現象が起きにくい、といったメリットがある。そして、その結果、分散安定性に優れたインクジェット用インクが得られ、プリンターの信頼性を向上させることができると共に、光沢性能の優れた印字物を得ることができる。
【0032】
このように微小ビーズを充填したビーズミルは、超微粒子やナノ粒子を製造するのに有用な装置である一方、その取り扱いにおいては非常に大きな課題を有する。それはビーズミルを正常に起動できないという問題である。
【0033】
従来の経験則によれば、ビーズが微小化すれば、それに伴って起動負荷も低くなる。しかしながら、ビーズの粒径がさらに微小化すると、逆にその負荷は大きく上昇し、攪拌ロータを回転駆動させることが困難となる。この現象は、大型のビーズミルほど顕著であり、ビーズの微小化に伴ってビーズの接点数が飛躍的に増え、また、ビーズが高密度に充填され、非常に強いパッキング性が発現することが原因であると考えられる。さらに、ビーズにスラリーの成分が付着して摩擦抵抗の因子になることも一因であると考えられる。
【0034】
攪拌ロータの駆動系の設計においては、攪拌ロータに起動に必要なトルクが与えられるように、駆動モータ及び攪拌ロータに取り付けたプーリの外径比を考慮して駆動モータが選定される。そして、通常、定常運転時では攪拌ロータを駆動するのに必要なトルクは小さいため、一般的には低減トルクモータが選定されるが、微小ビーズを用いることによる起動負荷を考慮して定トルクモータを選定したとしても、微小ビーズによるパッキング性の強さはそれをも上回るときがある。
【0035】
また、駆動モータは起動時、機械保護の観点から低出力側で使用するのが好ましいが、高出力側で使用した場合には、攪拌ロータからパッキングした微小ビーズを介してステータに力が伝わり、ステータに回転力が作用することがある。さらに、瞬間的に攪拌ロータに破壊強度以上の力が作用することも想定される。
【0036】
そこで、本実施形態に係る縦型ビーズミル10の起動方法では、複数のスラリー供給孔13からステータ11内に液体を供給して微小ビーズを浮遊させ、微小ビーズが浮遊している間に、攪拌ロータ12を回転駆動させる。
【0037】
縦型ビーズミル10に供給される液体は、パッキングしている微小ビーズ下層から上方に向かって微小ビーズの間隙を流れ、非常に強い抵抗を受けながら、微小ビーズの上層部の一部から主流となる流れを形成する。そして、パッキングしていた微小ビーズは、液体の流体抵抗を受け、その上層部側から徐々に浮遊・上昇し始め、見掛けのビーズ密度、つまり、パッキング性が低下する。また、特に攪拌ロータ12のシャフト15の位置よりも外側に位置するスラリー供給孔13からの液体供給により、微小ビーズとステータ11の内壁との間に作用する摩擦抵抗力が有効に崩され、起動負荷が低減できる。これにより、攪拌ロータ12を容易に回転駆動でき、縦型ビーズミル10を円滑に起動させることができる。
【0038】
この縦型ビーズミル10の起動方法は、縦型ビーズミル10を停止させてから10分以上経過した後に縦型ビーズミル10を起動させる場合のように、微小ビーズのパッキング性が高まった状態において特に有効である。また、この縦型ビーズミル10の起動方法は、ステータ11内の有効分散室空間容積が0.0005m以上であって微小ビーズのパッキング性が強く現れる場合において特に有効である。
【0039】
ステータ11内への液体供給は、複数のスラリー供給孔13から同時に行ってもよく、また、複数のスラリー供給孔13のそれぞれから順次行ってもよい。複数のスラリー供給孔13のそれぞれから順次液体を供給する場合、一旦開いたスラリー供給孔13を閉じずに順次スラリー供給孔13を開いていってもよく、また、一旦開いたスラリー供給孔13を閉じて順次スラリー供給孔13を開いてもよい。攪拌ロータ12のシャフト15の位置よりも外側に位置するスラリー供給孔13とそれ以外のスラリー供給孔13を有する場合、前者からの液体供給を行った後に後者からの液体供給を行ってもよく、また、その逆であってもよく、さらに、それらをランダムに組み合わせてもよい。
【0040】
ビーズミルが起動できない現象が生じた際には、往々にして前記したボール弁等の開閉機構を有するスラリー供給孔13も閉塞することがあり、それによって例えばポンプ圧が設定圧力以上となって液体を容易にステータ11内に供給することができなくなる。このような場合、給液操作を繰り返し徐々にスラリー供給孔内の閉塞を崩していく必要がある。また、著しい場合には、スラリー供給管を取り外しボールを強制的に突き上げる操作等も行わなければならない。さらに、供給管の復旧後には配管内に少なからずガス(空気)が溜まることから、ステータ内にガスを送り込むことになり、体積の収縮が起こるガスの影響で縦孔15aからビーズを漏洩させてしまう危険性もある。スラリー供給孔を1箇所ではなく複数箇所設けることでパッキングしているビーズを多面的に崩すメリットのほか、閉塞度合いによっては上記した煩雑な操作を行うリスクを分散化できるメリットもある。
