説明

フェルト針

【課題】不織布と織物をニードルパンチによって一体化する際に、不織布部分の高絡合を達成しつつ、織物を構成する糸の損傷を押さえ、かつ該糸の不織布内部への持ち込みを防ぐことが出来るフェルト針を提供する。
【解決手段】ブレードの同一稜線上に、底部と先端部で規定される深さが、0.040mm以上0.100mm以下である一つ以上のバーブ5が形成されたフェルト針において、該バーブのバーブ先端角αが80°以上120°以下であることを特徴とするフェルト針。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェルト針、特に、不織布と織物をニードルパンチによって一体化する際に、不織布部分の高絡合を達成しつつ、織物を構成する糸の損傷を押さえ、かつ該糸の不織布内部への持ち込みを防ぐことが出来るフェルト針に関する。
【背景技術】
【0002】
フェルト針は不織布を得るのに用いられ、締め付け固定される軸部、中間ブレード、ブレードおよび針先を主構成要素とし、そして不織布化の重要な作用部分としてバーブと呼ばれる棘を有する。フェルト針を挿入すると、その棘が繊維を引っかけ移動せしめて絡合を図り、不織布を形成する(特許文献1)。
不織布製造に関しては年々要求特性が高まっており、例えば人工皮革の基材に供する不織布製造に関しては、その最終製品の人工皮革において、外観に対する審美性と、実用に供することが可能となる強力・耐久性を合わせて達成せねばならず、難易度の高い分野である。
【0003】
人工皮革の審美性を高め、強力や耐久性を向上させるためには、一般にはその基材となる不織布を構成する繊維の絡合を上げねばならない。そのためには、不織布の製造において、フェルト針による針打ち本数を上げるか、使用するフェルト針のバーブ寸法を大きくするなどの針打ち効果を上げ、絡合の度合いをアップする必要がある。しかし、それら絡合アップに伴い、針跡や針スジなどの発現といった製品品位悪化が起こるという、相反する問題を抱える。
【0004】
人工皮革の強力や耐久性を向上させる手法として、極細繊維と強撚編織物を不離一体構造となるごとくに強固に絡合した人工皮革の製造方法が提示されている。本技術によれば、700T/m以上の強撚糸による編織物を適用することにより、不織布と編織物を重ね合わせフェルト針によって絡合処理する際に、編織物構成糸の損傷を抑えることが出来るが、不織布繊維の絡合と編織物の補強効果維持の両立という意味ではまだまだ十分ではなかった。(特許文献2参照)。
【0005】
また、不織布繊維絡合度の向上と編織物補強効果の維持を達成するために、重ね合わせる編織物を構成する糸の直径と、フェルト針のバーブ深さとの関係を規定することによって、絡合と編織物の補強効果を両立させる技術が開示されている。(特許文献3参照)本技術によれば、不織布部分の絡合向上と補強効果維持という、相反する課題は解決されるに至ったが、最終人工皮革製品においてその製品表面に前記編織物を構成する糸が露出するという問題が発生することがあった。
【0006】
これは、フェルト針による針打ちに伴い、編織物を構成する糸は損傷を受けないものの、バーブによって厚み方向に持ち込まれて製品表面に露出したものであり、人工皮革を構成する極細糸と比べて太い編織物構成糸が製品表面に顕在化することによって、外観上の欠点もしくはタッチの悪化と言う問題を引き起こしたのである。
【0007】
また本技術では、フェルト針のバーブ寸法と編織物構成糸径の関係が規定されるため、不織布部分の絡合設計および挿入する補強編織物構成糸の設計に制約が発生していた。
【特許文献1】特開平7−331575号公報
【特許文献2】特開昭62−78281号公報
【特許文献3】特開平3−82858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、フェルト針、特に不織布と編織物をニードルパンチによって一体化する際に、不織布部分の高絡合を達成しつつ、編織物を構成する糸の損傷を押さえ、かつ該構成糸の不織布内部への持ち込みを防ぐことが出来るフェルト針を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために次の構成を有する。
【0010】
