説明

フィルム処理装置

【課題】
傷が付きやすいフィルムや吸水による寸法変化率が大きく、かつイオン交換能を有する燃料電池用電解質フィルムなどでも、連続液処理において品質と生産性を両立させることが可能なフィルム処理装置を提供する。
【解決手段】
フィルムを液処理するフィルム液処理部、液処理されたフィルムを洗浄するフィルム洗浄部、洗浄されたフィルムを乾燥するフィルム乾燥部、および乾燥されたフィルムを巻き取るフィルム巻き取り部を備え、フィルム乾燥部は、少なくともロール表面が非金属製多孔質材料である吸引搬送ロールと、減圧装置と、温風送風機とを備え、減圧装置は吸引搬送ロール表面を負圧に保つように吸引ロールに接続され、かつ、温風送風機は送風口がフィルムを挟んで吸引搬送ロールに対向するように設けられてなることを特徴とするフィルム処理装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺のポリマーフィルムの処理装置に関する。より詳しくは、有機ポリマーフィルムを搬送しながら液処理する際にフィルム表面に発生するキズ、シワ、乾燥ムラ等を低減し高品位のフィルムを得ることができるフィルム処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ポリマーフィルムは、一般的にTダイなどを用いた押出法や基材上にポリマー溶液を流延するキャスティング法などにより製膜される。また、製膜されたフィルムに対し品質の向上や付加価値を付けるためにフィルムを液中で処理し、その後乾燥させるプロセスを用いることがある。
【0003】
金属フィルムのように液を吸収しないフィルムの場合は、特別な工夫を行わずに液中での搬送が可能であるが、有機ポリマーフィルムの場合は、液を吸収することによりフィルムの物性が変化することがあり、空気中と同じ搬送条件ではフィルムの皺や傷などの品質不良やフィルムの破断などのトラブルを引き起こすことがある。特に、フィルムが膨潤してサイズが変わる場合やフィルムの弾性率や破断強度が下がる場合、フィルムが薄膜である場合などにおいては、非常に取り扱いが困難になる。
【0004】
また、液処理後のフィルムはエアーブローや吸水ロール等で液滴を除去した後に、乾燥処理するが、エアーブローでは充分に液滴除去がされず水滴跡が残ったり乾燥ムラが生じることがあり、吸水ロールではロールが乾燥途中のフィルムを挟むため皺発生の原因となる。さらに、吸水性が高く寸法変化率の大きいフィルムにおいては、乾燥とともにフィルムのサイズが変化するため皺が発生したり、擦過キズが入る等の品質不良や巻き取り不良が顕著となり、水滴の除去や乾燥を連続的に行うことが非常に難しいという問題があった。
【0005】
このような問題を解決する方法としては、フィルムを枠などに固定して枚葉で液処理を行う方法も知られているが、生産効率を高めるためには連続処理プロセスが望ましい。
【0006】
このように、フィルムを液中で搬送・処理するには種々の問題点があり、特に傷が付きやすいフィルムや吸水による寸法変化率の大きい燃料電池用電解質フィルムなどでは、品質と生産性を両立させることが非常に困難であった。
【0007】
これに対し、特許文献1には有機ポリマーを基材上に塗布し乾燥した後に、得られた有機ポリマーフィルムを基材から剥離せずに液処理する方法が開示されている。
【0008】
しかし、この方法においても、基材ごとフィルムが固定されること無く自由空間において熱風ドライヤー等の手段によって乾燥されるため、基材フィルムと有機ポリマーフィルムの熱収縮率、フィルム厚さ、剛性の違いにより全体がカールし、搬送不良になりうまく巻き取れないという問題があった。
【0009】
十分厚い基材フィルムを用いれば巻き取りに支障が無い程度にまでカールの発生を抑制できるが、基材フィルムが厚くなったことによるコストアップ、重量増によるハンドリング性不良が生じた。
【0010】
また特許文献1に開示された方法では巻き出しから巻き取りまでの一連プロセスの中を通過する連続したフィルムの張力は、巻き取り部の張力が最大で巻き出し部が最小であり、巻き取り部では過大な張力で巻き取られるために製品フィルムにキズが入ったり、巻き締まりによりフィルム同志が固着し、使用時に剥離できず破れるという問題があった。この現象は乾燥部でのカール防止のために厚い基材フィルムを用いた時に顕著であった。
さらに特許文献1においてはスルホン化ポリマーを用いて製膜/液処理するにもかかわらず搬送ロール材質に関しては言及しておらず、一般的に用いられる金属製搬送ロールを、燃料電池用電解質フィルムのようにイオン交換能を有するフィルムの搬送に適用した場合、フィルムが金属製搬送ロールに接触することによりイオン交換が行われ、品質上不適合を招くという問題があった。
【0011】
また特許文献2には、原料ポリマーを支持体上に流延した後に剥離してウェブを形成し、その後ウェブを乾燥し、フィルムとして巻き取るフィルムの製造装置において、複数の乾燥装置の中間に、表面に複数の吸引口を有する中空状ドライブロールを設け、減圧手段によりその内部を減圧することによってウェブをドライブロールの外周面に吸着させ、ドライブロールの回転力をウェブに伝達してウェブをニップすることなくウェブを搬送し、シワの発生を防止すると共にウェブ中の残存溶媒を回収することが開示されている。しかし、この方法においても、吸水による寸法変化率の大きい燃料電池用電解質フィルムに適用した場合には、中空状ドライブロールの前後工程においてフィルムが固定されること無く自由空間において熱風ドライヤー等の手段によって乾燥されるため、基材フィルムと有機ポリマーフィルムの熱収縮率、フィルム厚さ、剛性の違いにより全体がカールし、搬送不良になりうまく巻き取れないという問題があった。
【0012】
さらに特許文献2に開示されている中空状ドライブロールは、表面の吸引口の大きさが1〜100mmであり、さらにその吸引口の外周面に、網目もしくは貫通孔の大きさが0.5〜50mmである金網もしくは多孔板からなるカバーが設けられている。そのため、吸水による寸法変化率が大きくイオン交換能を有する燃料電池用電解質フィルムに適用した場合には、吸引口やカバーのパターンが転写したり、フィルムが当該カバーに接触することによりイオン交換が行われるという問題があった。
【0013】
