説明

ピペラジンジチオクト酸塩及びこれを含む薬剤学的組成物

本発明は、チオクト酸の新規塩基性付加塩であるピペラジンジチオクト酸塩及びこれを含む薬剤学的組成物に関する。本発明に係るピペラジンジチオクト酸塩は、熱と水分に対する安定性と水溶液に対する溶解度が優れるだけでなく、付加塩の製造に伴う投与量の増加が小さいため、抗酸化又は糖尿病性多発性神経炎の予防若しくは治療等のための薬剤学的組成物に効果的に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定性と溶解性に優れ、抗酸化又は糖尿病性多発性神経炎の予防若しくは治療などのための薬剤学的組成物に効果的に使用することができるピペラジンジチオクト酸塩 及びこれを含む薬剤学的組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チオクト酸(α−リポ酸、6,8−ジチオクト酸)は、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(pyruvate−dehydrogenase)複合体、α−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ(alpha−ketoglutarate−dehydrogenase)複合体及びアミノ酸ヒドロゲナーゼ(amino acid hydrogenase)複合体において補酵素として作用する生理活性物質で、抗酸化物質及び糖尿病性多発性神経炎の予防又は治療のための薬剤として使用されている。下記一般式(II)で表されるチオクト酸は、フリーラジカル捕獲作用と脂質過酸化抑制作用を通じて酸化性ストレスを減少させ、高血糖によるタンパク質の糖化を減少させるだけでなく、ブドウ糖の利用率改善を通じて神経細胞のATPエネルギー生成を正常化し、神経の電気伝導度を改善する薬理作用を有している。
【0003】
【化1】

【0004】
このようなチオクト酸は、抗酸化剤として酸化性ストレス(oxidative stress)又は酸化性損傷(oxidative damage)を抑制し、糖尿病性多発性神経炎、肝疾患、痴呆、アルツハイマー、リウマチ性関節炎、血管内の脂質類増加などに対して効果を示すことが知られており、肥満又は肥満と関連した疾患及び片頭痛の治療に有用に使用することができるものと報告されている(米国特許登録 第6251935号)。
【0005】
しかし、チオクト酸は、熱に対する安定性に劣り、水溶液に対する溶解度が低く、薬学的製剤として開発するのに多くの困難を伴っている。チオクト酸のラセミ型の融点は58〜61℃であり、チオクト酸の異性体の融点はこれよりもさらに低い47〜49℃であるが、これらは融解時に急速に高分子化して活性を喪失するという問題点がある。また、チオクト酸が液剤として製造されて経口投与される場合には、患者の食道に刺激を与えるという問題点が報告されている。こうした理由により、より安定的かつより高い生体利用率が期待できる新規結晶形や新規塩基性付加塩の開発が求められてきていた。
【0006】
公知となっているチオクト酸の塩基性付加塩としては、チオクト酸の金属塩(米国特許登録 第5990152号)、チオクト酸のトロメタミン塩(米国特許登録 第5990152号、米国特許登録 第3562273号及び米国特許登録 第3718664号)などがある。
【0007】
しかし、チオクト酸の高い脂溶性により、チオクト酸の塩基性付加塩は、固体状に製造することが困難であり、公知となっている大部分のチオクト酸の塩基性付加塩もまた、非晶形で得られている。このように非晶形に製造されたチオクト酸の塩基性付加塩は、熱と水分に対する安定性の向上もまた限定的とならざるを得ない。公知となっているチオクト酸の塩基性付加塩のうち、ただチオクト酸のトロメタミン塩だけが結晶性の塩で得られており、熱と水分に対する安定性が大きく向上した結果を示している。よって、チオクト酸のトロメタミン塩が臨床的に使用されてはいるが、トロメタミンが多くの酵素の阻害剤として知られていて臨床的使用に注意が必要であり(Structure 2002,10:1063−1072,及び、Protein Peptide Lett.2008,15:212−214)、相対的に高い分子量(121.14g/mol)によって、チオクト酸の塩基性付加塩の分子量が大きく増加するという問題がある。チオクト酸は、適応症に応じて100〜600mgの高用量で使用されるため、チオクト酸のトロメタミン酸塩の場合のように塩基の付加による投与量の増加が58.7%に達することになると、薬学的製剤に開発するのに多くの問題を誘発する。
