説明

フィルム状甘味組成物

この発明は、高甘昧度甘味料であるスクラロースを含んでなるフィルム状甘昧組成物を提供することを課題とし、この課題を、ホモ多糖類及びヘテロ多糖類から選ばれる一種又は二種以上の多糖類と、スクラロースとを含んでなるフィルム状甘味組成物を確立することにより解決するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフィルム状甘味組成物、より詳細には、高甘味度甘味料としてのスクラロースを含んでなるフィルム状甘味組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
蔗糖の約600倍の甘味度を有するスクラロースは、蔗糖を原料として製造される、安全性の高いノンカロリー高甘味度甘味料である。スクラロースは、その高甘味性の他、水やアルコールなどの各種溶媒への高溶解性、非う蝕性などの優れた特性を有していることから、近年、食品、化粧品、医薬品等の各種分野への利用が急速に広まりつつある(例えば、特開昭64−85055号公報、特開平2−258714号公報、特開2002−136270号公報参照)。
【0003】
しかしながら、従来のスクラロースは、粉末状の形態で提供されていたことから、一般ユーザがスクラロースを、例えば、紅茶やコーヒー等の嗜好品や各種飲食物の甘味付に用いる場合、従来の粉末状スクラロースは、見た目が砂糖と殆ど区別できないこと、また、高甘味性であることから、とかく必要量以上を用いてしまい、甘味が強くなり過ぎるとの欠点があった。また、粉末状スクラロースは、微粒子であるために飛散し易いとの欠点もあった。更なる欠点として、従来のスクラロースは、粉末状であったことから、食品の表面に均一に散布することが難しく、甘味付けが不均一になり易いとの欠点があった。また、スクラロースは、蔗糖と同程度の熱安定性を有してはいるものの、比較的高温の環境下においては褐変して、品質低下を招くとの欠点もあった。更に、昨今のライフスタイルの変化に伴って、従来の粉末状の形態で提供されるスクラロースのイメージを脱却する、斬新な形態のスクラロースが希求されていた。
【発明の開示】
【0004】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされた発明である。即ち、本発明は、一般ユーザの使用目的に応じて、その必要量を容易かつ手軽に利用できる形態にあるスクラロース製品であって、従来の粉末状スクラロースとは形態を全く異にする斬新な形態を有し、かつ、優れた水溶性、分散性、引っ張り強度、保存安定性、高甘味性を有し、更には、比較的高温度の環境温度下においても、スクラロースが褐変することなく、スクラロースが安定に保持されたフィルム状甘味組成物を提供することを課題とする。
【0005】
本発明者等は、前記課題を解決することを目的として鋭意研究した。その結果、ホモ多糖類及びヘテロ多糖類から選ばれる一種又は二種以上の多糖類と、スクラロースとを含んでなるフィルム状甘味組成物が、前記課題を解決することを見出し、本発明を完成した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明のフィルム状甘味組成物について、以下、説明する。本発明で用いるホモ多糖類とは、単一種類の糖のみにより構成された多糖類全般を意味する。具体的には、構成糖として、D−グルコース分子のみからなる、プルラン、エルシナン、デキストラン、ニゲラン、セルロース、カードラン、カラギーナン、スクレロタン、イソスクレロタン、スクレログルカン、シゾフィラン、β−1,2−グルカン、β−1,3−グルカン、ルティン酸、レバン、ホスホマンナン、α−1,6−マンナン、澱粉、及びそれらの誘導体等を例示できる。本発明においては、前記ホモ多糖類の内、D−グルコース3分子からなるマルトトリオースを繰り返し単位とする、プルランやエルシナンが好適に用いられる。殊に、プルランは、スクラロースとの相性がよいことに加え、水等の各種溶媒への溶解性、耐熱性、耐光性、保存安定性、非う蝕性などの点で優れていることから、本発明においては最も好適に用いられる。斯かるプルランとしては、市販品はもとより、例えば、特公昭51−36360号公報、特公昭51−42199号公報、特公昭55−27099号公報、特許第3232488号公報等に開示された方法により得ることのできるプルランを例示できる。