説明

フィルム用アクリル系樹脂組成物の製造方法

【課題】 本発明の目的は、アクリル系グラフト共重合体からなるラテックスに有機溶剤を添加しできるスラリー状の凝固粒子を、高分子凝集剤等の凝集剤を添加することなく、平均粒子径1mm以上に安定的に肥大化させる製造方法を提供することである。
【解決手段】 乳化重合で得られたアクリル系グラフト共重合体(A)からなるラテックスに有機溶媒(B)を混合し、スラリー状の凝固粒子(C)を得た後、有機溶媒(B)にメタクリル系重合体(D)を溶解した樹脂溶液(E)を連続的に添加し、凝固粒子を肥大化させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系グラフト共重合体からなる水性ラテックスの凝固粒子を安定的に肥大化させる、工業的に有利な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム状重合体を含むアクリル系樹脂組成物からなるフィルムは、透明性、成形性、耐候性が優れており、自動車内装用シート、浴室シート等の建材用シート、OA機器等の多方面に使用されている。
【0003】
アクリル系樹脂組成物からなるフィルムには、アクリル系グラフト共重合体が含まれるが、アクリル系グラフト共重合体は乳化重合法で製造されることが多い。
【0004】
ところで、乳化重合法で得られた水性ラテックスから樹脂を回収する方法の1つとして、重合時に用いられる乳化剤の洗浄効率の観点から、水性ラテックスに有機溶剤を添加して樹脂粒子を凝固させて、スラリー状懸濁液を得る方法が用いられている(特許文献1)。
【0005】
さらに、前記方法にて得られたスラリー状懸濁液中の固形分(樹脂粒子)は、濾過後、洗浄や溶解その他の目的で、当該固形分を溶媒や水で溶解または再度スラリー化(以下、リスラリーともいう。)される場合がある。この場合、一旦、スラリー状懸濁液を槽外に搬出して、槽外に設置した連続式または回分式の濾過装置を使用して固液分離し、その後、分離した固形分を別の槽に搬送した上で溶媒または水を導入し、溶解、リスラリーする方法が、一般に採用されている。上記濾過装置としては、通常、機器自体が開放系となり、有機溶剤を使用する場合は環境面に問題があることなど課題が多い。
【0006】
そこで、スラリー状懸濁液を得る操作を行ったものと同一の槽内内部において、槽底または槽底に設置した多孔板により固形分を分離する方法(特許文献2)が提案されている。この方法を用いる場合には、スラリー状の固形分の粒子径を大きくする必要があり、多孔板の開口部径より大きい方が有利となる。
【0007】
一方、ラテックスに有機溶剤を添加して凝固させる方法において、粒子径を調整する方法としては、撹拌レイノルズ数を低下する方法(特許文献1)が用いられているが、粒子径が不均一となり1mm以上の粒子径を安定的に得ることは難しく、課題となっている。
【0008】
また、凝集物の大きさおよび形状は、濾過時の脱水性や洗浄性に大きく影響する。このため、凝固方法の改善に関し、さまざまな提案がなされてきた。例えば、高分子凝集剤を用いる方法(特許文献3)がある。しかし、この方法では、基本的に高分子凝集剤の添加を必要とするため、高分子凝集剤が凝固された重合体に夾雑物として混入し易く、製品の品質低下につながる問題点を有していた。
【特許文献1】特開平8−73520号
【特許文献2】国際公開WO2006/030841
【特許文献3】特開昭60−120701号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、アクリル系グラフト共重合体(A)からなる水性ラテックスに有機溶剤(B)を添加しできるスラリー状の凝固粒子(C)を、高分子凝集剤等の凝集剤を添加することなく、粒子径1mm以上に安定的に肥大化させる製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、アクリル系グラフト共重合体(A)からなる水性ラテックスに、有機溶剤(B)を混合し、スラリー状の凝固粒子(C)を得た後、有機溶剤(B)にメタクリル系重合体(D)を溶解させた樹脂溶液(E)を連続的に添加することにより、凝固粒子を安定的に肥大化することができることを見出した。
【0011】
即ち、本発明は、
アクリル系グラフト共重合体(A)からなるラテックスに有機溶剤(B)を混合し、スラリー状の凝固粒子(C)を得た後、有機溶剤(B)にメタクリル系重合体(D)を溶解させた樹脂溶液(E)を連続的に添加し、凝固粒子を肥大化させることを特徴とする、肥大凝固粒子の製造方法(請求項1)、
有機溶媒(B)がアセトンであることを特徴とする、請求項1に記載の肥大凝固粒子の製造方法(請求項2)、
