説明

ピットの補修方法および金属部材の補修方法

【課題】溶融塩熱媒体が存在するピットを補修する補修方法、または、溶融塩熱媒体が存在するブローホールが内部に形成された金属部材の補修方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るピットの補修方法は、金属部材に形成された、溶融塩熱媒体が存在するピット9を溶接によって補修する補修方法であって、溶接材料に対してアーク放電して溶接を行うマイクロティグ法によって、ピット9に複数層の金属層11を形成する1次溶接工程と、形成された金属層11に衝撃を加えて、金属層11の厚さを50%以下に圧縮する圧縮工程と、圧縮工程後、マイクロティグ法によって、圧縮金属層11a上にさらに複数層の金属層11を形成する2次溶接工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融塩熱媒体が存在するピットの補修方法、および、溶融塩熱媒体が存在するブローホールが内部に形成された金属部材の補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高温用の熱媒体である溶融塩熱媒体(heat transfer salt)が各種の化学反応に広く用いられている。上記溶融塩熱媒体は、化学反応の反応物質に均一な熱伝達を行うことができるため、工業上重要な熱媒体である。上記溶融塩熱媒体は反応装置内にて加熱され、各種化学反応に用いられる。溶融塩熱媒体が反応装置外に漏れた場合、水分と接触すると水蒸気爆発などを生じるおそれがあるので、その取り扱いには厳重な管理が必要である。
【0003】
上記溶融塩熱媒体は、NaNO、NaNO、KNOなどの混合物であるが、加熱された際、分解を生じて酸化窒素、窒素などのガスを生じることがある。これらのガスは、反応装置の金属と高温にて反応して、ピットおよびブローホールを発生させることがある。ブローホールは金属内の空孔であり、ピットは金属外に通じた開口であるが、これらが発生すると、高温にて液体となった溶融塩熱媒体がピットまたはブローホールを介して反応装置外に漏れ出すおそれが生じる。
【0004】
したがって、溶融塩熱媒体が漏れ出さないように、内部に溶融塩熱媒体が存在するピットおよびブローホールに対して、ピットを塞ぐ、または、ブローホールを内部に有する金属部材を補修することが要求されるが、現状では有効な対策が見出されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記現状に対して、本発明者らは、溶融塩熱媒体が存在するピット自体、または、ブローホールを内包する金属部材に金属を溶接させることによって、ピットを塞ぐ、または、上記金属部材を補強して、溶融塩熱媒体の漏れを抑制することに関して検討を行った。
【0006】
しかしながら、溶融塩熱媒体が用いられた反応装置では、上記ピットおよびブローホールに溶融塩熱媒体が存在している。そのため、溶接を行う際の熱によって、溶融塩熱媒体が液体となり、反応装置外に漏れ出してしまう。したがって、有効な補修を行うことは容易ではない。
【0007】
本願発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、溶融塩熱媒体が導入された反応装置に生じるような、金属部材に形成された、溶融塩熱媒体が存在するピットを補修する補修方法、または、溶融塩熱媒体が存在するブローホールが内部に形成された金属部材の補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のピットの補修方法は、上記課題を解決するために、金属部材に形成された、溶融塩熱媒体が存在するピットを溶接によって補修する補修方法であって、溶接材料に対してアーク放電して溶接を行うマイクロティグ法によって、上記ピットに複数層の金属層を形成する1次溶接工程と、形成された金属層に衝撃を加えて、金属層の厚さを50%以下に圧縮する圧縮工程と、圧縮工程後、マイクロティグ法によって、圧縮した金属層上にさらに複数層の金属層を形成する2次溶接工程とを含むことを特徴としている。
【0009】