【0041】
ステータ11内への液体供給は、下記式(1)で表されるステータ断面基準の液平均空塔速度vが0.2×10−3m/s以上となるように行うことが好ましく、設備負荷の観点から、3.5×10−3m/s以下となるように行うことが好ましい。この縦型ビーズミル10の起動方法では、液平均空塔速度vが0.2×10−3〜0.5×10−3m/sという低い値であっても十分に円滑な起動が可能である。なお、この範囲の液平均空塔速度vは、静止流体中における1個の球形粒子から計算されるストークスの沈降速度と比べると相対的に小さな値であり、パッキング現象により少なくとも数個〜数十個の単位で1次、2次凝集体が形成していると考えられる。
【0042】
【数1】

【0043】
ステータ11内への液体供給は、下記式(2)で表される液押し比率θが0.1以上となるように行うことが好ましく、微小ビーズの充填率やそのパッキング性の強さ、或いは、液体の粘度にもよるが、0.1〜0.5となるように行うことがより好ましい。
【0044】
【数2】

【0045】
ステータ11内への液体供給は、連続して行ってもよく、また、断続的に行ってもよい。後者の場合、例えば、液押し比率θが0.1の液量を5回に分けて合計の液押し比率θが0.5となるようにしてもよい。また、液体供給のインターバルを10分以内とすることが好ましく、5分以内とすることがより好ましい。
【0046】
単位時間当たりの総液体供給量Qは、例えば、縦型ビーズミル10が小型のもので1.0×10−6〜23.0×10−6/sであり、中型のもので7.0×10−6〜100.0×10−6/sであり、大型のもので18.0×10−6〜250.0×10−6/sである。
【0047】
液供給時間tは、例えば、縦型ビーズミル10が小型のもので3〜180sであり、中型のもので5〜430sであり、大型のもので8〜660sである。なお、液供給時間tは、液供給開始から攪拌ロータ12を回転駆動させるまでの時間であり、断続的に液供給を行う場合における液供給されない時間は除かれる。
【0048】
ステータ11内に供給する液体は、分散液を製造する場合には、粉砕乃至解砕する対象の粒子を含むスラリーである。例えば、インクジェット記録用水系インクに好適に使用しうる水系の顔料分散液を製造する際にステータ11内に供給するスラリーは、顔料、水不溶性ポリマーなどの分散剤、中和剤、分散媒としての水や有機溶剤を含有する。また、ステータ11内に供給する液体は、例えば、洗浄する場合には、水や洗剤を含む水溶液や有機溶剤である。ステータ11内に供給する液体は、ビーズの浮遊性を考慮すると流体抵抗が大きく、その速度を高めるという観点から、操作性を低下させない程度に少しでも粘度は高い方が好ましい。具体的には、ステータ11内に供給する液体の粘度は0.5〜100mPa・sであることが好ましい。
【0049】
攪拌ロータ12を回転駆動させる際に攪拌ロータ12に与えるトルクは、例えば、縦型ビーズミル10が小型のもので10〜20N・mであり、中型のもので50〜120N・mであり、大型のもので200〜450N・mである。
【0050】
なお、スラリーから分散液を製造し、縦型ビーズミル10を停止する際には、まず、スラリーの供給を停止させた後、攪拌ロータ12の回転駆動を停止させる。そして、ステータ11内の微小ビーズは沈降して静置状態となる。このとき、ステータ11内にスラリーが残留することとなるが、スラリーがチクソトロピー性を有するような場合には、ステータ11内のスラリーを水や有機溶媒に置換することが好ましい。一方、スラリーがチクソトロピー性や増粘性を有さない場合には、生産性や操作性の観点からスラリーが残留したままにすることが好ましい。また、次回の起動をより容易にする観点からは、ステータ11内を洗浄する洗浄操作を行ってもよい。
【0051】
本実施形態に係る縦型ビーズミル10の起動方法は、縦型ビーズミル10にスラリーを流通させることにより、例えばインクジェット記録用水系インク等の水系の顔料分散液を製造する際に有用である。なお、ビーズミル10の起動の後の顔料分散液の製造の際には、複数のスラリー供給孔13からステータ11内にスラリーを供給してもよく、また、複数のスラリー供給孔13のいずれか1つ(例えば、攪拌ロータ12のシャフト15の位置よりも外側に位置するスラリー供給孔13又はシャフト15の位置に位置する中央の1つのスラリー供給孔13)からステータ11内にスラリーを供給してもよい。
【0052】
かかるスラリーは、例えば、顔料、分散剤、中和剤、分散媒として水及び/又は有機溶剤を含有する。
【0053】
スラリーは、生産性や粘度の適正化の観点から、不揮発成分率が5〜50質量%であることが好ましく、8〜40質量%であることがより好ましい。なお、「不揮発成分率」は、次式