有機溶剤(B)に溶解するメタクリル系重合体(D)の固形分濃度が20〜45重量%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法(請求項3)、および
スラリー状の凝固粒子(C)へのメタクリル系重合体(D)の添加量がアクリル系グラフト共重合体(A)100重量部に対し、12〜16重量部であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法(請求項4)
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、アクリル系グラフト共重合体(A)からなる水性ラテックスに対して有機溶剤(B)を添加して得られるスラリー状の凝固粒子(C)を、高分子凝集剤等の凝集剤を添加することなく、粒子径1mm以上に安定的に肥大化させて製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明で凝固対象となるアクリル系グラフト共重合体(A)は、メタクリル系樹脂重合体(D)と共にアクリル系樹脂組成物を形成して、フィルム製造に好適に使用されるものである。
【0014】
本発明に用いられるアクリル系グラフト共重合体(A)は、少なくとも一層のアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の存在下に、少なくとも一層の(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(A−b)をグラフト成分として共重合して得られるものである。
【0015】
本発明におけるアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)とは、アクリル酸エステル50〜100重量%、共重合可能な他のビニル系共重合体0〜50重量%からなる単量体混合物(両者の合計量が100重量%)、および特定量の共重合可能な1分子当たり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体を重合させてなるものである。
【0016】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)におけるアクリル酸エステルとしては、アルキル基の炭素数1〜12のものを用いることができる。アクリル酸エステルの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−ヘキシルアクリル酸n−オクチル等が挙げられ、これらの単量体は単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
【0017】
アクリル酸エステル系共重合体(A−a)における共重合可能な他のビニル系単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル等のメタクリル酸エステル;塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;蟻酸ビニル、酢酸ビニル等のビニルエステル;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル誘導体;塩化ビニリデン、弗化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム等のアクリル酸およびその塩、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸グリシジル等のアクリル酸アルキルエステル誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸ナトリウム等のメタクリル酸およびその塩、メタクリルアミド、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジル等のメタクリル酸アルキルエステル誘導体等が挙げられる。これらは、単独で使用しても良いし、2種類以上を併用しても良い。これらの中でも、耐候性、透明性の面よりメタクリル酸エステルが特に好ましい。
【0018】
前記単量体混合物の前記単量体混合物中のアクリル酸エステルの使用範囲は、50〜100重量%であり、好ましくは60〜99重量%であり、より好ましくは75〜95重量%である。
【0019】
