説明

フィルムコーティング錠剤

【課題】体積膨張率の大きい素錠に対して、少ない量でフィルムコーティングしてもコーティング層が割れにくいフィルムコーティング錠剤、臭いがマスキングされたフィルムコーティング錠剤、及び臭いの強い素錠に対する臭いのマスキング方法を提供することである。
【解決手段】素錠と素錠を被覆するフィルムコーティング層とを有し、素錠は、コーティングが施されない状態で温度25℃、湿度60%の雰囲気下に24時間放置したときに5〜50%の体積膨張率を示し、フィルムコーティング層はポリビニルアルコールを含有する、フィルムコーティング錠剤。
素錠と素錠を被覆するフィルムコーティング層とを有し、フィルムコーティング層はポリビニルアルコールを含有し、且つ素錠に対して10質量%以下の量で形成されてなる、素錠の臭いが軽減されたフィルムコーティング錠剤、及び臭いのマスキング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムコーティング錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、素錠にフィルムコーティングを施す場合、ヒドロキシプロピルメチルセルロースをベースとしたフィルムコーティング処方が多く用いられ、その他にもヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース等を含む種々のフィルムコーティング用組成物が用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
吸湿性及び膨潤性を有する原料を含有する素錠は、吸湿して体積が増大して、被覆しているフィルムコーティング層が割れ、錠剤の品質が低下するという問題があった。また、例えばシステインなどは、その特異な臭いのため、これを含む錠剤等に対しては臭いのマスキングが必要である。
【0004】
しかし、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース等を含むフィルムコーティング用組成物では、素錠に対して10質量%以上のコーティングを施さないと、フィルムコーティング層の割れの防止や臭いのマスキングが十分にはできなかった。ところが、10質量%以上の量のコーティングを行うには、コーティングにかかる作業時間が長くなるという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、体積膨張率の大きい素錠に対して、少ない量でフィルムコーティングしてもコーティング層が割れにくいフィルムコーティング錠剤を提供することである。
本発明の他の目的は、臭いがマスキングされたフィルムコーティング錠剤を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、臭いの強い素錠に対する臭いのマスキング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ポリビニルアルコールを含有するフィルムコーティング層が、それが薄膜層であっても、膨潤による体積膨張率の高い素錠に対してもフィルムコーティング層の割れが生じにくいこと、さらには素錠に対する臭いのマスキング性を有することを見出し、本発明を完成するに到った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)素錠と素錠を被覆するフィルムコーティング層とを有し、素錠は、コーティングが施されない状態で温度25℃、湿度60%の雰囲気下に24時間放置したときに5〜50%の体積膨張率を示し、フィルムコーティング層はポリビニルアルコールを含有する、フィルムコーティング錠剤。
(2)フィルムコーティング層は素錠に対して10質量%以下である(1)記載のフィルムコーティング錠剤。
(3)素錠がコンドロイチン又はその塩を含有する(1)又は(2)記載のフィルムコーティング錠剤。
(4)素錠と素錠を被覆するフィルムコーティング層とを有し、フィルムコーティング層はポリビニルアルコールを含有し、且つ素錠に対して10質量%以下の量で形成されてなる、素錠の臭いが軽減されたフィルムコーティング錠剤。
(5)素錠はシステイン、メチオニン、ビタミン類、イブプロフェン又は生薬類から選ばれる少なくとも1種を含有する、(4)記載のフィルムコーティング錠剤。
(6)素錠に、ポリビニルアルコールを含有するコーティング層を形成することによる素錠の臭いのマスキング方法であって、該コーティング層が素錠に対して10質量%以下である臭いのマスキング方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明は下記の効果を有する。
(1)素錠が、例えば吸湿し、膨張してその体積が増大する場合にも、薄膜のフィルムコーティング層であって当該層が割れにくいという優れた効果を示し、錠剤の品質が改善される。
(2)システインなどの臭いの強い成分を含有する素錠の場合、薄膜のフィルムコーティング層であっても、素錠よりの臭いの漏出を抑制するという優れた効果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0009】
(体積膨潤性の高い素錠)
本発明において、割れの抑制されたフィルムコーティング錠剤における素錠は、コーティングが施されない状態で、温度25℃、湿度60%の雰囲気下に24時間放置した時に、5〜50%の体積膨張率を示すものが挙げられる。上記体積膨張率は、好ましくは、15〜35%であり、より好ましくは20〜30%である。
