説明

フィルタ部材およびこれを用いた液体ボトル

【課題】油分や界面活性剤を含む液体、酸、アルカリ性の液体、有機溶剤或いは熱湯及び表面張力の低い液体に対し、通気性を確保し耐久性の高いフィルタ部材と、該フィルタ部材を具備し通気性と液体の漏出防止を満足する液体ボトルを提供する。
【解決手段】多孔質セラミック2からなり、一方の面1aの気孔3から入った液体4を内部で保持可能に構成するとともに、一方の面1aの気孔3から入った気体5を他方の面1bから通気する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は通気性を有するとともに、液体の透過を防止したフィルタ部材と該フィルタ部材を通気フィルタとして用い内部の気圧と外部の気圧とを略同一に保つことができる液体ボトルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、液体の漏出防止効果を備えた気体透過性材料として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質体等の多孔質膜や不織布、メッシュなどが使用されている。最近、これらの気体透過性材料の撥油・撥水性を利用して通気フィルタとして多くの分野で使用されている。
【0003】
通気フィルタは、一般に各種密閉液体ボトルの通気口に防水・除塵の目的でも設けられている。例えば、カメラではズーミングやフォーカシングのために、電子機器や精密機械では温度変化に基づく器内圧力の変動を緩和するために用いられる。
【0004】
また、哺乳瓶等の液体ボトルでは、吸われて減圧になった内部に空気を導入するため、あるいは生体内に薬剤等を注入する輸液セットなどの医療用液体貯蔵液体ボトル、あるいは落圧差を利用した防腐薬剤等の注入器具等は液体ボトル内の気圧を外気圧に等しくする為に通気口が必要であり、これらの通気口に撥油・撥水通気フィルタが使用されている。これらのフィルタは外部あるいは内部の液体・水滴は通過せず、気体は通過する機能が必要である。
【0005】
しかし、自動車に搭載された電装品の防水通気フィルタのように、通気フィルタに用いられるフィルタ部材は、エンジンルームの中でエンジンオイル等の各種自動車オイルの油蒸気分の多い過酷な環境に曝されていた。また、一般生活環境においても、カメラ等の内部に精密部品や電子部品が組み込まれており、且つ通気性を保つためにフィルタ部材を具備し、該フィルタ部材が台所洗剤等の界面活性剤を含む液体や油脂分あるいは体脂に触れる場合が多い。
【0006】
更に薬剤などの注入用液体ボトルにフィルタ部材が用いられる場合、液体ボトルに注入される薬剤が強い酸性の場合、あるいは強いアルカリ性である場合、更にはアルコール、アセトン等の有機溶剤の場合がある。また、人体に使用する輸液セットに使用する場合は、減菌処理として高温でフィルタ部材を煮沸する必要がある場合もある。
【0007】
更に、図5に示すように、インクジェットのインク液体ボトル101ではオレフィン系樹脂等を親水処理した集合体102を液体ボトル内部に敷設し液体を含浸させるとともに、気体取り込み口103との間に空間を保持する様に設置することにより液体を漏出させることなく遮断し、気体取り込み口103から気体を内部へ取り入れられる様にして差圧を調整することが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
また、図6に示すように、ポリテトラフルオロエチレン等の撥水膜106を液体ボトル101の4角に取り付け、通気をとる等の手法をとり、撥液をはかるとともに外圧と内圧の差を緩和することも開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
更に、図7に示すように、プラスチック膜105にレーザー加工を施し、独立した均一な通気孔104を成形することにより気体の通過は許容し、一方で、液体は毛細管力により通過を阻止するような撥液処理を施すことにより撥液通気をとることも開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2001−162824号公報
【特許文献2】特開2003−266722号公報
