説明

ピリリウム化合物の製造方法

【課題】発光色素、染料、写真用材料として有用なピリリウム化合物を、簡便に、且つ、高収率で製造する方法の提供。
【解決手段】下記式(1)の化合物とR3CH2−MgYで表される化合物とを反応させて、更にハロゲン化水素水溶液でクエンチ後、スクアリン酸化合物と反応させて下記式(6)で表されるピリリウム化合物を製造する。




(Xはカルコゲン原子、Yはハロゲン原子、Rは非金属原子含有基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光色素、染料、写真用材料として有用であるピリリウム化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピリリウム化合物は種々の用途に用いられている。例えば、チオピリリウム化合物は、直接ポジ写真ハロゲン化銀乳剤の電子受容化合物や、光伝導体の分光増感剤として用いられ、セレナピリリウム化合物、テルラピリリウム化合物は、光記録媒体の有機色素薄膜や、有機電子蛍光材料の発光層に用いられている。さらに、テルラピリリウム化合物は、その他にも、光記録要素の光吸収色素として用いられている。
【0003】
なかでも、チオピリリウムスクアリリウム化合物、及び、チオピリリウムクロコニウム化合物は、モル吸光係数が高く、赤外線領域にシャープな吸収を示すため、赤外線によって露光される写真感光材料として用いることで、露光の際の光散乱や、光反射による画像の劣化を効果的に低減又は防止することができる。
【0004】
このように有用なピリリウム化合物であるが、これまでに知られている合成方法は、製造上、必ずしも好ましい方法ではなかった。例えば、チオピリリウムスクアリリウム化合物について述べると、過塩素酸4−メチル−4H−チオピリリウムを得るためには、対応した4H−チオピラン−4−オンより合成するのが一般的であるが、該4H−チオピラン−4−オンの合成方法としては、4H−ピラン−4−オンを4H−ピラン−4−チオンに変換した後に、さらに、4H−チオピラン−4−チオンを経て、4H−チオピラン−4−オンを合成するという方法であり、反応の段階が多く複雑であり、且つ、収率が低いという問題があった。
【0005】
また、反応をより短い工程で、簡便に、収率よく合成する方法として、特許文献1に係る合成方法が開示された。しかし、このように有用なピリリウム化合物の製造方法について、簡便さと収率の点について改善されてはいるものの、未だ、十分とは言えない。さらに、特許文献2では、上記式(1)で表される化合物にグリニヤール試薬を反応させた後、HBF4、及びキノリンを使用してクエンチするスクアリリウム化合物を合成する方法が記載されているが、満足できる収率を得るに至っていない。
【0006】
【特許文献1】特開2001−11070号公報
【特許文献2】特開2006−251755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、有用なピリリウム化合物をより簡便に、且つ、より高収率に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、従来、上記式(1)で表される化合物に上記式(2)で表されるグリニヤール試薬を反応させて得られる上記式(3)で表される化合物は、ハロゲン化アンモニウム水溶液を使用してクエンチすることが一般的であるが、ハロゲン化アンモニウムの水溶液を使用してクエンチすると、反応時間や、その後の濃縮等の精製処理に要する時間に依存して副生成物が生成し、目的とする上記式(6)で表されるピリリウム化合物の収率が低下することを見出した。そして、クエンチ液としてハロゲン化アンモニウムの水溶液の代わりにハロゲン化水素若しくはハロゲン元素のオキソ酸の水溶液を使用すると、ハロゲン化アンモニウムの水溶液を用いた場合に起こる副反応を抑制することができ、安定的に、高収率で目的とする上記式(6)で表されるピリリウム化合物を得ることができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき、さらに研究を重ねて完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、記式(1)
【化1】

(式中、R1、R2は同一又は異なって、非金属原子含有基を示し、Xはカルコゲン原子を示す)
で表される1又は2以上の化合物と、下記式(2)
3CH2−MgY (2)
(式中、R3は非金属原子含有基を示し、Yはハロゲン原子を示す)
で表される化合物とを反応させて、下記式(3)
【化2】