すなわち、ブレードの同一稜線上に一つ以上バーブが形成されたフェルト針において、バーブ先端角αが80°以上120°以下であることを特徴とするフェルト針である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフェルト針によれば、バーブ先端角αを80°以上120°以下とすることにより、不織布と織物をニードルパンチによって絡合し不離一体化する際に、不織布部分の高絡合を達成しながら、飛躍的に織物構成糸の損傷を抑制しつつ、かつ該糸の不織布内部への持ち込みを防ぐことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者らは、高度な不織布加工に対する要望に応えるべく鋭意研究した結果、本発明に至った。以下に本発明の詳細について説明する。
【0013】
本発明は、前記課題を解決するために、ブレードの同一稜線上に一つ以上バーブが形成されたフェルト針において、バーブ先端角αを80°以上120°以下としたものである。
【0014】
まず、本発明でいうフェルト針について図1を用いて説明する。フェルト針1は、基本的には、稜線上に形成されたバーブ5を備えたブレード2、中間ブレード3、フェルト針をニードルボードに締め付け固定するための軸部4によって構成される。バーブは一つでも良いし、複数あってもかまわない。複数の場合、後述する所期の効果を達成するためにも、バーブは同一稜線上にあることが必要である。すなわち、バーブ先端角αを大きくし、ブレード側面(バーブ側面)10で表される部分が織物構成糸を外に広げる効果を発揮させて、糸の損傷を抑えるためには、バーブは同一稜線上にあることが重要である。
【0015】
また、中間ブレード3は無くてもかまわない。
【0016】
次に、バーブについて説明する。図2は図1におけるバーブ5を拡大し、側面から見た様を示す。一般に、バーブ5はブレード2の一つの稜線に備わり、バーブ先端部6およびバーブ底部7で規定されるくさび型形状をとり、その全体としてのバーブ深さcは、ブレード稜線Lからバーブ先端部6までの高さで表されるキックアップaと、ブレード稜線Lからバーブ底部7までの深さで表されるスロートデプスbとの和として表される。すなわち、バーブ深さc=キックアップa+スロートデプスb、となる。キックアップaはゼロでも良いし、ブレード稜線Lより下にバーブ先端部6が位置するマイナスキックアップでもかまわない。
【0017】
なお、図2ではカットバーブと呼ばれるくさび型形状のバーブを示しているが、箱形バーブなど公知な形状が採用でき、またバーブを形成する手段としてはダイプレスあるいは切削加工など公知の手段を用いることが出来る。
図3は、本発明に関わるフェルト針のバーブ5の拡大断面図を示す。なお、図3は、図2のI−I線における拡大縦断面図であるが、便宜上、バーブ底部7も表示している(他のバーブ拡大断面図においても同じ。)。
【0018】
所期の効果を達成するためには、バーブ先端部6の幅(バーブ先端部幅寸法)dおよびバーブ底部7の幅(バーブ底部幅寸法)eによって規定される二直線Mのなすバーブ先端角αが80°以上120°以下であることが必要である。好適には90°以上120°以下、更に好適には95°以上120°以下であることが望ましい。
【0019】
本発明におけるニードルの作用を図4及び図5で説明する。
【0020】
図4〜5は織物と不織布を重ねてニードルパンチ加工を行い不離一体構造とする工程において、加工中におけるその織物組織とフェルト針バーブの関係を模式化したものである。織物経糸は8、緯糸は9で示される。
【0021】
また、本発明によるフェルト針は、バーブを二等分する中心線Nと織物の対称性を表す線分Pとのなす鋭角βを45°と設定してフェルト加工を行うときに最も効力を表す。βが45°より小さくなるほどバーブが緯糸に引っかかりやすくなり、βが45°より大きくなるほどバーブが経糸に引っかかりやすくなり、いずれも構成糸が損傷しやすくなり、不織布内部に持ち込まれやすくなるためである。そのため、一般的にはβ=45°でニードルパンチが行われるため、図4でもβ=45°としている。しかし、先端角度や針断面形状によって、最適角度は変化するため本発明は角度βに制約されるものではない。
【0022】
