説明

フィルムまたはシート用環状オレフィン系樹脂組成物およびその用途

【課題】透明性、耐熱性を備えるとともに、良好な靭性を有するフィルムまたはシートを成形することができる環状オレフィン系樹脂組成物を提供する。
【解決課題】本発明に係る樹脂組成物は、[A]所定の構造を有し、軟化点温度(TMA)が120〜300℃である環状オレフィン系樹脂と、[B]芳香族ビニルを含む重合体とからなり、成分[A]50〜90重量部に対して、成分[B]を10〜50重量部(成分[A]および[B]の合計量を100重量部とする)の量で含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムまたはシート用環状オレフィン系樹脂組成物および当該樹脂組成物を用いたフィルムまたはシート、ならびに光学フィルムまたはシートに関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンと環状オレフィン類とを共重合させて得られる環状オレフィン系ランダム共重合体は、透明性に優れ、しかも耐熱性、耐熱老化性、耐薬品性、耐溶剤性、剛性などのバランスのとれた合成樹脂であり、かつ、光学メモリディスクや光学ファイバなどの光学材料の分野において優れた性能を発揮することが知られている。
【0003】
特許文献1には、透明性、低複屈折性、耐熱性、耐熱老化性、耐薬品性、耐溶剤性などに優れ、特に環境変化によっても優れた透明性を安定して保持することができる環状オレフィン系樹脂組成物が開示されている。
【特許文献1】特開平9−176397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、樹脂組成物からフィルムまたはシートを作成する場合に、得られるフィルムまたはシートの耐久性が要求されることがある。この耐久性が要求される場面とは、例えばフィルムの成型時には、この樹脂組成物を用いた押出成形法が広く採用されており、この場合には得られたフィルムはロール巻き取りにより回収することが一般的である。その際に、この曲げに対して十分な耐久性が要求される。
そのような観点からみると、特許文献1に記載の樹脂組成物は、温度や湿度などの環境変化に対して安定した透明性を示すという点ではフィルムに適用し得るものの、前述の耐久性の観点で改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、環状オレフィン系ランダム共重合体などからなる樹脂(以下、「環状オレフィン系樹脂」という)の前述の特徴を維持しながら、フィルムまたはシートへの適用について鋭意検討した結果、前述したロール巻き取りなどに要求される耐久性は、成形して得られるフィルムまたはシートの靭性に依存すること、およびそのためには材料となる環状オレフィン系樹脂に、フィルムまたはシートに成型したときの靭性を付与することで、前記課題を解決することができることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明に係るフィルムまたはシート用環状オレフィン系樹脂組成物は、
[A](1)下記の[A-1],[A-2],[A-3]および[A-4]から選ばれ、(2)軟化点温度(TMA)が120〜300℃である環状オレフィン系樹脂と、
[B]芳香族ビニルを含む重合体とからなり、
上記成分[A]50〜90重量部に対して、上記成分[B]を10〜50重量部(成分[A]および[B]の合計量を100重量部とする)の量で含有していることを特徴とするフィルムまたはシート用環状オレフィン系樹脂組成物である:
[A-1]エチレンと下記式[I]または[II]で示される環状オレフィンとのランダム共重合体;
【0007】
【化1】

【0008】
(式[I]中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1であり、R1〜R18ならびにRaおよびRbは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲンで置換されていてもよい炭化水素基であり、R15〜R18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、またはR17とR18とで、アルキリデン基を形成していてもよい。)、
【0009】
【化2】

【0010】
(式[II]中、pおよびqは0または正の整数であり、mおよびnは0,1または2であり、R1〜R19はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基またはアルコキシ基であり、R9またはR10が結合している炭素原子と、R13が結合している炭素原子またはR11が結合している炭素原子とは直接あるいは炭素数1〜3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またn=m=0のときR15とR12またはR15とR19とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。)、
[A-2]上記式[I]または[II]で示される環状オレフィンの開環重合体または共重合体、
[A-3]上記開環重合体または共重合体[A-2]の水素化物、
[A-4]上記[A-1],[A-2]または[A-3]のグラフト変成物。
【0011】
このフィルムまたはシート用環状オレフィン系樹脂組成物において、軟化点温度(TMA)が120〜300℃であってもよい。
【0012】
また、前述のフィルムまたはシート用環状オレフィン系樹脂組成物において、フィルムに成型したときの当該フィルムのフィルムに成型したときの当該フィルムのJIS P8115に準拠して測定した耐折回数が、40回以上であってもよい。
【0013】
また、前述のフィルムまたはシート用環状オレフィン系樹脂組成物において、JIS K7136に準拠して測定したヘイズが10%以下であってもよい。
【0014】
また、前述のフィルムまたはシート用環状オレフィン系樹脂組成物において、[B]芳香族ビニルを含む重合体が、芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物であり、該成分[B]中のスチレン含量が、60重量%以上であってもよい。
【0015】
また、前述のフィルムまたはシート用環状オレフィン系樹脂組成物において、ASTM D542に準拠して測定した成分[B]の屈折率をnD[B]とし、成分[A]の屈折率nD[A]としたとき、屈折率の差|nD[B]−nD[A]|が0.015以下であってもよい。
【0016】
また、本発明に係るフィルムまたはシートは、前述の樹脂組成物を含むものである。
また、本発明に係る光学フィルムまたはシートは、前述の樹脂組成物を含むものである。
【0017】
本発明によれば、特定の芳香族ビニルを含む重合体を特定の環状オレフィン系樹脂に一定量配合することにより得られる樹脂組成物を成型して得られるフィルムまたはシートの靭性をより向上させることができる一方で、本来環状オレフィン系樹脂から得られるフィルムまたはシートが備える透明性、耐熱性は維持される。
【0018】
特に、靭性が向上することから、フィルムまたはシートから各種光学フィルム用途に合わせて切断等する際にも、ひび割れがより生じにくくなるため、様々な加工への耐久性を要求される光学フィルムの用途に好適なフィルムまたはシートが得られる。
【0019】
また、このような光学フィルムは、透明性、耐熱性などの観点から光学デバイスへの適用に好適である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、透明性、耐熱性を備えるとともに、良好な靭性を有するフィルムまたはシートを成形することができる環状オレフィン系樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下本発明に係るフィルムまたはシート用環状オレフィン系樹脂組成物について具体的に説明する。
本発明に係るフィルムまたはシート用環状オレフィン系樹脂組成物は、環状オレフィンから導かれる環状オレフィン系樹脂[A]50〜90重量部に対して、芳香族ビニルを含む重合体[B]を10〜50重量部、好ましくは成分[A]50〜85重量部に対して、成分[B]を15〜50重量部、さらに好ましくは成分[A]60〜85重量部に対して、成分[B]を15〜40重量部の量で含有している。なお、成分[A]および[B]の合計量を100重量部としている。
【0022】
以下、本発明で用いられる環状オレフィン系樹脂について示す。
本発明では、環状オレフィン系樹脂として、
[A-1]エチレンと下記式[I]または[II]で示される環状オレフィンとのランダム共重合体、
[A-2]下記式[I]または[II]で示される環状オレフィンの開環重合体または共重合体、
[A-3]上記開環重合体または共重合体[A-2]の水素化物、または
[A-4]上記[A-1]、[A-2]または[A-3]のグラフト変性物
が用いられる。以下このような環状オレフィン系樹脂[A-1]〜[A-4]を形成する式[I]または[II]で示される環状オレフィンについて説明する。
【0023】
環状オレフィン
【化3】