上記の発明によれば、1次溶接工程では、マイクロティグ法によって短時間にて金属層を形成するため、ピットに熱が伝わり難い。このため、ピットの変形を抑制し、溶融塩熱媒体が漏れ出すことを抑制しつつ、金属層を形成することができる。また、圧縮工程では、金属層を圧縮することによって、金属層の一部をピットの内部に移動させることができ、ピットを強固に塞ぐことができる。最後に2次溶接工程では、金属層を圧縮した金属層上にさらに金属層を形成することによって、ピットをほとんど変形させることなく補修することができる。
【0010】
また、本発明のピットの補修方法では、上記2次溶接工程の後に、さらに圧縮工程および2次溶接工程を連続して2回以上行うことが好ましい。
【0011】
これにより、圧縮工程が複数回行われることとなり、ピットへ移動する金属の量を増加させ、ピットをより多量の金属にて塞ぐことが可能となる。また、2次溶接工程が複数回行われることにより金属層の厚さが増加するので、ピットをより強固に補修することができる。
【0012】
本発明の金属部材の補修方法は、上記課題を解決するために、溶融塩熱媒体が存在するブローホールが内部に形成された金属部材を補修する補修方法であって、溶接材料に対してアーク放電して溶接を行うマイクロティグ法によって、上記ブローホールから2.0mm以下の金属部材の表面に複数層の金属層を形成することを特徴としている。
【0013】
上記の発明によれば、金属層を金属表面に複数層形成し、マイクロティグ法はアーク放電して溶接を行う方法であるため、ブローホールおよび溶融塩熱媒体に影響をほとんど及ぼすことなく、金属部材の表面の補修を行うことが可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のピットの補修方法は、以上のように、金属部材に形成された、溶融塩熱媒体が存在するピットを溶接によって補修する補修方法であって、溶接材料に対してアーク放電して溶接を行うマイクロティグ法によって、上記ピットに複数層の金属層を形成する1次溶接工程と、形成された金属層に衝撃を加えて、金属層の厚さを50%以下に圧縮する圧縮工程と、圧縮工程後、マイクロティグ法によって、圧縮した金属層上にさらに複数層の金属層を形成する2次溶接工程とを含む方法である。
【0015】
それゆえ、ピットの変形を抑制し、溶融塩熱媒体が漏れ出すことを抑制しつつ、ピットの補修を行うことができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明の金属部材の補修方法は、上記課題を解決するために、溶融塩熱媒体が存在するブローホールが内部に形成された金属部材を補修する補修方法であって、溶接材料に対してアーク放電して溶接を行うマイクロティグ法によって、上記ブローホールから2.0mm以下の金属部材の表面に複数層の金属層を形成する方法である。
【0017】
それゆえ、金属層を金属表面に複数層形成し、マイクロティグ法はアーク放電して溶接を行う方法であるため、ブローホールおよび溶融塩熱媒体に影響をほとんど及ぼすことなく、金属部材の表面の補修を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1(a)は、反応装置を示す断面図であり、図1(b)は、図1(a)の反応管および熱媒体貯蔵部の近傍の領域を示す断面図である。
【図2】本実施の形態に係る補修方法の各工程を示す断面図である。
【図3】本実施の形態に係る補修方法の補修対象を示す断面図である。
【図4】実施例1および2に係る補修方法を実施後のピット周辺を示す断面図である。
【図5】実施例3および比較例3に係る補修方法を実施後のブローホール周辺を示す断面図である。
【図6】比較例1および2に係る補修方法を実施後のピット周辺を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔実施の形態1〕
本実施の一形態に係るピットを補修する補修方法について、図1および図2に基づいて説明すれば、以下の通りである。まず、図1(a)に、溶融塩熱媒体が導入された反応装置1を示す。図1(a)は、反応装置1を示す断面図である。反応装置1は、無機の溶融塩熱媒体が導入され、各種の反応に用いられる装置であり、公知の反応装置である。
【0020】