【0008】
また、一般的に、生体内吸収過程における崩解率についてまで考慮した場合、ある活性成分が薬学組成物に含まれて最適な効果を示すためには、pH1〜7の範囲で溶解度が3mg/ml以上とならなければならない。しかし、公知の物質であるチオクト酸のトロメタミン塩の場合、最も重要な胃におけるpH(1.2)と腸におけるpH(5.2)において溶解度がこれに達していないという問題点があり、経口投与時に生体利用率が低下して、活性成分の含量に応じた十分な効果を期待し難いという問題が依然として存在している。
【0009】
したがって、熱と水分に対する高い安定性と水溶液に対する高い溶解度を有しながらも、塩基の付加による投与量の増加が小さく、薬学的に安全な有機塩基を使用する、新規な塩基性付加塩の開発の必要性が台頭している。特に、チオクト酸のように、患者が長期間経口投与しなければならない薬物は、患者が服用する前に流通や保管の過程において長い時間が所要され得るため、熱と水分に対する安定性がより一層重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6251935号
【特許文献2】米国特許第5990152号
【特許文献3】米国特許第3562273号
【特許文献4】米国特許第3718664号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Structure 2002,10:1063−1072
【非特許文献2】Protein Peptide Lett.2008,15:212−214
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、従来のチオクト酸及びチオクト酸の塩基性付加塩が有する安定性と溶解度に対する問題点及び投与量の増加による製剤化の問題点を克服するために鋭意研究、検討した結果、驚くべきことに、チオクト酸の新規付加塩であるピペラジンジチオクト酸塩が熱と水分に対する高い安定性と水溶液に対する高い溶解性を有するだけでなく、付加塩の製造に伴う投与量の増加が小さいということを発見し、本発明を完成するに至った。
【0013】
したがって、本発明の目的は、安定性及び溶解性に優れたピペラジンジチオクト酸塩を提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、ピペラジンジチオクト酸塩を薬剤学的に許容される担体と共に含む抗酸化;糖尿病性多発性神経炎、肝疾患、肥満、痴呆、アルツハイマー、リウマチ性関節炎の予防若しくは治療;又は、血管内の脂質類増加抑制のための薬剤学的組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、下記一般式(I)で表されるピペラジンジチオクト酸塩に関する。
【0016】
【化2】

【0017】
本発明において使用するチオクト酸は、ラセミ型のチオクト酸だけでなく、R−(+)−チオクト酸やS−(−)−チオクト酸といった光学活性を有するチオクト酸を含む。
【0018】
チオクト酸がラセミ型である場合、本発明のピペラジンジチオクト酸塩は、好ましくは、X線回折分析(XRPD)においてI/I(I:各回折角におけるピークの強度、I:最大ピークの強度)が10%以上である回折角(2θ)の値が、13.9±0.2、16.3±0.2、17.1±0.2、17.3±0.2、18.2±0.2、18.9±0.2、20.5±0.2、22.2±0.2、22.8±0.2、24.2±0.2、39.3±0.2であることを特徴とする。
【0019】
一方、チオクト酸がR−(+)−チオクト酸である場合、本発明のピペラジンジチオクト酸塩は、好ましくは、X線回折分析(XRPD)においてI/I(I:各回折角におけるピークの強度、I:最大ピークの強度)が10%以上である回折角(2θ)の値が、14.0±0.2、19.1±0.2、20.6±0.2、22.2±0.2、22.7±0.2であることを特徴とする。
【0020】
