説明

フィルムの裁断方法

【課題】るフィルムの裁断方法を提供する。
【解決手段】このフィルムの裁断方法は、連続的に走行されるフィルムを、互いの刃先の一側面を摺接させるようにして回転する上刃31と下刃41との間に挿入し、走行方向に沿ってかつ幅方向に分割するように裁断するもので、上刃31として、その刃先角θ1が30〜80°で、下刃に対向する面の面粗さRzが0.2Z以下を用いると共に、下刃41に対する上刃31の侵入深さDが0.2〜0.5mmとなるように、上刃31と下刃41とを摺接させ、平均厚みが40〜230μmのフィルムを裁断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、フレキシブル回路基板に用いられるポリイミドフィルム等のフィルムを裁断するための、フィルムの裁断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは耐熱性や電気絶縁性等に優れ、薄肉のフィルムであっても十分な剛性を有している。そのため、ポリイミドフィルムは、電気絶縁フィルム、断熱性フィルム、フレキシブル回路基板のベースフィルム等、産業分野において幅広く使用されている。なかでも、フレキシブル回路基板は、携帯電話や液晶テレビ等の需要拡大に伴って需要が増大しており、また、配線高密度化が進展している。これに伴いポリイミドフィルムにおいても、電気絶縁支持体としての性能及び加工性の向上の要求が高まっている。
【0003】
上記ポリイミドフィルムに限らず、産業分野において薄肉シート状のフィルムを取り扱う際には、原材料から形成された幅広シート状のフィルムを適当な幅で裁断して、ロール状に巻き取ることが一般的である。
【0004】
従来のこの種のフィルムの裁断方法として、下記特許文献1には、連続的に走行されるフィルムを、互いの刃先の一側面を摺接させるようにして回転する上刃と下刃との間に挿入し、走行方向に沿ってかつ幅方向に分割するように裁断する方法が記載されている。
【0005】
具体的には図9(a)に示すように、下刃41に摺接する上刃31の刃先35の刃先角θ1が80〜90°とされ、上刃31に摺接する下刃41の刃先45の刃先角θ2が80〜90°とされ、両刃31,41の間に配置されたフィルムFが裁断されるようになっている。なお、この方法では、平均厚みが5〜40μmのフィルムFを裁断するものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−228023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載のフィルムの裁断方法では、平均厚みが5〜40μmの、比較的薄いフィルムFを裁断する際には、上下両刃31,41の比較的フラットな刃先35,45によって、フィルムFを挟持しつつ裁断するので、各刃先35,45の外側周縁に生じやすいフィルムの盛り上がりを抑制し、フィルム端面の膨れを押えることができる(図9(a)参照)。
【0008】
しかしながら、図9(b)に示すように、フィルムFの厚さが上記の場合よりも厚い場合には、フィルムFの裁断途中で、特に上刃31の刃先35の外側周縁が、比較的大きく盛り上がり(符号Mで示す部分)、フィルム端面に膨れが生じやすくなると共に、フィルム端面に毛羽立ち(フィルム端面に細かい毛のようなものが立設すること)が生じることがあった。
【0009】
上記のようにフィルム端面の膨れSが大きい場合には、フィルムFを巻き取ってロールを形成したときに、ロール端面のハイエッジ量(ロール端面の突出高さ)が増大し、毛羽立ちが生じた場合には、塵が発生しやすくなり好ましくない。
【0010】
したがって、本発明の目的は、比較的肉厚のフィルムであっても、フィルム端面に膨れや毛羽立ちが生じることを抑制しつつ裁断することができる、フィルムの裁断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のフィルムの裁断方法は、連続的に走行されるフィルムを、互いの刃先の一側面を摺接させるようにして回転する上刃と下刃との間に挿入し、走行方向に沿ってかつ幅方向に分割するように裁断するものであって、前記上刃として、前記下刃に摺接する刃先角が30〜80°で、前記下刃と対向する面の面粗さRzが0.2Z以下であるものを用いると共に、前記下刃に対する前記上刃の侵入深さが0.2〜0.5mmとなるように、前記上刃と前記下刃とを摺接させた状態で、平均厚みが40〜230μmとされた前記フィルムを裁断することを特徴とする。
【0012】
上記発明によれば、上刃の刃先角が30〜80°のものを用いたことで、平均厚みが40〜230μmの比較的肉厚のフィルムに対して上刃が適度な切込み角度で侵入し、刃先の外側周縁におけるフィルムの盛り上がりを小さくして、フィルム端面での膨れを抑えつつ裁断することできる。また、上刃の、下刃と対向する面の面粗さRzが0.2Z以下とされていることで、フィルムの裁断面をシャープに裁断してフィルム端面の毛羽立ちを抑制することができる。更に、下刃に対する上刃の侵入深さが0.2〜0.5mmとなるように、上刃と下刃とを摺接させていることで、上記厚さの比較的肉厚のフィルムでも、フィルム端面の膨れや毛羽立ちを抑えつつ確実に裁断することができる。
【0013】
