説明

ピストン

【課題】本発明は、ピストン移動部を軽量できるピストンを提供する。
【解決手段】ピストン10は、ピストン基部20と、ピストン基部20に対してピストン10の中心軸X0の延びる方向に沿って往復動可能なピストン移動部30とを備える。ピストン基部20は、貫通孔23bを有する本体部21と、本体部21に設けられてピン孔25が形成されるピストンボス22と、本体部21の周縁部に設けられるスカート部26とを備える。ピストン移動部30は、ピストンヘッド31と、ピストンヘッド31に設けられて貫通孔23bに移動可能に挿入されるピストン移動部30と、ピストンヘッド31の周縁部に形成されるリング部33と備える。ピストンヘッド31には、移動部側突出部34とねじ60が設けられ、これらは、本体部21に形成される貫通孔23bに摺動可能に挿入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばレシプロ式内燃機関に用いられるピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アウタピストン(ピストン移動部)とインナピストン(ピストン基部)とを備え、インナピストンに対してアウタピストンが往復動可能な構造の可変圧縮比ピストンが提案されている。アウタピストンとインナピストンとの間には、皿ばねが収容されている。燃焼室内の圧力が大きくなると、皿ばねがたわむことによってアウタピストンが下がり、それゆえ、燃焼室内が意図する圧力を越えないように設定できる。
【0003】
アウタピストンは、シリンダ内でのピストンの姿勢維持のために、スカート部を備えている。スカート部は、ピストンリングが組み付けられるリング溝が形成されるリング部に連続して形成されている。リング部とスカート部とは、内側にインナピストンを収容できるように、周方向に連続する壁状に形成されている。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−17665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されるように、アウタピストンとインナピストンに分割される構造を備えるピストンでは、インナピストンに対してアウタピストンが傾くことがある。インナピストンに対してアウタピストンが傾くと、アウタピストンとシリンダ内面との間の摺動抵抗が大きくなる。
【0006】
特に、アウタピストンは、リング部とスカート部とを備えるため、比較的重くなる傾向にある。アウタピストンが重くなると、インナピストンに対してアウタピストンが傾こうとする慣性力が大きくなるので、好ましくない。
【0007】
本発明は、ピストン移動部を軽量化することができるピストンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載のピストンは、ピストン中心軸が延びる方向に沿う貫通孔が形成される本体部と、前記本体部に設けられてピン孔が形成されるピストンボスと、前記本体部の周縁部に設けられるスカート部とを具備するピストン基部と、ピストンヘッドと、前記ピストンヘッドの周縁部に形成されるリング部とを具備し、前記ピストン基部に対して前記ピストン中心軸の延びる方向に沿って往復動可能であるピストン移動部と、前記ピストンヘッドと連結され、前記貫通孔に摺動可能に挿入される挿入部とを備える。
【0009】
請求項2に記載のピストンでは、請求項1の記載において、前記本体部は、前記ピストンヘッドとは反対側に形成される第1の往復動方向当接部を備える。前記挿入部は、前記挿入部において前記ピストンヘッドとは反対側の端部に形成されて前記ピストン基部から前記ピストン移動部が離れる方向に前記第1の往復動方向当接部に当接可能な第2の往復動方向当接部を備える。
【0010】
請求項3に記載のピストンでは、請求項2の記載において、前記ピストン基部と前記ピストン移動部の間に形成され、前記ピストン基部に対する前記ピストン移動部の往復動に伴って容積が変化する収容部を備える。前記本体部は、前記ピストンヘッドに向かって突出するとともに内側に前記貫通孔が形成される基部側突出部を備える。前記第1の往復動方向当接部は、前記基部側突出部内に形成される。
【0011】