【0024】
上記式[I]中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1である。なおqが1の場合には、Ra およびRb は、それぞれ独立に、下記の原子または炭化水素基であり、qが0の場合には、それぞれの結合手が結合して5員環を形成する。
【0025】
1 〜R18ならびにRa およびRb は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または炭化水素基である。ここでハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。
【0026】
また炭化水素基としては、それぞれ独立に、通常炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数3〜15のシクロアルキル基、芳香族炭化水素基が挙げられる。より具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基およびオクタデシル基が挙げられ、シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基が挙げられ、芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。これらの炭化水素基は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0027】
さらに上記式[I]において、R15〜R18がそれぞれ結合して(互いに共同して)単環または多環を形成していてもよく、しかもこのようにして形成された単環または多環は二重結合を有していてもよい。ここで形成される単環または多環の具体例を下記に示す。
【0028】
【化4】

【0029】
なお上記例示において、1または2の番号が付された炭素原子は、式[I]においてそれぞれR15(R16)またはR17(R18)が結合している炭素原子を示している。またR15とR16とで、またはR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。このようなアルキリデン基は、通常は炭素原子数2〜20のアルキリデン基であり、このようなアルキリデン基の具体的な例としては、エチリデン基、プロピリデン基およびイソプロピリデン基を挙げることができる。
【0030】
【化5】

【0031】
上記式[II]中、pおよびqは0または正の整数であり、mおよびnは0、1または2である。またR1 〜R19は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基またはアルコキシ基である。
【0032】
ハロゲン原子は、上記式[I]におけるハロゲン原子と同じ意味である。また炭化水素基としては、それぞれ独立に炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数1〜20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3〜15のシクロアルキル基または芳香族炭化水素基が挙げられる。より具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基およびオクタデシル基が挙げられ、シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基が挙げられ、芳香族炭化水素基としては、アリール基およびアラルキル基、具体的には、フェニル基、トリル基、ナフチル基、ベンジル基およびフェニルエチル基などが挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基およびプロポキシ基などを挙げることができる。これらの炭化水素基およびアルコキシ基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子で置換されていてもよい。
【0033】
ここで、R9 およびR10が結合している炭素原子と、R13が結合している炭素原子またはR11が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1〜3のアルキレン基を介して結合していてもよい。すなわち上記二個の炭素原子がアルキレン基を介して結合している場合には、R9 およびR13で示される基が、またはR10およびR11で示される基が互いに共同して、メチレン基(-CH2-) 、エチレン基(-CH2CH2-) またはプロピレン基(-CH2CH2CH2-) のうちのいずれかのアルキレン基を形成している。さらに、n=m=0のとき、R15とR12またはR15とR19とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。この場合の単環または多環の芳香族環として、たとえば下記のようなn=m=0のときR15とR12がさらに芳香族環を形成している基が挙げられる。
【0034】
【化6】

【0035】
ここでqは式[II]におけるqと同じ意味である。上記のような式[I]または[II]で示される環状オレフィンを、より具体的に下記に例示する。
【0036】
【化7】

