説明

ピメリン酸の製造方法

【課題】ピメリン酸の製造方法の提供。
【解決手段】プロモーターと作動的連結したbioI遺伝子を導入した微生物を培養し、ピメリン酸を生産させる、ピメリン酸の製造方法。プロモーターに作動的に連結したbioI遺伝子を導入した、大腸菌を除く組換え微生物。枯草菌(Bacillus subtilis)である、組換え微生物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピメリン酸の製造方法に関する。より詳しくは、バイオマスからのピメリン酸の発酵生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックの生産の原料として、化石資源由来原料が用いられている。プラスチックを廃棄する場合、再生利用する場合はともかく、燃焼等による廃棄は炭酸ガスの放出を招くことから、近年問題となりつつある。そこで、地球温暖化防止及び循環型社会の形成に向けて、プラスチックの製造原料を再生可能資源のひとつであるバイオマス由来の原料に置き換えることが嘱望されている。
【0003】
代表的なプラスチックの製造原料のひとつとして、ジカルボン酸が上げられる。ジカルボン酸は、ポリアミドやポリエステルのモノマーとしてだけでなく、ポリオール、ポリアミンの原料として用いられている。ジカルボン酸の炭素数の違いにより、得られるプラスチックの物性が大きく変化することから、炭素数の異なるさまざまなジカルボン酸が現在使用されている。
【0004】
バイオマス原料から製造されるジカルボン酸としては、炭素数4のコハク酸が知られている。しかし、それ以外に炭素数の長いバイオマス原料から製造されるジカルボン酸が求められていた。
【0005】
微生物の代謝物で、炭素数4のコハク酸より大きな炭素数からなるジカルボン酸としては、ビオチン生合成中間体として、炭素数7のピメリン酸が知られている。ピメリン酸を出発原料として、ビオチンを生産する製造方法も開示されている(特許文献1)。
【0006】
しかし、現時点において、微生物におけるピメリン酸の生合成経路は完全に解明されていない。
【0007】
枯草菌におけるビオチン生合成酵素として、シトクロムP450系酸化酵素の一種であるBioIが知られている(特許文献1)。
【0008】
BioIは、菌体内で、脂肪酸−ACP(アシルキャリアープロテイン)から、ピメリル−ACPを生成することが明らかとなっている(非特許文献1;非特許文献2)。例えば、大腸菌でBioIを過剰発現させた場合、C14〜C18脂肪酸ACPとBioIの複合体が生じ、この複合体のターンオーバーでピメリルACPが生じることが報告されている。しかし、遊離のピメリル酸が生じることは報告されていない(非特許文献1)。
【0009】
一方、インビトロでは遊離脂肪酸に対する活性もあることが報告されているが、活性は極めて小さい(非特許文献3)。
【0010】
遊離脂肪酸の生合成系としては、脂肪酸−ACP(アシルキャリアープロテイン)からの脂肪酸−ヒドラーゼ(EC 3.1.2.14)による加水分解、あるいは、トリグリセリドからのリパーゼによる加水分解が知られているが、大腸菌(Escherichia coli)は、どちらの酵素遺伝子も保有していない(図1)。よって、大腸菌においては、遊離脂肪酸の生合成系を保有せず、菌体内に遊離脂肪酸が存在する報告は無い。
【0011】
また、ピメリルACPから遊離ピメリル酸が生じるか否かはわかっていない。
【0012】
加えて、ビオチン生合成系に関しても、これまでに明らかになっているのは、ピメリルCoAが出発物質であり、ビオチン生合成中間体として遊離のピメリン酸が存在するかは、明らかになっていない。
【0013】
ピメリン酸の微生物生産としては、C11の直鎖状アルカン、或いは脂肪酸エステルや不飽和脂肪酸を原料にバチルス属の微生物と接触させる方法が報告されている(特許文献2、非特許文献4)が、この場合、原料はC11の直鎖状アルカン、或いは脂肪酸エステルに限定され、原料が著しく制限されるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平7−177895号
【特許文献2】特開昭62−6692号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Archives of Biochemistry and Biophysics 384, 351(2000)
【非特許文献2】PNAS 105, 15696(2008)
【非特許文献3】Chemical Communication 86 (2004)
【非特許文献4】Agric.Biol.Chem.,47,1649 (1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、従来技術における上記のような課題を解決し、ナイロン原料等として有用なジカルボン酸の一種であるピメリン酸をバイオマスなどを原料として微生物にて製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、バイオマスを原料としてピメリン酸を製造する方法に関して鋭意検討を行った結果、BioI遺伝子を形質転換した微生物を用いてピメリン酸を生産する方法を見出した。
【0018】
すなわち本発明は、以下の発明を提供するものである:
(1)プロモーターに作動的に連結したbioI遺伝子を導入した組換え微生物を培養し、ピメリン酸を生産させることを含む、ピメリン酸の製造方法。
(2)組換え微生物が、枯草菌(Bacillus subtilis)である、前記1記載のピメリン酸の製造方法。
(3)組換え微生物が、大腸菌(Escherichia coli)である、前記1記載のピメリン酸の製造方法。
(4)プロモーターに作動的に連結したbioI遺伝子を導入した、大腸菌を除く組換え微生物。
(5)微生物が、枯草菌(Bacillus subtilis)である、前記4記載の組換え微生物。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、バイオマス原料から、プラスチック原料として有用なピメリン酸を製造できる。得られたピメリン酸は、ヘキサメチレンジアミンなどのジアミン化合物と重合することで、耐熱性のポリアミドを提供することができる。また、化石資源ではなく、非化石資源であるバイオマスを原料としてピメリン酸を製造できることから、本発明は、地球環境に対して優しい製造方法となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(A)遊離脂肪酸の生合成反応。脂肪酸−ACPヒドロラーゼおよびリパーゼがなければ脂肪酸−ACPおよびトリグリセリドからの遊離脂肪酸の合成は生じない。(B)大腸菌のグリセロ脂質代謝マップ(KEGG:Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomesデータベースより)。大腸菌には、遊離脂肪酸の生合成経路が無いことを示す。無色の酵素番号は、大腸菌での欠損を意味する。
【図2】(A)枯草菌ビオチン生合成オペロンを示す。(B)bioA〜bioBがTcに置換されるbioA〜bioB欠損を示す。
【図3】bioW−Tc−bioI遺伝子の作製方法を示す。F−bioW−Lack、R−bioW−Lack、F−bioI−Lack、R−bioI−Lack、F−Tc、R−Tc、F−Lack−Fusion、R−Lack−Fusionはプライマーを示す。yatP−Tc−bioI遺伝子も、F−yatP−Lack、R−yatP−Lack、F−bioI−Lack、R−bioI−Lack、F−Tc、R−Tc、F−Lack−Fusion−yatP、F−Lack−Fusion−bioIを用いて同様に作製された。
【図4】増幅された遺伝子の電気泳動写真を示す。ferは、増幅されたferredoxin遺伝子、ykuNは増幅されたflavodoxin遺伝子、yumCは、ferredoxin:NAD(P)+oxidoreductase遺伝子、BioIは、増幅されたbioI遺伝子、ykuN−bioI−yumCは増幅されたykuN−bioI−yumC遺伝子、fer−bioI−yumCは増幅されたfer−bioI−yumC遺伝子を示す。両端のレーンは、分子量マーカー(タカラバイオ製 500bpDNA Ladder)を示す。