このように従来技術では、特に傷が付きやすいフィルムや吸水による寸法変化率が大きく、かつイオン交換能を有する燃料電池用電解質フィルムなどでは、連続液処理において品質と生産性を両立させることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006−21172号公報
【特許文献2】特開2003−94467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、傷が付きやすいフィルムや吸水による寸法変化率が大きく、かつイオン交換能を有する燃料電池用電解質フィルムなどでも、連続液処理において品質と生産性を両立させることが可能なフィルム処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するための本発明は、以下の(1)〜(10)のいずれかの構成を特徴とするものである。
(1) フィルムを液処理するフィルム液処理部、液処理されたフィルムを洗浄するフィルム洗浄部、洗浄されたフィルムを乾燥するフィルム乾燥部、および乾燥されたフィルムを巻き取るフィルム巻き取り部を備え、フィルム乾燥部は、少なくともロール表面が非金属製多孔質材料である吸引搬送ロールと、減圧装置と、温風送風機とを備え、減圧装置は吸引搬送ロール表面を負圧に保つように吸引ロールに接続され、かつ、温風送風機は送風口がフィルムを挟んで吸引搬送ロールに対向するように設けられてなることを特徴とするフィルム処理装置。
(2) 吸引搬送ロールが駆動ロールであることを特徴とする、前記(1)に記載のフィルム処理装置。
(3) 非金属製多孔質材料が顆粒状ポリマーの結着物、多孔質ポリマー、多孔質セラミックス、または不織布であることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載のフィルム処理装置。
(4) 吸引搬送ロールは、平均表面開口面積が0.005〜0.4mm、最大表面開口面積が1mm以下、および表面開口率が15〜50%であることを特徴とする、前記(3)に記載のフィルム処理装置。
(5) フィルム洗浄部、フィルム乾燥部およびフィルム巻き取り部においてフィルムに接触するロールは、その表面が非金属製材料であることを特徴とする、前記(1)〜(4)のいずれかに記載のフィルム処理装置。
(6) フィルム乾燥部は、フィルムの搬送方向に関して、フィルムが吸引搬送ロールに吸引され密着し始める位置もしくは該位置よりも下流側から、温風送風機からの温風が吹きつけられる位置までの間に、フィルムを吸引搬送ロールに押圧する押圧ロールを備えてなることを特徴とする、前記(1)〜(5)のいずれかに記載のフィルム処理装置。
(7) さらに、フィルム乾燥部とフィルム巻き取り部の間にフィルム張力検出機構を備え、検出された張力が所望の値になるようにフィルム巻き取り部の速度を制御する巻き取り速度制御機構を備えてなることを特徴とする、前記(1)〜(6)のいずれかに記載のフィルム処理装置。
(8) さらに、フィルム巻き出し部を備え、フィルム巻き出し部とフィルム乾燥部の間にフィルム張力検出機構を備え、検出された張力が所望の値になるようにフィルム巻き出し部の速度を制御する巻き出し速度制御機構を備えてなることを特徴とする、前記(1)〜(7)のいずれかに記載のフィルム処理装置。
(9) フィルム液処理部は処理液を貯留する液処理槽を備え、フィルム洗浄部は洗浄液を貯留する洗浄槽を備え、それら槽内には、フィルムを方向転換して搬送する液中ガイドロールが設けられてなり、該液中ガイドロールは、ロールによる鉛直下向きの荷重と浮力との平衡が保たれるように処理液に浸漬されてなることを特徴とする、前記(1)〜(8)のいずれかに記載のフィルム処理装置。
(10) フィルム洗浄部は、洗浄液を貯留する、複数の槽から構成された洗浄槽を備え、該複数の槽は、フィルムの搬送方向に関して、下流側の槽の上部から流出した洗浄水が隣接する上流側の槽の底部から流入可能なように接続されていることを特徴とする、前記(1)〜(9)のいずれかに記載のフィルム処理装置。
【0017】
ここで、本発明において、フィルム巻き出し部とは、ロール状に巻かれた長尺フィルムを保持し、所望の張力、速度で巻きだす機構をいう。
【0018】
また、フィルム液処理部とは搬送されてくる長尺フィルムを処理液中に所望の張力で浸漬し処理する機構を言い、例えば、処理液を溜める液処理槽と、液処理槽への入りロール、出ロールおよび液処理槽中でフィルムの走行方向を転換する液中ガイドロールなどとから構成される。
【0019】
フィルム洗浄部とはフィルム液処理部で処理されたフィルムを洗浄液で洗浄する機構を言い、例えば、洗浄水を溜める洗浄槽と、洗浄槽への入りロール、出ロール、洗浄槽上部でフィルムの走行方向を転換する空中ガイドロール、洗浄槽中でフィルムの走行方向を転換する液中ガイドロール、および出ロールの上方に設置された仕上げ洗浄ノズルなどとから構成される。
【0020】
フィルム乾燥部とは、吸引搬送ロール表面にフィルムを密着固定させることにより、フィルムをニップすることなく所望の速度で搬送すると共に、乾燥処理する機構を言い、フィルムのカールを防止し、乾燥時の収縮によりキズやシワが発生するのを防止しながら乾燥処理することができる。
【0021】
そして、フィルム巻き取り部とは所望の張力で長尺フィルムをロール状に巻き取る機構を言う。
【0022】
また、本発明において、平均表面開口面積とは、ロール表面に存在する各開口部の面積の数平均を言い、最大表面開口面積とはロール表面に存在する各開口部の面積の最大値を言う。さらに、表面開口率とは、ロール表面のフィルムに接触する部分の全面積(開口部も含む)に、該部分に存在する開口部の合計面積が占める割合を言う。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、フィルム乾燥部が、少なくともロール表面が非金属製多孔質材料である吸引搬送ロールと、減圧装置と、温風送風機とを備え、減圧装置が吸引搬送ロール表面を負圧に保つように吸引ロールに接続され、かつ、温風送風機が、送風口がフィルムを挟んで吸引搬送ロールに対向するように設けられてなるため、表面が非金属製多孔質材料のロールにフィルムを密着させつつ、かつ、該ロールに密着しているフィルムに温風をあてることができ、傷が付きやすいフィルムや吸水による寸法変化率が大きくかつイオン交換能を有するフィルムなどをも、損傷、寸法変化、イオン交換を防ぎつつ乾燥することができる。そのため、連続液処理において品質と生産性を両立させることが可能となり、また、本発明により液処理されたフィルムは、燃料電池用電解質膜や食塩電解用イオン交換膜、水電解用電解質膜、イオン交換膜等の水処理膜や加湿膜、2次電池セパレータフィルムとしても好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】燃料電池用電解質膜の製造工程で用いることができる、本発明の一実施形態であるフィルム処理装置の概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態の例を燃料電池用電解質膜酸処理装置に適用した場合を例にとって、図面を参照しながら説明する。