プルランの具体的な製造方法としては、プルラン産生菌を、例えば、グルコース、マルトース、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、水飴、スクロース、フラクトース、糖化転化糖、異性化糖、又は糖蜜などの一種又は二種以上の糖質を含有する液体培地中で培養し、その培養液中に産生されたプルランを採取する方法を例示できる。他のプルランの製造方法としては、プルラン産生菌を前記培地中でバッチ式、半連続式又は連続式で培養して得られるプルラン含有培養液を濾過して除菌し、必要に応じて、更に、脱塩し、脱色し、濃縮してプルラン製品とする方法を例示できる。更に、前記培養後の濃縮液を、必要に応じて精製した後、乾燥・粉砕してプルラン粉末とする方法、或いは、前記製造方法の過程で得られる培養液を脱塩した後、アルコール沈澱処理してプルランを沈澱させ、これを乾燥して、プルラン製品とする方法を例示することができる。斯かるプルランは、通常、重量平均分子量が約50,000以上である。これらプルランの内、本発明においては、重量平均分子量が、約100,000以上、好適には、約150,000乃至約300,000のものを有利に用いることができる。尚、重量平均分子量が、約100,000未満のプルランの場合、これを用いて得られるフィルム状甘味組成物の成形性、強度の点で好ましくなく、逆に、重量平均分子量が約300,000を越えるプルランの場合、フィルム状甘味組成物の加工特性、溶媒への溶解性が劣る点で好ましくない。
【0007】
また、本発明で用いるヘテロ多糖類とは、二種以上の糖から構成される多糖類を意味する。具体的には、キサンタンガム、サクシノグルカン、ラムノガラクタン、エマルサン、グアガム、ローカストビーンガム、トラガカントガム、アラビアガム、タマリンドガム、Arthrobacter viscosus(NRRL B−1973)由来の多糖類、Corynebacterium insidiosum由来の多糖類、Aerobacter sp.(IFO 12367)由来の多糖類、Cryptococcus laurentii(NRRL Y−1401)由来の多糖類、及びBacillus polymyxa由来の多糖類、及びそれらの誘導体等を例示できる。
【0008】
本発明においては前記ホモ多糖類及びヘテロ多糖類から選ばれる一種又は二種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0009】
また、本発明で用いるスクラロースとしては、スクラロース及びその可食性の誘導体全般から選ばれる一種又は二種以上を適宜組み合わせて用いることができる。本願明細書においては、特に断らない限り、これらスクラロースを単に「スクラロース」と総称する。
【0010】
本発明のフィルム状甘味組成物中に配合されるホモ多糖類、ヘテロ多糖類、及びスクラロースの配合割合は、スクラロース1質量部に対し、ホモ多糖類及びヘテロ多糖類から選ばれる一種又は二種以上の多糖類をそれらの合計量で、通常、0.5乃至1,000質量部、好適には、1乃至100質量部、より好適には、5乃至50質量部の範囲とする。上記下限(0.5質量部)を下回る場合には、本発明のフィルム状甘味組成物のフィルム成形性、強度が低下するなどの不都合が生じることから望ましくない。一方、上記上限(1,000質量部)を上回る場合は、本発明のフィルム状甘味組成物の食感、水或いはアルコール等の親水性溶媒への溶解性が低下することから望ましくない。しかしながら、フィルム状甘味組成物の使用目的に照らして、フィルム強度、食感、又は水或いはアルコール等の親水性溶媒への溶解性のいずれかの要件を満たせばよい場合には、前記配合割合の下限又は上限を外れる配合割合を採用することも可能である。尚、前記溶媒としては、本発明のフィルム状甘味組成物の配合成分を溶解し得る、水或いはアルコール等をはじめとする各種溶媒の一種又は二種以上を適宜組み併せて用いることができる。
【0011】
本発明のフィルム状甘味組成物には、本発明の目的を逸脱しない範囲で、他の成分、例えば、剥離剤、保湿剤、乳化剤、着色料、調味料、保存剤、賦形剤、増量剤、安定剤、多糖類用分散剤、ビタミン類(例えば、ビタミンC、アスコルビン酸−2−O−α−グルコシド、ヘスペリジン、α−グルコシル ヘスペリジン、α−グリコシル ヘスペリジン、ルチン、α−グルコシル ルチン、α−グリコシル ルチン、ナリンジン、α−グルコシル ナリンジン、α−グリコシル ナリンジン、ケルセチン、α−グルコシル ケルセチン、α−グリコシル ケルセチン)、更には、グルコース、ラクトース、フラクトース、スクロース、ラクトスクロース、マルトース、α,α−トレハロース(以下、単に「トレハロース」と言う。)