説明

ピンニング工法用の注入ノズルおよびこれを用いたピンニング工法

【課題】モルタルおよび装飾材の間に生じた「浮き」にも十分に接着剤を注入することができるピンニング工法用の注入ノズルおよびこれを用いたピンニング工法を提供する。
【解決手段】注入器本体12に装着され、装飾材5およびモルタル4を貫通し且つコンクリート躯体2を所定の深さまで穿孔した挿填穴8に、その穴開口9を封止しながら接着剤Rを注入するするピンニング工法用の注入ノズル13であって、注入器本体12に装着され、内部に注入器本体12に連なる接着剤流路43を形成したノズルボディー17と、基端側をノズルボディー17に保持されたノズル筒18と、を備え、ノズル筒18は、先端部に開口すると共に接着剤流路43に連通する第1吐出口24を有し、ノズルボディー17は、穴開口9に臨むように先端部に開口し、接着剤流路43に連通する第2吐出口36を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、躯体とモルタルとの間およびモルタルと装飾材との間に生じた「浮き」に、十分に接着剤を注入することができるピンニング工法用の注入ノズルおよびこれを用いたピンニング工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の注入ノズルとして、モルタルおよびコンクリート躯体(躯体)からなる外壁の要補修箇所に穿孔した挿填穴に対して、樹脂(接着剤)を注入するものが知られている(特許文献1参照)。
この注入ノズルは、樹脂注入器本体に装着され、軸心に形成された樹脂流路を有するノズル本体(ノズルボディー)と、基端部がノズル本体に保持され、樹脂流路に連なると共に注入流路(第1注入流路)を形成した注入針(ノズル筒)と、を備えている。
この場合、ノズル本体の先端部は、注入ノズルを挿填穴に挿入し押圧することで、開口部に密接してこれを封止する。そして、樹脂は、この状態で樹脂注入器を操作(ポンピング)することにより、挿填穴の最深部から徐々に満たされ、コンクリート躯体とモルタルとの間の浮き部に行き渡る。さらに所定の回数ポンピングを行うことにより、樹脂の注入が完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−147971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような注入ノズルでは、挿填穴廻りにおいて、コンクリート躯体およびモルタルの間のみならず、モルタルおよび装飾材の間にも「浮き」が生じている場合、「浮き」の部分ではエアーが抜けるため、先にコンクリート躯体およびモルタルの間の「浮き」のにのみ樹脂が充填されてしまい、モルタルおよび装飾材の間の「浮き」に樹脂が達しないことがある。かかる場合には、注入ノズルを引き抜きながら、この部分に樹脂を注入せざるを得なかった。但し、注入ノズルを引き抜くと、開口部の封止が解かれてしまうため、モルタルおよび装飾材の間の「浮き」に、樹脂を十分に行き渡らせることができない問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、モルタルおよび装飾材の間に生じた「浮き」にも十分に接着剤を注入することができるピンニング工法用の注入ノズルおよびこれを用いたピンニング工法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のピンニング工法用の注入ノズルは、注入器本体に装着され、装飾材およびモルタルを貫通し且つ躯体を所定の深さまで穿孔した挿填穴に、その穴開口を封止しながら接着剤を注入するするピンニング工法用の注入ノズルであって、注入器本体に装着され、内部に注入器本体に連なる接着剤流路を形成したノズルボディーと、基端側をノズルボディーに保持されたノズル筒と、を備え、ノズル筒は、先端部に開口すると共に接着剤流路に連通する第1吐出口を有し、ノズルボディーは、穴開口に臨むように先端部に開口し、接着剤流路に連通する第2吐出口を有していることを特徴とする。
【0007】
