説明

ピペット

【課題】押しボタンを押し下げたときに液体を吸引し得るピペットを提供する。
【解決手段】ピペットは、下端にチップ6を着脱自在に取付けられるノズル部5を下方に一体的に有する筒形ボデー2と、該ボデーに対して上下動自在に配された押ボタン11と、該ボデーの内部で該ボデーに対して固着されたプランジャ7と、上部の第1筒形部13a及び下部の第2筒形部13bを有し、該押ボタンと一体的に上下動可能に配された筒形部材13であって、該第1筒形部が該プランジャ外周にシール的に且つ軸方向可動に嵌合され且つ該第2筒形部が前記ノズル部内周にシール的に且つ軸方向可動に嵌合され、これにより該筒形部材の内部に第1の室41を画定し、且つ該ノズル部の内部に第2の室42を画定する前記筒形部材と、押ボタン及び前記筒形部材を上方へ付勢する弾性手段9、14とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は押ボタンを押し下げたときに液体等を吸引し得るピペットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のピペットでは、殆どの場合、筒形ボデー下端のノズル部に装着したチップを液体に浸さない状態で、最初に押ボタンを下限位置まで押し下げてこれと一体のプランジャを筒形ボデーと一体のシリンダ内を下限位置まで最大ストロークだけ下動させて、シリンダ内の空気を一旦排出する。この状態でチップ下端を液体に浸して押ボタンの押圧力を解放するとプランジャがバネ力により所定ストロークだけ上動復帰してシリンダ内に上記排出された空気の量に見合った量の液体を吸引する。続いて、押ボタンを逐次任意寸法だけ押し下げるとシリンダ内の液体がその都度逐次排出される。
【0003】
しかしながら、上記従来例によれば、液体の吸引容量は、プランジャがバネ力により上動復帰するストロークに依存するが、その際に作業者は押ボタンに対する押圧力を徐々に緩めて或る位置で停止しなければならない。しかるに、液体の吸引時に一般に押圧力を徐々に緩めて或る位置で停止させる作業を微妙に手動制御するのは困難であり、吸引動作の微少調整を行うことが難しかった。
【0004】
これを解決するための従来例の一例として、特開平6−7688号がある。これによれば、一対の上下方向に長寸法のラック5及び13が夫々ギア16に噛合して対向し、且つ一方のラック5にピストン3が固着されており、他方のラック13を押し下げたときにギア16を介して一方のラック5がピストン3と共に上動してシリンダ4内に液体を吸引し、次いでレバー9を押し下げることによりラック5がピストン3と共に下動し液体を排出する。
【0005】
しかるに、この従来例によれば、上下方向に下動する1対の並列部材(長寸法のラック)を有するため、ピペットの幅寸法が大きくなり大型化するという問題点があり、また上記一方のラック5とピストン3とは同軸状態ではないので可動時に曲げモーメントが発生するという問題点があり、またラックとギアとの噛み合いはバックラッシュ等に起因して時間と共に噛み合いガタを生じ易く円滑な動作が妨げられるという問題点があった。
【特許文献1】特開平6−7688号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、押ボタンを押し下げたときに液体等を吸引することができて、吸引動作の微少調整を行うことができ、且つプランジャとノズル部(シリンダに相当)との間に、該プランジャ及びノズル部に対して夫々同軸的に嵌合する筒形部材を設けて、押ボタン及び筒形部材の円滑な上下動動作を行い得るピペットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の構成は、ピペットにおいて、
下端にチップ(6)を着脱自在に取付けられるノズル部(5)を下方に一体的に有する筒形ボデー(2)と、
該ボデー(2)に対して上下動自在に配された押ボタン(11)と、
該ボデー(2)の内部で該ボデー(2)に対して固着されたプランジャ(7)と、
上部の第1筒形部(13a)及び下部の第2筒形部(13b)を有し、該押ボタン(11)と一体的に上下動可能に配された筒形部材(13)であって、該第1筒形部(13a)が該プランジャ(7)外周にシール的に且つ軸方向可動に嵌合され且つ該第2筒形部(13b)が前記ノズル部(5)内周にシール的に且つ軸方向可動に嵌合され、これにより該筒形部材(13)の内部に第1の室(41)を画定し、且つ該ノズル部(5)の内部に第2の室(42)を画定する前記筒形部材(13)と、
押ボタン(11)及び前記筒形部材(13)を上方へ付勢する弾性手段(9、14)とを具備し、
前記チップ(6)下端を流動体に浸した状態で、押ボタン(11)を弾性手段(9、14)に抗して所定位置から下限位置まで所定寸法だけ押し下げることにより、前記筒形部材(13)が押ボタン(11)と一体的に下動して前記プランジャ(7)が前記第1の室(41)から相対的に退出し且つ第2筒形部(13b)が第2の室(42)内に相対的に進入することにより、前記第1の室(41)が所定位置容積(V11)から下限位置容積(V21)まで増大変動し、且つ前記第2の室(42)が所定位置容積(V12)から下限位置容積(V22)まで減少変動し、これにより第1及び第2の室(41、42)の合計所定位置容積(V1=V11+V12)と第1及び第2の室(41、42)の合計下限位置容積(V2=V21+V22)との間にV2>V1の関係があって、第1及び第2の室(41、42)の合計容積が増大して減圧されることにより、前記チップ(6)内に流動体を所定容量(V2―V1)に相当するだけ吸引することを特徴とする。
【0008】
好ましくは、押ボタン(11)の前記下限位置において、前記チップ(6)下端を流動体から離した状態で押ボタン(11)の押し下げ力を解放して、押ボタン(11)及び前記筒形部材(13)を前記弾性手段(9、14)により前記下限位置から前記所定位置まで一体的に上動復帰させることにより、
前記プランジャ(7)が前記第1の室(41)内へ相対的に進入し且つ前記第2筒形部(13b)が前記第2の室(42)内で相対的に退出することにより、前記第1の室(41)が前記下限位置容積(V21)から所定位置容積(V11)まで減少し、且つ前記第2の室(42)が前記下限位置容積(V22)から所定位置容積(V12)まで増大し、これにより第1及び第2の室(41、42)の合計下限位置容積(V2=V21+V22)と合計所定位置容積(V1=V11+V12)との間にV1<V2の関係があって、第1及び第2の室(41、42)の合計容積が小さくなって増圧されることにより、前記チップ(6)から流動体を最大限所定容量(V2―V1)に相当する量だけ排出することを特徴とする。
【0009】
また好ましくは、押ボタン(11)の移動位置は、前記所定位置の初期寸法a1だけ上方に更に初期位置が設定されており、
最初に、押ボタン(11)を第2の弾性手段(14)に抗して初期位置から前記初期寸法a1だけ所定位置まで押し下げることにより、前記筒形部材(13)が押ボタン(11)と一体的に下動して前記プランジャ(7)が前記第1の室(41)から相対的に退出し且つ第2筒形部(13b)が第2の室(42)内に相対的に進入することにより、前記第1の室(41)が初期位置容積(V01)から所定位置容積(V11)まで増大変動し、且つ前記第2の室(42)が初期位置容積(V02)から所定位置容積(V12)まで減少変動し、これにより第1及び第2の室(41、42)の合計初期位置容積(V0=V01+V02)と合計所定位置容積(V1=V11+V12)との間にV1>V0の関係があって、第1及び第2の室(41、42)の合計容積が増大して減圧されることにより、前記チップ(6)内に空気を所定容量(V1―V0)だけ吸引し、
その後に前記チップ(6)下端を流動体に浸した状態で、前述のようにV1からV2に容積を変化させることで、前記チップ(6)内に流動体を所定容量(V2―V1)に相当するだけ吸引し、
続いて、押ボタン(11)が前記下限位置から所定位置を経由して更に初期値まで上動復帰したとき、前記チップ(6)内から流動体が所定容量(V2―V1)に相当する量だけ排出されるのに続いて、前記所定容量(V1―V0)の空気を排出してチップ(6)内に残留した流動体を、余裕をもって排出することを特徴とする。
