説明

フィルム製造装置および該装置を用いたフィルム製造方法

【課題】 Tダイ法により熱可塑性樹脂フィルムを製造する際に、膜厚均一性に優れた熱可塑性樹脂フィルムを、効率的かつ経済的に製造することができるフィルム製造装置および該装置を用いたフィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明に係るフィルム製造装置は、溶融状態の熱可塑性樹脂をフィルム状に押出すTダイが取り付けられた押出機と、該フィルム状の熱可塑性樹脂を冷却する冷却ロールとを有し、該Tダイと冷却ロールとの間のエアギャップ部の周囲を囲う遮蔽部材が設けられていることを特徴とし、さらに前記遮蔽部材に覆われた内部のガスを排気する排気手段が設けられていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム製造装置およびフィルム製造方法に関する。より詳しくは、厚みむらおよび位相差むらの小さい熱可塑性樹脂フィルムを簡便な方法で効率よく製造するためのフィルム製造装置および該装置を用いたフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂フィルムは様々な用途に用いられており、用途に応じた機能や特性が求められている。例えば、近年、需要が増大している液晶ディスプレイなどに用いられている位相差フィルムには、位相差の面内均一性に優れること、熱や湿度などの外的ストレスが加わっても位相差の変化が生じ難いこと、位相差の波長依存性が小さいこと、偏光板との接着強度が強く、容易に利用できることなどが求められており、その要求はますます高くなってきている。
【0003】
このような高い要求に応えるために、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法の開発・改良が盛んに行なわれている。一般的な熱可塑性樹脂フィルムの製造方法としては、溶融押出法、キャスティング法、カレンダー法などが挙げられ、中でも、溶融押出法にはTダイ法やインフレーション法などが広く採用されている。Tダイ法は、通常、溶融状態の熱可塑性樹脂をTダイからフィルム状に押出し、冷却ロールで冷却して成膜する方法であり、キャスティング法などに比べコンパクトな設備で製造することができるというメリットがある。
【0004】
しかしながら、Tダイ法で製造したフィルムには、通常、フィルムの流れ方向(MD方向)の厚みむらがある程度生じてしまう。このような厚みむらを有するフィルムを、高い品質が求められている位相差フィルムなどの光学フィルムの原反フィルムとして用いると、得られる光学フィルムにおいて、位相差の面内均一性が低下したり、位相差の変動が生じやすくなり、たとえば、液晶ディスプレイなどにおいては、画面のクリアさや視野角が低下するといった悪影響が現れることがある。このような厚みむらは、成膜後に延伸等を行っても残留するため、Tダイ法による成膜時において、フィルムの厚みむらを低減することが求められている。
【0005】
このようなフィルムの厚みむらを低減するための方法として、従来から、溶融状態の熱可塑性樹脂をフィルム状に押出すTダイの先端と、押出されたフィルム状の熱可塑性樹脂を冷却するための冷却ロールとの間、いわゆるエアギャップの距離を短くしてフィルムを製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、エアギャップの距離を短くすると、Tダイのリップ部が冷却ロールに接触してしまうため、冷却ロールを小さくする必要がでてくる。このように冷却ロールを小さくすれば、押出されたフィルム状の熱可塑性樹脂を冷却する能力が低下することから、押出し量を抑制して、冷却ロールの回転数を低減させなければならず、フィルムの生産性が著しく低下してしまう。
【0007】
したがって、厚みむらを低減した熱可塑性樹脂フィルムを、より簡便な方法で、かつ、経済的に製造する方法が求められていた。
【特許文献1】特開平7−292129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、Tダイ法により熱可塑性樹脂フィルムを製造する際に、膜厚均一性に優れた熱可塑性樹脂フィルムを、効率的かつ経済的に製造することができるフィルム製造装置および該装置を用いたフィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した。その結果、Tダイの先端から冷却ロールまでのエアギャップ部の周囲を遮蔽部材で囲い、フィルムの成膜を行ったところ、フィルムの厚みむらを低減することができること、また、前記遮蔽部材で囲われた内部のガスを排気することにより、さらに膜厚均一性に優れたフィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係るフィルム製造装置は、溶融状態の熱可塑性樹脂をフィルム状に押出すTダイが取り付けられた押出機と、該フィルム状の熱可塑性樹脂を冷却する冷却ロールとを有し、該Tダイと冷却ロールとの間のエアギャップ部の周囲を囲う遮蔽部材が設けられていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明のフィルム製造装置は、前記遮蔽部材に囲われた内部のガスを排気する排気手段が設けられていることが好ましい。なお、上記遮蔽部材は、金属板で構成することができ、該金属板は波板状であってもよい。
【0012】
本発明に係るフィルムの製造方法は、上記フィルム製造装置を用いて、溶融状態の熱可塑性樹脂をTダイからフィルム状に押出し、該フィルム状の熱可塑性樹脂を冷却ロールで冷却して成膜することを特徴とする。
【0013】
また、フィルム製造装置が上記排気手段を有している場合には、溶融状態の熱可塑性樹脂をTダイからフィルム状に押出し、該フィルム状の熱可塑性樹脂を冷却ロールで冷却して成膜する際に、該排気手段により遮蔽部材に囲われた内部のガスを、押出されたフィルム状の熱可塑性樹脂の幅方向に沿った方向に排気することが望ましい。
【0014】
上記フィルムの製造方法は、環状オレフィン系樹脂を用いた光学フィルムの製造方法として好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡便な装置で、効率的かつ経済的に膜厚均一性に優れた熱可塑性樹脂フィルムを製造することができる。