請求項4に記載のピストンでは、請求項3の記載において、中央に前記基部側突出部を通す孔が形成されるとともに、前記孔の内側に前記基部側突出部が嵌合した状態で前記収容部内に収容されて前記ピストン基部に対する前記ピストン移動部の往復動に伴って伸縮する皿ばねを備える。
【0012】
請求項5に記載のピストンでは、請求項1から請求項4のうちのいずれか1項の記載において、前記貫通孔の中心は、前記ピストン中心軸と一致する。
【0013】
請求項6に記載のピストンでは、請求項2から請求項5のうちのいずれか1項の記載において、前記挿入部は、ヘッド部が前記第2の往復動方向当接部となるねじと、前記ねじと螺合するねじ孔を内部に有し、前記ピストンヘッドから前記本体部に向かって突出するとともに前記貫通孔内に収容されて前記貫通孔の内周面と摺動する外周面を具備する移動部側突出部と備える。
【0014】
請求項7に記載のピストンでは、請求項1から請求項6のうちのいずれか1項の記載において、前記ピストン移動部は、第1の周方向当接部を備える。前記ピストン基部は、ピストン周方向に前記第1の周方向当接部と当接可能な第2の周方向当接部を備える。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係るピストンによれば、スカート部がピストン基部に形成されるので、ピストン移動部を軽量化することができる。また、挿入部が貫通孔に摺動可能に挿入されることによって、ピストン基部に対してピストン移動部30が傾くことを抑制できる。
【0016】
請求項2に係るピストンによれば、さらに、ピストン基部からピストン移動部が外れることを防止することができる。
【0017】
請求項3に係るピストンによれば、さらに、基部側突出部が収容部内に形成されるとともに、第1の往復動方向当接部が基部側突出部内に形成されることによって、ピストン全体の大型化を防ぎつつ、ピストンの最大圧縮状態において挿入部とピストンピンまたはコンロッドとの接触を防ぐ隙間を確保することができる。
【0018】
請求項4に係るピストンによれば、さらに、基部側突出部によって皿ばねがずれることを防止することができる。請求項5に係るピストンによれば、さらに、ピストン移動部の姿勢を安定させることができる。
【0019】
請求項6に係るピストンによれば、さらに、移動部側突出部に対するねじのねじ込み量を調整することによって、ピストン基部に対するピストン移動部の往復動可能な距離を調整することができる。このため、ピストン基部に対するピストン移動部の往復動可能な距離を簡単に調整することができる。また、ピストン移動部を形成することによって、ねじが螺合する範囲を大きくすることができるので、ねじの固定強度を強くすることができる。
【0020】
請求項7に係るピストンによれば、さらに、ピストン基部に対するピストン移動部のピストン周方向の回転を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係るピストンが内燃機関のシリンダ内に収容されている状態を示す断面図。
【図2】図1に示されるピストンが分解された状態を示す断面図。
【図3】図1に示されたピストンのピストン基部とピストン移動部とを一部切り欠いて示す斜視図。
【図4】図1に示されたピストンのピストン基部を示す斜視図。
【図5】図1に示されるピストンが最大圧縮状態にある状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態に係るピストンを、図1〜5を用いて説明する。図1は、ピストン10が内燃機関1のシリンダ5内に収容されている状態を示す断面図である。図1に示すように、内燃機関1は、シリンダブロック2と、シリンダブロック2に組み付くシリンダヘッド3とを備えている。内燃機関1は、例えば4気筒式であり、図1は、1つの燃焼室4と、その近傍を示している。
【0023】
シリンダブロック2は、シリンダ5を有している。シリンダヘッド3においてシリンダ5に対向する位置には、燃焼凹部7が形成されている。燃焼凹部7には、点火プラグ8と、吸気バルブ9aと、排気バルブ9bとが設けられている。シリンダ5内にピストン10が収容された状態において、燃焼凹部7とシリンダ5とピストン10とによって、燃焼室4が形成される。
【0024】
