説明

フィルター材

【課題】高温の排ガス中に含まれるダストを高い捕集効率にて濾過するためのフィルター材であって、かつ高い運転温度領域で使用することができ、また寸法安定性、強度、耐熱性に優れるフィルター材を提供する。
【解決手段】メタ型全芳香族ポリアミド繊維を主体とするフィルター材であって、該メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、分子量10,000未満の低分子量の含有率が1.0質量%以下であり、繊維中に残存する残存溶媒量が1.0質量%以下であり、300℃での乾熱収縮率が3.0%以下であり、かつ破断強度が3.0cN/dtex以上であるフィルター材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温の排ガス中に含まれるダストを高い捕集効率にて濾過するためのフィルターであって、かつ高い運転温度領域で使用することができ、また寸法安定性、強度、耐熱性に優れるフィルター材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジハライドとから製造される全芳香族ポリアミドが耐熱性および難燃性に優れていることは公知であり、かかる全芳香族ポリアミドのうち、ポリメタフェニレンイソフタルアミドで代表されるメタ型全芳香族ポリアミド(「メタアラミド」と称されることもある)繊維は、耐熱・難燃性繊維として特に有用なものである。
メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、その特性を活かし、高温状態に暴露される分野で広く使用されており、例えば、都市ゴミ焼却炉などの排ガス中の微粒子を捕集するバグフィルターの素材として広く使用されている。上記バグフィルターは、濾布にて廃ガス中のダストを捕集し、ダストを含まない廃ガスを焼却設備の外へと排気するための設備であり、目詰まりがしないという長寿命化が常に要請されている。
【0003】
一方で、濾布の長寿命化を図るためには、付着したダストを効率的に濾布から離脱させることで、濾布の目詰まりを抑制する必要がある。バグフィルターの濾布が目詰まりを起こすと、焼却設備からの廃ガスの排気ができなくなるので焼却設備を停止させて、該濾布の交換をしなければならない。つまり、バグフィルター濾布が目詰まりする前に、ダストを効率的に払い落とすことで、バグフィルター濾布の長寿命化が図れ、焼却設備の長期連続運転が可能となる。
【0004】
バグフィルター濾布に付着したダストを効率的に離脱させる手段として、パルスジェット方式がある(特許文献1、2参照)。上記パルスジェット方式とは、バグフィルター濾布に、エアーを吹き付けて振動させ、表面に付着したダストを払い落とす方式であり、バグフィルター濾布表面に付着したダストが蓄積されないうちに、フィルター濾布表面にエアーを吹き付けて、ダストを払い落とす方法である。
このように、パルスジェットで、バグフィルター濾布表面に定期的に、エアー圧による外力が加えることで、ダストの払い落としは可能となるが、当然ながら、定期的に加えられる外力に対し、該濾布の機械的強度、寸法安定性が不十分な場合、該濾布が破断し、バグフィルター濾布の機能を果たせなくなる。
【0005】
従来、バグフィルター濾布などに用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維の機械的強度、寸法安定性を向上させるために、さまざまな提案がなされている。しかしながら、メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、その製造プロセスにアミド系有機溶媒を使用することが一般的であり、このことにより繊維中にアミド系溶媒が残留することが知られており、繊維中に溶媒が残留することにより、本来、メタ型全芳香族ポリアミドが有している高温下での品質安定性に劣るものしか得られないという欠点を有している(特許文献3〜4参照)。また、低分子量成分が繊維中に残存することも、繊維中の非晶領域におけるガラス転移温度の低下を招来し、物性の低下や収縮を来たすことも知られている。このため、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の高温下での寸法安定性を向上させるには、低分子量成分ならびに残留溶媒量を低減することが強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−103617号公報
【特許文献2】特開平9−248413号公報
【特許文献3】特開2001−348726号公報
【特許文献4】特開2005−232598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、例えばゴミ焼却炉、石炭ボイラー、あるいは金属溶鉱炉などから排出される高温の排ガス中に含まれるダストを高い捕集効率にて濾過するための耐熱性フィルター材において、耐熱性に優れたフィルター材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を達成する手段について鋭意研究の結果、上述の如きメタ型全芳香族ポリアミド繊維にあっては、該繊維中に残存する低分子量成分および溶媒の含有量が一定以下で、かつ繊維の破断強度が一定以上であり、300℃での収縮率が一定以下である全芳香族ポリアミド繊維は、フィルター材として用いた場合、高温、高湿度使用条件下でも物性の低下が少ないことを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明によれば、上記の課題は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を主体とするフィルター材であって、該メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、分子量10,000未満の低分子量の含有率が1.0質量%以下であり、繊維中に残存する残存溶媒量が1.0質量%以下であり、300℃での乾熱収縮率が3.0%以下であり、かつ破断強度が3.0cN/dtex以上であることを特徴とするフィルター材により達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ゴミ焼却炉、石炭ボイラー、あるいは金属溶鉱炉などから排出される高温の排ガス中に含まれるダストを高い捕集効率にて濾過するために有用な耐熱性に優れたフィルター材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<メタ型全芳香族ポリアミド繊維>