したがって、本発明によれば、位相差の面内均一性に優れ、熱や湿度などの外的ストレスが加わっても位相差の変化が生じ難く、位相差の波長依存性が小さく、さらに偏光板との接着強度が強い光学フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係るフィルム製造装置および該装置を用いたフィルムの製造方法について、詳細に説明する。
本発明に係るフィルム製造装置は、溶融状態の熱可塑性樹脂をフィルム状に押出すTダイが取り付けられた押出機と、該フィルム状の熱可塑性樹脂を冷却する冷却ロールとを有し、該Tダイと冷却ロールとの間のエアギャップ部の周囲を囲う遮蔽部材が設けられており、さらに該遮蔽部材に囲われた内部のガスを排気する排気手段が設けられていることが好ましい。
【0017】
本発明に係るフィルムの製造方法は、上記フィルム製造装置を用いて熱可塑性樹脂をTダイからフィルム状に押出し、冷却ロールで冷却して成膜する方法であり、さらに成膜時
において遮蔽部材内部のガスを排気手段によりフィルム状に押出された熱可塑性樹脂の幅方向に沿った方向に排気することが好ましい。
【0018】
〔熱可塑性樹脂〕
本発明で用いられる熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。本発明の製造方法により得られるフィルムは、膜厚均一性に優れることから、たとえば、液晶ディスプレイなどに用いられる位相差フィルムなどの光学フィルムとして好適である。このような、光学フィルム用途を目的とする場合には、熱可塑性樹脂として環状オレフィン系樹脂が好適に用いられる。このような環状オレフィン系樹脂としては、たとえば、以下のような(共)重合体が挙げられる;
(1)下記一般式(A)で表される単量体(以下、単量体(A)ともいう。)の開環重合体、
(2)単量体(A)と共重合性単量体の開環共重合体、
(3)上記(1)または(2)の開環(共)重合体の水素添加(共)重合体、
(4)上記(1)または(2)の開環(共)重合体をフリーデルクラフト反応により環化したのち、水素添加した(共)重合体、
(5)単量体(A)と不飽和二重結合含有化合物との飽和共重合体、および
(6)単量体(A)、ビニル系環状炭化水素系単量体およびシクロペンタジエン系単量体から選ばれる1種以上の単量体の付加型(共)重合体およびその水素添加(共)重合体。
【0019】
<単量体(A)>
【0020】
【化1】

【0021】
式(A)中、R1〜R4は、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30の炭化水素基またはその他の1価の有機基であり、それぞれ同一でも、異なっていてもよい。R1
とR2またはR3とR4は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、R1またはR2
とR3またはR4とは互いに結合して、単環または多環構造を形成してもよい。mは0または正の整数であり、pは0または正の整数である。
【0022】
上記単量体(A)としては、たとえば、
ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
トリシクロ[4.3.0.12,5 ]−3−デセン、
トリシクロ[4.4.0.12,5 ]−3−ウンデセン、
テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
ペンタシクロ[6.5.1.13,6 .02,7 .09,13]−4−ペンタデセン、
5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
5−エチリデンビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
5−フェニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−フェニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
5−フルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−ペンタフルオロエチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ジフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリス(フルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6,6−テトラフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6,6−テトラキス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ジフルオロ−6,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロ−5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フルオロ−5−ペンタフルオロエチル−6,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロ−5−ヘプタフルオロ−iso−プロピル−6−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−クロロ−5,6,6−トリフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジクロロ−5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−6−トリフルオロメトキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−