【特許文献3】特開2003−88733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、フィルタ部材はこのように様々な状況下において用いられており、油分や界面活性剤が通気性フィルタに接触するとフィルタの耐水性、通気性が消失してしまうという課題や、また、酸、アルカリ性の液体、あるいは有機溶剤を用いる液体ボトルにフィルタ部材を用いる場合には、これらの液体によりフィルタ部材が腐食するという課題があった。
【0011】
さらに、フィルタ部材に対して煮沸などの高温処理を施す必要がある場合、該高温処理によりフィルタ部材が膨張し、該フィルタ部材が内部に有する気孔が閉塞して最終的には通気性が消失してしまうという課題があった。
【0012】
また、特許文献1のインクジェットのインク液体ボトル101では液体の遮断性と通気を確保するために液体ボトル101の大部分に樹脂からなる集合体102を充填する必要があり、充填するインク容量に制限が生じるとともに、親水化して樹脂に取り込まれたインクが放出されないという課題があった。
【0013】
また、特許文献2に開示されている撥水膜106を液体ボトル101の4角に取り付ける方法において、液体の表面張力が40mN/mを下回ると現存する撥水膜106では濡れが発生し、撥水膜106であるが故に毛細管現象の毛細管力による液体の保持力が小さいために気孔を通じて外部に漏れ出すという課題があった。
【0014】
さらに、特許文献3に開示されている方法によれば、レーザー加工により撥水処理した通気孔104は前記のように液体の表面張力が40mN/mを下回ると現存する撥水膜では濡れが発生し外部に漏れ出すという課題があり、いずれも従来のフィルタ部材を用いた液体ボトルを満足しうるものではなかった。
【0015】
従って、本発明は、油分や界面活性剤を含む液体、酸性及びアルカリ性の液体、有機溶剤或いは熱湯及び表面張力の低い液体に対して通気性を確保できる耐久性の高いフィルタ部材と、該フィルタ部材を具備し、通気性と液体の漏出防止効果とを具備する液体ボトルを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のフィルタ部材は、多孔質セラミックからなり、一方の面の気孔から入った液体を内部で保持可能に構成するとともに、一方の面の気孔から入った気体を他方の面から通気するように構成したことを特徴とする。
【0017】
さらに、前記多孔質セラミックがアルミナ、ムライト、ジルコニア、フォルステライト、シリカ、コージェライト、チタニアの少なくとも一種以上からなることを特徴とする。
【0018】
さらに、前記多孔質セラミックの平均気孔径が5〜200μmであることを特徴とする。
【0019】
さらに、前記多孔質セラミックの平均結晶粒径が0.02〜1mmであることを特徴とする。
【0020】
本発明の液体ボトルは、一方の室内は液体の収納、供給および吐出可能であり、他方の室内は外気と通気可能な通気口を備えてなり、前記一方の室内と前記他方の室内を前記多孔質セラミックからなるフィルタ部材で分離してなることを特徴とする。
【0021】
さらに、前記液体ボトルは、前記フィルタ部材を前記液体ボトルの室内に設けた支持体で保持したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明のフィルタ部材は、多孔質セラミックからなり、一方の面の気孔から入った液体を内部で保持可能に構成するとともに、一方の面の気孔から入った気体を他方の面から通気するように構成している。このように、多孔質セラミックからなることから、酸やアルカリ性或いは有機溶剤を使用するフィルタ部材として用いても腐食することがなく、さらに高温処理を施した場合においても気孔が閉塞し通気性が低下するという問題が発生しない。また、一方の面の気孔から入った液体を内部で保持可能に構成するとともに、一方の面の気孔から入った気体を他方の面から通気するように構成していることから、液体を気孔内で生じる毛細管力で効率よく吸着して保持し、かつ通気性を確保することができる。
【0023】
また、前記多孔質セラミックをアルミナ、ムライト、ジルコニア、フォルステライト、シリカ、コージェライト、チタニアの少なくとも一種以上からなる多孔質セラミックであると、親水性及び親油性が比較的高いため、水系や油系の液体に対して濡れが良いため、気孔内に液体が偏りなく均一に充填されて液体を保持し、蓋のように機能するので、気層と液層とを容易に分離することができる。さらに、上記したセラミックは、多孔質化しても蓋フィルタ部材として十分な強度が得られ、耐衝撃性も向上することとなる。しかも原料粒径、焼成温度により気孔径や気孔率をコントロールすることが可能であり、様々な表面張力を有する液体に対して対応することが可能となる。
