説明

フェニレンエーテルオリゴマーの脱色方法

【課題】 フェニレンエーテルオリゴマーを脱色する方法、および当該脱色方法を用いた脱色フェニレンエーテルオリゴマーを提供すること。
【解決手段】 フェニレンエーテルオリゴマーと水素とを、白金族触媒の存在下、または白金族触媒および金属還元剤の存在下で反応させることを特徴とするフェニレンエーテルオリゴマーの脱色方法、および当該脱色方法を用いた脱色フェニレンエーテルオリゴマーを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェニレンエーテルオリゴマーの脱色方法、および当該脱色方法を用いた脱色フェニレンエーテルオリゴマーに関する。
【背景技術】
【0002】
フェニレンエーテルオリゴマーは、例えば、エンジニアプラスチック等に用いられ、ポリフェニレンエーテルの低誘電特性、低吸湿性等の優れた特性を備え、有機溶剤に可溶である利点を有している。ポリフェニレンエーテルは、種々の方法により製造されているが、一般に淡褐色に着色している。
【0003】
ポリフェニレンエーテルを様々な製品部材として適用するには、その意匠性を高めるために無着色に近いことが好ましく、これまでポリフェニレンエーテルを脱色する種々の方法が提案されている。例えば、ポリフェニレンエーテルに含まれ、着色の原因となるキノン構造を持つ化合物をアセトンを用いて40℃以上で抽出除去する方法(特許文献1参照)や、ポリフェニレンエーテルに脱色剤として特定のヒドロキシ化合物を混合して溶融加工する方法(特許文献2参照)等が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開昭59−176319号公報
【特許文献2】特開平10−114821号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまで提案されてきたポリフェニレンエーテルの脱色方法には種々の問題点がある。例えば、特許文献1に記載されている脱色方法は、分子量の大きなキノン構造物等の着色原因物質は、アセトンで充分に抽出できず、ポリフェニレンエーテルの脱色方法として満足できる方法とは言い難い。また、特許文献2に記載されている脱色方法は、脱色効果が充分でないだけでなく、脱色剤として混合したヒドロキシ化合物が残存し、エンジニアプラスチック等に使用した場合、その特性を損なうおそれがある。
一方、フェニレンエーテルオリゴマーの脱色方法についても、ポリフェニレンエーテルと同様な問題点が考えられる。
なお、フェニレンエーテルオリゴマーは、有機溶剤に可溶であるため、例えば、特許文献1に記載されているような抽出法は適しておらず、ポリフェニレンエーテルの脱色方法を適用できない場合も多い。
【0006】
本発明の課題は、フェニレンエーテルオリゴマーを脱色する方法、および当該脱色方法を用いた脱色フェニレンエーテルオリゴマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に示すとおりのフェニレンエーテルオリゴマーの脱色方法、および当該脱色方法を用いた脱色フェニレンエーテルオリゴマーを提供するものである。
項1. フェニレンエーテルオリゴマーと水素とを、白金族触媒の存在下で反応させることを特徴とするフェニレンエーテルオリゴマーの脱色方法。
項2. フェニレンエーテルオリゴマーと水素とを、白金族触媒および金属還元剤の存在下で反応させることを特徴とするフェニレンエーテルオリゴマーの脱色方法。
【0008】
項3. フェニレンエーテルオリゴマーが、一般式(1):
【0009】
【化1】