2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−6−ヘプタフルオロプロポキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−フルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−フルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−ジフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−ペンタフルオロエチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8−ジフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9,9−テトラフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9,9−テトラキス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8−ジフルオロ−9,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロ−8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−トリフルオロメトキシテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−ペンタフルオロプロポキシテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−フルオロ−8−ペンタフルオロエチル−9,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロ−8−ヘプタフルオロiso−プロピル−9−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−クロロ−8,9,9−トリフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジクロロ−8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン
などを挙げることができる。上記単量体(A)は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
<共重合性単量体>
上記共重合性単量体としては、たとえば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、ジシクロペンタジエンなどのシクロオレフィンを挙げることができる。シクロオレフィンの炭素数としては、4〜20が好ましく、さらに好ましいのは5〜12である。これらは、1種単独で、または2種以上を併用することができる。単量体(A)/共重合性単量体の好ましい使用範囲は、重量比で100/0〜50/50であり、さらに好ましくは100/0〜60/40である。
【0024】
<開環重合触媒>
上記単量体(A)の開環重合体(1)、および単量体(A)と共重合性単量体との開環共重合体(2)を得るための開環重合反応は、メタセシス触媒の存在下に行われる。
【0025】
このメタセシス触媒は、
(a)W、MoおよびReの化合物から選ばれた少なくとも1種と、
(b)デミングの周期律表IA族元素(例えば、Li、Na、Kなど)、IIA族元素(例えば、Mg、Caなど)、IIB族元素(例えば、Zn、Cd、Hgなど)、IIIA族元素(例えば、B、Alなど)、IVA族元素(例えば、Si、Sn、Pbなど)またはIVB族元素(例えば、Ti、Zrなど)の化合物であって、少なくとも1つの該元素−炭素結合もしくは該元素−水素結合を有するものから選ばれた少なくとも1種との組合せからなる触媒である。
【0026】
(a)成分としては、たとえば、WCl6 、MoCl6 、ReOCl3 などの化合物を挙げることができる。また、(b)成分としては、たとえば、n−C49Li、(C253Al、(C252AlCl、(C251.5AlCl1.5、(C25)AlCl2、メ
チルアルモキサン、LiHなどの化合物を挙げることができる。
【0027】
また、触媒の活性を高めるために、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類、特開平1−132626号公報第8頁右下欄第16行〜第9頁左上欄第17行に示される化合物などの添加剤(c)を添加してもよい。
【0028】
メタセシス触媒の使用量としては、上記(a)成分と単量体(A)とのモル比「(a)成分:単量体(A)」が、通常、1:500〜1:50,000、好ましくは1:1,000〜1:10,000の範囲であることが望ましい。また、(a)成分と(b)成分との割合は、金属原子比(a):(b)が1:1〜1:50、好ましくは1:2〜1:30の範囲であることが望ましく、(a)成分と(c)成分との割合は、モル比(c):(a)が0.005:1〜15:1、好ましくは0.05:1〜7:1の範囲であることが望ましい。
【0029】
<重合反応溶媒>
開環重合反応において用いられる溶媒(分子量調節剤溶液を構成する溶媒、特定単量体および/またはメタセシス触媒の溶媒)としては、たとえば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどのアルカン類;シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン、ノルボルナンなどのシクロアルカン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメンなどの芳香族炭化水素;クロロブタン、ブロモヘキサン、塩化メチレン、ジクロロエタン、ヘキサメチレンジブロミド、クロロベンゼン、クロロホルム、テトラクロロエチレンなどの、ハロゲン化アルカン、ハロゲン化アリールなどの化合物;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸iso−ブチル、プロピオン酸メチル、ジメトキシエタンなどの飽和カルボン酸エステル類;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル類などを挙げることができ、これらは単独であるいは混合して用いることができる。これらのうち、芳香族炭化水素が好ましい。
