説明

ピボットジョイント

【課題】高精度の位置決め性を与えるピボットジョイントを提供する。
【解決手段】ピボットジョイントは、第1構造(30)に対して取り付けられ、所定位置に保持されるボール(32)と、ボール上に取り付けられ、これに対して可動の第2構造(20)とを有する。第2構造は、ボールに対してその位置を定めるベアリング表面(31,36)を有している。ボールは第1構造に対し少なくとも2つの接触位置で所定位置に保持されるものとすることができ、これらの位置を反対側とすることで、第2構造が第1構造とボールとの間に捉えられるようにすることができる。接触位置を調節可能とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピボットジョイント、特に高精密のボールジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
軸(stalk)上にボールを具えたピボットジョイントが知られている。かかるピボットジョイントにおいては、ソケット内にボールが配置され、ソケットからは軸が突出している。これらのピボットジョイントには、特にボール部が正確な球でないために、精度が高くないという不利な点を有している。さらに、ボール部が磨耗したとき、廉価に交換できないという不利な点もある。
【0003】
正確な球(すなわちボールベアリング)はラッピングプロセスによって非常に精密に作製することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高精度の位置決め性を与えるピボットジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、第1構造に取り付けられたボールと、該ボールに対し可動に取り付けられた第2構造と、を具えたピボットジョイントにおいて、
前記ボールは前記第1構造に対して静止して固定位置に保持され、
前記第2構造は、前記ボールと摺動接触する少なくとも2つのベアリング表面を提供する周面を有する開口を有し、前記少なくとも2つのベアリング表面が前記ボールに対する前記第2構造の位置を定めるものであり、前記少なくとも2つのベアリング表面の間の前記第2構造の領域が前記ボールに接触していないピボットジョイントを提供する。
【0006】
好ましくは、前記ボールは、少なくとも2つの位置で前記第1構造に接触することにより前記固定位置に保持される。
【0007】
好ましくは、前記第2構造の開口は、前記ボールと摺動接触する少なくとも3つのベアリング表面を提供する周面を有する。
【0008】
好ましくは、前記ベアリング表面は、前記ボールと小面積で接触することにより、前記少なくとも2つのベアリング表面間の前記ボールの摺動を最大限にする。
【0009】
好ましくは、前記第2構造は前記ボールに接触するよう付勢されている。
【0010】
好ましくは、前記第2構造を前記ボールに接触するよう付勢するために、ばね、磁石、真空またはゴムバンドが設けられる。
【0011】
好ましくは、前記第1構造は円錐形の窪みを有し、前記ボールは、前記円錐形の窪みおよび少なくとも1つの接点に接触することより、前記固定位置に位置づけられる。
【0012】
好ましくは、前記第2構造は前記第1構造および前記ボール間に補足される。
【0013】
好ましくは、前記ボールは、高い球面性をもつボールベアリングである。
【0014】
好ましくは、前記ボールは、その球面性および滑らかさに影響を及ぼさない手段によって、前記第1構造に対し位置づけられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るピボットジョイントによれば、(高)精密ジョイントを廉価に製造できる。高い球面性をもつボールベアリングを用いて、2構造間の円滑かつ精密な運動を生じさせることができ、高価な精密加工プロセスを受けることもない。その理由の一つは、ボール表面およびジョイントの移動の滑らかさおよび真球度に悪影響を与え得るねじ止め(screw stud)を使用することなく、ボールが定位置に保持または固定されることで、これらボールジョイントが正確である、ということである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のピボットジョイントを用いた座標測定機の斜視図である。
【図2】座標測定機の上部ステージの斜視図であり、ピボットジョイントを示している。
【図3】座標測定機の支柱の一端の平面図である。
【図4】座標測定機の上部ステージの平面図であり、ピボットジョイントを示している。
【図5】図4のA−A線断面図である。
【図6】座標測定機の他の例による支柱の一端の平面図である。
【図7】ピボットジョイントにおけるボールの他の例によるクランプ構成を示す模式図である。
【図8】ピボットジョイントにおけるボールの他の例によるクランプ構成を示す模式図である。
