説明

フィードブロック

【課題】簡単な構造であるのでメンテナンスが容易であるとともに、共押出成形時における層間不安定現象を解消して、外観品質の安定した製品を得ることができるフィードブロックを提供することを目的としている。
【解決手段】複数の樹脂流路を流れる樹脂材料を層状にして合流させるようにした共押出成形に用いられるフィードブロックにおいて、樹脂流路と樹脂流路との合流点近傍で、合流点に向かって徐々に流路幅を拡幅する拡幅部が少なくともいずれか一方の樹脂流路に設けられていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層共押出成形に用いるフィードブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製フィルムには、所望の機能を発現させるために、複数の異なる樹脂材料を厚み方向に積層したり、低コスト化を図るために、回収樹脂材料や低コスト樹脂材料を中間層に入れるようにした複層樹脂フィルムがある。
このような複層樹脂フィルムは、一般に2種類以上の樹脂材料をフィードブロックあるいはマルチマニホールドダイを用いて、複層一体構造の製品とする共押出成形法を用いて製造されている。
【0003】
ところで、上記のような共押出成形は、実際の成形プロセスにおいて、フィードブロック内で層間不安定現象と呼ばれている現象が起こり、この現象によって図8に示すように、製品100の積層界面に波状の外観不良が発生し、外観品質が悪くなる場合がある。
【0004】
この層間不安定現象の原因としては、各層を形成する樹脂材料の粘度の差、各層を形成する樹脂材料の押出流量の差等が挙げられる。
すなわち、図9に示すフィードブロック200を用いてフィードブロック200の一方の樹脂流路210から樹脂211を、他方の樹脂流路220から樹脂221を流した場合について説明すると、樹脂211の押出流量が樹脂221の押出流量より多い場合、合流点230おいて樹脂211より樹脂221に対して法線方向の力がかかることになり、樹脂221が不安定流動を起こし、層間不安定現象が発生する。
【0005】
そこで、層間不安定現象を解決する手段として、図10に示すように、フィードブロック300内に応力緩和用の仕切り板310を設け、この不安定現象に対処する方法が提案されている(たとえば、特許文献1,2参照)。
しかしながら、上記フィードブロック300の構造では、押出成形において発生する圧力変動や押出変動の際に薄板状の仕切り板310が振動し、その結果、樹脂が脈動するため、安定した製膜を行うことができない。特に厚み精度が要求されるフィルムやシートにおいてはこの樹脂の脈動がフィルムの流れ方向の厚み変動につながり品質上問題となる。また、薄板状の仕切り板が長く伸びているために分解掃除の作業性が悪くなり、メンテナンスに関しても問題がある。
【0006】
【特許文献1】特許第2668843号公報
【特許文献2】特開平7−32443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みて、簡単な構造であるのでメンテナンスが容易であるとともに、共押出成形時における層間不安定現象を解消して、外観品質の安定した製品を得ることができるフィードブロックを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明にかかるフィードブロックは、複数の樹脂流路を流れる樹脂材料を層状にして合流させるようにした共押出成形に用いられるフィードブロックにおいて、樹脂流路と樹脂流路との合流点近傍で、合流点に向かって徐々に流路幅を拡幅する拡幅部が少なくともいずれか一方の樹脂流路に設けられていることを特徴としてい
る。
【0009】
本発明において、拡幅部は、合流する他方の樹脂流路内を流れる樹脂材料よりも押出流量の多い樹脂材料が流れる樹脂流路に設けられていること、あるいは、合流する他方の樹脂流路内を流れる樹脂材料よりも粘度が高い樹脂材料が流れる樹脂流路に設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかるフィードブロックは、以上のように、複数の樹脂流路を流れる樹脂材料を層状にして合流させるようにした共押出成形に用いられるフィードブロックにおいて、樹脂流路と樹脂流路との合流点近傍で、合流点に向かって徐々に流路幅を拡幅する拡幅部が少なくともいずれか一方の樹脂流路に設けられているので、共押出成形時における層間不安定現象を解消して、外観品質の安定した製品を得ることができる。しかも、樹脂流路の合流点近傍に拡幅部を設けるだけの簡単な構成であるので、メンテナンスが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明を、その実施の形態をあらわす図面を参照しつつ詳しく説明する。
