説明

ピンテンター装置

【課題】ウエブの縦方向に応力が作用しないピンテンター装置を提供する。
【解決手段】ピンテンター装置の左右一対のテンターチェーンの内側に左右一対の上オーバーフィード部28,28と、下オーバーフィード部30,30を設け、上オーバーフィード部28は、上移動チェーンに等間隔に上突起部38が設けられ、下オーバーフィード部30は、下移動チェーン42に等間隔毎に下突起部48が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエブを走行させるピンテンター装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、液晶表示装置、有機EL表示装置等の平面表示装置に用いられる光学フィルム(例えば、位相差フィルム、偏向板フィルム、拡散フィルム等のフィルム)を加熱処理する場合に、ピンテンター装置によって熱処理室内部を走行させ、加熱処理を行なっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−48889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、加熱処理すると縦方向(走行方向)に収縮するフィルムをピンテンター装置で搬送した場合には、ピン同士の間隔が一定であるため、フィルムに対し縦方向(走行方向)に引っ張り応力が作用する。フィルムに応力が作用すると、その分子配列が変化し、好ましくない偏向特性等の光学特性が付与されるという問題点がある。
【0005】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、フィルム等のウエブをピンテンター装置によって走行させる場合に、縦方向に応力が作用しないピンテンター装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は、ウエブの搬送路の両側にそれぞれ配された左右一対の無端状のテンターチェーンと、前記左右一対のテンターチェーンに所定間隔毎にそれぞれ設けられた左右一対のピン支持台と、前記各ピン支持台に植設され、前記ウエブを前記ピン支持台に固定する複数のピンと、前記左右一対のピン支持台の内側に配されたオーバーフィード部と、を有し、前記オーバーフィード部は、前記ウエブの上面において走行方向に沿って移動する上移動部と、前記上移動部から所定間隔毎に下方へ突出し、前記ウエブを下方に押圧して前記ウエブをオーバーフィードさせる上突起部と、前記ウエブの下面において前記走行方向に沿って移動する下移動部と、前記下移動部から所定間隔毎であって、前記上突起部とは千鳥状に突出し、前記ウエブを上方に押圧して前記ウエブをオーバーフィードさせる下突起部と、を有することを特徴とするピンテンター装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ウエブを縦方向(走行方向)にオーバーフィードさせることにより、ウエブの縦方向に応力がかかることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態を示すピンテンター装置の平面図である。
【図2】上オーバーフィード部と下オーバーフィード部の側面図である。
【図3】上オーバーフィード部と下オーバーフィード部の中央部分の拡大図である。
【図4】上オーバーフィード部と下オーバーフィード部の後部における拡大図である。
【図5】ピンテンター装置の一部拡大縦断面図であって、正面から見た図である。
【図6】ウエブWのオーバーフィード状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態のピンテンター装置10について図1〜図6に基づいて説明する。
【0010】
本実施形態のピンテンター装置10は、熱処理室12内部において、ウエブWを水平に広げた状態で水平な状態で前後方向に走行させる装置である。ウエブWとしては、例えばフィルムであって、位相差フィルム、偏向板フィルム、拡散フィルム等の光学フィルムであり、特に縦方向(走行方向)に熱収縮するフィルムを例に挙げて説明する。なお、ガラス板のように硬質なフィルムであると、より好適である。
【0011】
(1)ピンテンター装置10の構成
ピンテンター装置10の構成について図1と図5に基づいて説明する。
【0012】
ピンテンター装置10は、図1に示すように、左右一対の無端のテンターチェーン14が、前後方向(ウエブWの走行方向)に沿って配されている。これらテンターチェーン14は、前テンターホイール16と後テンターホイール18とに掛け渡されており、前テンターホイール16を不図示のモータによって駆動することにより、テンターチェーン14が一定の走行速度で水平方向に移動する。走行速度としては、5〜35m/分である。
【0013】
各テンターチェーン14には、等間隔毎に移動部20が取り付けられている。これら移動部20の外端部にはピン支持台22が取り付けられ、このピン支持台22から4本のピン24が走行方向に沿って垂直に植設されている。また、移動部20は、図5に示すように、テンターレール26の上を移動する。