【0026】
図1は、燃料電池用電解質膜を製造するうえで酸処理に好適に用いられる、本発明にかかるフィルム処理装置の概略模式図である。
【0027】
図1に示す装置は、フィルム巻き出し部1、フィルム液処理部2、フィルム洗浄部3、フィルム乾燥部4、フィルム巻き取り部5を備えている。フィルム10は、フィルム巻き出し部1の被処理フィルムロール11から巻き出された後、フィルム液処理部2において所望の条件で液処理され、引き続きフィルム洗浄部3において洗浄され、その後フィルム乾燥部4において乾燥され、フィルム巻き取り部5において巻き取られる。
【0028】
フィルム巻き出し部1とフィルム液処理部2の間にはフィルム張力検出機構12が設けられており、該機構によって検出される張力が所望の値になるように、フィルム巻き出し部1の巻き出し速度、巻き出しブレーキが制御されることにより、所望の張力でフィルム10がフィルム液処理部2に送り込まれる。
【0029】
なお、フィルム10はフィルム巻き出し部1において被処理フィルムロール11から巻き出されるが、被処理フィルムロール11が基材付きフィルムの状態で巻かれており、液処理は基材から剥離したフィルム単体で行う場合には、基材巻き取り機構(図示しない)を設け、基材からフィルムを剥離しながら巻き出せば良い。
【0030】
また、フィルム巻き出し部1は必ずしも設ける必要がなく、製膜されたフィルムを、一旦巻き取ることなく直接フィルム液処理部2に導入してもよい。
【0031】
フィルム液処理部2は、処理液を溜める液処理槽20と、フィルムを液処理槽へ導く入りロール21と、フィルムを液処理槽から次の工程へ導く出ロール22と、液処理槽中でフィルムの走行方向を転換する液中ガイドロール23a〜23eなどとから構成されている。フィルム巻き出し部1から連続的にフィルム液処理部2に送り込まれたフィルム10は、フィルム液処理部2の入りロール21、液中ガイドロール23a、23b、23c、23d、23e、出ロール22にこの順序で巻回されることにより、フィルム液処理部2において上下に複数回反転されながら液処理される。
【0032】
なお、図1のフィルム液処理部2においてフィルム10は上下に3往復しているが、必要な処理時間に応じて反転回数を適宜変更すれば良い。すなわち、液中ガイドロールは5本に限定されるものではなく、1本でも、2本以上の複数本であってもよい。複数本を使用して処理液中で複数回折り返すことで、処理槽自体の長さを長くしなくても処理液に浸漬されている部分のフィルムの長さを長くすることができる。そして、処理液に浸漬されている部分のフィルムの長さが決まれば、フィルム走行速度を調整することにより、液処理時間を所望の時間に調整することができる。
【0033】
液中ガイドロール23a〜23eは、当該ロールによる鉛直下向きの荷重と浮力との平衡が保たれるように処理液に浸漬されることが好ましい。液中ガイドロールをフリーロールにする場合、当該ロールはフィルムと接触してフィルムとの摩擦で回転することになるが、液中でのロールの重さが重いと回転せずにフィルムがロール表面を擦って傷が付いたり、回転しても張力ロスが大きくてフィルムが伸びたりする可能性が大きい。そこで、液中ガイドロールによる鉛直下向きの荷重と浮力とをバランスさせて液中でのロールの重さをほぼ0にすることで、軽い力でロールを回転することができるようにすることが好ましい。これにより、さらにフィルムへのダメージを低減することができる。さらに液中ガイドロール23a〜23eは中空構造であることが軽量化の観点から好ましい。
【0034】
また、図1に示す装置においては、フィルム液処理部2からフィルムが搬出される部分に洗浄ノズル25が設置され、フィルム洗浄部3からの排出水を用いてフィルム表面を洗浄することができるように構成されている。より具体的には、フィルム液処理部2の出ロール22からフィルム洗浄部3の入りロール31の間に洗浄ノズル25が設置され、該洗浄ノズル25はポンプを介して第1洗浄槽36上部に設けられた洗浄シャワー水吸引口と接続されており、第1洗浄槽36から水を吸引しフィルム表面に噴出することができるように構成されている。これによりフィルム表面に付着してフィルム洗浄部3に持ち込まれる処理液の量を減少することができ、フィルム洗浄部3での洗浄効率を高める共に、フィルム液処理部2からフィルム洗浄部3への搬送途中でフィルムが乾燥してシワが発生するのを防止できる。なお、この時、洗浄シャワー水吸引口から吸引される水量が後述する洗浄ノズル35に供給されるRO水量とバランスするようにポンプを調整することが好ましい。
【0035】
そして、フィルム液処理部2には図示しないが処理液加熱機構や処理液循環機構を設け、処理液を所望の温度に加熱すると共に循環しながら使用することが液処理の効率化、均一化の観点から好ましい。また、加温されることによりフィルム液処理部2からは処理液の蒸気が発生する場合があり、処理液も酸性、アルカリ性等化学的に活性な液体が使用されるので、フィルム液処理部2には、フィルム出入り口部のみにスリットを設けた準密閉構造の上部カバー24を設け、排気を行うことも好ましい。
【0036】
さらにこの時、フィルム液処理部2の出ロール22から後述するフィルム洗浄部3の入りロール31に向かっては下り勾配を持つように出ロール22、入りロール31を設置することが好ましい。こうすることにより、フィルム表面を洗浄した水がフィルム液処理部2に入ることを防止できる。