【0010】
更に、前記筒形部材(13)の第1筒形部(13a)の内径をd1、第2筒形部(13b)の外径をd2、内径をd3としたとき、次式が成立する。
【0011】
d1>d2−d3・・・・・(1)
本発明の他の構成は、ピペットにおいて、
下端にチップ(6)を着脱自在に取付けられるノズル部(5)を下方に一体的に有する筒形ボデー(2)と、
該ボデー(2)に対して第一の弾性手段(14)により上方へ付勢されて上下動自在に配された押ボタン(11)と、
該ボデー(2)の内部で、該第一の弾性手段(14)より大なる弾性力を有する第二の弾性手段(9)により上方へ付勢されて上下動自在に収納されたプランジャ(17)と、
上部の第1筒形部(13a)及び下部の第2筒形部(13b)を有し、該押ボタン(11)と一体的に上下動可能に配された筒形部材(13)であって、該第1筒形部(13a)が該プランジャ(17)外周にシール的に且つ軸方向可動自在に嵌合され且つ該第2筒形部(13b)が前記ノズル部(5)内周にシール的に且つ軸方向可動自在に嵌合され、これにより該筒形部材(13)の内部に第1の室(51)を画定し、且つ該ノズル部(5)の内部に第2の室(52)を画定する前記筒形部材(13)とを具備し、
前記チップ(6)下端を流動体に浸した状態で、押ボタン(11)を第一の弾性手段(14)に抗して該プランジャ(17)を移動させないままで、初期位置から前記プランジャ(17)に当接する所定位置まで所定の初期寸法だけ押し下げることにより、前記筒形部材(13)が押ボタン(11)と一体的に下動して前記プランジャ(17)が前記第1の室(51)内から相対的に退出し且つ前記第2筒形部(13b)が前記第2の室(52)内へ相対的に進入することにより、前記第1の室(51)が初期位置容積(V31)から所定位置容積(V41)まで増大し、且つ前記第2の室(52)が初期位置容積(V32)から所定位置容積(V42)まで減少し、これにより第1及び第2の室(51、52)の合計初期位置容積(V3=V31+V32)と第1及び第2の室(51、52)の合計所定位置容積(V4=V41+V42)との間にV4>V3の関係があって、第1及び第2の室(51、52)の合計容積が大きくなって減圧されることにより、前記チップ(6)内に流動体を所定容量(V4―V3)に相当する量だけ吸引することを特徴とする。
【0012】
好ましくは、押ボタン(11)を初期位置から所定位置まで前記初期寸法だけ押し下げたときに前記プランジャ(17)に当接し、押ボタン(11)を更に前記所定位置から下限位置まで前記第二の弾性手段(9)に抗して更に所定寸法だけ押し下げることにより、前記筒形部材(13)及びプランジャ(17)が押ボタン(11)と一体的に下動して、前記プランジャ(17)が前記第1の室(51)に対して相対的に移動せず且つ前記第2筒形部(13b)が前記第2の室(52)内へ相対的に進入することにより、前記第1の室(51)が所定容積(V41)が変動後容積(V51)と同一であり、且つ前記第2の室(52)が所定容積(V42)から変動後容積(V52)まで減少変動し、これにより第1及び第2の室(51、52)の所定位置合計容積(V4=V41+V42)と下限位置合計容積(V5=V51+V52)との間にV5<V4の関係があって、第1及び第2の室(51、52)の容積が減少して増圧されることにより、前記チップ(6)内の流動体および空気が所定容量(V4―V5)に相当する量だけ排出されることを特徴とする。
【0013】
更に、前記筒形部材(13)の第1筒形部(13a)の内径をd1、第2筒形部(13b)の外径をd2、内径をd4としたとき、次式が成立する。
【0014】
d1>d2−d4・・・・・(2)
本発明の更に他の構成は、ピペットにおいて、
下端にチップ(6)を着脱自在に取付けられるノズル部(5)を下方に一体的に有する筒形ボデー(2)と、
該ボデー(2)に対して第一の弾性手段(14)により上方へ付勢されて上下動自在に配された押ボタン(11)と、
該ボデー(2)の内部で該ボデー(2)に対して固着された第1のプランジャ(27)と、
該ボデー(2)の内部で第二の弾性手段(9)により上方へ付勢されて上下動自在に且つ前記第1のプランジャ(27)内にシール的に且つ軸方向可動に挿入された第2のプランジャ(28)と、
上部の第1筒形部(13a)及び下部の第2筒形部(13b)を有し、該押ボタン(11)と一体的に上下動可能に配された筒形部材(13)であって、該第1筒形部(13a)が該第1のプランジャ(27)外周にシール的に且つ軸方向可動に嵌合され且つ該第2筒形部(13b)が前記ノズル部(5)内周にシール的に且つ軸方向可動に挿入され、これにより該筒形部材(13)内部に第1の室(61)を画定し、且つ該ノズル部(5)の内部に第2の室(62)を画定し、且つ該第1のプランジャ(27)内部に第3の室(63)を画定する前記筒形部材(13)とを具備し、
前記チップ(6)下端を流動体に浸した状態で、押ボタン(11)を第一の弾性手段(14)に抗して初期位置から前記第2のプランジャ(28)に当接する所定位置まで所定の初期寸法だけ押し下げることにより、前記筒形部材(13)が押ボタン(11)と一体的に下動して、前記第1及び第2のプランジャ(27、28)は相対的に移動しないことにより前記第3の室(63)の容積(V63=V73)は変動しない条件下で、前記第1のプランジャ(27)が前記第1の室(61)内から相対的に退出し且つ前記第2筒形部(13b)が前記第2の室(62)内へ相対的に進入することにより前記第1の室(61)が当初容積(V61)から変動後容積(V71)まで増大し、且つ前記第2の室(62)が当初容積(V62)から変動後容積(V72)まで減少し、これにより第1及び第2の室(61、62)の合計初期位置容積(V6=V61+V62+V63)と第1及び第2の室(61、62)の合計所定位置容積(V7=V71+V72+V73)との間にV7>V6の関係があって、第1及び第2の室(61、62)の合計容積が増大して減圧されることにより、前記チップ(6)内に流動体を所定容量(V7―V6)に相当する量だけ吸引することを特徴とする。
【0015】
好ましくは、押ボタン(11)を初期位置から所定位置まで前記初期寸法だけ押し下げたときに前記第2のプランジャ(28)に当接し、
押ボタン(11)を更に前記所定位置から下限位置まで更に所定寸法だけ押し下げることにより、
前記筒形部材(13)及び第2のプランジャ(28)が押ボタン(11)と一体的に下動して、前記第1プランジャ(27)が前記第1の室(61)から相対的に退出し且つ前記第2筒形部(13b)が前記第2の室(62)内へ相対的に進入し且つ前記第2のプランジャ(28)が前記第3の室(63)に対して相対的に進入することにより、前記第1の室(61)が所定容積(V71)から変動後容積(V81)まで増大変動し且つ前記第2の室(62)が所定容積(V72)から変動後容積(V82)まで減少変動し且つ前記第3の室(63)が所定容積(V73)から変動後容積(V83)まで減少変動し、これにより第1乃至第3の室(61、62、63)の合計所定位置容積(V7=V71+V72+V73)と第1乃至第3の室(61、62、63)の合計下限位置容積(V8=V81+V82+V83)との間にV8<V7の関係があって、第1乃至第3の室(61、62、63)の合計容積が減少して増圧されることにより、前記チップ(6)内の流動体および空気が所定容量(V8―V7)に相当する量だけ排出されることを特徴とする。
【0016】
更に、前記筒形部材(13)の第1筒形部(13a)の内径をd5、第2筒形部(13b)の外径をd2、内径をd4とし、且つ前記第1プランジャ(27)の内径をd6としたとき、次式が成立する。
【0017】
d6+d2−d4>d5>d2−d4・・・・・(3)
更に好ましくは、前記筒形ボデー(2)に対して上下動調整自在に配設された容量調整部材(10)を更に備え、押ボタン(11)が弾性手段(14)により付勢されて前記容量調整部材(10)に当接しており、前記容量調整部材(10)の位置を調整することにより、流動体の吸引量を微調整可能である。