【図5】ykuN−bioI−yumC遺伝子またはfer−bioI−yumC遺伝子の作製方法を示す。F−ykuN(fer)、R−ykuN(fer)−bioI、F−yumC−bioI、R−yumC、F−bioI−Fusion、R−bioI−Fusion、F−ykuN(fer)−bioI−yum、R−ykuN(fer)−bioI−yumはプライマーを示す。F−ykuN(fer)は、F−ykuNプライマーまたはF−ferプライマーを意味する。R−ykuN(fer)−bioIは、R−ykuN−bioIプライマーまたはR−fer−bioIプライマーを意味する。F−ykuN(fer)−bioI−yumはF−ykuN−bioI−yumプライマーまたはF−fer−bioI−yumプライマーを意味する。R−ykuN(fer)−bioI−yumはR−ykuN−BioI−yumプライマーまたはR−fer−bioI−yumプライマーを意味する。
【図6】発現ベクターの構成を示す。pHT01は、コントロール用発現プラスミドである。pBioIは、bioI遺伝子発現プラスミドである。プロモーターgracの制御下でBioI蛋白質を発現する。pYkuN−BioI−YumCはykuN遺伝子、bioI遺伝子、yumC遺伝子発現プラスミドである。プロモーターgracの制御下でBioI、YkuN、YumCの3つの蛋白質を発現する。pFer−BioI−YumCはfer遺伝子、bioI遺伝子、yumC遺伝子発現プラスミドである。プロモーターgracの制御下でBioI、Fer、YumCの3つの蛋白質を発現する。pBioI−orf2はbioI遺伝子、orf2遺伝子発現プラスミドである。プロモーターgracの制御下でBioI蛋白質とorf2遺伝子産物の2つを発現する。
【図7】(A)bioI遺伝子発現枯草菌培養上清中のピメリン酸産生を示す。pHT01は発現ベクターpHT01で形質転換されたISW1412 bio(ΔbioA−bioB::Tc)を意味する。pBioIは、bioI遺伝子の組み込まれたpHT01で形質転換されたISW1412 bio(ΔbioA−bioB::Tc)を意味する。pFer−BioI−YumCは、fer−bioI−yumC遺伝子の組み込まれたpHT01で形質転換されたISW1412 bio(ΔbioA−bioB::Tc)を意味する。pYkuN−BioI−YumCは、ykuN−bioI−yumC遺伝子の組み込まれたpHT01で形質転換されたISW1412 bio(ΔbioA−bioB::Tc)を意味する。Wildは、形質転換されていないISW1412野生株を意味する。(B)増殖曲線を示す。
【図8】(A)bioI−orf2遺伝子発現枯草菌のピメリン酸産生を示す。pHT01は発現ベクターpHT01で形質転換されたISW1412 bio(ΔbioA−bioB::Tc)を意味する。pBioIは、bioI遺伝子の組み込まれたpHT01で形質転換されたISW1412 bio(ΔbioA−bioB::Tc)を意味する。pBioI−orf2は、bioI−orf2遺伝子の組み込まれたpHT01で形質転換されたISW1412 bio(ΔbioA−bioB::Tc)を意味する。24hは、24時間培養、48hは48時間培養を示す。(B)増殖曲線を示す。
【図9】(A)bioI発現大腸菌のピメリン酸産生を示す。pHT01は、発現ベクターpHT01で形質転換されたDH5αを意味する。pBioIは、bioI遺伝子の組み込まれたpHT01で形質転換されたDH5αを意味する。pFer−BioI−YumCは、fer−bioI−yumC遺伝子の組み込まれたpHT01で形質転換されたDH5αを意味する。pYkuN−BioI−YumCは、ykuN−bioI−yumC遺伝子の組み込まれたpHT01で形質転換されたDH5αを意味する。pBioI−orf2はbioI−orf2遺伝子の組み込まれたpHT01で形質転換されたDH5αを意味する。(B)増殖曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、bioI遺伝子を含有する発現ベクターによって形質転換した組換え微生物を用いてピメリン酸を製造する方法に係るものである。
【0022】
本発明におけるbioI遺伝子は、ビオチン生合成に関与する遺伝子であり、Acyl−ACP(脂肪酸のカルボン酸にアシルキャリアープロテイン(ACP)が共有結合したもの)の炭素鎖を位置特異的に酸化的に切断し、Pimelyl−ACPに変換する酵素をコードする遺伝子である。しかし、C16前後の炭素数のAcyl−ACPを基質とするようであるが正確にはわかっていない。Acyl−ACPをPimelyl−ACPに変換する酵素をコードする遺伝子であれば限定されないが、好ましくは、枯草菌のbioI遺伝子(NCBI−GeneID:935928:配列番号1)または枯草菌のbioI遺伝子に相当する他の微生物の遺伝子である。
【0023】
枯草菌のbioI遺伝子の核酸配列(配列番号1):
gtgacaattgcatcgtcaactgcatcttctgagtttttgaaaaacccatattctttttacgacacattgcgagctgttcatcctatctataaagggagtttcttaaaatacccgggctggtatgtcacaggatatgaagaaacggctgctattttgaaagatgcgagattcaaagtccgcaccccgctgcctgagagctcaaccaaatatcaggacctttcacatgtgcaaaatcaaatgatgctgtttcagaaccagcctgatcatagacgattgcggacgcttgccagcggagcgtttacgccgagaacgacagagagttatcagccgtatatcattgaaactgtccatcatttgcttgatcaagtgcaaggtaaaaaaaagatggaggtcatttcggactttgcttttcctttagcaagttttgtcatagctaacattataggtgtaccggaggaagatagggagcaattaaaggagtgggctgcgagtctcattcaaacgattgattttacccgctcaagaaaggcattaacagagggcaatattatggctgtgcaggctatggcatatttcaaagagctgattcaaaagagaaaacgccaccctcaacaggatatgatcagcatgctcttgaaggggagagaaaaggataagctgacggaagaggaggcggcatctacgtgcatattgctggcgatcgccggacatgagacaacggtcaatctcatcagcaattcagtcctttgtctgctgcagcatccagaacagcttttgaaactgagagaaaatccagatcttattggtaccgcagtcgaggaatgtttacgctatgaaagccccacgcaaatgacagccagagttgcgtcagaggatattgacatctgcggggtgacgatccgtcaaggagaacaagtctatcttttgttaggagcggctaatcgagaccctagcatattcacgaaccccgatgtcttcgatattacgagaagtcctaatccgcatctttcattcgggcatggccatcatgtttgcttagggtcctcgctggcacgattagaagcgcaaattgcgattaacactcttctgcagcgaatgcccagccttaatcttgcggattttgaatggcggtatcggccgctttttggatttcgggcgcttgaggagctgccggtgacttttgaataa
下線は開始コドン及び停止コドンを示す。
【0024】
枯草菌のbioIのアミノ酸配列(配列番号2):
MTIASSTASSEFLKNPYSFYDTLRAVHPIYKGSFLKYPGWYVTGYEETAAILKDARFKVRTPLPESSTKYQDLSHVQNQMMLFQNQPDHRRLRTLASGAFTPRTTESYQPYIIETVHHLLDQVQGKKKMEVISDFAFPLASFVIANIIGVPEEDREQLKEWAASLIQTIDFTRSRKALTEGNIMAVQAMAYFKELIQKRKRHPQQDMISMLLKGREKDKLTEEEAASTCILLAIAGHETTVNLISNSVLCLLQHPEQLLKLRENPDLIGTAVEECLRYESPTQMTARVASEDIDICGVTIRQGEQVYLLLGAANRDPSIFTNPDVFDITRSPNPHLSFGHGHHVCLGSSLARLEAQIAINTLLQRMPSLNLADFEWRYRPLFGFRALEELPVTFE
【0025】
本発明で用いられるbioI遺伝子および下記遺伝子においては、塩基配列に修飾が加えられているものも含まれる。例えば、アミノ酸を欠失、好ましくは1〜数個欠失するような範囲で塩基が欠失されたものでもよい。また、フレームシフトが起こらない範囲で塩基が置換、好ましくは1〜数個置換されたものでもよい。また、アミノ酸が付加されるような範囲で塩基が付加、好ましくは1〜数個付加されたものでもよい。但し、そのような修飾があっても、修飾前の活性を有するタンパク質をコードするものであることが必要である。このような改変された塩基配列(変異体)は、例えば、部位特異的変異法等によって、特定の部位のアミノ酸が置換、削除、挿入、付加されるように本発明の遺伝子の塩基配列を改変することによって得られる。