不揮発成分率(質量%)=〔(塩生成基を有する水不溶性ポリマー、中和剤及び顔料の合計質量)/(予備混合液又は予備分散液の質量)〕×100
に基づいて算出される値である。
【0054】
スラリーは、縦型ビーズミル10からの微小ビーズの漏洩を防止する等の観点から、粘度が100mPa・s以下であることが好ましく、50mPa・s以下であることがより好ましく、20mPa・s以下であることがさらに好ましい。粘度調整方法としては、前記不揮発成分率の調整の他、有機溶剤/水の質量比率の調整が挙げられる。後者の場合、有機溶剤/水の質量比率を0.1〜0.9とすることが好ましく、0.15〜0.8とすることがより好ましい。
【0055】
スラリーに含まれる顔料としては、有機顔料及び無機顔料、並びに必要に応じてこれらと併用される体質顔料が挙げられる。
【0056】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
【0057】
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等が挙げられる。これらのうち、特に黒色水系インクの場合にはカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
【0058】
体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
【0059】
顔料は、いわゆる自己分散型顔料であってもよい。ここで、自己分散型顔料とは、アニオン性親水基又はカチオン性親水基の1種以上が直接又は他の原子団を介して顔料表面に結合し、界面活性剤や樹脂を用いることなく水系媒体に分散可能である顔料を意味する。
【0060】
スラリーに含まれる分散剤としては、低分子量のアニオン系分散剤及びカチオン系分散剤、両性の低分子分散剤(界面活性剤等)、並びに高分子分散剤等が挙げられる。これらのうち、インクジェット記録用水系インクに用いる水系顔料分散体を製造する場合には、高分子分散剤が好ましく、印字濃度、保存安定性、定着性などの観点から、特に水不溶性ポリマーが好ましい。ここで、本出願において、「水不溶性ポリマー」とは、105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーをいう。なお、溶解量は、水不溶性ポリマーが塩生成基を有する場合は、その種類に応じて、水不溶性ポリマーの塩生成基を酢酸又は水酸化ナトリウムで100%中和したときの溶解量である。
【0061】
水不溶性ポリマーとしては、例えば、水不溶性ビニルポリマー、水不溶性エステル系ポリマー、水不溶性ウレタン系ポリマー等が挙げられる。これらのうち水不溶性ビニル系ポリマーが好ましい。
【0062】
水不溶性ビニル系ポリマーは、主鎖が少なくとも塩生成基含有モノマー〔(a)成分〕由来の構成単位と、芳香環含有(メタ)アクリレートモノマー〔(b)成分〕由来の構成単位とを含むポリマー鎖であり、側鎖が少なくとも疎水性モノマー〔(c)成分〕由来の構成単位を含むポリマー鎖であるものが好ましい。
【0063】
(a)成分としては、例えば、アニオン性モノマー、カチオン性モノマーが挙げられ、これらのうちアニオン性モノマーが好ましい。
【0064】
アニオン性モノマーとしては、例えば、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、及び不飽和リン酸モノマーからなる群より選ばれた一種以上が挙げられる。
【0065】
不飽和カルボン酸モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
【0066】
不飽和スルホン酸モノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリル酸エステル、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコネート等が挙げられる。
【0067】
不飽和リン酸モノマーとしては、例えば、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
【0068】
これらのアニオン性モノマーのうち、インク粘度、吐出性等の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。なお、本出願において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」、「メタクリレート」又はそれらの混合物を意味する。
【0069】
塩生成基含有モノマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0070】
