説明

フィルタユニットおよびそれを備えた掃除機

【課題】初期の圧力損失が小さく、塵離れ性および耐衝撃性が高いフィルタユニットを提供する。
【解決手段】フッ素樹脂多孔質膜、および当該フッ素樹脂多孔質膜の少なくとも一方の表面上に積層された通気性支持材を有するフィルタ濾材と、当該フィルタ濾材の周縁部を支持する枠体とを備えるフィルタユニットであって、当該フィルタユニットのフィルタ濾材の濾過領域において、当該濾過領域に対する前記フィルタ濾材のフッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材とが接着されている領域の面積比が、10%以下であるフィルタユニットとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材が積層されたフィルタ濾材を備えた、特に掃除機用途に有用なフィルタユニットに関する。本発明はまた、当該フィルタユニットを備えた、塵払い落とし機能付き掃除機に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス流から粒子などを濾過するために、フィルタ濾材を有するフィルタユニットが用いられている。高い捕集効率が求められる用途においては、フィルタ濾材には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜等のフッ素樹脂多孔質膜を備える濾材、ガラス繊維にバインダーを加えて抄紙した濾材(ガラス濾材)、メロトブローン不織布をエレクトレット化した濾材(エレクトレット濾材)などが用いられている。
【0003】
なかでも、フッ素樹脂多孔質膜を備える濾材は、微小繊維の発生や自己発塵といった問題が少なく、使用に伴う圧力損失の上昇が少ないなどの特徴を有している。また、フッ素樹脂の性質として、摩擦係数が小さく滑り性が良好であり、捕集した塵を、多孔質膜に衝撃を与えることにより容易に除塵することができるといった性質なども有している。このような多くの有利な特徴から、フッ素樹脂多孔質膜(特にPTFE多孔質膜)を備える濾材は、今後ますます使用量が増大すると期待されている。
【0004】
フッ素樹脂多孔質膜は、一般に柔軟性に富む材料である。一方で、特に掃除機用フィルタユニットなど、大きな風量が透過するフィルタユニットにおいては、その風量によってフィルタ濾材が大きく変形しないように、フィルタ濾材にある程度の剛性が要求される。このため、フッ素樹脂多孔質膜を備えるフィルタ濾材は、通気部材としてのフッ素樹脂多孔質膜に、補強材としての通気性支持材を積層した構成を有している。通気性支持材には、熱可塑性樹脂繊維を用いた、メッシュ、不織布等が多用されている。通気性支持材は、熱ラミネート等によって、フッ素樹脂多孔質膜と接着されて積層される(例えば、特許文献1および2参照)。
【0005】
掃除機用途においては、フィルタユニットは、プリーツ加工されたフィルタ濾材が、不織布、樹脂または金属製の枠体に支持された構造を有している。掃除機用フィルタユニットにおいては、フィルタ濾材に集めた塵等を、下流側から衝撃を与え、フィルタ濾材より剥離させて除塵するということが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−253711号公報
【特許文献2】特表2002−542010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フィルタユニットを用い、濾過に必要な力を最小にするためには、圧力損失は可能なだけ小さくすることが好ましい。従って、フィルタユニットのフィルタ濾材には、初期の圧力損失(集塵前の圧力損失)が小さいことが望まれている。また、集めた塵を除塵した際に、塵がフィルタ濾材に残ると、圧力損失が大きくなる。このため、フィルタユニットのフィルタ濾材には、塵離れ性が高いことが望まれている。また、掃除機用フィルタユニットにおける除塵は、フィルタ濾材に衝撃を与えることにより行われるため、フィルタユニットのフィルタ濾材には、破損や劣化の起こらない高い耐衝撃性が望まれている。それに対し、従来のフィルタユニットにおいては、初期の圧力損失、塵離れ性、および耐衝撃性に改善の余地があった。
【0008】
そこで本発明は、初期の圧力損失が小さく、塵離れ性および耐衝撃性が高いフィルタユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、フッ素樹脂多孔質膜、および当該フッ素樹脂多孔質膜の少なくとも一方の表面上に積層された通気性支持材を有するフィルタ濾材と、
当該フィルタ濾材の周縁部を支持する枠体とを備えるフィルタユニットであって、
当該フィルタユニットのフィルタ濾材の濾過領域において、当該濾過領域に対する前記フィルタ濾材のフッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材とが接着されている領域の面積比が、10%以下であるフィルタユニットである。
【0010】