【図9】座標測定機の上部ステージの斜視図であり、他の例によるピボットジョイントを示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付の図面を参照し、本発明の実施形態を例として説明する。
【0018】
図1に座標測定機が示されている。座標測定機は固定された下部ステージ10および可動の上部ステージ12を具える。上部および下部ステージは入れ子式の支柱14によって連結され、それぞれの支柱は各々の上端および下端においてピボットジョイントにより上部および下部ステージに接続されている。各支柱はその長さを増加および減少させるためのモータ16を有する。
【0019】
ピボットジョイントを介して上部および下部ステージに接続されている3つの入れ子式支柱14によってのみ上部ステージ12が支持されていると、上部ステージは下部ステージ10に対し3つの直交軸の周りに相対回転し得る。これを防ぐため、3つの回転防止装置(anti-rotational devices)20が設けられ、これらの回転の3自由度を除去する一方、並進(translational movement)を許容している。この装置は受動的なものであって、すなわちモータその他のアクチュエータを有していない。回転防止装置20と、上部および下部ステージ12,10との間のジョイントもまた、ピボットジョイントである。
【0020】
図2、図4および図5には、上部ステージ12と回転止め装置20との間のピボットジョイントがより詳細に示されている。上部ステージ12には構造化されたカットアウト(structured cut-out)30が設けられている。ピボットジョイントのボール32は、カットアウト30の周囲を限界する表面により、カットアウト30内に支持される。図2においては2つのカットアウト30が、一方はボールジョイントの他の要素とともに、他方はそれを含まずに、示されている。
【0021】
ボール32はカットアウト30の2つの対向表面34,36によって支持される。第1の曲面34はボール32の一側に接触し、第2の曲面36はボール32の下側表面と2つの接点36A,36Bで接触する。ボール32の位置はこれら3つの接点34,36A,36Bと、クランプ38,42によって提供される第4の接点とによって定められる。
【0022】
本例において、クランプはワッシャ38と、ねじまたはボルトなどの固定具42とを具えている。ワッシャ38は上部ステージ12におけるカットアウト30内に設けられた棚41上に配置され、その下側面の縁がボール32と接触する。上部ステージ12にはワッシャ38の中心に一致して穴40が設けられ、ここに固定具42を受容して、ボール32に対しワッシャ38が保持されるようにしている。従ってボール32は、第1曲面34、第2曲面の2接点36A,36B、およびワッシャ38によって、その表面の周りの4箇所で固定位置に剛に保持される。
【0023】
図9には上部ステージ12および支柱14間の他の例によるピボットジョイントが示されている。上部ステージ12には構造化されたカットアウト130が設けられている。ピボットジョイントのボール32は、カットアウト130の周囲を限界する表面により、カットアウト130内に支持される。図9においては2つのカットアウト130が、一方はボールジョイントの他の要素とともに、他方はそれを含まずに、示されている。
【0024】
ボール32はカットアウト130の2つの対向表面134,136によって支持される。第1の曲面134はボール32の一側に接触し、第2の曲面136はボール32の下側表面と2つの接点136A,136Bで接触する。ボール32の位置はこれら3つの接点134,136A,136Bと、クランプ38,42によって提供される第4の接点とによって定められる。
【0025】
カットアウト130についての接触面の向きは、支柱14の向きが回転防止装置20に対して回転しているので、カットアウト30に対して回転している。これは図1に見ることができる。
【0026】
入れ子式支柱14および回転防止装置20のそれぞれの各端部には穴45が設けられ、これは各ピボットジョイントのボール32に嵌り合う。それぞれの穴45は、図3に示すように、120度の間隔をおいたベアリング表面43A,43B,43Cを有するように形成されている。この3つのベアリング表面のみがボール32に接触する。これらのベアリング表面はボール32との接触面積が小さく、表面間の摺動を最大限にする。これらのように接触面積を小とすることで、ボール32に対する回転防止装置20または支柱14の反復位置決めも提供される。
【0027】
この例ではボール32を囲繞する第2構造14,20を示したが、これは必須ではない。従って、第2構造は構造内にギャップをもって、ボールを実質的に囲繞するものであってもよい(どのようなギャップでもその限界寸法は、ボールの直径および第2構造のベアリング表面の位置の関数である)。
【0028】