上記素錠の体積膨張率の測定は、以下の通りである。造粒末を給気温度90℃以上で乾燥させ、水分を3%以下まで乾燥させた造粒末を用いて打錠した素錠の体積を測定する。次に温度25℃、湿度60%の雰囲気下に24時間放置した後の該素錠の体積を測定する。各体積より体積膨張率を算出する。
【0010】
上記のような体積膨張率を示す素錠としては、構成成分として、下記の如き膨潤性成分を含むものが挙げられる。
薬理活性成分としては、コンドロイチン硫酸又はその塩(例えば、コンドロイチン硫酸ナトリウム等の塩);ダイオウ、ショウキョウなどの生薬類が挙げられる。その他の成分としては、クロスポピドン、クロスカルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロース、イオン交換樹脂、寒天、軽質無水ケイ酸などの崩壊剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びアルファー化デンプンなどの膨潤性の高分子ポリマーが挙げられる。上記薬理活性成分として、好ましくは、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ダイオウ、ショウキョウであり、さらに好ましくは、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ダイオウである。
【0011】
素錠の組成は、最終的に製造する錠剤の目的に応じて、適宜設計すればよい。
例えば、当該膨潤性成分の含量は、素錠全体に対して、10〜90質量%、好ましくは20〜80質量%、さらに好ましくは30〜70質量%である。
具体的には、コンドロイチン又はその塩は、素錠全体に対して、通常20〜90質量%、好ましくは30〜50質量%含有する。
結果として、上述のように体積膨張し易い素錠と、後述するフィルムコーティング層との組み合わせによって、少ない被覆量で優れた機械的強度を呈する錠剤が得られる。
【0012】
(臭いのマスキングされた素錠)
本発明において、素錠として、上述のような体積膨張率を示すか否かにかかわらず、素錠自体が臭いの強いものがその対象である。臭いの強い構成成分として、薬理活性成分としては、例えばシステイン、メチオニンなどのアミノ酸;フルスルチアミン、オクトチアミン、ベンフォチアミンなどのビタミンB1誘導体、酪酸リボフラミンなどのビタミンB2誘導体などのビタミン類;イブプロフェン;ダイオウ、ショウキョウ、カンゾウなどの生薬類などが挙げられる。
薬理活性成分として、好ましくは、L−システイン、フルスルチアミン、ベンフォチアミン、イブプロフェンであり、さらに好ましくは、L−システイン、ベンフォチアミン、イブプロフェンである。
【0013】
上記の素錠の組成は、最終的に製造する錠剤の目的に応じて、適宜設計すればよい。例えば、当該臭いの強い成分の含量は素錠全体に対して、1〜90質量%、好ましくは5〜70質量%、さらに好ましくは10〜50質量%である。
より具体的な例として、主薬としてL−システインを含む場合には、素錠全体に対して、L−システインを好ましくは、10〜30質量%含有する。
結果として、上記の主薬を有する素錠と、後述するフィルムコーティング層との組み合わせによって、少ない被覆量で優れた臭いマスキング性を呈する錠剤が得られる。
【0014】
本発明の上記両態様の素錠は、固形製剤に慣用の添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤としては、例えば、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤、流動化剤等が挙げられる。
【0015】
本発明では、フィルムコーティング層は、ポリビニルアルコールを含んでいれば良い。さらに、酸化チタン、タルク等を含んでいても良い。
【0016】
本発明において、フィルムコーティング用の組成物は商業的に入手することも可能であり、例えば、OPADRY AMB、OPADRY II(日本カラコン株式会社)等が挙げられる。
【0017】
フィルムコーティング層中のポリビニルアルコールの含有量は、1〜99質量%であり、好ましくは、20〜80質量%である。さらに好ましくは、40〜60質量%である。ポリビニルアルコールの含量が1質量%未満の場合は、割れ防止効果が十分に発揮されず、99質量%を超えるとフィルムコーティング操作時に錠剤同士のくっつきが発生する傾向がある。
【0018】
本発明では、フィルムコーティング層の量は素錠に対して、10質量%以下であり、例えば好ましくは8質量%以下であり、更に好ましくは5質量%以下であり、下限は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、特に好ましくは3質量%以上である。上記のコーティング量によって、コーティングの目的を達すること及びコーティングにかかる作業時間を短くすることが、両立される。
【実施例】
【0019】
実施例により本発明をさらに詳細に述べる。なお、以下の実施例は、本発明を説明するものであって、本発明をこれに限定するものではない。なお%は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
【0020】
(実施例1)
コンドロイチン硫酸ナトリウム、塩酸グルコサミン、結晶セルロースを42meshの篩で篩過後、流動層造粒乾燥機(MP-01、パウレック)に投入し、ポリビニルアルコール10%水溶液を噴霧し造粒を行った。得た顆粒とクロスカルメロースナトリウム、結晶セルロースをV型混合機(Vl-10、徳工作所)で10分間混合後、さらにステアリン酸マグネシウムを投入し2分間混合し、打錠末を得た。打錠末を打錠機(VIRGO、菊水製作所)にかけて素錠を得た。素錠の処方を表1に示す。なお、部は質量部を示す。
【0021】
【表1】