以上のように、この方法によれば、肉厚のフィルムであっても、フィルム端面での膨れや毛羽立ちを抑えつつ裁断することができるので、フィルムが巻き取られてなるロールの、端面におけるハイエッジ量を低く抑えることができると共に、塵の発生を防止することでき、総じて製品の歩留まりを向上させることができる。
【0014】
本発明のフィルムの裁断方法は、前記上刃として、前記下刃に近接する刃先角部のRが50μm以下であるものを用いることが好ましい。この態様によれば、フィルムの盛り上がりを小さくして、フィルム端面での膨れを抑えつつ裁断することできる。
【0015】
本発明のフィルムの裁断方法は、前記下刃として、前記上刃に近接する刃先角部のRが50μm以下で、前記上刃と対向する面の面粗さRzが0.2Z以下であるものを用いることが好ましい。この態様によれば、フィルムの盛り上がりを小さくして、フィルム端面での膨れを抑えつつ裁断することできる。
【0016】
本発明のフィルムの裁断方法は、前記上刃と前記下刃の摺接部が、前記上刃の先端から前記下刃の先端の間で面接触するように、前記上刃の刃先角が調整されていることが好ましい。この態様によれば、上刃と下刃の摺接部が、上刃の先端から下刃の先端の間で面接触するように、上刃の刃先角が調整されているので、両刃の摺接部分の隙間が少なくなり、フィルムをよりシャープに裁断することができ、フィルム端面の膨れをより一層効果的に抑制することができる。
【0017】
本発明のフィルムの裁断方法は、前記フィルムの引張り強さが5〜10MPaとされていることが好ましい。この態様によれば、フィルムが適度な引張り強さを有しているので、フィルムを適当な張力で引き伸ばしつつ、フィルムを裁断することができ、フィルムを裁断しやすくなる。
【0018】
本発明のフィルムの裁断方法は、前記フィルムの弾性率が50〜150MPaとされていることが好ましい。この態様によれば、フィルムが適度な弾性率を有しているので、フィルムを裁断するときに、フィルムを裁断する上刃及び下刃でしっかりと挟持することができ(刃がフィルムに食いつきやすく、逃げがない)、フィルムを裁断しやすくなる。
【0019】
本発明のフィルムの裁断方法は、前記フィルムがポリイミドフィルムであることが好ましい。この態様によれば、フレキシブル回路基板のベースフィルム等として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、平均厚みが40〜230μmとされた比較的肉厚のフィルムであっても、フィルムの盛り上がりを少なくして端面での膨れを抑えつつ、フィルムをシャープに裁断してフィルム端面の毛羽立ちを抑制した状態で、確実に裁断することができ、ロール端面でのハイエッジ量を低く抑え、かつ、塵の発生を防止することでき、製品の歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のフィルムの裁断方法に用いられるスリッターの概略構成を示す斜視図である。
【図2】同スリッターを構成するカッター装置の側面図である。
【図3】同カッター装置の要部拡大正面図である。
【図4】同カッター装置の要部拡大平面図である。
【図5】同カッター装置によるフィルムの裁断状態を示しており、(a)は図2のa−a矢示線でのフィルムの裁断状態を示す説明図、(b)は図2のb−b矢示線でのフィルムの裁断状態を示す説明図、(c)は図2のc−c矢示線におけるフィルムの裁断状態を示す説明図、(d)は図2のd−d矢示線におけるフィルムの裁断状態を示す説明図である。
【図6】分割フィルムロールから更にフィルムを引き出して、同フィルムを巻き替えてなる、巻き替えフィルムロールの製造方法を示す斜視図である。
【図7】(a)は分割フィルムロールの正面図、(b)は巻き替えフィルムロールの正面図である。
【図8】ロール及びロールから引き出したフィルムを示す説明図である。
【図9】従来の上刃及び下刃によるフィルムの裁断状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明のフィルムの裁断方法について説明する。
【0023】
一般にフィルムは、原材料から形成された幅広シートを所定幅に裁断し、ロール状に巻き取られた形態で、次の工程に搬送されるようになっている。
【0024】
すなわち、フィルムの原材料から形成された幅広のフィルムを、ロール状に巻き取ることにより、原反フィルムロールが形成される。この幅広の原反フィルムロールからフィルムを引き出し、幅方向に所定幅で裁断して複数のフィルムに分割し、各フィルムをそれぞれ巻き取ることにより、複数の分割フィルムロールが形成される。
【0025】
上記のように、原反フィルムロールからフィルムを引き出し、裁断して複数に分割する際には、スリッターと呼ばれる裁断装置が用いられている。以下、スリッターについて説明する。
【0026】
図1に示すように、このスリッター10は、フィルムFが巻き取られた原反フィルムロール21(以下、「原反ロール21」という)が回転支持される巻出部20と、原反ロール21から引き出されたフィルムFを、所定幅に裁断し分割するカッター装置30と、カッター装置30により分割された各フィルムFを再度巻き取って、複数の分割フィルムロール51を形成する巻取部50とを備えている。
【0027】