前記フィルタユニットのフィルタ濾材の濾過領域においては、前記フィルタ濾材のフッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材とが接着されてないことが好ましい。
【0011】
前記フッ素樹脂多孔質膜が、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜であることが好ましい。前記フッ素樹脂多孔質膜の平均孔径が、0.01〜100μmであり、空気を流速5.3cm/秒で透過させたときに生じる圧力損失が10〜300Paであり、被濾過気体の流速を5.3cm/秒とし、捕集対象粒子の粒径を0.3〜0.5μmの範囲としたときの捕集効率が60%以上であることが好ましい。
【0012】
本発明のフィルタユニットにおいては、フィルタユニットの上流側にJIS Z 8901に規定の関東ローム層土11種を、前記フィルタユニットの枠体の開口部100cm2あたり3g供給し、流量2.4m3/分で下流側から吸引し、フィルタユニットの上流側の面を下にした状態でフィルタユニットを10cmの高さから5回落下させて関東ローム層土を払い落とした場合に、払い落とし前後での圧力損失の上昇が2Pa以下であることが好ましい。
【0013】
本発明のフィルタユニットにおいては、フィルタユニットのフィルタ濾材が、最表面に通気性支持材を有し、前記フィルタユニットのフィルタ濾材の通気性支持材をナイロンブラシ(ブラシ径:200μm、毛足:25mm)を用いて0.05MPaで50往復ブラッシングした場合に、ブラッシング前後の捕集効率の低下が0.2%以下であることが好ましい。
【0014】
本発明のフィルタユニットにおいては、フィルタユニットのフィルタ濾材の濾過領域以外において、前記フィルタ濾材のフッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材とが接着されていることが好ましい。
【0015】
本発明のフィルタユニットは、掃除機用途に好適である。
【0016】
本発明はまた、上記のフィルタユニットを備えた、塵払い落とし機能付き掃除機である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフィルタユニットは、初期の圧力損失が小さく、塵離れ性および耐衝撃性が高い。本発明のフィルタユニットは、掃除機用途に好適であり、特に塵払い落とし機能付き掃除機用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のフィルタユニットの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のフィルタユニットは、フッ素樹脂多孔質膜、および当該フッ素樹脂多孔質膜の少なくとも一方の表面上に積層された通気性支持材を有するフィルタ濾材と、当該フィルタ濾材の周縁部を支持する枠体とを備える。
【0020】
本発明で用いられるフッ素樹脂多孔質膜を構成するフッ素樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−へキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等が挙げられ、中でも、汎用性の観点からPTFEが最適である。
【0021】
フッ素樹脂多孔質膜としては、平均孔径が0.01〜100μmであるものが好適に用いられ、0.01〜50μmであるものがより好適に用いられる。
【0022】
フッ素樹脂多孔質膜としては、空気を流速5.3cm/秒で透過させたときに生じる圧力損失が10〜300Paであるものが好適に用いられ、10〜100Paであるものがより好適に用いられる。
【0023】
フッ素樹脂多孔質膜としては、被濾過気体の流速を5.3cm/秒とし、捕集対象粒子の粒径を0.3〜0.5μmの範囲としたときの捕集効率が60%以上であるものが好適に用いられ、70〜99.99%であるものがより好適に用いられる。
【0024】
上記の圧力損失および捕集効率を有するフッ素樹脂多孔質膜は、フッ素樹脂多孔質膜の平均孔径、空隙率、および厚さを適切に設定することにより、得ることができる。
【0025】
フッ素樹脂多孔質膜の厚さとしては、1〜300μmが好ましく、2〜100μmがより好ましい。
【0026】
フッ素樹脂多孔質膜は、市販品として入手可能であり、また、公知方法に従い製造することができる。一例として、PTFE多孔質膜は、PTFEファインパウダーを原料とするペースト押出しによって得られたPTFEシートを延伸することによって製造することができる。延伸の際、PTFEシートの面積延伸倍率(一軸方向の延伸倍率とそれに垂直な方向の延伸倍率の積算)は、50〜900倍程度とすればよい。
【0027】