反応装置1は、下方から下カバー2、中央部に反応管3、および、上方に上カバー4が備えられている。また、反応管3の周囲には熱媒体貯蔵部5が備えられており、無機の溶融塩熱媒体が貯蔵されている。上記無機の溶融塩熱媒体は、図示しないヒータによって加熱され、下カバー2の内部に導入された各種の原料が反応管3において高温にて加熱されて化学反応が進行することとなる。反応管3にて生成した生成物は上カバー4の内部にて回収される。熱媒体貯蔵部5には、熱媒体供給部6および熱媒体排出部7が備えられており、無機の溶融塩熱媒体の供給および排出を行うことができる。なお、反応管3の数は、説明の便宜上、4本を図示しているが、図示された本数に限定されない。非常に多くの本数、例えば、100本以上、さらには、10000本以上とすることができる。また、熱媒体供給部6および熱媒体排出部7に代えて、循環ポンプ等の構成を採用することもできる。
【0021】
反応装置1にて用いられる無機の溶融塩熱媒体とは、常温(25℃)で固体であって、本明細書においては、130℃以上の高温にて溶融して液体となるアルカリ硝酸塩とアルカリ亜硝酸塩との混合塩である。無機の溶融塩熱媒体は、公知のものを採用すればよく、特に限定されない。アルカリ硝酸塩とアルカリ亜硝酸塩として具体的にはNaNO、KNOなどを挙げることができ、NaNO:KNO=1:1や、NaNO:NaNO:KNO=7:44:49などで構成されることが一般的である。もちろん、上記混合比率を適宜変更することは可能である。
【0022】
上記無機の溶融塩熱媒体は溶接時にガス化し、溶接金属中にピットまたはブローホールを発生させることがある。ピットは金属部材外部に通じている開口であり、ブローホールは金属部材内に存在している空孔である点が相違する。
【0023】
熱媒体貯蔵部5は管板8によって固定されているが、例えば、反応管3および熱媒体貯蔵部5の間、熱媒体貯蔵部5と接する管板8などには、上記ガスが入り込むおそれが高く、ピットまたはブローホールが生じ易い。図1(b)は、図1(a)の反応管3および熱媒体貯蔵部5の近傍の領域Aを示す断面図である。図1(b)に示すように、詳細には、反応管3と管板8とは、溶接金属Wによって接合されているものである。しかし、同図に示すように、溶接金属W中に、ピット9が形成され、ブローホール10が形成されている。ピット9は溶接金属Wから外部に通じており、ブローホール10は溶接金属W内に存在している。特に、ピット9は熱媒体貯蔵部5から溶接金属Wの外部に通じているため補修の重要度が高いといえる。本実施の形態では、ピット9の溶接を行う補修方法について説明する。
【0024】
なお、ピット9のサイズは特に限定されないが、深さが0.5mm以上、3mm以下、直径が0.1mm以上、2mm以下のものを好適に補修することができる。
【0025】
本実施の形態に係る補修方法は、(1)ピットに対してマイクロティグ法(マイクロティグ溶接)によって金属層を形成する1次溶接工程、(2)上記金属層を圧縮する圧縮工程、および、(3)圧縮した圧縮金属層に対してさらにマイクロティグ法によって金属層を形成する2次溶接工程を含む。以下、各工程について説明する。
【0026】
<1次溶接工程>
1次溶接工程は、ピットに対してマイクロティグ法によって金属層を形成する。マイクロティグ法は、アーク放電によって金属を溶解させ溶接対象(ピット)に金属層を形成する方法であり、公知のマイクロティグ法を用いることができる。マイクロティグ法では、まず、不活性ガスを拭き付け溶接対象の周辺を不活性雰囲気下とした後に、溶接材料に対してアーク放電を行うことによって溶解させて金属層を形成する。
【0027】
上記不活性ガスとしては、特に限定されないが、アルゴン、窒素、ヘリウムなどを用いることができる。また、アーク放電を行う電流および放電時間も特に限定されるものではないが、例えば、電流を70A以上、80A以下、放電時間を0.3秒以上、1秒以下、好ましくは、0.5秒以上、0.7秒以下とすることができる。上記の範囲とすることによって、ピットに存在する無機の溶融塩熱媒体を過度に加熱することを回避でき、無機の溶融塩熱媒体がピットから流出する、または、ピットに存在する気体が膨張する等の悪影響を回避することができる。
【0028】