【0030】
溶媒の使用量としては、「溶媒:単量体(A)」(重量比)が、通常、1:1〜10:1、好ましくは1:1〜5:1となる量であることが望ましい。
<分子量調節剤>
得られる開環(共)重合体の分子量の調節は、重合温度、触媒の種類、溶媒の種類によっても行うことができるが、分子量調節剤を反応系に共存させることにより調節してもよい。このような分子量調節剤としては、たとえば、エチレン、プロペン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどのα−オレフィン類およびスチレンを挙げることができ、これらのうち、1−ブテン、1−ヘキセンが特に好ましい。これらの分子量調節剤は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。分子量調節剤の使用量としては、開環重合反応に供される単量体(A)1モルに対して0.005〜0.6モル、好ましくは0.02〜0.5モルである。
【0031】
以上のようにして得られる開環(共)重合体は、そのままでも用いられるが、これをさらに水素添加して得られた水素添加(共)重合体(3)は、耐衝撃性の大きい樹脂の原料として有用である。
【0032】
<水素添加触媒>
水素添加反応は、通常の方法、すなわち開環重合体の溶液に水素添加触媒を添加し、これに常圧〜300気圧、好ましくは3〜200気圧の水素ガスを0〜200℃、好ましくは20〜180℃で作用させることによって行われる。水素添加触媒としては、通常のオレフィン性化合物の水素添加反応に用いられるものであれば特に限定されず、不均一系触媒または均一系触媒のいずれであってもよい。
【0033】
不均一系触媒としては、パラジウム、白金、ニッケル、ロジウム、ルテニウムなどの貴金属触媒物質を、カーボン、シリカ、アルミナ、チタニアなどの担体に担持させた固体触媒を挙げることができる。また、均一系触媒としては、ナフテン酸ニッケル/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリエチルアルミニウム、オクテン酸コバルト/n−ブチルリチウム、チタノセンジクロリド/ジエチルアルミニウムモノクロリド、酢酸ロジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロヒドロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムなどを挙げることができる。触媒の形態は、粉末でも粒状でもよい。
【0034】
これらの水素添加触媒は、開環(共)重合体:水素添加触媒(重量比)が、1:1×10-6〜1:2となる割合で使用される。
このように、水素添加することにより得られる水素添加(共)重合体(3)は、優れた熱安定性を有するものとなり、成形加工時や製品としての使用時の加熱によっても、その特性が劣化することはない。水素添加(共)重合体の水素添加率は、500MHz、1
−NMRで測定した値が50%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上である。水素添加率が高いほど、熱や光に対する安定性が優れたものとなり、例えば波長板として使用した場合に長期にわたって安定した特性を得ることができる。
【0035】
また、上記開環(共)重合体(1)または(2)をフリーデルクラフト反応により環化したのち、上記と同様にして水素添加して得られる水素添加(共)重合体(4)も、上記水素添加(共)重合体(3)と同様に好適に使用できる。
【0036】
<フリーデルクラフト反応による環化>
上記開環(共)重合体(1)または(2)をフリーデルクラフト反応により環化する方
法は、特に限定されるものではなく、たとえば、特開昭50−154399号公報に記載の酸性化合物を用いた公知の方法が採用できる。前記酸性化合物としては、具体的には、AlCl3 、BF3 、FeCl3 、Al2 3 、HCl、CH3 ClCOOH、ゼオライト、活性白土、などのルイス酸、ブレンステッド酸が用いられる。
【0037】
<不飽和二重結合含有化合物>
上記飽和共重合体(5)の単量体に使用される不飽和二重結合含有化合物としては、たとえば、エチレン、プロピレン、ブテンなど、好ましくは炭素数2〜12、さらに好ましくは炭素数2〜8のオレフィン系化合物を挙げることができる。
【0038】
上記飽和共重合体(5)は、公知の触媒、例えば、チタン化合物、ジルコニウム化合物およびバナジウム化合物から選ばれた少なくとも一種と、助触媒としての有機アルミニウム化合物とを用いて、通常の付加重合法により得ることができる。単量体(A)/不飽和二重結合含有化合物の好ましい使用範囲は、重量比で90/10〜40/60であり、さらに好ましくは85/15〜50/50である。付加重合に使用される重合反応用溶媒は、開環重合反応に用いられる溶媒と同じものを使用することができる。また、得られる飽和共重合体(5)の分子量の調節は、通常、水素を用いて行われる。
【0039】
<ビニル系環状炭化水素系単量体>
上記付加型共重合体(6)の単量体に使用されるビニル系環状炭化水素系単量体としては、たとえば、4−ビニルシクロペンテン、2−メチル−4−イソプロペニルシクロペンテン等のビニルシクロペンテン系単量体、4−ビニルシクロペンタン、4−イソプロペニルシクロペンタン等のビニルシクロペンタン系単量体などのビニル化5員環炭化水素系単量体;4−ビニルシクロヘキセン、4−イソプロペニルシクロヘキセン、1−メチル−4−イソプロペニルシクロヘキセン、2−メチル−4−ビニルシクロヘキセン、2−メチル−4−イソプロペニルシクロヘキセンなどのビニルシクロヘキセン系単量体;4−ビニルシクロヘキサン、2−メチル−4−イソプロペニルシクロヘキサンなどのビニルシクロヘキサン系単量体;スチレン、α―メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、4−フェニルスチレン、p−メトキシスチレンなどのスチレン系単量体;d−テルペン、1−テルペン、ジテルペン、d−リモネン、1−リモネン、ジペンテンなどのテルペン系単量体;4−ビニルシクロヘプテン、4−イソプロペニルシクロヘプテンなどのビニルシクロヘプテン系単量体;4−ビニルシクロヘプタン、4−イソプロペニルシクロヘプタンなどのビニルシクロヘプタン系単量体などが挙げられる。好ましくは、スチレン、α−メチルスチレンである。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