前記巻出部20は、図示しないフィルム送り装置を有しており、その回転軸に前記原反ロール21がセットされ、原反ロール21から所定速度でフィルムFが引き出されるようになっている。また、原反ロール21の、フィルム送り方向(図1の矢印参照)の下流側の所定位置には、フィルムFに張力を付与するためのテンションローラ23が配置されている。
【0028】
また、前記巻取部50は、図示しない巻取り装置を複数備えており、その回転軸に前記カッター装置30で分割されたフィルムFがそれぞれ巻き取られて、複数の分割ロール51が形成されるようになっている。また、巻取部50のカッター装置30の近傍には、振分けローラ53が回動可能に配置され、カッター装置30で分割されたフィルムFを、複数の巻取り装置に振分けて送り出すように構成されている(この実施形態では、上下2つずつ、合計4つの巻取り装置にフィルムFを振分けるようになっている)。
【0029】
次に、図1〜4を参照して、前記カッター装置30について説明する。図2には、カッター装置30の側面図が示されており、図3には、カッター装置30の要部拡大正面図が示されており、図4には、カッター装置30の要部拡大平面図が示されている。
【0030】
このカッター装置30は、原反ロール21から引き出されたフィルムFを、幅方向に複数に裁断して分割するために、上下一組の上刃31及び下刃41を有している。図1に示すように、上下一組の上刃31及び下刃41は、フィルムFの幅方向に沿って所定間隔を設けて複数配置されている。
【0031】
また、カッター装置30は、互いに平行に配置された回転軸33,43を有している。そして、各回転軸33,43に、円形状をなした上刃31及び下刃41がそれぞれ固設されていると共に、各刃31,41の対向する一側面35a,45aどうしが互いに摺接した状態で配置されている。すなわち、このスリッター10は、上刃31及び下刃41の互いの刃先35,45の一側面どうしが摺接しつつフィルムFを裁断する、いわゆるゲーベル刃式スリッターとなっている。また、各回転軸33,43は、図示しない駆動機構で所定方向に回転するように構成され、各回転軸33,43の回転に伴って、それに固設された上刃31及び下刃41がそれぞれ回転するようになっている。
【0032】
そして、連続的に走行されるフィルムFを、互いの刃先35,45の一側面35a,45aを摺接させるようにして回転する上刃31と下刃41との間に挿入し、走行方向に沿ってかつ幅方向に分割するように、フィルムFが裁断されるようになっている。また、図1に示すように、フィルムFは、山形に屈曲した状態でカッター装置30に導入されており、フィルムを屈曲させた状態で裁断する、いわゆるシャーカットと呼ばれる裁断方法によって、裁断されるようになっている。
【0033】
図3に示すように、上刃31の外周は、フィルムFを裁断するための刃先35をなしている。
【0034】
そして、この上刃31の刃先35の刃先角は、次のように設定されている。すなわち、回転軸33の軸心に直交すると共に下刃41に対向する一側面35aに対して、フィルム上面に接触する刃先面35bの角度を、刃先35の刃先角θ1とし、この刃先角θ1が30〜80°で形成されており、好ましくは45〜60°で形成されている。
【0035】
上刃31の刃先35の刃先角θ1が、30°未満である場合には、上刃31の刃先35の耐久性が低下し、刃先35が欠けやすくなる。その結果、短時間の使用によって、フィルムFの裁断不良が発生し、フィルム端面での膨れS(図8参照)が大きくなり、ロール端面でのハイエッジ量が増加するので、好ましくない。一方、上刃31の刃先35の刃先角θ1が、80°を超える場合には、フィルムFの上面に、刃先面35bが幅広く当たり、フィルムFに深く切り込めなくなるので、本発明にて用いられる平均厚みが40〜230μmの比較的厚みのあるフィルムFでは、フィルム端面で膨れS(図8参照)や毛羽立ちが生じやすくなるので好ましくない。
【0036】
また、下刃41の外周も、フィルムFを裁断するための刃先45をなしている。この刃先45の刃先角θ2は、回転軸43の軸心に平行でフィルム下面を支持する刃先面45bに対する、上刃31に対向する一側面45aの角度で規定される。そして、下刃41の刃先45の刃先角θ2は、80〜90°で形成されていることが好ましく、85〜90°で形成されていることがより好ましい。下刃41の刃先面45bがフィルム下面に密接し、下刃45の一側面45aが、上刃31の一側面35aに摺接するようにするため、下刃41の刃先45の刃先角θ2は90°にすることが最も好ましい。
【0037】
また、図3の部分拡大図に示すように、上刃31としては、下刃41と対向する一側面35aの面粗さRzが0.2Z以下のものが用いられている。上刃31の一側面35aの面粗さRzが、0.2Zを超えると、フィルムFが裁断されたときに鋭利な裁断面とならず、フィルム端面の膨れSが大きくなるので好ましくない。
【0038】
また、図3に示すように、下刃41の刃先45に対する上刃31の刃先35の重なり量、すなわち、下刃41に対する上刃31の侵入深さDは、0.2〜0.5mmとなるように設定されている。この侵入深さDが、0.2mm未満の場合は、厚いフィルムFを裁断するときに裁断しにくくなり、0.5mmを超えると、上下両刃31,41の摺接量が大きくなって各刃の磨耗量が増えるので好ましくない。
【0039】