また、ノズル筒には、接着剤流路と第1吐出口とを連通する第1注入流路が形成され、ノズルボディーには、接着剤流路と第2吐出口とを連通する第2注入流路が形成され、接着剤の注入初期において、第1注入流路を流れる接着剤の流動抵抗が、第2注入流路を流れる接着剤の流動抵抗に比して小さくなるように構成されていることが、好ましい。
【0008】
これらの構成によれば、ノズルボディーにより挿填穴の穴開口を封止しつつ挿填穴に接着剤を注入してゆくと、接着剤は、先ずノズル筒に形成した第1注入流路を介して第1吐出口から吐出し、挿填穴の最深部から徐々に満たされてゆく。やがて、接着剤は、躯体とモルタルとの間の浮き部に達し、浮き部に流入してゆく。また、これと相前後して、接着剤は、ノズルボディーに形成した第2注入流路を介して第2吐出口から吐出し、挿填穴の手前側から満たされてゆく。やがて、接着剤は、モルタルと装飾材との間の浮き部に行き渡る。したがって、挿填穴はもとより、躯体とモルタルとの間の浮き部およびモルタルと装飾材との間の浮き部に接着剤を注入することができる。
【0009】
この場合、ノズルボディーの先端部は、穴開口に挿入され、外周面で穴開口を封止すると共に、軸心部にノズル筒を保持するテーパ状のシール部を有し、第2吐出口は、シール部の穴開口に挿入される部分に開口していることが、好ましい。
【0010】
この場合、ノズルボディーの先端部を穴開口に挿入し封止した状態で、第2吐出口は、モルタルの表面より手前に位置するように配設されていることを特徴とする。
【0011】
これらの構成によれば、ノズルボディーの先端部を挿填穴に挿入することで穴開口を封止することができると共に、第2吐出口を穴開口の近傍に位置させることができ、モルタルと装飾材との間の浮き部に接着剤を確実に注入することができる。
【0012】
この場合、ノズルボディーの先端部は、穴開口が形成された装飾材の開口縁部に当接し、穴開口を封止する環状シール部と、周縁部で環状シール部を保持すると共に軸心部でノズル筒を保持する保持部と、を有し、第2吐出口は、環状シール部とノズル筒との間に位置して、保持部に開口していることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、ノズル筒を挿填穴に挿入し押圧すると、環状シール部が、装飾材の開口縁部に当接し、穴開口を封止する。これにより、第2吐出口から挿填穴に注入される接着剤を、穴開口の位置から注入することができ、装飾材の厚みに関係なく、接着剤をモルタルと装飾材との間の浮き部に確実に注入することができる。
【0014】
この場合、ノズル筒は、ノズルボディーに対して進退自在に保持されていることが、好ましい。
【0015】
この構成によれば、ノズル筒は、接着剤を注入することで、第1注入流路を流れる接着剤の粘性抵抗(流動抵抗)により、ノズルボディーに対し注入方向に前進し、挿填穴の最深部に突き当たる。したがって、挿填穴の深さが区々であっても、挿填穴の最深部から常に接着剤を注入することができる。これにより、挿填穴の最深部にエアー溜りができることはない。もっとも、ノズル筒は、予め最大に延ばしておき、挿填穴の最深部にノズル筒を突き当て(後退)、その後、接着剤を注入することもできる。
【0016】
本発明のピンニング工法は、上記したいずれかのピンニング工法用の注入ノズルと、注入ノズルが着脱自在に装着される注入器本体とから成る接着剤注入器を用い、躯体、モルタルおよび装飾材から成る壁体を補修するピンニング工法において、装飾材およびモルタルを貫通し、且つ躯体を所定の深さまで穿孔して挿填穴を形成する穿孔工程と、接着剤注入器により挿填穴の穴開口を封止しつつ挿填穴に接着剤を注入する接着剤注入工程と、接着剤が注入された挿填穴に、アンカーピンを挿填するピン挿填工程と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、壁体の要補修箇所に挿填穴を穿孔した後、接着剤注入器により挿填穴の最深部から接着剤を注入する。この後、接着剤が注入された挿填穴に、躯体、モルタルおよび装飾材に亘るようアンカーピンを最深部まで挿填する。そして、接着剤が硬化することにより、接着剤とアンカーピンを介して装飾材およびモルタルは、躯体に固定される。この場合、第1注入流路および第2注入流路を有する上記の注入ノズルを用いるため、接着剤が挿填穴の最深部側および穴開口側から注入されることになり、接着剤を躯体とモルタルとの間の浮き部およびモルタルと装飾材との間の浮き部に十分に行き渡らせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ピンニング工法用の注入ノズルを有する接着剤注入器を、外壁に形成した挿填穴に対して使用する断面模式図である。