【0024】
さらに、前記多孔質セラミックの平均気孔径を5〜200μmとしたことから、前記多孔質セラミックに対して双方向に通気を可能にするため、前記多孔質セラミックをフィルタ部材として液体ボトルの蓋体として使用した場合、前記容器の内外圧差を緩和することができるとともに、容器の外部に液体が漏出するのを防止することができる。
【0025】
さらに、前記多孔質セラミックの平均結晶粒径を0.02〜1mmとしたことから、前述した平均気孔径を所望の値に制御できるとともに、効率良く前記液体を保持するために必要な気孔を多孔質セラミック内に形成することができる。
【0026】
また、本発明の液体ボトルは、一方の室内は液体の収納、供給および吐出可能であり、他方の室内は外気と通気可能な通気口を備えてなり、前記一方の室内と前記他方の室内を本発明のフィルタ部材で分離して構成されているため、フィルタ部材内を浸透して液体ボトル外への液体の流出を防ぎ、液体ボトルの内外の通気を確保して内外圧差を緩和することができる。
【0027】
さらに、前記液体ボトルのフィルタ部材を前記液体ボトルの室内に設けた支持体で保持すれば、種々の液体に対して耐久性を有し、さらに、気体だけを双方向に通過させることができるため、気体の通気性と液体の漏出防止の効果に優れている。
【0028】
このように本発明のフィルタ部材を通気フィルタとして用いた液体ボトルは耐油性・耐溶剤性・耐薬品性・耐熱性が高く、液体を気孔に保持することにより、液体を透過させずに気体のみを透過させることができ、油、界面活性剤、有機溶剤、酸性又はアルカリ性液体のうち少なくとも1種の液体の存在下でも、あるいは高温においても液体を通過させることなく、気体が双方向に通過を可能とできるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図1に本発明の一例であるフィルタ部材1の断面図を示す。
【0030】
本発明のフィルタ部材1は、多孔質セラミック2からなり、一方の面1aの気孔3から入った液体4を内部で保持可能に構成するとともに、一方の面1aの気孔3から入った気体5を一方の面1bから通気するように構成している。
【0031】
以下に、本発明のフィルタ部材1が多孔質セラミック2の一方の面1aの気孔3から入った液体4を内部で保持するとともに、一方の面1bから通気する方法について詳述する。
【0032】
多孔質セラミック2の一方の面1aに液体4を接触させると、一方の面1aは液体4に対して濡れが発生する。同時に、多孔質セラミック2が有する気孔3も液体4に対して濡れが発生する。ここで、気孔3では毛細管現象が駆動力となり気孔3に液体4を吸い込んで多孔質セラミック2の内部気孔へ液体4を充填していく。そして、気孔3内に充填された液体4は、気孔3の壁面と濡れが生じているため、気孔3と液体4との接触面積が大きくなるように移動するので気孔3の細部まで行きわたって、毛細管力により液体4を気孔3内で保持することが可能になる。そしてある程度気孔に液体4が充填されると毛細管現象による駆動力がなくなるために、気孔への液体の吸収は止まる。これにより、接触させていた液体4をフィルタ部材1から離しても毛細管力により気孔3内に液体4が保持されるために、容器の蓋体のように振る舞い、容器内外を遮断する機能を有するようになる。そして、フィルタ部材1を構成する多孔質セラミック2の一方の面1aと他方の面1bに圧力差(差圧)が生じる、つまり、一方の面1aにかかる圧力が他方の面1bにかかる圧力より大きくなると、フィルタ部材1が気体5を通気するようになる。これは、前記差圧が液体4を保持する毛細管力に勝って起こるものであり、同時に、気孔3内で保持された液体4は他方の面1bに移動してその表面に吸着して保持される。この液体4の移動により空いた気孔3を気体5が通ることで通気される。また、前記差圧がなくなると、他方の面1bに吸着されるより、毛細管力による保持されるほうが安定であるため、他方の面1bに移動した液体4は毛細管力により再び気孔3内に保持されるようになる。
【0033】