ピストン10は、シリンダ5内を往復動する。この往復動は、直線方向に沿って行われる。ピストン10は、ピストンピン28によってコネクティングロッド27に連結されている。コネクティングロッド27は、図示しないクランクシャフトに連結されている。シリンダ5内のピストン10の往復動がコネクティングロッド27を介して図示しないクランクシャフトに伝達される。
【0025】
ピストン10に対するコネクティングロッド27の姿勢は、ピストン10のシリンダ5内の上死点と下死点との間の位置に応じて、変化する。図1中、ピストン10が上死点にある状態でのコネクティングロッド27を実線で示し、圧縮行程(もしくは排気行程)にある状態を2点鎖線で示している。
【0026】
図2は、ピストン10が分解された状態を示す断面図である。なお、図2中では、コネクティングロッド27とピストンピン28とは省略されている。図1,2に示すように、ピストン10は、ピストン基部20と、ピストン基部20に対してピストン10の中心軸X0に平行な方向に沿って往復動可能なピストン移動部30と、複数の皿ばね50と、ねじ60とを備えている。
【0027】
ピストン10の中心軸X0は、ピストン10を中心軸X0が延びる方向に沿って見たときに、ピストン10の中心を通る直線である。ピストン10の中心軸X0が延びる方向は、シリンダ5内でのピストン10の往復動方向と平行である。
【0028】
図3は、ピストン10が分解された状態、つまり、ピストン基部20とピストン移動部30とが互いに分離した状態を示す斜視図である。図4は、ピストン基部20を示す斜視図である。図1〜4に示すように、ピストン基部20は、本体部21と、スカート部26と、ピストンボス22とを備えている。ピストン基部20の中心軸X3は、ピストン基部20の中心軸X3に沿ってピストン基部20を見たときにピストン基部20の中心を通る直線である。ピストン基部20の中心軸X3は、ピストン10の中心軸X0と一致する。言い換えると、ピストン基部20の中心軸X3は、ピストン10の中心軸X0と同じとなる。
【0029】
図3に示すように、本体部21は、一例として、ピストン基部20の中心軸X3に沿ってピストン基部20を見たときの平面形状が円であり、一定の厚みを有する形状である。本体部21の中心軸X1は、中心軸X1に沿って本体部21を見たときに本体部21の中心を通る直線である。本体部21の中心軸X1は、ピストン基部20の中心軸X3と一致する。言い換えると、本体部21の中心軸X1は、ピストン基部20の中心軸X3と同じである。本体部21は、基部側突出部23と、基部側皿ばね収容溝部24とを備えている。
【0030】
スカート部26は、本体部21の周縁部に形成されており、ピストン基部20の中心軸X3に平行に延びている。スカート部26の外面は、ピストン基部20の中心軸X3が延びる方向に平行である。図1に示すように、ピストン10がシリンダ5内に収容された状態では、スカート部26は、シリンダ5の内面に接触し、摺動する。このことによって、シリンダ5内でピストン10が傾くことなく、ピストン10の姿勢が保たれる。
【0031】
図3,4に示すように、ピストンボス22は、本体部21においてスカート部26の内側に形成されており、本体部21の中心軸X1を挟んで両側に対向するように1つずつ配置されている。
【0032】
ピストンボス22は、図1に示すようにコネクティングロッド27がピストンピン28を介して連結されるピン孔25が形成されている。ピストンボス22間にコネクティングロッド27が収容された状態で、ピストンピン28がピストンボス22のピン孔25とコネクティングロッド27に挿入されることによって、コネクティングロッド27がピストン基部20に連結される。なお、図1では、ピストンピン28がピン孔25に嵌合している状態を示している。
【0033】
図4は、ピストン基部20を、ピストンボス22側から見た状態を示す斜視図である。図4は、ピストン基部20を、図3に示される状態とは反対側から見ている。図3,4に示すように、スカート部26の一部26aは、本体部21の周縁から内側に入り込んでピストンボス22に連結されている。スカート部26の他の部分26bは、シリンダ5と摺動する。
【0034】
図1〜3に示すように、基部側突出部23は、本体部21においてピストンボス22とは反対側に形成されている。基部側突出部23は、ピストン基部20の中心軸X3に沿ってピストンボス22とは反対側に突出している。基部側突出部23は、外観形状が円柱である。中心軸X2は、基部側突出部23の中心軸X2に沿って基部側突出部23を見たとき基部側突出部23の中心を通る直線であって本体部21の中心軸X0と一致する。言い換えると、中心軸X2は、中心軸X0と同じである。