【図2】接着剤注入器の平面図である。
【図3】第1実施形態に係る注入ノズルの断面図である。
【図4】第1実施形態の変形例に係る注入ノズルの断面図である。
【図5】本実施形態に係るピンニング工法の工程図(1)である。
【図6】本実施形態に係るピンニング工法の工程図(2)である。
【図7】第2実施形態に係る注入ノズルの断面図である。
【図8】第2実施形態の変形例に係る注入ノズルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付した図面を参照して、本発明の一実施形態に係るピンニング工法用の注入ノズル(以下、単に「注入ノズル」と言う。)、およびこれを用いたピンニング工法について説明する。このピンニング工法では、注入ノズルを装着した接着剤注入器を用い、「浮き」が生じた建物の外壁、吹き抜けやホール等の内壁の要補修箇所に穿孔した挿填穴に、注入ノズルを挿入して接着剤を注入し、その後、アンカーピンを挿填して、これを補修する。以下、建物の外壁を施工する場合について説明する。
【0020】
図1に示すように、建物の外壁1は、下地となるコンクリート躯体(躯体)2と、その表面に塗着させた仕上げ材3と、で構成されており、仕上げ材3は、モルタル4と、この表面に貼ったタイルや石材などの装飾材5と、で構成されている。この場合、コンクリート躯体2およびモルタル4の間には第1浮き部6が生じ、モルタル4および装飾材5の間には第2浮き部7が生じているものとする。また、外壁1には、第1浮き部6および第2浮き部7を補修すべく、装飾材5およびモルタル4を貫通し、且つコンクリート躯体2を所定の深さまで穿孔した挿填穴8が形成されている。そして、その挿填穴8に対し、接着剤注入器11による接着剤Rの注入とアンカーピン61の挿填(図5および図6参照)とが行われることで、外壁1の補修が行われる。
【0021】
ここで、図2を参照して、接着剤注入器11について説明する。接着剤注入器11は、主体を為し接着剤Rを供給するポンプ形式の注入器本体12と、注入器本体12の先端部に着脱自在に装着された注入ノズル13と、で構成されている。
【0022】
注入器本体12は、基端側に延在する筒状のケーシング14と、ケーシング14が着脱自在に取り付けられるポンプ本体15と、ポンプ本体15に保持された略「L」字状のレバー16と、を備えている。ケーシング14内には、接着剤Rが充填されており、ポンプ本体15には、基端側からケーシング14がセットされ、先端側から注入ノズル13が装着される。そして、注入器本体12は、手動でレバー16を操作(ポンピング)することにより、接着剤Rを一定量ずつ注入ノズル13から吐出させるようになっている。なお、本実施形態において接着剤Rには、エポキシ樹脂接着剤を用いているが、これに限らず、例えば各種有機接着剤は元より、粘性を有する無機接着剤等であってもよい。
【0023】
図2および図3に示すように、注入ノズル13は、注入器本体12に着脱自在に装着され、内部に注入器本体12に連なる接着剤流路43が形成されたノズルボディー17と、ノズルボディー17に保持されたノズル筒18と、を備えている。ノズルボディー17は、ノズル筒18をスライド自在に保持するゴム製のボディー本体21と、ボディー本体21の基端側に突き当てられ、内部に接着剤流路43を形成した連結部材22と、連結部材22に螺合し、ボディー本体21を覆うようにして保持する保持部材23と、から構成されている。注入ノズル13は、ノズル筒18をボディー本体21の基端側から入れ子形式で挿通し、ボディー本体21の基端側に連結部材22の先端を差し込むと共に、ボディー本体21に先端側から保持部材23を被せ、保持部材23の基端側を連結部材22に螺合することにより、組み立てられている。また、逆の手順で分解され、簡単に洗浄できるようになっている。