【0040】
<シクロペンタジエン系単量体>
上記付加型共重合体(6)の単量体に使用されるシクロペンタジエン系単量体としては、たとえば、シクロペンタジエン、1−メチルシクロペンタジエン、2−メチルシクロペンタジエン、2−エチルシクロペンタジエン、5−メチルシクロペンタジエン、5,5−メチルシクロペンタジエンなどが挙げられる。好ましくはシクロペンタジエンである。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
【0041】
上記単量体(A)、ビニル系環状炭化水素系単量体およびシクロペンタジエン系単量体から選ばれる1種以上の単量体の付加型(共)重合体は、上記単量体(A)と不飽和二重結合含有化合物との飽和共重合体(5)と同様の付加重合法で得ることができる。また、上記付加型(共)重合体の水素添加(共)重合体は、上記開環(共)重合体の水素添加(共)重合体(3)と同様の水添法で得ることができる。
【0042】
<分子量>
上記環状オレフィン系樹脂は、固有粘度〔ηinh〕が0.2〜5dl/g 、好ましくは0.3〜3dl/g 、特に好ましくは0.4〜1.5dl/gであり、ゲルパーミエー
ションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が、8,000〜100,000、好ましくは10,000〜80,000、特に好ましくは12,000〜50,000であり、重量平均分子量(Mw)が20,000〜300,000、好ましくは30,000〜250,000、特に好ましくは40,000〜200,000の範囲のものが好適である。
【0043】
固有粘度〔ηinh 、数平均分子量および重量平均分子量が上記範囲にあることによって、環状オレフィン系樹脂の耐熱性、耐水性、耐薬品性、機械的特性と、本発明の押出しフィルムとして使用したときの成形加工性が良好となる。
【0044】
<ガラス転移温度(Tg)>
上記環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度(Tg)としては、通常、120℃以上、好ましくは120〜350℃、さらに好ましくは120〜250℃、特に好ましくは120〜200℃である。Tgが120℃未満の場合は、例えば車載用途など耐熱性を要求される用途において、得られたフィルムまたはシートに熱変形が生じることがあり問題となることがある。一方、Tgが350℃を超えると、溶融押出加工が困難になったり、また係る加工時の熱によって樹脂が劣化したりする可能性が高くなり好ましくない。
【0045】
<添加剤>
上記環状オレフィン系樹脂などの熱可塑性樹脂には、酸化劣化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、難燃剤、抗菌剤、木粉、カップリング剤、石油樹脂、可塑剤、着色剤、滑剤、帯電防止剤、シリコーンオイル、発泡剤などの公知の添加剤を適宜配合してもよい。
【0046】
〔原料供給〕
本発明において、フィルムを製造する際には、上記熱可塑性樹脂を押出機に供給する。押出機への供給は、熱可塑性樹脂のペレットをそのまま供給してもよく、また、熱可塑性樹脂を溶媒に溶解させた熱可塑性樹脂溶液を用いて供給してもよい。さらには、上記熱可塑性樹脂を合成して得られた熱可塑性樹脂溶液を直接押出機に供給することもできる。
【0047】
熱可塑性樹脂溶液を用いる場合は、押出し機への移送が可能な範囲の粘度であることが必要で、通常1,000,000mPa・s以下であることが好ましい。また、上記熱可塑性樹脂溶液に使われる溶媒は、熱可塑性樹脂を溶解しうる溶媒であれば特に限定されない。
【0048】
〔押出機〕
本発明で用いられる押出機としては、熱可塑性樹脂を溶融混練する機構の押出機であれば特に限定されるものではなく、公知の単軸、二軸、または衛星式多軸押出機などを好適に用いることができる。押出機の加熱も電熱式、オイルジャケット式など公知の方法で行われる。さらに、押出機のスクリューも特に限定されないが、単軸の場合、例えば、フルフライト式、サブフライト式、ダルメージ式などが挙げられ、また、二軸の場合、同方向噛み合い式、異方向噛み合い式、ニーダー式、パドル式、など公知のものを用いることが可能である。また、複数の形状をした溶融混練のスクリュー、ニーディングディスク、パドル、フルフライト、山頂切り欠きなどを目的に応じて組み合わせた押出機を用いることも好ましい。さらに、これら押出機のバレルやスクリュー類は公知の方法で表面処理やコーティング処理などを施すことも好ましい。
【0049】
上記押出機におけるシリンダーの長さ(L)とスクリューの径(D)との比(以下、L/Dという)もスクリュー回転数も、特に限定されない。
なお、押出機からの吐出の安定およびダイにおける圧損による押出し量の低下を防止するため、必要に応じて公知の機構のギアポンプを用いることが可能である。ギアポンプを使用することにより、得られるフィルムまたはシートの厚さ精度が向上し好ましいものとなる。また、押出機出口に公知のフィルターを設置し、フィルムの欠陥となる異物、ゲル化物、不純物などを除去することも好ましいものである。
【0050】
溶融された熱可塑性樹脂を、押出機出口に取り付けられたTダイからフィルム状に吐出させ、冷却ロールに密着固化させることにより、フィルムを製造することができる。Tダイとしては、マニホールドダイ、フィッシュテールダイ、コートハンガーダイなどを挙げることができる。これらの中では、コートハンガーダイ、マニホールドダイが好ましいが特に限定されるものではない。
【0051】