β=45°でフェルト針を差し込むと、バーブ先端角αが小さい場合には図9のようにバーブが縦糸や緯糸に引っかかり糸を損傷したり、不織布内部に持ち込んでしまうが、図4で示すように、バーブ先端角αが大きい場合にはブレード側面(バーブ側面)10で表される部分が織物構成糸を外に広げる効果を発揮し、糸の損傷を抑えられる。さらにバーブ先端角αが80°以上であれば、縦糸、緯糸およびそれらがなす角部(以下、併せて糸領域と示す。)に対して、フェルト針のバーブが進入することが非常に難しくなり、さらに90°以上となると実質上バーブが糸領域へ進入することが不可能となる。そのため、織物構成糸をバーブが引っかけることがなくなり、引いては糸の損傷や、不織布内部への持ち込まれを飛躍的に抑制することが出来るのである。
【0023】
図5ではバーブ先端角αが120°であるフェルト針の効果を示すが、先端角αを広くしていけばバーブによる織物糸の損傷や持ち込まれに対する抑制効果が更に高まるのが分かる。
【0024】
一方で先端角αを大きくしすぎると、バーブの断面積(ブレードの断面積)や、さらには中間ブレードの断面積が増加傾向となり、その影響を受けて針跡や針スジの悪化を引き起こす可能性が高くなり、また絡合効果も低下する。
【0025】
以上のため、バーブ先端角αは、80°以上120°以下、好適には90°以上120°以下、更に好適には95°以上120°以下であることが望ましい。
【0026】
また、フェルト針のバーブ部断面の形状については様々な形状を採用しうる。図3で示されるフェルト針はバーブ部断面が多角形状であるが、バーブを備えるために稜線を少なくとも1つ有すればよく、それ以外は特に限定されない。図3の断面形状の他には、例えば、図6の(a)〜(c)で示すような様々な断面形状を採用することが出来る。図6(a)で示されるフェルト針は、ブレード断面が曲線と直線の組み合わせで構成されたものである。(b)はバーブ先端角αが80°以上120°以下を満たすが、バーブ以下の部分は鋭角にしたものである。(c)は、バーブ部以外を主に曲線で構成したものである。それらフェルト針の織物に対する作用を図7(a)〜(c)で示すが、いずれの針も織物構成糸を押し広げる作用部分(ブレード側面10)が効果を発揮し、バーブの織物構成糸への干渉を回避出来ることがわかる。
【0027】
以上から、バーブ先端角αを80°以上120°以下、好適には90°以上120°以下、更に好適には95°以上120°以下にすれば、フェルト針のそれ以外の部分の設計については、針跡やタテスジなどの欠点、角部による繊維切断などを回避すべく、通常のフェルト針設計に準ずれば、どのような形状も採用できる。一方、図8に従来技術フェルト針の一例として、バーブ先端角α=60°のフェルト針を示す。この従来技術のバーブによる作用について図9で示すが、例えβ=45°に設定してフェルト針を挿入したとしても、織物構成糸を押し広げる部分(ブレード側面10)の効果が低く、バーブが織物の糸領域に容易に入り得ることが分かる。このため、織物構成糸がバーブに引っかけられ、糸の損傷や、不織布内部への持ち込まれが引き起こされる。
【0028】
本発明のフェルト針においては、バーブ底部と先端部で規定されるバーブ深さcが、0.040mm以上0.100mm以下であることが望ましい。バーブ深さcが小さくなると、不織布構成繊維を引っかけることが難しくなり、十分な絡合形成が難しいので好ましない。一方、バーブ深さcが大きくなると、バーブ先端部6と織物構成糸を押し広げる作用部分(ブレード側面10)との距離が長くなり、織物構成糸の自由度が上がって湾曲しやすくなり、バーブによる構成糸の持ち込まれや損傷の可能性が高くなるうえに、不織布表面については針跡や針スジなどの表面品位の低下を引き起こす傾向にあるため好ましくない。
【0029】
以上からバーブ深さは0.040mm以上0.100mm以下、より好適には0.040mm以上0.080mm以下であるのが望ましい。
【0030】
また、本発明におけるフェルト針は、バーブ先端部幅dは0.050mm以上0.150mm以下であることが望ましい。バーブ先端部幅dが狭過ぎると、不織布の絡合効果が低下するので好ましくない。バーブ先端部幅dが広すぎると、バーブ先端部6と織物構成糸を押し広げる作用部分(ブレード側面10)との距離が長くなり、織物構成糸の自由度が上がって湾曲しやすくなり、バーブによる糸の持ち込まれや損傷の可能性が高くなるうえに、不織布表面については針跡や針スジなどの表面品位の低下を引き起こす傾向にあるため好ましくない。以上からバーブ先端部幅dは0.050mm以上0.150mm以下、より好適には0.050mm以上0.120mm以下であるのが望ましい。