【本発明の効果】
【0018】
(1)請求項1の本発明の上記構成によれば、固定のプランジャ7とノズル部(シリンダに相当)5との間に、押ボタン11と一体的に上下動し且つプランジャ7及びノズル部5に共通に嵌合する筒形部材13を設けて、該筒形部材13及びノズル部5内部に夫々第1及び第2の室41、42を画定し、押ボタン11及び筒形部材13が一体的に下動したとき、第1及び第2の室41、42の合計所定位置(中間位置)容積(V1)から合計下限位置容積(V2)へ変動するときに容積が増大して(V2>V1)その分減圧されることにより、チップ6内に流動体を所定容量(V2―V1)に相当する量だけ吸引することができる。
【0019】
即ち、押ボタン11を押し下げる動作のみにより流動体を吸引できるので、従来例の如く押ボタンの押圧力を徐々に緩めて或る位置で停止させて流動体吸引を行う作業に比して、押ボタン位置を微妙に手動制御でき、手動による吸引動作の微少調整を容易に且つ正確に行い得る。
【0020】
更に、プランジャ7及び筒形部材13、プランジャ7及びノズル部(シリンダに相当)5等を同軸的に構成できるので、ピペットの外径を比較的小さくでき構成を小型化し得、且つ従来例の特開平6−7688号の如く曲げモーメントが発生するおそれが無くなり、且つラック及びギアの噛み合いに比して上下動の動作が円滑である。
【0021】
更に、押ボタン11、筒形部材13各部材を同軸的に配設し得るから、
(2)請求項2の本発明の上記構成によれば、押ボタン11の押し下げ力を解放することにより、前記下限位置から前記所定位置(中間位置)まで上動復帰させることにより、第1及び第2の室41、42の合計下限位置容積(V2)が合計所定位置(中間位置)容積(V1)まで小さくなって(V1<V2)増圧されることにより、前記チップ6から流動体を所定容量(V2―V1)に相当する量だけ排出することができる。これによれば、押ボタン11の上動復帰動作時に流動体を排出できるので、該上動復帰動作に無駄がない。
【0022】
(3)請求項3の本発明の上記構成によれば、押ボタン11を筒形部材13と一体的に、前記所定位置(中間位置)の更に上方に設定した初期位置(上限位置)から該所定位置(中間位置)まで最初に所定の初期寸法だけ押し下げることにより、第1及び第2の室41、42の合計初期位置容積(V0)が合計所定位置(中間位置)容積(V1)になるまで大きくなって(V1>V0)減圧されることにより、チップ6内に空気を任意容量(V1―V0)だけ予め吸引するので、続いて、上述の如く押ボタン11が下限位置から今度は前記初期位置まで上動復帰したとき前記チップ6内の流動体を所定容量(V2―V1)に相当する量だけ排出した後に更に前記任意容量(V1―V0)の空気を排出し得、これによりチップ6下端に流動体が残留することなく液切れを良くすることができる。
【0023】
(4)請求項5の本発明の上記構成によれば、上下動可能のプランジャ17と固定のノズル部(シリンダに相当)5との間に、押ボタン11と一体的に上下動し且つプランジャ17及びノズル部5に共通に嵌合する筒形部材13を設けて、該筒形部材13及びノズル部5内部に夫々第1及び第2の室51、52を画定し、押ボタン11を初期位置(上限位置)から所定位置(中間位置)まで、プランジャ17を移動させないまま筒形部材13と一体的に下動させたとき、第1及び第2の室51、52の合計初期位置(上限位置)容積(V3)が合計所定位置(中間位置)容積(V4)まで増大して(V4>V3)その分減圧されることにより、チップ6内に流動体を所定容量(V4―V3)に相当する量だけ吸引することができる。これによれば、請求項1発明と同様に押ボタン11を押し下げる動作のみにより流動体を吸引できるので、手動による吸引動作の微少調整を容易に且つ正確に行い得る。その他に請求項1発明と同様の効果がある。
【0024】
(5)請求項6の本発明の上記構成によれば、押ボタン11を前記所定位置(中間位置)から下限位置まで引き続き、今度は筒形部材13のみならずプランジャ17も一体的に下動させることにより、第1及び第2の室51、52の所定位置(中間位置)合計容積(V4)が下限位置合計容積(V5)まで減少して(V5<V4)増圧されることにより、チップ6内の流動体および空気が所定容量(V4―V5)に相当する量だけ排出し得る。これによれば、一回の押し下げ動作により、流動体の吸引と排出を連続的に行うことができて動作を簡略化し得る。
【0025】
(6)請求項8の本発明の上記構成によれば、固定の第1のプランジャ27と固定のノズル部(シリンダに相当)5との間に、押ボタン11と一体的に上下動し且つ第1のプランジャ27及びノズル部5に共通に嵌合する筒形部材13を設け、且つ該第1のプランジャ27に上下動可能に嵌合する第2のプランジャ28を設けて、該筒形部材13、ノズル部5及び第1のプランジャ27内部に夫々第1、第2及び第3の室61、62、63を画定し、押ボタン11を初期位置(上限位置)から所定位置(中間位置)まで、第1及び第2のプランジャ27及び28を移動させないまま筒形部材13と一体的に下動させたとき、第1及び第2の室61、62の合計初期位置容積(V6)が合計所定位置容積(V7)まで容積が増大して(V7>V6)減圧されることにより、チップ6内に流動体を所定容量(V7―V6)に相当する量だけ吸引し得る。これによれば、請求項1発明と同様に押ボタン11を押し下げる動作のみにより流動体を吸引できるので、手動による吸引動作の微少調整を容易に且つ正確に行い得るし、その他の同様の効果がある。
【0026】
(7)請求項9の本発明の上記構成によれば、押ボタン11を前記所定位置(中間位置)から下限位置まで引き続き、今度は筒形部材13のみならず第2プランジャ28も一体的に下動させることにより、第1乃至第3の室61、62、63の所定位置(中間位置)合計容積(V7)が下限位置合計容積(V8)まで容積が減少して(V8<V7)増圧されることにより、チップ6内の流動体および空気を所定容量(V7―V8)に相当する量だけ排出し得る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明になるピペットの第一実施形態の押ボタンの初期位置(上限位置)の縦断図である。
【図2】図1のピペットの押ボタンを初期位置(上限位置)から所定位置(中間位置)まで押し下げた状態の縦断図である。
【図3】図1のピペットの押ボタンを所定位置(中間位置)から下限位置まで押し下げた状態の縦断図である。
【図4】図1のピペットの押ボタンの初期位置状態の軸方向に切断した状態の斜視図である。
【図5】図4のピペットの押ボタン、筒形部材及びプランジャの軸方向に切断した状態の斜視図である。
【図6】図4のピペットの押ボタン、筒形部材及びプランジャの組立状態の斜視図である。
【図7】図4のピペットのプランジャの斜視図である。
【図8】本発明になるピペットの第二実施形態の押ボタンの初期位置の縦断図である。
【図9】図8のピペットの押ボタンを初期位置から所定位置まで押し下げた状態の縦断図である。
【図10】図8のピペットの押ボタンを所定位置から下限位置まで押し下げた状態の縦断図である。
【図11】図8のピペットの押ボタンの初期位置状態の軸方向に切断した状態の斜視図である。
【図12】図11のピペットの押ボタン、筒形部材及びプランジャの軸方向に切断した状態の斜視図である。
【図13】図11のピペットの押ボタン、筒形部材及びプランジャの組立状態の斜視図である。
【図14】本発明になるピペットの第三実施形態の押ボタンの初期位置の縦断図である。
【図15】図14のピペットの押ボタンを初期位置から所定位置まで押し下げた状態の縦断図である。
【図16】図14のピペットの押ボタンを所定位置から下限位置まで押し下げた状態の縦断図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、本発明になるピペットの第一実施形態の押ボタンの初期位置(上限位置)の縦断図である。
【0029】
図1中、ピペット1の樹脂等よりなる筒形ボデー2は、上側ボデー3と、下側ボデー4と、ノズル部(この場合筒形部材13の小径筒形部13bに対するシリンダ部に相当する)5とを、例えば螺合により互いに固着してなり、ノズル部5下端にチップ6が着脱自在に装着される。