押出機(シリンダー、スクリューなど)、Tダイの材質としては、SCM系の鋼鉄、SUSなどのステンレス材などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、押出機シリンダー、Tダイの内面ならびに押出機スクリュー表面には、クロム、ニッケル、チタンなどのメッキが施されたもの、PVD(Physical Vapor Deposition)法などにより、TiN、TiAlN、TiCN、CrN、DLC(ダイアモンド状カーボン)などの被膜が形成されたもの、タングステンカーバイトまたはその他のセラミックが溶射されたもの、表面が窒化処理されたものなどを用いることが好ましい。このような表面処理は、樹脂との摩擦係数が小さいため、均一な樹脂の溶融状態が得られる点で好ましい。
【0052】
〔冷却ロール〕
Tダイから押出されたフィルム状の熱可塑性樹脂を冷却ロールに密着固化させる方法としては、ニップロール方式、静電印加方式、エアーナイフ方式、バキュームチャンバー方式、カレンダー方式、スリーブ式などが挙げられ、フィルムの厚さ、用途に従って、適切な方式が選択される。
【0053】
Tダイから押出されたフィルムを冷却固化するための冷却ロール表面についても、押出機シリンダー、ダイの内面などと同様に、各種の表面処理が行われることが好ましい。これらの表面処理は、押出フィルムのロール表面への密着を防いでフィルムの厚み斑発生を防ぐとともに、冷却ロール表面精度を高くし、表面硬度が高いために傷などがつきにくく、連続してフィルムの製造を行っても安定してフィルム表面精度を保ち、かつ厚み斑がないフィルムを製造できる点で好ましい。
【0054】
〔遮蔽部材〕
本発明においては、上記Tダイの先端と冷却ロールとの間、いわゆるエアギャップ部の周囲を遮蔽部材で囲うことにより、フィルムの流れ方向(MD方向)の厚みむらが低減されたフィルムを得ることができる。
【0055】
遮蔽部材を構成する素材としては、特に限定されず、たとえば、ステンレス板、トタン板、銅板、アルミ板などの金属板、プラスチック板などを用いることができ、加工性、コスト、密閉性、耐熱性、耐久性などを考慮して適宜選択すればよい。また、遮蔽部材は、たとえば、波型トタン板のような波状の凹凸などがある波板状でもよく、また、凹凸のない平坦状でもよい。
【0056】
遮蔽部材は、エアギャップ部が外部の空気の流れ(風)による影響を受けない程度の密閉状態となるように設ければよく、たとえば、図1に示すように、エアギャップ部8とともに冷却ロール7についても囲うように設けてもよい。装置の構造上、完全な密閉状態とすることは困難な場合でも、たとえば、遮蔽部材の継ぎ目や、遮蔽部材と装置との間の隙間等にシール部材などを設けて、可能な範囲で遮蔽部材内部に外部から空気等が侵入する
ことを防ぐことが望ましい。
【0057】
また、フィルム状に押出された熱可塑性樹脂と遮蔽部材との間の距離については、後述するような遮蔽部材内部のガスを排気することを考慮すれば、可能な範囲で狭くすることが、排気効率の点から望ましいと考えられるが、距離が近すぎると熱可塑性樹脂が付着することや、押出された熱可塑性樹脂の熱により遮蔽部材が変形等することも考えられる。したがって、たとえば、遮蔽部材として波型トタン板を用いた場合、押出されたフィルム状熱可塑性樹脂面と遮蔽部材との間、すなわち図1における10の部分の距離が、20〜500mm程度となるように遮蔽部材を設ければよい。
【0058】
〔排気手段〕
本発明においては、上記遮蔽部材で囲われた内部のガスを、図2に示すようにTダイ6から押出されたフィルム状の熱可塑性樹脂12の幅方向に沿った方向に排気することが望ましい。このようにして、遮蔽部材内部のガスを排気することにより、得られる樹脂フィルムの厚みむらをさらに低減することができる。なお、押出されたフィルム状の熱可塑性樹脂の面に対して垂直方向にガスを排気すると、得られるフィルムの厚みむらは著しく大きくなる傾向にある。
【0059】
排気手段としては、たとえば、吸引ポンプ、エジェクターなど公知の排気手段であれば特に限定されず、Tダイから押出されたフィルム状の熱可塑性樹脂の幅方向に沿った方向に排気するために、該幅方向に沿った方向に排気口を設けることが望ましい。また、高さ方向の位置としては、エアギャップ部の高さから大きく外れない位置が好ましい。このような位置に排気口を設けて遮蔽部材内部のガスを排気することにより、少なくともエアギャップ部においては、押出されたフィルム状の熱可塑性樹脂の面(幅方向)に沿った方向にガスが流れ、厚みむらの低減されたフィルムが得られる。
【0060】
遮蔽部材内部のガスを排気する際の排気量としては、遮蔽部材内部の容量、遮蔽部材の設置の仕方、さらにはフィルムの樹脂物性やフィルムの厚みなどによっても異なるが、例えば、厚み0.1mmの環状オレフィン系フィルムの場合、フィルムに沿った幅方向の風速が0.1〜5m/sec、好ましくは0.1〜2m/secになるように排気量を調整することで、上述した効果を得ることができる。
【0061】
通常、遮蔽部材を設けることによりエアギャップ部に熱がこもり、エアギャップ部近傍の雰囲気温度は高くなり、場合によってはエアギャップ部におけるクリーン度が低下することが考えられる。しかし、上記のようにして遮蔽部材内部のガスを排気することにより、エアギャップ部にこもった熱を系外に逃がすことができる上に、エアギャップ部におけるクリーン度低下の懸念についても解消することができる。
【0062】
〔エアギャップ〕
エアギャップの距離については、上述したように短くするほど厚みむらが低減する傾向にあるが、エアギャップを短くすることにより、装置の位置、大きさなどを変更する必要が生じる場合があり、それによって生産効率の低下をもたらすこともある。一方、本発明によれば、エアギャップを特に短くしなくても優れた厚みむら低減効果が得られることから、従来(既存)の装置における変更等を特に必要とせず、生産効率の低下をもたらすことはない。もちろん、フィルム製造の効率等を妨げない範囲においてエアギャップを短くしても一向に差し支えない。
【0063】
〔巻き取り等〕
上記のようにして成膜された樹脂フィルムは、必要に応じて両端部をカットして、従来公知の巻き取り装置により巻き取られる。
【0064】
フィルムの厚みは特に限定されないが、通常、0.01〜5mmであり、好ましくは0.03〜3mm、より好ましくは0.03〜2mmである。厚さが上記範囲を超えると、均一に幅広のフィルムを押し出すことが困難になる場合が生じる。一方、フィルム厚さが上記範囲未満になると、フィルムの靱性が不足し、フィルム製造時あるいは後加工する際に破断などの問題が生じやすくなる場合がある。