、マルトトリオース、マルトテトラオース、分子内にトレハロース構造を有する3糖類以上の非還元糖質、ラフィノース、ソルビトール、イノシトール、マルチトール、マルトトリイトール、マルトテトライトール等の単糖類、ニ糖類、三糖類以上のオリゴ糖及びそれらの糖アルコール、サイクロデキストリン、サイクロ{→6}−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→)の構造を有する環状四糖、サイクロ{→6}−α−D−グルコピラノシル−(1→4)−α−D−グルコピラノシル−(1→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→4)−α−D−グルコピラノシル−(1→)の構造を有する環状四糖、或いは、スクラロース以外の天然又は合成のアセスルファムカリウム、アスパルテーム、アリテーム、サイクラメート、ネオヘスペヘリジン・ジヒドロカルコン、レバウディオシド、ステビオシド、グリコシルステビオシド、エリスリトール、キシリトール、グリチルリチン、甘草抽出物、ステビア抽出物、酵素処理ステビア、テンリョウチャ抽出物、ナイゼリアベリー抽出物(モネリン)、ラカンカ抽出物、ソーマチン、サッカリン、サッカリンナトリウム等の高甘味度甘味料、更には、天然又は合成のアーモンド、アイリッシュ、アップル、オレンジ、レモン、キウイフルーツ、イチゴ、チェリー、バナナ、パパイア、マンゴー、パイナップル、パッションフルーツ、ピーチ、モモ、パンプキン、ブルーベリー、ラズベリー、ヘーゼルナッツ、マカダミアンナッツ、マロン、ミント、ラベンダー、バラ、シトロネラ、白檀、パチュリ、ゼラニウム、アニス、ジャスミン、オークモス、シダーウッド、ライム、バニラ、チャイティー、チョコレート、ティラミス、蜂蜜、キャラメル、パンプキンパイ、グアバ、ガラナ、ヨモギ、香菜、コーヒー、ココア、紅茶、緑茶、ココナッツ、シナモン、ジンジャーなどの香料から選ばれる一種又は二種以上の成分を適宜組合せて配合することも随意である。
【0012】
尚、前記糖質の内、マルチトール、トレハロース、及び分子内にトレハロース構造を有する3糖類以上の非還元性糖質は、スクラロースとの相性がよく、好適に用いられる。前記多糖類用分散剤として、水、エタノール等のアルコールなどの親水性溶媒を用いる場合には、目的とする、本発明のフィルム状甘味組成物の突き刺し強度、引っ張り強度を効果的に高めることができる。斯かる多糖類用分散剤の効果は、多糖類として、プルランと、カラギーナン、キサンタンガム、及びローカストビーンガムから選ばれる一種又は二種以上を組み合わせて用いる場合に特に顕著である。
【0013】
尚、前記他の成分の配合量は、特に制限はないが、通常、本発明のフィルム状甘味組成物全量当たり、0.001乃至90%、好適には、0.01乃至80%、より好適には、0.1乃至80%の範囲とする。
【0014】
本発明のフィルム状甘味組成物の厚みに制限はないが、通常、1μm以上、好適には、20乃至1,000μm、より好適には、30乃至100μmである。本発明のフィルム状甘味組成物の厚みは、その使用目的に応じて、均一の厚みとしてもよいし、部分的又は局所的に変化させてもよい。また、本発明のフィルム状甘味組成物は、配合組成及び/又は厚みが同じか異なる二種以上のフィルム状甘味組成物を積層して、多層フィルム状甘味組成物とすることも随意である。多層フィルム状甘味組成物とする場合のフィルム全体の厚みは、通常、2乃至1,000μmとする。
【0015】
尚、本発明で言う「フィルム状」とは、上記厚みを有する形態のもの全般を意味し、特に断りがない限り、前記厚みを有するフィルム状又はシート状の形態のものを全て包含する。
【0016】
また、本発明のフィルム状甘味組成物の大きさに制限はなく、当該フィルム状甘味組成物を製造するフィルム成型機の能力・性能、当該フィルム状組成物の取り扱い性、加工適正、消費者のニーズに応じて適宜設定することができる。例えば、本発明のフィルム状甘味組成物を比較的小さな形状、大きさのポーションタイプの甘味料、例えば、一辺が1乃至5cmの正方形又は長方形状のフィルム/シート、直径1乃至5cmの円形状乃至楕円状フィルム/シートにしたり、その他、各種形状・サイズのフィルム/シートに加工・成形することができる。
【0017】
また、本発明のフィルム状甘味組成物の特徴として、透明乃至半透明とすることも、また、一種又は二種以上の天然又は合成の食品用着色料の適量を配合して、フィルム/シートの全体又はその一部を着色したり、フィルム/シート上に、図形、文字、記号、模様等を公知の手法により付与することができる。