支柱14および回転防止装置20の双方が本発明に係るピボットジョイントを有することが好ましいけれども、これは必須ではないことに注意すべきである。
【0029】
図6はベアリング表面の他の構成を示している。この構成においては、穴45は2つのベアリング表面46A,46Bのみを有した楕円形である。ベアリング表面が磨耗すると、それらはボールの表面にさらに着座するので、ベアリング表面およびボール間のがたつき(rattle)が少なくなる。この構成は、ベアリング表面に作用する力がベアリング表面の面に直交する軸に平行である場合(例えばボールジョイントがジャッキ(jack)に用いられる場合)に特に好適である。
【0030】
支柱14および回転防止装置20はベアリング性の良好な材料、例えばリン青銅で形成される。支柱14は、エッチングおよびその後の機械加工または打抜き(stamping)で穴45を形成し、穴45の長さおよび幾何学形状を正確に調整することで作製される。
【0031】
図5は、ピボットジョイントに取り付けられる回転防止装置20をもつ上部ステージ12を示す側面図であり、これは図4のA−A線断面である。ボール32は4つの接点のうち3つで所定位置に保持されていることがわかる。これらは、第2ステージ12に設けられた第1曲面34、および第2曲面36の2接点、並びにワッシャ38の表面37である。これらの表面はボール32の周囲に沿って間隔をおいて示されている。ボール32に接触するワッシャ38の表面37は、ワッシャ38の下面および側面間の面取り端であり、これはワッシャ38の全周に延在している。これによって、ワッシャ38の向きによらず、表面37がボール32に提供される。
【0032】
この図において、回転防止装置20は所定位置にあり、一方のベアリング表面43がボール32に接触して示されている。他の2つのベアリング表面はこの図には示されていない。
【0033】
ボール32と上部ステージ12およびワッシャ38との間に4つの接点を配置することによって、回転防止装置20の端部に、ボール32についての移動を行うに十分な空間を取ることができるようになる。加えて、構造化されたカットアウト30の各々はボール32の一方の側部にカットアウト突出部(lobe)31を有し、回転防止装置20の端部に、操作を行うに充分な空間を取ることができるようにしている。3つのベアリング表面43A,43B,43Cはボール上を動いてもボールに接触したままとなることで、回転防止装置20のアームがボール32に関して回転できるようになる。
【0034】
衝撃(jolt)が発生すると、ベアリング表面はボールから跳ね上がり、剛の係止部(すなわちカットアウト構造30の縁)に当たってから、ボール上の位置に復帰する。よってボールジョイントは自らを保護する。高精密のボールジョイントが必要な場合には、例えば回転防止装置20の2つの部分間にコイルばねを設け、1または複数のベアリング表面をボール32に対し付勢するようにしてもよい。かかるばねは、いかなる衝撃の後でもベアリング表面がボールに復帰する助けとなり、構造に剛性を付加することになる。当業者であれば、本発明に係るボールジョイントを含む装置の他の部位へのバイアス手段の配設が有効であることが理解できよう。
【0035】
ボールに対しベアリング表面を付勢する他の方法は、第2構造14,20をバイアスすることで行われる。これを実現するための一方法は、第2構造14,20にクランプされる一端と、ボール32を押圧する他端とを有するプレートを備えることである。すなわちプレートは板ばねのように作用する。クランプは、例えばねじによって取り外し可能に固定されることが好ましく、これによればメンテナンスや交換のためにボール32を取り外すことができるようになる。プレートという語は、ワッシャ等バイアスを提供するために適した種々の形状および構造のすべてを含むものである。かかるプレートは、ワッシャ38とともに、あるいはこれに代えて用いることができるものである。
【0036】
ピボットジョイントに用いるボールは、硬質/低摩擦の材料で作製されたものとすることもできるし、あるいは硬質/低摩擦の材料でコーティングされた材料で作製されたものでもよい。
【0037】
上例は座標測定機におけるピボットジョイントの使用について述べたものであるが、このピボットジョイントはかかる機械とともに用いられる場合に限られることはなく、他の用途に用いることもできる。
【0038】
さらに本発明は、上述のようなボール配置方法に限られることはない。実施形態ではボールに対し1つを調節可能とした4つの接点について述べたが、ボールに対し総計5以上の接点を設けることもできる。加えて、調節可能な接点を2以上設けることもでき、例えば4接点のすべてを調節可能としてもよい。
【0039】
図7には正しい位置にボールを剛にクランプする他の方法が示されている。ボール32は円錐形の窪み48に配置され、1つの接点54をもつ固定具52(例えばねじ)によってボール32に対し所定位置に保持される。固定具52はボール32に対する2以上の接点を有するもの(例えばV溝)であってもよいのは勿論である。