【0024】
ノズル筒18は、ステンレス等の金属パイプや樹脂パイプを用いて注射針様に形成され、軸方向においてボディー本体21にスライド自在(進退自在)に保持されている。ノズル筒18は、先端部に開口した第1吐出口24と、基端部に形成したフランジ部25と、軸心に形成され、フランジ部25および第1吐出口24を連通する第1注入流路26と、から構成されている。第1吐出口24は、斜めに切断して断面楕円状の開口となっており、ノズル筒18の先端部を挿填穴8の最深部に突き当てた状態であっても閉塞することがなく、接着剤Rを適切に注入することができる。フランジ部25は、ロート状に拡開した第1流入口27が形成されており、接着剤流路43から流れてくる接着剤Rを導入しやすいようにすると共に、注入ノズル13を引き抜く際の抜け落ちを防止している。第1注入流路26は、第1流入口27を介して連結部材22の接着剤流路43に連通しており、流れてきた接着剤Rを第1吐出口24から挿填穴8内に吐出する。また、例えば、ノズル筒18の長さは、100mm程度に形成されており、ノズル筒18の径は、外径2mm、内径1.8mmに形成されている。
【0025】
ボディー本体21は、フッ素ゴムやブチルゴム等の弾性材で構成されており、先端側に向かって先細りのテーパ状に形成されたシール部31と、シール部31に連なり筒状に形成された円筒部32と、環状段部を存して円筒部32の基端に連なった太径の太筒部33と、で一体に成形されている。太筒部33の基端側には、連結部材22の先端が嵌合する円形の装着溝34が設けられている。また、ボディー本体21の軸心部には、ノズル筒18をスライド自在に保持する貫通孔35が形成されている。そして、貫通孔35の周囲には、周方向に均等間隔に配設された複数の第2吐出口36、およびこれに連なる複数の第2注入流路37が形成されている。
【0026】
各第2吐出口36は、テーパ状の上記シール部31の表面に開口している。この場合、第2吐出口36は、挿填穴8に注入ノズル13を挿入した状態で、上記したモルタル4の表面(より好ましくは、第2浮き部7)より手前の穴開口9側に位置するように形成されている。第2吐出口36に連通する各第2注入流路37は、装着溝34の底面に開口した第2流入口38を介して、接着剤流路43に連通している。接着剤流路43に流入した接着剤Rは、第1注入流路26を通って第1吐出口24から吐出され、また一方で、複数の第2注入流路37を通って複数の第2吐出口36から吐出される。なお、第2吐出口36および第2注入流路37の数は、特に限定されるものではない。
【0027】
保持部材23は、ステンレスやスチール等の金属材により筒状に形成されており、注入ノズル13において最も太い径となる太径保持部39と、環状段部を存して太径保持部39の先端側に連なった細径保持部40と、を有している。太径保持部39の内径は、ボディー本体21の太筒部33と同径に形成され、太径保持部39は、先端側で太筒部33を囲繞している。また、太径保持部39の基端側内周面には、連結部材22に螺合する雌ねじが螺刻されている。一方、細径保持部40の内径は、ボディー本体21の円筒部32と同径に形成され、細径保持部40は、円筒部32を囲繞している。ボディー本体21に連結部材22を突き当てた状態で、先方から保持部材23を装着し、その太径保持部39を連結部材22に螺合すると、細径保持部40(環状段部)がボディー本体21を連結部材22側に強く引き付ける。これにより、ボディー本体21と連結部材22とが一体化し、接着剤流路43の先端がボディー本体21の装着溝34にシールされる。
【0028】
連結部材22は、ステンレスやスチール等の金属材で形成されており、ボディー本体21の装着溝34に嵌入される先端側の差込部45と、差込部45の基端側に連なる太径の太径螺合部41と、太径螺合部41の基端側に連なる細径の細径螺合部42と、により一体に形成されている。また、上述したように、連結部材22の軸心には、注入器本体12に連なる接着剤流路43が形成されている。そして、接着剤流路43の下流端は、第1注入流路26および複数の第2注入流路37に連通している。太径螺合部41は、差込部45よりも太径の円筒状に形成され、外周面には雄ねじが螺刻されると共に、外周面基端側には、平坦に研削された一対のスパナ掛け部44(図1参照)が形成されている。また、細径螺合部42の外周面にも、雄ねじが螺刻されており注入器本体12と螺合するようになっている。