【0026】
bioI遺伝子の組み込みベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミド等を利用することが出来る。シャトルベクターであっても良い。好ましくは、大腸菌、枯草菌、酵母のための発現用プラスミドである。
【0027】
大腸菌由来のプラスミドとしては、例えば、pBR322、pBR325、pUC18、pUC118が挙げられる。枯草菌由来のプラスミドとしては、例えば、pUB110、pTP5、pC194、pHY300PLKDNA、pHT01が挙げられる。酵母由来プラスミドとしては、例えば、pSH19、pSH15が挙げられる。これらのプラスミドは、市場より入手できる。
【0028】
本発明の組換えベクターを適当な宿主に導入して、該宿主の形質転換を行うことによって、本発明の形質転換体を得ることができる。
【0029】
宿主としては、微生物であれば限定されないが、例えば、細菌、酵母などが挙げられる。好ましくは、大腸菌(Escherichia)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、バチルス(Bacillus)、乳酸菌(Lactobacillus、 Bifidobacterium)、酵母(Saccharomyces、Pichia、Schizosaccharomyces、Kluyveromyces、Hansenula、Yarrowia)等が挙げられる。これらの中でも大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)がより好ましい。これらの宿主は、市場より入手できる。
【0030】
宿主は、生産されたピメリン酸がさらなる代謝を受けることを防ぐため、宿主のビオチン生合成系が欠損していてもよい。好ましくは、bioB遺伝子、bioD遺伝子、bioF遺伝子、およびbioA遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つを欠損している宿主である。bioB遺伝子、bioD遺伝子、bioF遺伝子、およびbioA遺伝子は、枯草菌のbioB遺伝子、bioD遺伝子、bioF遺伝子、bioA遺伝子に相当する他の微生物の遺伝子も含む。
【0031】
枯草菌のbioA遺伝子の核酸配列(配列番号34):
atgactcatgatttgatagaaaaaagtaaaaagcacctctggctgccatttacccaaatgaaagattatgatgaaaaccccttaatcatcgaaagcgggactggaatcaaagtaaagacataaacggcaaggaatactatgacggtttttcatcggtttggcttaatgtccacggacaccgcaaaaaagaactagatgacgccataaaaaaacagctcggaaaaattgcgcactccacgttattgggcatgaccaatgttccagcaacccagcttgccgaaacattaatcgacatcagcccaaaaaagctcacgcgggtcttttattcagacagcggcgcagaggcgatggaaatagccctaaaaatggcgtttcagtattggaagaacatcgggaagcccgagaaacaaaaattcatcgcaatgaaaaacgggtatcacggtgatacgattggcgccgtcagtgtcggttcaattgagctttttcaccacgtatacggcccgttgatgttcgagagttacaaggccccgattccttatgtgtatcgttctgaaagcggtgatcctgatgagtgccgtgatcagtgcctccgagagcttgcacagctgcttgaggaacatcatgaggaaattgccgcgctttccattgaatcaatggtacaaggcgcgtccggtatgatcgtgatgccggaaggatatttggcaggcgtgcgcgagctatgtacaacatacgatgtcttaatgatcgttgatgaagtcgctacaggctttggccgtacaggaaaaatgtttgcgtgcgagcacgagaatgtccagcctgatctgatggctgccggtaaaggcattacaggaggctatttgccaattgccgttacgtttgccactgaagacatctataaggcattctatgatgattatgaaaacctaaaaacctttttccatggccattcctatacaggcaatcagcttggctgtgcggttgcgcttgaaaatctggcattatttgaatctgaaaacattgtggaacaagtagcggaaaaaagtaaaaagctccattttcttcttcaagatctgcacgctcttcctcatgttggggatattcggcagcttggctttatgtgcggtgcagagcttgtacgatcaaaggaaactaaagaaccttacccggctgatcggcggattggatacaaagtttccttaaaaatgagagagttaggaatgctgacaagaccgcttggggacgtgattgcatttcttcctcctcttgccagcacagctgaagagctctcggaaatggttgccattatgaaacaagcgatccacgaggttacgagccttgaagattga
【0032】
枯草菌のbioF遺伝子の核酸配列(配列番号35):
ttgaagattgattcctggttaaacgagcggttagacagaatgaaagaagccggcgtacatcgtaacctgcggtcaatggatggagcgccggttccagagaggaatattgatggcgaaaatcaaacggtctggtcctcaaacaattatttagggctcgcaagcgatagacgtttgatcgatgcagcccaaacagcattgcagcaatttgggacaggaagcagcggttcacgtttaacgacaggcaattcggtctggcatgaaaagctagaaaagaagattgccagctttaaactgacagaagcggccctgctgttttcgagcggttacttggccaatgtcggtgtcctttcatccttgccagaaaaggaagatgtcattttaagtgaccagctcaatcatgcaagtatgatcgacggctgccgactttctaaggctgatacagttgtttatcggcatattgatatgaatgatcttgaaaacaagctgaatgaaacacagcgttatcagcgccgttttatcgtaacagacggagtattcagcatggatggcacaatcgcccctcttgatcagatcatctcacttgcgaaacgctatcatgccttcgtggtcgttgatgatgcccacgcaacaggagttttgggcgattcgggacaaggaacgagtgaatactttggtgtttgtcccgacattgttatcggcaccttaagcaaagctgttggcgcggaaggaggttttgcggcaggatcagcggtcttcatcgactttttgctgaaccatgccagaacatttatctttcaaaccgctattccgccagccagctgtgcggctgctcacgaggctttcaacatcattgaagccagcagggaaaaacgacagcttttattttcttatatcagcatgatcagaaccagtctgaagaatatgggttatgtggtgaaaggagatcacacaccgattattcctgtagtcattggcgatgcccataaaacggtcctatttgctgaaaaactgcagggcaagggaatttatgctcctgccattcggccgccaaccgttgcgccgggtgaaagccggattcgaattacaatcacgtctgaccacagtatgggtgatattgatcatttgctgcaaacatttcattcaatcggaaaggagctgcacatcatttga
【0033】
枯草菌のbioD遺伝子の核酸配列(配列番号36):