これに対して、ティグ法(ティグ溶接)とは、直流電流による発熱によって溶接を行う方法であり、例えば、120Aの電流、3秒間の溶接を行うなど、マイクロティグ法に比べて長時間の溶接を行う方法である。ティグ法では溶接対象に長時間の熱が伝達するため、ピットに多量の熱が伝達されることとなる。その結果、溶接した金属層内に空孔が発生するなどして好適な補修を行うことができない。
【0029】
ピットの周囲の金属部材(管板8)としては、例えば、ステンレス鋼、炭素鋼、ニッケル、ニッケル基合金などが挙げられる。一方、溶接材料としては、炭素鋼、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケル基合金などが挙げられる。
【0030】
ピットに対してマイクロティグ法によって形成する金属層の厚さは、上記の電流および放電時間の範囲で行った場合、用いる溶接材料にもよるが、概して0.3mm以上、0.5mm以下にて形成することができる。しかしながら、上記の範囲でなくとも本工程を行うことはもちろん可能である。
【0031】
上記のように金属層を形成した後、形成した金属層上にさらに金属層を形成してもよい。後述する圧縮工程を行う回数にもよるが、金属層を形成する回数は、金属層の総厚さを所定量確保する観点から2回以上であり、工程を煩雑にしない観点から10回以下である。図2(a)は、1次溶接工程において、ピットに対して金属層を3層形成した状態を示す断面図である。なお、図2(a)では、下向き溶接した状態が示されているが、上向き溶接であっても、横向き溶接であってもよい。すなわち、ピットの開口方向は、上、下、または横方向方向など特に限定されない。
【0032】
<圧縮工程>
圧縮工程は、1次溶接工程にて形成した金属層に対して衝撃を加えることによって金属層を圧縮する工程である。圧縮工程を行うことによって、積層された金属層の一部をピット部分に移動させることができ、ピットを塞ぐ作用を得ることができる。
【0033】
金属層の圧縮率(金属層の圧縮前の厚さに対する圧縮後の厚さの割合)は、少なくとも50%以下である。これにより、確実にピットを塞ぐ作用が得られる。金属層の圧縮率の下限は金属層の種類によって変化するが、金属層の圧縮限界との関係から概して15%である。
【0034】
金属層を圧縮する方法は特に限定されるものではなく、金属層を50%以下に圧縮できればよい。具体的には、ハンマーなどによって、金属層に衝撃を加えて圧縮する方法が挙げられる。図2(b)は、圧縮工程において金属層を圧縮した状態を示す断面図である。同図に示すように、金属層11が圧縮された圧縮金属層(圧縮された金属層)11aがピット9に入り込んでいる状態が示されている。
【0035】
なお、マイクロティグ法は、金属部材の一部が破損した場合、破損部分を補修するために金属を溶接する用途として一般的に用いられ、破損した部分に金属を溶接して破損部分を補う。その後、溶接した金属を加工して、金属部材を復元する。このため、本発明のように、ピットなどの開口の補修を目的としてマイクロティグ法は用いられるものではない。したがって、形成した金属層を圧縮することももちろん一般的になされない。当該圧縮工程を行うことは、本発明者らが、ピットを塞ぐことを目的として鋭意検討した結果見出したものである。
【0036】
<2次溶接工程>
本工程では、圧縮工程にて圧縮した金属層の上にマイクロティグ法によってさらに金属層を形成する。本工程で実施するマイクロティグ法については、1次溶接工程にて上述した通りである。
【0037】
図2(c)に示すように、金属層11の積層は複数回行なわれる、これにより、ピット9を補強する金属層11の厚さの増加により、補修がより強固となるため好ましい。
【0038】
当該ピットの補修方法によれば、1次溶接工程では、マイクロティグ法によって短時間にて金属層11を形成するため、ピット9に熱が伝わり難い。このため、ピット9の変形を抑制し、溶融塩熱媒体が漏れ出すことを抑制しつつ、金属層11を形成することができる。また、圧縮工程では、金属層11を圧縮することによって、金属層11の一部をピット9の内部に移動させることができ、ピットを強固に塞ぐことができる。最後に2次溶接工程では、金属層11を圧縮した圧縮金属層11a上にさらに金属層11を形成することによって、ピット9を変形させることなく補修することができる。
【0039】