特にノズル部5は、吸引する液体が直接または雰囲気で接しやすいために、耐薬品性に優れたポリプロピレン樹脂やポリエーテルエーテルケトン樹脂などを全体または一部に形成すると良い。
【0030】
7はプランジャで、筒形ボデー2内で、上端の3つの半径方向外方へ突出するアーム部7a(図7参照)が、筒形ボデー2の凹部2aに係合して固着される。
【0031】
8はリング形の位置規制部材で、第1のばね9により上方へ付勢される。
【0032】
10は、カップ形吸引容量調整部材で、上側ボデー3の上部内周に上下動調整自在に螺合している。
【0033】
11は押ボタンで、位置規制部材8を挿通するストッパ11aを有し、3本の連結ロッド12(図6参照)を介して筒形部材13に一体的に連結されており、位置規制部材8との間に介装した第2のばね14により上方へ付勢される。押ボタン11下端と位置規制部材8との間の離間寸法をa1とし、ストッパー11a下端とプランジャ7上端との離間寸法をb1とする(但し、a1<b1)。なお第1のばね9の方が第2のばね14よりばね力が大きく、後述する中間位置においてもばね力の関係は同様である。
【0034】
前記筒形部材13は、上側大径筒形部13a(内径d1)と、下側小径筒形部13b(外径d2、内径d3)とを有し、筒形ボデー2内で、大径筒形部13aがプランジャ7外周にシール的に嵌合し、且つ小径筒形部13bが下側ボデー4下部内周又はノズル部5内周にシール的に挿入される。このとき、筒形部材13内部に室41が画成され、且つノズル部5内部に室42が画成される。
【0035】
15、16はシール用Oリングで夫々、プランジャ7外周及びノズル部5内周に嵌合され、上側及び下側筒形部13a及び13bとの間のシールを形成する。
【0036】
次に、図1のピペット1の操作について説明する。位置規制部材8が、第1のばね9により上方へ付勢されて、容量調整部材10に当接しており、且つ押ボタン11及び筒形部材13は第2ばね14により上方へ付勢されて、押ボタン11が容量調整部材10に当接しており、以下押ボタン11及び筒形部材13のこの図1の上限位置(初期位置)が空気吸引開始位置である。このとき、室41の容積をV01(図1中左上から右下へ伸びる斜め点線の空間)とし且つ室42の容積をV02(図1中右上から左下へ伸びる斜め点線の空間)とし、その合計容積をV0(=V01+V02)とする。
【0037】
最初に、図1中、ピペット1(チップ6内には液体は未だ吸引されていない)のチップ6を液体に浸さない状態で、押ボタン11を図1の初期位置(上限位置)から寸法a1だけ第2ばね14に抗して押し下げて図2の位置規制部材8に当接する所定位置(中間位置;液体吸引開始位置)まで、下動させる。すると、固定プランジャ7に対して大径筒形部13aが寸法a1だけ下動するから室41の容積はV01(図1)からV11(図2)まで容積{(d1/2)π×a1}だけ増大し、且つノズル部5内部に対して小径筒形部13bが寸法a1だけ進入して、室42の容積はV02(図1)からV12(図2)まで該小径筒形部13bの肉厚部分が進入した容積、即ち、{(d2/2)π−(d3/2)π}×a1だけ減少する。
【0038】
ここで、例えば寸法a1=5mm、b1=20mm、d1=16mm、d2=12mm、d3=6mmとすると、
(1A)室41の容積の増大量(V11−V01)=(d1/2)π×a1=1004.8mm
(1B)室42の容積の減少量(V02−V12)={(d2/2)π−(d3/2)π}×a1=423.9mm
(1C)室41及び42全体の容積の増大量ΔV1(=V1−V0)=(d1/2)π×a1−{(d2/2)π−(d3/2)π}×a1=1004.8−423.9=580.9mm
即ち、室41及び42の合計容積は、初期位置(図1、上限位置;空気吸引開始位置)の合計容積V0(=V01+V02)から所定位置(図2、中間位置;液体吸引開始位置)の合計容積V1(=V11+V12)になるまで、容積がΔV1(=V1−V0)だけ増大して(V1>V0)室41及び42内がその分だけ減圧される。従って、室41及び42内に容積ΔV1=580.9mmだけの空気が吸引される。この吸引空気は、後にピペット1が液体を吸引した後に排出を完了したときに更に引き続いて前記吸引空気が排出されてチップ6内部に残留する液体を完全に排出する役割を果たす。
【0039】
次に、図2中、ピペット1のチップ6下端を液体に浸した状態で、押ボタン11を所定位置(図2、中間位置;液体吸引開始位置)から寸法(b1―a1)だけ今度は第1及び第2ばね9及び14に抗して押し下げて図3の如く、ストッパー11aがプランジャ7上端に当接する下限位置(液体吸引完了位置)まで下動させる。すると、固定プランジャ7に対して大径筒形部13aが更に寸法(b1―a1)だけ下動するから室41の容積はV11(図2)からV21(図3)まで容積(d1/2)π×(b1―a1)だけ増大し(V21>V11)、且つノズル部5内部に対して小径筒形部13bが更に寸法(b1―a1)だけ進入して、室42の容積はV12(図2)からV22(図3)まで該小径筒形部13bの肉厚部分が進入した容積、即ち、{(d2/2)π−(d3/2)π}×(b1―a1)だけ減少する。(V22<V12)
ここで、(b1―a1)=20mm−5mm=15mmであるから、
(2A)室41の容積の増大量(V21−V11)=(d1/2)π×(b1―a1)=3014.4mm
(2B)室42の容積の減少量(V22−V12)={(d2/2)π−(d3/2)π}×(b1―a1)=1271.7mm
(2C)室41及び42全体の容積の増大量ΔV2(=V2−V1)=(d1/2)π×(b1―a1)−{(d2/2)π−(d3/2)π}×(b1―a1)=3014.4−1271.7=1742.7mm
即ち、室41及び42の合計容積は、所定位置(図2、中間位置;液体吸引開始位置)の合計容積V1(=V11+V12)から下限位置(図3;吸引完了位置)の合計容積V2(=V21+V22)になるまで、容積がΔV2(=V2−V1)だけ増大して(V2>V1)、室41及び42内がその分だけ減圧される。このとき、チップ6内に液体が吸引される。この吸引された液体の重量を考慮した上で、外気圧と内部圧(室41及び42)が平衡を保つような量の液体がチップ6内に吸引されることになる。従って、チップ6内に容積ΔV2=1742.7mmを若干下回るだけの液体が吸引される。
【0040】
次に、図3中、ピペット1のチップ6下端を液体から離して分注位置へ移動した状態で、押ボタン11の押下げ力を解放すると、押ボタン11は下限位置(図3)から寸法a1+b1だけ第1及び第2ばね9及び14の付勢力により、図1の上限位置(初期位置)まで上動復帰するが、この動作を、押ボタン11が下限位置(図3)から中間位置(図2;吸引直前位置)まで寸法b1だけ上動復帰した第1段復帰動作と、続いて押ボタン11が中間位置(図2;吸引直前位置)から上限位置(図1;空気吸引開始位置)まで寸法a1だけ上動復帰する第2段復帰動作とに分けて考える。なお、この第1段復帰動作と第2段復帰動作は、実際にはシームレスに連続して行われる。
【0041】
まず、(下限位置から中間位置までの)第1段復帰動作において、室41及び42の容積は夫々、最初に中間位置(図2)から下限位置(図3)まで所定量だけ増大及び減少変化した状態に比して、同一の量だけ逆の変化、即ち、減少及び増大変化するはずである。即ち、
(3A)室41の容積の減少量(V21−V11)=3014.4mm
(3B)室42の容積の増大量(V22−V12)=1271.7mm
(3C)室41及び42全体の容積の減少量ΔV2(=V2−V1)=1742.7mm
即ち、室41及び42の合計容積は、下限位置(図3)の合計容積V2(=V21+V22)から中間位置(図2)の合計容積V1になるまで、容積がΔV2だけ減少して室41及び42内がその分だけ増圧される。従って、チップ6内の液体は容積ΔV2=1742.7mm分だけ排出しようとする。しかしながら液体の表面張力や粘性または毛細管現象によっては、変化する容積分の液体を排出できずに残留する場合もある。