【0037】
フィルム洗浄部3は、洗浄水を溜める洗浄槽(第1洗浄槽36、第2洗浄槽37)と、フィルムを洗浄槽へ導入する入りロール31と、フィルムを洗浄槽から導出する出ロール32と、洗浄槽上部でフィルムの走行方向を転換する空中ガイドロール34a、34bと、洗浄槽中でフィルムの走行方向を転換する液中ガイドロール33a、33bと、出ロール32の上方に設置された仕上げ洗浄ノズル35などとから構成されている。フィルム液処理部2から送り出されたフィルム10は、フィルム洗浄部3の入りロール31、液中ガイドロール33a、空中ガイドロール34a、液中ガイドロール33b、空中ガイドロール34b、出ロール32にこの順序で巻回されることにより、フィルム洗浄部3において上下に複数回反転されながら洗浄される。
【0038】
液中ガイドロール33a、33bは、フィルム液処理部2の液中ガイドロール23a〜23eと同様の理由から、当該ロールによる鉛直下向きの荷重と浮力との平衡が保たれるように洗浄液に浸漬されることが好ましく、さらに中空構造であることが軽量化の観点から好ましい。
【0039】
なお、フィルム洗浄部3における液中ガイドロールや空中ガイドロールも、それぞれ2本に限定されるものではなく、それぞれ1本でも2本以上の複数本を使用してもよい。複数本を使用して洗浄水中で複数回折り返すことで、洗浄槽自体の長さを長くしなくても洗浄水に浸漬されている部分のフィルムの長さを長くすることができる。
【0040】
そして、出ロール32に巻回された後立ち上がったフィルム10は、その両面に対向するように設けられた洗浄ノズル35よりRO水が噴出され仕上げ洗浄される。
【0041】
フィルム10を仕上げ洗浄したRO水は出ロール32の下部に設けられた洗浄水受け槽38に溜まる。洗浄水受け槽38の上部に設けられた排水口と第2洗浄槽37の底部は洗浄水連通管39bにより連結されており、洗浄水受け槽38に溜まったRO水は洗浄水連通管39bを通って第2洗浄槽37の底部に流入する。同様に第2洗浄槽37の上部に設けられた排水口と第1洗浄槽36の底部は洗浄水連通管39aにより連結されており、第2洗浄槽37に溜まった水は洗浄水連通管39aを通って第1洗浄槽36の底部に流入する。
【0042】
このように、フィルム洗浄部を、第1洗浄槽36、第2洗浄槽37というように複数の槽から構成し、該複数の槽を、フィルムの搬送方向に関して、下流側の槽の上部から流出した洗浄水が隣接する上流側の槽の底部から流入可能なように接続することで、各槽(第1洗浄槽36、第2洗浄槽37)共に底部から上部へ向かう流れが形成され効率的な洗浄を行うことができる。
【0043】
さらに、図1に示す態様においては、第1洗浄槽36の上部に洗浄シャワー水吸引口が設けられており、第1洗浄槽36に溜まった水が洗浄ノズル25に洗浄水として供給されるように構成されている。同時にフィルム洗浄部3の入りロール31の手前に液切ロールが設置されておりフィルム表面を流れてきた使用後の洗浄水がオーバーフロー受け槽30に流れ落ちるように構成され、オーバーフロー受け槽30に溜まった使用後の洗浄水が適宜装置外に排出されるように構成されている。
【0044】
なおこの時、各排水口、給引口は、高い方から、洗浄水受け槽38の排水口>第2洗浄槽37の排水口>第1洗浄槽36のオーバーフローレベル>第1洗浄槽36の洗浄シャワー水吸引口 の位置関係にあることは言うまでもない。
【0045】
そして、図1ではフィルム洗浄部3が2つの洗浄槽で構成されているが、洗浄効率に応じて洗浄槽の数は適宜変更すれば良い。
【0046】
フィルム洗浄部3の出ロール32に巻回され立ち上がったフィルム10は、斜め下向きに設置された洗浄ノズル35によりRO水シャワーで両面を仕上げ洗浄された後、フィルム乾燥部4に搬送される。
【0047】
フィルム乾燥部4は、少なくとも表面が非金属製多孔質材料である吸引搬送ロール41、減圧装置42、温風送風機43、押圧ロール44、吸引機構付きスポンジロール45、吸引装置46などから構成されている。
【0048】
吸引機構付きスポンジロール45は、洗浄ノズル35より上方に、フィルム10を挟んで設けられた一対のスポンジロールからなり、ロールの内部が中空状で吸引装置46に接続されている。この構成により、スポンジロール45が吸着した水を排出し、スポンジロール45を常に水吸着できる状態に保っている。また、一対のスポンジロール45の中心位置は上下にずれておりフィルム10をニップする状態には無く、フィルム10が一対のスポンジロール45にS字状に接触するように配置されている。これによりフィルム10にキズを付けることなく表面付着水を吸着除去することができる。
【0049】
吸引搬送ロール41は、少なくとも表面に非金属製多孔質材料を用いて中空形状に作られており、中心の中空部を減圧装置42に接続することにより吸引搬送ロール41の表面を負圧にすることができる。これにより、フィルム10を吸引搬送ロール41の表面に密着固定させ、フィルム10のカールを防止すると共に、乾燥時の収縮によりキズやシワが発生するのを防止することができる。また、その少なくとも表面が非金属製多孔質材料であるので、液処理により末端にH基を有しイオン交換能を有しているようなフィルムを乾燥処理する場合であってもH基が金属に置換されたりせず、また、表面に弱酸性の洗浄液が付着しているフィルムを乾燥処理する場合であっても、ロールの錆発生を防ぐことができる。
【0050】
液処理によりイオン交換能が付与されたフィルムを乾燥する場合であっても、当該吸引搬送ロール41とフィルムとの間でイオン交換が行われることはなく、フィルムの性能低下を防ぐことができる。
【0051】
吸引搬送ロール41に用い得る非金属製多孔質材料としては、顆粒状ポリマーを結着させた多孔質ポリマーやスポンジ状の多孔質ポリマー、さらには多孔質セラミックス、不織布などを挙げることができ、これらをロール状に加工したり、有孔金属ロールの表面を該非金属製材料で被覆しても良い。中でも、軽量かつ安価であることに加え、残留金属イオンがなく、また、適度な表面弾性を持ち開口パターンが転写しにくいという点から、顆粒状ポリマーを結着させた多孔質ポリマー、スポンジ状の多孔質ポリマー、不織布が特に好ましい。
【0052】