図1および図2は、本発明にかかるフィードブロックの第1の実施の形態をあらわしている。
【0012】
図1および図2に示すように、このフィードブロック1は、2つの樹脂流路11,12を内部に備えている。
そして、2つの樹脂流路11,12は、それぞれ上流側で個別の押出機(図示せず)から図2に示すように、樹脂材料A,Bが押出供給されるようになっているとともに、下流側の合流点14で合流し、合流後層状になって金型(図示せず)に向かって押し出されるようになっている。
【0013】
また、この2つの樹脂流路11,12のうち、一方の樹脂流路11は、他方の樹脂流路12より、内部を流れる樹脂材料Aの押出流量が多くなっているとともに、他方の樹脂流路12との合流点14の近傍に、合流点14に向かって徐々に拡幅する拡幅部13を備えている。
拡幅部13は、拡幅部13の樹脂流れ方向の寸法をa、拡幅部13の拡幅量をb,拡幅部13のテーパ角をcとしたとき、1mm≦a≦5mm、1mm≦b≦3mm、5°≦c≦45°を満足するように形成されている。
【0014】
なお、拡幅部13は、徐々に拡幅していれば、その拡幅形状は特に限定されないが、図1に示すように、拡幅部13の樹脂流れ方向の寸法をa、拡幅部13の拡幅量をb,拡幅部13のテーパ角をcとしたとき、1mm≦a≦5mm、1mm≦b≦3mm、5°≦c≦45°とすることが好ましい。
すなわち、樹脂流れ方向の寸法aが、1mm未満であると、樹脂材料Aの応力が緩和しきらず樹脂材料Bとの合流点で樹脂材料Aから樹脂材料Bに対して法線応力がかかってしまう恐れがあり、5mmを超えると、樹脂の流動が安定せず押出量の変動や圧力変動を引き起こす恐れがある。
【0015】
拡幅部13の拡幅量bが、1mm未満であると、樹脂材料Aの応力が緩和しきらず樹脂
材料Bとの合流点で樹脂材料Aから樹脂材料Bに対して法線応力がかかってしまう恐れがあ
り、3mmを超えると、樹脂の流動が安定せず押出量の変動や圧力変動を引き起こす恐れがある。
拡幅部13のテーパ角cが、5°未満であると、樹脂材料Aの応力が緩和しきらず樹脂
材料Bとの合流点で樹脂材料Aから樹脂材料Bに対して法線応力がかかってしまう恐れがあ
り、45°を超えると、樹脂の流動が安定せず押出量の変動や圧力変動を引き起こす恐れがある。
【0016】
また、他方の樹脂流路12は、一方の樹脂流路11の樹脂流れ方向に対し斜め方向から樹脂材料Bが合流するようになっている。
【0017】
そして、このフィードブロック1によれば、図2に示すように、樹脂流路11が合流点14の近傍に合流点14に向かって徐々に拡幅する拡幅部13を備えているので、合流点において樹脂材料Aより樹脂材料Bに対して法線方向の力がかかることがなく、樹脂材料Bが不安定流動を起こさない。
【0018】
図3は、本発明にかかるフィードブロックの第2の実施の形態をあらわしている。
図3に示すように、このフィードブロック2は、3つの樹脂流路21,22,23を備えている。
そして、中央に設けられた樹脂流路22が、最大流量の樹脂材料Aが流れるようになっていて、他の2つの樹脂流路21,23との合流点近傍で、それぞれの合流点24,25に向かって徐々に拡幅する拡幅部26,27を備えている以外は、上記フィードブロック1と同様になっている。
【0019】
図4は、本発明にかかるフィードブロックの第3の実施の形態をあらわしている。
図4に示すように、このフィードブロック3は、拡幅部33が設けられた樹脂流路31の合流直前の樹脂流れ方向が合流点34で合流後の樹脂流れ方向に対して傾斜していて、拡幅部が設けられていない樹脂流路32の合流直前の樹脂流れ方向が合流点34で合流後の樹脂流れ方向と略一致している以外は、上記フィードブロック1と同様になっている。
【0020】
図5は、本発明にかかるフィードブロックの第4の実施の形態をあらわしている。
図5に示すように、このフィードブロック4は、拡幅部43が設けられた樹脂流路41と、拡幅部が設けられていない樹脂流路42のいずれもが、合流点44で合流する直前の樹脂流れ方向が、合流後の樹脂流れ方向に略一致している以外は、上記フィードブロック1と同様になっている。