また、多孔質セラミック2は、少なくともその一部が液体4と接するため、液体4の有する性質にも依るが、耐油性・耐溶剤性・耐薬品性・耐熱性を有する材料であることが望ましく、具体的には、アルミナ、ムライト、ジルコニア、フォルステライト、シリカ、コージェライト、チタニアの群から少なくとも1種以上からなり、それらを50%以上、特に70%以上、さらには90%以上含有するセラミックスからなることが望ましい。これらのうち、低コストの点でアルミナ多孔質セラミック、シリカ多孔質セラミック、コージェライト多孔質セラミックが好ましい。
【0034】
そして、油、溶剤、酸又はアルカリ等に対する耐薬品性が高い点でアルミナ多孔質セラミックがより好ましい。なお、このアルミナは高温水蒸気に対する結晶構造の安定性の点を考慮すると、αアルミナであることが望ましい。
【0035】
さらに、多孔質セラミック2の平均気孔径は、充分な通気性と液体の漏出防止を発現するために、5〜200μmであることが望ましく、特に5〜80μm、さらには10〜50μmであれば、気孔3内で十分に液体4を保持できる毛細管力を発生させることができるとともに、フィルタ部材1の一方の面1aと他方の面1bで小さな差圧が生じれば、気体を容易に通気することができるので好ましい。一方、平均気孔径が200μmよりも大きいと気孔3が大きくなるため、気孔3の壁面に接触できない液体4が生じたり、また、液体4を保持する毛細管力が低下するので、多孔質セラミック2を貫通して他方の面1bから漏出する可能性がある。また、平均気孔径が5μmより小さいと、毛細管力が強くなるため、フィルタ部材1の一方の面1aと他方の面1bで差圧が生じても、気体5の通過を許容する際に必要とする前記差圧が非常に高くなるため、気体5の通気率が低下する場合がある。なお、液体4の吸い込み効果を高め、気体5の通気の際に移動する液体4が他方の面1bより容易に漏出させないようにするためにも、一方の面1aに存在する気孔3の気孔径が他方の面1bに存在する気孔3の気孔径よりも大きいことが好ましい。
【0036】
さらに、多孔質セラミック2の平均結晶粒径は0.02〜1mmが好ましい。これは、平均結晶粒径が0.02mm未満であると多孔質セラミック内の毛細管現象が非常に強くなるため、フィルタ部材1を液体ボトルの通気口付近に設けたとき、前記液体ボトル内から前記液体ボトル外へ通気する際は、液体ボトル内外の差圧が非常に高くならないと充分な通気作用を得られない場合がある。一方、平均結晶粒径が1mmを超えると、毛細管力が低下するため、液体ボトル内外で生じる小さな差圧でもフィルタ部材1に充填された液体4が透過しやすくなり、フィルタ部材1として機能しなくなる場合がある。なお、より好ましい平均結晶粒径は0.03〜0.15mmである。
【0037】
また、フィルタ部材1としての多孔質セラミック2の形状は、特に限定されるものではないが、作製の容易さから平板であることが好ましい。そして、十分に機械的強度を有し、ガス透過性を確保する為に、肉厚は0.3〜3mm、特に1〜2mmであることが望ましい。なお、液体ボトル形状に合致させるために、多孔質セラミックの少なくとも一部を湾曲させても、あるいは表面に模様を形成しても良い。更に通気させるための圧力差に合わせて厚みを変更してもよい。
【0038】
また、フィルタ部材1を構成する多孔質セラミック2と液体4との接触角が90度以下であることが好ましい。これにより、液体の界面張力が低くなり気孔3の壁面に対する液体4の濡れ性が向上することで液体4と気孔3の壁面との接触面積が大きくなるため、気孔3内の広範囲で液体4を吸着して保持することができる。一方で、接触角が90度を超えると、多孔質セラミック2と液体4との濡れ性が著しく低下して毛細管現象による多孔質セラミック内部の気孔への溶液を送り込む駆動力が低下するとともに、気孔3内で撥液性が生じる為に液体4の気孔内への充填にムラが生じ、液体4を効率よく保持できない場合が生じる。なお、接触角の測定は、例えば、静的接触角分析装置(協和界面科学社製CA−X)を用い、液体を多孔質セラミック2の表面に10μl滴下し、画像処理することにより測定できる。
【0039】