【0031】
なお、本発明においては、図10のようにバーブ先端部6やバーブ底部7にテーパーをつけてもよい。そのようなフェルト針の場合は、バーブの二等分線Nと直交し、かつバーブ先端部6の最下点を通過する線によって規定される見なしバーブ先端部6’、同様な方法によって導かれる見なしバーブ底部7’を用いてバーブ先端角αを決定することができ、この値が80°以上120°以下の範囲を満たせば同様の効果を得ることが出来る。
【0032】
また、本発明においては、バーブとそれ以外のブレード部分の断面形状が異なっていてもよい。例えば、バーブの周辺部のみ図3の断面形状で、それ以外のブレード部分は丸断面としてもよい。
【0033】
さらに、本発明においては、バーブは複数あってもかまわない。複数のバーブを備える場合、前記の効果を発揮するためには全てのバーブが同一稜線上にあることが必要である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明のフェルト針の一態様の全体図。
【図2】本発明のフェルト針のバーブ部の一態様の拡大側面図。
【図3】本発明のフェルト針の一態様のバーブ部断面拡大図。
【図4】織物と不織布のはりあわせ加工における、本発明のフェルト針の作用を示す図。
【図5】織物と不織布のはりあわせ加工における、本発明のフェルト針の別の一態様による作用を示す図。
【図6】本発明のフェルト針の別の態様を示すバーブ部断面拡大図。
【図7】織物と不織布のはりあわせ加工における、図6に示した本発明のフェルト針の別の態様による作用を示す図。
【図8】従来技術のフェルト針の一例の図。
【図9】従来技術のフェルト針による、織物と不織布のはりあわせ加工における作用関係を示す図。
【図10】本発明において、バーブ先端部やバーブ底部にテーパが存在する場合のバーブ先端角αの算出方法を示す図。
【符号の説明】
【0035】
1 フェルト針
2 ブレード
3 中間ブレード
4 軸部
5 バーブ
6 バーブ先端部
6’見なしバーブ先端部
7 バーブ底部
7’ 見なしバーブ底部
8 織物構成経糸
9 織物構成緯糸
10 バーブ領域に編織物構成糸が進入しないように作用する部分(ブレード側面)
a キックアップ(ブレード稜線からバーブ先端部までの長さ)
b スロートデプス(ブレード稜線からバーブ底部までの長さ)
c キックアップとスロートデプスの和(バーブ先端部からバーブ底部までの長さ)
d バーブ先端部幅
e バーブ底部幅
L ブレード稜線
M バーブ先端部幅および底部幅によって規定される二直線
N バーブを二等分する直線
P 織物対称性を示す直線
α 二直線Mが成すバーブ先端角度
β バーブを二等分する直線Nと織物対称性を表す直線Pが成す鋭角の角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレードの同一稜線上に一つ以上のバーブが形成されたフェルト針において、該バーブのバーブ先端角αが80°以上120°以下であることを特徴とするフェルト針。
【請求項2】
前記バーブ先端角αが90°以上120°以下であることを特徴とする請求項1に記載のフェルト針。
【請求項3】
バーブ底部と先端部で規定されるバーブ深さが、0.040mm以上0.100mm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載のフェルト針。
【請求項4】
バーブ先端部幅が、0.050mm以上0.150mm以下であることを特徴とする、請求項1〜3いずれかに記載のフェルト針。
【請求項5】
不織布と織物とを一体構造とする際に使用されることを特徴とする、請求項1〜4いずれかに記載のフェルト針。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−208471(P2008−208471A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43377(P2007−43377)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】