ttgaggggtttttttgtgacgggaactgatacagaagtagggaaaacggttatatccagcggtcttgctgccttattgaaagacaataata gacatgtcggggtgtataaaccatttttaagcgggatatcgcgccatcatccagatagtgatacaagtttgctgaaagatatgtcgcagaccagtctttctcatgaagacattacgccttttgccttcaaggcgccgcttgcaccatacgttgcagggaaacttgagggaaagactgtcaccatggaagaggttttaagccattgggggcggattagagaaaaacatgaatgcttcatcgtagaaggtgcaggcggtatttctgtgccattgggagaggactatttggtcagtcatgtcataaaagcgttgcagcttcccatgattattgtggcgcgtcctcgccttggaaccattaatcatacctttttaactgtcaaatatgcagaaagcatggggcttccaatcgccggaattatcatcaatggaatcagtgactctcctgatgaagatgaaaaaaccaatcctgagatgattgagcgcttatgcggtgtgccgattttaggggttacgccaaagcttgccaacgtgacgaaagaaacggttctacatatggtaaaagaccatatcaatctatcattactgatgaatcaagtgggggtatga
下線は開始コドン及び停止コドンを示す。
【0034】
枯草菌のbioB遺伝子の核酸配列(配列番号37):
atgaatcaatggatggaactcgcagaccgggtgctggctggagcagaagtgactgacgaagaggcgctttcaatattacattgtcctgatgaagatattttgctattaatgcacggggcttttcacatcagaaaacacttttacggaaaaaaagtaaagctcaatatgattatgaatgcgaaatccgggctctgcccggaaaactgcggctattgttcacagtctgcgatttcgaaagcgccgattgagtcttaccggatggtgaataaggaaacgctgcttgaaggcgcgaagcgggcgcacgatctgaatatcggcacatattgtatcgtggcaagcggcagaggtccgtctaacagagaagtggatcaggtcgtagatgcggttcaggaaattaaagagacgtatggactgaagatttgtgcatgtcttggactgttgaagccagagcaggcgaagcggctcaaagatgcaggagtagaccgctataatcataatttgaatacgtcacagagaaaccattcaaacat cacaacctcacatacatacgatgacagagtcaatacggttgaaatcgcaaaagaatcggggctgtctccgtgttcaggcgccattatcgggatgaaggagacgaaacaggatgtcattgacatcgccaaaagcttgaaggctcttgacgcggattccattcctgtgaattttttgcatgcaattgatggcacgccgttagaaggcgtcaacgaattaaacccgctgtattgtttaaaagtgctggcgctgttccgttttatcaatccatcaaaagaaattcgcatttccggaggaagagaggtcaatctccgcacattgcagccattagggctttacgccgcaaactccatttttgtcggagactacttaacaactgccgggcaagaggagacggaggatcataaaatgctgagtgatttaggctttgaagttgaatcagtcgaagaaatgaaggctagtttaagtgcgaaaagctga
下線は開始コドン及び停止コドンを示す。
【0035】
宿主の形質転換は、当該技術分野で公知の方法に従って行うことが出来る。例えば、組換えタンパク質生産法(生物化学実験法45 学会出版センター刊)に記載された、エレクトロポレーション法やカルシウム法によってコンピテントセルとした菌を用いる方法などがある。
【0036】
プロモーターは、宿主中において、連結している外来遺伝子を発現させるものであれば限定されない。宿主が大腸菌である場合には、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、T7プロモーター、gracプロモーターなど、宿主が枯草菌である場合には、SP01プロモーター、SP02プロモーター、penPプロモーター、gracプロモーターなど、宿主が酵母である場合には、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが好ましい。
【0037】
プロモーターに作動的に連結するとは、プロモーターの制御下で目的遺伝子産物が生成するようにプロモーターの下流に目的遺伝子を連結することを意味する。
【0038】
プロモーターに作動的に連結したbioI遺伝子を導入した組換え微生物とは、上記の組換えDNA手法を用いて外からプロモーターに作動的に連結したbioI遺伝子を導入することでbioI遺伝子産物が生じるようになった微生物を意味する。プロモーターに作動的に連結したbioI遺伝子は、宿主のゲノムに組み込まれてもよいが、プラスミドに組み込まれた形態で存在することが好ましい。
【0039】
形質転換体を培養するための培地には、該宿主が生育する培地であれば特に制限はなく、当該技術分野で公知の方法に従って培養することが出来る。例えば、グルコース、シュークロースなどの糖類を炭素源として、アンモニウム塩や硝酸塩などの無機窒素源、あるいは酵母エキスなどの有機窒素源、さらに各種無機塩やビタミン類などを含有した培養液を用いることができる。培養は、宿主によって好気的または嫌気的であってもよい。培養時間は、形質転換体の増殖とピメリン酸の産生量から当業者は適宜設定することができるが、1日から1ヶ月程度培養を行えばよい。培養温度は、微生物の増殖可能な温度であれば限定されず、当業者は形質転換体の増殖とピメリン酸の産生量から適宜設定することができる。
【0040】
ピメリン酸とは、以下の式:
【化1】


の化合物をいう。
【0041】
ピメリン酸を生産させるとは、生産されたピメリン酸が菌体内に蓄積してもよいが、菌体外に分泌されることが好ましい。
【0042】
フェレドキシン(ferredoxin)遺伝子とは、電子伝達体として機能するタンパク質をコードする遺伝子であり、好ましくは、枯草菌のフェレドキシン遺伝子(fer)である。フェレドキシンは、BioIと共役している。
【0043】
枯草菌のフェレドキシン(fer)遺伝子の核酸配列(配列番号3):
atggcaaagtacacaatcgtagacaaagatacatgtattgcatgcggcgcttgcggagctgctgcaccagacatttacgattacgatgatgaaggcatcgcgttcgtaacgcttgatgaaaacaaaggtgttgtcgaagttcctgaggtactggaagaagatatgattgacgcatttgaaggatgccctactgattccatcaaagtggcggatgagccatttgaaggcgacccgcttaaatttgaatag
下線は開始コドン及び停止コドンを示す。
【0044】
フラボドキシン(flavodoxin)遺伝子とは、電子伝達体として機能するタンパク質をコードする遺伝子であり、好ましくは、枯草菌のフラボドキシン遺伝子(ykuN)である。フラボドキシンは、BioIと共役している。
【0045】
枯草菌のフラボドキシン(ykuN)遺伝子の核酸配列(配列番号4):
atggctaaagccttgattacatatgccagcatgtcaggaaatacagaagacattgccttcataataaaagatacgcttcaggaatatgagttggatatcgattgtgtcgagataaatgatatggatgcgtcttgtttaacctcctatgattatgtactgattggcacctatacatggggggacggcgatttgccctacgaagcggaggattttttcgaagaggtcaaacagattcagcttaatggtttaaaaacagcctgcttcgggtctggcgattattcttatccaaagttttgcgaagcggtgaatttgttcaatgtcatgctgcaagaggcgggagctgctgtttaccaggaaacactaaaaattgaattagcgcctgaaacagatgaagatgtggaaagctgccgagcgtttgcgagaggttttcttgcatgggcagattatatgaacaaggaaaaaatccatgtttcataa
下線は開始コドン及び停止コドンを示す。
【0046】