【0065】
〔フィルム加工〕
本発明により得られたフィルムは公知の加工を行うことも可能である。例えば、一軸延伸や二軸延伸などの延伸処理、パターンや微細形状作成のためのエンボス加工、スタンプ加工、プリズム加工、印刷処理、反射防止や拡散機能付与、ハードコート、導電性付与、反射機能付与などを目的とした、乾式あるいは湿式のコーティング処理などを施すことが可能である。また、他の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、金属、ガラス、セラミックスなど同質あるいは他の材料からなるフィルム、シート、板材、あるいは公知の方法で異形状に成形された部材と積層することも可能である。積層する場合、熱や超音波などで融着、公知の熱硬化性、光硬化性の接着剤、機械的に接合などの方法を目的によって選択することが可能である。
【0066】
〔用途〕
本発明の方法により得られた熱可塑性樹脂フィルムは、従来の方法と比較して、流れ方向の厚みむらが大幅に低減されるとともに、残留位相差の最大値や残留位相差むらについても改善されている。したがって、高度な品位を要求される光学用途のフィルムとして優れており、たとえば、位相差フィルム、偏光板、偏光板保護フィルム、波長板、光拡散板、プリズムシート、反射防止フィルム、液晶やエレクトロルミネッセンス用途の表示素子基板、タッチパネル、導光板などの公知の用途へ好適に適用可能である。
【0067】
〔実施例〕
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下において、「部」および「%」は、特に断りのない限り、「重量部」および「重量%」を意味する。また、各種物性は、以下のようにして測定した。
【0068】
<ガラス転移温度(Tg)>
JIS K 7121に準じて示差走査熱量計(DSC)により、窒素雰囲気下において、10℃/minの昇温速度で測定した。
【0069】
<水素添加率>
1H-NMRにより、炭素−炭素二重結合上のプロトンとカルボキシメチル基のメチルプロトンなどとのプロトン比から求めた。
【0070】
<固有粘度(ηinh)>
ウベローデ粘度計を用い、試料の濃度を0.5g/dlに調整したクロロホルム溶液の30.0℃における固有粘度を測定した。
【0071】
[合成例1]
8-メチル-8-メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン215部、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン35部、1-ヘキセン(分子量調節剤)
23部およびトルエン750部を窒素置換した反応容器内に仕込み、この溶液を60℃に加熱した。次いで、反応容器内の溶液に、重合触媒としてトリエチルアルミニウムのトルエン溶液(1.5モル/l)0.62部と、tert−ブタノールおよびメタノールで変性し
た六塩化タングステン(tert-ブタノール:メタノール:タングステン=0.35:0.
30:1.00モル比)のトルエン溶液(濃度0.05モル/l)3.7部を添加し、この系を80℃で3時間加熱攪拌することにより開環共重合反応させて開環共重合体溶液を得た。この重合反応における重合転化率は97%であった。
【0072】
このようにして得られた開環共重合体溶液4000部をオートクレーブに仕込み、この開環共重合体溶液に、RuHCl(CO)[P(C65)3]3 0.48部を添加し、水素ガス圧100kg/cm2、反応温度165℃の条件下で、3時間加熱攪拌して水素添加反応
を行った。得られた反応溶液(水素添加共重合体溶液)を冷却した後、水素ガスを放圧した。
【0073】
このようにして得られた水素添加共重合体(以下「樹脂(a)」という。)について、1H-NMRを用いて水素添加率を測定したところ、実質上100%であった。共重合体の固有粘度(ηinh)は0.53、ガラス転移温度は123℃であった。また、当該樹脂に
ついて、GPC法(溶媒:テトラヒドロフラン)により、ポリスチレン換算の数平均分子
量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を測定したところ、それぞれ、22,000および70,000であり、分子量分布(Mw/Mn)は3.18であった。
【0074】
[実施例1]
合成例1で得られた水素添加共重合体溶液を固形分濃度50%まで濃縮し、その溶液を試料とした。フィルム製造装置としては、図1に示すような、二軸押出機1(内径:48mm、L/D:56)、ギアポンプ4、フィルター5、Tダイ6、冷却ロール7(外径:400mm)、遮蔽部材9、引き剥がしロール11および巻き取り機(図示せず)で構成されるものであった。前記試料を、原料供給口2から、シリンダー温度260℃に設定した5つのベント3を有する二軸押出機1へ供給し揮発分を除去した後にTダイ6からフィルム状に押出し、冷却ロール7で冷却して成膜した。
【0075】
Tダイ6は、幅1600mm、マニホールド形状がコートハンガー型のものを使用し、鋼材はSCM435、流路面はハードクロムメッキを施し、リップ部はWC(タングステンカーバイド)でコーティングされたものであった。リップ面はシャープエッジで欠損などはなかった。また、リップ開度は0.5mmとした。Tダイヒーターは、アルミ鋳込みヒーターを使用し、ヒーター温度を260℃に設定した。
【0076】
冷却ロール7は、ロール内部に真空ジャケットを備えた外径400mmのロール(トクデン製)を使用し、ロール温度は熱媒油によって110℃に制御した。
ギアポンプ4は、MAAG製のEX−45を使用し、運転中は回転数一定とした。
【0077】
エアギャップ(Tダイ排出口〜冷却ロールへのフィルム接地点)は110mmとし、エアギャップ部8を波型トタン板からなる遮蔽部材9で囲った。この時に使用した遮蔽部材は、エアギャップ部と冷却ロールの周囲を囲うように設置され、図1のA方向の長さは約600mm、B方向の長さは約600mmのものであった。Tダイから押出されたフィルム状熱可塑性樹脂の面と遮蔽部材9との距離10は約100mmとした。なお、フィルム製造時におけるエアギャップ部の雰囲気温度は121℃であった。