また、上刃31としては、下刃41に近接する刃先角部36の半径寸法Rが50μm以下であることが好ましい。更に、下刃41としては、上刃31に近接する刃先角部46の半径寸法Rが50μm以下であることが好ましい。すなわち、前記上刃または下刃に近接する、上刃または下刃うちの少なくとも1つ以上の刃先角部のRが50μm以下であることが好ましい。各刃31,41の各刃先角部36,46の半径寸法Rが50μmを超えると、刃先角部36,46のエッジが丸みを帯びてしまって、両刃31,41によりフィルムFが裁断されたときに、鋭利な裁断面を得にくく、その結果、フィルム端面の膨れS(図8参照)が大きくなるので傾向がある。
【0040】
また、下刃41の、上刃31と対向する一側面45aの面粗さRzが0.2Z以下のものが用いられていることが好ましい。
【0041】
更に、図4に示すように、上下両刃31,41には、トーイン角θ3が設定されている。すなわち、図4中の矢印で示すフィルムFの送り方向(下刃41の回転軸43に直交する方向)に対する上刃31の角度を、上刃31のトーイン角θ3とし、この上刃31のトーイン角θ3が、0〜0.1°に設定されていることが好ましい。その結果、上刃31のフィルム受け入れ側の刃先35の一側面35aが、下刃41の刃先45の一側面45aに所定圧力で接触すると共に、上刃31のフィルム送り出し側の刃先35は、下刃41から離れた状態となっている。なお、上刃31のトーイン角θ3が0.1°よりも大きいと、フィルムFの裁断面の歪み(ダレやバリ)が目立ち、品質が低下すると共に、フィルム端面の膨れの原因ともなり、更に上刃31の摩耗を早めるので好ましくない。
【0042】
以上説明した上刃31及び下刃41の材質は、例えば、高速度工具鋼(SKH)や、合金工具鋼(例えば、SKD)、超硬合金等で形成されており、フィルムFの厚さや裁断条件等により適宜設定される。また、図3に示す上刃31の厚さt1及び下刃41の厚さt2も、フィルムFの厚さ等により適宜設定されるようになっている。
【0043】
次に、上記構造のカッター装置30による、本発明におけるフィルムの裁断方法について説明する。
【0044】
本発明のフィルムの裁断方法においては、平均厚みが40〜230μmとされたフィルムFを裁断するものとなっている。また、フィルムFの平均厚みは、40〜125μmであることが好ましく、50〜125μmであることがより好ましい。フィルムFの平均厚みが40μm未満である場合には、上刃31の刃先35が、フィルム上面にくさびのように斜めに深く入り込んで、刃先35の外側周縁に盛り上がりが生じやすく、フィルム端面の膨れS(図8参照)が増大する要因となるので好ましくない。一方、フィルムFの平均厚みが230μmを超える場合には、フィルムFの裁断不良が生じやすくなり、歩留まりが低下するので好ましくない。
【0045】
また、この裁断方法に用いられるフィルムFとしては、特に限定はなく、合成樹脂からなる薄膜状のものや、紙や布などの繊維からなるシート状のもの、更には金属からなる金属箔等を含む。この中でも、フレキシブル回路基板のベースフィルム等として用いることが可能な、ポリイミドフィルムが好ましく採用される。このポリイミドフィルムとしては、特に限定はなく、公知の方法で製造したものを用いることができる。例えば、(1)ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸溶液を支持体に流延又は塗布し、イミド化して得られたポリイミドフィルム、(2)ポリイミド溶液を支持体に流延、塗布し、必要に応じて加熱して得られたポリイミドフィルム、などが挙げられる。
【0046】
更に、フィルムFの引張り強さは、5〜10MPaであることが好ましく、5〜7MPaであることがより好ましい。これによれば、フィルムFが適度な引張り強さを有しているので、フィルムFを適当な張力で引き伸ばしつつ、カッター装置30の上刃31及び下刃41でフィルムFを裁断することができ、フィルムFを裁断しやすくなる。なお、フィルムFの引張り強さが5MPa未満だと、裁断時にあたってフィルムFを所定張力で引き伸ばすことができず、裁断しにくくなるので好ましくない。フィルムFの引張り強さが10MPaを超えると、フィルム自身の剛性により裁断しにくくなるので好ましくない。
【0047】
また、フィルムFの弾性率は、50〜150MPaであることが好ましく、80〜100MPaであることがより好ましい。これによれば、フィルムFが適度な弾性率を有しているので、カッター装置30の上刃31及び下刃41でフィルムFを裁断するときに、上刃31及び下刃41でしっかりと挟持することができ(刃がフィルムに食いつきやすく、逃げがない)、フィルムFを裁断しやすくなる。なお、フィルムFの弾性率が50MPa未満だと、切断時の変形によりバリが生じやすくなるので好ましくなく、フィルムFの弾性率が150MPaを超えると、刃の磨耗による端面の浪打(フレア)が生じやすくなるので好ましくない。なお、弾性率の値は、ASTM・882に基づいて測定した値を意味する。
【0048】
上記物性を有するフィルムFは、ロール状に巻き取られて原反ロール21とされ、これが巻出部20にセットされて、図示しないフィルム送り装置により所定速度で引き出され、テンションローラ23を介してカッター装置30に送られる(図1参照)。
【0049】