本発明に係るピペラジンジチオクト酸塩は、従来のチオクト酸やその他の塩基性付加塩において引き起こされる熱と水分に対する不安定性と溶解度の問題を解決しただけでなく、最も安全な有機塩基の一つであるピペラジンを使用することにより、薬学的に非常に有利な長所を有する。本発明において使用したピペラジンは、LD50(ラットへの経口投与時、50%の致死量)の値が1900mg/Kgで非常に安全であるだけでなく(Handbook of Pharmaceutical Salts,p321(2008))、分子量も86.14g/molで相対的に小さいため、塩基性付加塩の製造に非常に有利な有機塩基である。特に、本発明に係るピペラジンジチオクト酸塩は、ピペラジン1分子にチオクト酸2分子が塩を形成するので、塩基の付加による投与量の増加が20.9%に過ぎず、高用量の投与が必要なチオクト酸製剤において、薬剤学的に非常に大きな長所を有する。
【0021】
本発明に係る上記一般式(I)で表されるピペラジンジチオクト酸塩は、下記一般式(II)で表されるチオクト酸と、下記一般式(III)で表されるピペラジンを、有機溶媒で反応させて製造することができる。
【0022】
【化3】

【0023】
【化4】

【0024】
以下、本発明に係るピペラジンジチオクト酸塩の製造方法について、さらに詳細に説明する。
【0025】
前記本発明のピペラジンジチオクト酸塩は、チオクト酸とピペラジンを有機溶媒に溶解させ、攪拌して製造することが好ましい。チオクト酸とピペラジンをそれぞれ有機溶媒に溶解させた後に混合して、又はチオクト酸とピペラジンを有機溶媒に共に溶解させて製造することができる。使用するピペラジンの量は、チオクト酸に対して0.44〜0.5当量が好ましい。
【0026】
本発明に係るピペラジンジチオクト酸塩の製造方法は、チオクト酸とピペラジンを有機溶媒で反応させるステップの後、
(i)反応溶液を攪拌して得られた固体を濾過するステップ;
(ii)反応溶液の温度を下げて撹拌し、得られた固体を濾過するステップ;又は、
(iii)反応溶液に析出溶媒を加えて攪拌し、得られた固体を濾過するステップ
をさらに含むことができる。
【0027】
前記有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1−ブタノール、ヘキサノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、イソプロピルエーテル等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン、2−ブタノン等のケトン類、エチルアセテート、イソプロピルアセテート等のエステル類、及びジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等の塩素化炭化水素類から選択された1種以上を使用することができる。
【0028】
前記析出溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン、イソプロピルエーテル等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン、2−ブタノンなどのケトン類、n−ペンタン、n−ヘキサン等の炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、及びエチルアセテート、イソプロピルアセテート等のエステル類から選択された1種以上を使用することができる。
【0029】
反応時間は、1〜5時間が好ましく、反応温度は、0〜40℃が望ましい。
【0030】
本発明のピペラジンジチオクト酸塩の製造方法は、前記得られた固体を濾過するステップの後、洗浄し、乾燥するステップをさらに含むことができる。
【0031】
他の一方において、本発明は、ピペラジンジチオクト酸塩を薬剤学的に許容される担体と共に含む薬剤学的組成物、具体的には、抗酸化;糖尿病性多発性神経炎、肝疾患、肥満、痴呆、アルツハイマー、リウマチ性関節症の予防若しくは治療;又は、血管内の脂質類増加抑制のための薬剤学的組成物に関する。
【0032】
本発明の薬剤学的組成物は、ピペラジンジチオクト酸塩を単独で、又は他の生理活性物質、好ましくは、ピペラジンジチオクト酸塩とともに使用されてシナジー効果を発揮することができる生理活性物質と共に含むことができる。
【0033】