【0042】
続いて、(中間位置から上限位置までの)第2段復帰動作において、室41及び42の容積は夫々、最初に上限位置(図1)から中間位置(図2)まで所定量だけ増大及び減少変化した状態に比して、同一の量だけ逆の変化、即ち、減少及び増大変化するはずである。即ち、
(4A)室41の容積の減少量(V11−V01)=1004.8mm
(4B)室42の容積の増大量(V02−V12)=423.9mm
(4C)室41及び42全体の容積の減少量ΔV1(=V1−V0)=580.9mm
即ち、室41及び42の合計容積は、中間位置(図2)の合計容積V1(=V11+V12)から上限位置(図1)の合計容積V0(=V01+V02)になるまで、容積がΔV1(=V1−V0)だけ減少して室41及び42内がその分だけ増圧される。従って、室41及び42から容積ΔV1=580.9mmだけの空気が排出されて、チップ6内部に残留する液体を完全に排出することができる。
【0043】
このピペット1において、容量調整部材10を回転調整して、その軸方向位置を微調整すれば、上記寸法b1を適宜変化させることが出来るから(寸法a1は、位置規制部材8が同様に移動することから調整は出来ない)、液体の吸引容量を適宜微調整できる。これについては、以下の第2及び第3のピペット21,31についても同様に寸法b2及びb3を微調整することにより液体吸引容量を調整できる。
【0044】
即ち、第1のピペット1では、押ボタン11が初期位置から中間位置まで移動するときに空気を吸引し、次に該中間位置から下限位置まで移動するときに液体を吸引し、その後押ボタン11が押し下げ力を解放されて該中間位置まで上動復帰するときに液体が排出され、更に押ボタン11が該初期位置まで上動復帰するときにチップ6に残留した液体を排出する。
【0045】
なお、第1のピペット1において、上記(1C)式の室41及び42全体の容積の増大量ΔV1(=V1−V0)=(d1/2)π×a1−{(d2/2)π−(d3/2)π}×a1>0が成立する必要があり、これを簡略化すると次式が成立する必要がある。この式は、次に液体を吸引するときにも成立する。
【0046】
d1>d2−d3・・・・・(1)
次に、図8乃至図13は、本発明のピペットの第2実施形態を示すが、図1と同一部分は同一符号を付してその説明を省略する。第1のピペット1ではプランジャ7はボデー2に固着されていたが、第2実施形態のピペット21では、プランジャ17は上下方向に可動であり、第1のばね9により上方へ付勢されてストッパー部17aが上側ボデー3の段部3aに当接しており、また位置規制部材8(図1)は設けられていない。第2のばね14は押ボタン11及びプランジャ17間に介装されて、押ボタン11を上方へ付勢する。押ボタン11下端と段部3aとの間の離間寸法をa2とし、ストッパー11a下端とプランジャ7上端との離間寸法をb2とする(但し、a2>b2)。なお第1のばね9の方が第2のばね14よりばね力が大きく、後述する中間位置においてもばね力の関係は同様である。
【0047】
また筒形部材13内部に室51が画成され、且つノズル部5内部に室52が画成される。大径筒形部13aの内径d1(=16mm)、小径筒形部13bの外径d2(=12mm)は図1のピペット1と同様であるが、小径筒形部13bの内径d4はこの場合、4mmである。
【0048】
次に、図8のピペット21の操作について説明する。プランジャ17が第1のばね9により上方へ付勢されて段部3aに当接し、且つ押ボタン11が第2ばね14により上方へ付勢されて容量調整部材10に当接しており、このピペット21では、図8の上限位置(初期位置)が液体吸引開始位置である。このとき、室51の容積をV31とし且つ室52の容積をV32とし、その合計容積をV3(=V31+V32)とする。
【0049】
最初に、図8中、ピペット21のチップ6を液体に浸した状態で、押ボタン11を図8の上限位置(初期位置、液体吸引開始位置)から寸法b2だけ第2ばね14に抗して押し下げて図9の如く、押ボタン11のストッパー11aがプランジャ17に当接する所定位置(中間位置、液体吸引完了位置)まで、下動させる。すると、プランジャ17に対して相対的に大径筒形部13aが寸法b2だけ下動するから室51の容積はV31(図8)からV41(図9)まで容積{(d1/2)π×b2}だけ増大し(V41>V31)、且つノズル部5内部に対して小径筒形部13bが寸法b2だけ進入して、室52の容積はV32(図8)からV42(図9)まで該小径筒形部13bの肉厚部分が進入した容積、即ち、{(d2/2)π−(d4/2)π}×b2だけ減少する。(V42<V32)
ここで、例えば寸法a2=23mm、b2=10mm、d1=16mm、d2=12mm、d4=4mmとすると、
(1a)室51の容積の増大量(V41−V31)=(d1/2)π×b2=2009.6mm
(1b)室52の容積の減少量(V32−V42)={(d2/2)π−(d4/2)π}×b2=1004.8mm
(1c)室51及び52全体の容積の増大量ΔV4(=V4−V3)=(d1/2)π×b2−{(d2/2)π−(d4/2)π}×b2=1004.8mm
【0050】
即ち、室51及び52の合計容積は、初期位置(図8、上限位置;液体吸引開始位置)の合計容積V3(=V31+V32)から所定位置(図9、中間位置;液体吸引完了位置)の合計容積V4(=V41+V42)になるまで、容積がΔV4(=V4−V3)だけ増大して室41及び42内がその分だけ減圧される。このとき、チップ6内に液体が吸引される。この吸引された液体の重量を考慮した上で、外気圧と内部圧(室51及び52)が平衡を保つような量の液体がチップ6内に吸引されることになる。従って、チップ6内に容積ΔV4=1004.8mmを若干下回るだけの液体が吸引される。
【0051】
次に、図9中、押ボタン11を所定位置(中間位置;液体吸引完了位置)から寸法(a2−b2)だけ今度は第1及び第2ばね9及び14に抗して押し下げて図10の如く、押ボタン11下端がボデー段部3aに当接する下限位置(液体排出完了位置)まで寸法(a2−b2)だけ下動させる。しかしながらこの間、プランジャ17及び筒形部材13(大径筒形部13a)は押ボタン11を介して一体的に下動するだけゆえ、中間位置(図9)における室51の容積V41は、下限位置(図10)における室51の容積V51と同一のままである(V41=V51)。一方この間、ノズル部5内部に対して小径筒形部13bが更に寸法(a2−b2)だけ進入して、室52の容積はV42(図9)からV52(図10)まで該小径筒形部13bの肉厚部分が進入した容積、即ち、{(d2/2)π−(d4/2)π}×(a2−b2)だけ減少する。
【0052】
ここで、例えば寸法(a2−b2)=13mmであるから、
(2a)室51の容積の変化量(V51−V41)=ゼロ
(2b)室52の容積の減少量(V42−V52)={(d2/2)π−(d4/2)π}×(a2−b2)=1306.24mm
(2c)室51及び52全体の容積の減少量ΔV5(=V5−V4)={(d2/2)π−(d4/2)π}×(a2−b2)=1306.24mm
即ち、室51及び52の合計容積は、中間位置(図9;吸引完了位置)の合計容積V4(=V41+V42)から下限位置(図10;排出完了位置)の合計容積V5(=V51+V52)になるまで、容積がΔV5(=V4−V5)だけ減少して(V4>V5)、室41及び42内がその分だけ増圧される。従って、チップ6から容積ΔV5=1306.24mmだけの液体を排出しようとする。このとき吸引した容積ΔV4に対してΔV5が十分に大きいため、チップ6内の液体を完全に排出できることになる。
【0053】
続いて、図10中、ピペット21の押ボタン11の押下げ力を解放すると、押ボタン11は下限位置(図10)から寸法a2だけ第1及び第2ばね9及び14の付勢力により、上限位置(図8)まで単に上動復帰する。
【0054】
即ち、第2のピペット21では、押ボタン11が初期位置から中間位置まで移動するときに液体を吸引し、該中間位置から下限位置まで移動するときに液体を排出し、その後押ボタン11の押し下げ力を解放すると押ボタン11は単に上動復帰する。これによれば、一回の押し下げ動作により、液体の吸引と排出を連続的に行うことができて動作を簡略化し得る。