【0035】
基部側突出部23内には、収容空間S1が形成されている。収容空間S1は、スカート部26によって囲まれる空間と連通している。基部側突出部23の先端23aには、貫通孔23bが形成されている。貫通孔23bは、収容空間S1と連通している。貫通孔23bを中心軸X2に沿って見ると、貫通孔23bの周縁は円となる。貫通孔23bは、その中心C1が中心軸X2上に配置されるように形成される。言い換えると、基部側突出部23と貫通孔23bは、その中心がピストン10の中心軸X3上に位置するように形成される。
【0036】
収容空間S1側から貫通孔23bを見ると、貫通孔23bの周縁と収容空間S1の内面との間には、縁部23cが形成される。縁部23cは、貫通孔23bの周縁全域と収容空間S1の内面との間に形成されている。
【0037】
本体部21の周縁部21aは、本体部21の中心軸X3に沿って立ち上がる形状である。基部側皿ばね収容溝部24は、本体部21において基部側突出部23と本体部21の周縁部21aとの間に形成されている。基部側皿ばね収容溝部24は、後述される皿ばね50が収容される。
【0038】
ピストン移動部30は、ピストンヘッド31と、リング溝32が形成されるリング部33と、移動部側突出部34と、移動部側皿ばね収容溝部35とを有している。ピストン移動部30の中心軸X5は、ピストン移動部30を中心軸X5に沿って見たときにピストン移動部30の中心を通る直線である。ピストン移動部30がピストン基部20に組みつけられたとき、ピストン移動部30の中心軸X5は、ピストン10の中心軸X0と一致する。言い換えると、中心軸X5は、中心軸X0と同じである。
【0039】
ピストンヘッド31は、中心軸X5沿って見ると平面形状が円である平板形状である。ピストンヘッド31の中心軸X4は、ピストンヘッド31を中心軸X4に沿って見たときにピストンヘッド31の中心を通る直線である。ピストンヘッド31の中心軸X4は、ピストン移動部30の中心軸X5に一致する。
【0040】
リング部33は、ピストンヘッド31の周縁部に形成されている。図1に示すように、リング溝32には、コンプレッションリング32aと、オイルリング32bとが収容されている。ピストン10がシリンダ5内に収容された状態では、ピストンヘッド31とリング部33とは、シリンダヘッド3の内径よりも若干小さく形成されており、コンプレッションリング32aとオイルリング32bとがシリンダ5の内面と摺動する。なお、図1以外では、コンプレッションリング32aとオイルリング32bとは、省略されている。
【0041】
移動部側突出部34は、ピストンヘッド31の内側に形成されている。移動部側突出部34は、外観形状が往復動方向Aに延びる円柱である。移動部側突出部34の中心軸X6は、中心軸X6に沿って移動部側突出部34を見たときに移動部側突出部34の中心を通る直線であって、ピストン移動部30の中心軸X5に一致する。移動部側突出部34の先端面34aは、中心軸X6に沿って見ると円である。移動部側突出部34には、先端面34aからピストンヘッド31の表面31aにわたって、ねじ孔34bが形成されている。ねじ孔34bは、ピストン移動部30を貫通している。ねじ孔34bの中心は、中心軸X6に一致する。
【0042】
移動部側突出部34の周囲には、ストッパ部39が環状に形成されている。移動部側皿ばね収容溝部35は、ストッパ部39とリング部33との間に形成されている。移動部側皿ばね収容溝部35は、ストッパ部39よりも一段低くい。移動部側皿ばね収容溝部35は、後述される皿ばね50が収容される。
【0043】
移動部側突出部34は、基部側突出部23の貫通孔23b内に往復動方向Aに移動可能に嵌合する大きさを有している。より具体的には、貫通孔23bの大きさと移動部側突出部34の大きさとは、ピストン基部20に対してピストン移動部30が往復動方向Aに往復動できるように、移動部側突出部34と貫通孔23bの周縁との間に若干の隙間ができるように設定されている。なお、この隙間は微小であるので、移動部側突出部34が貫通孔23bに挿入されたとき、ピストン移動部30の中心軸X5は、ピストン基部20の中心軸X3に一致する。言い換えると、中心軸X5は、中心軸X0に一致する。
