説明

フィルタ装置

【課題】目詰まり等による作動流体の負圧の増加を防止できるフィルタ装置を提供する。
【解決手段】入口部(10a)から流入する作動流体を、夾雑物を捕捉するフィルタ(11)を通過させて出口部(10b)へと流出させるオイルストレーナ(10)であって、フィルタ(11)は、伸縮不能な素材により構成された第1のフィルタ(102)と、伸縮可能な素材により構成された第2のフィルタ(102)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の変速機等に用いられるオイルストレーナ等のフィルタ装置に関し、特に、目詰まり等による作動流体の圧力の増加を防止できるフィルタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される変速機には、作動流体に含まれる夾雑物がポンプや油圧回路に混入することを防ぐために、フィルタ装置としてオイルストレーナが装着される。
【0003】
オイルストレーナは、夾雑物をできるだけ捕捉できるとともに、目詰まりによって流量が低下することによるオイルの吸入圧力の増加を防止することが求められる。
【0004】
このようなオイルストレーナとして、目の細かい第1濾過部材と目の粗い第2濾過部材とを並列に設け、オイルストレーナの流入側空間の油圧が上昇したときに第1濾過部材から油が流れるように可動仕切り板を設けたオイルストレーナ(特許文献1参照。)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−319436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のような従来のオイルストレーナは、油圧が上昇していないときは第1濾過部材のみに油が流れるので、油圧が上昇していない間は、必要な濾過面積を第1濾過部材のみ確保する必要がある。そして、この第1濾過部材に加えて、油圧が上昇したときに備えて第2濾過部材及び可動仕切り板をさらに設けている。このため、濾過部材が大きくなり、オイルストレーナが大型化するという問題があった。
【0007】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、フィルタ装置を大型化することなく、目詰まり等による作動流体の圧力の増加を防止できるフィルタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施態様によると、入口部から流入する作動流体を、夾雑物を捕捉するフィルタを通過させて出口部へと流出させるフィルタ装置であって、伸縮不能な素材により構成された第1のフィルタと、伸縮可能な素材により構成された第2のフィルタと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、通常時には第1のフィルタ及び第2のフィルタが夾雑物を捕捉し、作動流体の圧力が高くなったときに、伸縮可能な第2のフィルタが作動流体の流量を変化させるので、フィルタ装置を大型化することなく、目詰まり等による作動流体の圧力の増加を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態のオイルストレーナが適用されたオイル吸入回路の説明図である。
【図2】本発明の実施形態のオイルストレーナの説明図である。
【図3】本発明の実施形態のオイルストレーナの説明図である。
【図4】本発明の実施形態のオイルストレーナの変形例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0012】
本発明の実施形態のオイルストレーナ(フィルタ装置)10は、車両に搭載されるエンジンの回転速度を変速する変速機のオイル吸入回路に備えられる。
【0013】
図1は本発明の実施形態のオイルストレーナが適用されたオイル吸入回路1の説明図である。
【0014】
変速機のオイルパン20には作動流体としてのオイル(又はフルード)が貯留されている。エンジン等により駆動されるオイルポンプ40は、オイルパンに貯留されたオイルを吸入し、吸入したオイルに所定の油圧を与え、油路30を経由して図示しない油圧回路に供給する。油圧回路に供給されたオイルは、その後オイルパン20へと排出される。
【0015】
この油路30にはオイルストレーナ10が備えられる。オイルストレーナ10は、吸入されるオイルに含まれた夾雑物を捕捉するためのフィルタ11が備えられる。
【0016】