【0022】
得た素錠(直径9.5mm、質量400mg、硬度5kp(デジタル硬度計(PTB311E、Pharma Test GmbH Germany)で計測)をフィルムコーティング機ドリアコーター(DRC-500、パウレック)に投入し、ポリビニルアルコールを配合したフィルムコーティング用組成物(OPADRY AMB 81W48994(日本カラコン株式会社))の15%水溶液(表2)を用いてフィルムコーティングを1錠当たり4mg(素錠質量に対して1%)、8mg(2%)、12mg(3%)、16mg(4%)、20mg(5%)、24mg(6%)、32mg(8%)、40mg(10%)のフィルムコーティングを施した。
【0023】
【表2】

【0024】
(比較例1)
実施例1と同じ素錠に、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含むフィルムコーティング用組成物(表3)を用いて実施例1と同様の量のフィルムコーティングを施した。
【0025】
【表3】

【0026】
各フィルムコーティング錠20錠を直径6cmのシャーレに入れ、温度25℃−湿度60%の条件で24時間放置し錠剤の割れを観察した。錠剤を目視で観察し、フィルムコーティング錠に亀裂が発生していれば、割れていると判断した(以下同じ)。結果を表4に示す。
【0027】
【表4】

【0028】
体積は、デジタル硬度計(PTB311E)により、全径及び錠厚を測定し、その数値から体積を算出した。体積膨張率は、素錠(コーティングが施されない状態)を温度25℃、湿度60%の雰囲気下に24時間放置する前後の素錠の体積より算出した。実施例1における上記条件下の素錠の体積膨張率は、25%であった。
【0029】
以上の結果より、ポリビニルアルコールを含むフィルムコーティング層でコーティングすることにより、通常よく用いられるヒドロキシプロピルメチルセルロース含むフィルムコーティング層でコーティングするより、少ないコーティング量で有意にフィルムコーティング錠の割れを抑制することが出来ることが分かった。
【0030】
(実施例2)
L−システイン、乳糖、結晶セルロースを42meshの篩で篩過後、流動層造粒乾燥機(MP−01、パウレック)に投入し、ポリビニルアルコール10%水溶液を噴霧し造粒を行った。得た顆粒とクロスカルメロースナトリウムと結晶セルロース、直打用アスコルビン酸をV型混合機(Vl−10、徳工作所)で10分間混合後、さらにステアリン酸マグネシウムを投入し2分間混合し、打錠末を得た。打錠末を打錠機(VIRGO、菊水製作所)にかけて素錠を得た。素錠の処方を表5に示す。なお、部は質量部を示す。
【0031】
【表5】

【0032】
得た素錠(直径8.0mm、質量200mg、硬度5kp(デジタル硬度計(PTB311E)で計測))をフィルムコーティング機ドリアコーター(DRC-500、パウレック)に投入し、ポリビニルアルコールを含むフィルムコーティング用組成物(OPADRY AMB 81W48994)の15%水溶液(表2)を用いて1錠当たり2mg(素錠質量に対して1%)、4mg(2%)、6mg(3%)、8mg(4%)、10mg(5%)、12mg(6%)、16mg(8%)、20mg(10%)のフィルムコーティングを施した。
【0033】
(比較例2)
表5と同じ素錠をヒドロキシプロピルメチルセルロースを含むフィルムコーティング用組成物(表3)を用いて実施例2の場合と同様の量のフィルムコーティングを施した。
【0034】
各フィルムコーティング錠180錠を10Kビンに入れ、錠剤の臭いを表6の評価で点数化した。評価は5人で行い、各用量における5人の点数の合計を表7に示す。
【0035】
【表6】

【0036】
【表7】

【0037】
以上の結果より、ポリビニルアルコールを含むフィルムコーティング層でコーティングすることにより、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含むフィルムコーティング層でコーティングするよりも、少ないコーティング量でフィルムコーティング錠からの臭いの漏出を有意に抑制した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素錠と素錠を被覆するフィルムコーティング層とを有し、素錠は、コーティングが施されない状態で温度25℃、湿度60%の雰囲気下に24時間放置したときに5〜50%の体積膨張率を示し、フィルムコーティング層はポリビニルアルコールを含有する、フィルムコーティング錠剤。
【請求項2】
フィルムコーティング層は素錠に対して10質量%以下である請求項1記載のフィルムコーティング錠剤。
【請求項3】
素錠がコンドロイチン又はその塩を含有する請求項1又は2記載のフィルムコーティング錠剤。
【請求項4】
素錠と素錠を被覆するフィルムコーティング層とを有し、フィルムコーティング層はポリビニルアルコールを含有し、且つ素錠に対して10質量%以下の量で形成されてなる、素錠の臭いが軽減されたフィルムコーティング錠剤。
【請求項5】
素錠はシステイン、メチオニン、ビタミン類、イブプロフェン又は生薬類から選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項4記載のフィルムコーティング錠剤。
【請求項6】
素錠に、ポリビニルアルコールを含有するコーティング層を形成することによる素錠の臭いのマスキング方法であって、該コーティング層が素錠に対して10質量%以下である臭いのマスキング方法。

【公開番号】特開2007−91620(P2007−91620A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281502(P2005−281502)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000161965)京都薬品工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】