本発明に係る薬剤学的組成物は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、乳濁液剤、懸濁液剤、シロップ剤等、様々な形態に剤形化することができる。前記様々な形態の薬剤学的組成物は、賦形剤、充填剤、増量剤、結合剤、崩解剤(disintegrator)、潤滑剤、防腐剤、抗酸化剤、等張剤(isotonic agent)、緩衝剤、被膜剤、甘味剤、溶解剤、基剤(base)、分散剤、湿潤剤、懸濁剤、安定剤、着色剤、芳香剤等、各剤形に通常的に使用される薬剤学的に許容される担体(carrier)を使用して、公知の技術によって製造することができる。
【0034】
前記薬剤の製造において、本発明のピペラジンジチオクト酸塩の含量は、薬剤の形態によって異なるが、好ましくは、1〜90重量%の濃度、より好ましくは、10〜80重量%の濃度である。
【0035】
本発明の薬剤学的組成物の投与量は、治療されるヒトを含む哺乳動物の種類、体重、性別、年齢、疾患の程度及び医師の判断等によって広い範囲で多様に変化する。一般的に、経口投与の場合には、体重1kg当たり一日に活性成分0.5〜30mgを投与することができる。上述した一日投与量は、疾患の程度、医師の判断等により、一度に、又は分けて使用することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明に係るピペラジンジチオクト酸塩は、従来のチオクト酸及びチオクト酸の塩基性付加塩に比べ、胃や腸などの広いpH条件における溶解性に優れ、活性成分の体内吸収及び生体利用率が増大するものと期待される。また、熱と水分に対して安定的であるため、薬物の製造、保管及び流通において差別化された優位性を有するだけでなく、塩基の付加による投与量の増加が20.9%に過ぎず、高用量の投与が必要なチオクト酸製剤において、薬剤学的に非常に大きな長所を有する。
【0037】
したがって、本発明のピペラジンジチオクト酸塩は、抗酸化;糖尿病性多発性神経炎、肝疾患、肥満、痴呆、アルツハイマー、リウマチ性関節炎の予防若しくは治療;又は、血管内の脂質類増加抑制のための薬剤学的組成物に効果的に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例1において得た結晶性ピペラジンジチオクト酸塩のX線回折分光図を示した図である。
【図2】実施例1において得た結晶性ピペラジンジチオクト酸塩の示差走査熱量分析図(Differential Scanning Calorimeter Thermogram)を示した図である。
【図3】実施例2において得た結晶性ピペラジンジ−R−(+)−チオクト酸塩のX線回折分光図を示した図である。
【図4】実施例2において得た結晶性ピペラジンジ−R−(+)−チオクト酸塩の示差走査熱量分析図(Differential Scanning Calorimeter Thermogram)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、実施例によって本発明についてより具体的に説明することとする。これら実施例は、単に本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲がこれら実施例に限定されないということは、当業者において自明のことである。
【0040】
実施例1:ピペラジンジチオクト酸塩の製造
チオクト酸10.00g(48.5mmol)をアセトン100mlに加えて完全に溶解させ、反応溶液の温度を10〜15℃に下げた。別の反応容器に、ピペラジン1.90g(21.8mmol)をアセトン100mlに完全に溶解させた後、先に製造したチオクト酸の溶液に、1時間、徐々に滴下した。反応溶液の温度を0〜5℃に冷却し、2時間攪拌した。生成された白色の結晶性固体を濾過し、冷却したアセトン50mlで洗浄した後、35℃の真空下で24時間乾燥して、ピペラジンジチオクト酸10.52gを得た(収率:96.7%)。
【0041】
得られた結晶性ピペラジンジチオクト酸塩のX線回折分析(XRPD)及び示差走査熱量分析(DSC)を遂行し、その結果をそれぞれ図1及び図2に示した。
【0042】
融点:105〜106℃
H NMR(400MHz,DMSO−d):δ=3.57〜3.56(m,2H),3.15〜3.06(m,4H),2.69(s,8H),2.40〜2.35(m,2H),2.10〜2.06(m,4H),1.85〜1.80(m,2H),1.68〜1.59(m,2H),1.55〜1.44(m,6H),1.36〜1.30(m,4H)。
【0043】
実施例2:ピペラジンジ−R−(+)−チオクト酸塩の製造