当該ピットの補修方法は、上述した1次溶接工程、圧縮工程および2次溶接工程を行うことによってなされるが、2次溶接工程の後、さらに圧縮工程および2次溶接工程を連続して1回行うことが好ましく、2次溶接工程の後、さらに圧縮工程および2次溶接工程を連続して2回以上行うことがさらに好ましい。圧縮工程および2次溶接工程を追加して行う回数はより多いことが好ましいが、5回程度追加して行えば、補修を必要とするほとんどのピットを補修することができる。
【0040】
2次溶接工程の後、さらに圧縮工程および2次溶接工程を行うことによって、圧縮工程が複数回行われることとなり、ピット9へ移動する金属の量を増加させ、ピット9をより多量の金属にて塞ぐことが可能となる。また、2次溶接工程が複数回行われることにより金属層11の厚さが増加するので、ピット9をより強固に補修することができる。
【0041】
〔実施の形態2〕
本発明に係るブローホールを補修する補修方法について図1および図2に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本実施の形態において説明すること以外の構成は、前記実施の形態1と同じである。また、説明の便宜上、実施の形態1の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0042】
本実施の形態では、ブローホールが内部に存在する金属部材を補修の対象とする。図1に示すように、ブローホール10自体は、金属部材内部に存在しているため、ピット9のように直接的に補修の対象とはならない。
【0043】
すなわち、図2(d)に示すように本実施の形態に係る補修方法では、金属材料(管板8)の金属表面8aを補修対象とし、金属表面8aの距離2.0mm以内(距離L)にブローホール10が存在している。なお、上記金属表面8aはその一部の領域がブローホール10から2.0mm以下に位置していればよい。
【0044】
また、ブローホール10には、無機の溶融塩熱媒体が存在している。上記位置にブローホール10が存在しているか否かは、放射線透過試験方法を用いて、試験で得られたフィルムを観察することによって確認することができる。撮影装置としては、例えば、株式会社シーエックスアール社製のガンマ線照射装置CTC15Aを用いることができる。
【0045】
本実施の形態に係る補修方法は、マイクロティグ法によって複数層の金属層11を金属表面8aに形成するものである。具体的には、図2(e)に示すように、実施の形態1の1次溶接工程と同様に、金属層11を金属表面8aに複数層形成する。マイクロティグ法はアーク放電を短時間行って溶接を行う方法であるため、ブローホール10および無機の溶融塩熱媒体に影響をほとんど及ぼすことなく、金属表面8aの補修を行うことが可能である。
【0046】
金属層11の形成数は2層以上であれば、十分な厚さにて補修が可能である。一方、作業場の利便性から上限は10層であることが好ましい。形成数が1層である場合、金属表面8aを強固に補修できないおそれがある。
【0047】
〔実施の形態3〕
本発明に係るピットを溶接する補修方法について図2に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本実施の形態において説明すること以外の構成は、前記実施の形態1および2と同じである。また、説明の便宜上、実施の形態1および2にて図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0048】
本実施の形態3は、実施の形態1および実施の形態2の補修方法を組み合わせた方法である。具体的には、図2(f)に示すように、管板8には、開口が管板8の外部に通じており、ピット9が形成されている。金属表面8aからピット9までの距離Lは、実施の形態2と同様に2.0mm以内である。
【0049】
本実施の形態では、(1)実施の形態2の補修方法と同様に金属表面8aに対して、マイクロティグ法によって金属層11を複数層形成する。その後、(2)実施の形態1の補修方法と同様に、ピット9の開口部に対して、圧縮工程を含む溶接を行う。上記(1)および(2)の工程順序は変更することもできる。当該補修方法によれば、管板8の端部に位置するピット9に対して、ピット9自体を塞ぎつつ、ピット9の周囲の金属部材を補強できるというメリットがある。