【0029】
細径螺合部42を注入器本体12に螺合すると、接着剤流路43の下流端が注入器本体12と連通する。注入器本体12から接着剤流路43に流れ込んだ接着剤Rは、ノズル筒18の第1流入口27から第1注入流路26に流れ込むものと、ボディー本体21の第2流入口38から第2注入流路37に流れ込むものと、に分流し、第1吐出口24および複数の第2吐出口36からそれぞれ吐出される。なお、上記の第1注入流路26および第2注入流路37は、接着剤Rの注入初期において、第1注入流路26を流れる接着剤Rの流動抵抗が、各第2注入流路37を流れる接着剤Rの流動抵抗に比して小さくなるように構成されている。すなわち、接着剤Rの注入初期においては、主として第1注入流路26から接着剤Rが注入され、コンクリート躯体2とモルタル4との間の第1浮き部6まで接着剤Rが行き渡った時点で、今度は、主として各第2注入流路37から接着剤Rが注入される。
【0030】
次に、図4を参照して、第1実施形態に係る注入ノズル13の変形例について説明する。なお、重複した記載を避けるべく、主に第1実施形態と異なる部分について説明する。この変形例は、ノズル筒18がスライド式のもの(図4(a):第1変形例)および固定式のもの(図4(b):第2変形例)があり、両者ともノズルボディー17の形状が第1実施形態のものと異なっている。第1変形例であるノズル筒18がスライド式の注入ノズル13は、ノズルボディー17の装着溝34の底部に、接着剤流路43と同径の連通路51が深く形成されている。また、ノズルボディー17の先端部は、先細りのテーパ状のシール部31を有し、シール部31の先端は平坦面52となっている。そして、この平坦面52には、その軸心部に貫通孔35が形成され、貫通孔35の周囲に複数の第2吐出口36が開口している(図4(a))。
【0031】
一方、第2変形例であるノズル筒18が固定式の注入ノズル13は、ノズルボディー17の装着溝34の底部に、接着剤流路43と同径の連通路51が深く形成され、またノズルボディー17の先端部は、先細りのテーパ状のシール部31を有している。ノズルボディー17の軸心部には、貫通孔35が形成され、この貫通孔35にノズル筒18の基端側が固定されている。また、シール部31の外周面には、複数の第2吐出口36が開口しており、各第2吐出口36に連通する複数の第2注入流路37は、連通路51側から放射状に延びている。
【0032】
そして、これら変形例においても、第1実施形態と同様に、各第2吐出口36は、挿填穴8に注入ノズル13を挿入した状態で、上記したモルタル4の表面(より好ましくは、第2浮き部7)より手前の穴開口9側に位置するように形成されている。
【0033】
次に、図5および図6を参照して、上記の接着剤注入器11を用いた外壁1へのピンニング工法について説明する。このピンニング工法は、ハンマー等を用いて外壁1を打診し、その打診音に基づいて外壁1の要補修箇所、すなわちコンクリート躯体2とモルタル4との第1浮き部6、およびモルタル4と装飾材5との第2浮き部7を探査し、挿填穴8の穿孔位置を決定する。これに続いて、穿孔位置にマーキングが行われた後、装飾材5およびモルタル4を貫通し且つコンクリート躯体2を所定の深さまで穿孔して挿填穴8を形成する穿孔工程と、接着剤注入器11により、穴開口9を封止しつつ挿填穴8に接着剤Rを注入する接着剤注入工程と、接着剤Rが注入された挿填穴8に、装飾材5をコンクリート躯体2にアンカリングするためのアンカーピン61を装填するピン装填工程と、が実施される。
【0034】
穿孔工程では、ダイヤモンドコアドリル等の穿孔工具62を使用して、マーキングした外壁1の各穿孔位置に挿填穴8を穿孔する。すなわち、装飾材5およびモルタル4を貫通するようにしてコンクリート躯体2を所定の深さまで穿孔を行い、挿填穴8を形成する(図5(a)参照)。この際、穿孔は、外壁1に対して直角に行い、コンクリート躯体2への穿孔深さを30mm以上とする。また、挿填穴8は、アンカーピン61が遊嵌できるようにアンカーピン61より一回り大きな径(1mm〜2mm太径)のストレート穴に形成する。ストレート穴を形成したら、好ましくは、探査治具を用いて第1浮き部6および第2浮き部7を確認しておく。