【0018】
本発明のフィルム状甘味組成物は、その配合組成により変化するけれども、日本工業規格『JIS Z 1707:1997』に記載された方法に準じて、その0.1gを20℃の水1Lに浸漬し、静置して肉眼観察したとき、通常、100秒以内、好適には、70秒以内、より好適には、30秒以内に溶解するフィルム状甘味組成物である。本発明のフィルム状甘味組成物の水への溶解性は、スクラロースに対するホモ多糖類及び/又はヘテロ多糖類の種類、配合割合により適宜、調節することができる。通常、本発明のフィルム状甘味組成物の水への溶解性は、ホモ多糖類及びヘテロ多糖類の種類よりも、スクラロースに対するホモ多糖類及び/又はヘテロ多糖類の配合割合に依存して変化する。即ち、その配合割合が高いほど水溶性は低下し、逆に、低いほど水溶性は増加する傾向にある。
【0019】
本発明のフィルム状甘味組成物の物性に関し、スクラロースは、ホモ多糖類及び/又はヘテロ多糖類と均質に配合され、空気中の酸素との接触が遮断乃至抑制されていることから、比較的高温度の条件下で輸送、保存、加工・調理しても、スクラロース単体と較べ、スクラロースが安定に保持されるという優れた利点を有している。また、当該フィルム状甘味組成物の他の物性に関し、その強度は、スクラロースに対するホモ多糖類及び/又はヘテロ多糖類の種類、配合割合、水分含量を調節することにより変化させることができる。具体的には、スクラロースと併用するホモ多糖類及び/又はヘテロ多糖類の種類に依存して変化するが、ホモ多糖類及び/又はヘテロ多糖類の配合割合の増減させることにより、正比例的にフィルム状甘味組成物の強度を増減させることができる。本発明のフィルム状甘味組成物の好適な強度は、日本工業規格『JIS Z 1707』に記載された方法にしたがって、温度20℃、相対湿度50%、引っ張り速度50mm/分、及び被検体の幅15mmの条件下で測定したとき450gf以上、好適には、1,000gf以上、より好適には、1,000乃至10,000gfである。尚、本発明のフィルム状甘味組成物は、突き刺し強度も比較的高いという特徴を兼備している。即ち、日本工業規格『JIS Z 1707』に記載された方法にしたがって、温度20℃、相対湿度50%、直径が1.0mmで先端形状直径1mmの半円形の針を、突き刺し速度50mm/分の条件で測定したとき、その突き刺し強度は10gf以上、好適には、20gf以上、より好適には、50乃至5,000gfである。尚、以下の説明において、本発明のフィルム状甘味組成物の引っ張り強度、突き刺し強度は、前記条件下で測定したものである。本発明のフィルム状甘味組成物の内、前記測定条件下で測定したときの引っ張り強度(X)と突き刺し強度(Y)との比(=X/Y)は、通常、1乃至50、好適には、10乃至40の範囲にあるものは、強度、取扱性、加工適正の点で優れている傾向にある。
【0020】
本発明のフィルム状甘味組成物の製造方法は、後述する実施例1乃至6に示す方法に限定されることなく、本出願前公知のフィルム状組成物の製造方法における、フィルム成形方法も用いることができる。
【0021】
斯くして得られる本発明のフィルム状甘味組成物は、甘味付けしたい食品、健康食品、治療食、化粧品、医薬品、農産物、化学品、家畜用飼料、観賞魚・養殖魚用餌料、釣り餌、ペットフード等にその適量を添加・配合して用いる。また、本発明のフィルム状甘味組成物を上記した各種物品の表面に載置、貼附、付着、或いは巻き付けて用いる場合には、これら物品の表面を均質かつ容易に甘味付けすることができる。また、本発明のフィルム状甘味組成物は、必要に応じて、適宜溶媒に溶解するか、適宜の担体に均質に分散させた後、前記した各種物品に混合、混捏、混練り、浸漬、塗布、散布、付着、又は展延等の公知の手法を用いて添加・配合することができる。本発明のフィルム状甘味組成物自体、または、当該組成物を適宜溶媒に溶解した後に各種物品を包装、被覆する場合には、適度の光沢とガスバリヤー性とを付与し、前記各種物品の品質を保持又は高めることができる利点を有する。
【0022】
以下、本発明のフィルム状甘味組成物の食感についてのパネル試験、及び本発明のフィルム状甘味組成物中のスクラロースの安定性試験について述べる。
【0023】
実験1:パネル試験