【0021】
図6は、本発明にかかるフィードブロックの第5の実施の形態をあらわしている。
図6に示すように、このフィードブロック5は、3つの樹脂流路51、52、53を備え、樹脂流路51と樹脂流路52との合流点54、樹脂流路53と樹脂流路52との合流点55がそれぞれにべーン56,57の先端に設けられ、このベーン56、57の樹脂流路52側の先端が切り欠かれて拡幅部58、59が形成されているているとともに、ベーン56,57先端の切欠が非対称形状になっている以外は、上記フィードブロック2と同様になっている。
【0022】
本発明のフィードブロックは、上記の実施の形態に限定されない。たとえば、上記の実施の形態では、樹脂流路が2つまたは3つであったが、4つ以上設けられていても構わない。また、上記の実施の形態では、中央の樹脂流路と両側の樹脂流路の合流点が樹脂流れ方向で同じ位置に設けられていたが、2つの合流点は、樹脂流れ方向にずれていても構わない。
また、上記フィードブロック5の場合、ベーン56,57先端の切欠が非対称形状になっていたが、対称形状としても構わない。
【0023】
以下に本発明の具体的な実施例を説明する。
【0024】
<実施例1>
図6に示すフィードブロック5を用い、樹脂流路51および樹脂流路53にスチレン-
エチレン・ブチレンブロック共重合体(シェル化学社製 商品名「クレイトンG1657
」)をそれぞれ押出流量2kg/hr、樹脂流路52に低密度ポリエチレン(三井化学株式会
社製 商品名「ミラソン12」)を押出流量18kg/hrでそれぞれ供給し、幅300mm
の3層フィルムを成形した。なお、金型はストレートマニホールドタイプ(幅380mm
)とし設定温度は190℃とした。
得られた3層フィルムを目視判定した結果、本条件で製造したフィルムには不安定流動による外観不良は発生していなかった。
なお、フィードブロック5の各部の寸法は、図6に示すとおりであった。
【0025】
<実施例2>
樹脂流路51に低密度ポリエチレン(三井化学株式会社製 商品名「ミラソン12」)を押出流量1kg/hr、樹脂流路52に低密度ポリエチレン(三井化学株式会社製 商品名
「ミラソン12」)を押出流量7kg/ hr、樹脂流路53にスチレン-エチレン・ブチレン
ブロック共重合体(シェル化学社製 商品名「クレイトンG1657」)を押出流量2kg/hrでそれぞれ供給した以外は、実施例1と同様にして3層フィルムを成形した。
得られた3層フィルムを目視判定した結果、本条件で製造したフィルムには不安定流動による外観不良は発生していなかった。
【0026】
<実施例3>
樹脂流路51に低密度ポリエチレン(三井化学株式会社製 商品名「ミラソン12」)を押出流量2kg/hr、樹脂流路52に低密度ポリエチレン(三井化学株式会社製 商品名
「ミラソン12」)を押出流量8kg/ hr、樹脂流路53にスチレン-エチレン・ブチレン
ブロック共重合体(シェル化学社製 商品名「クレイトンG1657」)を押出流量2kg/hrでそれぞれ供給した以外は、実施例1と同様にして3層フィルムを成形した。
得られた3層フィルムを目視判定した結果、本条件で製造したフィルムには不安定流動による外観不良は発生していなかった。
【0027】
<実施例4>
図6に示すフィードブロック5を用い、樹脂流路51および樹脂流路53にポリブチレンテレフタレート(ポリプラスチックス社製 商品名「ジュラネックス700FP」 乾燥条件:120℃×4時間)をそれぞれ押出流量2kg/hr、樹脂流路52にエチレンーエチ
ルアクリレート共重合樹脂(三井・デュポン ポリケミカル社製 商品名「EVAFLEX A-7
12」)を押出流量10kg/hrでそれぞれ供給し、幅300mmの3層フィルムを成形した
。なお、金型はストレートマニホールドタイプ(幅380mm)とし設定温度は250℃とした。
得られた3層フィルムを目視判定した結果、本条件で製造したフィルムには不安定流動による外観不良は発生していなかった。
【0028】
<実施例5>
エチレン−エチルアクリレート共重合樹脂(三井・デュポン ポリケミカル社製 商品名「EVAFLEX A-712」)に代えて低密度ポリエチレン(東ソー社製 商品名「ペトロセン173R」を用いた以外は、実施例4と同様にして3層フィルムを得た。
得られた3層フィルムを目視判定した結果、本条件で製造したフィルムには不安定流動による外観不良は発生していなかった。
【0029】
<比較例1>