【0050】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0051】
〔実施例1〕
本実施例は、ピットの補修方法に関するものである。図3に示すピット9に対して、図2(a)〜(c)に示すように補修を行った。ピット9の深さは3mm、直径1.2mm、ピット9に沿った管板8の幅は8mmとした。なお、ピットの中にはNaNO:KNOの粉末を充填した。
【0052】
1次溶接工程および2次溶接工程でのアーク放電を行うための装置としては、DY‐1000(株式会社日本テクノエンジニアリング社製)を用いて、溶接を1回行う際の放電電流を78A、放電時間を0.5秒間とし、溶接材料としては、フィラー径(直径)が0.8mmである炭素鋼のTGS‐50(株式会社神戸製鋼所製)を用いた。
【0053】
ピットの補修方法としては、1次溶接工程において、7層の金属層(各金属層は0.4mm)をピット9の開口部分に形成し、その後、圧縮工程では、ハンマーによって7層の金属層を50%に圧縮した。次に、2次溶接工程において、上記圧縮した金属層上にさらに6層の金属層を形成した。補修後のピット9周辺の断面図を図4に示す。
【0054】
図4は、株式会社キーエンス社製のデジタルマイクロスコープによって撮影した画像を示す図である。
【0055】
同図に示すように、ピット9は完全に塞がっており、無機の溶融塩熱媒体の漏れも観察されなかった。したがって、ピットの補修を良好に行うことができたことが分かる。
【0056】
〔実施例2〕
ピットの補修方法において、1次溶接工程において、2層の金属層をピット9の開口部分に形成し、その後、圧縮工程では、ハンマーによって2層の金属層を50%に圧縮した。次に、2次溶接工程において、上記圧縮した金属層上にさらに2層の金属層を形成した。
【0057】
引き続き、上記と同様の圧縮工程(金属層を50%圧縮)および2次溶接工程(2層の金属層を形成)を1回行い、更に、同様の圧縮工程(金属層を50%圧縮)および圧縮した金属層上にさらに金属層を3層形成する2次溶接工程を行った。すなわち、1次溶接工程を1回(2層の金属層を形成)、圧縮工程を3回、2次溶接工程を3回(2層、2層、3層の金属層を形成)行った。実施例1と同様に補修後のピット周辺の断面図を図4に示す。
【0058】
同図に示すように、ピットは完全に塞がっており、無機の溶融塩熱媒体の漏れも観測されなかった。さらに、実施例1よりも金属層を高く形成することができており、非常に好ましいピットの補修を行うことができたことが分かる。
【0059】
〔実施例3〕
本実施例は、ブローホールが内部に存在する金属部材の補修方法に関するものである。図3(b)に示したブローホール10が内在する管板8(金属部材)の金属表面8aに対して、図2(d)〜(e)に示すように、実施例1の1次溶接工程の条件にて2層の金属層をマイクロティグ法にて形成した。なお、図3(b)に示されるように、ブローホール10の両端には金属溶接12が形成されており、ブローホール10が形成されている。
【0060】
実施例1と同様に、補修後のブローホール10周辺の断面図を図5に示す。同図では、円柱状のブローホール10を2つの円板を通る直線を紙面の方向にて示しているため、ブローホール10は円形をしている。
【0061】
同図に示されるように、本実施例ではマイクロティグ法によって溶接を行っているため、ブローホール10に対して熱が加わり難い。そのため、ブローホール10の形状をほとんど変形させることなく、ブローホールを内在する金属部材の補修がなされたことが分かる。
【0062】
〔実施例4〕
本実施例は、ピットの補修方法に関するものである。補修の対象は、図3(c)に示すピット9を有する管板8(金属部材)であり、図3(b)のブローホール10のように両端部に金属溶接12が形成されているのではなく、一方の端部にのみ金属溶接12が形成されていること以外は同じである。
【0063】
この管板8の金属表面8aに対して、実施例3と同様に溶接による補修を行ったところ、実施例3と同様にピットの形状をほとんど変形させることなく、補修を行うことができた。
【0064】
〔比較例1〕