(式中、R1、R2、R3、X、Yは前記に同じ)
で表される化合物を得、得られた式(3)で表される化合物を、下記式(4)
HY’On (4)
(Y’はハロゲン原子を示し、nは0以上の整数を示す)
で表されるハロゲン化水素若しくはハロゲン元素のオキソ酸の水溶液でクエンチし、その後、下記式(5a)又は(5b)
【化3】

で表される化合物と反応させて、下記式(6)
【化4】

[式中、Zは下記式(7a)又は(7b)
【化5】

で表される基を示す。R1、R2、R3、Xは前記に同じ。式(6)中の2つのR1、R2、R3、Xはそれぞれ同一であっても、異なっていてもよい]
で表されるピリリウム化合物を製造するピリリウム化合物の製造方法を提供する。
【0010】
ハロゲン化水素若しくはハロゲン元素のオキソ酸の水溶液でクエンチした後の反応液のpHが6以下であることが好ましく、ハロゲン化水素若しくはハロゲン元素のオキソ酸の水溶液でクエンチした後、続いて弱アルカリ性水溶液で中和することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のピリリウム化合物の製造方法によれば、発光色素、染料、写真用材料等として有用なピリリウム化合物を、簡便に、且つ、高収率に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係るピリリウム化合物の製造方法は、式(1)で表される1又は2以上の化合物と、式(2)で表される化合物とを反応させて、式(3)で表される化合物を得、得られた式(3)で表される化合物をハロゲン化水素若しくはハロゲン元素のオキソ酸の水溶液を使用してクエンチし、その後、式(5a)又は(5b)で表される化合物と反応させて、式(6)で表されるピリリウム化合物を製造することを特徴とする。
【0013】
式(1)で表される化合物において、R1、R2は非金属原子含有基を示す。非金属原子含有基としては、本反応を阻害しないような置換基(例えば、本発明に係る反応条件下で非反応性の置換基)であればよく、例えば、水素原子、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭化水素基、複素環式基、置換オキシカルボニル基(アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、シクロアルキルオキシカルボニル基など)、カルボキシル基、置換又は無置換カルバモイル基、シアノ基、ニトロ基、硫黄酸基、硫黄酸エステル基、アシル基(アセチル基等の脂肪族アシル基;ベンゾイル基等の芳香族アシル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等のC1-6アルコキシ基など)、N,N−ジ置換アミノ基(N,N−ジメチルアミノ基、ピペリジノ基など)など、及びこれらが2以上結合した基などが挙げられる。前記カルボキシル基などは有機合成の分野で公知乃至慣用の保護基で保護されていてもよい。これらは、さらに置換基を有していてもよく、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、複素環基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールオキシ基、アリールチオ基、シアノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。本発明においては、これらの非金属原子含有基のなかでも、炭化水素基、複素環式基などが好ましい。また、Xはカルコゲン原子を示し、具体的には、酸素、硫黄、セレン、テルル原子の何れかを示す。
【0014】
前記炭化水素基及び複素環式基には、置換基を有する炭化水素基及び複素環式基も含まれる。前記炭化水素基には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基及びこれらの結合した基が含まれる。脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、デシル、ドデシル基などの炭素数1〜18(好ましくは1〜12、さらに好ましくは1〜6)程度のアルキル基;ビニル、アリル、1−ブテニル基などの炭素数2〜18(好ましくは2〜12、さらに好ましくは2〜6)程度のアルケニル基;エチニル、プロピニル基などの炭素数2〜18(好ましくは2〜12、さらに好ましくは2〜6)程度のアルキニル基などが挙げられる。
【0015】
脂環式炭化水素基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチル基などの3〜15員(好ましくは3〜8員、さらに好ましくは5〜6員)程度のシクロアルキル基;シクロペンテニル、シクロへキセニル基などの3〜15員(好ましくは3〜8員、さらに好ましくは5〜6員)程度のシクロアルケニル基;パーヒドロナフタレン−1−イル基、ノルボルニル、アダマンチル、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン−3−イル基などの橋かけ環式炭化水素基などが挙げられる。芳香族炭化水素基としては、フェニル、ナフチル基などの炭素数6〜20(好ましくは6〜10)程度の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0016】
脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが結合した炭化水素基には、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、2−シクロヘキシルエチル基などのシクロアルキル−アルキル基(例えば、C3-20シクロアルキル−C1-4アルキル基など)などが含まれる。また、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが結合した炭化水素基には、アラルキル基(例えば、C7-18アラルキル基など)、アルキル置換アリール基(例えば、1〜4個程度のC1-4アルキル基が置換したフェニル基又はナフチル基など)などが含まれる。
【0017】
好ましい炭化水素基には、C1-10アルキル基、C2-10アルケニル基、C2-10アルキニル基、C3-15シクロアルキル基、C6-10芳香族炭化水素基、C3-15シクロアルキル−C1-4アルキル基、C7-14アラルキル基等が挙げられる。
【0018】
上記炭化水素基は、種々の置換基、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、オキソ基、ヒドロキシル基、置換オキシ基(例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基など)、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基(アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基など)、置換又は無置換カルバモイル基、シアノ基、ニトロ基、置換又は無置換アミノ基、スルホ基、複素環式基などを有していてもよい。前記ヒドロキシル基やカルボキシル基は有機合成の分野で慣用の保護基で保護されていてもよい。また、脂環式炭化水素基や芳香族炭化水素基の環には芳香族性又は非芳香属性の複素環が縮合していてもよい。
【0019】
前記R1、R2における複素環式基を構成する複素環には、芳香族性複素環及び非芳香族性複素環が含まれる。このような複素環としては、例えば、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、オキシラン環などの3員環、オキセタン環などの4員環、フラン、テトラヒドロフラン、オキサゾール、イソオキサゾール、γ−ブチロラクトン環などの5員環、4−オキソ−4H−ピラン、テトラヒドロピラン、モルホリン環などの6員環、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、4−オキソ−4H−クロメン、クロマン、イソクロマン環などの縮合環、3−オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン−2−オン環、3−オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン−2−オン環などの橋かけ環)、ヘテロ原子としてイオウ原子を含む複素環(例えば、チオフェン、チアゾール、イソチアゾール、チアジアゾール環などの5員環、4−オキソ−4H−チオピラン環などの6員環、ベンゾチオフェン環などの縮合環など)、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロール、ピロリジン、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール環などの5員環、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペリジン、ピペラジン環などの6員環、インドール、インドリン、キノリン、アクリジン、ナフチリジン、キナゾリン、プリン環などの縮合環など)などが挙げられる。上記複素環式基には、前記炭化水素基が有していてもよい置換基のほか、アルキル基(例えば、メチル、エチル基などのC1-4アルキル基など)、シクロアルキル基、アリール基(例えば、フェニル、ナフチル基など)などの置換基を有していてもよい。
【0020】
式(2)で表される化合物におけるR3は、非金属原子含有基を示し、上記R1、R2において挙げられる例と同様の例を挙げることができる。R3は、R1、R2と同一であってもよく、異なっていてもよい。本発明におけるR3としては、水素原子、メチル、エチル基等の炭化水素基などが好ましい。Yは、ハロゲン原子を示し、例えば、フッ素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)、ヨウ素原子(I)を挙げることができる。
【0021】
式(3)で表される化合物におけるR1、R2、R3、X、Yとしては、上記例に挙げられたものと同様の例を挙げることができる。
【0022】
式(6)で表される化合物におけるR1、R2、R3としては、上記R1、R2、R3と同様の置換基の例を挙げることができる。Xも上記Xと同様にカルコゲン原子を示し、具体的には、酸素、硫黄、セレン、テルル原子の何れかを示す。Zは、式(7a)又は(7b)で表される基を示す。式(7a)又は(7b)中のR3は、上記R3と同様の置換基の例を挙げることができる。また、式(6)中の2組のR1、R2、R3、Xは、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0023】
以下、本発明に係るピリリウム化合物の製造方法について、X=O(酸素原子)の場合を例にとって説明する。なお、他のカルコゲン原子(具体的には、硫黄、セレン、テルル原子)についても、X=Oの場合と同様である。
【0024】
【化6】