【0044】
基部側突出部23の縁部23cは、中心軸X2の延びる方向に所定の厚みを有しており、内周面23dを有している。内周面23dは、基部側突出部23の中心軸X2に平行であり、言い換えると往復動方向Aに平行である。そして、移動部側突出部34の外周面34cは、中心軸X6に平行であり、言い換えると往復動方向Aに平行である。
【0045】
内周面23dは、移動部側突出部34の外周面34cに接触することによって、ピストン基部20に対するピストン移動部30の往復動方向Aの移動をガイドする。言い換えると、外周面34cは、内周面23dに摺動する。このように、基部側突出部23と移動部側突出部34とは、ピストン基部20に対するピストン移動部30の移動をガイドするガイド部120を構成する。
【0046】
ここで、ピストン10の状態について説明する。上記のように、ピストン移動部30は、ピストン基部20に対して、中心軸X0に沿って近づく方向A1と離れる方向A2とに移動可能である。
【0047】
図1に示すようにピストン移動部30がピストン基部20に対して最も離れた位置にある状態を、初期状態P1とする。図1は、初期状態P1を示している。ピストン移動部30がピストン基部20に最も近づいた状態(図示せず)を最大圧縮状態P2とする。最大圧縮状態P2は、ピストン移動部30がピストン基部20に近づき、基部側突出部23がストッパ部39に接触した状態である。図5は、最大圧縮状態P2にあるピストン10を示している。
【0048】
図1,5に示すように、リング部33の先端33aは、ピストン基部20の本体部21に往復動方向Aに対向している。リング部33の中心軸X0に沿う長さは、図5に示すように、最大圧縮状態P2にあるときに(基部側突出部23がストッパ部39に接触したときに)、リング部33の先端33aが本体部21に接触することがないように考慮されている。
【0049】
ピストン移動部30がピストン基部20に組み付けられた状態において、ピストン基部20とピストン移動部30との間には、収容部70が形成される。本実施形態では、収容部70は、基部側皿ばね収容溝部24と、移動部側皿ばね収容溝部35とによって形成される。基部側皿ばね収容溝部24の内周縁と外周縁とは、移動部側皿ばね収容溝部35の内周縁と外周縁とに、中心軸X0が延びる方向に沿って対向している。収容部70の容積は、ピストン基部20に対するピストン移動部30の相対位置によって、変化する。
【0050】
皿ばね50は、複数用いられており、互いに重ねられて収容部70内に収容されている。本実施形態では、複数の一例として、5つの皿ばね50が用いられている。なお、皿ばね50の数は、5つに限定されない。1つでもよく、または、4つや6つなどの他の複数であってもよい。
【0051】
皿ばね50は、各々同じものである。皿ばね50は、往復動方向Aに見る平面形状が円であり、内側に平面形状が円である貫通孔51が形成されている。貫通孔51の中心は、皿ばね50の中心と重なっている。皿ばね50が収容部70内に収容された状態では、貫通孔51の内側に、ストッパ部39または基部側突出部23が収容される。貫通孔51の大きさは、内側に基部側突出部23が嵌合する大きさである。このため、皿ばね50は、中心軸X0を横切る方向に対して基部側突出部23に保持される。
【0052】
複数の皿ばね50が重なる方向Bは、皿ばね50がたわむ方向であり、中心軸X0に平行である。複数の皿ばね50のうち、一端に配置される皿ばね50は、収容部70の端面71に接触し、他端に配置される皿ばね50は、収容部70の端面72に接触する。
【0053】
ピストン移動部30は、ねじ60によって、ピストン基部20が分離することが防止される。この構造について、具体的に説明する。図1に示すように、ねじ60は、収容空間S1側から挿入されて貫通孔23bを通り、移動部側突出部34のねじ孔34bに螺合する。ねじ60の中心軸は、移動部側突出部34の中心軸X6に一致する。
【0054】
ねじ60のヘッド部61は、中心軸X6に交差する方向に広がっており、中心軸X6を横切る方向に移動部側突出部34よりも大きい。なお、ヘッド部61は、ドライバなどの工具が挿入される溝が形成される部分である。
【0055】