本発明のフィルター材に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、以下の特定の物性を備える。本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維の物性、構成、および、製造方法等について以下に説明する。
【0011】
[メタ型全芳香族ポリアミド繊維の物性]
[低分子量成分]
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、分子量10,000未満の低分子量成分の含有率が1.0質量%以下、好ましくは0.8質量%、特に好ましくは0.6%以下である。
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維において、分子量10,000未満の低分子量成分が1.0質量%を超えると、低分子量成分が増加し、繊維中の非晶領域におけるガラス転移温度が低下し、高温使用環境において物性の低下が起こりやすくなる。
上記メタ型全芳香族ポリアミド繊維において、分子量が10,000未満の低分子量成分を1.0質量%以下にするには、例えば後掲の凝固工程において、まず紡糸原液をアミド系溶媒の水溶液からなる実質的に塩を含まない凝固液中に吐出することにより、効率的に低分子量成分の除去を行うことができ、かかる凝固工程が特に好ましく採用される。
【0012】
〔残存溶媒量〕
メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、通常、ポリマーをアミド系溶媒に溶解した紡糸原液から製造されるため、必然的に該繊維に溶媒が残存する。しかしながら、本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、繊維中に残存する溶媒の量が、繊維質量に対して1.0質量%以下である。1.0質量%以下であることが必須であり、0.7質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが特に好ましい。
繊維質量に対して1.0質量%を超えて溶媒が繊維中に残存している場合には、300℃を超えるような高温雰囲気下での加工や使用の際に、残存溶媒が揮発するために環境安全性に劣ったり、繊維が黄変したりするため好ましくない。また、分子構造が破壊されることにより、著しく強度が低下する。さらに、残存する溶媒は引火点以上では容易に引火、燃焼するため、例えば限界酸素指数(LOI値)を28以上とすることが困難となる。
繊維中の残存溶媒量を1.0質量%以下とするためには、繊維の製造工程において、スキンコアを有しない凝固形態となるよう凝固浴の成分あるいは条件を調節し、かつ、特定倍率で可塑延伸を実施し、さらに、飽和水蒸気中で特定の熱処理を実施する。
なお、本発明における「繊維中に残存する残存溶媒量」とは、以下の方法で得られる値をいう。
【0013】
(残存溶媒量の測定方法)
洗浄工程の出側にて繊維をサンプリングし、該繊維を遠心分離機(回転数5,000rpm)に10分かけ、このときの繊維質量(M1)を測定する。この繊維を、質量M2gのメタノール中で4時間煮沸し、繊維中のアミド系溶媒および水を抽出する。抽出後の繊維を105℃雰囲気下で2時間乾燥し、乾燥後の繊維質量(P)を測定する。また、抽出液中に含まれるアミド系溶媒の質量濃度(C)を、ガスクロマトグラフにより求める。
繊維中に残存する溶媒量(アミド系溶媒質量)N(%)は、上記のM1、M2、P、およびCを用いて、下記式により算出する。
N=[C/100]×[(M1+M2−P)/P]×100
【0014】
〔300℃での乾熱収縮率〕
本発明のフィルター材を構成するメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、300℃乾熱収縮率が3.0%以下である。3.0%以下であることが必須であり、2.9%以下が好ましく、2.8%以下がさらに好ましい。収縮率が3.0%を超える場合には、高温雰囲気下での使用時に製品寸法が変化し、製品の破損が生じる等の問題が発生するため好ましくない。
メタ型全芳香族ポリアミド繊維の300℃での乾熱収縮率は、繊維の製造工程において、飽和水蒸気中で特定の熱処理を実施することにより制御することができる。300℃乾熱収縮率を3.0%以下とするためには、飽和水蒸気処理工程における延伸倍率を、0.7〜5.0倍の範囲とすればよい。延伸倍率が5.0倍を超える場合には、延伸時の単糸切れが増大し、毛羽や工程断糸が発生するため好ましくない。
なお、本発明における「300℃での乾熱収縮率」とは、以下の方法で得られる値をいう。
【0015】
(300℃での乾熱収縮率の測定方法)
約3,300dtexのトウに98cN(100g)の荷重を吊るし、互いに30cm離れた箇所に印をつける。荷重を除去後、トウを300℃雰囲気下に15分間置いた後、印間の長さLを測定する。測定結果Lをもとに、下記式にて得られる値を300℃乾熱収縮率(%)とする。
300℃乾熱収縮率(%)=[(30−L)/30]×100
【0016】
〔破断強度〕
本発明のフィルター材に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維の破断強度は、3.0cN/dtex以上であることが好ましい。3.0cN/dtex以上であることが必須であり、3.5cN/dtex以上であることがより好ましく、4.0cN/dtex以上であることが特に好ましい。破断強度が3.0cN/dtex未満である場合には、紡績等の後加工工程において繊維が破断し、通過性が悪化するため好ましくない。また、加工した製品の破断強度も低くなる。
メタ型全芳香族ポリアミド繊維の「破断強度」は、繊維の製造工程において、特定倍率で可塑延伸を実施することにより制御することができる。破断強度を3.0cN/dtex以上とするためには、可塑延伸浴延伸工程における延伸倍率を1.5〜10倍とすればよい。