本発明に用いられる通気性支持材としては、フッ素樹脂多孔質膜よりも高い強度と通気性を有するものが好適であり、その材料の例としては、金属、ポリオレフィン(例、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)など)、ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート(PET)など)、ポリアミド(脂肪族ポリアミドおよび芳香族ポリアミド)、およびこれらの複合材が挙げられる。通気性支持材の形態の例としては、フェルト、不織布、織布、メッシュ(網目状シート)、多孔質材等が挙げられる。
【0028】
フィルタ濾材は、撥液処理(撥水処理および/または撥油処理)されていてもよい。この場合、撥液性能を有するフィルタ濾材となる。このようなフィルタ濾材では、フィルタ濾材が捕集した物質を洗浄によって除去したり、機械的に払い落としたりすることが容易となる。
【0029】
フィルタ濾材は、本発明の目的を阻害しない範囲において、必要に応じて、フッ素樹脂多孔質膜および通気性支持材以外のものが積層されていてもよい。
【0030】
フィルタ濾材には、複数枚のフッ素樹脂多孔質膜を用いてもよく、同様に、複数枚の通気性支持材を用いてもよい。このとき、フッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材のいずれが最表面(露出面側)にあってもよい。
【0031】
フィルタ濾材は、必要に応じて、プリーツ加工されていてもよく、プリーツの形状には特に制限はない。プリーツ加工は、平板状のフィルタ濾材を繰り出して連続加工してもよく、適当な寸法に切り出したフィルタ濾材(単板)をプリーツ状に加工してもよい。平板状のフィルタ濾材のプリーツ加工には、公知のプリーツ加工機(ロータリープリーツ機、レシプロプリーツ機、筋付けプリーツ機等)を用いることができる。プリーツ加工時におけるフィルタ濾材へのダメージを抑制する観点からは、レシプロプリーツ機を用いることが好ましい。
【0032】
フィルタ濾材においては、フッ素樹脂多孔質膜または通気性支持材が着色されていてもよい。着色は、フッ素樹脂多孔質膜または通気性支持材の原料に顔料を混練する等の公知方法により行うことができる。
【0033】
本発明において用いられる枠体の形状は、フィルタ濾材の周縁部を支持し、濾過のための開口部を有する限り特に制限はなく、公知の通常のフィルタユニットに適用される形状と同様のものでよい。枠体の材質としては、不織布、樹脂、紙、金属などが挙げられ、インサート成形によってフィルタユニットを製造することが容易であることから、樹脂が好ましい。樹脂の具体例としては、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、ポリカーボネート、ポリプロピレン、各種のエラストマーなどを用いることができ、一般には、ポリプロピレン、ABSが用いられるが、寸法精度の確保が容易であり、使用時における変形を抑制できることがら、ABSが好適である。
【0034】
枠体に用いられる樹脂は、機能の向上または新たな機能の付加を目的として、その他の材料を含んでいてもよい。例えば、強度向上を目的として、ガラス繊維等のフィラーなどを含んでいてもよい。
【0035】
本発明のフィルタユニットは、フィルタユニットのフィルタ濾材の濾過領域において、当該濾過領域に対する、フィルタ濾材のフッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材とが接着されている領域の面積比が、10%以下であるという特徴を有する。
【0036】
従来のフィルタユニットにおいては、フィルタ濾材は、フッ素樹脂多孔質膜とフィルタ濾材とを全面において熱ラミネートにより熱接着させること等により製造されており、本発明者らの詳細な検討により、フッ素樹脂多孔質膜と不織布の界面において接着がなされている部分(接着点)では、流体の通過が制限されており、これが圧力損失の一因となっていること、および熱ラミネート時の圧縮力の印加が圧力損失の一因となっていることを見出した。また、流体の通過が制限されている接着点においては、塵離れ性が悪いことを見出した。さらに、衝撃により除塵を行う際には、接着点において、フィルタ濾材の破損や劣化が起こる場合があることを見出した。
【0037】
従って、フィルタユニットのフィルタ濾材の濾過領域において、フィルタ濾材のフッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材とが接着されている領域を10面積%以下に制限することによって、フィルタユニットの初期の圧力損失を小さくすることができ、また、塵離れ性および耐衝撃性を高くすることができる。
【0038】
本発明のフィルタユニットのフィルタ濾材の濾過領域において、当該濾過領域に対する、フィルタ濾材のフッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材とが接着されている領域の面積比は、5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、0%であることが最も好ましい。すなわち、フィルタユニットのフィルタ濾材の濾過領域において、フィルタ濾材のフッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材とが接着されてないことが最も好ましい。