フェレドキシン−NAD(P)+オキシドレダクターゼ(ferredoxin:NAD(P)+oxidoreductase)遺伝子は、フェレドキシンNAD(P)Hオキシドレダクターゼ(ferredoxin NAD(P)H oxidoreductase、EC 1.18.1.3)遺伝子と同義であり、NAD(P)Hを還元型フェレドキシンによって酸化してNAD(P)+を再生するタンパク質をコードする遺伝子であり、好ましくは、枯草菌のフェレドキシン−NAD(P)+オキシドレダクターゼ遺伝子(yumC)である。フェレドキシン−NAD(P)+オキシドレダクターゼはBioIと共役している。
【0047】
枯草菌のフェレドキシン−NAD(P)+オキシドレダクターゼ(yumC)遺伝子の核酸配列(配列番号5):
atgcgagaggatacaaaggtttatgatattacaattataggcgggggaccggtcggcttattcaccgctttttacggcgggatgagacaggcaagcgtcaaaattatcgaaagcctgcctcagctcggcggacagcttagcgccctataccctgagaagtatatatatgatgtagcgggattcccgaaaatccgcgcgcaagagcttatcaataacctaaaagagcaaatggcgaaattcgaccaaaccatttgtctggagcaagcggttgaatctgttgagaaacaagcggacggcgtgtttaagcttgtacaaatgaagaaacccactactctaaaacggtcatgcataactgcaggaaacggcgcattcaaaccgagaaagctggaacttgaaaatgccgagcagtatgaaggcaaaaacctccattacttcgttgatgatctgcaaaaattcgccggcagacgcgttgcgatccttggcggtggagattccgcggttgactgggcgcttatgcttgagccaatcgcaaaagaagtatcgatcattcaccgccgcgacaagttccgagcgcacgagcacagtgtggaaaaccttcatgcgtcgaaggttaatgtcctgacaccattcgtccctgcggagctgatcggcgaagacaaaatcgaacagctagtgcttgaagaagtgaaaggcgaccgcaaagagattttagaaattgatgacttaatcgtcaactacggtttcgtttcatctcttggaccgatcaaaaactggggcctggacatcgagaaaaattccattgtcgtgaaatcaacaatggaaacaaatatcgaaggcttctttgcagcaggtgacatttgtacatacgaaggaaaagtcaacctgattgccagcggcttcggcgaggcaccgacagcagtgaacaacgccaaggcttacatggacccgaaagcccgcgtacagcctcttcactcaacaagtctttttgaaaataaataa
下線は開始コドン及び停止コドンを示す。
【0048】
枯草菌のorf2遺伝子とは、枯草菌ビオチン生合成オペロンのbioIの下流に見出される蛋白質がコードされていると推測される下記配列番号6の配列を有する遺伝子であるが、orf2遺伝子産物は、特定されていない。
【0049】
枯草菌のorf2の核酸配列(配列番号6):
gcctaagaatgtgagtgccaaaaaagtgtcagccccgccgaaaatgggcaatctataaaaaaggggagtgaacatcgtgaaaaaagtgctgatcgccggcggaaatggtgtgattgggagactgcttgctgaagggcttatttcagactatgaagtgactgtgcttgataaagatcatttcgatggcaaagcctcttccattcaggctgacgcggcaaattatgaggagctgttgaagaagattccaaaagataccgatgccatcttgaatttactcgctgtgaaaatcaaatacgatattatggacatcgctgagtttgaaaaaatgacggatgttttctatagggcaagctattatctgtgccgtgcggcagcggagctcggcattcaaaagctcgtgttcgccagcagcaatcatgtcacagatgtatatgaaaaagacgggcgctcgctcttaggacgggaaatcacaacaagcgattatccgctgtcaaaaaacttgtacggtgtattaaagctgacctctgaacagatcggccatttgttttatttggaaaataagctatcagtaatcaaccttcgaatcggaacagtcgtgacagatgaaatggatacgctgcatgaaaaagaacggacgaaaaagacactgctttctcaccccgatctgctgtcgattttcaaagccgccattgagaccaacatccggtatggcacttattacgccgtctctgataatccgggccggccatggtccattgaatctgccgtgaatgaacttgggttttcgccacaaatcaatacggctgaacttctgaacgaggaggagaacggagcataa
下線は推定開始コドン及び推定停止コドンを示す。
枯草菌のビオチン生合成オペロン遺伝子の核酸およびアミノ酸配列はアクセッション番号:U51868で登録されている。
【0050】
本発明の組換え微生物は、bioI遺伝子と共に、fer遺伝子、yumC遺伝子、yukN遺伝子およびorf2遺伝子からなる群から選択させる少なくとも1つを発現させることが好ましい。より好ましくは、bioI遺伝子、yukN遺伝子とyumC遺伝子の共発現、bioI遺伝子、fer遺伝子とyumC遺伝子の共発現、またはbioI遺伝子とorf2遺伝子の共発現である。fer遺伝子、yumC遺伝子、yukN遺伝子およびorf2遺伝子は、枯草菌のfer遺伝子、yumC遺伝子、yukN遺伝子およびorf2遺伝子に相当する他の微生物の遺伝子も含む。
【0051】
本発明で使用する、微生物、組換えDNA、PCR、発現、培養技術等の分子生物学実験技術は、当業者に周知であり、一般的な教科書(例えば、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL,second edition(Sambrook et al.,1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press; CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(F.M.Ausubel et al., eds.,1987 and annual updates); PCR PROTOCOLS:A GUIDE TO METHODS AND APPLICATIONS(Innis et al., 1990, Academic Press, San Diego, CA); PCR:THE POLYMERASE CHAIN REACTION(Mullis et al., eds., 1994); MANUAL OF INDUSTRIAL MICROBIOLOGY AND BIOTECHNOLOGY,Second Edition(A.L.Demain,et al., eds.1999);及びBIOTECHNOLOGY:A TEXTBOOK OF INDUSTRIAL MICROBIOLOGY,(Thomas D.Brock)Second Edition(1989)Sinauer Associates,Inc.,Sunderland,Massなど)に詳細に説明されている。
【実施例】
【0052】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0053】
実施例1、枯草菌ビオチン合成オペロン欠損株の作製
枯草菌ビオチン合成オペロンの構造はPerkinsらによって報告された(JOURNAL OF BACTERIOLOGY,Nov.1996,p.6361−6365)。図2Aにその構造を示す。本研究では、bioI遺伝子発現プラスミドの宿主として、枯草菌株ISW1214株(タカラバイオより入手)よりbioAからbioBまたはbioWからbioBまでの領域をテトラサイクリン耐性遺伝子に置換した株を作製した(図2B)。作製方法を以下に示す。
【0054】
枯草菌B.subtilis ISW1214株からのゲノムDNA抽出:
本実験には、QIAGEN社のゲノムDNA抽出キット(Genomic DNA Buffer Set,Cat. No.19060;Genomic−tip 20/G,Cat.No.10223)を用いた。