【0037】
(上記式中、1〜7の数字は炭素の位置番号を示す。)およびこのビシクロ[2.2.1 ]-2-ヘプテンに、炭化水素基が置換した誘導体。この炭化水素基としては、たとえば、5-メチル、5,6-ジメチル、1-メチル、5-エチル、5-n-ブチル、5-イソブチル、7-メチル、5-フェニル、5-メチル-5-フェニル、5-ベンジル、5-トリル、5-(エチルフェニル) 、5-(イソプロピルフェニル) 、5-(ビフェニル)、5-(β-ナフチル)、5-(α-ナフチル) 、5-(アントラセニル) 、5,6-ジフェニルなどが挙げられる。
【0038】
さらに他の誘導体として、シクロペンタジエン-アセナフチレン付加物、1,4-メタノ-1,4,4a,9a- テトラヒドロフルオレン、1,4-メタノ-1,4,4a,5,10,10a-ヘキサヒドロアントラセンなどのビシクロ[2.2.1 ]-2-ヘプテン誘導体などが挙げられる。
【0039】
トリシクロ[4.3.0.12,5]-3-デセン、2-メチルトリシクロ[4.3.0.12,5]-3-デセン、5-メチルトリシクロ[4.3.0.12,5]-3-デセンなどのトリシクロ[4.3.0.12,5]-3-デセン誘導体、トリシクロ[4.4.0.12,5]-3-ウンデセン、10-メチルトリシクロ[4.4.0.12,5]-3-ウンデセンなどのトリシクロ[4.4.0.12,5]-3-ウンデセン誘導体。
【0040】
【化8】

【0041】
(上記式中、1〜12の数字は炭素の位置番号を示す。)およびこれに、炭化水素基が置換した誘導体。この炭化水素基としては、たとえば、8-メチル、8-エチル、8-プロピル、8-ブチル、 8- イソブチル、8-ヘキシル、8-シクロヘキシル、8-ステアリル、5,10-ジメチル、2,10-ジメチル、8,9-ジメチル、8-エチル-9-メチル、11,12-ジメチル、2,7,9-トリメチル、2,7-ジメチル-9-エチル、9-イソブチル-2,7-ジメチル、9,11,12-トリメチル、9-エチル-11,12-ジメチル、9-イソブチル-11,12-ジメチル、5,8,9,10-テトラメチル、8-エチリデン、8-エチリデン-9-メチル、8-エチリデン-9-エチル、8-エチリデン-9-イソプロピル、8-エチリデン-9-ブチル、8-n-プロピリデン、8-n-プロピリデン-9-メチル、8-n-プロピリデン-9-エチル、8-n-プロピリデン-9-イソプロピル、8-n-プロピリデン-9-ブチル、8-イソプロピリデン、8-イソプロピリデン-9-メチル、8-イソプロピリデン-9-エチル、8-イソプロピリデン-9-イソプロピル、8-イソプロピリデン-9-ブチル、8-クロロ、8-ブロモ、8-フルオロ、8,9-ジクロロ、8-フェニル、8-メチル-8-フェニル、8-ベンジル、8-トリル、8-(エチルフェニル)、8-(イソプロピルフェニル)、8,9-ジフェニル、8-(ビフェニル)、8-(β-ナフチル)、8-(α-ナフチル) 、8-(アントラセニル) 、5,6-ジフェニルなどが挙げられる。
【0042】
さらに他の誘導体として、(シクロペンタジエン-アセナフチレン付加物)とシクロペンタジエンとの付加物などが挙げられる。ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]-4-ペンタデセン、およびその誘導体。ペンタシクロ[7.4.0.12,5.19,12.08,13]-3-ペンタデセン、およびその誘導体。ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13 ]-4,10-ペンタデカジエンなどのペンタシクロペンタデカジエン化合物。ペンタシクロ[8.4.0.12,5.19,12.08,13]-3-ヘキサデセン、およびその誘導体。ペンタシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14 ]-4-ヘキサデセン、およびその誘導体。ヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]-4-ヘプタデセン、およびその誘導体。ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.14,7.111,17.03,8.012,16]-5- エイコセン、およびその誘導体。ヘプタシクロ[8.8.0.12,9.14,7.111,18.03,8.012,17]-5-ヘンエイコセン、およびその誘導体。オクタシクロ[8.8.0.12,9.14,7.111,18.113,16.03,8.012,17 ]-5-ドコセン、およびその誘導体。ノナシクロ[10.9.1.14,7.113,20.115,18.02,10.03,8.012,21.014,19]-5-ペンタコセン、およびその誘導体。ノナシクロ[10.10.1.15,8.114,21.116,19.02,11.04,9.013,22.015,20]-6-ヘキサコセン、およびその誘導体などが挙げられる。
【0043】
なお一般式[I]または[II]で示される環状オレフィンの具体例を上記に示したが、これら化合物のより具体的な構造例としては、特開平7−145213号当初明細書の段落番号[0032]〜[0054]に示された環状オレフィンの構造例を挙げることができる。本発明で用いられる環状オレフィン系樹脂は、上記環状オレフィンから導かれる単位を2種以上含有していてもよい。
【0044】
上記のような一般式[I]または[II]で示される環状オレフィンは、シクロペンタジエンと対応する構造を有するオレフィン類とを、ディールス・アルダー反応させることによって製造することができる。
【0045】
本発明で用いられる環状オレフィン系樹脂は、上記のような式[I]または[II]で示される環状オレフィンを用いて、たとえば特開昭60-168708号、特開昭61-120816号、特開昭61-115912号、特開昭61-115916号、特開昭61-271308号、特開昭61-272216号、特開昭62-252406号および特開昭62-252407号、などの公報において本出願人が提案した方法に従い、それぞれ適宜条件を選択することにより製造することができる。
【0046】
[A-1]エチレン・環状オレフィンランダム共重合体
[A-1]エチレンと環状オレフィンとのランダム共重合体は、エチレンから導かれる単位を通常5〜95モル%、好ましくは20〜80モル%の量で、環状オレフィンから導かれる単位を通常5〜95モル%、好ましくは20〜80モル%の量で含有している。なおエチレン組成および環状オレフィン組成は、13C−NMRによって測定することができる。
【0047】
この[A-1]エチレン・環状オレフィンランダム共重合体では、上記のようなエチレンから導かれる単位と環状オレフィンから導かれる単位とが、ランダムに配列して結合し、実質的に線状構造を有している。この共重合体が実質的に線状であって、実質的にゲル状架橋構造を有していないことは、この共重合体が有機溶媒に溶解した際に、この溶液に不溶分が含まれていないことにより確認することができる。たとえば極限粘度[η]を測定する際に、この共重合体が135℃のデカリンに完全に溶解することにより確認することができる。
【0048】
本発明で用いられる[A-1]エチレン・環状オレフィンランダム共重合体において、上記式[I]または[II]で示される環状オレフィンの少なくとも一部は、下記式[III]または[IV]で示される繰り返し単位を構成していると考えられる。
【0049】
【化9】