R−(+)−チオクト酸10.00g(48.5mmol)をアセトン100mlに加えて完全に溶解させ、反応溶液の温度を10〜15℃に下げた。別の反応容器に、ピペラジン1.90g(21.8mmol)をアセトン100mlに完全に溶解させた後、先に製造したR−(+)−チオクト酸の溶液に、1時間、徐々に滴下した。反応溶液の温度を0〜5℃に冷却し、2時間攪拌した。生成された白色の結晶性固体を濾過し、冷却したアセトン50mlで洗浄した後、35℃の真空下で24時間乾燥して、ピペラジンジ−R−(+)−チオクト酸塩10.04gを得た(収率:92.3%)。
【0044】
得られた結晶性ピペラジンジ−R−(+)−チオクト酸塩のX線回折分析(XRPD)及び示差走査熱量分析(DSC)を実行し、その結果をそれぞれ図3及び図4に示した。
【0045】
融点:103〜104℃
H NMR(400MHz,DMSO−d):δ=3.57〜3.56(m,2H),3.15〜3.06(m,4H),2.69(s,8H),2.40〜2.35(m,2H),2.10〜2.06(m,4H),1.85〜1.80(m,2H),1.68〜1.59(m,2H),1.55〜1.44(m,6H),1.36〜1.30(m,4H)
[α]20=+73.5〜+74.5°(c=1.0 in methanol)。
【0046】
参考例1:チオクト酸のトロメタミン塩の製造
チオクト酸20.00g(96.9mmol)をエタノール200mlに完全に溶解させた後、トロメタミン11.75g(96.9mmol)を加え、20〜25℃で1時間攪拌した。反応溶液を濃縮した後、アセトン100mlを加えて、20〜25℃で1時間攪拌した。生成された白色の結晶性固体を濾過し、35℃の真空下で24時間乾燥して、チオクト酸のトロメタミン塩27.74gを得た(収率:87.4%)。
【0047】
H NMR(400MHz,DMSO−d):δ=5.50(brs,6H),3.57〜3.54(m,1H),3.28(s,6H),3.15〜3.03(m,2H),2.39〜2.35(m,1H)、2.04〜2.00(m,2H),1.86〜1.80(m,1H),1.63〜1.29(m,6H)。
【0048】
試験例1:結晶性ピペラジンジチオクト酸塩のX線構造分析
図1及び図3から、前記実施例1及び実施例2においてそれぞれ製造された結晶性ピペラジンジチオクト酸塩及び結晶性ピペラジンジ−R−(+)−チオクト酸塩は、粉末X線回折分析(XRPD)においてそれぞれ特徴的な結晶形態を有することを確認することができた。図1及び図3の粉末X線回折分光図に示された特徴的なピーク(peak)を下記表1及び表2に示した。ここで、「2θ」は回折角を、「d」は結晶面間の距離を、「I/I」はピーク(peak)の相対強度を意味する。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
試験例2:水分及び熱に対する安定性試験
薬剤学的組成物に使用される活性成分の水分及び熱に対する安定性は、組成物の製造工程はもちろん、組成物の長期間の保管において重要な要素であるため、前記実施例1において製造された結晶性ピペラジンジチオクト酸塩の安定性を、公知の物質であるチオクト酸及びチオクト酸のトロメタミン塩の安定性と比較測定した。具体的には、それぞれの化合物を40℃の温度及び75%の相対湿度の加速条件下において密封状態で保管しつつ、それぞれ0日、3日、7日、14日及び28日が経過した後の試料について、初期活性成分値の残渣率を高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。その結果を下記表3に示した。
【0052】
【表3】

【0053】
前記表3に見られるところのように、結晶性ピペラジンジチオクト酸塩は、28日間の加速条件実験において、公知の物質であるチオクト酸よりもはるかに優れた安定性を示した。この結果から、本発明の結晶性ピペラジンジチオクト酸塩が、抗酸化剤又は糖尿病性多発性神経炎の予防若しくは治療のための薬剤として有用に使用され得る化学的安定性を有しているということを確認することができた。
【0054】
試験例3:生体内のpH範囲における溶解度試験