また、本発明のフィルタ部材1は、上述したような耐薬品性、耐熱性、および耐久性を兼ね備えるために、多孔質セラミック2を用いているが、フィルタ部材1が晒される環境に応じて、上記の多孔質セラミック2の気孔3内の少なくとも一部に、所定の液体4に対して親和性の高い液体親和剤6を設けてもよい。これにより、液体4と液体親和剤6との接触角θが極めて小さくなると同時に液体の表面張力が低くなり、液体4は液体親和剤6に濡れるようになり、気孔3の壁面で液体4を吸着して保持しやすくなる。
【0040】
ここで、気孔内の一部とは、気孔壁の一部であり、液体4と接触する部分を含むことを意味する。例えば図2のように、多孔質セラミック2を構成する粒子2aが三次元的に連結して設けられており、粒子2aの少なくとも一部に液体親和剤6が設けられている。そして、粒子2a間及び粒子2aと液体親和剤6間の空隙からなる気孔3が形成されている。なお、液体親和剤6は、多孔質セラミック2の少なくとも一部に設ければ良いが、フィルタ部材1の表面から0.5mm以上の深さ方向に存在する気孔3まで設けられていることが好ましい。表面付近は液体と接触する機会が多いため、親油・親水効果が促進され、液体の吸い込み効果がより高くなる。特に、液体の吸い込み効果を長く持続して寿命を延ばし、親油・親水効果の耐久性及び信頼性を高めるため、液体親和剤6は、多孔質セラミック2の全体に設けられていることが最も好ましい。
【0041】
さらに、液体の漏出を効果的に防ぐためには毛細管現象が大きくなるよう気孔を小さく設定することが好ましく、更に、多孔質セラミックの厚みを厚くすることが好ましい。気体の透過性を高めるためには、毛細管現象を小さく設定することが好ましく、更に、多孔質セラミックの厚みを薄くすることが好ましい。すなわち、用いる液体の表面張力により上記のバランスをとることが重要である。
【0042】
液体親和剤6は、用いる液体にもよるが、油脂系のものであれば親油性を有するもの、また水や水液体であれば親水性を有するもの、さらに有機溶剤であれば有機溶剤との親和性が高いものを用いることができる。例えば、液体4が水であれば、液体親和剤6としては酸化チタンを含有する高分子、または親水性の官能基であるシラノール基を有する親和剤等がある。
【0043】
以上のように、本発明のフィルタ部材は、気体は透過するが、液体は透過しないという特徴を有し、液体の漏出防止性を維持しながら液体ボトルの通気性を確保し、液体ボトル内部の圧力を一定に維持することが可能な液体ボトルとして好適に使用することができる。なお、本発明のフィルタ部材は、液体と接する可能性を有する部位に用いられ、通気性の必要となるものであれば、あらゆる分野に応用することが可能である。
【0044】
次に、本発明のフィルタ部材の製造方法について説明する。
【0045】
まず、多孔質セラミックを準備する。多孔質セラミックは、上述したように、平均気孔径が5〜200μmのアルミナ質多孔質セラミックを用いるが、気孔率は20〜50%であるものが好ましい。
【0046】
多孔質セラミックの製造方法は、平均粒径0.02〜1mmの原料を目的に応じて分級し、焼結助剤を必要に応じて添加し、バインダーと混練することにより押し出し、又はインジェクション成形、ドクターブレード法等で目的の形状としても良く、単純形状であれば造粒後、粉末プレス、静水圧プレス等を行い形成してもよい。その後、最適温度で焼成することにより多孔質セラミック2からなるフィルタ部材1を得ることができる。ここで、多孔質セラミックを構成するセラミックの中でもアルミナやジルコニアは、親水性が高いため水系の液体4に対してフィルタ部材1の効果を効率よく発揮できる。
【0047】
なお、各種原料の形状は限定するものではないが、球状で粒径分布の狭い均一な粒子を原料として用いればよいということはいうまでもない。
【0048】
次に、液体親和剤6を多孔質セラミックに敷設するのであれば、液体親和剤6をスプレーによる噴霧やディッピング等の方法で多孔質セラミックに含浸させ、必要に応じて通気処理や乾燥、熱処理を施してフィルタ部材1を作製してもよい。また、液体親和剤6を表面張力の小さいアルコールに溶解させた溶液として用いれば、多孔質セラミックの細部へ含浸が促進され、多孔質セラミック内部の広範囲に液体親和剤6を被覆することが容易となる。
【0049】
次に本発明の液体ボトルについて、詳細に説明する。
【0050】
本発明の液体ボトルは、一方の室内は液体の収納、供給および吐出可能であり、他方の室内は外気と通気可能な通気口を備えてなり、前記一方の室内と前記他方の室内を、分離するために前述した本発明のフィルタ部材を具備することを特徴とするものであり、防水性と通気性とを兼ね備えるため、液体を吸収することにより液体を透過させずに液体ボトル内の気圧と外部の気圧とを略同一に保つことができる。