【0035】
接着剤注入工程では、ノズル筒18の突出寸法を十分に長く調整した後、ノズル筒18を挿填穴8の最深部に挿入する(図5(b)参照)。そして、接着剤注入器11を外壁1に押し付けることで、シール部31により穴開口9を封止する(図5(c)参照)。この際、第2吐出口36は、第2浮き部7および穴開口9との間に位置する。次に、注入器本体12のレバー16を操作(ポンピング)して、接着剤Rを挿填穴8に注入していく。ポンピングを開始すると、ノズル筒18の第1吐出口24から接着剤Rが吐出され、接着剤Rが挿填穴8の最深部から徐々に注入されてゆく(図6(a)参照)。やがて、接着剤Rは、コンクリート躯体2とモルタル4との間の第1浮き部6に流入し、これと相前後して、第2吐出口36からも接着剤Rが吐出され、モルタル4と装飾材5との間の第2浮き部7に流入する(図6(b)参照)。このとき、第1浮き部6と第2浮き部7との間の挿填穴8中間部には、エアー溜りができるが、注入ノズル13を挿填穴8から引き抜くときの負圧により、エアーは抜けることになる。
【0036】
ピン挿填工程では、接着剤Rが注入された挿填穴8に対し、アンカーピン61のピン胴部を案内させながら挿填してゆく(図6(c)参照)。挿填されてゆくアンカーピン61は、挿填穴8内の接着剤Rを押し退けるようにして最深部に達する。これに伴い、接着剤Rは、ピン胴部となじむように隙間に流動し、さらにその一部は挿填穴8の穴開口9に向かって押し出されていく。そして、アンカーピン61の頭部は、アンカーピン61の先端が最深部に達するところで、穴開口9を閉止する。
【0037】
この場合、接着剤注入工程において、ノズル筒18を引き抜いた後に生ずる接着剤Rが注入されていない未注入部分の体積と、アンカーピン61の体積とがほぼ同一となるように構成しておけば、挿填穴8にアンカーピン61を挿入したと、挿填穴8から接着剤Rがほとんど漏れ出ることなく、挿填穴8を接着剤Rでほぼ満たすことができる。なお、装飾材5にザグリ穴を形成し、この部分にアンカーピン61の頭部を係止してもよい(図示省略)。かかる場合には、別途、穴開口9を閉止する化粧キャップを設けるようにする。また、注入孔付きアンカーピンを用いる場合も、注入孔付きアンカーピンを装填する前に、上記のように接着剤Rを注入することが、好ましい。
【0038】
次に、図7を参照して、第2実施形態に係る注入ノズル13について説明する。この注入ノズル13では、ノズルボディー17の構成が第1実施形態のものと異なっており、この異なっている部分について主に説明する。第2実施形態のノズルボディー17では、ボディー本体21にテーパ状のシール部31がなく、これに代えて、保持部材23の細径保持部40が先方に延長されている。そして、この延長部分に環状シール部材(環状シール部)63が装着されている。すなわち、ノズルボディー17は、先端部に設けられた円筒状の環状シール部材63と、軸心部でノズル筒18を保持するボディー本体21と、ボディー本体21の基端側に突き当てられ、内部に接着剤流路43を形成した連結部材22と、連結部材22に螺合し、ボディー本体21を覆うようにして保持すると共に、先端部に環状シール部材63を保持する保持部材23と、から構成されている。
【0039】
環状シール部材63は、フッ素ゴムやブチルゴム等の弾性材で円筒状に形成されおり、装飾材5に突き当てられる環状シール部材63の先端部は、断面半円状に形成されている。また、環状シール部材63の基端側には、保持部材23の先端部(細径保持部40の先端部)に装着するための環状凹部64が形成されている。ボディー本体21は、先端面65が平坦に形成されており、軸心部には、ノズル筒18の基端側を保持する貫通孔35が形成されている。また、ボディー本体21には、貫通孔35の周囲に位置して周方向に均等配置した複数の第2吐出口36が開口すると共に、これに連なる複数の第2注入流路37が形成されている。