水溶液に対する薬剤学的組成物の活性成分の溶解度は、組成物の溶出速度に影響を与えることになり、このことは、薬物の生体利用率に大きな影響を及ぼすことになる。前記実施例1において製造された結晶性ピペラジンジチオクト酸塩の溶解度を、公知の物質であるチオクト酸及びチオクト酸のトロメタミン塩の溶解度と比較測定した。具体的には、活性成分の溶解度実験は、生体吸収に要求される生体内のpH範囲、すなわち、胃におけるpH(1.2)、腸におけるpH(5.2)及び血液におけるpH(7.4)に近接するpHの範囲において実施した。それぞれの化合物を飽和状態に到達するように溶解させた後、前記溶液を高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析して、チオクト酸(free acid)を基準に溶解した量を測定した。その結果を下記表4に示した。
【0055】
【表4】

【0056】
前記表4に見られるところのように、結晶性ピペラジンジチオクト酸塩は、すべてのpH範囲において、公知の物質であるチオクト酸よりも優れた溶解度を示した。また、本発明に係る結晶性ピペラジンジチオクト酸塩は、公知の物質であるチオクト酸のトロメタミン酸塩とは異なり、すべてのpH範囲において最適の溶解度(3mg/ml以上)を有しており、薬剤学的組成物に使用に適しているということを確認することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるピペラジンジチオクト酸塩:
【化1】

【請求項2】
チオクト酸がラセミ型であることを特徴とする、請求項1記載のピペラジンジチオクト酸塩。
【請求項3】
チオクト酸がR−(+)−チオクト酸又はS−(−)−チオクト酸であることを特徴とする、請求項1記載のピペラジンジチオクト酸塩。
【請求項4】
X線回折分析(XRPD)においてI/I(I:各回折角におけるピークの強度、I:最大ピークの強度)が10%以上である回折角(2θ)の値が、13.9±0.2、16.3±0.2、17.1±0.2、17.3±0.2、18.2±0.2、18.9±0.2、20.5±0.2、22.2±0.2、22.8±0.2、24.2±0.2、39.3±0.2であることを特徴とする、請求項2記載の結晶性ピペラジンジチオクト酸塩。
【請求項5】
チオクト酸がR−(+)−チオクト酸であり、X線回折分析(XRPD)においてI/I(I:各回折角におけるピークの強度、I:最大ピークの強度)が10%以上である回折角(2θ)の値が、14.0±0.2、19.1±0.2、20.6±0.2、22.2±0.2、22.7±0.2であることを特徴とする、請求項3記載の結晶性ピペラジンジチオクト酸塩。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項によるピペラジンジチオクト酸塩を薬剤学的に許容される担体と共に含む、抗酸化;糖尿病性多発性神経炎、肝疾患、肥満、痴呆、アルツハイマー、リウマチ性関節炎の予防若しくは治療;又は、血管内の脂質類増加抑制のための薬剤学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−527492(P2012−527492A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512983(P2012−512983)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【国際出願番号】PCT/KR2010/003954
【国際公開番号】WO2010/151008
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(511285381)セルトリオン ケミカル リサーチ インスティテュート (2)
【氏名又は名称原語表記】CELLTRION CHEMICAL RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】#801,KITI,The University of Suwon,San2−2,Wau−ri,Bongdam−eup,Hwaseong−si,Gyeonggi−do 445−743,Republic of Korea
【出願人】(511285392)セルトリオン ファーム,インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】CELLTRION PHARM,INC.
【住所又は居所原語表記】414−6,Jangan−dong,Dongdaemun−gu,Seoul 130−100,Republic of Korea
【Fターム(参考)】