後述する実施例1で得た本発明のフィルム状甘味組成物と、実施例1の方法において、スクラロースを他の高甘味度甘味料であるアスパルテーム、ステビオシド又はサッカリンに代えた以外は実施例1と同様にして、厚さ約40μm、幅約100cm、長さ10m、水分含量約9%(w/w)、100cm2当たりの重量が約0.6gであるアスパルテーム、ステビオシド又はサッカリン含有フィルム状甘味組成物(それぞれ、「比較例1」、「比較例2」、「比較例3」と言う。)を製造した。これら各種甘味組成物を縦1cm、横2cmに裁断し、上記各甘味組成物を被検体として、パネラー20人からなるパネル試験を行った。即ち、前記甘味組成物を各パネラーにその種類を告げずにそれぞれ食してもらい、フィルム状甘味料としての口当たり、甘味度、後味について、一番好みに合った標品を各パネラーに選択させ、その人数を各試験項目毎に集計した。その結果を下記表1に示す。
【0024】


【0025】
表1の結果から、本発明のフィルム状甘味組成物は、比較例1乃至3のフィルム状甘味組成物に比し、何れの試験項目に於いても優れた特性を有していた。この結果は、スクラロースを含んでなる本発明のフィルム状甘味組成物の甘味料としての有用性を示すものである。
【0026】
実験2:フィルム状甘味組成物中のスクラロースの安定性試験
本発明のフィルム状甘味組成物中におけるスクラロースの安定性について調べることを目的として、後述する実施例1に示す方法で得た本発明のフィルム状甘味組成物(固形物当たりのスクラロース含量10%)5.0gと、対照としてスクラロース粉末標品(純度98.0%、和光純薬工業株式会社販売)0.51gとをそれぞれガラス製ペトリ皿に入れ、100℃の恒温室に30分間保持し、肉眼観察すると共に、加熱処理後の各試料をそれぞれ100mlの精製水に溶解し、水溶液の色調を肉眼観察した。更に、各水溶液につき、スクラロースが加熱分解して生ずる褐変物質の吸収波長である波長420nm及び波長720nmにおける吸光度を1cmセルにて測定し、各吸収波長における加熱処理前後における吸光度の差分を求めた。尚、加熱処理前の本発明のフィルム状甘味組成物とスクラロース粉末試料の前記吸収波長に於ける吸光度は、別途、未加熱処理のスクラロース粉末標品0.51gと本発明のフィルム状甘味組成物5.0gとをそれぞれ精製水100mlに溶解し、前記吸収波長における吸光度をそれぞれ求めた。
【0027】
その結果、対照としてのスクラロース粉末標品は、加熱処理後、著しく褐変し、その水溶液は褐色の水溶液であった。また、加熱処理前後において、波長420nm及び波長720nmにおける吸光度は、それぞれ0.65、0.37増加した。
【0028】
これに対し、本発明のフィルム状甘味組成物の場合、加熱処理前後において、色調の差は肉眼観察によっても、また、波長420nm及び波長720nmにおけるいずれの吸光度においても実質的に差は認められなかった。
【0029】
この実験結果は、本発明のフィルム状甘味組成物に含まれるスクラロースは、熱に対して極めて安定な状態で保持されていることが判明した。即ち、本発明のフィルム状甘味組成物は、従来の粉末状スクラロースと較べ、保存時、加工時の安定性が著しく優れていることが判明した。この結果は、本発明者等が全く予期していなかった結果であった。
【0030】
以下、本発明のフィルム状甘味組成物の製造方法、物性、及び用途について、実施例により詳細に説明する。
【0031】
実施例1:甘味組成物
脱イオン水220質量部を室温で攪拌しつつ、これに剥離剤として結晶セルロース(商品名『アビセルRC−N30』、旭化成株式会社製)0.614質量部を添加・混合し、多糖類用溶剤として85%エタノール水溶液2.15質量部に予め懸濁しておいたカラギーナン1.54質量部及びキサンタンガム0.31質量部を徐々に投入し、次いで、プルラン(重量平均分子量約200,000)(商品名『PI20』、株式会社林原商事販売)67.5質量部を添加し、攪拌し、2.5時間かけて94℃まで加熱した後、80乃至75℃とした。次いで、13質量部の脱イオン水に予め溶解しておいたスクラロース8.60質量部、及びカラメル色素1.84質量部を添加し、保湿剤として食品用グリセリン及び乳化剤として蔗糖エステルとをそれぞれ1.84質量部添加した後、全量が246質量部となるように脱イオン水を更に添加した。得られた混合物を75乃至80℃で約30分間攪拌してスクラロース含有水溶液を得た。このスクラロース含有水溶液を65℃に保温し、脱泡処理した後、ベルトコンベア上に流延し、温度80乃至85℃で乾燥してフィルム状甘味組成物とし、巻き取り速度8m/分でロールに巻き取り、厚さ約40μm、幅約100cm、長さ1,200m、水分含量約9%(w/w)、100cm2当たりの質量が約0.6gであるフィルム状甘味組成物を得た。本品0.1gを20℃の水1Lを入れたビーカーに浸漬し、静置して肉眼観察したところ、約15秒で溶解した。また、本品の引っ張り強度は約1,800gf、突き刺し強度は約60gfであった。