【0055】
なお、この第2ピペット21の筒形部材13の小径筒形部13bの内径d4(=4mm)が、第1ピペット1の筒形部材13の小径筒形部13bの内径d2(=6mm)より小さい理由は、その分だけ第2ピペット21の小径筒形部13bの肉厚を大きくして、液体排出時の排出量を大きくして、液体の排出を確実にしているのである。
【0056】
なお、第2のピペット21において、上記(1c)式の室51及び52全体の容積の増大量ΔV4(=V4−V3)=(d1/2)π×b2−{(d2/2)π−(d4/2)π}×b2>0が成立する必要があり、これを簡略化すると次式が成立する必要がある。
【0057】
d1>d2−d4・・・・・(2)
次に、図14乃至図16は、本発明のピペットの第3実施形態を示すが、図1及び図8と同一部分は同一符号を付してその説明を省略する。この第3実施形態のピペット31では、一対のプランジャ27及び28が設けられ、第1のプランジャ27は大径段孔27a及び小径孔27bを有してそのアーム部27cによりボデー2に固定され、且つ第2のプランジャ28は上下方向に可動であり第1のプランジャ27との間に介装された第1のばね9により上方へ付勢されてボデー段部3aに当接している。このとき、第2のプランジャ28は第1のプランジャ27の大径段孔27aにOリング18を介在してシール的に挿入される。押ボタン11はボデー段部3aとの間に介装した第2のばね14により上方へ付勢される。押ボタン11下端と段部3aとの間の離間寸法をa3とし、ストッパー11a下端と第2のプランジャ28上端との離間寸法をb3とする(但し、a3>b3)。なお第1のばね9の方が第2のばね14よりばね力が大きく、後述する中間位置においてもばね力の関係は同様である。
【0058】
これにより、筒形部材13内部に室61(容積V61)が画成され、且つノズル部5内部に室62(容積V62)が画成され、且つ第1のプランジャ27内部に室63(容積V63)が画成される。また、筒形部材13の大径筒形部13aの内径d5(=15mm)、小径筒形部13bの外径d2(=12mm)及び内径d4(=4mm)、第1プランジャ27の大径段孔27aの内径d6(=17mm)とする。
【0059】
次に、図14のピペット31の操作について説明する。第2プランジャ28が第1のばね9により上方へ付勢されて段部3aに当接し、且つ押ボタン11が第2ばね14により上方へ付勢されて容量調整部材10に当接しており、このピペット31では、第2のピペット21と同様に、図14の上限位置が液体吸入開始位置である。このとき、室61の容積V61と室62の容積V62と室63の容積V63との合計容積V6(=V61+V62+V63)とする。
【0060】
最初に、図14中、ピペット31のチップ6下端を液体に浸した状態で、押ボタン11を図14の初期位置(上限位置;液体吸引開始位置)から寸法b3だけ第2ばね14に抗して押し下げて図15の如く、押ボタン11のストッパー11aが第2のプランジャ28に当接する所定位置(中間位置;液体吸引完了位置)まで、下動させる。すると、固定の第1のプランジャ27に対して相対的に大径筒形部13aが寸法b3だけ下動するから室61の容積はV61(図14)からV71(図15)まで容積{(d5/2)π×b3}だけ増大し、且つノズル部5内部に対して小径筒形部13bが寸法b3だけ進入して、室62の容積はV62(図14)からV72(図15)まで該小径筒形部13bの肉厚部分が進入した容積、即ち、{(d2/2)π−(d4/2)π}×b3だけ減少する。また室63の容積V63(図14)とV73(図15)とは、第2のプランジャ28が移動しないため同一である。
【0061】
ここで、例えば、寸法a3=16mm、b3=10mm、且つ上記の如く、d5=15mm、d2=12mm、d4=4mm、d6=17mmとすると、
(1α)室61の容積の増大量(V71−V61)=(d5/2)π×b3=1766.25mm
(1β)室62の容積の減少量(V62−V72)={(d2/2)π−(d4/2)π}×b3=1004.8mm
(1γ)室63の容積と室73との容積は同一である。即ち、V63=V73、
(1δ)室61乃至63全体の容積の増大量ΔV6(=V7−V6)=(d5/2)π×b3−{(d2/2)π−(d4/2)π}×b3=761.45mm
即ち、室61乃至63の合計容積は、初期位置(図14、上限位置;液体吸引開始位置)の合計容積V6(=V61+V62+V63)から所定位置(図15、中間位置;液体吸引完了位置)の合計容積V7(=V71+V72+V73)になるまで、容積がΔV6(=V7−V6)だけ増大して室61乃至63内がその分だけ減圧される。このとき、チップ6内に液体が吸引される。この吸引された液体の重量を考慮した上で、外気圧と内部圧(室61乃至63)が平衡を保つような量の液体がチップ6内に吸引されることになる。従って、チップ6内に容積ΔV6=761.45mmを若干下回るだけの液体が吸引される。
【0062】
次に、図15中、ピペット31を持ち上げてチップ6下端を液体から離した状態で、押ボタン11を中間位置(図15;吸引完了位置)から寸法(a3−b3)だけ今度は第1及び第2ばね9及び14に抗して押し下げて図16の如く、押ボタン11下端がボデー段部3aに当接する下限位置(排出完了位置)まで寸法(a3−b3=6mm)だけ下動させる。すると、固定の第1のプランジャ27に対して相対的に大径筒形部13aが更に寸法(a3−b3)だけ下動するから室61の容積はV71(図15)からV81(図16)まで容積(d5/2)π×(a3−b3)だけ増大し、且つノズル部5内部に対して小径筒形部13bが更に寸法(a3−b3)だけ進入して、室62の容積はV72(図15)からV82(図16)まで該小径筒形部13bの肉厚部分が進入した容積、即ち、{(d2/2)π−(d4/2)π}×(a3−b3)だけ減少する。他方、室63については、第2のプランジャ28が第1のプランジャ27の大径段孔27a内で下方へ寸法(a3−b3)だけ進入するから、室63の容積V73(図15)は容積V83(図16)になるまで、第2のプランジャ28が進入した容積、即ち、(d6/2)π)×(a3−b3)だけ減少する。従って、この場合の室61乃至63の容積変動は次のようになる。
【0063】
(2α)室61の容積の増大量(V81−V71)=(d5/2)π×(a3−b3)=1059.75mm
(2β)室62の容積の減少量(V72−V82)={(d2/2)2π−(d4/2)2π}×(a3−b3)=602.88mm3、
(2γ)室63の容積の減少量(V73−V83)=(d6/2)2π×(a3−b3)=1361.19mm3
(2δ)室61乃至63全体の容積の減少量ΔV7(=V7−V8)=−(d5/2)π×(a3−b3)+{(d2/2)π−(d4/2)π}×(a3−b3)+(d6/2)π×(a3−b3)=849.37mm
即ち、室61乃至63の合計容積は、中間位置(図15;液体吸引完了位置)の合計容積V7(=V71+V72+V73)から下限位置(図16;液体排出完了位置)の合計容積V8(=V81+V82+V83)になるまで、容積がΔV7(=V7−V8)だけ減少して(V8<V7)、室61乃至63内がその分だけ増圧される。従って、チップ6から容積ΔV7=849.37mmだけの液体を排出しようとする。このとき吸引した容積ΔV6に対してΔV7が十分に大きいため、チップ6内の液体を完全に排出できることになる。
【0064】
続いて、図16中、ピペット31の押ボタン11の押下げ力を解放すると、押ボタン11は下限位置(図16)から寸法a3だけ第1及び第2ばね9及び14の付勢力により、上限位置(図14)まで単に上動復帰する。
【0065】
即ち、第3のピペット31では、第2のピペット21と同様に、押ボタン11が初期位置から中間位置まで移動するときに液体を吸引し、該中間位置から下限位置まで移動するときに液体を排出し、その後押ボタン11の押し下げ力を解放すると押ボタン11は単に上動復帰する。これによれば、一回の押し下げ動作により、液体の吸引と排出を連続的に行うことができて動作を簡略化し得る。