【0039】
本発明において、「フィルタ濾材の濾過領域」とは、フィルタユニットのフィルタ濾材において、濾過の行われる領域のことをいい、すなわち、フィルタ濾材が露出している領域のことをいう。例えば、フィルタ濾材がプリーツ形状を有する場合には、露出したフィルタ濾材の全面積が濾過領域となり、濾過領域は、フィルタユニットの枠体の開口部の面積よりも大きくなる。
【0040】
なお、本発明において「圧力損失」とは、流体がフィルタ濾材を通過するときに生じる、通過前後での圧力差のことをいう。
【0041】
本発明において「初期の圧力損失」とは、集塵が一度も行われていない状態での圧力損失のことをいう。
【0042】
本発明において「フッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材とが接着されている」とは、フッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材とが接着剤やホットメルト剤によって接着されている場合のみならず、通気性支持材の一部が溶融してフッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材が熱接着されている場合も含む。
【0043】
本発明において「フィルタ濾材のフッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材とが接着されている領域」とは、フッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材との接着操作が行われた領域のことをいう。例えば、通気性支持体がメッシュ状繊維である場合には、繊維が間隔を空けて配列されているため、フッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材が全面において熱接着された場合に、接着点だけを見れば間隔を空けて存在するが、接着されている領域は100面積%となる。
【0044】
本発明において、フッ素樹脂多孔質膜の両表面に通気性支持材が積層されている場合には、フィルタ濾材の濾過領域に対するフィルタ濾材のフッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材とが接着されている領域の面積比は、それぞれの表面ごとに評価する。従って、フッ素樹脂多孔質膜の両表面に通気性支持材が積層されている場合に、一方の面で前記の面積比が10%以下であれば、本発明の範囲に含まれる。
【0045】
本発明において、フィルタ濾材のフッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材は、その周縁部において接着されていることが好ましい。この場合、濾過領域において、フィルタ濾材のフッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材とが接着されている領域の面積を小さくすることが容易である。
【0046】
本発明のフィルタユニットは、フィルタ濾材の剛性の観点から、フィルタユニットのフィルタ濾材の濾過領域以外において、フィルタ濾材のフッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材とが接着されていることが好ましい。すなわち、フィルタ濾材が枠体中に固定される領域において、フッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材とが接着されていることが好ましい。
【0047】
本発明のフィルタユニットは、例えば、次のようにして製造することができる。フッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材を、ニップロールによって圧着した後、フッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材の一部を熱ラミネートして熱接着する。このとき、フィルタ濾材として露出される領域(濾過領域となるべき領域)において、熱接着される領域の面積が10面積%以下になるようにする。熱接着される領域は、ドット状であっても、線状や格子状であってもよい。好ましくは、フッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材の周縁部のみを熱ラミネートにより熱接着して、熱接着される領域がすべて枠体中に納まって、露出しないようにする。フィルタ濾材をプリーツ加工した後、インサート成形によって枠体を形成する。このようにして、フィルタ濾材の周縁部が枠体に入りこんで一体化したフィルタユニットを得ることができる。
【0048】
フィルタユニットは、予め1対の枠体を作製し、それにフィルタ濾材を挟み込んで製造することもできる。
【0049】