【0050】
式[III]において、n、m、q、R1 〜R18ならびにRa 、Rb は式[I]と同じ意味である。
【0051】
【化10】

【0052】
式[IV]において、n、m、p、qおよびR1 〜R19は式[II]と同じ意味である。また上記のような[A-1]エチレン・環状オレフィンランダム共重合体は、本発明の目的を損なわない範囲であれば必要に応じて他の共重合可能なモノマーから導かれる単位を有していてもよく、具体的には他のモノマーから導かれる単位を、通常20モル%以下、好ましくは10モル%以下の量で含有していてもよい。
【0053】
このような他のモノマーとしては、上記のようなエチレンまたは環状オレフィン以外のオレフィンを挙げることができ、具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンおよび1-エイコセンなどの炭素数3〜20のα-オレフィン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、3,4-ジメチルシクロペンテン、3-メチルシクロヘキセン、2-(2-メチルブチル)-1-シクロヘキセンおよびシクロオクテン、3a,5,6,7a-テトラヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデンなどのシクロオレフィン、1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、ジシクロペンタジエンおよび5-ビニル-2-ノルボルネンなどの非共役ジエン類を挙げることができる。エチレン・環状オレフィンランダム共重合体[A-1]は、上記他のモノマーから導かれる単位を2種以上含有していてもよい。
【0054】
エチレン・環状オレフィンランダム共重合体[A-1]は、エチレンと式[I]または[II]で示される環状オレフィンとを用いて上記公報に開示された製造方法により製造することができる。これらのうちでも、共重合反応を炭化水素溶媒中で行い、触媒として該炭化水素溶媒に可溶性のバナジウム化合物および有機アルミニウム化合物から形成される触媒を用いてエチレン・環状オレフィンランダム共重合体[A-1]を製造することが好ましい。
【0055】
また固体状IVA族メタロセン系触媒を用いてエチレン・環状オレフィンランダム共重合体[A-1]を製造することもできる。この固体状IVA族メタロセン系触媒は、少なくとも1個のシクロペンタジエニル骨格を有する配位子を含む遷移金属化合物(メタロセン化合物)と、有機アルミニウムオキシ化合物と、必要に応じて有機アルミニウム化合物とから形成される。ここでIV族の遷移金属は、ジルコニウム、チタンまたはハフニウムである。シクロペンタジエニル骨格を含む配位子としてはアルキル基が置換していてもよいシクロペンタジエニル基、インデニル基、テトラヒドロインデニル基、フロオレニル基などが挙げられる。これらの基はアルキレン基など他の基を介して結合していてもよい。またシクロペンタジエニル骨格を含む配位子以外の配位子は、通常アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などである。
【0056】
また有機アルミニウムオキシ化合物、有機アルミニウム化合物は、通常オレフィン系重合体の製造に使用されるものを用いることができる。このような固体状IVB族メタロセン系触媒については、たとえば特開昭61-221206号、特開昭64-106号および特開平2-173112号公報などに詳細に記載されている。
【0057】
またさらに、フェノキシイミン系触媒(FI触媒)やピロールイミン系触媒(PI触媒)を用いてエチレン・環状オレフィンランダム共重合体[A-1]を製造することもできる。これらの触媒は、特開2001-72706号、特開2002-332312号、特開2003-313247号、特開2004-107486号、特開2004-107563号に記載のように、(a)フェノキシイミンまたはピロールイミンを配位子とする遷移金属化合物と、(b)(b−1)有機金属化合物、(b−2)有機アルミニウムオキシ化合物、および(b−3)遷移金属化合物(a)と反応してイオン対を形成する化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物と、からなる。ここで遷移金属化合物に含まれる遷移金属としては、周期表第3〜11族の遷移金属を用いることができる。
【0058】
[A-2]環状オレフィンの開環(共)重合体
環状オレフィンの開環重合体または開環共重合体[A-2]では、上記式[I]または[II]で示される環状オレフィンから導かれる単位の少なくとも一部は、下記式[V]または[VI]で示される。
【0059】
【化11】