【0051】
図3に本発明の一例である液体ボトル11を示し、該液体ボトル11を2つに仕切る支持体12を備え、その1つの部屋に通気口13を備えるとともに、保持する液体4の液面と通気口13の間におのおの空間14を有し、しかも遮断するようにフィルタ部材1が構成されている。なお、液体ボトル11の枠体は液体、気体の不透過性壁体によって形成されている。また、液体の排出口15が設けられており、液体4は排出口15から排出され、気体がフィルタ部材1を介して液体ボトル11内部に透過して圧力調整が行われる。所望により液体を供給するための液体供給口16を設けてもよい。この液体供給口16から液体4が供給され、液体4の量が増加して液体ボトル11内の圧力が高まった場合、気体がフィルタ部材1を介して外部に放出され、圧力を一定に保つことができる。
【0052】
このような液体ボトルは、ガソリンタンク、オイルタンク、有機溶剤タンク、薬剤タンク、洗剤タンク、哺乳瓶、点滴ビンなどの液体ボトルとして好適に用いることができる。例えば、これらの液体ボトルの供給口(キャップ)に本発明のフィルタ部材を具備することにより、内部に充填された液体の漏出なく、各種液体ボトル内の気圧と外部の気圧とを略同一に保つことができる。
なお、液体ボトル11にフィルタ部材1が1個具備されているが、使用数に限定は無く、1個でも、あるいは3個以上でも所望の数を用いればよいことは言うまでもない。
【0053】
また、内部に電子機器又は精密機器を具備し、防水性と通気性を有する液体ボトルとして、また、樹脂製の柔軟な液体ボトル等の外側からの加圧によって液体ボトルの変形を防止したり、或いは加熱処理によっても内圧の上昇を防ぐ液体ボトル等として好適に用いることができる。
【実施例】
【0054】
(実施例1)本発明のフィルタ部材1を以下のように作製した。
【0055】
球状のアルミナ粉末を分級して平均結晶粒径を0.03mmにそろえた後、アルミナ重量比10%のシリカ、カルシア、マグネシアからなる焼結助剤を混合し、バインダーを添加後、造粒し、プレス成形にて直径10mmの円盤状の成形体を形成後、焼成して多孔質セラミック2とした本発明のフィルタ部材1を作製した。
【0056】
上記で得られたフィルタ部材1に関し、フィルタ部材1を構成する多孔質セラミック2の平均結晶粒径と多孔質セラミック2の気孔3の平均気孔径と、フィルタ部材1の気液分離作用について検証した。なお、以下の液体4には水を用いた。
【0057】
まず、容器にフィルタ部材1の厚みの半分の液体4をいれ、そこにフィルタ部材1を入れ、毛細管現象でフィルタ部材1の上部の表面に液体4が出てくるまで含浸させた。次に、液体4を含浸させたフィルタ部材1を図4に示すように、フィルタ部材1の外周縁にOリング17を貼り付け、さらにその外周側から、磁気保持用治具18でOリング17を挟持した。その後、フィルタ部材1の一方の面1a側から気体5を導入し、該気体5を導入する圧力を0〜10kPaまで増大させていき、前記圧力の変化をマノスターゲージ19(千代田計測工業株式会社製W070)で測定した。上記したように気体5にかかる圧力が高めていくと、ある圧力値にてフィルタ部材1の他方の面1bから気体5の通気が開始される。その気体通気開始時には増加変化させてきた前記圧力が低下するため、該圧力が低下する前の最大となる圧力値を気体5の透過圧とした。なお、この透過圧が発生するということは、一方の面1aと他方の面1bとに差圧が生じているということである。
【0058】
なお、気体5の透過圧が高いと、フィルタ部材1は気体5を通気するのが困難になり、一方で、気体の透過圧が低いと、フィルタ部材1は気体を通気しやすくなるが、フィルタ部材1が気孔3内で液体4を保持する毛細管力が減少するため、液体4がフィルタ部材1の他方の面1bより漏出する可能性が高くなる。
【0059】
ここで、前記アルミナ粉末の平均結晶粒径を0.008mm,0.02mm,0.03mm,0.15mm,0.28mm,1.0mm,1.3mmで各々作製された多孔質セラミック2を各々試料番号1,2,3,4,5,6,7とした。また、試料番号1〜7のフィルタ部材の多孔質セラミックが有する平均気孔径は、水銀圧入法で測定を行った。