【0014】
ピンテンター装置10の入口区間であって、ウエブWの搬送路、すなわち左右一対のテンターチェーン14,14の間には、オーバーフィード部27が設けられている。このオーバーフィード部27は、左右一対の上オーバーフィード部(以下、「上フィード部」という)28,28と、左右一対の下オーバーフィード部(以下、「下フィード部」という)30,30から構成されている。
【0015】
このピンテンター装置10は、ウエブWを熱処理するために、上記したように熱処理室12の入口から出口側に向かって取り付けられている。ウエブWの幅を例えば、2200mmとすると、上フィード部28、下フィード部30が位置する位置は、両耳部の両端から内側に約30〜50mmの位置である。
【0016】
(2)上フィード部28と下フィード部30の構造
次に、上フィード部28と下フィード部30の構造について図2〜図4に基づいて説明する。
【0017】
まず、上フィード部28について説明する。上フィード部28は、ウエブWの上方において左右一対設けられた上移動部である無端の上移動チェーン32,32を有している。上移動チェーン32は、それぞれ移動ホイール34,36に掛け渡され、上移動ホイール36が不図示のモータによって駆動することにより、上移動チェーン32の下側のチェーン33がウエブWの走行方向に沿って移動する。上移動チェーン32には、等間隔毎に上突起部38が外方に突出している。また、上移動チェーン32の下側のチェーン33の上方には、水平に移動する下側のチェーン33を支持するための上支持板40が設けられている(図5参照)。
【0018】
次に、下フィード部30について説明する。下フィード部30は、ウエブWの下方において左右一対の下移動チェーン42,42を有している。左右一対の下移動チェーン42,42の位置は、上移動チェーン32,32と相対向する位置に設けられている。無端の下移動チェーン42は、下移動ホイール44,46に掛け渡され、下移動ホイール46が不図示のモータによって駆動することにより、下移動チェーン42の上側のチェーン43が、ウエブWの走行方向に沿って移動する。下移動チェーン42には、等間隔毎に下突起部48が外方に突出している。図3に示すように、下突起部48と上突起部38とは、千鳥状に位置するように突出し、走行方向において所定間隔あけて配され、互いに接触せず、また、下突起部48は、隣接する上突起部38の間の中央に位置している。下移動チェーン42の移動する上側のチェーン43を水平に支持するために、下支持板50が設けられている(図5参照)。下支持板50は、上下動部52によって、上下動自在となっている。
【0019】
上突起部38と下突起部48の先端部は、ウエブWを傷つけないように押圧するため、断面形状が半円弧状に形成されている。
【0020】
また、上フィード部28の後部には、ウエブWをピン24に押さえて植毛するための押えローラ54が左右一対設けられている。押えローラ54は、中心の芯部56からブラシ58が設けられ、ブラシ58によってウエブWが押さえられピン24に固定される。
【0021】
さらに、ウエブWの走行速度と上移動チェーン32と下移動チェーン42の移動速度とは、それぞれ同じ速度で移動するように同期させておく。
【0022】
(3)オーバーフィードの説明
次に、ウエブWをオーバーフィードさせながらピン24に固定する構成について図3及び図4に基づいて説明する。
【0023】
オーバーフィードを行なわせるために、左右一対のテンターチェーン14,14に張設されたウエブWのテンションよりも低いテンションで、ウエブWをピンテンター装置10に供給する。これによって、ピン24に固定されるまでウエブWは弛んだ状態で供給されるため、図3に示すような正弦波状にしてもウエブWが引っ張られることがない。このオーバーフィード量Sとしては、0%以上であり、約5%までである。
【0024】
図2に示すように、上移動チェーン32の入口側における下側のチェーン33は水平状態からやや傾斜しており、入口側から出口側に行くほど下方に傾斜している。また、出口側においては、チェーン33は、逆に入口側から出口側に行くほど上方に傾斜している。
【0025】
下移動チェーン42の入口側における上側のチェーン43は、水平状態からやや傾斜しており、入口側から出口側に向かうほど上方に傾斜している。また、出口側においては、チェーン43は、入口側から出口側に行くほど下方に傾斜している。上移動チェーン32の下側のチェーン33の中央部分と、下移動チェーン42の上側のチェーン43の中央部分とは、上支持板40と下支持板50によってそれぞれ平行で、かつ、水平に配されている。
【0026】
ウエブWがピン24に固定されていない状態で前後方向に供給されてくると、上移動チェーン32と下移動チェーン42の間を通り、傾斜した上移動チェーン32の下側のチェーン33と下移動チェーン42の上側のチェーン43が次第に接近してくる。
【0027】