【0078】
押出機1の出口樹脂流量は60kg/hrで一定とし、両端をカットした幅1350mm、厚み約100μmの押出しフィルム12を得た。
[実施例2]
遮蔽部材9で囲われた内部のガスを、エジェクターを用いて、図2に示すように樹脂フィルム12の幅方向に沿って流れる風の風速が約1m/secになるような排気量に調整して排気した以外は、実施例1と同様の方法で両端をカットした幅1350mm、厚み約
100μmの押出しフィルム12を得た。なお、フィルム製造時におけるエアギャップ部の雰囲気温度は133℃であった。
【0079】
[比較例1]
遮蔽部材を設けなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で、両端をカットした幅1350mm、厚み約100μmの押出しフィルム12を得た。なお、フィルム製造時におけるエアギャップ部の雰囲気温度は90℃であった。
【0080】
[比較例2]
遮蔽部材9内部のガスを、エジェクターを用いて、押出された樹脂フィルム面に対して垂直方向に風速1m/secになるような排気量で排気した以外は、実施例1と同様の方法で両端をカットした幅1350mm、厚み約100μmの押出しフィルム12を得た。なお、フィルム製造時におけるエアギャップ部の雰囲気温度は132℃であった。
【0081】
[フィルムの評価]
得られたフィルムについて以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
<厚みムラ>
倉敷紡績社製のP偏光反射式オンライン厚み測定器「RX−200」を用いて、フィルムの流れ方向に10mmピッチで50mの測定を、幅方向に対し4点について行った。各点で測定した全測定値の最大値と最小値の差を求め、4点の中でその差が最も大きいものを流れ方向の厚みムラとした。
【0082】
<残留位相差>
王子計測機器社製の複屈折測定装置「KOBRA−21ADH」を用いて、フィルム幅方向に10mmピッチ全点の測定を、流れ方向に100mmピッチで5回繰り返した。測定波長は590nmとし、残留位相差の最大値および残留位相差ムラ(最大値と最小値の差)を求めた。
【0083】
【表1】

【0084】
表1より、本発明の製造方法で得られたフィルムは、厚み精度に優れ、残留位相差および残留位相差ムラも小さく、光学用途のフィルムとして非常に優れていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明に係るフィルム製造装置の例を示す概略図である。
【図2】本発明に係るフィルム製造方法における、ガスの排気方向の概念図である。
【符号の説明】
【0086】
1・・・押出機
2・・・原料供給口
3・・・ベント
4・・・ギアポンプ
5・・・フィルター
6・・・Tダイ
7・・・冷却ロール
8・・・エアギャップ部
9・・・遮蔽部材
10・・・熱可塑性樹脂フィルムと遮蔽部材との距離
11・・・引き剥がしロール
12・・・熱可塑性樹脂フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融状態の熱可塑性樹脂をフィルム状に押出すTダイが取り付けられた押出機と、
該フィルム状の熱可塑性樹脂を冷却する冷却ロールとを有し、
該Tダイと冷却ロールとの間のエアギャップ部の周囲を囲う遮蔽部材が設けられていることを特徴とするフィルム製造装置。
【請求項2】
前記遮蔽部材に囲われた内部のガスを排気する排気手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のフィルム製造装置。
【請求項3】
前記遮蔽部材が金属板で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のフィルム製造装置。
【請求項4】
溶融状態の熱可塑性樹脂をフィルム状に押出すTダイが取り付けられた押出機と、
該フィルム状の熱可塑性樹脂を冷却する冷却ロールと、
該Tダイと冷却ロールとの間のエアギャップ部の周囲を囲う遮蔽部材と
を有するフィルム製造装置を用いて、
溶融状態の熱可塑性樹脂をTダイからフィルム状に押出し、
該フィルム状の熱可塑性樹脂を冷却ロールで冷却して成膜すること
を特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項5】
溶融状態の熱可塑性樹脂をフィルム状に押出すTダイが取り付けられた押出機と、
該フィルム状の熱可塑性樹脂を冷却する冷却ロールと、
該Tダイと冷却ロールとの間のエアギャップ部の周囲を囲う遮蔽部材と、
該遮蔽部材に囲われた内部のガスを排気する排気手段と
を有するフィルム製造装置を用いて、
溶融状態の熱可塑性樹脂をTダイからフィルム状に押出し、
該フィルム状の熱可塑性樹脂を冷却ロールで冷却して成膜する際に、
遮蔽部材に囲われた内部のガスを押出されたフィルム状の熱可塑性樹脂の幅方向に沿った方向に排気することを特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記遮蔽部材が金属板で構成されていることを特徴とする請求項4または5に記載のフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記金属板が波板状であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載のフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂が、環状オレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載のフィルムの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−150806(P2006−150806A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346199(P2004−346199)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】