(b)成分としては、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2−フェニルエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、1-ナフタリルアクリレート、2-ナフタリル(メタ)アクリレート、フタルイミドメチル(メタ)アクリレート、p-ニトロフェニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−アクリロイロキシエチルフタレート等が挙げられる。これらのうちベンジル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0071】
芳香環含有(メタ)アクリレートモノマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0072】
(c)成分としては、例えば、ビニル系モノマーが挙げられ、特にスチレン系モノマーが好ましい。
【0073】
スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられ、これらのうちスチレンが好ましい。スチレン系モノマー由来の構成単位を含む側鎖は、片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマー(以下、スチレン系マクロマーという)を共重合することにより得ることができる。スチレン系マクロマーは、保存安定性を高める観点から、数平均分子量が1000〜10000であることが好ましく、2000〜8000であることがより好ましい。
【0074】
側鎖中における(c)成分由来の構成単位は、印字濃度を向上させる等の観点から、含有量が60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0075】
また、主鎖は、保存安定性、印字濃度等を向上させる観点から、炭素数1〜22のアルキル基を有する(メタ)アクリレート〔(d-1)成分〕や下記式(A)で表されるモノマー〔(d-2)成分〕由来の構成単位を含有していてもよい。
【0076】
CH=C(R)−R (A)
(式中、R は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、Rは炭素数6〜22の芳香環含有炭化水素基を示す。)
(d-1)成分由来の構成単位としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート、ベへニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、本出願において、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、「イソ」又は「ターシャリー」で表される枝分かれ構造が存在している場合と存在しない場合、すなわち「ノルマル」の両者を含む。
【0077】
(d-2)成分は、Rが水素原子又はメチル基であることが好ましく、式(A)で表されるモノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルナフタレン、α―メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、4-ビニルビフェニル、及び1,1-ジフェニルエチレン等が挙げられる。
【0078】
さらに、主鎖は、光沢性、吐出安定性等を向上させる観点から、ノニオン性(メタ)アクリレート系モノマー〔(e)成分〕由来の構成単位を含有していてもよい。
【0079】
(e)成分としては、例えば、ポリオキシプロピレンモノメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エチレングリコール・プロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノールポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールメタクリレート、ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0080】
ノニオン性のモノマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0081】
主鎖は、(a)成分(未中和量として計算する。以下同じ)由来の構成単位と(b)成分由来の構成単位との質量比[(a)成分由来の構成単位の含有量/(b)成分由来の構成単位の含有量]は、印字した際の光沢性、耐擦過性等を向上させる観点から、1/1〜1/20であることが好ましく、1/1.5〜1/15であることがより好ましく、1/2〜1/10であることがさらに好ましい。
【0082】
また、主鎖と側鎖との質量比[主鎖/側鎖]は、印字濃度、光沢性、耐擦過性等の観点から、1/1〜20/1であることが好ましく、3/2〜15/1であることがより好ましく、2/1〜10/1であることがさらに好ましい。
