説明

フィルター

【課題】 機械的強度が高く、二次成形が容易なフィルター。
【解決手段】 多数の微細空隙を有する吸着剤粒子3が糸状のホットメルト接着剤4を介して一体となり、所要形状に成形される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、ガス吸着に好適なフィルターに関する。
【0002】
【従来の技術】実公平4−6808号公報に開示のフィルターは、無数の濾過用粒子を熱溶融性繊維チップをもって盤状または短柱状に融着させた濾過体本体を有する。繊維チップには、ポリプロピレンを芯とし、ポリエチレンを鞘とする捲縮性の複合繊維であって、長さ1〜10mm程度のものが使用されている。繊維チップと濾過用粒子とは、1:9〜1:15の重量比で混合され、繊維チップの少なくとも表面が溶融するような加熱条件下で加圧され、所要形状に成形される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記公知例は、繊維チップとしてポリプロピレンとポリエチレンとからなる複合繊維を例示するのみである。この複合繊維の鞘を形成しているポリエチレンも芯を形成しているポリプロピレンも、接着力に乏しいことは一般によく知られている。かような繊維を濾過用粒子どうしを接合するバインダーとして使用するには、少なくとも繊維表面のポリエチレンで粒子の表面を広く覆うか、またはポリエチレンを粒子表面の空隙や凹凸に深く浸潤させて、繊維と粒子との機械的な結合を多くしなければ、強度の高いフィルターを得ることができない。しかしながら、このようにすることは、濾過用粒子が、活性炭のように微細空隙によってその濾過性能を発揮するものである場合に、その微細空隙の多くを犠牲にすることになりかねない。また、ポリエチレンとポリプロピレンとは、溶融・軟化温度にかなりの差があって、これら両者を同時にほどよく軟化させられるような温度は無いに等しいから、この濾過体本体を加熱・加圧して所要形状に二次成形することは、必ずしも容易ではない。
【0004】この発明が課題とするのは、吸着剤粒子の微細空隙を犠牲にすることがなく、また所要形状に二次成形することが容易で、強度の高いフィルターを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するために、この発明が特徴とするところは、多数の微細空隙を有する吸着剤粒子が、アスペクト比13〜300の糸状を成すホットメルト接着剤を介して一体となり所要の形状に成形されているフィルターにある。
【0006】この発明の好ましい実施態様の一つにおいて、前記ホットメルト接着剤が、エチレン−酢酸ビニル共重合体である。
【0007】実施態様の他の一つにおいて、前記吸着剤粒子と前記ホットメルト接着剤との重量比が90:10〜75:25の範囲にある。
【0008】実施態様の他の一つにおいて、前記ホットメルト接着剤は、径が0.05〜0.3mm、長さが4〜15mmの糸状のものである。
【0009】実施態様のさらに他の一つにおいて、前記フィルターの表面が伸縮性のシート材料で覆われている。
【0010】
【発明の実施の形態】添付の図面を参照して、この発明に係るフィルターの詳細を説明すると、以下のとおりである。
【0011】図1,2,3は、厚さ10mm、直径80mmの円盤状に成形されているフィルター1の部分破断斜視図と、図1のフィルター1が高さ15mmのドーム状に2次成形されたフィルター加工品2の部分破断斜視図と、フィルター1の部分拡大図である。
【0012】これらの図において、フィルター1は、活性炭やゼオライト等の微細空隙を多数有する吸着剤粒子3と、糸状を成すホットメルト接着剤4とからなり、円盤の両面が通気性のシート5で覆われている。活性炭には、例えば8〜16メッシュのものが使用される。ホットメルト接着剤4には、長さと径との比であるアスペクト比が13〜300の糸状のもの、例えば4〜15mmの長さと0.05〜0.3mmの径とを有するものが使用される。接着剤4の長さと径とは、吸着剤粒子3との均一な混合物を得るうえで重要であり、接着剤4の特に好ましい長さは、4.5〜6mmである。
【0013】吸着剤粒子3とホットメルト接着剤4とは、均一に混合された後に金型内で加熱・加圧されて円盤状に成形される。成形の際には、金型の表面に被覆用シート5として熱可塑性合成繊維製の不織布を置く。これらの混合物では、糸状のホットメルト接着剤4が、軟化してすぐれた接着力を発揮する。ただし、ホットメルト接着剤4は、流動して本来の形状を失うことがない程度を目安として加熱・加圧される。かかる加熱・加圧が容易なホットメルト接着剤4として好ましいものの一例は、エチレン−酢酸ビニル共重合体である。強い接着力を有するホットメルト接着剤4を使用することによって、粒子3は、その表面が接着剤4で広く覆われていなくても、また空隙に接着剤4が深く浸潤しなくても、成形された形状を保つことができる。このことは、粒子3の吸着性能が、接着剤4によって著しく低下することがないことを意味している。