【0066】
しかしながら、この第3のピペット31によれば、大径段孔27aの内径d6を比較的大きな寸法(この場合8.5mm)に設定できるので、第2のプランジャ28が図15の位置からから図16の位置まで寸法(a3−b3)だけ下動したときに室63がd6×(a3−b3)という比較的大きな容積分だけ容積が減少するので、それだけ液体の排出量を増大させ得る。また大径段孔27aの内径d6が比較的大きな寸法(8.5mm)であるため、第2のピペット21では図9から図10まで液体を排出するときに(a2−b2)=13mmという比較的大きな寸法だけ押ボタン11を下動させる必要があったものに比して、第3のピペット31では図15から図16まで寸法(a3−b3)=6mmという比較的小さな寸法だけ下動させるのみで良いからその分押し下げストロークを小さくでき、操作が楽である。
【0067】
なお、第3のピペット31において、上記(1δ)式の室61乃至63全体の容積の増大量ΔV6(=V7−V6)=(d5/2)π×b3−{(d2/2)π−(d4/2)π}×b3>0が成立する必要があり、これを簡略化すると次式が成立する必要がある。
【0068】
d5>d2−d4・・・・・(3A)
他方、第3のピペット31において、上記(2δ)式の室61乃至63全体の容積の減少量ΔV7(=V7−V8)=−(d5/2)π×(a3−b3)+{(d2/2)π−(d4/2)π}×(a3−b3)+(d6/2)π×(a3−b3)>0が成立する必要があり、これを簡略化すると次式が成立する必要がある。
【0069】
d6+d2−d4>d5・・・・・(3B)
従って、上記(3A)式及び(3B)式を合わせると次式が成立する必要がある。
【0070】
d6+d2−d4>d5>d2−d4・・・・・(3)
上記各実施形態では、ピペットが吸引する媒体は液体であったが、これに限らずゲル状物体、又は粉体等の種々の流動体を吸引し得る。
【符号の説明】
【0071】
1、21、31 ピペット
2 ボデー
5 ノズル部
6 チップ
7 固定プランジャ
8 位置規制部材
9、14 ばね
10 容量調整部材
11 押ボタン
11a ストッパー
12 連結ロッド
13 筒形部材
13a 第1筒形部
13b 第2筒形部
15、16、18 Oリング
17 可動プランジャ
27 第1の固定プランジャ
27a 大径段孔
28 第2の可動プランジャ
41、51、61 第1の室
42、52、62 第2の室
63 第3の室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピペットにおいて、
下端にチップ(6)を着脱自在に取付けられるノズル部(5)を下方に一体的に有する筒形ボデー(2)と、
該ボデー(2)に対して上下動自在に配された押ボタン(11)と、
該ボデー(2)の内部で該ボデー(2)に対して固着されたプランジャ(7)と、
上部の第1筒形部(13a)及び下部の第2筒形部(13b)を有し、該押ボタン(11)と一体的に上下動可能に配された筒形部材(13)であって、該第1筒形部(13a)が該プランジャ(7)外周にシール的に且つ軸方向可動に嵌合され且つ該第2筒形部(13b)が前記ノズル部(5)内周にシール的に且つ軸方向可動に嵌合され、これにより該筒形部材(13)の内部に第1の室(41)を画定し、且つ該ノズル部(5)の内部に第2の室(42)を画定する前記筒形部材(13)と、
押ボタン(11)及び前記筒形部材(13)を上方へ付勢する弾性手段(9、14)とを具備し、
前記チップ(6)下端を流動体に浸した状態で、押ボタン(11)を弾性手段(9、14)に抗して所定位置から下限位置まで所定寸法だけ押し下げることにより、前記筒形部材(13)が押ボタン(11)と一体的に下動して前記プランジャ(7)が前記第1の室(41)から相対的に退出し且つ第2筒形部(13b)が第2の室(42)内に相対的に進入することにより、前記第1の室(41)が所定位置容積(V11)から下限位置容積(V21)まで増大変動し、且つ前記第2の室(42)が所定位置容積(V12)から下限位置容積(V22)まで減少変動し、これにより第1及び第2の室(41、42)の合計所定位置容積(V1=V11+V12)と第1及び第2の室(41、42)の合計下限位置容積(V2=V21+V22)との間にV2>V1の関係があって、第1及び第2の室(41、42)の合計容積が増大して減圧されることにより、前記チップ(6)内に流動体を所定容量(V2―V1)に相当するだけ吸引することを特徴とする、ピペット。
【請求項2】
請求項1に記載のピペットにおいて、
押ボタン(11)の前記下限位置において、前記チップ(6)下端を流動体から離した状態で押ボタン(11)の押し下げ力を解放して、押ボタン(11)及び前記筒形部材(13)を前記弾性手段(9、14)により前記下限位置から前記所定位置まで一体的に上動復帰させることにより、
前記プランジャ(7)が前記第1の室(41)内へ相対的に進入し且つ前記第2筒形部(13b)が前記第2の室(42)内で相対的に退出することにより、前記第1の室(41)が前記下限位置容積(V21)から所定位置容積(V11)まで減少し、且つ前記第2の室(42)が前記下限位置容積(V22)から所定位置容積(V12)まで増大し、これにより第1及び第2の室(41、42)の合計下限位置容積(V2=V21+V22)と合計所定位置容積(V1=V11+V12)との間にV1<V2の関係があって、第1及び第2の室(41、42)の合計容積が小さくなって増圧されることにより、前記チップ(6)から流動体を最大限所定容量(V2―V1)に相当する量だけ排出することを特徴とする、ピペット。
【請求項3】
請求項2に記載のピペットにおいて、
押ボタン(11)の移動位置は、前記所定位置の初期寸法(a1)だけ上方に更に初期位置が設定されており、
最初に、押ボタン(11)を第2の弾性手段(14)に抗して初期位置から前記初期寸法a1だけ所定位置まで押し下げることにより、前記筒形部材(13)が押ボタン(11)と一体的に下動して前記プランジャ(7)が前記第1の室(41)から相対的に退出し且つ第2筒形部(13b)が第2の室(42)内に相対的に進入することにより、前記第1の室(41)が初期位置容積(V01)から所定位置容積(V11)まで増大変動し、且つ前記第2の室(42)が初期位置容積(V02)から所定位置容積(V12)まで減少変動し、これにより第1及び第2の室(41、42)の合計初期位置容積(V0=V01+V02)と合計所定位置容積(V1=V11+V12)との間にV1>V0の関係があって、第1及び第2の室(41、42)の合計容積が増大して減圧されることにより、前記チップ(6)内に空気を所定容量(V1―V0)だけ吸引し、
その後に前記チップ(6)下端を流動体に浸した状態で、前述のようにV1からV2に容積を変化させることで、前記チップ(6)内に流動体を所定容量(V2―V1)に相当するだけ吸引し、
続いて、押ボタン(11)が前記下限位置から所定位置を経由して更に初期値まで上動復帰したとき、前記チップ(6)内から流動体が所定容量(V2―V1)に相当する量だけ排出されるのに続いて、前記所定容量(V1―V0)の空気を排出してチップ(6)内に残留した流動体を、余裕をもって排出することを特徴とする、ピペット。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載のピペットにおいて、
前記筒形部材(13)の第1筒形部(13a)の内径をd1、第2筒形部(13b)の外径をd2、内径をd3としたとき、次式が成立するピペット。
d1>d2−d3・・・・・(1)
【請求項5】
ピペットにおいて、
下端にチップ(6)を着脱自在に取付けられるノズル部(5)を下方に一体的に有する筒形ボデー(2)と、
該ボデー(2)に対して第一の弾性手段(14)により上方へ付勢されて上下動自在に配された押ボタン(11)と、
該ボデー(2)の内部で、該第一の弾性手段(14)より大なる弾性力を有する第二の弾性手段(9)により上方へ付勢されて上下動自在に収納されたプランジャ(17)と、