【0060】
なお、透過圧の評価は、フィルタ部材1を液体ボトルの蓋体として用いた場合、液体4がフィルタ部材1から外部に漏出する可能性が高くなる値である3kPa未満を△と評価し、一方、6kPaを超える値については、気体の通気効率が低下するため同様に△と評価した。
【0061】
一方、試料番号1〜7のフィルタ部材を構成する多孔質セラミックと同条件で粉末混合からプレス成形まで行い、該プレス成形にて長辺4mm×短辺3mm×厚み50mmの角板状の成形体を成形後に焼成して角板状多孔質セラミックを作製し、その強度を3点曲げによる抗折強度測定により算出した。表1にその結果を示す。
【表1】

【0062】
表1からわかるように、試料番号1のフィルタ部材を構成する多孔質セラミックの平均結晶粒径は0.02mm未満であり、また、平均気孔径が5μm未満であったため、フィルタ部材の強度は向上するものの、フィルタ部材が緻密構造となるので、気体の気孔3からの通気が阻害されて気体の透過圧が上昇した。
【0063】
また、試料番号7のフィルタ部材を構成する多孔質セラミックの平均結晶粒径は1mm以上であり、また、平均気孔径が200μmを超えるため、平均気孔径の上昇によりフィルタ部材の強度が劣化するとともに、気孔3が液体4を保持する力が弱まり、透過圧が低下した。
【0064】
これらに対して、試料番号2〜6のフィルタ部材を構成する多孔質セラミックの平均結晶粒径は0.02〜1mm、平均気孔径が5〜200μmであったため、気体の通気性を確保しつつ、多孔質セラミックの気孔内に液体を保持できる毛細管力を維持できる透過圧であり、効率よく気液を分離するフィルタ部材とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明のフィルタ部材の一例である断面図である。
【図2】本発明のフィルタ部材の結晶模式図である。
【図3】本発明の液体ボトルの一例である断面図である。
【図4】フィルタ部材の気体通気性を測定する装置の断面図である。
【図5】従来の液体ボトルの概略断面図である。
【図6】従来の液体ボトルの概略斜視図である。
【図7】従来のプラスチック膜の概略断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1:フィルタ部材
1a:一方の面
1b:他方の面
2:多孔質セラミック
2a:セラミック粒子
3:気孔
4:液体
5:気体
6:液体親和剤
11:液体ボトル
12:支持体
13:通気口
14:空間
15:排出口
16:供給口
17:Oリング
18:磁気保持用治具
19:マノスターゲージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質セラミックからなり、一方の面の気孔から入った液体を内部で保持可能に構成するとともに、一方の面の気孔から入った気体を他方の面から通気する構成としたことを特徴とするフィルタ部材。
【請求項2】
前記多孔質セラミックがアルミナ、ムライト、ジルコニア、フォルステライト、シリカ、コージェライト、チタニアの少なくとも一種以上からなることを特徴とする請求項1に記載のフィルタ部材。
【請求項3】
前記多孔質セラミックの平均気孔径が5〜200μmであることを特徴とする請求項1または2に記載のフィルタ部材。
【請求項4】
前記多孔質セラミックの平均結晶粒径が0.02〜1mmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のフィルタ部材。
【請求項5】
一方の室内は液体の収納、供給および吐出可能であり、他方の室内は外気と通気可能な通気口を備えてなり、前記一方の室内と前記他方の室内を請求項1乃至4のいずれかに記載のフィルタ部材で分離してなることを特徴とする液体ボトル。
【請求項6】
前記フィルタ部材を前記液体ボトルの室内に設けた支持体で保持したことを特徴とする請求項6に記載の液体ボトル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−150234(P2006−150234A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−344820(P2004−344820)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】