【0083】
水不溶性ポリマーは、顔料の分散安定性、耐水性、吐出性等の観点から、重量平均分子量(Mw)が90000〜400000であることが好ましく、120000〜350000であることがより好ましい。なお、水不溶性ポリマーの重量平均分子量は、60ミリモル/Lのリン酸及び50ミリモル/Lのリチウムブロマイドをそれぞれ溶解したジメチルホルムアミドを用いたゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定することができる。
【0084】
水不溶性ポリマーは、分散安定性の観点から、酸価が30(KOHmg/g)以上であることが好ましく、40(KOHmg/g)以上であることがより好ましく、また、高印字濃度を発現する観点から、200(KOHmg/g)以下であることが好ましく、150(KOHmg/g)以下であることがより好ましい。なお、酸価やアミン価は、水不溶性ポリマーの構成単位から算出することができるが、適当な溶剤(例えばメチルエチルケトン)にポリマーを溶解して滴定する方法を用いて求めることもできる。
【0085】
水不溶性ポリマーは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により、モノマー混合物を共重合させることによって製造することができる。これらの重合法のうちでは溶液重合法で製造することが好ましい。
【0086】
溶液重合法の場合、溶媒として有機溶媒を用いることが好ましい。また、溶媒は、水混和性を有する有機溶媒と水とを混合したものであってもよい。
【0087】
有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどの炭素数1〜3の脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類等が挙げられる。これらのうち、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、及びこれらのうちの1種以上と水との混合溶媒が好ましい。
【0088】
また、水不溶性ポリマーは、(a)成分である塩生成基含有モノマー由来の塩生成基を後述する中和剤により中和して用いる。このとき、塩生成基の中和度は10〜200%であることが好ましく、20〜150%であることがより好ましく、30〜100%であることがさらに好ましい。後述のスラリーの予備分散時に過剰に中和した場合、濃縮工程において除去可能な中和剤を使用することにより中和度の調整を行うこともできる。
【0089】
中和度は、塩生成基がアニオン性基である場合、次式
{[中和剤の質量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーの酸価 (KOHmg/g)×ポリマーの質量(g)/(56×1000)]}×100
によって算出することができる。
【0090】
また、中和度は、塩生成基がカチオン性基である場合、次式
{[中和剤の質量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーのアミン価 (HCLmg/g)×ポリマーの質量(g)/(36.5×1000)]}×100
によって算出することができる。
【0091】
スラリーに含まれる中和剤としては、水不溶性ポリマー中の塩生成基の種類に応じた酸又は塩基が挙げられ、具体的には、例えば、塩酸、酢酸、プロピオン酸、リン酸、硫酸、乳酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、グリセリン酸等の酸、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエタノールアミン等の塩基が挙げられる。
【0092】
中和剤の含有量は、最終的に得られる液性が中性、例えば、pHが4.5〜10となる量であることが好ましい。特に水不溶性ポリマーの塩生成基がアニオン性の場合には、pHが7〜10となる量であることが好ましい。
【0093】
スラリーに含まれる有機溶媒としては、例えば、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、ハロゲン化脂肪族炭化水素系溶媒等が挙げられる。有機溶媒は、分散剤が水不溶性ポリマーである場合には、水100gに対する溶解度が20℃において5〜40質量%であるものが好ましく、10〜30質量%であるものがより好ましい。
【0094】
アルコール系溶媒としては、例えば、1−ブタノール(水100gに対する溶解度が20℃において7.8質量%。浅原照三編「溶剤ハンドブック」(講談社、1976年発行)による。以下同じ。)、2−ブタノール(水100gに対する溶解度が20℃において12.5質量%)等が挙げられる。
【0095】