そして、フィルムFの幅方向に沿って複数配置されると共に、互いの刃先35,45の一側面35a,45aどうしを摺接させるようにして回転する上刃31と下刃41との間に、フィルムFが導入される(図1,2参照)。その結果、上下一対の上刃31及び下刃41によって、フィルムFの走行方向(送り方向)に沿ってかつ幅方向に分割するように、フィルムFが複数のシート状に裁断され、これらの分割されたフィルムFが巻取部50によりそれぞれ巻き取られて、複数の分割ロール51が形成される。また、この実施形態では、複数の分割ロール51から再度フィルムFが引き出されて、真空環境下又は減圧環境下で巻き取られて、巻き替えフィルムロール61(以下、「巻き替えロール61」という)が製造されるようになっている。
【0050】
図8には、フィルムFを巻き取られてなる分割ロール51若しくは巻き替えロール61の斜視図が示されている。このロールに巻回されたフィルムF(図8中想像線で示す)は、その幅方向(フィルムの長さ方向に直交する方向)の端縁に向かって山型に盛り上がって、フィルム端面に膨れSが生じている。
【0051】
このように、端面に膨れSが生じたフィルムFを巻き取ってロールを形成すると、ロール端面にハイエッジEと呼ばれる盛り上がりが生じる。このハイエッジEの量は、ロール端面の突出高さで定義され(ロール最外周のフィルム端面からハイエッジEの最大突出部までの高さ)、ここでは便宜上、分割ロール51のハイエッジ量をE1とし(図7(a)参照)、巻き替えロール61のハイエッジ量をE2とする(図7(a)参照)。
【0052】
本発明では、フィルムFの裁断時における、フィルム端面の膨れSを抑制して、ロール端面のハイエッジ量E1,E2を低減できると共に、フィルム端面での毛羽立ちを抑制して、塵を発生させにくくすることができるようになっている。以下、これについて説明する。
【0053】
図5(a)は、図2のa−a矢示線でのフィルムFの裁断状態を示す説明図、図5(b)は、図2のb−b矢示線でのフィルムFの裁断状態を示す説明図、図5(c)は、図2のc−c矢示線におけるフィルムFの裁断状態を示す説明図、図5(d)は、図2のd−d矢示線におけるフィルムFの裁断状態を示す説明図である。
【0054】
図5(a)に示す、上下両刃31,41の間にフィルムFが挿入され始めた状態では、下刃41の刃先45の刃先面45bにフィルム下面が支持されつつ、上刃31の刃先35が、フィルムFの上面から所定の切込み角度で侵入する。
【0055】
フィルムFが送られると、図5(b)に示すように、上刃31の刃先35がフィルムFにより深く入り込みつつ、回転する下刃41及び上刃31によって、フィルムFが徐々に裁断され、更にフィルムFが送られると、図5(c)に示すように、下刃41、及び、該下刃41に対して所定の侵入深さDで重なった上刃31によって、フィルムFが完全に裁断されて複数のフィルムFに分割される。なお、図5(c)中の右側のフィルムFは、上刃31の刃先35の刃先面35bに押圧されて、その端面が下方にやや屈曲付勢される。
【0056】
その後、フィルムFが送られると、図5(d)に示すように、図中右側のフィルムFの端面が、その弾性により元の形状に戻って、複数に分割されたフィルムFが形成される。その後、これら複数のフィルムFが巻取部50へと送られて、複数の分割ロール51が形成される。
【0057】
以上のように本発明のフィルムの裁断方法では、平均厚みが40〜230μmの比較的肉厚のフィルムFであっても、上刃31の刃先角θ1が30〜80°のものを用いたことで、図5(b)に示すように、フィルムFに対して上刃31の刃先35が適度な切込み角度で侵入し、刃先35の外側周縁におけるフィルムFの盛り上がり(符号Mで示す部分)を小さくして、フィルム端面での膨れSを抑えつつ裁断することができると共に、上刃31の、下刃41に対向する一側面の面粗さRzが0.2Z以下とされていることで、フィルムFの裁断面をシャープに裁断してフィルム端面の毛羽立ちを抑制することでき、更に、下刃41に対する上刃31の侵入深さD(図3参照)が0.2〜0.5mmとなるように、上刃31と下刃41とを摺接させていることで、上記厚さの比較的肉厚のフィルムFでも、フィルム端面の膨れSや毛羽立ちを抑えつつ確実に裁断することができる。
【0058】
すなわち、このフィルムの裁断方法によれば、肉厚のフィルムFであっても、フィルム端面での膨れSや毛羽立ちを抑えつつ裁断することができるので、フィルムFが巻き取られて形成される分割ロール51や巻き替えロール61の、端面におけるハイエッジ量E1,E2(図7,8参照)を低く抑えて、ロール端面に生成されやすいシワの発生を抑制して、製品として使用可能な部分を大きくとることができると共に、毛羽立ちによる塵の発生を防止することでき、総じて製品の歩留まりを向上させることができる。
【0059】
また、ロール端面のハイエッジ量E1の低減によってシワの発生が抑制されるので、上記のように分割ロール51を形成した後、再度フィルムFを引き出して、巻き替えロール61に巻き替えるときや、この巻き替えロール61からフィルムFを引き出してスパッタリング等を施すときに、フィルムFをスムーズに引き出すことができ、製造効率を向上させる。
【0060】