図2は、本発明の実施形態のオイルストレーナ10の説明図である。
【0017】
なお、図2(a)はオイルストレーナ10の側面断面図を示し、図2(b)はオイルストレーナ10の図2(a)のA−A断面図を示す。
【0018】
オイルストレーナ10は、箱形のケース103と、ケース103の内部に備えられるフィルタ11とによって構成される。フィルタ11は、第1のフィルタ101と第2のフィルタ102とによって構成される。
【0019】
また、オイルストレーナ10には、その内部にオイルが流入する入口部10aと、内部からオイルが流出する出口部10bとが備えられる。入口部10aはケース103の一の面に、出口部10bは入口部10aが備えられた面と向かい合う面に、それぞれ備えられる。
【0020】
なお、入口部10aは油路30を介してオイルパン20に連通する。出口部10bは、油路30を介してオイルポンプ40に連通する。
【0021】
ケース103は、入口部10a側の第1のケース103aと、出口部10b側の第2のケース103bとから構成される。第1のフィルタ101及び第2のフィルタ102は、これら第1のケース103aと第2のケース103bとに、その外周が挟持される。
【0022】
ケース103の内部には、第1のフィルタ101及び第2のフィルタ102が、入口部10a及び出口部10bが備えられた面と略平行に備えられる。これら第1のフィルタ101及び第2のフィルタ102は、ケース103の内部を、入口部10a側と出口部10b側とに二分する。なお、入口部10aはケース103の面の略中央に備えられる。また、出口部10bは、第1のフィルタ101側にオフセットした位置に備えられる。
【0023】
第1のケース103a及び第2のケース103bは、例えばプレスによって形成される。このとき、後述する壁部104を第1のケース103aの内側にプレスによって形成してもよい。このように形成された第1のケース103a及び第2のケース103bを、第1のケース103a及び第2のケース103bを挟み込んだ後に接合することによって、オイルストレーナ10が形成される。
【0024】
このような構成により、入口部10aから流入したオイルは、これら第1のフィルタ101及び第2のフィルタ102を通過して出口部10bから流出する。このときに、オイルに含まれる夾雑物が、これら第1のフィルタ101又は第2のフィルタ102に捕捉される。
【0025】
なお、図2(b)に示すように、第1のフィルタ101の面積は、第2のフィルタ102の面積よりも大きく構成される。これは、後述するように、通常時は主として第1のフィルタ101がオイル中の夾雑物を捕捉するためである。
【0026】
第1のフィルタ101は、金属材質(例えばステンレス)のメッシュ材(例えば綾織金網)によって構成される。この第1のフィルタは、通過するオイルの夾雑物を捕捉するのに適した大きさの目開きで構成される。
【0027】
また、第2のフィルタは、伸縮可能な材質(例えばポリアミド樹脂(ナイロン))のメッシュ材(例えば平織繊維網)によって構成される。この第2のフィルタは、メッシュ材が変形しない状態では、第1のフィルタ101と同じか、さらに小さい目開きで構成される。
【0028】
また、この第2のフィルタのメッシュは、オイルの吸入負圧が大きい場合にオイルの流れ方向に伸長して、目開きが変化するように構成される。
【0029】
第1のケース103aには、入口部10aと同じ面に、ケース103の内側へと向かって起立する壁部104が備えられる。この壁部104の端部に対向する位置に、第1のフィルタ101と第2のフィルタ102との境界部106が備えられる。この境界部106には、第1のフィルタ101及び第2のフィルタ102が接合される。
【0030】
図2(a)に図示するように、この壁部104は、入口部10aと接する位置に備えられる。そして、この壁部104と境界部106との間の空隙によって、流量制限部105が形成される。
【0031】
この流量制限部105は、入口部10aから第2のフィルタ102にオイルが流通する断面積を小さくする。このような構成により、通常は、流通するオイルの多くは第1のフィルタ101を通過するが、その一部のみが第2のフィルタ102を通過する。
【0032】
次に、このように構成されたオイルストレーナ10の作用を説明する。
【0033】
オイルストレーナ10は、通過するオイルに含まれる夾雑物を内部に備えられるフィルタ11によって捕捉することによって、オイルポンプ40又は油圧回路に不具合が発生することを予防する。