(式中、mおよびnは、それぞれ整数を表し、m+nは2〜30である。)
【0010】
で表される項1または2に記載のフェニレンエーテルオリゴマーの脱色方法。
【0011】
項4. 白金族触媒の白金族金属が、ルテニウム、ロジウム、およびパラジウムからなる群より選択される少なくとも1種である項1〜3に記載のフェニレンエーテルオリゴマーの脱色方法。
項5. 金属還元剤が、マグネシウムである項2〜4のいずれかに記載のフェニレンエーテルオリゴマーの脱色方法。
【0012】
項6. 項1〜5のいずれかに記載のフェニレンエーテルオリゴマーの脱色方法を用いて得られる脱色フェニレンエーテルオリゴマー。
【0013】
項7. 350nmの波長において50以下のモル吸光係数を有する項6に記載の脱色フェニレンエーテルオリゴマー。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、フェニレンエーテルオリゴマーを脱色する方法、および当該脱色方法を用いた脱色フェニレンエーテルオリゴマーを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のフェニレンエーテルオリゴマーの脱色方法は、フェニレンエーテルオリゴマーと水素とを、白金族触媒の存在下で反応させることを特徴とする。また、フェニレンエーテルオリゴマーと水素とを、白金族触媒および金属還元剤の存在下で反応させることを特徴とする。
【0016】
本発明に用いられるフェニレンエーテルオリゴマーは、特に限定されるものではないが、例えば、2,2’-3,3’-5,5’-ヘキサメチル-(1,1’-ビフェノール)-4,4’-ジオールと2,6-ジメチルフェノールより合成された一般式(1)に示される構造を有する。式中、mおよびnで表される整数としては、m+nが2〜30であることが好ましく、2〜15であることがより好ましく、2〜6であることが最も好ましい。フェニレンエーテルオリゴマーの数平均分子量としては、例えば、500〜4000である。このフェニレンエーテルオリゴマーの具体例としては、例えば、三菱ガス化学株式会社製商品名:OPEである。
【0017】
また、本発明に用いられる白金族触媒の白金族金属としては、例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、オスミニウムおよび白金等が挙げられる。これらの中でも、反応性や経済性の観点から、ルテニウム、パラジウムおよびロジウムが好ましい。これら白金族触媒は、白金族金属を、例えば、カーボン、シリカおよびアルミナ等の担体に担持させたものが好ましく、その担持量は、触媒全体量に対して1〜20重量%であることが好ましく、2〜10重量%であることがより好ましい。なお、これら白金族触媒は、1種単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。この白金族触媒の具体例としては、特に限定されるものではないが、例えば、エヌ・イー ケムキャット株式会社製商品名:5%Ruカーボン粉末(含水品)Aタイプ、5%Rhカーボン粉末(含水品)および10%Rhカーボン粉末(無水品)Kタイプ等を挙げることができる。
白金族触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、フェニレンエーテルオリゴマー100重量部に対して、2〜20重量部であることが好ましく、5〜10重量部であることがより好ましい。白金族触媒の使用量が2重量部未満であると、脱色が不十分となるおそれがあり、白金族触媒の使用量が20重量部を超えると、触媒コストが大きくなり経済的に不利となるおそれがある。
【0018】
本発明に用いられる金属還元剤は、特に限定されるものではないが、例えば、マグネシウム、錫、亜鉛等が挙げられる。なお、これら金属還元剤は、1種単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
金属還元剤の使用量は、特に限定されるものではないが、フェニレンエーテルオリゴマー100重量部に対して、5〜30重量部であることが好ましく、10〜25重量部であることがより好ましい。金属還元剤の使用量が5重量部未満であると、脱色が不完全となるおそれがあり、金属還元剤の使用量が30重量部を超えると、コスト的に不利となるおそれがある。
【0019】
本発明に係るフェニレンエーテルオリゴマーと水素との反応に用いられる反応溶媒としては、反応に不活性であれば特に制限されず、メタノール、エタノールおよびイソプロピルアルコール等のアルコール類、並びに、酢酸エチル等のエステル類等を挙げることができる。
反応溶媒の使用量は、特に制限されるものではないが、例えばフェニレンエーテルオリゴマー100重量部に対して、200〜5000重量部であることが好ましく、500〜1000重量部であることがより好ましい。
【0020】
本発明において、水素添加に用いられる水素源としては、通常、水素ガスが用いられる。水素添加の反応圧力は、特に制限されるものではないが、0〜10MPa(ゲージ圧)であることが好ましく、0.1〜1MPa(ゲージ圧)であることがより好ましい。
反応温度は、特に制限されるものではないが、例えば10〜200℃であることが好ましく、20〜100℃であることがより好ましい。また、反応時間は、反応温度や反応圧力等により異なるが、例えば5〜100時間であることが好ましく、24〜48時間であることがより好ましい。
反応操作としては、例えば、マグネティックスターラー撹拌式オートクレーブに所定量のフェニレンエーテルオリゴマー、白金族触媒、金属還元剤および反応溶媒を仕込んだ後、反応系内を水素ガスで置換して昇圧し、所定の温度に昇温して反応させる。反応後、触媒をろ過し、濾液を濃縮することにより、白色粉末を得る方法が挙げられる。
【0021】
本発明において、フェニレンエーテルオリゴマーと水素とを、白金族触媒の存在下、または白金族触媒および金属還元剤の存在下で反応させることにより、フェニレンエーテルオリゴマーを脱色することができる理由は詳らかではないが、例えば、フェニレンエーテルオリゴマーの製造時に生成され、製品フェニレンエーテルオリゴマーの末端基に微量に残留するキノン構造体が、当該反応によりフェノール構造体に化合し、理想的なフェニレンエーテルオリゴマーの末端構造が実現するためであると考えられる。
かくして得られた脱色フェニレンエーテルオリゴマーは、例えば、白金族触媒および金属還元剤を濾過して除去した後、溶媒を留去する方法等により単離することができる。
【0022】