更に、この実施形態では、図4に示すように、上刃31のトーイン角θ3(フィルムFの送り方向に対する上刃31の角度)が、0〜0.1°に設定されている。これにより、上刃31のフィルム受け入れ側の刃先35が、適度な角度で下刃1の刃先45の一側面45aに圧接されるので、フィルムFの裁断面の歪みを抑制した状態で、フィルムFを裁断することができ、フィルムFの品質を向上させると共に、フィルム端面の膨れSをより小さくでき、更に上刃31の摩耗を最小限にすることができる。
【0061】
また、上記工程で形成された複数の分割ロール51は、次の製造工程に搬送され、同分割ロール51からフィルムFを引き出されて、同フィルムFの一部にスパッタリング等に金属層を形成されて、フレキシブル回路基板等のベース基板とされる。このスパッタリング等は、内部雰囲気を所定の真空度とした真空チャンバー内で処理されるが、このとき、ロール状に巻き取られたフィルムの間に介在した空気や水分等によって、上記スパッタリング処理に際して悪影響が生じることがあった。
【0062】
そこで、この実施形態では、複数の分割ロール51から再度フィルムFを引き出して、真空環境下又は減圧環境下で巻き取り、巻き替えロール61を製造し、これを上記スパッタリング処理等に用いることにより、上記問題に対応している。
【0063】
図6を併せて説明すると、この巻き替えロール61の製造方法においては、巻き替え処理を施すべきフィルムFの寸法や形状等に対応して、所定の真空チャンバー60が用いられる。真空チャンバー60は周知であるので、その詳しい構造については省略するが、内部雰囲気を減圧するための図示しない真空ポンプや、前記分割ロール51を回動可能に支持するための図示しない軸受け、更にセットされた分割ロール51から所定速度でフィルムFを引き出すための図示しないフィルム引出し装置を有している。
【0064】
そして、図示しないフィルム引出し装置により、所定速度でフィルムFを引き出しつつ、真空環境下又は減圧環境下で、フィルムFを巻き替えて、巻き替えロール61が製造されるようになっている。なお、フィルムFの送り方向上流側には、フィルムFに張力を付与するためのテンションローラ63が配置されている。また、真空チャンバー60内の減圧雰囲気の圧力としては、例えば、1〜10×10−3Torrであることが好ましく、2〜6×10−3Torrであることがより好ましい。
【0065】
このように、この巻き替えロール61の製造方法においては、真空環境下又は減圧環境下で、分割ロール551から、再度フィルムFを引出して巻き取るので、フィルムF間の空気や水分等が排除されて、フィルムF同士を密着させた状態で、巻き替えロール61を製造することができる。
【0066】
そして、フレキシブル回路基板等の製造にあたっては、上記のように製造された巻き替えロール61から更にフィルムFが引き出されて、このフィルムFの表面の少なくとも一部に、スパッタリングにより金属層が形成されたり、或いは、プラズマ処理により表面改質が施されたりするようになっている。
【0067】
このとき、この製造方法によって製造された巻き替えロール61は、フィルムF間に空気や水分等が排除されて巻き付けられた状態となっているので、空気や水分等の影響を受けることなく、上記のスパッタリングやプラズマ処理等を、確実かつ効率的にフィルムFに施すことができる。
【0068】
また、この巻き替えロール61は、フィルムF間に空気がなく、フィルムF同士が密着した状態で巻回されているので、フィルムF間に空気が残存する場合に比べて、フィルムFを長く巻き取ることができる。その結果、フィルムFの引き出し長さを長くすることができるので、製造工程時のロール取り替えの回数が減り、効率化を図ることができる。
【0069】
なお、上述したように、フィルムFがポリイミドフィルムの場合、これを巻き取って得られる巻き替えロール61は、引出されたポリイミドフィルムの表面の少なくとも一部に、スパッタリングによる金属層の形成又はプラズマ処理による表面改質が施されて用いられるものであることが好ましい。この巻き替えロールは、上述したようにフィルム間の空気や水分等が排除されて、ポリイミドフィルム同士が密着した状態で巻き替えられているので、その表面の一部にスパッタリングやプラズマ処理を施すことが求められるフレキシブルプリント基板等の、製造用ポリイミドフィルムとして好適に利用することができる。
【0070】
更に、この実施形態においては、上記のフィルム端面の膨れS(図8参照)が1.5μm以下であることが好ましく、0.8μm以下であることがより好ましい。これによれば、フィルムFの端面の膨れSが1.5μm以下と極めて小さいので、巻き取ったときのロール端面のハイエッジ量E1、E2(図7(a),(b)参照)を低く抑えることができる。
【0071】
ここで、図7(a),(b)に示すように、分割ロール51のハイエッジ量E1に対して、巻き替えロール61のハイエッジ量E2の方が大きい。すなわち、この実施形態のように、真空環境下又は減圧環境下でフィルムFを巻き取ると、フィルムF同士が密着するので、フィルムFの凹凸やフィルム端面の膨れSがはっきりとあらわれて、分割ロール51のハイエッジ量E1よりも、巻き替えロール61のハイエッジ量E2が相対的に高くなる。
【0072】
これに関連して、この実施形態においては、分割ロール51として、巻き取り長さが500m以上であり、ロール端面の突出高さであるハイエッジ量E1が100μm以下であるものを用いて、巻き替えロール61のハイエッジ量E2が0.5mm以下となるようにすることが好ましい。