吸引搬送ロール41の非金属製多孔質材料部分の表面開口面積および表面開口率は、処理するフィルムの剛性、吸水率等から決定すればよい。しかしながら、表面開口面積が大きすぎるとフィルムにロール表面のパターンが転写してフィルム品位が低下し、開口面積が小さすぎると目詰まりを起こしやすく、また減圧装置42の負荷が過大になるので、平均表面開口面積は0.005〜0.4mmの範囲が好ましい。また表面開口率は、低すぎると減圧装置42の負荷が過大になると共にロール表面のパターンがフィルムに転写しやすくなり、一方高すぎると機械的強度が低下するので、15〜50%の範囲が好ましい。また平均表面開口面積が0.005〜0.4mmの範囲内であっても開口分布の中に1mm以上の面積を持つ開口が含まれるとロール表面のパターンがフィルムに転写しやすくなるので、最大開口面積は1mm以下であることが好ましい。さらには平均表面開口面積が0.01〜0.2mm、開口率が20〜40%、および最大表面開口面積が0.8mm以下の範囲であることが好ましい。
【0053】
また機械精度を高めるために芯金として有孔金属ロールを用い、その表面を該非金属製多孔質材料で被覆することも行われるが、有孔金属ロールの表面開口面積に対して該非金属製多孔質材料の厚さが薄いと、該非金属製多孔質材料自体の表面開口面積が小さくても実質的には有孔金属ロールの開口パターンで吸引されることになり、有孔金属ロールの開口部に該非金属製被覆材料と共に被処理フィルムが吸引され、被処理フィルムに有孔金属ロールの開口パターンが転写しやすくなる。被処理フィルムに有孔金属ロールの開口パターンが転写しないようにするために好ましく設定される該非金属製多孔質材料の厚さは、有孔金属ロールの構造、開口パターン、平均開口面積、および該非金属製多孔質材料の強度、該非金属製多孔質材料の平均開口面積、開口率にも依存するが、少なくとも有孔金属ロールの平均開口径以上であることが好ましく、平均開口径の2倍以上の厚さを有することがさらに好ましい。
【0054】
また、フィルムの搬送方向に関して、フィルム10が吸引搬送ロール41に吸引され密着し始める位置もしくは該位置よりも下流側から、後述する温風送風機43からの温風が吹きつけられるフィルム上の位置までの間には、小径の押圧ロール44が設置されている。押圧ロール44は、吸引搬送ロール41上のフィルム10に自重程度の力で接圧し、後述する温風送風機43からの温風がフィルム表面を流れ落ちるのを防止してスポンジロール45から吸引搬送ロール41間のフィルム10が振動するのを防いでいる。その結果、フィルム密着開始位置を固定することができ、しわの発生を防止できる。
【0055】
温風送風機43は、送風口が、フィルム10を挟んで吸引搬送ロール41に対向するように、より具体的には、吸引搬送ロール41の頭頂部からフィルム剥離部にかけてのフィルム10に接しない位置で、かつ該フィルムに対向するように設置されており、フィルム全幅に渡って均一に送風できる構造になっている。このような構造によればフィルムを吸引搬送ロールに密着させた状態で乾燥することができ、乾燥時の寸法変化やカールの発生を抑制することができる。
【0056】
このとき、該温風送風機43からの送風方向を吸引搬送ロール表面に沿って押圧ロール44に向けることも好ましい。こうすることで、フィルムの乾燥のみならず押圧ロール44の乾燥も同時に行うことができ、押圧ロール44の乾燥手段を別途設ける必要がなくなる。
【0057】
吸引搬送ロール41上で乾燥されたフィルム10は、その後フィルム巻き取り部5に搬送され、処理済みフィルムロール51として巻き取られる。
【0058】
ここで、図1に示す態様においては、吸引搬送ロール41とフィルム巻き取り部5との間にフィルム張力検出機構52が設けられており、該機構によって検出される張力が所望の値になるように、フィルム巻き取り部5の巻き取り速度、巻き取りトルクが制御される。具体的には、過大な張力で巻き取ると製品フィルムにキズが入ったり、巻き締まりによりフィルム同志が固着し、使用時に剥離できず破れるという問題があるので、巻きずれしない程度の低張力0.3〜3MPaで巻き取るのが好ましい。
【0059】
そして、このような低張力は、吸引搬送ロール41を駆動ロールとし、該ロールによりフィルム10を吸引/密着しつつフィルムの搬送速度を制御し、吸引搬送ロール前後の張力を個別に設定することによって可能となる。
【0060】
さらに、上記装置においては、フィルム洗浄部3、フィルム乾燥部4、およびフィルム巻き取り部5の、フィルムを搬送するロールの少なくともロール表面が、非金属製材料であることが好ましい。このように構成することにより、上述した吸引搬送ロール41と同様に、液処理により末端にH基を有しイオン交換能を有しているようなフィルムを搬送する場合であってもH基が金属に置換されたりせず、またロール自体の錆発生を防ぐことができる。
【0061】
かかる非金属製材料としては、顆粒状ポリマーを結着させた多孔質ポリマーやスポンジ状の多孔質ポリマー、さらには多孔質セラミックス、不織布などを挙げることができる。これらをロール状に加工したり、金属ロールの表面を該非金属製材料で被覆しても良い。
【0062】
以上のような装置により処理されるフィルムとしては、有機ポリマーフィルムを挙げることができ、該有機ポリマーフィルムとしてはスルホン酸基を有するポリマーフィルムであることが好ましい。かかる有機ポリマーフィルムは、酸による液処理、好ましくは硫酸水による液処理で、イオン交換能を有するフィルムに改質され、燃料電池用電解質フィルムなどとして好適に用いられる。
【0063】
ここで、有機ポリマーフィルムを硫酸水により液処理して燃料電池用電解質フィルムを製造する場合、かかる硫酸水における硫酸の濃度は3〜20重量%の範囲内であることが好ましく、また、硫酸水の液温は室温〜80℃の範囲内、かかる硫酸水による液処理時間は1〜60分が好ましく、さらにその液処理時間は5〜30分であることが好ましい。
【0064】
なお、該有機ポリマーフィルムはポリエチレンテレフタレートフィルムの基材上に流延製膜されたままの状態で処理しても良いし、流延製膜後に基材から剥離し、該有機ポリマーフィルム単独で巻き取ったものを用いても良いし、巻き出し部で該基材から該有機ポリマーフィルムを剥離しながら処理しても良い。どの条件を用いるかは該有機ポリマーフィルムの厚さ、特性、液処理後の必要特性、処理時間等を勘案して決定すればよい。