アクリル酸エステル系ゴム状共重合体(A−a)における共重合可能な1分子当たり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体は、通常使用されるもので良く、例えば、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジビニルアジペート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチルロールプロパントリメタクリレート、テトロメチロールメタンテトラメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレートおよびこれらのアクリレート類などを使用することができる。これらの架橋剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
アクリル酸エステル系ゴム状共重合体(A−a)における多官能性単量体の使用量は、アクリル酸エステル系共重合体(A−a)の単量体混合物100重量部に対して、0.05〜20重量部が好ましく、0.1〜10重量部がより好ましく、1〜10重量部がさらに好ましい。
【0021】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)は、一層でも多層でも、上記の単量体の混合比率の範囲内であれば、特に限定されるものではない。
【0022】
本発明におけるアクリル系グラフト共重合体(A)の製造方法は、特に限定されず、公知の乳化重合方法、乳化−懸濁重合法が適用可能であるが、乳化重合法が特に好ましい。
【0023】
本発明のアクリル酸エステル系ゴム状重合体の(A−a)の重合における開始剤としては、公知の有機系過酸化物、無機系過酸化物、アゾ化合物などの開始剤を使用することができる。具体的には、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物や、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物、さらにアゾビスイソブチロニトリル等の油溶性開始剤も使用される。これらは単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。これらの開始剤は亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸2ナトリウムの錯体などの還元剤と組み合わせた通常のレドックス型開始剤として使用しても良い。
【0024】
前記乳化重合に使用される界面活性剤にも特に限定はなく、通常の乳化重合用の界面活性剤が使用できる。具体的には、アルキルスルフォン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤や、アルキルフェノール類等の非イオン性界面活性剤等が示される。これらは単独で使用しても、2種以上を併用しても良い。
【0025】
本発明で得られるアクリル系グラフト共重合体(A)は、前記アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の存在下において、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物(A−b)を重合させて得られる多層構造重合体である。
【0026】
本発明における(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(A−b)の単量体組成としては、メタクリル酸アルキルエステル50〜100重量%およびアクリル酸アルキルエステル0〜50重量%が好ましく、メタクリル酸アルキルエステル60〜100重量%およびアクリル酸アルキルエステル0〜40重量%がより好ましい。また、必要に応じて、(A−a)にて例示した他のビニル単量体を共重合しても構わない。
【0027】
アクリル酸エステル系単量体混合物(A−b)は、一層でも多層でも、上記の単量体の混合比率の範囲内であれば、特に限定されるものではない。
【0028】
本発明におけるアクリル系グラフト重合体(A)中のアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)と(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(A−b)との比率は、(A−a)5〜75重量部および(A−b)95〜25重量部が好ましく[両者の合計が100重量部]、(A−a)10〜50重量部および(A−b)50〜90重量部がより好ましく、(A−a)15〜40重量部および(A−b)60〜85重量部がさらに好ましい。
【0029】