【0040】
本実施形態の保持部材23は、その細径保持部40がボディー本体21を越えて延設されており、細径保持部40の先端部に上記の環状シール部材63(環状凹部64)が装着されている。細径保持部40の先端部は、断面半円状に形成され、環状シール部材63を装飾材5に強く密接できるようになっている。なお、請求項にいう保持部は、ボディー本体21および保持部材23の細径保持部40から構成されている。したがって、細径保持部40は、ノズルボディー17の先端部において周縁部に位置し、環状シール部材63を保持している。
【0041】
この注入ノズル13を用いた接着剤注入工程では、ノズル筒18を挿填穴8の最深部に挿入した状態で、接着剤注入器11を外壁1に押し付けると、穴開口9の開口縁部に当接した環状シール部材63が適宜変形して穴開口9を封止する。すなわち、本実施形態の各第2吐出口36は、装飾材5より外側に位置することになる。またこの状態で、環状シール部材63の内周面を接着剤Rの流路として、第2吐出口36と穴開口9とが連通する。ここでポンピングを開始すると、ノズル筒18の第1吐出口24から接着剤Rが吐出され、続いて複数の第2吐出口36からも接着剤Rが吐出される。これにより、第1実施形態の注入ノズル13と同様に、接着剤Rは、挿填穴8、第1浮き部6および第2浮き部7に行き渡る。
【0042】
次に、図8を参照して、第2実施形態に係る注入ノズル13の変形例について説明する。この変形例では、ノズルボディー17におけるボディー本体21、連結部材22および保持部材23が一体に形成されており、またノズル筒18が固定式となっている。すなわち、ノズルボディー17は、先端部に設けられた円筒状の環状シール部材63と、環状シール部材63を保持すると共に、注入器本体12に連結される保持連結部材71と、から構成されている。
【0043】
保持連結部材71は、ステンレスやスチール等の金属材により形成されており、先端部に環状シール部材63およびノズル筒18を保持した部材本体72と、注入器本体12に螺合する細径の螺合部73と、部材本体72と螺合部73との間に介設した太径の工具掛け部74と、により一体に形成されている。部材本体72の先端部には、軸心部にノズル筒18を保持(固定)すると共に周縁部に環状シール部材63を保持する保持部75が形成されている。保持部75における環状の周縁部は前方に突出しており、この突出部分に、環状シール部材63が装着されている。また、保持部75におけるノズル筒18と環状シール部材63との間には、周方向に均等配置した複数の第2吐出口36が開口すると共に、これに連なる複数の第2注入流路37が形成されている。
【0044】
この変形例における接着剤流路43は、保持部75より後方に位置する部材本体72の部分、工具掛け部74および螺合部73にかけての軸心部分に形成されており、その下流端に第1注入流路26および複数の第2注入流路37が連通している。したがって、注入器本体12から接着剤流路43に流れ込んだ接着剤Rは、第1注入流路26に流れ込むものと、複数の第2注入流路37に流れ込むものと、に分流し、第1吐出口24および複数の第2吐出口36からそれぞれ吐出される。
【0045】
この変形例においても、第2吐出口36は、装飾材5より外側に位置するようになっている。よって、この注入ノズル13を用いた接着剤注入工程において、第2吐出口36から吐出された接着剤Rは、流路となる環状シール部材63の内周面を通って穴開口9から挿填穴8に注入される。したがって、接着剤Rを挿填穴8、第1浮き部6および第2浮き部7に十分に行き渡らせることができる。
【0046】
以上の構成によれば、接着剤Rは、ノズル筒18の第1注入流路26を介して第1吐出口24から吐出し、挿填穴8の最深部から徐々に満たされ、コンクリート躯体2とモルタル4との間の第1浮き部6に流入してゆく。また、これと相前後して、接着剤Rは、第2注入流路37を介して第2吐出口36から吐出し、挿填穴8の手前側から満たされ、モルタル4と装飾材5との間の第2浮き部7に行き渡る。したがって、挿填穴8、第1浮き部6および第2浮き部7に接着剤を確実に注入することができる。
【符号の説明】
【0047】