【0073】
これによれば、巻き替えロール61のハイエッジ量E2が0.5mm以下と十分に小さいので、フィルム平面性が良好に保たれると共に、フィルムFより一層長く巻き取ることができる。また、図7(a),(b)に示すような、分割ロール51と巻き替えロール61とのハイエッジ量の差を十分に小さくすることができる。
【0074】
また、この実施形態においては、分割ロール51として、最大巻き硬度が200×9.8m/sec以上であるものを用いることが好ましい。これによれば、分割ロール51の最大巻き硬度が200×9.8m/sec以上と硬く巻かれているので、巻き取り時や搬送時における巻きズレを抑制することができる。巻き硬度が200×9.8m/sec未満であると、保形性が悪く、経時的に型崩れが生じる傾向となるので、好ましくない。なお、前記巻き硬度の値は、ロール硬度計(TAPIO Technologies社製 RQP)を用いてロール表面を一定加重(5N)で押し込んだときの減加速度を測定した値を意味する。
【実施例】
【0075】
(実施例1)
(ポリイミドフィルムの製造)
溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミドを用いて、ジアミン成分としてのp−フェニレンジアミン(PPD)と、酸成分としての3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)とを重合反応させて、ポリアミック酸溶液(ポリイミド前駆体溶液)を得た。次に、得られたポリアミック酸溶液を支持体上に流延し、加熱することにより部分イミド化された自己支持性フィルムを得た。その後、自己支持性フィルムを加熱(キュア)することによりイミド化を完結し、厚さ50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0076】
(ポリイミドフィルムの裁断)
上記の厚さ50μmのポリイミドフィルムを巻き取って、幅1550mmで、巻き取り長さが3000mの原反フィルムロールを製造した。
【0077】
この原反フィルムロールを、図1に示すスリッター10で裁断した。このときのスリッター10の上刃31は、材質がSKH2、厚さt1(図3参照)が1mm、刃先角θ1が45°、刃先35の一側面35aの面粗さRzが0.2Z、刃先角部36の半径寸法Rが5μm以下のものを用いた。
【0078】
一方、下刃41は、材質がSKD11、厚さt2(図3参照)が10mm、刃先角θ2が90°、刃先45の一側面45aの面粗さRzが0.2Z、刃先角部46の半径寸法Rが5μm以下のものを用いた。
【0079】
また、下刃41に対する上刃31の侵入深さD(図3参照)を0.3mmとして、上刃31の刃先35の一側面35aを、下刃41の刃先45の一側面45aに、30Nの圧力で接触させた。
【0080】
そして、上刃31及び下刃41でポリイミドフィルムを幅500mmで裁断し、同フィルムを45Nの張力を付与しつつ引張って、巻取部50で3インチの芯材に巻き付けて、巻き取り長さが700mの分割フィルムロールを製造した。
【0081】
(実施例2)
上刃31の刃先角θ1を60°とした以外は、前記実施例1と同じ条件で、分割フィルムロールを製造した。
【0082】
(実施例3)
厚さ125μmのポリイミドフィルムを用い、下刃41の刃先45の一側面45aに対する、上刃31の刃先35の一側面35aを接触圧力を40Nとし、ポリイミドフィルムを引張るときの張力を55Nとし、芯材に対するポリイミドフィルムの巻き取り長さを400mとした以外は、前記実施例1と同じ条件で、分割フィルムロールを製造した。
(実施例4)
【0083】
上刃31の刃先角θ1を80°とした以外は、前記実施例1と同じ条件で、分割フィルムロールを製造した。この結果、毛羽立ちは無く、フィルムの端面の膨れSは0〜1.5μmの範囲であり、分割フィルムロールのハイエッジ量(E1)は0〜40μmの範囲であり、製品の品質上も問題なく使用できるものであった。
【0084】
(実施例5)
上刃31の刃先35の一側面35aの面粗さRzを0.1Zとした以外は、前記実施例1と同じ条件で、分割フィルムロールを製造した。この結果、毛羽立ちは無く、フィルムの端面の膨れSは0〜1.5μmの範囲であり、分割フィルムロールのハイエッジ量(E1)は0〜40μmの範囲であり、製品の品質上も問題なく使用できるものであった。
【0085】
(実施例6)
下刃41に対する上刃31の侵入深さD(図3参照)を0.2mmとした以外は、前記実施例1と同じ条件で、分割フィルムロールを製造した。この結果、毛羽立ちは無く、フィルムの端面の膨れSは0〜1.5μmの範囲であり、分割フィルムロールのハイエッジ量(E1)は0〜40μmの範囲であり、製品の品質上も問題なく使用できるものであった。
【0086】
(実施例7)
下刃41に対する上刃31の侵入深さD(図3参照)を0.5mmとした以外は、前記実施例1と同じ条件で、分割フィルムロールを製造した。この結果、毛羽立ちは無く、フィルムの端面の膨れSは0〜1.5μmの範囲であり、分割フィルムロールのハイエッジ量(E1)は0〜40μmの範囲であり、製品の品質上も問題なく使用できるものであった。