本発明におけるアクリル系グラフト共重合体(A)の平均粒子径は、100nm超400nm以下が好ましく、100nm超350nm以下がより好ましく、100nm超300nm以下がさらに好ましい。なお、平均粒子径は、得られたアクリル系グラフト共重合体(A)ラテックスを、固形分濃度0.02重量%に希釈したものを試料として、分光光度計(HITACHI製、Spectrophotometer U−2000)を用いて、546nmの波長での光線透過率の測定値より算出した値である。
【0030】
得られたアクリル系グラフト共重合体(A)のラテックスは、凝固、洗浄および乾燥の操作を行うことにより、樹脂粉末として回収することができる。
この際、凝固過程において、高分子凝集剤等の凝集剤を添加することなく、平均粒子径1mm以上に安定的に肥大化させることが望まれている。
【0031】
本発明におけるメタクリル系重合体(D)は、メタクリル酸メチル50〜100重量%および、共重合可能な他のビニル系単量体0〜50重量%よりなる共重合体であり、メタクリル酸メチルの含有量は80重量%以上が好ましく、85重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。共重合可能な他のビニル系単量体は、(A−a)にて例示したものが挙げられる。
【0032】
本発明におけるメタクリル系重合体(D)の重合方法は特に限定されず、公知の乳化重合法、乳化−懸濁重合法、懸濁重合法、塊状重合法または溶液重合法が適用可能である。
【0033】
メタクリル系重合体(D)の重合における開始剤としては、前記のアクリル系グラフト重合体(A)に使用できるものと同様に、公知の有機系過酸化物、無機系過酸化物、アゾ化合物などの開始剤を使用することができる。これらは単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0034】
前記懸濁重合に使用される分散剤としては、一般的に懸濁重合に用いられる分散剤、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等の高分子分散剤、例えば、リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト等の難水溶性無機塩が挙げられる。
【0035】
本発明で用いられるメタクリル系重合体(D)は、アクリル系グラフト共重合体(A)を含む樹脂組成物からなるフィルムを製造する際に、樹脂組成物を構成する成分の一種であるため、本発明に示されるフィルム用アクリル系樹脂組成物を構成する物質である。
【0036】
本発明の凝固における凝固粒子を得る製造方法では、まず、アクリル系グラフト共重合体(A)からなるラテックスに有機溶剤(B)を混合し、スラリー状の凝固粒子(C)を得る。
【0037】
本発明で使用される有機溶剤(B)としては、特に制限はないが、アクリル系グラフト共重合体(A)を分散およびメタクリル系重合体(D)を溶解し、水と自由に混和する有機溶剤が好ましい。有機溶剤(B)の具体例としては、アセトン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、メチルエチルケトン等が挙げられ、これらのなかでも、水と自由に混和する点から、アセトン、テトラヒドロフランが好ましい。
【0038】
アクリル系グラフト共重合体(A)からなる水性ラテックスに対する有機溶剤(B)の混合量については、特に制限はないが、アクリル系グラフト共重合体(A)からなるラテックスに含まれる水100重量部に対して、230〜850重量部が好ましく、230〜460重量部がより好ましい。有機溶剤(B)混合量が850重量部超では、アクリル系グラフト共重合体(A)が有機溶剤(B)に分散してしまい、一部に未凝固体が発生する傾向がある。また、有機溶剤(B)混合量が230重量部未満では、完全に凝固ができず、一部未凝固体となる傾向がある。
【0039】
アクリル系グラフト共重合体(A)からなるラテックスに混合する有機溶媒(B)の混合時期には特に制限はなく、一括添加でも連続添加でも構わない。
【0040】
アクリル系グラフト共重合体(A)からなるラテックスと有機溶剤(B)との混合方法については特に制限はなく、一般的に知られている方法が使用できる。特に、操作面での容易さから、混合方法としては、撹拌槽の使用が好ましい。ここで用いられる撹拌翼についても特に制限はなく、パドル翼、プロペラ翼、ファウドラー翼、大型翼等が使用できる。
【0041】
得られた凝固粒子の粒子径としては、目開き1mmの標準ふるいを用いて、湿式法にて測定した場合に、通過した粒子(1mm未満の粒子)の重量割合が80重量%以下であることが好ましく、60重量%以下であることがより好ましく、40重量%以下であることがさらに好ましい。1mm未満の粒子の重量割合が80重量%を超えると、肥大化後も1mm未満の粒子の割合が多くなる傾向がある。
【0042】