【0055】
B.subtilis ISW1214株を試験管に入った6mLのLB培地に接種し、37℃で一晩培養した。遠心により4mL分の培養液から1.5mLチューブに菌体を回収し、あらかじめ2μLの100mg/mL RNaseA(QIAGEN,Cat.No.19101)を添加した1mLのBuffer B1に菌体を懸濁した。20μLの100mg/mLリゾチーム溶液(Wako,Lysozyme from Egg White, Cat.No.126−05013,水で調製した)を加えて撹拌し、さらに20mg/mL Proteinase K溶液(QIAGEN,Cat.No.19131)を45μL加えて撹拌し、37℃で30分間保温した(保温後、液が透明になり、もやもやしたものが確認できた)。次に、Buffer B2を0.35mL加えて撹拌し、50℃で40分間保温した。
【0056】
あらかじめ2mLのBuffer QBTで平衡化したGenomic−tipカラムにこのサンプル液を移し、圧をかけながら液を流した。サンプルを流した後、同様の方法でBuffer QCを3mL(1mL×3回)流し、カラムを洗浄した。あらかじめ50℃で保温したBuffer QF(1mL×2回)で吸着していたDNAを溶出した。得られた約2mLのDNA溶液を0.5mLずつ1.5mLチューブに小分けし、0.35mLずつ2−プロパノールを加えて撹拌した(この際、白い繊維状の沈殿を確認した)。遠心により沈殿を回収し、70%エタノールを1mL加えて沈殿を洗浄した。遠心後、上清を除き、沈殿を乾燥した。各チューブに25μLずつTEbufferを加えてDNAを溶解後、4本分を1本のチューブにまとめ、精製ゲノムDNA溶液とし(約100μL)、−20℃で保存した。
【0057】
(1)bioAからbioB領域欠損株作製用融合遺伝子(bioI遺伝子−テトラサイクリン耐性遺伝子−bioW遺伝子)の作製(図3)
(1−1)bioI遺伝子(約1.2kbp)増幅
以下の2種類のプライマーを用いた。
F−bioI−Lack(配列番号:7):5′−GTATATAAACATTCTCAAAGGGATTTCTAATTTTGAACAGAAAGGAGAAAATCACGTG−3′
R−bioI−Lack(配列番号:8):5′−TTCAAAAGTCACCGGCAGC−3′
下線は、テトラサイクリン耐性遺伝子部分の配列を示す。
【0058】
PCRはKOD DNAポリメラーゼ(東洋紡)と添付の反応バッファーを使用し、反応体積50μl、枯草菌ISW1412染色体DNA170ngを鋳型として、上記プライマーを各200nM、KODを1ユニット使用し、94℃ 2分加熱した後、94℃ 45秒、54℃ 45秒、68℃ 60秒のサイクルを25回行った(Bio-Rad、MyCycler)。
【0059】
(1−2)bioW遺伝子(約0.8kbp)増幅
以下の2種類のプライマーを用いた。
F−bioW−Lack(配列番号:9):5′−ATGATGCAAGAAGAAACTTTTTATAGTGTC−3′
R−bioW−Lack(配列番号:10):5′−CAATATGGCCCGTTTGTTGAATCATGAGTCATGATCTTCCTCC−3′
下線は、テトラサイクリン耐性遺伝子部分の配列を示す。
【0060】
PCRはbioI遺伝子増幅と同条件で行った。
【0061】
(1−3)テトラサイクリン耐性遺伝子(約1.5kbp)増幅
以下の2種類のプライマーを用いた。
F−Tc(配列番号:11):5′−TTCAACAAACGGGCCATATTG−3′
R−Tc(配列番号:12):5′−TTAGAAATCCCTTTGAGAATGTTTATATAC−3′
【0062】
PCRはpHY300PLK DNA(タカラバイオ)10ngを鋳型として、KODプラスDNAポリメラーゼ(東洋紡)と添付の反応バッファーを使用し、反応条件は反応体積50μl、上記プライマーを各200nM、KODを1ユニット使用し、94℃ 5分加熱した後、94℃ 15秒、65℃ 30秒(1サイクルごとに0.3℃低下させた)、68℃ 90秒のサイクルを30回行った。
【0063】
(1−4)融合遺伝子(bioW遺伝子−テトラサイクリン耐性遺伝子−bioI遺伝子)の増幅(図3)
上記の方法で増幅したbioI遺伝子(26.8ng)、テトラサイクリン耐性遺伝子(68ng)及びbioW遺伝子(32.6ng)を混合し、以下の2種類のプライマーを用いてbioI遺伝子の増幅の場合と同条件でPCR増幅した。PCR産物はRECOTIP(タカラバイオ社)を用いて精製した。
F−Lack−Fusion(配列番号:13):5′−GAGGGCTTCAATGAATGGATCTC−3′
R−Lack−Fusion(配列番号:14):5′−TACCGCCATTCAAAATCCGCAAG−3′
【0064】
(1−5)枯草菌の形質転換とbioAからbioBまでの欠損株のスクリーニング
融合遺伝子(PCR産物)1μgを用い、pHY300PLK DNA添付の取扱説明書に従って、枯草菌ISW1214(タカラバイオ(株))へ形質転換した。
【0065】
コンピテントセルの調製方法:
(i)第1培養
1)B.subtilis ISW1214株をL−broth 5mlに接種。37℃で一晩振とう培養する。
2)一晩培養液をSPI培地に植菌後(接種量約1%)、37℃で振とう培養する。
3)生育が対数増殖期後期に達した時点で、培養液にグリセロールを終濃度12.5%になる様、添加する。
4)ミクロ遠心管(エッペンドルフ型、ポリプロピレン)に400μlずつ分注後、ドライアイス−エタノールで急速凍結し、−70℃で保存する。
【0066】
(ii)第2培養
1)保存しておいた培養液を37℃ですみやかに融解する。
2)SPII培地で7.5倍に希釈する。
3)37℃で90分間振とう培養を行ない、その培養液をコンピテントセルとして用いる。
【0067】
SPI培地:(NH)SO 0.2%、KHPO 1.4%、KHPO 0.6%、Na−Citrate−2HO 0.1%、MgSO・7HO 0.02%、*Glucose 0.5%、*Casamino acid 0.02%、*Yeast extract 0.1%、*L−Leucine 50μg/ml、*L−Methionine 50μg/ml
* 別殺菌
【0068】
SPII培地:(NH)SO 0.2%、KHPO 1.4%、KHPO 0.6%、Na−Citrate−2HO 0.1%、MgSO・7HO 0.02%、*Glucose 0.5%、*Yeast extract 0.02%、*MgCl 5mM、*L−Leucine 5μg/ml、*L−Methionine 5μg/ml
* 別殺菌
【0069】
形質転換および目的欠損株のスクリーニング方法:
1)コンピテントセル液500μlに融合遺伝子溶液500μl(融合遺伝子1μg)を加える。
2)37℃で30分間振とうする。
3)100μlのL−brothを加え、さらに37℃で60分間振とう後、集菌する。
4)テトラサイクリンを2μg/ml含むL−brothのプレート上に塗布し、37℃で一晩培養し、増殖する菌株を選択し、分離したテトラサイクリン耐性株のbiotin要求性を、ロイシン及びメチオニンを50μg/ml含有するSpizizen’s medium寒天培地におけるbiotin(5ng/ml)依存性の増殖で確認する。
【0070】
biotin(5ng/ml)依存性に増殖する菌株を目的欠損株(ISW1412 bio(ΔbioA−bioB::Tc)、図2B)として得た。
【0071】
(2)bioWからbioB領域欠損株作製用融合遺伝子(bioI遺伝子−テトラサイクリン耐性遺伝子−yatP遺伝子)の作製
(2−1)yatP遺伝子の増幅(約1.0kbp)
以下の2種類のプライマーを用いた。
F−yatP−Lack(配列番号:15):5′−ATGAGAGCCGAAAGAAGAAAGC−3′
R−yatP−Lack(配列番号:16):5′−CAATATGGCCCGTTTGTTGAAGGATCGATTTATGGCAGTTGG−3′
下線は、テトラサイクリン耐性遺伝子部分の配列を示す。
【0072】
(2−2)融合遺伝子(bioI−テトラサイクリン耐性遺伝子−yatP遺伝子)の作製
以下の2種類のプライマーを用いた。
F−Lack−Fusion−yatP(配列番号:17):5′−GCTTGGTGATTTGCCTGATCG−3′
F−Lack−Fusion−bioI(配列番号:18):5′−TACCGCCATTCAAAATCCGCAAG−3′
【0073】
3遺伝子の融合遺伝子の増幅は、反応体積50μl中で、bioI遺伝子(26.8ng)、テトラサイクリン耐性遺伝子(340ng)及びyatP遺伝子(285ng)を混合し、上記2種類のプライマー各200nM、KODプラス1ユニットを使用して、94℃ 2分加熱した後、94℃ 45秒、54℃ 45秒、68℃ 60秒のサイクルを25回行った。