【0025】
上記反応工程において、式(1’)で表される化合物を式(2):R3CH2−MgYで表されるグリニヤール試薬で処理されることにより、式(3’)で表される化合物が得られる。続いて、ハロゲン化水素若しくはハロゲン元素のオキソ酸の水溶液でクエンチすることにより、式(8)で表される化合物が得られる。得られた式(8)で表される化合物は、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒を使用して抽出することにより回収される。なお、式(1’)、(3’)、(6’)、(8)、(9)中のR1、R2、R3は上記に同じ。
【0026】
前記式(2):R3CH2−MgYで表されるグリニヤール試薬は、マグネシウムとハロゲン原子含有化合物とを反応させて合成される。グリニヤール試薬の置換基R3は、式(3’)で表される化合物の置換基R3に対応する。本発明における式(2):R3CH2−MgYで表されるグリニヤール試薬としては、例えば、メチルマグネシウムブロマイド、メチルマグネシウムヨージド、メチルマグネシウムクロライド等が挙げられる。これらのグリニヤール試薬は、反応容器内もしくは、別の容器内で生成させたものをそのまま用いてもよいし、市販品を使用してもよい。グリニヤール試薬の使用量としては、式(1’)で表される化合物1モルに対して、例えば、1〜5モル、好ましくは1〜4モル、特に好ましくは1〜3モル程度である。
【0027】
ハロゲン化水素若しくはハロゲン元素のオキソ酸の水溶液に含有するハロゲン化水素若しくはハロゲン元素のオキソ酸は、上記式(4):HY’Onで表され、Y’は、ハロゲン原子を示し、例えば、フッ素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)、ヨウ素原子(I)を挙げることができる。ハロゲン化水素若しくはハロゲン元素のオキソ酸としては、例えば、HCl、HBr、HF、HI等のハロゲン化水素;HClO4、HBrO4、HClO3、HClO2、HClO等のハロゲン元素のオキソ酸などを挙げることができる。本発明においては、なかでも、n=0である(つまり、HY’で表される)ハロゲン化水素酸、例えば、HCl、HBr(特に、HCl)を、取り扱いが容易であり、溶解性に優れる点で好適に使用することができる。
【0028】
ハロゲン化水素若しくはハロゲン元素のオキソ酸の水溶液の使用量としては、式(2)で表されるグリニヤール試薬1モルに対し、ハロゲン化水素若しくはハロゲン元素のオキソ酸として、例えば、1〜3モル程度、好ましくは、1〜1.5モル程度である。ハロゲン化水素若しくはハロゲン元素のオキソ酸の水溶液の使用量が少ないと、クエンチ後、得られた式(8)で表される化合物を抽出する際に、分離界面に中間層が発生し、分液性が低下する結果、式(8)で表される化合物の回収率が低下する傾向がある。
【0029】
一方、ハロゲン化水素若しくはハロゲン元素のオキソ酸の水溶液の代わりにハロゲン化アンモニウム(NH4Y’:Y’はハロゲン原子を示す)水溶液を使用してクエンチすると、上記反応工程における点線で示された副反応を引き起こすことにより、式(9)で表される副生成物が生成する。それにより目的とする式(6’)で表されるピリリウム化合物の収率が低下する。本発明においては、ハロゲン化水素若しくはハロゲン元素のオキソ酸の水溶液でクエンチするため、式(9)で表される副生成物が生成することがなく、目的とする式(6’)で表されるピリリウム化合物を優れた収率で得ることができる。
【0030】
上記式(1’)で表される化合物とグリニヤール試薬との反応は、溶媒中で行われる。溶媒としては水分を含まないエーテル系の溶媒を用いることが好ましい。エーテル系の溶媒としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等が好ましく用いられ、なかでも、テトラヒドロフランが特に好ましく用いられる。反応は、式(1’)で表される化合物を上記溶媒に溶解した中に、グリニヤール試薬を同溶媒に溶解して得られる溶液を滴下することにより反応させることが好ましい。
【0031】
反応温度は、反応成分や触媒の種類などに応じて適宜選択でき、例えば、−20℃〜50℃、好ましくは−10℃〜30℃程度である。反応は常圧下で行ってもよく、減圧下又は加圧下で行ってもよい。また、反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などの何れの方法で行うこともできる。
【0032】
反応は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、例えば、窒素雰囲気、又は、アルゴン雰囲気で行うことが好ましい。
【0033】
ハロゲン化水素若しくはハロゲン元素のオキソ酸の水溶液でクエンチした後の反応液のpHとしては、6以下であることが好ましく、特に、4以下であることが好ましい。ハロゲン化水素若しくはハロゲン元素のオキソ酸の水溶液でクエンチした後の反応液のpHが6を上回ると、クエンチ後、得られた式(8)で表される化合物を抽出する際に、分離界面に中間層が発生し、分液性が低下する傾向がある。
【0034】
ハロゲン化水素若しくはハロゲン元素のオキソ酸の水溶液でクエンチした後、続いて弱アルカリ性水溶液(例えば、炭酸水素ナトリウム溶液、炭酸ナトリウム溶液、炭酸カリウム溶液等を挙げることができる)で中和することが好ましい。
【0035】