本発明の凝固粒子を得る製造方法では、上記工程において得られたスラリー状の凝固粒子(C)に、次いで、有機溶剤(B)にメタクリル系重合体(D)を溶解させた樹脂溶液(E)を連続的に添加して凝固粒子を肥大化させることにより、粒子径1mm以上の凝固粒子として安定的に肥大化させることが可能となる。さらには、得られた肥大凝固粒子は、別途、次工程としてリスラリー洗浄、溶解、若しくは分散などを行う場合、溶剤(B)処理槽内のスラリー状の凝固粒子を槽外に搬出することなく、固形分(凝固粒子)を分離することができ、同じ槽を用いて次工程を実施することができる。
【0043】
本発明においては、スラリー状凝固粒子(C)に対する、樹脂溶液(E)の添加量には、特に制限はない。ただし、樹脂溶液(E)に溶解されたメタクリル系重合体(D)の添加量は、アクリル系グラフト共重合体(A)100重量部に対して、12〜16重量部が好ましく、13〜15重量部がより好ましく、14〜15重量部がさらに好ましい。メタクリル系重合体(D)の添加量が16重量部を超えると、凝固粒子の合一肥大化が増し、1つの塊となる傾向にあり、12重量部未満では、肥大化が進まず1mm未満の粒子が増加する傾向がある。
【0044】
本発明においては、有機溶媒(B)に溶解させるメタクリル系重合体(D)の量(固形分濃度)は、特に制限はない。ただし、該固形分濃度としては、20〜45重量%とすることが好ましく、20〜25重量%とすることがより好ましい。メタクリル系重合体(D)の固形分濃度が20重量%未満では、スラリー状の凝固粒子(C)に有機溶媒(B)の添加される割合が増加する為、凝固粒子(C)が有機溶媒(B)に分散してしまう傾向となる。また、45重量%を超えると、有機溶媒(B)にメタクリル系重合体(D)が溶解しにくくなる傾向がある。
【0045】
本発明においては、スラリー状の凝固粒子(C)に混合する樹脂溶液(E)の添加速度は特に制限はない。ただし、撹拌下にて、アクリル系グラフト共重合体(A)100重量部に対して、樹脂溶液(E)に含まれるメタクリル系重合体(D)を0.72重量部/分以下で連続添加することが好ましく、0.65重量部/分以下で連続添加することがより好ましく、0.58重量部/分以下で連続添加することがさらに好ましい。メタクリル系重合体(D)の添加速度が0.72重量部/分を超え、大量のメタクリル系重合体(D)をスラリー状の凝固粒子(C)に急激に添加すると、スラリー状の凝固粒子(C)が急速に肥大化するため、凝固粒子(C)が1つの塊となる傾向にある。
【0046】
樹脂溶液(E)を添加する際の、スラリー状凝固粒子(C)のスラリー温度は、有機溶媒(B)の沸点以下であれば特に制限はないが、20〜40℃が好ましく、30〜40℃がより好ましい。凝固粒子(C)のスラリー温度が40℃を超えると、凝固粒子の合一肥大化が増し、1つの塊となる傾向にある。該温度が20℃未満であれば、凝固粒子が肥大しにくくなり、粒子が小さくなる傾向にある。
【0047】
撹拌は、充分に混合されるものであれば、撹拌装置、撹拌翼の形状には、特に制限はなく、公知のものが使用できる。ただし、好ましくは、撹拌レイノルズ数が200〜30000の範囲である。撹拌レイノルズ数が200より小さいと、局所的に樹脂溶液(E)の濃度が高くなり、肥大化が不均一となる可能性があり、レイノルズ数が30000以上の撹拌は特に必要なく、逆に、撹拌のせん断によって粒子を粉砕してしまう可能性がある。
【0048】
本発明の製造方法により得られた、肥大凝固粒子の粒子径としては、目開き1mmの標準ふるいを用いて、湿式法にて測定した場合に、通過した粒子(1mm未満の粒子)の重量割合が、1重量%以下が好ましく、0.5重量%以下がより好ましく、0.1重量%以下がさらに好ましい。1mm未満の粒子の重量割合が1重量を超えると、槽底に設置した多孔板により固形分を分離する際、阻害してしまう傾向がある。
【0049】
本発明の製造方法により、アクリル系グラフト共重合体(A)からなるスラリー状の凝固粒子(C)を、高分子凝集剤等の凝集剤を添加することなく、平均粒子径1mm以上に安定的に肥大化させることが可能となる。
【0050】
本発明の方法にて得られた肥大凝固粒子は、槽内のスラリー状の凝固粒子を槽外に搬出することなく、固形分を分離することができ、同じ槽を用いて次工程であるリスラリー、溶解、若しくは分散などの処理を実施することが可能となる。このような方法により、複雑な工程や建設費用面での負担が軽減され、また、溶剤を使用する系では環境への排出が著しく抑制されうる。
【実施例】
【0051】
次に、本発明に基づき、さらに実施例にて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0052】