【0074】
(2−3)枯草菌の形質転換とbioWからbioBまでの欠損株のスクリーニング
PCR産物をRECOTIP(タカラバイオ社)で精製し、融合遺伝子1μgを用いpHY300PLK DNA添付の取扱説明書に従って、枯草菌ISW1412へ形質転換した。目的欠損株のスクリーニングは、上記のbioAからbioBまでの領域欠損株の場合と同条件で行った。biotin(5ng/ml)依存性に増殖する菌株を目的欠損株(ISW1412 bio(ΔbioW−bioB::Tc))として選択し、分離した。
【0075】
実施例2、bioI発現プラスミドの作製(図6)
bioI遺伝子の増幅は以下の2種類のプライマーを用いた。
F−BioI−solo forward(配列番号:19):5′−GGGATCCATGACAATTGCATCGTCAACTGCATCTTCTGAG−3′
R−BioI−solo reverse(配列番号:20):5′−CGACGTCTTATTCAAAAGTCACCGGCAGCTCC−3′
【0076】
PCRは反応体積50μl、枯草菌ISW1412染色体DNA170ngを鋳型として、上記プライマーを各200nM、KODプラスを1ユニット使用し、94℃ 4分加熱した後、94℃ 45秒、55℃ 45秒、68℃ 60秒のサイクルを25回行った。PCR産物はpCR−Blunt II−TOPO(Invitrogen社)に手順書に従って組込み、大腸菌TOP10株(Invitrogen社)へ形質転換した後、プラスミドDNAをBamHI及びAatIIで切断し、同酵素で切断した枯草菌用シャトル発現ベクターpHT01(Mo Bi Tec社)とligation high(東洋紡)を用いて結合させた。
【0077】
実施例3、bioIとbioI蛋白酸化還元パートナー遺伝子との共発現プラスミドの作製
(1)枯草菌flavodoxin遺伝子(ykuN)、bioI遺伝子及びferredoxin−NAD(P)+oxidoreductase遺伝子(yumC)の発現プラスミドの作製(図6)
(1−1)枯草菌ykuN遺伝子増幅(約0.6kbp)
以下の2種類のプライマーを用いた。なお、reverseプライマーは、ykuN遺伝子3′側とbioI遺伝子5′側(下線部)の融合プライマーである。
F−ykuN(配列番号:21):5′−GGACGTCATCTGTTGACAATGAAAATCATTATCATTTAAAGTG−3′
R−ykuN−bioI(配列番号:22):5′−CACGTGATTTTCTCCTTTCTGTTCTTATGAAACATGGATTTTTTCCTTGTTC−3′
【0078】
PCRは反応体積50μl、枯草菌染色体DNA170ngを鋳型とし、上記プライマーを各200nM、KODプラスを1ユニット使用し、94℃ 3分加熱した後、94℃ 15秒、57℃ 30秒、72℃ 30秒のサイクルを25回行った(図4)。
【0079】
(1−2)枯草菌bioI遺伝子増幅(約1.2kbp)
以下の2種類のプライマーを用いた。
F−bioI−Fusion(配列番号:23):5′−GAACAGAAAGGAGAAAATCACGTGACAATTG−3′
R−bioI−Fusion(配列番号:24):5′−TTATTCAAAAGTCACCGGCAGCTCC−3′
【0080】
PCRは反応体積50μl、枯草菌染色体DNA170ngを鋳型とし、上記プライマーを各200nM、KODプラスを1ユニット使用し、94℃ 3分加熱した後、94℃ 15秒、57℃ 30秒、72℃ 2分のサイクルを25回行った(図4)。
【0081】
(1−3)枯草菌yumC遺伝子増幅(約1.1kbp)
以下の2種類のプライマーを用いた。なおforwardプライマーはbioI遺伝子3′側(下線部)とyumC遺伝子5′側の融合プライマーである。
F−yumC−bioI(配列番号:25):5′−GCTGCCGGTGACTTTTGAATAAATTTTCATTTAGGAGGCAATTTTCGTATGC−3′
R−yumC(配列番号:26):5′−AGCTGTGTCGCAGACACAAG−3′
【0082】
PCRは反応体積50μl、枯草菌染色体DNA170ngを鋳型とし、上記プライマーを各200nM、KODプラスを1ユニット使用し、94℃ 3分加熱した後、94℃ 15秒、55℃ 30秒、68℃ 2分のサイクルを25回行った(図4)。
【0083】
(1−4)ykuN−bioI−yumC遺伝子(約2.7kbp)の作製(図5)
以下の2種類のプライマーを用いた。
F−yku−bioI−yum(配列番号:27):5′−GGATCCATGGCTAAAGCCTTGATTACATATGCCAG−3′
R−yku−bioI−yum(配列番号:28):5′−GGACGTCTTATTTATTTTCAAAAAGACTTGTTGAGTGAAGAGGC−3′
【0084】
PCRは反応体積50μl、ykuN 23ng、bioI 138ng、yumC 34ngの各DNA断片を混和し、上記プライマーを各200nM、KODプラスを1ユニット使用し、94℃ 3分加熱した後、94℃ 15秒、57℃ 30秒、72℃ 3分のサイクルを25回行った(図4)。PCR産物はpCR−Blunt II−TOPO(Invitrogen社)に手順書に従って組込み、大腸菌TOP10株(Invitrogen社)へ形質転換した後、プラスミドDNAを抽出、BamHI及びAatIIで切断し、同酵素で切断した枯草菌用シャトル発現ベクターpHT01(Mo Bi Tec社)へligation high(東洋紡)を用いて結合させた(図6)。
【0085】
(2)枯草菌ferredoxin遺伝子(fer)、bioI遺伝子及びyumC遺伝子の発現プラスミドの作製
(2−1)枯草菌fer遺伝子の増幅(約0.3kbp)
枯草菌fer遺伝子増幅は以下の2種類のプライマーを用いた。なおreverseプライマーはfer遺伝子3′側とbioI遺伝子5′側(下線部)の融合プライマーである。
F−fer(配列番号:29):5′−GATTGATCCATTTGTTCCACCAAGAAC−3′
R−fer−bioI(配列番号:30):5′−CACGTGATTTTCTCCTTTCTGTTCCTATTCAAATTTAAGCGGGTCGCC−3′
【0086】
PCRは反応体積50μl、枯草菌染色体DNA170ngを鋳型とし、上記プライマーを各200nM、KODプラス1ユニット使用し、94℃ 3分加熱した後、94℃ 15秒、55℃ 30秒、68℃ 2分のサイクルを25回行った(図4)。
【0087】
(2−2)fer−bioI−yumCの融合遺伝子(約2.5kbp)の作製(図5)
以下の2種類のプライマーを用いた。
F−fer−bioI−yum(配列番号:31):5′−GGATCCATGGCAAAGTACACAATCGTAGACAAAGATAC−3′
R−fer−bioI−yum(配列番号:32):5′−GGACGTCTTATTTATTTTCAAAAAGACTTGTTGAGTGAAGAGGC−3′
【0088】
PCRはfer 15ng、bioI 138ng、yumC 34ngを鋳型として、94℃3分加熱した後、94℃15秒、55℃ 30秒、68℃ 3分のサイクルを25回行った(図4)。PCR産物はpCR−Blunt II−TOPO(Invitrogen社)に手順書に従って組込み、大腸菌TOP10株(Invitrogen社)へ形質転換した。形質転換菌よりプラスミドDNAを抽出、BamHI及びAatIIで切断し、同酵素で切断した枯草菌用シャトル発現ベクターpHT01(Mo Bi Tec社)へligation high(東洋紡)を用いて結合させた(図6)。
【0089】
実施例4、枯草菌ビオチン合成オペロンのorf2遺伝子とbioI遺伝子の共発現プラスミドの作製(図6)
枯草菌bioI−orf2遺伝子増幅は以下の2種類のプライマーを用いた。
F−BioI−solo forward(配列番号:19)および
R−ORF2(配列番号:33):5′−CGACGTCTTATGCTCCGTTCTCCTCCTCG−3′
【0090】
PCRは反応体積50μl、枯草菌ISW1412染色体DNA170ngを鋳型として、上記プライマーを各200nM、KODプラスを1ユニット使用し、94℃ 4分加熱した後、94℃ 45秒、55℃ 45 秒、68℃ 60秒のサイクルを25回行った。PCR産物はpCR−Blunt II−TOPO(Invitrogen社)に手順書に従って組込み、大腸菌TOP10株(Invitrogen社)へ形質転換した。形質転換菌よりプラスミドDNAを抽出、BamHI及びAatIIで切断し、同酵素で切断した枯草菌用シャトル発現ベクターpHT01(Mo Bi Tec社)へ、ligation high(東洋紡)を用いて結合させた(図6)。