【0032】
使用に際し、本品は、使用目的に応じて適宜の大きさに裁断して用いるか、所望の大きさに裁断し、1乃至1,000枚単位で適宜容器に収容し、使用時、必要枚数を当該容器から取り出して用いる。本品は、淡褐色半透明のフィルム状甘味組成物で、甘味付けしたい食品、健康食品、治療食、化粧品、医薬品、農産物、化学品、家畜用飼料、観賞魚・養殖魚用餌料、釣り餌、ペットフード等にそまのまま用いることも、また、適宜溶媒に溶解して用いることも随意である。本品は、口に含むと速やかに溶解し、スクラロース本来の高甘味を呈する高品質のフィルム状甘味料として有利に用いることができる。また、本品は、室温で6乃至12カ月間放置後も変色、変形、溶融することのない安定な組成物である。
【0033】
実施例2:甘味組成物
多糖類としてプルラン(重量平均分子量約200,000)(商品名『PI20』、株式会社林原商事販売)のみを70質量部用いた以外は実施例1と同様にして、厚さ約50μm、幅約120cm、長さ1,000m、水分含量約8%(w/w)、100cm2当たりの重量が約0.7gであるフィルム状甘味組成物を得た。本品0.1gを20℃の水1Lを入れたビーカーに浸漬し、静置して肉眼観察したとき、約20秒でに溶解した。また、本品の引っ張り強度は、約1,000gf、突き刺し強度は、約35gfであった。
【0034】
使用に際し、本品は、使用目的に応じて適宜の大きさに裁断して用いるか、所望の大きさに裁断し、1乃至1,000枚単位で適宜容器に収容し、使用時、必要枚数を当該容器から取り出して用いる。無色半透明のフィルム状甘味組成物である本品は、甘味付けしたい食品、健康食品、治療食、化粧品、医薬品、農産物、化学品、家畜用飼料、観賞魚・養殖魚用餌料、釣り餌、ペットフード等にそのまま用いることも、また、適宜溶媒に溶解して用いることも随意である。本品は、口に含むと速やかに溶解し、スクラロース本来の高甘味を呈する高品質のフィルム状甘味料として有利に用いることができる。また、本品は、室温で3乃至6カ月間放置後も変色、変形、溶融することのない安定な組成物である。
【0035】
実施例3:甘味組成物
実施例1の方法において、グリセリン1.45質量部、マルチトール0.01質量部、スクラロース11.6質量部、及び蔗糖エステル2.32質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、厚さ約100μm、幅約100cm、長さ1,000m、水分含量約8.5%(w/w)、100cm2当たりの重量が約1.2gであるフィルム状甘味組成物を得た。本品0.1gを20℃の水1Lを入れたビーカーに浸漬し、静置して肉眼観察したとき、約40秒でに溶解した。また、本品の引っ張り強度は、約3,200gf、突き刺し強度は、約150gfであった。
【0036】
使用に際し、本品は、使用目的に応じて適宜の大きさに裁断して用いるか、所望の大きさに裁断し、1乃至1,000枚単位で適宜容器に収容し、使用時、必要枚数を当該容器から取り出して用いる。淡褐色半透明のフィルム状甘味組成物である本品は、甘味付けしたい食品、健康食品、治療食、化粧品、医薬品、農産物、化学品、家畜用飼料、観賞魚・養殖魚用餌料、釣り餌、ペットフード等にそまのまま用いることも、また、適宜溶媒に溶解して用いることも随意である。本品は、口に含むと速やかに溶解し、スクラロース本来の甘味を呈する高品質のフィルム状甘味料として有利に用いることができる。また、本品は、室温で3乃至6カ月間放置後も変色、変形、溶融することのない安定な組成物である。
【0037】
実施例4:甘味組成物
プルラン(重量平均分子量約200,000)(商品名『PI20』、株式会社林原商事販売)22質量部、カラギーナン0.50質量部、キサンタンガム0.10質量部、多糖類用溶剤として85%エタノール水溶液0.70質量部、α,α−トレハロース0.01質量部、グリセリン0.50質量部、スクラロース4.0質量部、カラメル色素0.5質量部、乳化剤として蔗糖エステル0.80質量部、及び精製水84.0質量部を90℃で3時間攪拌して溶解し、2×10mのステンレス板状に均質に流延し、60℃で4時間乾燥して、厚さ約200μm、幅約200cm、長さ10m、水分含量約8%(w/w)、100cm2当たりの重量が約2.2gであるフィルム状甘味組成物を得た。本品0.1gを20℃の水1Lを入れたビーカーに浸漬し、静置して肉眼観察したとき、約40秒で溶解した。また、本品をの引っ張り強度は、約3,000gf、突き刺し強度は、100gfであった。