【0034】
一方で、フィルタ11に夾雑物が多く捕捉された場合、これによりオイルの通過抵抗が増加し、出口部10b側のオイルの負圧が上昇する。また、オイルの温度が低い場合やオイルの種類によってオイルの粘性抵抗が高い場合にも、出口部10b側のオイルの負圧が上昇する。このことにより、オイルポンプ40の吸入圧力が上昇して、オイル御ポンプ40又は油圧回路の動作に問題が発生しうる。
【0035】
このような問題に対して、本発明の実施形態は、以下に説明するような構成によって、出口部10b側のオイルの負圧の上昇を抑えるように構成した。
【0036】
前述したように、通常時(出口部10b側のオイルの負圧が上昇していない場合)入口部10aから流入したオイルの多くは第1のフィルタ101を通過する。また、第2のフィルタ102へは、流量制限部105によって、オイルの一部のみが通過する。これにより、夾雑物の多くは、第1のフィルタ101に捕捉される。
【0037】
ここで、第1のフィルタ101に多量の夾雑物が捕捉されて第1のフィルタが目詰まりした場合、または、オイルの粘性抵抗が高い場合には、オイルストレーナ10の出口部10b側のオイルの負圧が上昇する。これにより、オイルポンプ40の吸入圧力が増加する。
【0038】
このとき、出口部10b側のオイルの負圧の変化によって、第2のフィルタ102のたわみ量が変化する。これにより、第2のフィルタ102のメッシュ材が伸長して、目開き量が変化する。
【0039】
図3は、本発明の実施形態のオイルストレーナ10の説明図であり、第2のフィルタ102の目開き量が変化した状態を示す。
【0040】
この図3に示すように、出口部10b側のオイルの負圧の増加によって、第2のフィルタ102のメッシュ材がオイルの流れ方向に伸長する。これにより、第2のフィルタ102の目開き量が拡大する。目開き量の拡大によって第2のフィルタ102を通過するオイルの流量が増加するので、出口部10b側のオイルの負圧の上昇が抑えられる。
【0041】
このとき、第2のフィルタ102は、目開き量が拡大するものの、フィルタとしての機能は失われていないため、オイル中の夾雑物を捕捉するという機能は失われない。また、通常時は第2のフィルタ102を通過するオイルの流量は少ないため、夾雑物の捕捉量は少ない。そのため、目開き量が変化した場合にも、油路30に流出する夾雑物は少ない。
【0042】
なお、この第2のフィルタ102の目開き量は、出口部10b側のオイルの負圧に応じて変化する。すなわち、負圧が大きければ大きいほど、第2のフィルタ102のたわみ量がより大きくなり、目開き量がより大きくなる。
【0043】
従来、フィルタの目開き量が変化することは、夾雑物の捕捉というフィルタ本来の目的が損なわれる可能性があるため、目開き量は不用意に変化にないように構成していた。一方で、本発明の実施形態は、この目開き量の変化を積極的に用いることによって、オイルの圧力の上昇を抑えることに特徴がある。
【0044】
以上のように、本発明の実施形態では、オイル中の夾雑物を捕捉するフィルタ11を備えるオイルストレーナ10において、フィルタ11は、目開き量が不変の第1のフィルタ101と目開き量が可変の第2のフィルタ102とを並列に備えるように構成した。このような構成によって、オイルの粘性抵抗が高いときや、夾雑物の捕捉による目詰まりなど、オイルポンプ40の吸入負荷が高くなった場合に、第2のフィルタ102の目開き量が変化して、第1のフィルタ101と第2のフィルタ102とのオイルの流量の分配を変化させて、オイルストレーナ10全体としてのオイル流量を確保するので、吸入負荷の上昇を抑えることができる。
【0045】
また、出口部10bが第1のフィルタ101側にオフセットされ、さらに、第2のフィルタ102には、第2のフィルタ102へのオイルの流量を制限する流量制限部105を備えたので、出口部10b側のオイルの負圧が低い通常時には、オイルは第1のフィルタ101を主に流れ、第2のフィルタ102は一部のオイルのみが流れる。すなわち、第2のフィルタ102は、オイルの吸入負荷の増大時に備えるものではあるものの、通常時にも夾雑物を捕捉するというフィルタ11の機能の一部を受け持っている。これにより、第1のフィルタ101の面積を小さくすることができるとともに、第2のフィルタ102の面積も最小限で済むので、オイルストレーナ10が大型化することを抑えることができる。
【0046】