そして、上移動チェーン32の下側のチェーン33から下方に突出した上突起部38によってウエブWは下方に押圧さ、下移動チェーン42の上側のチェーン43から上方に向かって突出した下突起部48によって上方に押される。そのため、図3に示すように、ウエブWは最初ほぼ平行に走行していたものが、この上突起部38と下突起部48によって上下に交互に押されることにより、次第に正弦波状になる。そしてこの正弦波の振幅がウエブWのオーバーフィード量に対応する。
【0028】
その後、上移動チェーン32の下側のチェーン33と、下移動チェーン42の上側のチェーン43とは、平行で水平な状態となるため、この平行な区間でオーバーフィード量Sがほぼ一定となる。このように正弦波状にオーバーフィードしたウエブWが、上フィード部28と下フィード部30より外側にある左右一対のピン支持台22の4本のピン24に順番に固定され、最後に押えローラ54によって完全に固定される。
【0029】
その後、オーバーフィードを行なった上突起部38と下突起部48は、次第に離れていき、オーバーフィードを終了する。一方、オーバーフィードされたウエブWが固定されたピン24は、熱処理室12内部に侵入し加熱されてウエブWの縦方向(走行方向)に収縮する。この場合に、ウエブWはオーバーフィードしているため、このオーバーフィード量Sの分だけ応力がかかることなく収縮する。
【0030】
次に、図6に基づいて、上突起部38と下突起部48とピン支持台22の位置関係について説明する。図6は、ウエブWのオーバーフィード状態を示す模式図である。
【0031】
ウエブWをピン支持台22のピン24に固定する場合に、正弦波における山部分がピン支持台22の中央にある2本のピン24,24の位置の間に相当するように配し、正弦波における谷部分が隣接するピン支持台22,22の隙間の部分に配する。そして、ピン支持台22は、隙間mを開けて配されている。
【0032】
正弦波状にオーバーフィードされるウエブWの周期Tは、等間隔に配された上突起部38,38の間の距離、及び、下突起部48,48の間の距離と同一である。また、隣接する上突起部38,38の中央部に下突起部48が位置している。これにより、図6に示すように、オーバーフィードされるウエブWは正弦波状に形成される。
【0033】
ピン支持台22は、隣接する上突起部38,38の間に位置し、これにより、正弦波状の谷部分が、ピン支持台22の側端部の間に固定できる。
【0034】
このように、正弦波状のウエブWにオーバーフィードさせることにより、ウエブWが縦方向に収縮する場合に、均等に収縮することができる。そのため、ウエブWの光学特性が悪くなることがない。
【0035】
(4)オーバーフィード量Sの調整
次に、オーバーフィード量Sの調整方法について説明する。
【0036】
オーバーフィード量Sは、正弦波状のウエブWの振幅によって決定される。すなわち、上移動チェーン32の下側のチェーン33と、下移動チェーン42の上側のチェーン43との間隔Lによって決定される。そのため、オーバーフィード量Sを調整する場合には、下移動チェーン42の上側のチェーン43を水平に支持している下支持板50を、水平状態を維持しつつ垂直に上下動させることによって間隙Lを調整する。例えば、下支持板50を下方に移動させて、間隔Lを大きくすればオーバーフィード量Sが大きくなり、逆に狭くすればオーバーフィード量が小さくなる。
【0037】
(5)変更例
次に上記実施形態のピンテンター装置10の変更例について説明する。
【0038】
上記実施形態では、ウエブWとしてフィルムで説明したが、これに代えて布帛、金属箔等でもよい。
【0039】
上記実施形態では正弦波状のウエブWの山部分がピン支持台22の中央に位置し、谷部分は隣接するピン支持台22の隙間mに位置させていたが、逆にピン支持台22の中央部分に谷部分を配し、隙間mの部分に山部分を配してもよい。
【0040】
また、上記実施形態のピンテンター装置10では、左右一対のテンターチェーン14が平行であったが、これに代えて、出口側ほど左右一対のテンターチェーン14が広がるように配してもよい。これによって、ウエブWを横方向に延伸させることもできる。
【0041】
また、上フィード部28の後部に押えローラ54を配したが、これに限らず押えローラ54の後にも上フィード部28及び下フィード部30を設けてもよい。
【0042】
上記では本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の主旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
10・・・ピンテンター装置、12・・・熱処理室、14・・・テンターチェーン、22・・・ピン支持台、24・・・ピン、28・・・上オーバーフィード部、30・・・下オーバーフィード部、32・・・上移動チェーン、38・・・上突起部、40・・・上支持板、42・・・下移動チェーン、48・・・下突起部、50・・・下支持板、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエブの搬送路の両側にそれぞれ配された左右一対の無端状のテンターチェーンと、