【0038】
使用に際し、本品は、使用目的に応じて適宜の大きさに裁断して用いるか、所望の大きさに裁断し、1乃至1,000枚単位で適宜容器に収容し、使用時、必要枚数を当該容器から取り出して用いる。淡褐色半透明のフィルム状甘味組成物である本品は、甘味付けしたい食品、健康食品、治療食、化粧品、医薬品、農産物、化学品、家畜用飼料、観賞魚・養殖魚用餌料、釣り餌、ペットフード等にそまのまま用いることも、また、適宜溶媒に溶解して用いることも随意である。本品は、口に含むと速やかに溶解し、スクラロース本来の甘味を呈する高品質のフィルム状甘味料として有利に用いることができる。また、本品は、室温で3乃至6カ月間放置後も変色、変形、溶融することのない安定な組成物である。
【0039】
実施例5:甘味組成物
実施例1乃至3で得たフィルム状甘味組成物をそれぞれ50×50cmの大きさに細断し、実施例1で得たフィルム状甘味組成物の上に実施例2、3で得たフィルム状甘味組成物をこの順序で積載し、圧縮成型して、厚さ約150μmの三層フィルム状甘味組成物を得た。本品は、実施例1乃至3で得たフィルム状甘味組成物と同様、各種食品、化粧品、医薬品の甘味付に好適に用いることができる。
【0040】
実施例6:甘味組成物
実施例1で得たスクラロース含有水溶液を縦100cm、横200cm、深さ5cmのステンレス製容器に入れ、68℃で一夜加熱乾燥して、乾燥物を容器から取り出し、ローラーで均一に圧縮し、厚さ約500μmのフィルム状甘味組成物を得た。本品は、適宜大きさに裁断して、調理用甘味料として好適に利用できる。
【0041】
実施例7:甘味組成物
プルラン(重量平均分子量約200,000)(商品名『PI20』、株式会社林原商事販売)22質量部、多糖類用溶剤として85%エタノール水溶液0.70質量部、α,α−トレハロース0.02質量部、マルトース0.01質量部、グリセリン0.50質量部、スクラロース4.0質量部、アスパルテーム2.0質量部、黄色4号0.7質量部、バニラ香料0.5質量部、乳化剤として蔗糖エステル0.80質量部、及び精製水84.0質量部を90℃で3時間攪拌して溶解し、2×10mのステンレス板状に均質に流延し、60℃で4時間乾燥して、厚さ約150μm、幅約200cm、長さ10m、水分含量約8%(w/w)、100cm2当たりの重量が約2.2gであるフィルム状甘味組成物を得た。本品0.1gを20℃の水1Lを入れたビーカーに浸漬し、静置して肉眼観察したとき、約40秒で溶解した。また、本品をの引っ張り強度は、約3,000gf、突き刺し強度は、100gfであった。
【0042】
使用に際し、本品は、使用目的に応じて適宜の大きさに裁断して用いるか、所望の大きさに裁断し、1乃至1,000枚単位で適宜容器に収容し、使用時、必要枚数を当該容器から取り出して用いる。淡褐色半透明のフィルム状甘味組成物である本品は、甘味付けしたい食品、健康食品、治療食、化粧品、医薬品、農産物、化学品、家畜用飼料、観賞魚・養殖魚用餌料、釣り餌、ペットフード等にそまのまま用いることも、また、適宜溶媒に溶解して用いることも随意である。本品は、口に含むと速やかに溶解し、スクラロース本来の甘味を呈する高品質のフィルム状甘味料として有利に用いることができる。また、本品は、室温で3乃至6カ月間放置後も変色、変形、溶融することのない安定な組成物である。
産業上の利用の可能性
【0043】
以上説明したとおり、本発明は、従来の粉末状のスクラロース甘味組成物とは形態を全く異にする斬新な形態のスクラロース含有高甘味度甘味組成物を提供する発明である。当該甘味組成物は、無色透明乃至半透明とすることも、適宜食用着色料により着色することも、各種形態の形状に加工成形することも随意である。また、当該フィルム状甘味組成物は、水等の溶媒への溶解性・分散性、更には、強度や耐熱性に優れ、取扱性も良好なフィルム状甘味組成物である。本発明のフィルム状甘味組成物は、用時、その適量を細断又は予め細断しておいたものを用いて、それ自体、甘味料として経口摂取できると共に、食品、健康食品、治療食、化粧品、医薬品、農産物、化学品、家畜用飼料、観賞魚・養殖魚用餌料、釣り餌、ペットフード等に好適に用いることができる。また、本発明のフィルム状甘味組成物は、齲触の懸念のない低カロリーの高甘味度甘味料である。更に、当該甘味組成物は、水分含量の高い各種物品への接着・付着性が優れていることから、前記各種物品の表面に載置又はそれらの表面に貼附、付着又は被覆することにより、それら物品の表面を必要最少量のスクラロースで均質に甘味付けすることができる優れた利点を有している。更に、本発明のフィルム状甘味組成物はガスバリアー性をも有していることから、前記各種物品の表面を包装、被覆した場合には、それらの品質をより長期間に亘って安定に維持する優れた利点を有している。このように、本発明が斯界に与える影響は極めて大きいと言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホモ多糖類及びヘテロ多糖類から選ばれる一種又は二種以上の多糖類と、スクラロースとを含んでなるフィルム状甘味組成物。