続いて、得られた式(8)で表される化合物に、式(5a)で表されるスクアリン酸、或いは、式(5b)で表されるクロコン酸を反応させることにより、対応する式(6’)で表されるピリリウム化合物を得ることができる。ここで、式(8)で表される化合物に、式(5a)で表されるスクアリン酸、或いは、式(5b)で表されるクロコン酸を反応させる際、式(5a)で表されるスクアリン酸、或いは、式(5b)で表されるクロコン酸を含む溶液中に、式(8)で表される化合物を含む溶液を一括添加して反応させてもよく、逐次添加して反応させてもよい。なお、逐次添加とは、連続的に添加、又は、間欠的に添加することを意味し、一括添加ではないという意味である。本発明においては、式(5a)で表されるスクアリン酸、或いは、式(5b)で表されるクロコン酸を含む溶液中に、式(8)で表される化合物を含む溶液を逐次添加して反応させることが、収率をより向上させることができる点で好ましい。
【0036】
また、式(6’)で表されるピリリウム化合物について、2組のR1、R2、R3がそれぞれ異なるピリリウム化合物を所望する場合は、2種以上の式(8)で表される化合物を混合して含む溶液を、式(5a)で表されるスクアリン酸、或いは、式(5b)で表されるクロコン酸を含む溶液中に逐次添加して反応させることにより製造することができる。
【0037】
上記式(8)で表される化合物を含む溶液としては、通常、式(8)で表される化合物を溶媒に溶解した溶液を用いる。溶媒としては、式(8)で表される化合物を溶解し、反応に対して不活性な溶媒であればよく、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール等の1級アルコール等を使用することができる。また、必要に応じて、アルコールに他の溶媒を混合して用いてもよい。混合する溶媒としては、系内の反応、及び、アルコールに対して不活性でアルコールと混合できるものであれば特に制限はないが、なかでも、トルエンやキシレン或いはエーテル系の溶媒が好ましい。混合比は、特に制限はないが、好ましくは、アルコールに対して、体積比で0.1〜2.0倍、さらに好ましくは、0.2〜1.5倍程度である。また、溶媒として、式(8)で表される化合物を合成する際に使用した溶媒を用いてもよく、さらに当該溶媒と他の溶媒とを混合して用いてもよい。式(8)で表される化合物を上記溶媒で溶解した溶液中の式(8)で表される化合物の濃度としては、例えば、0.1〜95重量%、好ましくは1〜70重量%、さらに好ましくは、1〜60重量%程度である。
【0038】
上記式(5a)で表されるスクアリン酸、或いは、式(5b)で表されるクロコン酸を含む溶液としては、通常、式(5a)で表されるスクアリン酸、或いは、式(5b)で表されるクロコン酸を溶媒に溶解した溶液を用いる。溶媒としては、式(5a)で表されるスクアリン酸、或いは、式(5b)で表されるクロコン酸を溶解し、反応に対して不活性な溶媒であればよく、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール等の1級アルコール等を好適に使用することができる。また、必要に応じて、前記アルコールに他の溶媒を混合して用いてもよい。混合する溶媒としては、系内の反応、及び、前記アルコールに対して不活性で前記アルコールと混合できるものであれば特に制限はないが、好ましくは、トルエンかキシレンである。混合比は、特に制限はないが、好ましくは、前記アルコールに対して、体積比で0.1〜2.0倍、さらに好ましくは、0.2〜1.5倍程度である。
【0039】
本発明におけるスクアリン酸溶液、或いは、クロコン酸溶液における式(5a)で表されるスクアリン酸、或いは、式(5b)で表されるクロコン酸の濃度としては、例えば、0.1〜50重量%、好ましくは0.1〜30重量%、さらに好ましくは、0.1〜10重量%程度である。
【0040】
本発明における反応温度は、反応成分や触媒の種類などに応じて適宜選択でき、例えば、30〜200℃、好ましくは30〜150℃、さらに好ましくは30〜100℃程度である。反応は常圧下で行ってもよく、減圧下又は加圧下で行ってもよい。反応の雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの何れであってもよいが、なかでも、窒素雰囲気、又は、アルゴン雰囲気等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。また、反応により発生する水を溶媒と共に留去しながら反応を行ってもよい。
【0041】
反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製することができる。
【0042】
本発明に係るピリリウム化合物の製造方法によれば、グリニヤール試薬を反応させた後、スクアリン酸又はクロコン酸を反応させる前に、ハロゲン化水素若しくはハロゲン元素のオキソ酸の水溶液でクエンチするため、副反応を引き起こすことなく、中間体である式(8)で表される化合物を安定した状態で保持することができる。そのため、反応時間や滞留時間が延長しても、また、中間体を製造した段階で放置しても副生成物が生成することがほとんどない。すなわち、本発明に係る製造方法によれば、処理時間に左右されることがなく安定的に、優れた収率で目的化合物を得ることができる。
【0043】
以下に、本発明の製造方法により合成することができる化合物の例を示すが、本発明はこれらの化合物の合成に限定されるものではない。
【0044】
【化7】