前記脱色フェニレンエーテルオリゴマーのモル吸光係数は、350nmの波長において、好ましくは50以下、より好ましくは、40以下、最も好ましくは、30以下である。
また、吸光度は、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.08以下、最も好ましくは、0.06以下である。
本発明において、フェニレンエーテルオリゴマーのモル吸光係数は、フェニレンエーテルオリゴマー粉末100mgをメチル−t−ブチルエーテル50mlに溶解した溶液の吸光度を光路長10mmのセルを用いて分光光度計で測定し、350nmの波長における吸光度から算出した。なお、脱色フェニレンエーテルオリゴマーの分子量としては、当該脱色処理に用いたフェニレンエーテルオリゴマーの数平均分子量を使用した。また、分光光度計としては、例えば、化合物等のモル吸光係数を決定するために通常用いられる可視・紫外分光光度計を用いればよい。
【0023】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
実施例1
内容積100ml容のマグネティックスターラー撹拌式オートクレーブに、フェニレンオリゴマーとして、淡褐色の三菱ガス化学株式会社製商品名:OPE(数平均分子量1000)300mg、白金族触媒として、エヌ・イー ケムキャット株式会社製商品名:10%Rhカーボン粉末(無水品)Kタイプ30mgおよびイソプロパノール3mlを仕込み、脱気後、水素を導入し、100℃、1MPa(ゲージ圧)で48時間攪拌した。反応後、室温に冷却し、エチルエーテル10mlと水10mlを添加した後、濾過することにより前記触媒と濾液とを分離した。前記濾液の有機溶媒層と水層とを分液し、有機溶媒層に飽和食塩水20mlを添加混合した後、再度分液し、有機溶媒層を減圧留去することにより、白色のフェニレンエーテルオリゴマー粉末を得た。
用いたOPEおよび得られたフェニレンエーテルオリゴマー粉末について、350nmの波長における吸光度およびモル吸光係数を測定した。
OPE 吸光度:0.39 モル吸光係数:195.0
フェニレンエーテルオリゴマー粉末
吸光度:0.06 モル吸光係数: 30.0
【0025】
実施例2〜5
内容積100ml容のマグネティックスターラー撹拌式オートクレーブに、フェニレンオリゴマーとして、淡褐色の三菱ガス化学株式会社製商品名:OPE(数平均分子量1000)300mg、白金族触媒として、エヌ・イー ケムキャット株式会社製商品名:10%Rhカーボン粉末(無水品)Kタイプ30mg、イソプロパノール3ml、およびマグネシウム金属粉末72.9mgを仕込み、脱気後、水素を導入し、100℃、1MPa(ゲージ圧)で表1に示したように、それぞれ6〜48時間攪拌し、反応させた。反応後、室温に冷却し、エチルエーテル10mlと水10mlを添加した後、濾過することにより前記触媒と濾液とを分離した。前記濾液の有機溶媒層と水層とを分液し、有機溶媒層に飽和食塩水20mlを添加混合した後、再度分液し、有機溶媒層を減圧留去することにより、白色のフェニレンエーテルオリゴマー粉末を得た。
得られたそれぞれのフェニレンエーテルオリゴマー粉末について、350nmの波長における吸光度およびモル吸光係数を測定した。結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
比較例1
内容積100ml容のマグネティックスターラー撹拌式オートクレーブに、フェニレンオリゴマーとして、淡褐色の三菱ガス化学株式会社製商品名:OPE(数平均分子量1000)300mgおよびイソプロパノール3mlを仕込み、脱気後、水素を導入し、100℃、1MPa(ゲージ圧)で48時間攪拌した。反応後、室温に冷却し、エチルエーテル10mlと水10mlを添加した後、有機溶媒層と水層とを分液した。次いで、前記有機溶媒層に飽和食塩水20mlを添加混合した後、再度分液し、有機溶媒層を減圧留去することにより、淡褐色のフェニレンエーテルオリゴマー粉末の反応生成物を得た。
得られたフェニレンエーテルオリゴマー粉末について、350nmの波長における吸光度およびモル吸光係数を測定した。
フェニレンエーテルオリゴマー粉末 吸光度:0.38 モル吸光係数:192.0
【産業上の利用可能性】
【0028】
フェニレンエーテルオリゴマーは、例えば、エンジニアプラスチック等に用いられ、ポリフェニレンエーテルの低誘電特性、低吸湿性等の優れた特性を備え、有機溶剤に可溶である利点を有している。本発明により、フェニレンエーテルオリゴマーの脱色方法、および当該脱色方法を用いた脱色フェニレンエーテルオリゴマーが提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェニレンエーテルオリゴマーと水素とを、白金族触媒の存在下で反応させることを特徴とするフェニレンエーテルオリゴマーの脱色方法。
【請求項2】
フェニレンエーテルオリゴマーと水素とを、白金族触媒および金属還元剤の存在下で反応させることを特徴とするフェニレンエーテルオリゴマーの脱色方法。
【請求項3】
フェニレンエーテルオリゴマーが、一般式(1):
【化1】

(式中、mおよびnは、それぞれ整数を表し、m+nは2〜30である。)
で表される請求項1または2に記載のフェニレンエーテルオリゴマーの脱色方法。
【請求項4】
白金族触媒の白金族金属が、ルテニウム、ロジウム、およびパラジウムからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜3に記載のフェニレンエーテルオリゴマーの脱色方法。
【請求項5】
金属還元剤が、マグネシウムである請求項2〜4のいずれか1項に記載のフェニレンエーテルオリゴマーの脱色方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のフェニレンエーテルオリゴマーの脱色方法を用いて得られる脱色フェニレンエーテルオリゴマー。
【請求項7】
350nmの波長において50以下のモル吸光係数を有する請求項6に記載の脱色フェニレンエーテルオリゴマー。

【公開番号】特開2009−275057(P2009−275057A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124507(P2008−124507)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【出願人】(805000018)財団法人名古屋産業科学研究所 (55)
【Fターム(参考)】