ケトン系溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン(水100gに対する溶解度が20℃において22.6質量%)等が挙げられる。
【0096】
これらの有機溶媒のうち、安全性や後処理における溶媒除去の操作性の観点から、メチルエチルケトンが好ましい。有機溶媒は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0097】
スラリーを製造する場合、縦型ビーズミル10にて分散処理する前に、有機溶媒に分散剤(例えば水不溶性ポリマー)を溶解させ、撹拌下、中和剤及び水を仕込んで水中油型(O/W型)乳化物とし、これに顔料を仕込んで混合又は分散する予備的混合又は予備分散を行うことが好ましい。また、別の方法としては、有機溶媒に分散剤(例えば水不溶性ポリマー)、中和剤、及び顔料を仕込み、撹拌下、水を滴下しながら予備的混合又は予備分散を行ってもよい。
【0098】
しかる後に、水不溶性ポリマーの分散剤を含むスラリーを縦型ビーズミル10に流通させ、分散を行った場合、微小ビーズの表面は比較的疎水的であるので、水不溶性ポリマーの一部が微小ビーズの表面に付着し、新品未使用の微小ビーズ、或いは活性剤や水溶性分散剤等を含むスラリーを流通させた後の微小ビーズに比べると、格段にそのすべり性が低く、且つビーズ同士の摩擦抵抗が非常に大きくなる。その結果、スラリーを縦型ビーズミル10に流通させ、縦型ビーズミル10を停止させた後の微小ビーズによるパッキング性は極めて著しいものとなる。
【0099】
従って、本実施形態に係る縦型ビーズミル10の起動方法は、縦型ビーズミル10に液体として水不溶性ポリマーを含有するスラリーを流通させてから縦型ビーズミル10を停止させ、しかる後に、水不溶性ポリマーが付着した微小ビーズにより著しいパッキング性を呈する縦型ビーズミル10を起動させる場合に特に有効である。
【0100】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、水平バー状の攪拌部材18としたが、特にこれに限定されるものではなく、ピン状やディスク状、円筒状の撹拌部材を有するアニュラー型ビーズミルであってもよい。
【0101】
また、上記実施形態では、遠心力により微小ビーズのステータ11からの漏洩を防止するセパレータ17の構成としたが、特にこれに限定されるものではなく、スクリーンによって微小ビーズのステータ11からの漏洩を防止する構成であってもよく、上記実施形態のセパレータ17にスクリーンを組み合わせた構成であってもよい。
【実施例】
【0102】
以下、実施例について説明する。各構成の詳細については表1にも示す。
【0103】
【表1】

【0104】
(実施例1)
微小ビーズに対応した縦型ビーズミル(寿工業社製 商品名:ウルトラ・アペックス・ミル30型(UAM−30)、ステータ断面積S5.94×10−2(m)、有効分散室空間容積V25.7×10−3(m)、定トルクモータ55(kW)の底板部材を改良し、ステータ底部に、ステータの中心のスラリー供給孔(孔径20mm)の他に、ステータの中心から側壁までの距離の94%の側壁近傍の位置にスラリー供給孔(孔径15mm)を4つ正方配置されるように形成し、それぞれにボール弁を設けると共にステータの中心のスラリー供給孔と同一の液供給源に接続した。そして、ステータ内の有効分散室空間の充填率が90%となるように、平均粒径が50μmのジルコニア製、微小ビーズ(ニッカトー社製)を83kg充填した。なお、同ビーズは100h以上のイエロー顔料分散液の製造に用いたビーズで、24h静置した。そして、攪拌ロータ周波数を10Hzに設定し、回転駆動させたがモータトリップした。
【0105】
次に、ステータの中心及び側壁近傍の5つのスラリー供給孔からステータ内に水を供給した。具体的には、図2(a)に示すように、ステータの側壁近傍の第1のスラリー供給孔を開いてステータ内に1Lの水を供給し、その後に第1のスラリー供給孔を閉じた。次いで、第1のスラリー供給孔の平面視で反時計回りに隣接する第2のスラリー供給孔を開いてステータ内に1Lの水を供給し、同じく第2のスラリー供給孔を閉じた。同様の操作により第3及び第4のスラリー供給孔からもステータ内におのおの1Lの水を供給し、最後にステータの中心のスラリー供給孔を開いてステータ内に1Lの水を供給し、合計5Lの水を供給した。このとき、単位時間当たりの総水供給量Qを59.4×10−6(m/s)、水供給時間tを84(s)としたので、液平均空塔速度vは1.00×10−3(m/s)、液押し比率θは0.19となった。
【0106】
その後、撹拌ロータを同じ周波数設定10Hzで回転駆動させたところ、モータトリップすることなく縦型ビーズミルの起動を行うことができた。このとき、日置電気社製のクランプオンパワーハイテスタ3169(インターバル時間:0.1sec設定)を用い、攪拌ロータの駆動源であるモータのピーク負荷動力を測定したところ6500Wであった。なお、図4(a)に起動負荷動力の経時的変化を示す。