【0060】
式[V]において、n、m、qおよびR1 〜R18ならびにRa およびRb は式[I]と同じ意味である。
【0061】
【化12】

【0062】
式[VI]において、n、m、p、qおよびR1 〜R19は式[II]と同じ意味である。このような開環(共)重合体は、前記公報に開示された製造方法により製造することができ、たとえば上記式[I]で示される環状オレフィンを開環重合触媒の存在下に、重合または共重合させることにより製造することができる。
【0063】
このような開環重合触媒としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、インジウムまたは白金などから選ばれる金属のハロゲン化物、硝酸塩またはアセチルアセトン化合物と、還元剤とからなる触媒、あるいは、チタン、パラジウム、ジルコニウムまたはモリブテンなどから選ばれる金属のハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いることができ、このような環状オレフィンの開環(共)重合体は、例えば特開平7−324108号公報に記載の方法で得ることができる。
【0064】
[A-3]開環(共)重合体の水素化物
開環(共)重合体の水素化物[A-3]は、上記のような開環重合体または開環共重合体[A-2]を、従来公知、例えば特開平7−324108号公報の水素添加触媒の存在下に水素化して得られる。
【0065】
この開環(共)重合体の水素化物[A-3]では、式[I]または[II]から導かれる単位の少なくとも一部は、下記式[VII]または[VIII]で示されると考えられる。
【0066】
【化13】