【0040】
図8は正しい位置にボールを剛にクランプする別の方法が示されている。ボール32は平坦な表面50に配置され、ボール32の表面と接触する円錐形の窪み56を有する固定具52によって所定位置に保持される。
【0041】
接着、ブレージングおよび溶接などの恒久的な方法によってボールが所定位置に保持されていてもよい。しかしこれらの方法には、ボールが交換可能なものではなくなってしまうという不利な点がある。
【0042】
このピボットジョイントは、廉価に製造でき、容易に組立てできるという2つの利点がある。
【0043】
ボールを保持するカットアウト構造は機械加工が容易である。この構造内で分離型(free)のボールを繰り返し位置決め可能とすることによって、交換も容易となる。さらに、市販の正確な球(例えばボールベアリング)を構造内の正確な位置決めに組み合わせることによって、高精密のボールジョイントが作製される。
【0044】
本明細書および特許請求の範囲を通じて使用される、語句「ピボットジョイント」におけるピボットという語は、2または3の自由度を有するユニバーサルジョイントと同様、1、2および3自由度をもつピボットジョイントを含むものとして定義される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1構造に取り付けられたボールと、該ボールに対し可動に取り付けられた第2構造と、を具えたピボットジョイントにおいて、
前記ボールは前記第1構造に対して静止して固定位置に保持され、
前記第2構造は、前記ボールと摺動接触する少なくとも2つのベアリング表面を提供する周面を有する開口を有し、前記少なくとも2つのベアリング表面が前記ボールに対する前記第2構造の位置を定めるものであり、前記少なくとも2つのベアリング表面の間の前記第2構造の領域が前記ボールに接触していないことを特徴とするピボットジョイント。
【請求項2】
前記ボールは、少なくとも2つの位置で前記第1構造に接触することにより前記固定位置に保持されることを特徴とする請求項1に記載のピボットジョイント。
【請求項3】
前記第2構造の開口は、前記ボールと摺動接触する少なくとも3つのベアリング表面を提供する周面を有することを特徴とする請求項1または2に記載のピボットジョイント。
【請求項4】
前記ベアリング表面は、前記ボールと小面積で接触することにより、前記少なくとも2つのベアリング表面間の前記ボールの摺動を最大限にすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のピボットジョイント。
【請求項5】
前記第2構造は前記ボールに接触するよう付勢されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のピボットジョイント。
【請求項6】
前記第2構造を前記ボールに接触するよう付勢するために、ばね、磁石、真空またはゴムバンドが設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のピボットジョイント。
【請求項7】
前記第1構造は円錐形の窪みを有し、前記ボールは、前記円錐形の窪みおよび少なくとも1つの接点に接触することより、前記固定位置に位置づけられることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のピボットジョイント。
【請求項8】
前記第2構造は前記第1構造および前記ボール間に捕捉されていることを特徴とする請求項2に係るピボットジョイント。
【請求項9】
前記ボールは、高い球面性をもつボールベアリングであることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のピボットジョイント。
【請求項10】
前記ボールは、その球面性および滑らかさに影響を及ぼさない手段によって、前記第1構造に対し位置づけられることを特徴とする請求項9に記載のピボットジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−65849(P2010−65849A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282732(P2009−282732)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【分割の表示】特願2003−512568(P2003−512568)の分割
【原出願日】平成14年7月15日(2002.7.15)
【出願人】(391002306)レニショウ パブリック リミテッド カンパニー (166)
【氏名又は名称原語表記】RENISHAW PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】