2…コンクリート躯体 4…モルタル 5…装飾材 8…挿填穴 9…穴開口 12…注入器本体 13…注入ノズル 17…ノズルボディー 18…ノズル 24…第1吐出口 26…第1注入流路 31…シール部 36…第2吐出口 37…第2注入流路 43…接着剤流路 63…環状シール部材 75…保持部 R…接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注入器本体に装着され、装飾材およびモルタルを貫通し且つ躯体を所定の深さまで穿孔した挿填穴に、その穴開口を封止しながら接着剤を注入するするピンニング工法用の注入ノズルであって、
前記注入器本体に装着され、内部に前記注入器本体に連なる接着剤流路を形成したノズルボディーと、
基端側を前記ノズルボディーに保持されたノズル筒と、を備え、
前記ノズル筒は、先端部に開口すると共に前記接着剤流路に連通する第1吐出口を有し、
前記ノズルボディーは、前記穴開口に臨むように先端部に開口し、前記接着剤流路に連通する第2吐出口を有していることを特徴とするピンニング工法用の注入ノズル。
【請求項2】
前記ノズルボディーの先端部は、前記穴開口に挿入され、外周面で前記穴開口を封止すると共に、軸心部に前記ノズル筒を保持するテーパ状のシール部を有し、
前記第2吐出口は、前記シール部の前記穴開口に挿入される部分に開口していることを特徴とする請求項1に記載のピンニング工法用の注入ノズル。
【請求項3】
前記ノズルボディーの先端部を前記穴開口に挿入し封止した状態で、前記第2吐出口は、前記モルタルの表面より手前に位置するように配設されていることを特徴とする請求項2に記載のピンニング工法用の注入ノズル。
【請求項4】
前記ノズルボディーの先端部は、前記穴開口が形成された前記装飾材の開口縁部に当接し、前記穴開口を封止する環状シール部と、
周縁部で前記環状シール部を保持すると共に軸心部で前記ノズル筒を保持する保持部と、を有し、
前記第2吐出口は、前記環状シール部と前記ノズル筒との間に位置して、前記保持部に開口していることを特徴とする請求項1に記載のピンニング工法用の注入ノズル。
【請求項5】
前記ノズル筒には、前記接着剤流路と前記第1吐出口とを連通する第1注入流路が形成され、
前記ノズルボディーには、前記接着剤流路と前記第2吐出口とを連通する第2注入流路が形成され、
前記接着剤の注入初期において、前記第1注入流路を流れる前記接着剤の流動抵抗が、前記第2注入流路を流れる前記接着剤の流動抵抗に比して小さくなるように構成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のピンニング工法用の注入ノズル。
【請求項6】
前記ノズル筒は、前記ノズルボディーに対して進退自在に保持されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のピンニング工法用の注入ノズル。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載のピンニング工法用の注入ノズルと、前記注入ノズルが着脱自在に装着される前記注入器本体とから成る接着剤注入器を用い、前記躯体、前記モルタルおよび前記装飾材から成る壁体を補修するピンニング工法において、
前記装飾材および前記モルタルを貫通し、且つ前記躯体を所定の深さまで穿孔して前記挿填穴を形成する穿孔工程と、
前記接着剤注入器により前記挿填穴の前記穴開口を封止しつつ前記挿填穴に前記接着剤を注入する接着剤注入工程と、
前記接着剤が注入された前記挿填穴に、アンカーピンを挿填するピン挿填工程と、を備えたことを特徴とするピンニング工法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−26798(P2011−26798A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171852(P2009−171852)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(506162828)FSテクニカル株式会社 (26)
【Fターム(参考)】