【請求項2】
ホモ多糖類がマルトトリオースを繰り返し単位とするホモ多糖類である請求の範囲第1項記載のフィルム状甘味組成物。
【請求項3】
マルトトリオースを繰り返し単位とするホモ多糖類が、プルラン又はエルシナンである請求の範囲第2項記載のフィルム状甘味組成物。
【請求項4】
スクラロース1質量部に対し、ホモ多糖類及びヘテロ多糖類から選ばれる一種又は二種以上の多糖類を合計で、0.5乃至1,000質量部含んでなる請求の範囲第1項、第2項又は第3項記載のフィルム状甘味組成物。
【請求項5】
多糖類として、プルランと、カラギーナン、ローカストビーンガム、及びキサンタンガムから選ばれる一種又は二種以上の組み合わせからなる多糖類を含んでなる請求の範囲第1項乃至第4項のいずれかに記載のフィルム状甘味組成物。
【請求項6】
剥離剤、保湿剤、乳化剤、香料、着色料、調味料、保存剤、賦形剤、増量剤、安定剤、多糖類用分散剤、ビタミン類、スクラロース以外の合成又は天然の高甘味度甘味料、非還元糖質、糖アルコール、サイクロデキストリン、サイクロ{→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→}の構造を有する環状四糖から選ばれる一種又は二種以上の成分を更に含んでなる請求の範囲第1項乃至第5項のいずれかに記載のフィルム状甘味組成物。
【請求項7】
その0.1gを20℃の水1Lに浸漬し、静置して肉眼観察したとき、100秒以内に溶解することを特徴とする請求の範囲第1項乃至第6項のいずれかに記載のフィルム状甘味組成物。
【請求項8】
日本工業規格『JIS Z 1707:1997』に載された方法に準じて、温度20℃、相対湿度50%、引っ張り速度50mm/分、及び被検体の幅15mmの条件下で測定したときの引っ張り強度が、450gf以上である請求の範囲第1項乃至第7項のいずれかに記載のフィルム状甘味組成物。
【請求項9】
高甘味度甘味料が、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、アリテーム、サイクラメート、ネオヘスペヘリジン・ジヒドロカルコン、レバウディオシド、ステビオシド、グリコシルステビオシド、エリスリトール、キシリトール、グリチルリチン、甘草抽出物、ステビア抽出物、酵素処理ステビア、テンリョウチャ抽出物、ナイゼリアベリー抽出物(モネリン)、ラカンカ抽出物、ソーマチン、サッカリン、及びサッカリンナトリウムから選ばれる一種又は二種以上である請求の範囲第6項に記載のフィルム状甘味組成物。
【請求項10】
香料が、アーモンド、アイリッシュ、アップル、オレンジ、レモン、キウイフルーツ、イチゴ、チェリー、バナナ、パパイア、マンゴー、パイナップル、パッションフルーツ、ピーチ、モモ、パンプキン、ブルーベリー、ラズベリー、ヘーゼルナッツ、マカダミアンナッツ、マロン、ミント、ラベンダー、バラ、シトロネラ、白檀、パチュリ、ゼラニウム、アニス、ジャスミン、オークモス、シダーウッド、ライム、バニラ、チャイティー、チョコレート、ティラミス、蜂蜜、キャラメル、パンプキンパイ、グアバ、ガラナ、ヨモギ、香菜、コーヒー、ココア、紅茶、緑茶、ココナッツ、シナモン、及びジンジャーから選ばれる一種又は二種以上である請求の範囲第6項に記載のフィルム状甘味組成物。

【国際公開番号】WO2004/112504
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【発行日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507210(P2005−507210)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008317
【国際出願日】平成16年6月14日(2004.6.14)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】