図6に示すフィードブロック5に代えて図7に示す拡幅部が設けられていないベーン58a、59aを備えたフィードブロック5aを用いたこと以外は実施例1と同様にして3
層フィルムを製造した。得られた3層フィルムを目視判定した結果、本条件で製造したフィルムには不安定流動による外観不良が発生していた。
なお、フィードブロック5aの各部の寸法は、図7に示すとおりであった。
【0030】
<比較例2>
図6に示すフィードブロック5に代えて図7に示す拡幅部が設けられていないベーン56a、57aを備えたフィードブロック5aを用いたこと以外は実施例2と同様にして3
層フィルムを製造した。得られた3層フィルムを目視判定した結果、本条件で製造したフィルムには不安定流動による外観不良が発生していた。
【0031】
<比較例3>
図6に示すフィードブロック5に代えて図7に示す拡幅部が設けられていないベーン58a、59aを備えたフィードブロック5aを用いたこと以外は実施例3と同様にして3
層フィルムを製造した。得られた3層フィルムを目視判定した結果、本条件で製造したフィルムには不安定流動による外観不良が発生していた。
【0032】
<比較例4>
図6に示すフィードブロック5に代えて図7に示す拡幅部が設けられていないベーン58a、59aを備えたフィードブロック5aを用いたこと以外は実施例4と同様にして3
層フィルムを製造した。得られた3層フィルムを目視判定した結果、本条件で製造したフィルムには不安定流動による外観不良が発生していた。
【0033】
<比較例5>
図6に示すフィードブロック5に代えて図7に示す拡幅部が設けられていないベーン58a、59aを備えたフィードブロック5aを用いたこと以外は実施例5と同様にして3
層フィルムを製造した。得られた3層フィルムを目視判定した結果、本条件で製造したフィルムには不安定流動による外観不良が発生していた。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明にかかるフィードブロックの第1の実施の形態の要部断面図である。
【図2】図1のフィードブロックを用いた場合の樹脂の流れを説明する断面図である。
【図3】本発明にかかるフィードブロックの第2の実施の形態の樹脂の流れを説明する要部断面図である。
【図4】本発明にかかるフィードブロックの第3の実施の形態の樹脂の流れを説明する要部断面図である。
【図5】本発明にかかるフィードブロックの第4の実施の形態の樹脂の流れを説明する要部断面図である。
【図6】本発明にかかるフィードブロックの第5の実施の形態の要部断面図である。
【図7】比較例に用いたフィードブロックの要部断面図である。
【図8】層間不安定現象により発生する樹脂フィルムの外観不良を説明する説明図である。
【図9】従来のフィードブロックの樹脂合流部での樹脂の流れを説明する断面図である。
【図10】公知のフィードブロックの要部断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1,2,3,4,5 フィードブロック
11,12,21,22,23,31,32,41,42,51,52,53 樹脂流路13,26,27,33,43、56、57 拡幅部
14,24,25,34,44,54,55 合流点
A,B 樹脂材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の樹脂流路を流れる樹脂材料を層状にして合流させるようにした共押出成形に用いられるフィードブロックにおいて、
樹脂流路と樹脂流路との合流点近傍で、合流点に向かって徐々に流路幅を拡幅する拡幅部が少なくともいずれか一方の樹脂流路に設けられていることを特徴とするフィードブロック。
【請求項2】
拡幅部が、合流する他方の樹脂流路内を流れる樹脂材料よりも押出流量の多い樹脂材料が流れる樹脂流路に設けられている請求項1に記載のフィードブロック。
【請求項3】
拡幅部が、合流する他方の樹脂流路内を流れる樹脂材料よりも粘度が高い樹脂材料が流れる樹脂流路に設けられている請求項1または請求項2に記載のフィードブロック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−142714(P2006−142714A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−337745(P2004−337745)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】