前記左右一対のテンターチェーンに所定間隔毎にそれぞれ設けられた左右一対のピン支持台と、
前記各ピン支持台に植設され、前記ウエブを前記ピン支持台に固定する複数のピンと、
前記左右一対のピン支持台の内側に配されたオーバーフィード部と、
を有し、
前記オーバーフィード部は、
前記ウエブの上面において走行方向に沿って移動する上移動部と、
前記上移動部から所定間隔毎に下方へ突出し、前記ウエブを下方に押圧して前記ウエブをオーバーフィードさせる上突起部と、
前記ウエブの下面において前記走行方向に沿って移動する下移動部と、
前記下移動部から所定間隔毎であって、前記上突起部とは千鳥状に突出し、前記ウエブを上方に押圧して前記ウエブをオーバーフィードさせる下突起部と、
を有することを特徴とするピンテンター装置。
【請求項2】
前記オーバーフィード部は、前記ピンによって前記ウエブが固定されるまでの入口区間に設けられ、
前記上移動部と前記下移動部とが前記ウエブを挟んで相対向する位置に配され、
前記上突起部と前記下突起部によって正弦波状にオーバーフィードされた前記ウエブを前記ピンによって前記ピン支持台に固定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のピンテンター装置。
【請求項3】
前記ウエブが水平方向に走行され、
前記上移動部の入口側が、前記ウエブの入口側から出口側に向かうほど下方に傾斜している、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のピンテンター装置。
【請求項4】
前記ウエブが水平方向に走行され、
前記下移動部の出口側が、前記ウエブの入口側から出口側に向かうほど下方に傾斜している、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のピンテンター装置。
【請求項5】
前記オーバーフィード部は、
前記左右一対のピン支持台の内側に左右一対配されている、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のピンテンター装置。
【請求項6】
前記ピンに前記ウエブを押えるための押えローラを有する、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のピンテンター装置。
【請求項7】
前記ピンは、前記ピン支持台の前記走行方向において複数本植設されている、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のピンテンター装置。
【請求項8】
前記ウエブの走行速度、前記上移動部の移動速度、及び、前記下移動部の移動速度が同期している、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のピンテンター装置。
【請求項9】
前記上突起部、又は、前記下突起部を上下動させる上下動部を有し、
前記上下動部が、前記上突起部、又は、前記下突起部を上下動させて、前記上突起部と前記下突起部の間隔を大きくして前記ウエブのオーバーフィード量を大きくする、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載のピンテンター装置。
【請求項10】
前記左右一対のテンターチェーンの前記各ピンに前記ウエブが取り付けられたときのテンションより低いテンションで、前記ウエブは前記オーバーフィード部に供給される、
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載のピンテンター装置。
【請求項11】
前記上突起部は等間隔に前記上移動部に設けられ、
前記下突起部は等間隔に前記下移動部に設けられ、
前記上突起部と前記下突起部とは、走行方向において所定間隔あけて配されている、
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載のピンテンター装置。
【請求項12】
前記下突起部は、隣接する前記上突起部の間の中央に位置している、
ことを特徴とする請求項11に記載のピンテンター装置。
【請求項13】
前記ウエブは、走行方向に収縮するフィルムである、
ことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載のピンテンター装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−79133(P2013−79133A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220191(P2011−220191)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(390002015)ヒラノ技研工業株式会社 (18)
【Fターム(参考)】