【0067】
式[VII]において、n、m、qおよびR1 〜R18ならびにRa およびRb は式[I]と同じ意味である。
【0068】
【化14】

【0069】
式[VIII]において、n、m、p、q、R1 〜R19は式[II]と同じ意味である。
このような環状オレフィン開環重合体の水素化物(水素添加物)としては、例えば日本ゼオン社製のZeonex1040R、ZF14、ZF16などを用いることができる。
[A-4] グラフト変性物
環状オレフィン系樹脂のグラフト変性物は、上記のエチレン・環状オレフィンランダム共重合体[A-1]、環状オレフィンの開環(共)重合体[A-2]、または開環(共)重合体の水素化物[A-3]のグラフト変性物[A-4]である。
【0070】
このグラフト変性物[A-4]を得るための変性剤としては、通常不飽和カルボン酸類が用いられ、具体的に、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、エンドシス−ビシクロ[2.2.1] ヘプト-5- エン-2,3-ジカルボン酸(ナジック酸TM)などの不飽和カルボン酸、さらにこれら不飽和カルボン酸の誘導体たとえば不飽和カルボン酸無水物、不飽和カルボン酸ハライド、不飽和カルボン酸アミド、不飽和カルボン酸イミド、不飽和カルボン酸のエステル化合物などが挙げられる。不飽和カルボン酸の誘導体としては、より具体的に、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、塩化マレニル、マレイミド、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、グリシジルマレエートなどが挙げられる。
【0071】
これらの変性剤のうちでも、α,β−不飽和ジカルボン酸およびα,β−不飽和ジカルボン酸無水物たとえばマレイン酸、ナジック酸およびこれら酸の無水物が好ましく用いられる。これらの変性剤は、単独で用いても良いし2種以上を組合わせて用いてもよい。本発明で用いられる環状オレフィン系樹脂のグラフト変性物[A-4]における変性率は、通常10モル%以下であることが望ましい。
【0072】
環状オレフィン系樹脂[A-1]、[A-2]または[A-3]と変性剤とから環状オレフィン系樹脂のグラフト変性物を得るには、従来公知のポリマーの変性方法を広く適用することができる。たとえば溶融状態にある環状オレフィン系樹脂[A-1]、[A-2]または[A-3]に変性剤を添加してグラフト重合(反応)させる方法、あるいは環状オレフィン系樹脂[A-1]、[A-2]または[A-3]の溶媒溶液に変性剤を添加してグラフト反応させる方法などによりグラフト変性物を得ることができる。このようなグラフト反応は、通常60〜350℃の温度で行われる。またグラフト反応は、有機過酸化物およびアゾ化合物などのラジカル開始剤の共存下に行うことができる。
【0073】
また上記のような変性率の変性物は、未変性環状オレフィン系樹脂と変性剤とのグラフト反応によって直接得ることができ、また環状オレフィン系樹脂と変性剤とのグラフト反応によって予め高変性率の変性物を調製し、次いでこの変性物を未変性の環状オレフィン系樹脂で所望の変性率となるように希釈することによって得ることもできる。
【0074】
本発明では、環状オレフィン系樹脂[A]として、上記のような[A-1]、[A-2]、[A-3]および[A-4]のいずれかを単独で用いてもよく、同種を2種以上用いてもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。これらのうちでも、環状オレフィン系樹脂[A]として、エチレン・環状オレフィンランダム共重合体[A-1]が好ましく用いられる。環状オレフィン系樹脂のX線回折法によって測定される結晶化度は、たとえば0〜20%、好ましくは0〜2%である。本発明で用いられる環状オレフィン系樹脂[A]の軟化点温度(TMA)は、120℃〜300℃であり、好ましくは120〜250℃、さらに好ましくは130℃〜200℃、最も好ましくは130℃〜190℃である。DSCで測定したガラス転移点温度(Tg)は、60〜270℃好ましくは70〜230℃である。環状オレフィン系樹脂[A]の極限粘度[η](135℃デカリン中)は、0.05〜10dl/gであり、好ましくは0.08〜5dl/gである。
【0075】
[B]芳香族ビニルを含む重合体
本発明に係る光学フィルム用環状オレフィン系樹脂組成物に用いられる芳香族ビニルを含む重合体(以下、共重合体[B]ともいう)は、芳香族ビニルを含む重合体またはその水素添加物であればよく、芳香族ビニルブロックと共役ジエンブロックとが共重合したブロック共重合体またはその水素添加物と、芳香族ビニルが共役ジエンとランダムに共重合したランダム共重合体またはその水素添加物が挙げられる。これら芳香族ビニルを含む重合体[B]の中でより好ましいのは、芳香族ビニルブロックと共役ジエンブロックとが共重合したブロック共重合体である、芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物である。
芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物は、JISAで規定されるゴム硬度が98以下のエラストマーが好適である。この共重合体[B]は、この環状オレフィン系樹脂[A]との屈折率の差が特定範囲となるように選択されたものが好ましく、例えばASTM D542に準拠して測定したこの共重合体[B]の屈折率をnD[B]とし、前記環状オレフィン系樹脂[A]の屈折率nD[A]としたとき、屈折率の差|nD[B]−nD[A]|が0.015以下、好ましくは0.012以下さらに好ましくは0.010以下である。環状オレフィン系樹脂組成物は、このようなエラストマーを含有していることによって、高温高湿雰囲気下から常温常湿雰囲気下へと環境変化した場合などにおいても優れた透明性を保持することができる。
【0076】
このような芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物を形成する芳香族ビニルとしては、具体的に、スチレン、α−メチルスチレン、p-メチルスチレンなどが挙げられる。また共役ジエンとしては、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエンなどが挙げられる。本発明で用いられる芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体およびその水素添加物[B]は、上記のような芳香族ビニルから導かれる単位を、60重量%以上、好ましくは60〜80重量%、さらに好ましくは60〜70重量%で含有していることが望ましい。
特に芳香族ビニルから導かれる単位を60〜70重量%の量で含有する芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物[B]を用いることにより、透明性に優れた環状オレフィン系樹脂組成物を形成することができる。なお芳香族ビニルから導かれる単位の含有量は、赤外線分光法、NMR分光法などの常法によって測定される値である。このような芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物[B]としては、具体的には、スチレン・ブタジエンブロック共重合体(SB)およびその水素添加物(SEB)、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体(SBS)およびその水素添加物(SEBS;スチレン・エチレン/ブチレン・スチレンブロック共重合体)、スチレン・イソプレンブロック共重合体(SI)およびその水素添加物(SEP)、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体(SIS)およびその水素添加物(SEPS;スチレン・エチレン/プロピレン・スチレンブロック共重合体)などが挙げられる。上記の芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物[B]たとえばSEBSとして、さらに具体的には、クレイトン(Kraton)G1650、G1652、G1657、G1701(シェル化学(株)製、商品名)、タフテック(旭化成(株)製、商品名)、SEPSとしてはセプトン2104などが挙げられる。本発明では、芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物[B]として、SEBS(水添SBS)、SEPS(水添SIS)が特に好ましく用いられる。本発明で用いられる芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物[B]は、芳香族ビニルブロック単位と共役ジエンゴムブロック単位(あるいはその水素添加ゴムブロック単位)とからなる熱可塑性エラストマーである。このようなブロック共重合体では、ハードセグメントである芳香族ビニルブロック単位がソフトセグメントであるゴムブロック単位の橋かけ点として存在して物理架橋(ドメイン)を形成している。上記のような本発明で用いられる芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物の数平均分子量は、500〜2000000好ましくは10000〜1000000であることが望ましい。なおこの数平均分子量(Mn)は、芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体およびその水素添加物[B]のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC;o-ジクロルベンゼン、140℃)を測定することにより求めることができる。本発明では、これら化合物を2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0077】
本発明に係る光学フィルム用環状オレフィン系樹脂組成物は、成分[A]および[B]を、押出機、バンバリーミキサーなどの公知の混練装置で溶融混練する方法、成分[A]および[B]を、共通の溶媒に溶解した後溶媒を蒸発させる方法、あるいは貧溶媒中に[A]および[B]の溶液を加えて析出させるなどの方法により得ることができる。
【0078】
また、本発明に係る光学フィルム用環状オレフィン系樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、各種添加剤たとえば染料、顔料、安定剤、可塑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、充填剤などを必要に応じて含有していてもよい。
【0079】
以上のように、特定の芳香族ビニル含有のエラストマー成分を特定の環状オレフィン系樹脂に一定量配合することにより得られる樹脂組成物を成型して得られるフィルムまたはシートの靭性をより向上させることができる一方で、本来環状オレフィン系樹脂から得られるフィルムまたはシートが備える透明性、耐熱性は維持される。
【0080】
また、本発明に係るフィルムまたはシートは、上記のような環状オレフィン系樹脂組成物を公知の成形方法により成形して得られる。たとえば、環状オレフィン系樹脂組成物を射出成形法、Tダイ押出法、インフレーション法、プレス法などの成形方法により、シート状またはフィルム状などに成形することができる。なお、フィルムまたはシートは、未延伸の状態で用いることもでき、また用途や目的に合わせて、延伸処理、例えば一軸延伸、二軸延伸して用いることもできる。
【0081】
このようにして得られるフィルムまたはシートの軟化点温度(TMA)は、120℃〜300℃であり、好ましくは120〜250℃、さらに好ましくは130〜200℃、最も好ましくは130〜190℃である。フィルムに成型したときの当該フィルムの耐折強度の指標となる耐折回数は40回以上、好ましくは40〜500回、さらに好ましくは50〜500回、特に好ましくは50〜200回である。また、JIS K7136に準拠して測定したヘイズ(Haze)値は10%以下、好ましくは1〜10%、さらに好ましくは2〜7%である。また、ASTM D570に準拠して測定した吸水率は、0.05%以下、好ましくは0.04%以下、さらに好ましくは0.01%〜0.04%、特に好ましくは0.02〜0.04%である。
【0082】
また、このようにして得られるフィルムまたはシートは、耐熱性、透明性、低吸湿性を備え、さらに高い耐折強度および破断伸びに示されるように靭性が向上している。このため、フィルムまたはシートから各種光学フィルム用途に合わせて切断等する際にも、ひび割れがより生じにくくなり、様々な加工への耐久性を要求される光学フィルムの用途に好適である。
【0083】
また、このような光学フィルムは、透明性、耐熱性などの観点から光学デバイスへの適用に好適である。
【0084】
このような本発明に係る光学フィルムの用途としては、具体的に、視野角補償フィルム、位相差フィルム、偏光保護フィルム、導光板に含まれる拡散フィルム、プリズムシートおよび反射シート、および集光板、LCD用基板、高温プロセス加工用フィルム、光学検査フィルム、タッチパネル、有機EL用バックライト、電子ペーパー用フィルム、有機ELディスプレイ用保護フィルム、有機EL用表示素子基板、有機TFT基板、AR基材フィルム、偏光反射シート、プリズムシート、光透過性記録シート、光情報記録媒体用保護フィルム、遮光板用基板、近赤外線吸収剤が配合された光学的バンドパスフィルター、熱線カットフィルム、などが挙げられる。
【0085】
図1は、本発明の光学フィルムを液晶ディスプレイ装置に適用した例を示す図である。
図1によれば、液晶ディスプレイ装置1において、液晶層2をガラス基板14,15で挟んで形成される液晶素子と、この液晶素子に光源21からの光を導入するための導光板デバイス20が設けられている。この導光板デバイス20と液晶素子との間には、導光板デバイス20の側から順に、光を拡散させるための拡散フィルム19、光の進行方向を調節するプリズムシート18、および偏光板3を含む偏光フィルタが設けられている。液晶素子の反対側の面には、液晶層2を透過した光の複屈折を補正して視野角を補償するための位相差フィルム13および偏光板4を含む偏光フィルタが設けられている。なお、二つの偏光フィルタにおいて、偏光板3の両面には偏光保護フィルム16,17が設けられ、偏光板4の両面には偏光保護フィルム11,12が設けられている。
【0086】
このような液晶ディスプレイ装置1では、導光板20から出射した光は、拡散フィルム19およびプリズムシート18を透過し、偏光板3を含む偏光フィルタで一定の偏光光のみが透過し、液晶層2に入射する。液晶層2を透過した光は、位相差フィルム13にて補正されて、視野角が拡大された状態で、偏光板4を含む偏光フィルタに入射し、一定の偏光光のみが透過し、視覚に入る。
【0087】
本発明の光学フィルムは、液晶ディスプレイ装置1においては、例えば偏光保護フィルム11,12、16,17、および位相差フィルム13、プリズムシート18、拡散フィルム19に適用される。
【0088】
図2は、本発明の光学フィルムを導光板に適用した例を示す図である。この導光板デバイス30は、図1の液晶ディスプレイ装置のバックライト用光源の導光板周囲の部品として使用される。
図2によれば、導光板デバイス30において、光源21からの光を液晶素子22へ向ける導光板25が設けられ、この導光板25の液晶素子22の反対側には、反射シート26が設けられていて、導光板25から漏れてきた光を液晶素子22に向かって反射させるようになっている。また、導光板25から液晶素子22に向かって、順に、光を拡散させるための拡散フィルム24および光の進行方向を調節して拡散した光を液晶素子22に確実に入射させるためのプリズムシート23が設けられている。
【0089】
このような導光板デバイス30では、光源21で発生した光は、導光板25にて大部分が拡散フィルタ24の方に導かれ、一部が拡散フィルタ24とは反対側に導かれる。この拡散フィルタ24とは違う側に導かれた光は、反射シート26にて反射し、導光板25を通って拡散フィルタ24に入射する。拡散フィルタ24では、入射した光が拡散し、拡散した光がプリズムシート23にて、進行方向が調節されて、液晶素子22に入射する。
【0090】
本発明の光学フィルムは、図2の導光板デバイス20においては、プリズムシート23、拡散フィルム24および反射シート26に適用される。
【0091】
以上、本発明の実施形態について説明したが、発明の目的を損なわない範囲で適宜変更を加えた態様も、本発明の実施形態に含まれる。
【実施例】
【0092】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において、各種物性は下記の方法によって測定または評価した。
【0093】
(1)軟化点温度(TMA)
TA Instruments社製 TMAQ400 を用いて、厚さ2mmのシートの熱変形挙動により測定した。シート上に石英製針を乗せ、荷重16gをかけ、5℃/分の速度で昇温し、針入モードのTMA曲線から求められる変位点の温度をTMAとした。
【0094】
(2)ガラス転移点(Tg)
セイコー電子社製、DSC−220Cを用いてN2(窒素)雰囲気下、10℃/分の昇温速度で測定した。
(4)Haze(曇度)
JIS K7136に準拠して、ヘイズ計により0.2mm厚プレスシートについて評価した。
【0095】
(5)耐折強度(回数)
JIS P8115に準拠し、MIT試験機により0.1mm厚プレスシートについて評価した。
【0096】
(実施例1〜5および比較例1〜2)
以下に、実施例1〜5および比較例1〜2で用いた環状オレフィン系樹脂および芳香族ビニルを含む重合体を示す。
[A]環状オレフィン系樹脂
A1:エチレン・環状オレフィン共重合体(エチレン含量:68mol%,ASTM D542に準拠して測定した屈折率nD:1.545,TMA:135℃,Tg:117.7℃,極限粘度[η]:0.6dl/g)
[B]芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体
B1:SEBS(旭化成社製タフテックH1041,屈折率nD:1.510,スチレン含量:30重量%);
B2:SEBS(旭化成社製タフテックH1043,屈折率nD:1.548,スチレン含量:67重量%)
B3:SEPS(株式会社クラレ製セプトンKL2104,屈折率nD:1.548,スチレン含量:65重量%)
【0097】
環状オレフィン系樹脂および芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体を、表1に示した組成にて混練して、さらにこの混練物を公知の押出成形機によりTダイ成形加工(サーモプラスチック社製押出成形機:φ30mm、成形温度230〜250℃、引取ロール温度80℃)して、幅20cm、厚み0.1mmのシートを得た。なお、比較例1,2では、環状オレフィン系樹脂のみを使用してシートを作成した。
得られたシートについて、TMA、Tg、Haze、耐折回数を評価した。結果を表1に示す。
【0098】
【表1】