【0087】
(比較例1)
上刃31の刃先角θ1を90°とした以外は、実施例1と同様の条件で、分割フィルムロールを製造した。
【0088】
(比較例2)
上刃31の一側面35aの面粗さRzを1.6Z以下とし、下刃41の一側面45aの面粗さRzを1.6Z以下とした以外は、実施例1と同様の条件で、分割フィルムロールを製造した。
【0089】
(比較例3)
下刃41に対する上刃31の侵入深さD(図3参照)を0.1mmとした以外は、実施例1と同様の条件で、分割フィルムロールを製造した。
【0090】
(分割フィルムロールに巻回されたフィルムの端面観察)
分割フィルムロールに巻き取られたフィルムの端面を観察した。
【0091】
フィルム端面の膨れSは、ロールから所定長さのフィルムを切出して、裁断面周縁が観察できるように所定の治具で固定し、CCDカメラ(キーエンス社製、VHX−900)を用い、1000倍の視野でフィルムの端部幅a(図8参照)を5箇所で撮像し、その平均値を算出した。また、非接触厚み計(ミツトヨ社製、リニヤゲージ:表示量0.1μmのもの)を用いて、フィルム一端面から1mm内側のフィルム厚みb(図8参照)を測定した。そして、フィルム端面の膨れSを以下の式(i)で算出した。
フィルム端面の膨れS=a−b・・・(i)
【0092】
(ロール端面のハイエッジ量の測定)
分割フィルムロールの端面のハイエッジ量E1を測定した。
【0093】
2次元変位センサー(キーエンス社製、LJ−G030)を用い、ロール端面の外周に沿って120ずつ3箇所で測定して、その平均値を算出した。
【0094】
(まとめ)
上記実施例1〜7及び比較例1〜3の観察・測定結果を、下記表1にまとめて示す。
【0095】
【表1】

【0096】
上記表1に示すように、比較例1,2ではフィルム端面に毛羽立ちが認められた。また、比較例3ではフィルムFを10000m以上裁断した場合に、刃先にカケが生じた。その際のフィルム端面の膨れは2〜5μmで比較的大きく、また、ハイエッジ量E1も101〜1000μmと大きかった。このように、比較例1〜3では、製品の品質に問題があった。
【0097】
一方、実施例1〜7では、フィルム端面に毛羽立ちは認められず、膨れSやハイエッジ量E1も小さく、更に、その状態を保持しつつ、60000m以上ものフィルムFを裁断することができ、製品の品質が向上することを確認できた。
【符号の説明】
【0098】
10 スリッター
13 上刃
20 巻出部
21 原反フィルムロール(原反ロール)
23 テンションローラ
30 カッター装置
31 上刃
33 回転軸
35 刃先
35a 一側面
35b 刃先面
36 刃先角部
41 下刃
43 回転軸
45 刃先
45a 一側面
45b 刃先面
46 刃先角部
50 巻取部
51 分割フィルムロール(分割ロール)
53 振り分けローラ
60 真空チャンバー
61 巻き替えフィルムロール(巻き替えロール)
63 テンションローラ
E ハイエッジ
E1 ハイエッジ量(分割フィルムロールのハイエッジ量)
E2 ハイエッジ量(巻き替えフィルムロールのハイエッジ量)
F フィルム
θ1 刃先角(上刃31の刃先35の刃先角度)
θ2 刃先角(下刃41の刃先45の刃先角度)
θ3 トーイン角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に走行されるフィルムを、互いの刃先の一側面を摺接させるようにして回転する上刃と下刃との間に挿入し、走行方向に沿ってかつ幅方向に分割するように裁断するフィルムの裁断方法であって、
前記上刃として、前記下刃に摺接する刃先角が30〜80°で、前記下刃と対向する面の面粗さRzが0.2Z以下であるものを用いると共に、前記下刃に対する前記上刃の侵入深さが0.2〜0.5mmとなるように、前記上刃と前記下刃とを摺接させた状態で、平均厚みが40〜230μmとされた前記フィルムを裁断することを特徴とするフィルムの裁断方法。
【請求項2】
前記上刃として、前記下刃に近接する刃先角部のRが50μm以下であるものを用いる請求項1記載のフィルムの裁断方法。
【請求項3】
前記下刃として、前記上刃に近接する刃先角部のRが50μm以下で、前記上刃と対向する面の面粗さRzが0.2Z以下であるものを用いる請求項1または2記載のフィルムの裁断方法。
【請求項4】
前記上刃と前記下刃の摺接部が、前記上刃の先端から前記下刃の先端の間で面接触するように、前記上刃の刃先角が調整されている請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルム裁断方法。
【請求項5】
前記フィルムの引張り強さが5〜10MPaとされている請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルムの裁断方法。
【請求項6】
前記フィルムの弾性率が50〜150MPaとされている請求項1〜5のいずれか1項に記載のフィルムの裁断方法。
【請求項7】
前記フィルムがポリイミドフィルムである請求項1〜6のいずれか1項に記載のフィルムの裁断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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