なお、フッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材の接着方法としては、接着剤やホットメルト剤を使用する方法も可能であるが、これらを使用する場合、製造工程の増加による歩留まりの低下や、加熱時に接着剤からアウトガスが発生するという不利益がある。
【0050】
本発明のフィルタユニットの形態としては、フィルタバッグ、フィルタチューブ、フィルタパネルユニット、フィルタカートリッジ等が挙げられる。
【0051】
本発明のフィルタユニットにおいては、フィルタユニットの上流側にJIS Z 8901に規定の関東ローム層土11種を、フィルタユニットの枠体の開口部100cm2あたり3g供給し、流量2.4m3/分で下流側から吸引し、フィルタユニットの上流側の面を下にした状態でフィルタユニットを10cmの高さから5回落下させて関東ローム層土を払い落とした場合に、払い落とし前後での圧力損失の上昇が2Pa以下であることが好ましく、1Pa以下であることがより好ましく、0.5Pa以下であることがさらに好ましい。このような特性は、フィルタユニットのフィルタ濾材の濾過領域において、濾過領域に対する、フィルタ濾材のフッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材とが接着されている領域の面積比を小さくすることによって得られる。
【0052】
本発明のフィルタユニットにおいては、フィルタユニットのフィルタ濾材が、最表面(露出面側)に通気性支持材を有し、前記フィルタユニットのフィルタ濾材の通気性支持材をナイロンブラシ(ブラシ径:200μm、毛足:25mm)を用いて0.05MPaで50往復ブラッシングした場合に、ブラッシング前後の捕集効率の低下が0.2%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましく、0.05%以下であることがさらに好ましい。このような特性は、フィルタユニットのフィルタ濾材の濾過領域において、濾過領域に対する、フィルタ濾材のフッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材とが接着されている領域の面積比を小さくすることによって得られる。
【0053】
図1に本発明のフィルタユニットの一例を示す。プリーツ加工されたフィルタ濾材1の周囲が枠体2によって支持されてフィルタユニット3が構成されている。フィルタ濾材1は、プリーツ加工されていないものを用いることも可能である。
【0054】
枠体2は、フィラーを含む樹脂を用いてインサート成形により形成されており、フィルタ濾材1の周縁部を枠体中に取り込むことによって、フィルタ濾材1を支持している。
【0055】
フィルタ濾材1は、PTFE多孔質膜等のフッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材との積層体である。周縁部のみにおいてフッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材とが接着されているが、接着された領域は、枠体2中にすべて取り込まれており、フィルタ濾材1の露出している部分においては、接着された領域がない。なお、例えば、接着された領域が、濾過領域の10面積%以下であれば、フィルタ濾材1の接着された周縁部のすべてが枠体2中に取り込まれずに、その一部が露出していても構わない。
【0056】
本発明のフィルタユニットは、初期の圧力損失が小さく、塵離れ性および耐衝撃性が高い。従って、フィルタ濾材により捕集された粉塵、粒子等を払い落としや洗浄などにより除去しながら使用されるフィルタユニットに好適である。
【0057】
本発明のフィルタユニットは、例えば、クリーンルーム用エアフィルタユニット、家電製品用フィルタユニット等として用いることができ、特に掃除機用フィルタユニットとして好適に用いることができる。
【0058】
そこで本発明はまた、上記のフィルタユニットを備えた、塵払い落とし機能付き掃除機である。当該塵払い落とし機能付き掃除機は、公知の塵払い落とし機能付き掃除機のフィルタユニットを、上記のフィルタユニットに置き換えることによって構成することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
最初に、PTFEファインパウダー(商品名「ポリフロンF−104」、ダイキン工業社製)100重量部に対し、液状潤滑剤として炭化水素油(商品目「アイソパーM」、エッソ石油社製)25重量部を均一に混合した。次に、得られた混合物を圧力20MPaで圧縮予備成形した後、予備成形物をロッド状に押出成形し、さらにこのロッド状の押出成形物を一対の金属ロールを通して圧延して、厚さ0.2mm、幅150mmの帯状のPTFEシートを得た。
【0061】