初期状態P1では、皿ばね50の弾性力によってピストン移動部30がピストン基部20から離れる方向A2に付勢されるので、ねじ60のヘッド部61が、縁部23cに当接する。この状態が上記した初期状態P1である。ヘッド部61が縁部23cに当接することによって、ピストン移動部30がピストン基部20から分離することが抑制される。
【0056】
ここで、縁部23cにおいてヘッド部61が当接する面23eの位置について具体的に説明する。図5に示すように、ピストン10が最大圧縮状態P2では、ねじ60のヘッド部61は、コネクティングロッド27に近く。縁部23cの面23eは、ピストン10が最大圧縮状態P2となっても、ねじ60がコネクティングロッド27に接触しない位置に配置される。
【0057】
言い換えると、面23eは、本体部21においてピストン移動部30側に対向する面21bよりも、ピストン移動部30側に位置する。このことによって、往復動方向Aに沿って面21b,23e間を、ヘッド部61の移動空間として利用することができる。
【0058】
ねじ60のヘッド部61と、縁部23cとは、分離防止部110を構成する。ヘッド部61は、第2の往復動方向当接部の一例である。縁部23cは、第1の往復動方向当接部の一例である。ピストン移動部30がピストン基部20側に移動すると、ピストン移動部30の移動に合わせてねじ60も移動する
ねじ60は、収容部70内に皿ばね50が収容された状態で締めこまれる。ねじ60を締めこむことによって、収容部70の大きさが調整され、それゆえ、皿ばね50の弾性力の調整も可能である。
【0059】
ピストン基部20とピストン移動部30との間には、中心軸X0回りの互いの相対回転を止める回転防止機構100が設けられている。図3に示すように、回転防止機構100は、ピストン移動部30のリング部33に形成される回転防止用突出部101と、ピストン基部20の本体部21に形成される回転防止用溝部102とを備えている。
【0060】
回転防止用突出部101は、リング部33から往復動方向Aに沿ってピストン基部20側に延びている。回転防止用溝部102は、中心軸X0が延びる方向に回転防止用突出部101と対向する位置に形成されており、回転防止用突出部101が収容される大きさを有している。回転防止用溝部102は、中心軸X0が延びる方向に、ピストン移動部30のピストン基部20に対する往復動を阻害しない長さを有している。
【0061】
なお、回転防止用突出部101は、回転防止用溝部102に往復動可能に嵌合しており、回転防止用突出部101と回転防止用溝部102を形成する面102aとの間には、ピストン基部20に対するピストン移動部30の相対移動を阻害しない程度の隙間が形成されている。
【0062】
回転防止用突出部101が回転防止用溝部102に収容されることによって、中心軸X0回りにピストン基部20に対してピストン移動部30が回転しようとすると、回転防止用突出部101が回転防止用溝部102の面102aに当接する。このため、ピストン基部20に対してピストン移動部30が回転することが防止される。回転防止用突出部101は、第1の周方向当接部の一例である。面102aは、第2の周方向当接部の一例である。
【0063】
このように構成されるピストン10では、スカート部26がピストン基部20に形成されることによって、ピストン移動部30をスカート部26分軽量化することができる。
【0064】
ピストン基部20がスカート部26を備えることによって、ピストン基部20に対してピストン移動部30が往復動する際の摺動抵抗を小さくすることができる。この点について、具体的に説明する。
【0065】
まず、ピストン移動部がスカート部を備えるピストンについて説明する。ピストン移動部がスカート部を備える構造の場合、スカート部は、往復動方向Aに沿ってピストン基部の本体部よりもピストンボス側に延びる必要がある。このため、本体部は、スカート部の内側に収容される。そして、ピストン基部に対してピストン移動部が往復動する際に、スカート部と本体部との間に摺動抵抗が生じる。
【0066】
これに対して本実施形態のように、スカート部26がピストン基部20に形成されることによって、ピストン基部20に対してピストン移動部30が往復動する際にスカート部26と本体部21との間に摺動抵抗は生じない。
【0067】