得られた水性ラテックス、スラリー状凝固粒子および肥大化粒子に関する評価は、以下のように行った。
【0053】
<樹脂溶液の固形分濃度測定>
金属容器に樹脂溶液を約2g精秤し、120℃のオーブンで1時間加熱した。固形分濃度の算出は次式により算出した。
固形分濃度[%]=(加熱後の樹脂溶液の重量[g])/(加熱前の樹脂溶液の重量[g])×100
【0054】
<粒子径測定>
[アクリル系グラフト共重合体(A)の粒子径分布]
アクリル系グラフト共重合体(A)ラテックスを、固形分濃度0.02%に希釈したものを試料として、分光光度計(HITACHI製、Spectrophotometer U−2000)を用いて546nmの波長での光線透過率より測定した。
[スラリー状の凝固粒子(C)および、スラリー状の凝固粒子(C)に樹脂溶液(E)を添加し、肥大化した粒子の粒子径]
目開き1mmの標準篩を用い、湿式法にて篩分別を行い、通過した粒子(1mm未満の粒子)の重量割合を測定した。
【0055】
(製造例1)アクリル系グラフト重合体(A)の製造
撹拌機つき8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 200部
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム 0.25部
ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレート 0.15部
エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.001部
硫酸第一鉄 0.00025部
重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、内温を60℃にし、アクリル酸ブチル(以下、BAと記載)90重量%およびメタクリル酸メチル(以下、MMAと記載)10重量%からなる単量体混合物100部に対してアリルメタアクリレート(AlMA)1部およびクメンハイドロパーオキサイド(以下、CHPと記載)0.2部からなる単量体混合物30部を、10部/時間の割合で連続的に添加し、添加終了後、さらに0.5時間重合を継続し、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)を得た。重合添加率は99.5%であった。
その後、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム0.05部を仕込んだ後、内温を60℃にし、BA10重量%およびMMA90重量%からなる単量体混合物100部に対してt−ドデシルメルカプタン(tDM)0.5部およびCHP0.5部からなる単量体混合物70部を、10部/時間の割合で連続的に添加し、さらに1時間重合を継続し、アクリル系グラフト共重合体(A)を得た。その重合添加率は98.5%であり、平均粒子径は200nmであった。
【0056】
メタクリル系重合体(D)としては、MMA−MA(アクリル酸メチル)共重合体(住友化学(株)製、スミペックスLG、MMA/MA=93/7重量%)を使用した。
【0057】
(実施例1)
[有機溶媒(B)による凝集]
容積1Lのガラス製撹拌槽に、製造例1に示したアクリル系グラフト共重合体(A)からなるラテックス(固形分濃度:32.5重量%)100gを投入し、4枚平パドル翼を用いて400rpmで撹拌した(撹拌レイノルズ数=15000)。撹拌下にアセトン100gを一括で仕込み、スラリー状の凝固粒子(C1)を得た。得られたスラリー状の凝固粒子(C1)中の、1mm未満の粒子の重量割合は、40重量%であった。
[樹脂溶液(E)による凝集]
得られたスラリー状の凝固粒子(C1)に対して、さらに、上記と同じ撹拌条件下にて、固形分濃度が20重量%になるようにメタクリル系重合体(D)をアセトンに溶解させた樹脂溶液(E1)23.3gを、20分かけて連続添加した。その結果、得られた凝固粒子中の、1mm未満の粒子の重量割合が0.02重量%であり、粒子は肥大化され、良好な状態であった。
【0058】
(実施例2)
[有機溶媒(B)による凝集]
実施例1と同様の操作により、スラリー状の凝固粒子(C1)を得た。
[樹脂溶液(E)による凝集]
樹脂溶液(E1)の添加量を21gに変更した以外は、実施例1と同様の操作により、凝固粒子を得た。その結果、得られた凝固粒子中の、1mm未満の粒子の重量割合が0.02重量%であり、粒子は肥大化され、良好な状態であった。
【0059】
(実施例3)
[有機溶媒(B)による凝集]
実施例1と同様の操作により、スラリー状の凝固粒子(C1)を得た。
[樹脂溶液(E)による凝集]