【0065】
また基材フィルム付きのままで処理する場合、吸引搬送ロールに接触する面は、基材フィルム面、被処理フィルム面どちらでも良いが、温風送風機からの温風により電解質フィルムが乾燥し、水分が蒸気となって発生するので、該蒸気を吸引除去するために、被処理フィルム面が吸引搬送ロールに接するようにするのが好ましい。
【0066】
さらに、基材フィルムの両面に流延製膜した後、基材フィルム付きのままで処理すれば両面の被処理フィルムを同時に処理することができ、生産性を2倍に向上できる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されることはない。なお、得られたフィルムについては下記の方法により評価した。
【0068】
[評価方法]
〈フィルム搬送状態〉
処理装置内でのフィルムの搬送状態(シワ、蛇行)を目視にて判断し、OK:正常走行、NG:異常走行に分類した。
【0069】
〈表面性状〉
目視にて判断し、皺および傷の大きさや頻度、液滴痕の有無からA〜C(A:良品、B:合格品だが用途によってはNG品、C:NG品)の3ランクに分類した。
【0070】
<平均表面開口面積、最大表面開口面積、および表面開口率>
NEC製CCDカメラTI−324Aを協和光学工業(株)製実体顕微鏡KSZ−Tに装着し、視野幅16.5mm、分解能25.8μmでロール表面を撮像した。得られた画像に対し、Matrox社製画像解析ソフトウエアMatrox Inspectorを用いて解析を行い、空孔部の面積分布を求め、平均表面開口面積、最大表面開口面積および表面開口率を算出した。なお、測定は各サンプルに対して3箇所行い、平均表面開口面積、および表面開口率は3箇所の平均値を該サンプルの特性値とし、最大表面開口面積は3箇所の最大値を該サンプルの特性値とした。
【0071】
<金属イオン含有量>
液処理済み電解質フィルムが正常にイオン交換されているかを確認するために、セイコーインスツルメンツ(株)製卓上型蛍光X線分析計「SEA2120」を用いて酸処理前後のフィルムの金属イオン量を測定した。なお、測定は各サンプルに対して3箇所行い、3箇所の平均値を該サンプルの特性値とした。
【0072】
処理前の電解質前駆体フィルムは主にKイオンが付いており、酸処理することによって、イオン交換基の部分がHとなるので、単位厚さ当たりのKイオン量を測定した。また一部の比較例においては吸引搬送ロールにニッケルめっき金網を被せたSUS316製ロールを用いたので、フィルム中のNiイオン量も同様にして測定した。
【0073】
[製造例1]被処理フィルムの製造法
(1)合成例1(保護基を有するモノマー)
モンモリロナイトクレイK10(1500g)、ジヒドロキシベンゾフェノン990gをエチレングリコール2420mL/オルトギ酸トリメチル990mL中、生成する副生成物を蒸留させながら110℃で反応させた。18h後、オルトギ酸トリメチルを660g追加し、合成48h反応させた。反応溶液に酢酸エチル3000mLを追加し、濾過後、2%炭酸水素ナトリウム水溶液で4回抽出を行った。
【0074】
さらに、濃縮後、ジクロロエタンで再結晶する事により目的の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソランを得た。
【0075】
(2)合成例2(イオン性基を有するモノマー)
次に4,4’−ジフルオロベンゾフェノン1090g(アルドリッチ試薬)を発煙硫酸(50%SO)1500mL(和光純薬試薬)中、100℃で10h反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩2000gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、ジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを得た。純度は99.3%であった。
【0076】
(3)合成例3 (電解質ポリマーの重合例)
撹拌機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた5Lの反応容器に、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン43g(アルドリッチ試薬0.2mol)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン207g(0.8mol)、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン87g(アルドリッチ試薬0.2mol)、およびイオン性基を含有するモノマーであるジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン338g(0.8mol)を入れ、窒素置換後、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)2500g、トルエン500g、環状金属捕捉剤として18−クラウン−6 186g(和光純薬試薬)を加え、モノマーが全て溶解したことを確認後、炭酸カリウム248g(アルドリッチ試薬、1.8mol)を加え、環流しながら160℃で脱水後、昇温してトルエン除去し、200℃で1時間脱塩重縮合を行った。得られたポリマーの重量平均分子量は28万であった。次に重合原液の粘度が0.5Pa・sになるようにNMPを添加し重合原液を得た。
【0077】
(4)電解質塗液の製造例
久保田製作所製インバーター・コンパクト高速冷却遠心機(型番6930にアングルローターRA−800をセット、25℃、30分間、遠心力20000G)で重合原液の遠心分離を行った。沈降固形物(ケーキ)と上澄み液(塗液)がきれいに分離できたので上澄み液を回収し、セパラブルフラスコに移した。次に、撹拌しながら80℃で減圧蒸留し、上澄み液の粘度が2Pa・sになるまでNMPを除去し、さらに5μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製フィルターで加圧濾過して電解質塗液を得た。
【0078】
(5)製膜例