1次溶接工程にて、ピットに対して3層の金属層を形成して、ピットを塞いだ後に、圧縮工程を行わず、2次溶接工程にて1次溶接工程で形成した金属層上にさらに3層の金属層を形成した以外は、実施例1と同様にピット9の補修を行った。実施例1と同様に補修後のピット9周辺の断面図を図6に示す。
【0065】
同図に示されるように、比較例1では圧縮工程を行っていないため、金属層11をピット9上に溶接したとしても、ピット9の移動が生じて形成した金属層11中に存在していることが分かる。すなわち、好適なピット9の補修を行うことができなかった。
【0066】
〔比較例2〕
1次溶接工程にて、ピットに対して3層の金属層を形成して、ピットを塞いだ後に、圧縮工程を行わず、2次溶接工程にて1次溶接工程で形成した金属層上にさらに6層の金属層を形成した以外は、実施例1と同様にピット9の補修を行った。すなわち、比較例1とは、2次溶接工程にて金属層の形成数を6層に変更した点で異なる。実施例1と同様に補修後のピット9周辺の断面図を図6に示す。
【0067】
同図に示されるように、比較例1よりも、2次溶接工程での金属層の形成数を増加させたため、比較例1よりもピット9を塞ぐことができた。しかしながら、ピット9の一部が空孔として金属層11の上部に存在していることが分かる。上記のように空孔が存在すると、金属層11に割れなどが生じ易くなるため、ピットの補修を良好に行うことができなかったといえる。
【0068】
〔比較例3〕
本実施例では、実施例3にて用いたマイクロティグ法をティグ法に変更した以外は、実施例3と同様にして、ブローホールの溶接を行った。ティグ法としては、溶接を1回行う際の電流を110A、溶接時間を3秒間とし、溶接材料として、フィラー径(直径)が0.8mmである炭素鋼のTGS‐50(株式会社神戸製鋼所製)を用いて金属表面8aに対して2層の金属層11を形成した。
【0069】
実施例1と同様に、補修後のブローホール10周辺の断面図を図5に示す。同図に示されるように、本比較例ではティグ法によって溶接を行っているため、ブローホール10に対して熱が加わり易く、ブローホール10が変形して拡がっていることが分かる。その結果、金属層11の内部にブローホール10が存在することとなり、有効な溶接厚さを確保することができず、好適な補修を行うことができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、溶融塩熱媒体を用いる反応装置の補修に用いることができるため、上記反応装置を用いる化学プラント等にて利用することが可能である。
【符号の説明】
【0071】
8 管板(金属部材)
8a 金属表面(金属部材の表面)
9 ピット
10 ブローホール
11 金属層
11a 圧縮金属層(圧縮された金属層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材に形成された、溶融塩熱媒体が存在するピットを溶接によって補修する補修方法であって、
溶接材料に対してアーク放電して溶接を行うマイクロティグ法によって、上記ピットに複数層の金属層を形成する1次溶接工程と、
形成された金属層に衝撃を加えて、金属層の厚さを50%以下に圧縮する圧縮工程と、
圧縮工程後、マイクロティグ法によって、圧縮した金属層上にさらに複数層の金属層を形成する2次溶接工程とを含むことを特徴とするピットの補修方法。
【請求項2】
上記2次溶接工程の後に、さらに圧縮工程および2次溶接工程を連続して2回以上行うことを特徴とする請求項1に記載のピットの補修方法。
【請求項3】
溶融塩熱媒体が存在するブローホールが内部に形成された金属部材を補修する補修方法であって、
溶接材料に対してアーク放電して溶接を行うマイクロティグ法によって、上記ブローホールから2.0mm以下の金属部材の表面に複数層の金属層を形成することを特徴とする金属部材の補修方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−79054(P2011−79054A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203185(P2010−203185)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】