【実施例】
【0045】
以下に、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、以下、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を示す。
【0046】
実施例1
窒素気流下、滴下ロートを備えた300mlの三つ口反応器に、中間体Aを54.2ミリモル(20.0g)と、テトラヒドロフランを112g仕込み、氷冷浴にて0℃程度まで冷却した。冷却後、0〜5℃の範囲内で滴下ロートよりメチルマグネシウムクロライド(H3C−MgCl)の12.6%テトラヒドロフラン(THF)溶液135.4ミリモル(80.4g)を2時間かけて滴下し、滴下後1.5時間撹拌して、テトラヒドロフラン溶液1を得た。
窒素気流下、滴下ロートを備えた1Lの反応容器に、35%HClを135.2ミリモル(14.1g)と水54.2gを仕込み、氷冷浴にて0℃程度まで冷却した。冷却後、0〜5℃の範囲内で滴下ロートより得られたテトラヒドロフラン溶液1を1.5時間かけて滴下して中間体Bを得、さらに、ジイソプロピルエーテル(IPE)200gを加え抽出した。
分離したジイソプロピルエーテル層を、2.3%炭酸水素ナトリウム溶液100gで中和洗浄した後、水40gで水洗した。得られたジイソプロピルエーテル層を濃縮し、1−プロパノール(IPA)40gを加え、1−プロパノール混合液1を得、窒素中で保存した。
得られた1−プロパノール混合液1に1−プロパノール60gを添加、混合し、1−プロパノール混合液1’を得た。
窒素気流下、冷却管と滴下ロートを備えた500mlの三つ口反応器に、スクアリン酸27.1ミリモル(3.09g)と1−プロパノール200gとを仕込み、75℃まで昇温した。昇温後、1−プロパノール混合液1’を滴下ロートより3.5時間かけて滴下した。滴下後2時間熟成し、その後0℃まで冷却し0.5時間撹拌した。得られた反応液を濾過し、メタノールで洗浄して、ピリリウム化合物1を17.9g得た。スクアリン酸を基準とした収率は81%であった。
【0047】
【化8】