上部の第1筒形部(13a)及び下部の第2筒形部(13b)を有し、該押ボタン(11)と一体的に上下動可能に配された筒形部材(13)であって、該第1筒形部(13a)が該プランジャ(17)外周にシール的に且つ軸方向可動自在に嵌合され且つ該第2筒形部(13b)が前記ノズル部(5)内周にシール的に且つ軸方向可動自在に嵌合され、これにより該筒形部材(13)の内部に第1の室(51)を画定し、且つ該ノズル部(5)の内部に第2の室(52)を画定する前記筒形部材(13)とを具備し、
前記チップ(6)下端を流動体に浸した状態で、押ボタン(11)を第一の弾性手段(14)に抗して該プランジャ(17)を移動させないままで、初期位置から前記プランジャ(17)に当接する所定位置まで所定の初期寸法だけ押し下げることにより、前記筒形部材(13)が押ボタン(11)と一体的に下動して前記プランジャ(17)が前記第1の室(51)内から相対的に退出し且つ前記第2筒形部(13b)が前記第2の室(52)内へ相対的に進入することにより、前記第1の室(51)が初期位置容積(V31)から所定位置容積(V41)まで増大し、且つ前記第2の室(52)が初期位置容積(V32)から所定位置容積(V42)まで減少し、これにより第1及び第2の室(51、52)の合計初期位置容積(V3=V31+V32)と第1及び第2の室(51、52)の合計所定位置容積(V4=V41+V42)との間にV4>V3の関係があって、第1及び第2の室(51、52)の合計容積が大きくなって減圧されることにより、前記チップ(6)内に流動体を所定容量(V4―V3)に相当する量だけ吸引することを特徴とする、ピペット。
【請求項6】
請求項5に記載のピペットにおいて、
押ボタン(11)を初期位置から所定位置まで前記初期寸法だけ押し下げたときに前記プランジャ(17)に当接し、押ボタン(11)を更に前記所定位置から下限位置まで前記第二の弾性手段(9)に抗して更に所定寸法だけ押し下げることにより、前記筒形部材(13)及びプランジャ(17)が押ボタン(11)と一体的に下動して、前記プランジャ(17)が前記第1の室(51)に対して相対的に移動せず且つ前記第2筒形部(13b)が前記第2の室(52)内へ相対的に進入することにより、前記第1の室(51)が所定容積(V41)が変動後容積(V51)と同一であり、且つ前記第2の室(52)が所定容積(V42)から変動後容積(V52)まで減少変動し、これにより第1及び第2の室(51、52)の所定位置合計容積(V4=V41+V42)と下限位置合計容積(V5=V51+V52)との間にV5<V4の関係があって、第1及び第2の室(51、52)の容積が減少して増圧されることにより、前記チップ(6)内の流動体および空気が所定容量(V4―V5)に相当する量だけ排出されることを特徴とする、ピペット。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のピペットにおいて、
前記筒形部材(13)の第1筒形部(13a)の内径をd1、第2筒形部(13b)の外径をd2、内径をd4としたとき、次式が成立するピペット。
d1>d2−d4・・・・・(2)
【請求項8】
ピペットにおいて、
下端にチップ(6)を着脱自在に取付けられるノズル部(5)を下方に一体的に有する筒形ボデー(2)と、
該ボデー(2)に対して第一の弾性手段(14)により上方へ付勢されて上下動自在に配された押ボタン(11)と、
該ボデー(2)の内部で該ボデー(2)に対して固着された第1のプランジャ(27)と、
該ボデー(2)の内部で第二の弾性手段(9)により上方へ付勢されて上下動自在に且つ前記第1のプランジャ(27)内にシール的に且つ軸方向可動に挿入された第2のプランジャ(28)と、
上部の第1筒形部(13a)及び下部の第2筒形部(13b)を有し、該押ボタン(11)と一体的に上下動可能に配された筒形部材(13)であって、該第1筒形部(13a)が該第1のプランジャ(27)外周にシール的に且つ軸方向可動に嵌合され且つ該第2筒形部(13b)が前記ノズル部(5)内周にシール的に且つ軸方向可動に挿入され、これにより該筒形部材(13)内部に第1の室(61)を画定し、且つ該ノズル部(5)の内部に第2の室(62)を画定し、且つ該第1のプランジャ(27)内部に第3の室(63)を画定する前記筒形部材(13)とを具備し、
前記チップ(6)下端を流動体に浸した状態で、押ボタン(11)を第一の弾性手段(14)に抗して初期位置から前記第2のプランジャ(28)に当接する所定位置まで所定の初期寸法だけ押し下げることにより、前記筒形部材(13)が押ボタン(11)と一体的に下動して、前記第1及び第2のプランジャ(27、28)は相対的に移動しないことにより前記第3の室(63)の容積(V63=V73)は変動しない条件下で、前記第1のプランジャ(27)が前記第1の室(61)内から相対的に退出し且つ前記第2筒形部(13b)が前記第2の室(62)内へ相対的に進入することにより前記第1の室(61)が当初容積(V61)から変動後容積(V71)まで増大し、且つ前記第2の室(62)が当初容積(V62)から変動後容積(V72)まで減少し、これにより第1及び第2の室(61、62)の合計初期位置容積(V6=V61+V62+V63)と第1及び第2の室(61、62)の合計所定位置容積(V7=V71+V72+V73)との間にV7>V6の関係があって、第1及び第2の室(61、62)の合計容積が増大して減圧されることにより、前記チップ(6)内に流動体を所定容量(V7―V6)に相当する量だけ吸引することを特徴とする、ピペット。
【請求項9】
請求項8に記載のピペットにおいて、
押ボタン(11)を初期位置から所定位置まで前記初期寸法だけ押し下げたときに前記第2のプランジャ(28)に当接し、
押ボタン(11)を更に前記所定位置から下限位置まで更に所定寸法だけ押し下げることにより、
前記筒形部材(13)及び第2のプランジャ(28)が押ボタン(11)と一体的に下動して、前記第1プランジャ(27)が前記第1の室(61)から相対的に退出し且つ前記第2筒形部(13b)が前記第2の室(62)内へ相対的に進入し且つ前記第2のプランジャ(28)が前記第3の室(63)に対して相対的に進入することにより、前記第1の室(61)が所定容積(V71)から変動後容積(V81)まで増大変動し且つ前記第2の室(62)が所定容積(V72)から変動後容積(V82)まで減少変動し且つ前記第3の室(63)が所定容積(V73)から変動後容積(V83)まで減少変動し、これにより第1乃至第3の室(61、62、63)の合計所定位置容積(V7=V71+V72+V73)と第1乃至第3の室(61、62、63)の合計下限位置容積(V8=V81+V82+V83)との間にV8<V7の関係があって、第1乃至第3の室(61、62、63)の合計容積が減少して増圧されることにより、前記チップ(6)内の流動体および空気が所定容量(V8―V7)に相当する量だけ排出されることを特徴とする、ピペット。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のピペットにおいて、
前記筒形部材(13)の第1筒形部(13a)の内径をd5、第2筒形部(13b)の外径をd2、内径をd4とし、且つ前記第1プランジャ(27)の内径をd6としたとき、次式が成立する。
d6+d2−d4>d5>d2−d4・・・・・(3)
【請求項11】
請求項1乃至10の何れかに記載のピペットにおいて、
前記筒形ボデー(2)に対して上下動調整自在に配設された容量調整部材(10)を更に備え、押ボタン(11)が弾性手段(14)により付勢されて前記容量調整部材(10)に当接しており、前記容量調整部材(10)の位置を調整することにより、流動体の吸引量を微調整可能であるピペット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2011−490(P2011−490A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142899(P2009−142899)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(590006402)株式会社ニチリョー (5)
【Fターム(参考)】