基材として厚さ125μm、幅35cmのPETフィルム(東レ製“ルミラー(登録商標)”)を用い、連続塗工可能なコーター(コーター部;スリットダイコーター)にて上記電解質塗液を連続流延塗布した。塗布速度は150℃、10分間でフィルム中の溶媒を乾燥できる速度とし、溶媒蒸発後の電解質膜の厚みが20μmとなるように塗工条件を調整し、得られたフィルムをロール状に巻き取り、フィルムAとした。このフィルムAの幅は300mm、長さ100mであった。
【0079】
〔実施例1〕
図1に示した処理装置を用いて、上記製膜例で得られた、PETフィルム(基材)を有するフィルムAの酸処理を行い、ポリマー中の保護基の加水分解とイオン交換を行った。
【0080】
なお、この処理装置の液処理槽20には、10%硫酸を貯蔵し、60℃に加温しながら槽内を循環させた。また、液処理槽20におけるフィルムの液中滞留時間は20分とした。
【0081】
液中ガイドロールは中空構造とし、体積による浮力と該ロールによる鉛直下向き方向の荷重とがバランスするようにロール壁の厚さを設計し、最終的にはロール端面を研削することによりバランス調整した。
【0082】
フィルムAの巻き出し時には、液処理槽入り口に設けた張力検出機構12が20Nの張力になるようにフィルムAの巻き出し部ブレーキを調整し、一方、巻き取り時には張力検出機構52が20Nになるように巻き取りトルクを調整した。またフィルムAの電解質膜側が吸引搬送ロールに接触するように設定した。
【0083】
また、フィルム液処理部2の出ロール22からフィルム洗浄部3の入りロール31に向かって10度の下り勾配を持つように出ロール、入りロールを設置した。
【0084】
押圧ロール44は、吸引搬送ロール41よりも小径でポリウレタンゴム製のフリーロールとし、フィルムが吸引搬送ロール41に吸引/密着し始める位置に設置し、フィルムを吸引搬送ロール41に対して押圧ロール44の自重と同等の力で接圧した。
【0085】
吸引搬送ロール41には、中心粒径100μmの顆粒状ポリプロピレンポリマーを中空金型に入れて焼結・結着させ、中空形状に形成した後、表面を研磨布により研磨仕上げしたものを用いた。該ロールの平均表面開口面積は0.08mm、最大開口面積は0.47mm、表面開口率は24%であった。
【0086】
そして、この吸引搬送ロール41の中空部を減圧装置(日立産機システム(株)製ボルテックスブロワVB−015−G2)に接続し、吸引搬送ロール41の表面に3kPaの負圧を発生させて、フィルムを吸引搬送ロールの表面に密着固定させた。
【0087】
また温風送風機43は、吸引搬送ロール41の頭頂部からフィルム剥離部にかけてのフィルムに接しない位置に、送風口が、フィルムを挟んで吸引搬送ロールに対向し、かつ、吸引搬送ロール41の表面に沿って押圧ロール44に向けて送風できるように設置し、80℃の温風をフィルム全幅に渡って均一に送風してフィルムを乾燥するとともに押圧ロール44の乾燥も同時に行うようにした。
【0088】
さらに、フィルム乾燥部以降のフィルム10に接触する搬送ロールは、フィルムと接触してイオン交換を行うことがないように、金属ロール表面に熱収縮性ポリマーフィルムを被覆し、ロール表面を非金属としたものとした。また、液処理部、洗浄部の各ロールは、耐熱性塩化ビニール製のロールとした。
【0089】
以上のような条件で液処理を行って巻き取られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0090】
〔実施例2〕
実施例1において、フィルムAから基材であるPETフィルムを剥離しながら巻き出したこと以外は実施例1と同様にして処理を行い、フィルムA−2を得た。ただし、実施例2では基材であるPETフィルムが無い状態で処理を行ったので、基材PETフィルムの厚さを考慮して、巻き出し、巻き取り張力共に5Nに設定した。
【0091】
液処理を行って巻き取られたフィルムA−2の評価結果を表1に示す。
【0092】
〔比較例1〕
吸引搬送ロール41として、中心粒径1mmの顆粒状ポリプロピレンポリマーを中空金型に入れて焼結・結着させ、中空形状に形成した後、表面を研磨布により研磨仕上げしたものを用いた以外は実施例2と同様に、フィルムAから基材であるPETフィルムを剥離しながら巻き出して液処理を行い、フィルムA−3を得た。該ロールの平均表面開口面積は0.25mm、最大開口面積は1.5mm、表面開口率は35%であった。
【0093】
巻き取られたフィルム表面には直径1mm前後の吸引痕があばた状に付いていた。液処理されたフィルムを巻き取るにあたっては、シワが入ることは無く、フィルムの搬送、巻き取りも正常に行われた。液処理を行って巻き取られたフィルムA−3の評価結果を表1に示す。
【0094】
〔比較例2〕
吸引搬送ロール41としてSUS316製中空ロールの壁面に直径3mmの貫通孔を開口率20%で設けた多孔金属ロールの表面にメッシュ#125、線径80μmのニッケルめっき金網を被せたものを用いた以外は実施例1と同様にフィルムAの酸処理を行い、フィルムA−4を得た。この時の平均表面開口面積は0.014mm、最大開口面積は0.02mm、表面開口率は36%であった。
【0095】
巻き取られたフィルム表面には貫通孔起因の直径約3mmの吸引痕が明瞭に付いていた。液処理されたフィルムを巻き取るにあたっては、シワが入ることは無く、フィルムの搬送、巻き取りは正常に行われた。液処理を行って巻き取られたフィルムA−4の評価結果を表1に示す。
【0096】
〔比較例3〕
温風送風機43を、送風口が吸引搬送ロールに対向する位置ではなく、吸引搬送ロールよりも下流側かつフィルム張力検出機構52の上流側の、フィルムが固定されていないフリースペースの位置に対向するように設置した以外は実施例1と同様にフィルムAの酸処理を行い、フィルムA−5を得た。
【0097】
フィルムは、吸引搬送ロール上ではシワ無く固定されていたが、吸引搬送ロールを出た後で低張力の状態で温風を受けて乾燥したために、基材フィルム毎全体がカールした。このため下流側のロール上でフィルムが蛇行し、巻き取られたフィルムの端部には擦過傷が付いた。液処理を行って巻き取られたフィルムA−5の評価結果を表1に示す。
【0098】
〔比較例4〕