【0017】
なお、ここでいう「破断強度」とは、JIS L 1015に基づき、測定機器としてインストロン社製、型番5565を用いて、下記の測定条件で測定して得られる値をいう。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
【0018】
〔限界酸素指数(LOI)〕
なお、本発明のフィルター材に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維の限界酸素指数(LOI)は、好ましくは28以上である。29以上がさらに好ましく、30以上が特に好ましい。限界酸素指数(LOI)が28未満の場合には、高温雰囲気下での使用時に、製品が高熱により着火する恐れがあるため好ましくない。
メタ型全芳香族ポリアミド繊維の限界酸素指数(LOI)は、残存溶媒量を低減することにより制御することができる。限界酸素指数(LOI)を28以上とするためには、残存溶媒量を1.0%以下とすればよい。
【0019】
なお、本発明における「限界酸素指数(LOI)」とは、JIS K 7201のLOI測定法に基づき、綿状にした繊維材料をニードルパンチ加工によりシート状に成形した不織布につき、以下の測定条件で測定して得られる値をいう。
(測定条件)
試験片の形 :V
寸法 :140m×52mm
点火手順 :B(伝ぱ点火)
酸素濃度間隔:0.2%
【0020】
〔破断伸度〕
また、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の破断伸度は、30%以上であることが好ましい。35%以上であることがさらに好ましく、40%以上であることが特に好ましい。破断伸度が30%未満である場合には、紡績等の後加工工程における通過性が悪化するため好ましくない。
なお、ここでいう「破断伸度」とは、JIS L 1015に基づき、測定機器としてインストロン社製、型番5565を用いて、上記した「破断強度」と同一の測定条件で測定して得られる値をいう。
【0021】
〔繊度〕
メタ型全芳香族ポリアミド繊維の総繊度は、織成作業上、200〜1,700dtexの範囲であることが好ましい。繊度が200dtex未満となる場合には、必要とする目付けを得ることが困難となる。また、単糸繊度は、0.5〜6dtexの範囲であることが好ましい。0.5dtex未満となる場合には、織成の際、単糸切れによる毛羽を生じ、織成作業が困難となる。一方で、単糸繊度が6dtexを超える場合には、単糸間のバラケを生じやすくなる。
【0022】
[メタ型全芳香族ポリアミドの構成]
本発明のフィルター材を構成するメタ型全芳香族ポリアミド繊維の原料となるメタ型全芳香族ポリアミドは、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸成分とから構成されるものであり、本発明の目的を損なわない範囲内で、パラ型等の他の共重合成分が共重合されていてもよい。
本発明において特に好ましく使用されるのは、力学特性、耐熱性の観点から、メタフェニレンイソフタルアミド単位を主成分とするメタ型全芳香族ポリアミドである。メタフェニレンイソフタルアミド単位から構成されるメタ型全芳香族ポリアミドとしては、メタフェニレンイソフタルアミド単位が、全繰り返し単位の90モル%以上であることが好ましく、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは100モル%である。
【0023】
〔メタ型全芳香族ポリアミドの原料〕
(メタ型芳香族ジアミン成分)
メタ型全芳香族ポリアミドの原料となるメタ型芳香族ジアミン成分としては、メタフェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン等、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルキル基等の置換基を有する誘導体、例えば、2,4−トルイレンジアミン、2,6−トルイレンジアミン、2,4−ジアミノクロルベンゼン、2,6−ジアミノクロルベンゼン等を例示することができる。なかでも、メタフェニレンジアミンのみ、または、メタフェニレンジアミンを70モル%以上含有する混合ジアミンであることが好ましい。
【0024】
(メタ型芳香族ジカルボン酸成分)
メタ型全芳香族ポリアミドの原料となるメタ型芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドを挙げることができる。メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、イソフタル酸クロライド、イソフタル酸ブロマイド等のイソフタル酸ハライド、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体、例えば3−クロルイソフタル酸クロライド、3−メトキシイソフタル酸クロライド等を例示することができる。なかでも、イソフタル酸クロライドのみ、または、イソフタル酸クロライドを70モル%以上含有する混合カルボン酸ハライドであることが好ましい。
【0025】
(共重合成分)
上記のメタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸成分以外で使用しうる共重合成分としては、例えば、芳香族ジアミンとして、パラフェニレンジアミン、2,5−ジアミノクロルベンゼン、2,5−ジアミノブロムベンゼン、アミノアニシジン等のベンゼン誘導体、1,5−ナフチレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルケトン、4,4’−ジアミノジフェニルアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。一方、芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸クロライド、1,4−ナフタレンジカルボン酸クロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸クロライド、4,4’−ビフェニルジカルボン酸クロライド、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸クロライド等が挙げられる。