移動部側突出部34が基部側突出部23の貫通孔23b内に嵌合する(言い換えると、移動部側突出部34が貫通孔23b内に摺動可能に挿入される)が、貫通孔23bの内周面23dの大きさは、スカート部がピストン移動部に形成された場合においてスカート部の内面よりも小さくなる。このことによって、移動部側突出部34の外周面34cと貫通孔23bの内周面23dとの間で生じる摺動抵抗は、スカート部がピストン移動部に形成される構造においてピストン基部に対してピストン移動部が往復動する際に生じる摺動抵抗よりも小さくすることができる。
【0068】
さらに、ピストン移動部30を軽量化できるので、ピストン基部20に対してピストン移動部30が傾こうとする力を小さくすることができる。このことによって、ピストン移動部30とピストン基部20とん間に生じる摺動抵抗を、より一層小さくすることができる。さらに、移動部側突出部34が貫通孔23内に嵌合(摺動可能に挿入)されることによって、ピストン基部20に対してピストン移動部30が傾くことを抑制できる。
【0069】
また、ねじ60のヘッド部61が基部側突出部23の内周面23dに当接することによって、ピストン基部20からピストン移動部30が外れることを防止することができる。
【0070】
また、基部側突出部23を備えることによって、ねじ60のヘッド部61と往復動方向Aに当接する縁部23cの面23eを、ピストン移動部30側に移動することができる。このことによって、ピストン全体の大型化を抑制しつつ、ピストン10が最大圧縮状態P2であってもねじ60がピストンピン28にぶつからないようにすることができる。
【0071】
この点について、具体的に説明する。ねじ60とピストンピン28との間には、ピストン10が最大圧縮状態P2のときに互いが接触しないように隙間が設けられる必要がある。しかしながら、この隙間を形成することによって、ピストン移動部30がピン孔25の中心から離れ、ピストン全体が往復動方向Aに長くなってしまう。さらに、ピストン移動部30の重心がピン孔25の中心から離れることによって、ピストン10がシリンダ5内を往復動する際に傾きやすくなり、それゆえ、ピストン10とシリンダ5の内面との間の摺動抵抗が大きくなる。
【0072】
これに対して上記したように、本実施形態では、ピストン移動部30がピン孔25の中心(言い換えるとピストンピン28の中心)から離れることを抑制しつつ、ピストン10が最大圧縮状態P2であってもねじ60がピストンピン28にぶつからないようにすることができるので、シリンダ5内でピストン10が傾くことを抑制できる。
【0073】
また、貫通孔23bの中心がピストン10の中心軸X0と一致することによって、ピストン基部20に対するピストン移動部30の安定した姿勢を保ちやすくなる。
【0074】
また、基部側突出部23を皿ばね50の貫通孔51に嵌合する大きさとすることによって、皿ばね50が往復動方向Aを横切る方向にずれることを防止することができる。
【0075】
また、ねじ60のヘッド部61がピストン基部20からピストン移動部30が外れることを防止する当接部として用いられることによって、ねじ60の締め具合の調整によってピストン基部20に対するピストン移動部30の往復動距離を調整することができるので、ピストン基部20に対するピストン移動部30の往復動距離を容易に調整することができる。
【0076】
また、移動部側突出部34が設けられることによって、ねじ60がピストン移動部30に螺合する長さを長くすることができるので、ピストン移動部30に対するねじ60の固定強度を強くすることができる。
【0077】
また、ピストン移動部30に形成されるねじ孔34bがピストンヘッド31を貫通することによって、ねじ孔34bの長さを最大限に長くすることができる。このため、ねじ60の長さを長くすることができるので、ピストン基部20に対するピストン移動部30を強固に連結することができる。
【0078】
また、ピストン移動部30に回転防止用突出部101が形成され、ピストン基部20に回転防止用溝部102が形成されることによって、ピストン基部20に対してピストン移動部30が回転することを防止することができる。
【0079】
上記実施形態では、ピストンヘッド31に移動部側突出部34が一体に形成されている。移動部側突出部34は、本発明で言う挿入部の一部である。このように、挿入部がピストンヘッドに一体に形成されることは、本発明で言う、ピストンヘッドに挿入部が連結されることの一例である。