次に、得られたシートを220℃に加熱して、当該シートに含まれる液状潤滑剤を除去した後、未焼成のまま倍率20倍でMD方向(機械方向)に延伸し、ついで倍率30倍でTD方向(横断方向)に延伸し、さらに、寸法を固定した状態でPTFEの融点以上の温度で焼成して、帯状のPTFE多孔質膜を得た。このPTFE多孔質膜の平均孔径は、10μmであり、空気を流速5.3cm/秒で透過させたときに生じる圧力損失は、40Paであり、被濾過気体の流速を5.3cm/秒とし、捕集対象粒子の粒径を0.3〜0.5μmの範囲としたときの捕集効率は、80%であった。
【0062】
次に通気性支持材として、市販のポリエチレン(PE)メッシュ状ウェブ(Applied Extrusion Technologies, Inc社製)を準備した。
【0063】
上記で作製したPTFE多孔質膜の両側を2枚のPEメッシュ状ウェブで挟み込み、常温で約0.1〜0.5kPa程度の圧力でニップして3層構造の積層体とした。さらに、この積層体の両端部各1cmのみにおいて128℃で熱ラミネートして接着し、フィルタ濾材を得た。
【0064】
得られたフィルタ濾材を、プリーツ機を用いて、山高さ20mmでプリーツ加工した。続いて、プリーツ加工後のフィルタ濾材を、縦型成形機を用いて、ガラス繊維を30重量%含むABSとともにインサート成形することにより、図1に示すようなフィルタユニットを得た。このフィルタユニットにおいて、枠体の開口部のサイズは、100mm×100mmであり、露出した濾材の幅を100mm、プリーツ高さを20mmとし、プリーツの山の数は25とした。インサート成形の条件は、射出樹脂温度275℃、射出圧8.0MPa、冷却温度60℃、冷却時間30秒、保圧5%とした。このフィルタユニットにおいて、PTFE多孔質膜とPEメッシュ状ウェブとを接着した領域は枠体中に収まっており、濾過領域において接着された領域はなかった。すなわち、濾過領域において、フィルタ濾材のPTFE多孔質膜と通気性支持材とが接着されている領域は0面積%であった。
【0065】
(実施例2)
フィルタ濾材作製の際に、PTFE多孔質膜の片側のみPEメッシュ状ウェブを積層した2層構造とした以外は、実施例1と同様にしてフィルタユニットを得た。このフィルタユニットでは、濾過領域において、フィルタ濾材のPTFE多孔質膜と通気性支持材とが接着されている領域は0面積%であった。
【0066】
(比較例1)
実施例1と同様にして、PTFE多孔質膜の両側を2枚のPEメッシュ状ウェブで挟み込んだ3層構造の積層体を得た。この積層体を180℃に加熱した一対のロール間を通過させることで全面を熱ラミネート(ライン速度10m/分)して、全面においてPTFE多孔質膜とPEメッシュ状ウェブが接着された3層構造のフィルタ濾材を得た。このフィルタ濾材を用いて実施例1と同様の方法により、フィルタユニットを得た。このフィルタユニットでは、濾過領域において、フィルタ濾材のPTFE多孔質膜と通気性支持材とが接着されている領域が100面積%であった。
【0067】
上記で得られた実施例および比較例のフィルタユニットについて、下記の方法により特性を評価した。結果を表1に示す。
【0068】
[圧力損失の測定]
有効面積100cm2の円柱状ホルダーに実施例および比較例のフィルタユニットに用いたフィルタ濾材をセットし、フィルタ濾材の両面で圧力差を生じさせて当該フィルタ濾材に空気を透過させた。透過する空気の流速を、流量計で5.3cm/秒(流量31.8m3/分)に調整したときの圧力損失を圧力計(マノメータ)で測定した。
【0069】
[捕集効率の測定]
有効面積100cm2の円柱状ホルダーに実施例および比較例のフィルタユニットに用いたフィルタ濾材をセットし、フィルタ濾材の両面で圧力差を生じさせて当該フィルタ濾材に気体を透過させ、透過する気体の線速度が5.3cm/秒(流量31.8m3/分)となるように調整した。次に、フィルタ濾材の上流側にJIS Z 8901に規定されている多分散ジオクチルフタレート(DOP)粒子を、粒径範囲0.3〜0.5μmの粒子の濃度が106個/リットルとなるように気体に混入し、フィルタ濾材の下流側におけるDOP粒子の濃度をパーティクルカウンターで測定した。パーティクルカウンターによる測定対象粒子の粒径範囲は0.3〜0.5μmとし、捕集効率は、捕集効率=(1−(下流側DOP粒子濃度/上流側DOP粒子濃度))×100(%)の式より算出した。
【0070】
[塵離れ性の測定]
フィルタユニットの上流側にJIS Z 8901に規定の試験用粉体である関東ローム層土11種を3g供給した。この関東ローム層土を、掃除機を用いて流量2.4m3/分の吸引力で下流側から吸引した。吸引後、関東ローム層土が捕集されたフィルタユニットの上流側の面を下にした状態でフィルタユニットを10cmの高さから5回落下させて、フィルタユニット表面の関東ローム層土を払い落とした。関東ローム層土を供給する前の圧力損失と、払い落とし後の圧力損失を上記の方法でそれぞれ測定し、払い落とし試験前後の圧力損失の変動を求めた。
【0071】
[耐衝撃性の測定]
フィルタユニットの通気性支持材側からナイロンブラシ(ブラシ径:200μm、毛足:25mm)でフィルタ濾材全体を0.05MPaで50往復ブラッシングすることにより、外部から衝撃を与えた。衝撃を与える前の捕集効率と、衝撃を与えた後の捕集効率とを上記の方法でそれぞれ測定し、衝撃を与える前後の捕集効率の変動を求めた。