【0026】
これらの共重合成分の共重合比は、あまりに多くなりすぎるとメタ型全芳香族ポリアミドの特性が低下しやすいため、ポリアミドの全酸成分を基準として20モル%以下とすることが好ましい。特に、好適なメタ型全芳香族ポリアミドは、上記した通り、全繰返し単位の90モル%以上がメタフェニレンイソフタルアミド単位であるポリアミドであり、なかでもポリメタフェニレンイソフタルアミドが特に好ましい。
【0027】
〔メタ型全芳香族ポリアミドの製造方法〕
メタ型全芳香族ポリアミドの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸クロライド成分とを原料とした溶液重合や界面重合等により製造することができる。
【0028】
メタ型全芳香族ポリアミドの重合度としては、30℃の濃硫酸を溶媒として測定した固有粘度(IV)として、1.3〜3.0の範囲が適当である。
【0029】
<メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法>
本発明のフィルター材を構成するメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、上記の製造方法によって得られたメタ型全芳香族ポリアミドを用いて、例えば、以下に説明する紡糸液調製工程、紡糸・凝固工程、可塑延伸浴延伸工程、洗浄工程、飽和水蒸気処理工程、乾熱処理工程を経て製造される。
【0030】
[紡糸液調製工程]
紡糸液調製工程においては、メタ型全芳香族ポリアミドをアミド系溶媒に溶解して、紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を調製する。紡糸液の調製にあたっては、通常、アミド系溶媒を用い、使用されるアミド系溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を例示することができる。これらのなかでは溶解性と取扱い安全性の観点から、NMPまたはDMAcを用いることが好ましい。
溶液濃度としては、次工程である紡糸・凝固工程での凝固速度および重合体の溶解性の観点から、適当な濃度を適宜選択すればよく、例えば、ポリマーがポリメタフェニレンイソフタルアミドで溶媒がNMPの場合には、通常は10〜30質量%の範囲とすることが好ましい。
【0031】
[紡糸・凝固工程]
紡糸・凝固工程においては、上記で得られた紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を凝固液中に紡出して凝固させ、多孔質繊維状物を得る。
紡糸装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の湿式紡糸装置を使用することができる。また、安定して湿式紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態、孔形状等は特に制限する必要はなく、例えば、孔数が500〜30,000個、紡糸孔径が0.05〜0.2mmのスフ用の多ホール紡糸口金等を用いてもよい。
また、紡糸口金から紡出する際の紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)の温度は、10〜90℃の範囲が適当である。
残存溶媒量が十分に低減した繊維を得るためには、十分な程度にまで繊維の緻密化を行う必要があり、そのためには、紡糸・凝固工程の凝固段階で形成される多孔質繊維状物の構造を、できる限り均質なものとすることが極めて重要である。多孔構造と凝固浴の条件とは緊密な関係があり、凝固浴の組成と温度条件の選定は極めて重要である。
【0032】
本発明で使用する繊維を得るための凝固浴は、実質的にアミド系溶媒と水との2成分からなる水溶液で構成される。この凝固浴組成におけるアミド系溶媒としては、メタ型全芳香族ポリアミドを溶解し、水と良好に混和するものであれば特に限定されるものではないが、特に、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン等を好適に用いることができる。
【0033】
アミド系溶媒と水との最適な混合比は、重合体溶液の条件によっても若干変化するが、一般的に、アミド系溶媒の割合が水溶液全体に対して40質量%〜60質量%の範囲であることが好ましい。この範囲を下回る条件では、繊維表面に強固なスキン層が形成され低分子量成分の残存量が多くなる。さらに、凝固繊維中に非常に大きなボイドが生じやすくなり、その後の糸切れの原因となりやすくなる。一方で、この範囲を上回る条件では、凝固が進まず、繊維の融着が起こりやすくなる。
【0034】
均質な構造の多孔質繊維状物を得るための凝固浴としては、実質的にアミド系溶媒と水だけで構成されることが好ましい。しかしながら、塩化カルシウム、水酸化カルシウム等の無機塩類がポリマー溶液中から抽出されてくるため、実際には、凝固液にはこれらの塩類が少量含まれる。工業的な実施における塩類の好適濃度は、凝固液全体に対して0.3質量%〜10%質量の範囲である。無機塩濃度を0.3質量%未満とするためには、凝固液の回収プロセスにおける精製のための回収コストが著しく高くなるため適切ではない。一方で、無機塩濃度が10質量%を超える場合には、凝固速度が遅くなることから、紡糸口金から吐出された直後の繊維に融着が発生しやすくなり、また、凝固時間が長時間となるため凝固設備を大型化せざるを得なくなり好ましくない。
【0035】
凝固浴の温度は、凝固液組成と密接な関係があるが、一般的には、生成繊維中にフィンガーとよばれる粗大な気泡上の空孔が出来にくいため、高温にする方が好ましい。しかしながら、凝固液濃度が比較的高い場合には、あまり高温にすると繊維の融着が激しくなる。このため、凝固浴の好適な温度範囲は20〜70℃であり、より好ましくは25〜60℃である。
【0036】
なお、凝固浴中での繊維状物(糸条体)の浸漬時間は、1.5〜30秒の範囲とすることが好ましい。浸漬時間が1.5秒未満の場合には、繊維状物の形成が不十分となり断糸が発生する。一方で、浸漬時間が30秒を超える場合には、生産性が低くなるため好ましくない。