【0048】
実施例2
実施例1と同様にしてテトラヒドロフラン溶液1を得た。
窒素気流下、滴下ロートを備えた1Lの反応容器に、35%HClを135.2ミリモル(14.1g)と水54.2gを仕込み、氷冷浴にて0℃程度まで冷却した。冷却後、0〜5℃の範囲内で滴下ロートより得られたテトラヒドロフラン溶液1を4時間かけて滴下して中間体Bを得、さらに、ジイソプロピルエーテル(IPE)200gを加え抽出した。
分離したジイソプロピルエーテル層を窒素中で12時間保存し、その後、2.3%炭酸水素ナトリウム溶液100gで中和洗浄した後、水40gで水洗した。得られたジイソプロピルエーテル層を濃縮し、1−プロパノール(IPA)40gを加え、1−プロパノール混合液2を得、窒素中で12時間保存した。
得られた1−プロパノール混合液2に1−プロパノール60gを添加、混合し、1−プロパノール混合液2’を得た。
窒素気流下、冷却管と滴下ロートを備えた500mlの三つ口反応器に、スクアリン酸27.1ミリモル(3.09g)と1−プロパノール200gとを仕込み、75℃まで昇温した。昇温後、1−プロパノール混合液2’を滴下ロートより3.5時間かけて滴下した。滴下後2時間熟成し、その後0℃まで冷却し0.5時間撹拌した。得られた反応液を濾過し、メタノールで洗浄して、ピリリウム化合物1を17.2g得た。スクアリン酸を基準とした収率は78%であった。
【0049】
比較例1
35%HClを135.2ミリモル(14.1g)と水54.2gに代えてNH4Clを244.9ミリモル(13.1g)と水106.9gを使用した以外は実施例2と同様にしてピリリウム化合物1を9.9g得た。スクアリン酸を基準とした収率は45%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、R1、R2は同一又は異なって、非金属原子含有基を示し、Xはカルコゲン原子を示す)
で表される1又は2以上の化合物と、下記式(2)
3CH2−MgY (2)
(式中、R3は非金属原子含有基を示し、Yはハロゲン原子を示す)
で表される化合物とを反応させて、下記式(3)
【化2】

(式中、R1、R2、R3、X、Yは前記に同じ)
で表される化合物を得、得られた式(3)で表される化合物を、下記式(4)
HY’On (4)
(Y’はハロゲン原子を示し、nは0以上の整数を示す)
で表されるハロゲン化水素若しくはハロゲン元素のオキソ酸の水溶液でクエンチし、その後、下記式(5a)又は(5b)
【化3】

で表される化合物と反応させて、下記式(6)
【化4】

[式中、Zは下記式(7a)又は(7b)
【化5】

で表される基を示す。R1、R2、R3、Xは前記に同じ。式(6)中の2つのR1、R2、R3、Xはそれぞれ同一であっても、異なっていてもよい]
で表されるピリリウム化合物を製造するピリリウム化合物の製造方法。
【請求項2】
ハロゲン化水素若しくはハロゲン元素のオキソ酸の水溶液でクエンチした後の反応液のpHが6以下である請求項1に記載のピリリウム化合物の製造方法。
【請求項3】
ハロゲン化水素若しくはハロゲン元素のオキソ酸の水溶液でクエンチした後、続いて弱アルカリ性水溶液で中和する請求項1又は2に記載のピリリウム化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−31121(P2010−31121A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193851(P2008−193851)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】