【0072】
【表1】

【0073】
表1に示されるように、PTFE多孔質膜と通気性支持材とを全面熱接着した比較例のフィルタユニットに比べ、濾過領域においてPTFE多孔質膜と通気性支持材とが接着されていない実施例のフィルタユニットの方が、8〜13Pa程度圧力損失が小さくなった。
【0074】
塵離れ性に関しては、実施例のフィルタユニットは、試験前後での圧力損失に変化がなかった。これは、捕集した塵が十分に払い落とされたためと考えられる。一方、比較例のフィルタユニットでは、試験後に圧力損失の上昇が見られた。これは、捕集した塵が十分に払い落とされていないためと考えられる。
【0075】
耐衝撃性に関しては、実施例のフィルタユニットは、試験前後での捕集効率に変化がなく、衝撃に対する膜の劣化がないことが分かった。一方、比較例のフィルタユニットでは、試験後の捕集効率の低下が見られた。これは、衝撃により、若干の膜破損が生じたためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のフィルタユニットは、クリーンルーム用エアフィルタユニット、家電製品用フィルタユニット等として用いることができ、特に掃除機用フィルタユニットとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0077】
1 フィルタ濾材
2 支持枠
3 フィルタユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂多孔質膜、および当該フッ素樹脂多孔質膜の少なくとも一方の表面上に積層された通気性支持材を有するフィルタ濾材と、
当該フィルタ濾材の周縁部を支持する枠体とを備えるフィルタユニットであって、
当該フィルタユニットのフィルタ濾材の濾過領域において、当該濾過領域に対する前記フィルタ濾材のフッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材とが接着されている領域の面積比が、10%以下であるフィルタユニット。
【請求項2】
前記フィルタユニットのフィルタ濾材の濾過領域において、前記フィルタ濾材のフッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材とが接着されてない請求項1に記載のフィルタユニット。
【請求項3】
前記フッ素樹脂多孔質膜が、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜である請求項1または2に記載のフィルタユニット。
【請求項4】
前記フッ素樹脂多孔質膜の平均孔径が、0.01〜100μmであり、空気を流速5.3cm/秒で透過させたときに生じる圧力損失が10〜300Paであり、被濾過気体の流速を5.3cm/秒とし、捕集対象粒子の粒径を0.3〜0.5μmの範囲としたときの捕集効率が60%以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルタユニット。
【請求項5】
前記フィルタユニットの上流側にJIS Z 8901に規定の関東ローム層土11種を、前記フィルタユニットの枠体の開口部100cm2あたり3g供給し、流量2.4m3/分で下流側から吸引し、フィルタユニットの上流側の面を下にした状態でフィルタユニットを10cmの高さから5回落下させて関東ローム層土を払い落とした場合に、払い落とし前後での圧力損失の上昇が2Pa以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルタユニット。
【請求項6】
前記フィルタユニットのフィルタ濾材が、最表面に通気性支持材を有し、前記フィルタユニットのフィルタ濾材の通気性支持材をナイロンブラシ(ブラシ径:200μm、毛足:25mm)を用いて0.05MPaで50往復ブラッシングした場合に、ブラッシング前後の捕集効率の低下が0.2%以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載のフィルタユニット。
【請求項7】
前記フィルタユニットのフィルタ濾材の濾過領域以外において、前記フィルタ濾材のフッ素樹脂多孔質膜と通気性支持材とが接着されている請求項1〜6のいずれか1項に記載のフィルタユニット。
【請求項8】
掃除機用である請求項1〜7のいずれか1項に記載のフィルタユニット。
【請求項9】
請求項8に記載のフィルタユニットを備えた、塵払い落とし機能付き掃除機。

【図1】
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【公開番号】特開2013−22547(P2013−22547A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161934(P2011−161934)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】