【0080】
なお、この発明は、上述した実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上述した実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、上述した実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても良い。
【符号の説明】
【0081】
10…ピストン、20…ピストン基部、21…本体部、22…ピストンボス、23…基部側突出部、23b…貫通孔、23c…縁部(第1の往復動方向当接部)、25…ピン孔、26…スカート部、30…ピストン移動部、33…リング部、34…移動部側突出部(第2の往復動方向当接部)、50…皿ばね、60…ねじ(第2の往復動方向当接部)、61…ヘッド部、70…収容部、101…回転防止用突出部(第1の周方向当接部)、102a…面(第2の周方向当接部)、X0…中心軸、C1…中心。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン中心軸が延びる方向に沿う貫通孔が形成される本体部と、前記本体部に設けられてピン孔が形成されるピストンボスと、前記本体部の周縁部に設けられるスカート部とを具備するピストン基部と、
ピストンヘッドと、前記ピストンヘッドの周縁部に形成されるリング部とを具備し、前記ピストン基部に対して前記ピストン中心軸の延びる方向に沿って往復動可能であるピストン移動部と、
前記ピストンヘッドと連結され、前記貫通孔に摺動可能に挿入される挿入部と
を具備することを特徴とするピストン。
【請求項2】
前記本体部は、前記ピストンヘッドとは反対側に形成される第1の往復動方向当接部を具備し、
前記挿入部は、前記挿入部において前記ピストンヘッドとは反対側の端部に形成されて前記ピストン基部から前記ピストン移動部が離れる方向に前記第1の往復動方向当接部に当接可能な第2の往復動方向当接部を具備する
ことを特徴とする請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
請求項2の記載において、前記ピストン基部と前記ピストン移動部の間に形成され、前記ピストン基部に対する前記ピストン移動部の往復動に伴って容積が変化する収容部を具備し、
前記本体部は、前記ピストンヘッドに向かって突出するとともに内側に前記貫通孔が形成される基部側突出部を具備し、
前記第1の往復動方向当接部は、前記基部側突出部内に形成される
ことを特徴とするピストン。
【請求項4】
中央に前記基部側突出部を通す孔が形成されるとともに、前記孔の内側に前記基部側突出部が嵌合した状態で前記収容部内に収容されて前記ピストン基部に対する前記ピストン移動部の往復動に伴って伸縮する皿ばねを具備する
ことを特徴とする請求項3に記載のピストン。
【請求項5】
前記貫通孔の中心は、前記ピストン中心軸と一致する
ことを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載のピストン。
【請求項6】
前記挿入部は、
ヘッド部が前記第2の往復動方向当接部となるねじと、
前記ねじと螺合するねじ孔を内部に有し、前記ピストンヘッドから前記本体部に向かって突出するとともに前記貫通孔内に収容されて前記貫通孔の内周面と摺動する外周面を具備する移動部側突出部と
を具備する
ことを特徴とする請求項2から請求項5のうちのいずれか1項に記載のピストン。
【請求項7】
前記ピストン移動部は、第1の周方向当接部を具備し、
前記ピストン基部は、ピストン周方向に前記第1の周方向当接部と当接可能な第2の周方向当接部を具備する
ことを特徴とする請求項1から請求項6のうちのいずれか1項に記載のピストン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−137061(P2012−137061A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291285(P2010−291285)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】