【0037】
[可塑延伸浴延伸工程]
可塑延伸浴延伸工程においては、凝固浴にて凝固して得られた多孔質繊維状物(糸条体)からなる繊維束が可塑状態にあるうちに、当該繊維束を可塑延伸浴中にて延伸処理する。
本発明で使用する繊維を得るための可塑延伸浴は、アミド系溶媒の水溶液からなり、塩類は実質的に含まれない。このアミド系溶媒としては、メタ型アラミドを膨潤させ、かつ、水と良好に混和するものであれば、特に限定されるものではない。かかるアミド系溶媒しては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン等を挙げることができる。工業的には、可塑延伸浴液とするアミド系溶媒は、上記凝固浴に用いたものと同じ種類の溶媒を用いることが特に好ましい。すなわち、重合体溶液、凝固浴および可塑延伸浴に用いるアミド系溶媒は同種であることが好ましく、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドのうちから選ばれる単独溶媒、または、2種以上からなる混合溶媒を用いることが好都合である。同種のアミド系溶媒を用いることによって、回収工程を統合・簡略化することができ、経済的に有益となる。
【0038】
可塑延伸浴の温度と組成とはそれぞれ密接な関係にあるが、アミド系溶媒の質量濃度が20〜70質量%、かつ、温度が20〜70℃の範囲であれば、好適に用いることができる。この範囲より低い領域では、多孔質繊維状物の可塑化が十分に進まず、可塑延伸において十分な延伸倍率をとることが困難となる。一方で、これの範囲より高い領域では、多孔質繊維の表面が溶解して融着するため、良好な製糸が困難となる。
【0039】
本発明に用いられる繊維を得るにあたっては、可塑延伸浴中の延伸倍率を、1.5〜10倍の範囲とする必要があり、好ましくは2.0〜6.0倍の範囲とする。延伸倍率が1.5倍未満の場合には、得られる繊維の強度、弾性率等の力学特性が低くなり、本発明のフィルター材を構成する繊維に必要な破断強度を達成することが困難となる。また、多孔質繊維状物からの脱溶剤を十分に促進することが困難となり、最終的に得られる繊維の残存溶媒量を1.0質量%以下とすることが困難となる。なお、可塑延伸浴延伸工程において高倍率で延伸を施すことにより、強度、弾性率等が向上して良好な物性を示す繊維が得られるようになると同時に、多孔質繊維状物の微細孔が引きつぶされ、後の熱処理工程における緻密化が良好に進行するようになる。ただし、延伸倍率が10倍を超えるような高倍率で延伸した場合には、工程の調子が悪化して毛羽や単糸切れが多く発生するため好ましくない。
【0040】
[洗浄工程]
洗浄工程においては、上記可塑延伸浴延伸工程を経た繊維を、十分に洗浄する。洗浄は、得られる繊維の品質面に影響を及ぼすことから、多段で行なうことが好ましい。特に、洗浄工程における洗浄浴の温度および洗浄浴液中のアミド系溶媒の濃度は、繊維からのアミド系溶媒の抽出状態および洗浄浴からの水の繊維中への浸入状態に影響を与える。このため、これらを最適な状態とする目的においても、洗浄工程を多段とし、温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件を制御することが好ましい。洗浄工程を多段とすることにより、低分子量成分を低減させることができる。
温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件については、最終的に得られる繊維の品質を満足できるものであれば特に限定されるものではないが、最初の洗浄浴を60℃以上の高温とすると、水の繊維中への浸入が一気に起こるため、繊維中に巨大なボイドが生成し、品質の劣化を招く。このため、最初の洗浄浴は、30℃以下の低温とすることが好ましい。引き続き、50〜90℃の温水で洗浄することが好ましい。
【0041】
[飽和水蒸気処理工程]
飽和水蒸気処理工程においては、洗浄工程において洗浄された繊維を、飽和水蒸気中で熱処理する。飽和水蒸気処理をおこなうことにより、繊維の結晶化を抑制しつつ配向を高めることが可能となる。飽和水蒸気雰囲気での熱処理は、乾熱処理と比較して繊維束内部まで均一に熱処理することが可能となり、均質な繊維を得ることができる。
さらに驚くべきことに、飽和水蒸気雰囲気で熱処理を行うと、繊維表面が結晶化せず、スキン層が形成されない。このため、繊維束の各単繊維中に残存する溶媒を、急速に拡散することができ、繊維内部からほぼ完全に除去することが可能となる。したがって、飽和水蒸気熱処理を実施することにより、最終的に得られる繊維中の残存溶媒量を、1.0質量%以下にまで低減することが可能となる。
【0042】
飽和水蒸気処理工程における飽和水蒸気圧は、0.02〜0.50MPaの範囲とする。好ましくは0.03〜0.30MPaの範囲、さらに好ましくは0.04〜0.20MPaの範囲である。飽和水蒸気圧が0.02MPa未満の場合には、十分な蒸気処理効果が得られず、残存溶媒量を低減させる効果が小さくなるため好ましくない。一方で、飽和水蒸気圧が0.50MPaを超える場合には、繊維の結晶化が促進されすぎて繊維表面にスキン層が形成されるため、残存溶媒量を十分に低減することが困難となる。
【0043】
飽和水蒸気処理工程における延伸倍率は、繊維の強度の発現にも密接な関係を持っている。延伸倍率は、製品に求められる物性を考慮して必要な倍率を任意に選択すればよいが、本発明においては0.7〜5.0倍の範囲であり、好ましくは1.1〜2.0倍の範囲とすることが好ましい。延伸倍率が0.7倍未満の場合には、飽和水蒸気雰囲気中での繊維束(糸条)の収束性が低下するので好ましくない。一方で、延伸倍率が5倍を超える場合には、延伸時の単糸切れが増大し、毛羽や工程断糸が発生するため好ましくない。また、飽和水蒸気処理工程における延伸倍率を0.7〜5.0倍の範囲とすれば、発明のフィルター材を構成する繊維に必要な300℃での乾熱収縮率を3.0%以下とすることができる。
なお、ここでいう延伸倍率とは、処理前の繊維長に対する処理後の繊維長の比で表される。例えば、延伸倍率0.7倍とは、飽和水蒸気処理工程により繊維が原長の70%に制限収縮処理されることを意味し、1.1倍とは10%伸長するよう処理されることを意味する。