温風送風機43を、送風口が吸引搬送ロールに対向する位置ではなく、吸引搬送ロールよりも下流側かつフィルム張力検出機構52の上流側の、フィルムが固定されていないフリースペースの位置に対向するように設置した以外は実施例2と同様に、フィルムAから基材であるPETフィルムを剥離しながら巻き出して液処理を行い、フィルムA−6を得た。
【0099】
フィルムは、吸引搬送ロール上ではシワ無く固定されていたが、吸引搬送ロールを出た後で低張力の状態で温風を受けて乾燥したために、わかめ状のシワが縦方向に入り、このシワを持ったまま巻き取られたために正常な巻取りが困難であった。液処理を行って巻き取られたフィルムA−6の評価結果を表1に示す。
【0100】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、燃料電池用電解質膜を得るための酸処理装置に限らず、食塩電解イオン交換膜、水電解用電解質膜、イオン交換膜等の水処理膜や加湿膜を得るための処理装置や、2次電池セパレータフィルムを得るための処理装置、などに適用可能である。さらに、TFT型LCD、STN型LCD、PDPなどの表示デバイスの基板などの部品、導光板、保護フィルム、位相差フィルム、タッチパネル、透明電極基板、CD、MD、DVDなどの光学記録基板の処理装置にも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0102】
1 フィルム巻き出し部
2 フィルム液処理部
3 フィルム洗浄部
4 フィルム乾燥部
5 フィルム巻き取り部
10 フィルム
11 被処理フィルムロール
20 液処理槽
21、31 入りロール
22、32 出ロール
23a、23b、23c、23d、23e,33a、33b 液中ガイドロール
24 上部カバー
25、35 洗浄ノズル
34a、34b 空中ガイドロール
30 オーバーフロー受け槽
36 第一洗浄槽
37 第2洗浄槽
38 洗浄水受け槽
39a、39b 洗浄水連通管
41 吸引搬送ロール
42 減圧装置
43 温風送風機
44 押圧ロール
45 吸引機構付きスポンジロール
46 吸引装置
12,52 フィルム張力検出機構
51 処理済みフィルムロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムを液処理するフィルム液処理部、液処理されたフィルムを洗浄するフィルム洗浄部、洗浄されたフィルムを乾燥するフィルム乾燥部、および乾燥されたフィルムを巻き取るフィルム巻き取り部を備え、フィルム乾燥部は、少なくともロール表面が非金属製多孔質材料である吸引搬送ロールと、減圧装置と、温風送風機とを備え、減圧装置は吸引搬送ロール表面を負圧に保つように吸引ロールに接続され、かつ、温風送風機は送風口がフィルムを挟んで吸引搬送ロールに対向するように設けられてなることを特徴とするフィルム処理装置。
【請求項2】
吸引搬送ロールが駆動ロールであることを特徴とする請求項1に記載のフィルム処理装置。
【請求項3】
非金属製多孔質材料が顆粒状ポリマーの結着物、多孔質ポリマー、多孔質セラミックス、または不織布であることを特徴とする請求項1または2に記載のフィルム処理装置。
【請求項4】
吸引搬送ロールは、平均表面開口面積が0.005〜0.4mm、最大表面開口面積が1mm以下、および表面開口率が15〜50%であることを特徴とする請求項3に記載のフィルム処理装置。
【請求項5】
フィルム洗浄部、フィルム乾燥部およびフィルム巻き取り部においてフィルムに接触するロールは、その表面が非金属製材料であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のフィルム処理装置。
【請求項6】
フィルム乾燥部は、フィルムの搬送方向に関して、フィルムが吸引搬送ロールに吸引され密着し始める位置もしくは該位置よりも下流側から、温風送風機からの温風が吹きつけられる位置までの間に、フィルムを吸引搬送ロールに押圧する押圧ロールを備えてなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のフィルム処理装置。
【請求項7】
さらに、フィルム乾燥部とフィルム巻き取り部の間にフィルム張力検出機構を備え、検出された張力が所望の値になるようにフィルム巻き取り部の速度を制御する巻き取り速度制御機構を備えてなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のフィルム処理装置。
【請求項8】
さらに、フィルム巻き出し部を備え、フィルム巻き出し部とフィルム乾燥部の間にフィルム張力検出機構を備え、検出された張力が所望の値になるようにフィルム巻き出し部の速度を制御する巻き出し速度制御機構を備えてなることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のフィルム処理装置。
【請求項9】
フィルム液処理部は処理液を貯留する液処理槽を備え、フィルム洗浄部は洗浄液を貯留する洗浄槽を備え、それら槽内には、フィルムを方向転換して搬送する液中ガイドロールが設けられてなり、該液中ガイドロールは、ロールによる鉛直下向きの荷重と浮力との平衡が保たれるように処理液に浸漬されてなることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のフィルム処理装置。
【請求項10】
フィルム洗浄部は、洗浄液を貯留する、複数の槽から構成された洗浄槽を備え、該複数の槽は、フィルムの搬送方向に関して、下流側の槽の上部から流出した洗浄水が隣接する上流側の槽の底部から流入可能なように接続されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のフィルム処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−194593(P2011−194593A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60816(P2010−60816)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 燃料電池・水素技術開発部 委託研究「固体高分子形燃料電池実用化戦略技術開発 要素技術開発 高性能炭化水素系電解質膜の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】