【0099】
以下の実施例および比較例では、前記(1)〜(5)に加えて、下記の物性についても評価した。
【0100】
(6)吸水率
ASTM D570に準拠して、23℃×24hrで測定した。
【0101】
(実施例2、実施例5〜9、比較例2〜5)
以下に、実施例2および実施例5〜9および比較例2〜5で用いた環状オレフィン系樹脂および芳香族ビニルを含む重合体を示す。
[A]環状オレフィン系樹脂
A1は、上述したとおり。
A2:エチレン・環状オレフィン共重合体(エチレン含量:66mol%,ASTM D542に準拠して測定した屈折率nD:1.545,TMA:155℃,Tg:137.6℃,極限粘度[η]:0.6dl/g);
A3:エチレン・環状オレフィン共重合体(エチレン含量:62mol%,ASTM D542に準拠して測定した屈折率nD:1.545,TMA:180.9℃,Tg:153.4℃,極限粘度[η]:0.8dl/g);
A4:環状オレフィン開環重合体(Zeonor1020R,エチレン含量:0mol%,ASTM D542に準拠して測定した屈折率nD:1.53,TMA:107℃,Tg:101.5℃,極限粘度[η]:0.7dl/g)
[B]芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体
上述したB2,B3を用いることができる。
【0102】
実施例1と同様にして、表2に示したような組成のソートを作成した。
得られたシートについて、TMA、Tg、耐折回数、Haze、Hazeおよび吸水率を評価した。結果を表2に示す。
【0103】
【表2】