【0091】
実施例5、bioI組み込み菌によるピメリン酸の産生
(1)枯草菌及び大腸菌への形質転換
枯草菌エレクトロポーレーション用コンピテントセル(ISW1412、ISW1412 bio(ΔbioA−bioB::Tc)、ISW1412 bio(ΔbioW−bioB::Tc))はpHY300PLK DNA(タカラバイオ社)添付の取扱説明書に従って調製した。
【0092】
エレクトロポレーション用セルの調製方法
1)B.subtilis ISW1214株を L−brothで37℃、一晩前培養する。
2)前培養液2mlを本培養液(L−broth+0.5M sorbitol)32mlに加え、37℃で本培養を行う。
3)A660=0.85〜0.95で本培養を止める(約2.5時間)。
4)氷中に10分間放置する。
5)5,000×gで5分間遠心する。
6)氷冷したSolution A(0.5M sorbitol, 0.5M mannitol, 10%glycerol)で菌体を4回洗浄する。
7)菌体を0.8ml(培養液の1/40量)のSolution Aに懸濁する。
8)60μlずつ分注し、−80℃で保存する。これをエレクトロポレーション用セルとする。
【0093】
枯草菌への形質転換は、EQUIBIO社Easyjet optimaの装置及びcell projects社EP−102のキュベットを用いたエレクトロポレーション法(2kV、25μF、200Ω)によって行った。大腸菌の形質転換は、Ecos competent DH5α(ニッポンジーン社)を用いたカルシウム法によって行った。
【0094】
枯草菌の形質転換体は、形質転換後の菌を終濃度3μg/mlクロラムフェニコール含むL−brothのプレート上に塗布し、30℃で一晩培養し、増殖する菌株を選択して得た。
【0095】
大腸菌の形質転換体は、形質転換後の菌を終濃度50μg/mlカルベニシリン含むL−brothのプレート上に塗布し、37℃で一晩培養し、増殖する菌株を選択して得た。
【0096】
(2)bioI組み込み菌の培養条件
枯草菌の場合は終濃度3μg/mlクロラムフェニコール、大腸菌の場合は終濃度50μg/mlカルベニシリンを含むBD社製LB培地を使用した。培養は一晩培養液(培養温度30℃)60μlを3ml培養液の入った試験管に加え、培養温度30℃または37℃、往復振盪速度180/minで行った。BioI遺伝子発現誘導はOD600=0.8〜0.9になった時点で、終濃度1mM IPTG及び2mMアミノレブリン酸(ヘム合成促進のため)を添加した。培養は遺伝子発現誘導後、20時間から48時間まで行った。
【0097】
L−broth(LB)培地:
トリプトン 1%(w/v)
酵母エキス 0.5%(w/v)
塩化ナトリウム 1%(w/v)
【0098】
(3)ピメリン酸分析方法
培養上清1mlに5M HCl 30μlを添加した後、真空乾燥し、得られた残留物を1mlメタノールに溶解した。遠心して不溶物を除き、上清0.9mlに0.1ml Trimethylsilyldiazomethaneを添加、室温30分インキュベートした。遠心して上清を回収し、ピメリン酸ジメチルをGC/MS(日本電子製JMS−GCmateII)にて分析した。ピメリン酸ジメチルの標準品は和光純薬社商品番号323−86001を用いた。
【0099】
分析条件
カラム:CPWAX52CB Φ0.25mm×60m 膜厚0.25μm
温度:50℃(3min)−10℃/min−250℃Hold
注入口温度:250℃、インターフェース:250℃、キャリアガス:1.0ml/min(He)
スプリット:スプリットレス、注入量:0.5μl
【0100】
MS条件
加速電圧:2.5kV、イオン源温度:210℃、イオン化法:SIM(選択イオンモニタリング)
選択イオン:m/z=115(定量用)、m/z=74(確認用)、m/z=157(確認用)
【0101】
ピメリン酸の定量は、濃度既知のピメリン酸ジメチル標準品のGC/MS−SIMスペクトラムピーク面積から作成した検量線を元に定量した。
【0102】
結果
(1)bioI発現枯草菌によるピメリン酸産生
図7AにbioI発現枯草菌(ISW1412 bio(ΔbioA−bioB::Tc))培養上清中のピメリン酸産生量を示す。IPTG及びアミノレブリン酸の添加によるインダクション後、培養温度30℃、24時間培養し、培養上清を回収した。非欠損株(Wild)ではピメリン酸の産生は認められなかったが、欠損株(pHT01)でわずかなピメリン酸の産生が認められた。欠損株でbioIを発現させる(pBioI)ことでピメリン酸の産生が驚くべきことに18倍も増加した。さらに、fer蛋白質及びyumC蛋白質を共発現する(pFer−BioI−YumC)ことによって、ピメリン酸の産生量が増加し、bioI蛋白と酸化還元パートナーとの共発現により産生量を向上させることができた。一方、ykuN蛋白質及びyumC蛋白質の共発現(pYkuN−BioI−YumC)では、菌の増殖は低下したが、ピメリン酸の産生量はbioI単独の場合と同レベルであった。
【0103】
bioIとorf2との共発現(ISW1412 bio(ΔbioA−bioB::Tc))の場合(図8A)、IPTG及びアミノレブリン酸の添加によるインダクション後、培養温度30℃、24および48時間培養し、培養上清を回収した。bioI単独(pBioI)では、24および48時間培養後の上清中のピメリン酸産生量には違いは認められなかった(24時間:1.8μM、48時間:1.84μM)が、bioIとorf2との共発現(pBioI−orf2)では、24時間後と比較して48時間後で約2倍(24時間:1.86μM、48時間:3.62μM)のピメリン酸産生量の増加が認められた。
【0104】
また、宿主にbioW〜bioB欠損株(ISW1412 bio(ΔbioW−bioB::Tc)を用いた場合、bioI遺伝子を有する形質転換体は、bioW〜bioB欠損株の場合と比較して、増殖は同程度であったが、ピメリン酸の産生は顕著に減少した。
【0105】
(2)bioI発現大腸菌によるピメリン酸産生
bioI発現プラスミドを大腸菌DH5α株に形質転換し、枯草菌と同様にIPTG及びアミノレブリン酸の添加によるインダクション後、培養温度30℃、24時間培養した後、培養上清中にピメリン酸が蓄積するかを調べた。結果を図9Aに示す。大腸菌においても、bioI蛋白発現によるピメリン酸の培地中への蓄積が確認され、さらにFer蛋白質及びYumC蛋白質との共発現によって産生量が向上した(pFer−BioI−YumC)。しかし、産生量は枯草菌の半分程度であった。一方、YkuN蛋白質及びYumC蛋白質の共発現(pYkuN−BioI−YumC)では、菌の増殖は低下したが、ピメリン酸の産生量はbioI単独の場合と同レベルであった。
【0106】
bioIとorf2との共発現(DH5α)の場合(pBioI−orf2)、IPTG及びアミノレブリン酸の添加によるインダクション後、培養温度30℃、24時間培養し、培養上清を回収した。枯草菌の場合と異なり、24時間培養後において、bioI単独(0.91μM)と比較して、bioIとorf2との共発現では、約2倍(1.85μM)のピメリン酸産生量の増加が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、プラスチック原料と使用できるピメリン酸を、バイオマスから生産することを可能とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロモーターに作動的に連結したbioI遺伝子を導入した微生物を培養し、ピメリン酸を生産させることを含む、ピメリン酸の製造方法。
【請求項2】
微生物が、枯草菌(Bacillus subtilis)であることを特徴とする請求項1記載のピメリン酸の製造方法。
【請求項3】
微生物が、大腸菌(Escherichia coli)であることを特徴とする請求項1記載のピメリン酸の製造方法。
【請求項4】
プロモーターに作動的に連結したbioI遺伝子を導入した、大腸菌を除く組換え微生物。
【請求項5】
微生物が、枯草菌(Bacillus subtilis)である、前記4記載の組換え微生物。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−211908(P2011−211908A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80319(P2010−80319)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】