【0107】
(比較例1)
ステータの側壁近傍の4つのスラリー供給孔を用いず、ステータの中心の1つのスラリー供給孔からステータ内に水を供給した、具体的には、図3(a)に示すように、ステータの中心のスラリー供給孔を開いてステータ内に5Lの水を供給したことを除いて実施例1と同様の操作を行ったところ、モータトリップすることなく縦型ビーズミルの起動を行うことができた。このとき、モータのピーク負荷動力を測定したところ10800Wと実施例1よりも1.5倍以上も高かった。なお、図4(b)に起動負荷動力の経時的変化を示す。
【0108】
(実施例2)
ステータの中心及び側壁近傍の5つのスラリー供給孔からステータ内に水を供給した、具体的には、図2(b)に示すように、ステータの側壁近傍の第1のスラリー供給孔を開いてステータ内に3Lの水を供給し、その後に第1のスラリー供給孔を閉じた。次いで、第1のスラリー供給孔の平面視で反時計回りに隣接する第2のスラリー供給孔を開いてステータ内に3Lの水を供給し、その後に第2のスラリー供給孔を閉じた。同様の操作により第3及び第4のスラリー供給孔からもおのおのステータ内に3Lの水を供給し、最後にステータの中心のスラリー供給孔を開いてステータ内に3Lの水を供給し、合計15Lの水を供給した。以上の操作を除いて実施例1と同様の操作を行ったところ、モータトリップすることなく縦型ビーズミルの起動を行うことができた。このとき、単位時間当たりの総水供給量Qを59.4×10−6(m/s)、水供給時間tを252(s)としたので、液平均空塔速度vは1.00×10−3(m/s)、液押し比率θは0.58となった。また、実施例1と同様にモータのピーク負荷動力を測定したところ6800Wであった。
【0109】
(比較例2)
ステータの側壁近傍の4つのスラリー供給孔を用いず、ステータの中心の1つのスラリー供給孔からステータ内に水を供給した、具体的には、図3(b)に示すように、ステータの中心のスラリー供給孔を開いてステータ内に15Lの水を供給したことを除いて実施例2と同様の操作を行ったところ、モータトリップすることなく縦型ビーズミルの起動を行うことができた。このとき、モータのピーク負荷動力を測定したところ9500Wと実施例2よりも高かった。
【0110】
(実施例3)
ビーズ充填後の静置時間を48hとし、図2(c)に示すように、ステータの中心及び側壁近傍の5つのスラリー供給孔のそれぞれから同時にステータ内に1Lの水を供給し、ステータ内に合計5Lの水を供給したことを除いて実施例1と同様の操作を行ったところ、モータトリップすることなく縦型ビーズミルの起動を行うことができた。このとき、単位時間当たりの総水供給量Qを59.4×10−6(m/s)、水供給時間tを84(s)としたので、液平均空塔速度vは1.00×10−3(m/s)、液押し比率θは0.19となった。また、実施例1と同様にモータのピーク負荷動力を測定したところ12800Wであった。
【0111】
(比較例3)
ステータの側壁近傍の4つのスラリー供給孔を用いず、ステータの中心の1つのスラリー供給孔からステータ内に水を供給した。具体的には、図3(c)に示すように、ステータの中心のスラリー供給孔を開いてステータ内に5Lの水を供給したことを除いて実施例3と同様の操作を行ったところ、モータトリップすることなく縦型ビーズミルの起動を行うことができた。このとき、モータのピーク負荷動力を測定したところ14400Wと実施例3よりも高かった。
【0112】
(実施例4)
単位時間当たりの総水供給量Qを19.4×10−6(m/s)、水供給時間tを257(s)として、図2(d)に示すように、ステータ内に合計5Lの水を供給し、液平均空塔速度vが0.33×10−3(m/s)、及び液押し比率θが0.19となったことを除いて実施例1と同様の操作を行ったところ、モータトリップすることなく縦型ビーズミルの起動を行うことができた。このとき、実施例1と同様にモータのピーク負荷動力を測定したところ17000Wであった。
【0113】
(比較例4)
ステータの側壁近傍の4つのスラリー供給孔を用いず、ステータの中心の1つのスラリー供給孔からステータ内に水を供給した、具体的には、図3(d)に示すように、ステータの中心のスラリー供給孔を開いてステータ内に5Lの水を供給したことを除いて実施例4と同様の操作を行ったところ、モータ負荷が大きくトリップした。このとき、モータのピーク負荷動力を測定したところ20000Wであった。なお、その後、何度か撹拌ロータを回転駆動させようと試みたが、いずれの場合もモータのピーク負荷動力が20000Wを超え、モータ負荷が大きくトリップした。
【0114】
(実施例5)