また、第2のフィルタ102は、出口部10b側のオイルの負圧に応じて、目開き量が変化するので、負圧に対応して動作する機構を備える必要がなく、従来周知のオイルストレーナ10に対して構造変更が小規模であり、オイルストレーナ10の製造コストを抑えることができる。
【0047】
また、第2のフィルタ102への流量を制限する流量制限部105を備えたので、出口部10b側のオイルの負圧が小さい通常時には、オイルの多くは第1のフィルタ101に流れるため、第2のフィルタ102が捕捉する夾雑物の量は僅かである。そのため、第2のフィルタ102の目開き量が大きく変化した場合にも、既に捕捉された夾雑物が油路へと流出することを抑えることができる。
【0048】
また、第1のケース103aをプレス形成する際に、同時に壁部104をプレス形成できるので、オイルストレーナ10の製造コストを抑えることができる。
【0049】
なお、本発明の実施形態では、第1のフィルタ101は、目開き量が不変の金属製メッシュ材を用いるとしたが、これに限られるものではない。例えば、第2のフィルタ102よりも伸縮性が小さく、目開き量がほとんど変化しないナイロン製のメッシュ材を用いてもよい。
【0050】
また、第2のフィルタ102の材質はナイロン製のメッシュ材を例示したが、これに限られるものではない。伸縮性を有し、負圧によって目開き量が変化する素材であれば、金属や樹脂成型物など、どのようなものでもよい。
【0051】
また、流量制限部105は、第1のケース103aの内部に壁部104を設け、第2のフィルタ102への流量を制限するように構成したが、これに限られるものではない。例えば、図4に示すように、壁部104と、第1のフィルタ101と第2のフィルタ102との境界部106とを一体に形成して、この壁部104に形成したスリットを流量制限部105としてもよい。また、オリフィスなど、第2のフィルタ102へのオイル流量を制限できるものであれば、どのような構造でもよい。
【0052】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0053】
1 オイル吸入回路
10 オイルストレーナ
10a 入口部
10b 出口部
20 オイルパン
30 油路
40 オイルポンプ
101 第1のフィルタ
102 第2のフィルタ
103 ケース
104 壁部
105 流量制限部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口部から流入する作動流体を、夾雑物を捕捉するフィルタを通過させて出口部へと流出させるフィルタ装置であって、
前記フィルタは、伸縮不能な素材により構成された第1のフィルタと、伸縮可能な素材により構成された第2のフィルタと、を備えることを特徴とするフィルタ装置。
【請求項2】
入口部から流入する作動流体を、夾雑物を捕捉するフィルタを通過させて出口部へと流出させるフィルタ装置であって、
前記フィルタは、
目開き量が略不変の第1のフィルタと、
前記第1のフィルタに並列に備えられ、前記第1のフィルタの目詰まり又は前記作動流体の粘性抵抗の増加によって前記出口部側の前記作動流体の負圧が増加したときに、目開き量を拡大して、前記作動流体の流量を増加させる第2のフィルタと、
を備えることを特徴とするフィルタ装置。
【請求項3】
前記第2のフィルタは、前記出口部側の前記作動流体の負圧に応じて、目開き量が変化することを特徴とする請求項1又は2に記載のフィルタ装置。
【請求項4】
前記第1のフィルタの面積は、前記第2のフィルタの面積よりも大きいことを特徴とする請求項1から3のいずれか一つの記載のフィルタ装置。
【請求項5】
前記第2のフィルタへの前記作動流体の流量を制限する流量制限部を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載のフィルタ装置。
【請求項6】
ケース内に起立した壁部を備え、
前記流量制限部は、前記壁部に備えられるとともに、前記第2のフィルタへの作動流体の流量を、前記第1のフィルタへの作動流体の流量より小さくすることを特徴とする請求項5に記載のフィルタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−207720(P2010−207720A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56398(P2009−56398)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】