樹脂溶液として、固形分濃度が25重量%になるようにメタクリル系重合体(D)をアセトンに溶解した樹脂溶液(E2)を用い、その添加量を18.6gに変更した以外は、実施例1と同様の操作により、凝固粒子を得た。
その結果、得られた凝固粒子中の、1mm未満の粒子の重量割合が0.02重量%であり、粒子は肥大化し良好な状態であった。
【0060】
(実施例4)
[有機溶媒(B)による凝集]
実施例1と同様の操作により、スラリー状の凝固粒子(C1)を得た。
[樹脂溶液(E)による凝集]
樹脂溶液(E1)の添加量を44.6gとし、添加時間を40分間に変更した以外は、実施例1と同様の操作により、凝固粒子を得た。
その結果、得られた凝固粒子中の、1mm未満の粒子の重量割合が0.02重量%であり、粒子は肥大化し、良好な状態であった。但し、撹拌槽内で樹脂が合一して塊状となる傾向が見られた。
【0061】
(実施例5)
[有機溶媒(B)による凝集]
実施例1と同様の操作により、スラリー状の凝固粒子(C1)を得た。
[樹脂溶液(E)による凝集]
樹脂溶液として、固形分濃度が5重量%になるようにメタクリル系重合体(D)をアセトンに溶解した樹脂溶液(E3)を用い、その添加量を93.2gに変更した以外は、実施例1と同様の操作により、凝固粒子を得た。
その結果、得られた凝固粒子中の、1mm未満の粒子の重量割合が0.04重量%であり、粒子は肥大化し、良好な状態であった。但し、凝固粒子(C)の一部に、アセトンに分散する傾向が見られた。
【0062】
(実施例6)
[有機溶媒(B)による凝集]
容積1Lのガラス製撹拌槽に、製造例1に示したアクリル系グラフト共重合体(A)からなるラテックス(固形分濃度:32.5重量%)100gを投入し、4枚平パドル翼を用いて400rpmで撹拌した(撹拌レイノルズ数=15000)。撹拌下にテトラヒドロフラン100gを一括で仕込み、スラリー状の凝固粒子(C2)を得た。得られたスラリー状の凝固粒子(C2)中の、1mm未満の粒子の重量割合は、35重量%であった。但し、撹拌槽内で樹脂が合一して塊状となる傾向が見られた。
[樹脂溶液(E)による凝集]
得られたスラリー状の凝固粒子(C2)に対して、さらに、上記と同じ撹拌条件下にて、固形分濃度が20重量%になるようにメタクリル系重合体(D)をテトラヒドロフランに溶解させた樹脂溶液(E4)23.3gを、20分かけて連続添加した。その結果、得られた凝固粒子中の、1mm未満の粒子の重量割合が0.02重量%であり、粒子は肥大化された状態であった。
【0063】
(比較例1)
[有機溶媒(B)による凝集]
実施例1と同様の操作により、スラリー状の凝固粒子(C1)を得た。
[樹脂溶液(E)による凝集]
メタクリル系重合体(D)をアセトンに溶解した樹脂溶液(E)を添加しなかった。得られた凝固粒子中の、1mm未満の粒子の重量割合が40重量%であり、微粉が多く存在した。
【0064】
(比較例2)
[有機溶媒(B)による凝集]
実施例1と同様の操作により、スラリー状の凝固粒子(C1)を得た。
[樹脂溶液(E)による凝集]
得られたスラリー状の凝固粒子(C)に対して、さらに、上記と同じ撹拌条件下にて、アセトン20gを20分かけて連続添加した。その結果、スラリー状の凝固粒子(C1)の変化はなく、肥大化できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系グラフト共重合体(A)からなる水性ラテックスに、有機溶剤(B)を混合し、スラリー状の凝固粒子(C)を得た後、有機溶剤(B)にメタクリル系重合体(D)を溶解させた樹脂溶液(E)を連続的に添加し、凝固粒子を肥大化させることを特徴とする、肥大凝固粒子の製造方法。
【請求項2】
有機溶剤(B)がアセトンであることを特徴とする、請求項1に記載の肥大凝集粒子の製造方法。
【請求項3】
有機溶剤(B)に溶解するメタクリル系重合体(D)の固形分濃度が20〜45重量%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の肥大凝集粒子の製造方法。
【請求項4】
スラリー状の凝固粒子(C)へのメタクリル系重合体(D)の添加量が、アクリル系グラフト共重合体(A)100重量部に対し、12〜16重量部であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の肥大凝集粒子の製造方法。

【公開番号】特開2008−248198(P2008−248198A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94379(P2007−94379)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】