【0014】吸着剤粒子3とホットメルト接着剤4との重量混合比は、90:10〜75:25であることが好ましい。接着剤4の使用量は、フィルター1の機械的強度と成形性とに影響を与える。その量が10重量%未満であると、吸着剤粒子3どうしの結合が弱く、粒子3がフィルター1から脱落したり、フィルター1が脆くなったりする。また、その量が25重量%を超えると、フィルター1の単位厚み当りの濾過性能が実用に適さない程度にまで低下する。
【0015】図1のフィルター1は、ホットメルト接着剤4を加熱軟化させれば、加圧して図2の加工品2のようなものへと二次成形することができる。それゆえ、この発明に係るフィルター1は、それを適用すべき部位に最適な形状に成形したうえで利用することができる。フィルター1が防毒マスクに使用されるものであれば、フィルター1の形状を顔面の形状に合わせるように作ることで、防毒マスクを従来よりコンパクトなものにすることができる。因みに、これまでの防毒マスクの主流は、吸着剤粒子を容器に納め、この容器をマスクに着脱するもので、マスクが大きなものになりがちであった。フィルター1のシート5は、吸着剤粒子3の脱落を防止するために必要に応じて使用されるものであり、このシート5があると、フィルター1を二次成形するときの作業性が特に向上する。このように利用されるときのシート5は、伸縮性のものであることが好ましい。捲縮した複合繊維からなる不織布は、好ましいものの一例である。
【0016】
【実施例】8〜16メッシュの活性炭粒子85重量%と、径が0.1〜0.2mm,長さが4.5〜5mmのエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる糸状のホットメルト接着剤15重量%とを均一に混合して、坪量30g/m2,繊度2dの捲縮した複合繊維製不織布でサンドウィッチ状に挟み、95°Cで4分間加熱・加圧して直径80mm,厚さ10mmの円盤状ガスフィルターを得た。
(比較例)8〜16メッシュの活性炭粒子90重量%と、径が0.1〜0.15mm,長さが4.5〜5mmの糸状のポリプロピレン10重量%とを均一に混合して、実施例で使用した不織布でサンドウィッチ状に挟み、160°Cで10分間加熱・加圧して実施例と同じ形状のガスフィルターを得た。
(フィルターの除毒性能の評価)実施例と比較例のフィルターそれぞれの除毒性能を評価するために、フィルターに300ppmのシクロヘキサンガス含有空気を20L/minの流量で通気し、フィルター通過後の空気におけるシクロヘキサンガス濃度(下流濃度)が5ppmとなるまでの時間(破過時間)を測定した。評価の結果は、図4のとおりであった。
【0017】実施例と比較例のフィルターは、ほぼ同じ除毒性能を示した。
(機械的強度の評価)実施例と比較例のフィルターそれぞれの機械的強度を評価するために、フィルターを内径76mmの円筒状支持台に載せ、その中心を直径16mm,下降速度200mm/mimの円柱で押圧し、フィルターが破壊するときの最大荷重を求めた。結果は、図5R>5のとおりであった。
【0018】実施例のフィルターは、比較例のフィルターと比べ、破壊荷重が大きくて、破壊するまでの時間が長く、強靭なものであることがわかる。
【0019】
【発明の効果】この発明に係るフィルターでは、吸着剤粒子が接着力の強いホットメルト接着剤を介して一体となり所要の形状に成形されているから、吸着剤粒子の吸着性能を低下させることなく、フィルターの機械的強度が向上し、またフィルターの二次成形が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】フィルターの部分破断斜視図。
【図2】二次成形されたフィルターの部分破断斜視図。
【図3】フィルターの部分拡大図。
【図4】フィルターの破過時間を示すグラフ。
【図5】フィルターの強度試験結果を示すグラフ。
【符号の説明】
1 フィルター
2 吸着剤粒子
3 ホットメルト接着剤
5 シート材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】 多数の微細空隙を有する吸着剤粒子が、アスペクト比13〜300の糸状を成すホットメルト接着剤を介して一体となり所要の形状に成形されていることを特徴とするフィルター。
【請求項2】 前記ホットメルト接着剤が、エチレン−酢酸ビニル共重合体である請求項1記載のフィルター。
【請求項3】 前記吸着剤粒子と前記ホットメルト接着剤との重量比が、90:10〜75:25の範囲にある請求項1または2記載のフィルター。
【請求項4】 前記ホットメルト接着剤は、径が0.05〜0.3mm、長さが4〜15mmの糸状のものである請求項1〜3のいずれかに記載のフィルター。
【請求項5】 前記フィルターの表面が、伸縮性のシート材料で覆われている請求項1〜4のいずれかに記載のフィルター。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【公開番号】特開2000−126535(P2000−126535A)
【公開日】平成12年5月9日(2000.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−301342
【出願日】平成10年10月22日(1998.10.22)
【出願人】(000162940)興研株式会社 (75)
【Fターム(参考)】