【0044】
なお、飽和水蒸気処理の時間は、0.5〜5.0秒の範囲とすることが好ましい。走行する繊維束を連続的に処理する場合には、水蒸気処理槽中の繊維束の走行距離と走行速度とによって処理時間が決まるため、これらを適宜調整して最も効果のある処理時間を選択すればよい。
【0045】
[乾熱処理工程]
乾熱処理工程においては、飽和水蒸気処理工程を経た繊維を、乾燥・熱処理する。乾熱処理の方法としては特に限定されるものではないが、例えば、熱板、熱ローラ等を用いる方法を挙げることができる。乾熱処理を経ることにより、最終的に、本発明のフィルター材を構成するメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることができる。
【0046】
乾熱処理工程における熱処理温度は、250〜400℃の範囲とすることが好ましく、より好ましくは300〜380℃の範囲である。乾熱処理温度が250℃未満である場合には、多孔質の繊維を十分に緻密化させることが出来ないため、得られる繊維の力学特性が不十分となる。一方で、乾熱処理温度が400℃を超える高温では、繊維の表面が熱劣化し、品位が低下するため好ましくない。
【0047】
乾熱処理工程における延伸倍率は、得られる繊維の強度の発現に密接な関係を持っている。延伸倍率は、繊維に要求される強度等に応じて任意の倍率を選ぶことができるが、0.7〜4倍の範囲とすることが好ましく、1.5〜3倍の範囲とすることがさらに好ましい。延伸倍率が0.7倍未満の場合には、工程張力が低くなるために繊維の力学特性が低下し、一方で、延伸倍率が4倍を超える場合には、延伸時の単糸切れが増大し、毛羽や工程断糸が発生する。なお、ここでいう延伸倍率とは、上記飽和水蒸気処理工程で説明したのと同様に、延伸処理前の繊維長に対する処理後の繊維長の比で表される。例えば、延伸倍率0.7倍とは、乾熱処理工程により繊維が原長の70%に制限収縮処理されることを意味し、延伸倍率1.0倍とは定長熱処理を意味する。
【0048】
乾熱処理工程における処理時間は、1.0〜45秒の範囲とすることが好ましい。処理時間は、繊維束の走行速度と熱板、熱ローラ等との接触長とによって調整することができる。
【0049】
[捲縮工程等]
乾熱処理が施されたメタ型全芳香族ポリアミド繊維には、必要に応じて、さらに捲縮加工を施してもよい。さらに、捲縮加工後は、適当な繊維長に切断し、次工程に提供してもよい。また、場合によっては、マルチフィラメントヤーンとして巻き取ってもよい。
【0050】
<メタ型全芳香族ポリアミド繊維を用いたフィルター材>
本発明のフィルター材は、以上のようなメタ型全芳香族ポリアミド繊維を主体とするフィルターである。ここで、「主体とする」とは、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維が50質量%以上用いられていればよく、そのほかパラ型全芳香族ポリアミド繊維や、アラミド共重合体、ポリアミドイミド、ポリオキサジアゾール、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリベンズイミダゾール、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラス、セラミックス、炭素繊維およびこれらの混合物の繊維を用いることが出来る。さらに、使用温度が、200℃を下回るような場合は、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維などのポリエステル繊維、ナイロン6、ナイロン6,6繊維などの脂肪族ポリアミド繊維、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ビスコース、変性セルロースおよびその混合物を用いることが出来る。
【0051】
本発明のフィルター材は、以上のようメタ型全芳香族ポリアミド繊維を用いて、用途などにより織物、あるいは不織布の形態に加工して用いることができる。紙などの繊維構造物は強度が不足しているためにフィルターとして使用することは不可能であり、また編物はダストを払い落とす際の寸法変化が大きいために吹き漏れダスト量が多くなり使用されることはない。
【0052】
フィルター材として、織物を使用する場合、フィラメント糸、あるいは紡績糸織物などを平織、綾織、朱子織などの織構成にすることが好ましく用いられる。この際の織物の目付は、100〜700g/m2、好ましくは200〜400g/m2 が適当であり、100g/m2未満であるとフィルター材としての集塵効率が極端に低くなり、一方、700g/m2を超えると柔軟性が損なわれてしまう。
【0053】
また、フィルター材として、不織布を使用する場合、フィルター材の強度を向上させるために、基布を使用することもできる。基布は、総繊度が110〜1,560dtex、好ましくは275〜1,100dtexのヤーン(フィラメント糸または紡績糸)で構成される織物、例えば平織、綾織、朱子織などの織物組織が好ましく、なかでも平織物、特にメッシュ状の平織物であるスクリムが好ましい。基布に、該繊維(短繊維)からなるフェルトを一体成形する方法は特に限定する必要はなく、通常は該基布の上下に該繊維からなるウェブを積層し、常法、例えば両面からニードルパンチングする方法により得られる。
この際の不織布の目付は、200〜1,500g/m、好ましくは400〜600g/m2 が適当であり、200g/m2未満であるとフィルターとしての集塵効率が極端に低くなり、一方、1,500g/m2を超えると柔軟性が損なわれてしまう。
【実施例】
【0054】
以下、実施例および比較例により本発明を更に詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施例および比較例は本発明の理解を助けるためのものであって、これらの記載によって本発明の範囲が限定されるものではない。なお、例中の「部」および「%」は特に断らない限りすべて質量に基づくものであり、量比は特に断らない限り質量比を示す。また、実施例および比較例における各物性値は下記の方法で測定した。
【0055】
[固有粘度(I.V.)]
ポリマーを97%濃硫酸に溶解し、オストワルド粘度計を用い30℃で測定した。
[繊度]
JIS L1015に基づき、正量繊度のA法に準拠した測定を実施し、見掛繊度にて表記した。
【0056】
[破断強度、破断伸度]
JIS L1015に基づき、インストロン社製 型番5565を用いて、以下の条件で測定した。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
【0057】
[残留溶媒量]
洗浄工程の出側にて繊維をサンプリングし、該繊維を遠心分離機(回転数5,000rpm)に10分かけ、このときの繊維質量(M1)を測定した。この繊維を、質量M2gのメタノール中で4時間煮沸し、繊維中のアミド系溶媒および水を抽出した。抽出後の繊維を105℃雰囲気下で2乾燥し、乾燥後の繊維質量(P)を測定した。また、抽出液中に含まれるアミド系溶媒の質量濃度(C)を、ガスクロマトグラフにより求めた。
繊維中に残存する溶媒量(アミド系溶媒質量)N(%)は、上記のM1、M2、P、およびCを用いて、下記式により算出した。
N=[C/100]×[(M1+M2−P)/P]×100
[繊維の密度]
繊維の密度は、テトラクロロエタンとシクロヘキサンを溶媒に用いる浮沈法によって測定した。
【0058】
[300℃乾熱収縮率]
約3,300dtexのトウに98cN(100g)の荷重を吊るし、互いに30cm離れた箇所に印をつけた。荷重を除去後、トウを300℃雰囲気下に15分間置いた後、印間の長さLを測定した。測定結果Lをもとに、下記式にて得られる値を300℃乾熱収縮率(%)とした。
300℃乾熱収縮率(%)=[(30−L)/30]×100
【0059】
[繊維中に残存する低分子量成分量N(%)]
NMPにLiClを0.01モル/L溶解させた溶液に繊維を溶解し、ポリスチレン換算のゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を測定した。低分子量成分量はGPCで求められる分子量(M)から、以下の数式(1)で求められる値である。
N(%)=100×ΣMi(10,000未満)Ni/ΣMi(Total)Ni……(1)
Mi:GPC測定から得られるi番目の溶出時間の分子量
Ni:分子量Miの個数
【0060】
[フェルトの破断伸度]
JIS L 1096:1999 8.12.1 A法(ストリップ法)のラベルドストリップ法に則り、タテ方向について、試験片を3枚ずつ採取し、幅50mmとし、定速緊張型の試験機にて、つかみ間隔200mm、引張速度200mm/minで試験したときの破断伸度を測定し、タテ方向について平均値を算出した。
【0061】
[フェルトのパルスジェットテスト]
高温ガス中で捕集試験を実施したフェルトに対し、ノズル径5mm、ノズル長200mm、ノズル先端〜フエルト距離50mmのノズルより、元圧1.0kg/cmのエアーを間欠的に100回吹き出させ、フェルトの状態を確認した。
【0062】
<実施例1>
(a)溶液重合紡糸原液の調製
温度計、攪拌装置および原料投入口を備えた反応容器に、モレキュラーシーブスで脱水したNMP 815部を入れ、このNMP中にメタフェニレンジアミン 108部を溶解した後、0℃に冷却した。この冷却したジアミン溶液に、蒸留精製し窒素雰囲気中で粉砕したイソフタル酸クロライド 203部を攪拌下に添加して反応させた。反応温度は約50℃に上昇し、この温度で60分間攪拌を継続し、さらに60℃に加温して60分間反応させた。反応終了後、水酸化カルシウム 70部を微粉末状で添加して60分かけ中和溶解した(1次中和)。残りの水酸化カルシウム 4部をNMP 83部に分散したスラリー液を調製し、この水酸化カルシウム含有スラリー(中和剤)を重合溶液に攪拌しながら添加した(2次中和)。この2次中和は40〜60℃で約60分間攪拌して実施し、水酸化カルシウムを完全に溶解させた紡糸原液となる重合体溶液を調製した。
この溶液(紡糸原液)の重合体濃度(PN濃度、すなわち重合体とNMPの合計100部に対する重合体の部数)は14であり、生成したポリメタフェニレンイソフタルアミド重合体のI.V.は2.37であった。また、この重合体溶液の塩化カルシウム濃度および水の濃度は、重合体 100部に対し塩化カルシウム 46.6部、水 15.1部であった。
【0063】
(b)湿式紡糸
上記(a)で調製した紡糸原液を孔径0.07mm、孔数500の口金より浴温度40℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。この凝固浴は、水/NMP/塩化カルシウム=48/48/4(質量比)の組成の浴を用い、浸漬長(有効凝固浴長)70cmにて糸速5m/分で通過させた。
【0064】
(c)可塑延伸
凝固浴から出た繊維束を、引き続き、可塑延伸浴中にて3倍の延伸倍率で延伸を行った。このときの可塑延伸浴は、水/NMP/塩化カルシウム=44/54/2(質量比)の組成の浴を用い、温度40℃であった。
【0065】
(d)洗浄・飽和水蒸気処理
可塑延伸した繊維束を30℃の冷水で十分に水洗を行った後、さらに60℃の温水で洗浄した。上記温水洗浄糸は、引き続き飽和水蒸気で満たされた内圧0.05MPaに保たれた容器中にて延伸倍率1.1倍で飽和水蒸気による熱処理を行った。このとき繊維束が約1.0秒間飽和水蒸気で処理されるよう諸条件を調整した。
【0066】
(e)乾熱処理
上記の飽和水蒸気処理に引き続いて、表面温度360℃の熱板上で延伸倍率1.0倍(定長)にて乾熱処理を行った後に巻き取った。
【0067】
(f)繊維の特性
かくして得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド延伸繊維は、十分に緻密化しており、その力学的特性は、後掲の表1に示すように、繊度2.2dtex、引張強度3.21cN/dtex、伸度36%であり、良好な力学特性を示し、品質もバラツキが無く、異常糸の発生は全く見られなかった。また、繊維中の残存溶媒量は0.68%、低分子量成分は0.86%と極微量であり、300℃乾熱収縮率は1.2%と従来の方法によるポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維が3.0%以上であるのに比べて、きわめて小さな値を示した。
【0068】
(g)フィルター材作製
上記メタ型全芳香族ポリアミド繊維(繊維長が約51mmの短繊維)を開綿後、針密度150本/cm、針深さ14mmの条件で、ニードルパンチ加工を行い、目付100g/m、厚み0.8mmの該メタ型全芳香族ポリアミド短繊維のみからなるフェルト(濾布)を製作した。このフェルトの伸度は17%であった。このフェルトに対し、300℃の高温ガス中のダスト捕集試験を行った。
【0069】
<実施例2>
用いる溶媒をDMAcに変更して実施例1と同様に溶液重合紡糸原液を製造し、これを紡糸原液に用いたこと以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を製造した。得られた繊維の力学特性など、およびこの繊維を用いたフェルトの、高温ガス中でのダスト捕集試験後のパルスジェットテスト結果は表1に示すとおりである。
【0070】
<比較例1〜2>
実施例1と同じ重合体溶液を用いて、乾熱処理時の延伸倍率を表1記載のように変更し、飽和水蒸気処理を省くこと以外は、全て実施例1と同様の方法によりポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を製造し、実施例1と同様にフェルトを作製し、高温ガス中でのダスト捕集試験後に耐パルスジェット性を評価した。その結果を表1に示す。
【0071】
<比較例3〜4>
実施例1と同じ重合体溶液を用いて、凝固浴中の溶媒比率を表1記載のように変更した以外は、全て実施例1と同様の方法によりポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を製造し、実施例1と同様にフェルトを作製し、高温ガス中でのダスト捕集試験後に耐パルスジェット性を評価した。その結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1の結果から明らかなように、実施例のフィルターは、パルスジェット試験後も変形が見られなかった。一方で、比較例は、伸度は変わらないものの、パルスジェット試験での変形・破断が認められた。すなわち、低分子量成分や残存溶媒量が多い場合、耐熱性フィルター材は高温環境下で品質低下を来たし、本発明の必須要件である低分子量成分が少なく、かつ溶媒量が少ないものとして初めて、優れた品質安定性を示すことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維(特にポリメタフェニレンイソフタルアミド系繊維)は、力学特性、耐熱性などが良好で繊維中に残存する低分子量成分ならびに溶媒量の少ないので、特に高温使用条件下であっても、物性品質の低下を抑制することができるため、本発明に係るメタ型全芳香族ポリアミド繊維を用いたフィルター材は、高温で使用されるバグフィルター濾布などのフィルター材として有用である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維を主体とするフィルター材であって、該メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、分子量10,000未満の低分子量の含有率が1.0質量%以下であり、繊維中に残存する残存溶媒量が1.0質量%以下であり、300℃での乾熱収縮率が3.0%以下であり、かつ破断強度が3.0cN/dtex以上であることを特徴とするフィルター材。
【請求項2】
メタ型全芳香族ポリアミドが、ポリメタフェニレンイソフタルアミドである請求項1記載のフィルター材。

【公開番号】特開2010−260006(P2010−260006A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113145(P2009−113145)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】