【0104】
以上のように、各実施例で得られたフィルムは、靭性に優れるとともに、耐熱性、透明性、低吸水性に優れていた。一方、芳香族ビニルを含む重合体成分がない比較例1〜4では、靭性が不十分である結果が得られた。また、比較例5は、靭性、透明性、低吸水性は優れているものの、耐熱性が不十分である結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の樹脂組成物を含む光学フィルムを液晶ディスプレイ装置に適用した例を示す図である。
【図2】本発明の樹脂組成物を含む光学フィルムを導光板に適用した例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
[A](1)下記の[A-1],[A-2],[A-3]および[A-4]から選ばれ、(2)軟化点温度(TMA)が120〜300℃である環状オレフィン系樹脂と、
[B]芳香族ビニルを含む重合体とからなり、
上記成分[A]50〜90重量部に対して、上記成分[B]を10〜50重量部(成分[A]および[B]の合計量を100重量部とする)の量で含有していることを特徴とするフィルムまたはシート用環状オレフィン系樹脂組成物:
[A-1]エチレンと下記式[I]または[II]で示される環状オレフィンとのランダム共重合体;
【化1】

(式[I]中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1であり、R1〜R18ならびにRaおよびRbは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲンで置換されていてもよい炭化水素基であり、R15〜R18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、またはR17とR18とで、アルキリデン基を形成していてもよい。)、
【化2】

(式[II]中、pおよびqは0または正の整数であり、mおよびnは0,1または2であり、R1〜R19はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基またはアルコキシ基であり、R9またはR10が結合している炭素原子と、R13が結合している炭素原子またはR11が結合している炭素原子とは直接あるいは炭素数1〜3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またn=m=0のときR15とR12またはR15とR19とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。)、
[A-2]上記式[I]または[II]で示される環状オレフィンの開環重合体または共重合体、
[A-3]上記開環重合体または共重合体[A-2]の水素化物、
[A-4]上記[A-1],[A-2]または[A-3]のグラフト変成物。
【請求項2】
請求項1に記載のフィルムまたはシート用環状オレフィン系樹脂組成物において、
軟化点温度(TMA)が120〜300℃であることを特徴とするフィルムまたはシート用環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフィルムまたはシート用環状オレフィン系樹脂組成物において、
フィルムに成型したときの当該フィルムのJIS P8115に準拠して測定した耐折回数が、40回以上であることを特徴とするフィルムまたはシート用環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルムまたはシート用環状オレフィン系樹脂組成物において、
JIS K7136に準拠して測定したヘイズが10%以下であることを特徴とするフィルムまたはシート用環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルムまたはシート用環状オレフィン系樹脂組成物において、
前記[B]芳香族ビニルを含む重合体が、芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物であって、該成分[B]中のスチレン含量が、60重量%以上であるフィルムまたはシート用環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のフィルムまたはシート用環状オレフィン系樹脂組成物において、
ASTM D542に準拠して測定した前記成分[B]の屈折率をnD[B]とし、前記成分[A]の屈折率nD[A]としたとき、屈折率の差|nD[B]−nD[A]|が0.015以下であることを特徴とするフィルムまたはシート用環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含むフィルムまたはシート。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む光学フィルムまたはシート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−154074(P2007−154074A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352610(P2005−352610)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】