実施例1と同じ縦型ビーズミルを用いて、ビーズ充填後の静置時間を30minとし、通液後、起動操作を行った。具体的には、図2(e)に示すように、ステータの側壁近傍の1箇所のスラリー供給孔およびステータ中心のスラリー供給孔から順次1Lずつの水を供給し、ステータ内に合計2Lの水を供給した。このとき、単位時間当たりの総水供給量Qを19.4×10−6(m/s)、水供給時間tを105(s)としたので、液平均空塔速度vは0.33×10−3(m/s)、液押し比率θは0.08となった。その後、撹拌ロータを周波数設定10Hzで回転駆動させたところ、モータトリップすることなく縦型ビーズミルの起動を行うことができた。このとき、実施例1と同様にモータのピーク負荷動力を測定したところ8800Wであった。
【0115】
(実施例6)
実施例1と同じ縦型ビーズミルを用いて、ビーズ充填後の静置時間を30minとし、通液後、起動操作を行った。具体的には、図2(f)に示すように、2箇所のステータの側壁近傍のスラリー供給孔から順次1Lずつの水を供給し、ステータ内に合計2Lの水を供給した。このとき、単位時間当たりの総水供給量Qを19.4×10−6(m/s)、水供給時間tを105(s)としたので、液平均空塔速度vは0.33×10−3(m/s)、液押し比率θは0.08となった。その後、撹拌ロータを周波数設定10Hzで回転駆動させたところ、モータトリップすることなく縦型ビーズミルの起動を行うことができた。このとき、実施例1と同様にモータのピーク負荷動力を測定したところ10000Wであった。
【0116】
(比較例5)
実施例1と同じ縦型ビーズミルを用いて、ビーズ充填後の静置時間を30minとし、通液後、起動操作を行った。具体的には、図3(e)に示すように、ステータ中心のスラリー供給孔1箇所から2Lの水を供給し、ステータ内に合計2Lの水を供給した。このとき、単位時間当たりの総水供給量Qを19.4×10−6(m/s)、水供給時間tを105(s)としたので、液平均空塔速度vは0.33×10−3(m/s)、液押し比率θは0.08となった。その後、撹拌ロータを周波数設定10Hzで回転駆動させたところ、モータトリップすることなく縦型ビーズミルの起動を行うことができた。このとき、実施例1と同様にモータのピーク負荷動力を測定したところ11700Wであった。
【0117】
(比較例6)
実施例1と同じ縦型ビーズミルを用いて、ビーズ充填後の静置時間を30minとし、通液後、起動操作を行った。具体的には、図3(f)に示すように、ステータの側壁近傍の1箇所のスラリー供給孔から2Lの水を供給し、ステータ内に合計2Lの水を供給した。このとき、単位時間当たりの総水供給量Qを19.4×10−6(m/s)、水供給時間tを105(s)としたので、液平均空塔速度vは0.33×10−3(m/s)、液押し比率θは0.08となった。その後、撹拌ロータを周波数設定10Hzで回転駆動させたところ、モータトリップすることなく縦型ビーズミルの起動を行うことができた。このとき、実施例1と同様にモータのピーク負荷動力を測定したところ11800Wであった。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明はビーズミルの起動方法について有用である。
【符号の説明】
【0119】
10 縦型ビーズミル
11 ステータ
11b 分散室空間
12 攪拌ロータ
13 スラリー供給孔(液体供給口)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと該ステータ内にシャフトが上下方向に延びるように設けられた攪拌ロータとを備え、該ステータ内の有効分散室空間に平均粒径0.1mm以下の微小ビーズが70容量%以上充填されたビーズミルを起動する方法であって、
上記ステータの下部には、該ステータ内に設けられた上記攪拌ロータの上記シャフトの位置よりも外側に位置する液体供給口を含む複数の液体供給口が設けられており、
上記複数の液体供給口から上記ステータ内に液体を供給して上記微小ビーズを浮遊させ、該微小ビーズが浮遊している間に、上記攪拌ロータを回転駆動させるビーズミルの起動方法。
【請求項2】
上記複数の液体供給口それぞれからの上記ステータ内への液体供給を順次行う請求項1に記載されたビーズミルの起動方法。
【請求項3】
上記複数の液体供給口からの上記ステータ内への液体供給を、下記式(1)で表されるステータ断面基準の液平均空塔速度が0.2×10−3m/s以上となるように行う請求項1又は2に記載されたビーズミルの起動方法。
【数1】

【請求項4】
上記複数の液体供給口の数が2〜5個である請求項1乃至3のいずれかに記載されたビーズミルの起動方法。
【請求項5】
上記ステータ内に設けられた上記攪拌ロータの上記シャフトの位置よりも外側に位置する液体供給口が該ステータの底部に設けられている請求項1乃至4のいずれかに記載されたビーズミルの起動方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate