説明

フォトクロミック装飾されたボディ部材

【課題】環境に曝されるボディ部材として利用可能な程度の耐光性を備えたフォトクロミック装飾されたボディ部材を提供する。
【解決手段】屋外と屋内との双方で利用される携帯機器の外装となるボディ部材であって、透明な基材の内側面の少なくとも一部に、フォトクロミック染料を含むコーティング膜を備える。また、透明な基材としてプラスチックを用いる。更に、プラスチックである透明な基材に、フォトクロミック染料の発色を呈させる波長域よりも短い波長の紫外線を吸収する紫外線吸収剤を拡散させる。更に、フォトクロミック染料を含むコーティング膜を、ヒンダードアミン系あるいはヒンダードフェノール系の光安定剤を含むコーティング液によって形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話に代表される携帯通信端末やデジタルカメラなどのボディ部材として用いられるフォトクロミック装飾されたボディ部材に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やデジタルカメラなどのボディ部材には、軽量であることが求められることから、一般にアルミ素材やプラスチック素材が用いられる場合が多い。プラスチック素材で構成されたボディ部材は、顔料あるいは染料を混ぜて着色されたプラスチック素材を射出成形によって形成される場合が多いが、近年では、塗装技術などを用いた表面仕上げ加工が施される場合も多い。
【0003】
塗装技術は、金属素材に限らず様々な素材の表面に塗料の皮膜を形成する技術であり、基材の色や質感にかかわらず、塗料による多彩な色彩を強調した鮮やかな仕上げを実現することができる。
【0004】
一般に、塗装に用いられる塗料は、時間の経過や周囲の環境の変化などにかかわらず、同一の色調を維持することが前提とされている。
【0005】
このような固定的な色調を呈する顔料や染料とは別に、周囲の温度などの環境によって色調が変化する染料や顔料も知られている。
【0006】
紫外線の照射に応じて固有の着色を呈し、紫外線からの遮蔽に応じて無色を呈するフォトクロミック染料は、このような特徴をもつ染料の一つであり、従来から調光眼鏡レンズなどに利用されている。そして、このような調光眼鏡レンズの製造方法としては、眼鏡レンズの基材となるプラスチック素材そのものにフォトクロミック染料を混入してから固形化し整形する方法や、成形した眼鏡レンズの表面に真空蒸着法を利用してフォトクロミック染料を付着させ、その後眼鏡レンズの基材(プラスチックなど)の内部に拡散させる方法などが提案されている。
【0007】
フォトクロミック染料が紫外線の照射に応じて固有の着色を呈する仕組みは、フォトクロミック染料分子が紫外線のエネルギーを吸収して、可視光領域に吸収帯を持つ分子構造へと変化する性質によっており、この分子構造の変化に伴って、フォトクロミック染料分子が少しずつ失われることが知られている(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】市村國宏著、「光機能化学」、産業図書株式会社刊、「第4節フォトクロミズムの評価」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、デジタルカメラや携帯電話、携帯音楽プレーヤーのような携帯可能な機器の利用シーンは、大きく屋内と屋外に分けられ、屋内での代表的な利用シーンは、自宅の居間のようなくつろぎの空間であるのに対して、屋外での利用シーンは、運動会や旅行、レジャーといった活動的な時間であると考えられる。また一方、屋内での主な利用シーンがビジネス関連のフォーマルな場面であり、屋外での主な利用シーンはプライベートであるといった使い方も考えられる。そして、利用者の好みの多様性を考えれば、利用シーンに応じて、利用者が異なる外観を求める可能性は十分に考えられる。むしろ、上述したような性質の異なる利用シーンそれぞれにおいて、これらの携帯機器の利用者が携帯機器の外観について好ましいと感じる質感は当然ながら異なっていると考える方が自然である。
【0009】
屋内と屋外とで異なる外観を呈する製品としては、上述した調光眼鏡レンズが知られている。しかしながら、従来の調光眼鏡レンズでは、その本来の目的から、主としてフォトクロミック染料による調光性能(すなわち、紫外線および可視光線の吸収率の高さや、反応速度の速さ)のみが重視されており、フォトクロミック染料が紫外線の吸収に応じて発揮する色彩が省みられることはなかった。
【0010】
また、元々、フォトクロミック染料は、一般的な着色技術に利用される染料や塗料に比べて高価である上、上述したように、フォトクロミック染料が紫外線の照射を受けて発色する際に、フォトクロミック染料分子が少量ずつとはいえ失われていくために、一般的な塗料に比べて耐光性が低いことが知られている。このため、フォトクロミック染料は、屋外と屋内とで異なる外観を呈させるという特有な機能を持っているにもかかわらず、ボディ部材のように環境に曝される部品の表面仕上げに利用されていなかった。
【0011】
本発明は、環境に曝されるボディ部材として利用可能な程度の耐光性を備えたフォトクロミック装飾されたボディ部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかわる第1のフォトクロミック装飾されたボディ部材は、屋外と屋内との双方で利用される携帯機器の外装となるボディ部材であって、透明な基材の内側面の少なくとも一部に、フォトクロミック染料を含むコーティング膜を備える。
【0013】
本発明にかかわる第2のフォトクロミック装飾されたボディ部材は、上述した第1のフォトクロミック装飾されたボディ部材において、透明な基材がプラスチックである。
【0014】
本発明にかかわる第3のフォトクロミック装飾されたボディ部材は、上述した第2のフォトクロミック装飾されたボディ部材において、プラスチックである前記透明な基材に、前記フォトクロミック染料の発色を呈させる波長域よりも短い波長の紫外線を吸収する紫外線吸収剤が拡散されている。
【0015】
本発明にかかわる第4のフォトクロミック装飾されたボディ部材は、上述した第1のフォトクロミック装飾されたボディ部材において、フォトクロミック染料を含むコーティング膜を覆うように形成され、前記透明な基材および前記フォトクロミック染料を含むコーティング膜を透過した光を散乱反射する反射層を備える。
【0016】
本発明にかかわる第5のフォトクロミック装飾されたボディ部材は、上述した第4のフォトクロミック装飾されたボディ部材において、反射層は不透明な塗料膜であることを特徴とする。
【0017】
本発明にかかわる第6のフォトクロミック装飾されたボディ部材は、上述した第4のフォトクロミック装飾されたボディ部材において、フォトクロミック染料を含むコーティング膜と透明な基材との間に形成され、粒状または薄片状の散乱材を含む層を備える。
【0018】
本発明にかかわる第7のフォトクロミック装飾されたボディ部材は、上述した第3のフォトクロミック装飾されたボディ部材において、コーティング膜が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂のいずれかあるいはこれらを混合してなる樹脂成分に、フォトクロミック染料を溶解して生成されるコーティング液によって形成されることを特徴とする。
【0019】
本発明にかかわる第8のフォトクロミック装飾されたボディ部材は、上述した第7のフォトクロミック装飾されたボディ部材において、コーティング液は、ヒンダードアミン系あるいはヒンダードフェノール系の光安定剤を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかわるフォトクロミック装飾されたボディ部材では、外部環境とフォトクロミック染料を含むコーティング膜との間に透明な基材を介在させ、フォトクロミック染料の変質を低減することにより、外装部品として利用可能な程度の耐光性を確保することができる。
【0021】
特に、透明な基材としてプラスチックを採用し、更に、このプラスチック基材に拡散させた紫外線吸収剤によって太陽光線に含まれる短い波長の紫外線を吸収させることにより、フォトクロミック染料分子の過剰な消耗を更に低減させ、フォトクロミック装飾されたボディ部材の耐光性を向上することができる。また、フォトクロミック染料を含むコーティング膜内部に光安定剤を拡散させ、このコーティング膜内部に到達した光が塗料あるいはフォトクロミック染料に作用して発生したラジカルを捕捉し、ラジカルがフォトクロミック染料分子あるいは塗膜成分と作用して分解する反応の連鎖を断ち切ることにより、より一層の耐光性を実現することができる。
【0022】
また、フォトクロミック染料を含むコーティング膜を覆う反射層を設けてフォトクロミック染料を含むコーティング膜を透過した光を散乱反射させて透明な基材を介して放出させることにより、フォトクロミック染料による発色をより鮮明に呈させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(第1の実施形態)
図1に、本発明にかかわるフォトクロミック装飾されたボディ部材の第1の実施形態を示す。
【0024】
図1に示したボディ部材は、透明なアクリル樹脂板11に、フォトクロミック染料を含む塗料を吹き付け塗装した後にオーブンで乾燥させてコーティング膜12を形成し、更に、このコーティング膜12を覆うようにアクリル系白色塗料を吹き付け塗装した後にオーブンで乾燥させて塗料膜からなる反射層13を形成して構成されている。
【0025】
上述したフォトクロミック染料を含む塗料は、例えば、トルエンを混合したシンナーなどの溶剤にフォトクロミック染料を溶かして作成された染料溶液をアクリル系樹脂塗料に添加して拡散させることによって作成される。フォトクロミック染料を含むコーティング膜12および白色塗料による反射層13の形成工程では、温度60度に調整されたオーブンに1時間入れることにより、塗料膜が乾燥させられている。
【0026】
このようにして、フォトクロミック染料を含むコーティング膜12と白色の塗料膜である反射層13とが形成されたボディ部材を、透明アクリル樹脂板11の塗装されていない面の側から観察すると、屋内では反射層13による白色の外観が呈され、太陽光線の下では、コーティング膜12に拡散させられたフォトクロミック染料により色彩を伴った外観が呈される。
【0027】
図1に示した第1の実施形態のボディ部材が屋外において呈するフォトクロミック染料による発色は、本出願人が既に出願している特願2006−198008号「フォトクロミック染料によるボディ部材の装飾方法およびフォトクロミック装飾されたボディ部材並びにボディ部材用基材」において開示したフォトクロミック装飾されたボディ部材が屋外において呈するフォトクロミック染料による発色と比べて遜色ない程度に明確に観察される。
【0028】
更に、太陽光線は、透明なアクリル樹脂板11を介してフォトクロミック染料を含むコーティング膜12に入射するので、アクリル樹脂板11が有している紫外線吸収作用により、フォトクロミック染料を含むコーティング膜12に拡散しているフォトクロミック染料分子に作用する過剰な紫外線が低減される。
【0029】
これにより、フォトクロミック染料を含むコーティング膜12による発色の持続時間を格段に延長し、フォトクロミック装飾されたボディ部材の耐光性の著しい向上を図ることが可能である。本出願人は、蛍光紫外線ランプ促進試験機を用いて、図1に示した構成のボディ部材に、アクリル樹脂板11が露出している側(図1において矢印を付して示す)から紫外線を照射する試験を行い、150時間の照射を経てもフォトクロミック染料による発色に劣化が生じないことを確認している。
【0030】
また、図1に示した第1の実施形態のボディ部材では、フォトクロミック染料を含む塗料あるいは白色塗料による塗装が透明なアクリル樹脂板11の観察される面の逆側に施されるので、上述した塗装工程において形成されたフォトクロミック染料を含むコーティング膜12および白色塗料による反射層13の平滑度にかかわらず、透明アクリル樹脂板11の観察される面の平滑性が反映され、極めて滑らかで均一な表面仕上げがなされているという印象を観察者に与えることができる。
【0031】
なお、フォトクロミック染料を含むコーティング膜12に重ねて形成される反射層13の色は、白色に限らず、淡い青色や薄いピンクなどの不透明でかつ明度の高い淡色を採用することができる。特に、フォトクロミック染料による発色と同系色の淡色を採用することにより、屋外におけるフォトクロミック染料の発色を増強することができる。また、敢えて同系色以外の色の塗料を反射層13の形成に用いることにより、屋外におけるフォトクロミック染料の発色と反射層13の色との混色を呈させることも可能である。
【0032】
また、この反射層13とフォトクロミック染料を含むコーティング膜12との界面における散乱により、フォトクロミック染料を含むコーティング膜12において紫外線のエネルギーを吸収したフォトクロミック染料分子によって散乱された光、即ち、フォトクロミック染料による着色を呈させる光のうち、アクリル樹脂板11を介して射出して観察に供される光の量を、反射層13を設けない場合に比べて増大させることができる。したがって、反射層13を形成する塗料の色は、明度の高い色やメタリック色など高い反射率が得られる色であることが望ましい。
【0033】
更に、反射層13の形成に、上述した色に関する条件を満たす塗料でありかつパールを含む塗料を用いることにより、屋外において、パールを含む反射層13によって呈される真珠光沢にフォトクロミック染料による発色で得られる彩りが加わって、より華やかな外観を呈させることができる。
【0034】
また、透明アクリル樹脂板11に代えて、ポリカーボネートやポリスチレン、ABS樹脂、ナイロン、ポリプロピレンなど、様々な透明プラスチック素材を用いて形成された樹脂板を採用することもできる。要は、可視光に対して透明であり、かつ、紫外線吸収作用を持つ素材であって、外装材として外部環境から内部の電子部品などを保護する強度があれば、いかようなものでも、フォトクロミック染料を含むコーティング膜12および反射層13を形成する基材として用いることができる。
【0035】
(第2の実施形態)
図2に、本発明にかかわるフォトクロミック装飾されたボディ部材の第2の実施形態を示す。
【0036】
図2に示したフォトクロミック装飾されたボディ部材では、図1に示した透明アクリル板11とフォトクロミック染料を含んだコーティング膜12との間に、フォトクロミック染料による発色と同系色の色に着色されたガラスビーズが拡散されたアクリル系樹脂塗料によって形成された散乱材拡散層21が形成されている。
【0037】
このようなフォトクロミック装飾されたボディ部材は、まず、着色ガラスビーズが拡散されたアクリル樹脂塗料をアクリル樹脂基板11に吹き付け塗装し、上述した第1の実施形態と同様の乾燥工程によって散乱材拡散層21を形成し、その後に、上述した第1の実施形態と同様の工程を施すことにより、フォトクロミック染料を含むコーティング膜12および反射層13を形成することによって実現されている。
【0038】
なお、散乱材拡散層21を形成するために用いるアクリル樹脂塗料は、例えば、着色ガラスビーズ含有アクリル系塗料樹脂とトルエンを含むシンナーとを混合して作成することができる。
【0039】
このようにして、散乱材拡散層21とフォトクロミック染料を含むコーティング膜12と白色の反射層13とが形成されたボディ部材を、透明アクリル樹脂板11の塗装されていない面の側から観察すると、屋内では反射層13による白色を背景として散乱材拡散層に拡散されたガラスビーズによるきらめきを伴った外観が呈される。そして、太陽光線の下では、コーティング膜12に拡散させられたフォトクロミック染料による発色と散乱材拡散層21に拡散させられたガラスビーズに施された着色とにより、フォトクロミック染料の発色による色彩とガラスビーズによる煌きがより強調された華麗な外観が呈される。
【0040】
図2に示した第2の実施形態のボディ部材が屋外において呈するフォトクロミック染料による発色は、上述した先願において開示したフォトクロミック装飾されたボディ部材が屋外において呈するフォトクロミック染料による発色と比べて遜色ない程度に明確に観察される。
【0041】
また、太陽光線が、透明なアクリル樹脂板11を介してフォトクロミック染料を含むコーティング膜12に入射する点では、上述した第1の実施形態と同等であるので、フォトクロミック染料を含むコーティング膜12による発色の持続時間は格段に延長され、フォトクロミック装飾されたボディ部材の耐光性の著しい向上を図ることができる。本出願人は、上述した第1の実施形態で説明した耐光性試験と同様に、図2に示した構成のボディ部材に紫外線を照射する試験を行い、150時間の照射を経てもフォトクロミック染料による発色に劣化が生じないことを確認している。
【0042】
また、図2に示した第2の実施形態のボディ部材においても、フォトクロミック染料を含む塗料あるいは白色塗料による塗装が透明なアクリル樹脂板11の観察される面の逆側に施される点は同様であるので、上述した第1の実施形態によるフォトクロミック装飾されたボディ部材と同様に、塗装面の揺らぎが感じられない高度な滑らかさと均一な質感を観察者に印象付けることができる。
【0043】
なお、図2に示したガラスビーズ入りの塗料膜21に代えて、フォトクロミック染料を含むコーティング膜12と透明なアクリル樹脂板11との間に、パールなどの薄片状の散乱材を含む塗料膜を形成することも可能である。
【0044】
例えば、パールを拡散させた塗料膜を、フォトクロミック染料を含むコーティング膜12と透明なアクリル樹脂板11との間に形成することにより、屋外において、フォトクロミック染料による発色にパールに特有の効果を加えた外観を呈させることができる。
【0045】
(第3の実施形態)
図3に、本発明にかかわるフォトクロミック装飾されたボディ部材の第3の実施形態を示す。
【0046】
図3(a)に示したフォトクロミック装飾されたボディ部材では、透明アクリル樹脂板11の一部分をマスキングしてフォトクロミック染料を含んだ塗料を吹きつけ塗装する、あるいは、印刷技術などを利用してフォトクロミック染料を含んだ塗料を部分的に付着させることにより、透明アクリル樹脂板11を部分的に覆うように、フォトクロミック染料を含むコーティングパターン31が形成されている。
【0047】
例えば、エチルケトンなどの溶剤にフォトクロミック染料を溶解させて作成したフォトクロミック染料溶液をインク用樹脂に添加して練りこんでフォトクロミック染料入りインクを作成し、このフォトクロミック染料入りインクをスクリーン印刷のインクとして利用して印刷処理を行うことにより、図3(b)に示すように、透明なアクリル樹脂板11に所望の図柄や文字などのパターン状にフォトクロミック染料入りのインクを付着させることができる。
【0048】
このようにして所望の形状に従って付着させたフォトクロミック染料入りのインクのパターンを、上述した第1の実施形態と同様の乾燥工程によって乾燥させて所望の形状のフォトクロミック染料を含むコーティングパターン31が形成される。更に、第1の実施形態と同様の工程によって、この所望の形状のフォトクロミック染料を含むコーティングパターン31およびこれに覆われていない透明なアクリル樹脂板11を覆うように、白色あるいは淡色の反射層13が形成される(図3(a)参照)。
【0049】
このようにして、所望の形状のフォトクロミック染料を含むコーティングパターン31と白色の反射層13とが形成されたボディ部材を、透明アクリル樹脂板11の塗装されていない面の側から観察すると、屋内では反射層13による白色あるいは淡色の外観が呈され、太陽光線の下では、反射層13による白色あるいは淡色を背景として、スクリーン印刷によって形成されたコーティングパターン31の形状にフォトクロミック染料の発色による色彩が現れる外観が呈される。
【0050】
図3に示した第3の実施形態のボディ部材が屋外において呈するフォトクロミック染料による発色は、上述した先願において開示したフォトクロミック装飾されたボディ部材が屋外において呈するフォトクロミック染料による発色と比べて遜色ない程度に明確に観察される。
【0051】
また、太陽光線が、透明なアクリル樹脂板11を介してフォトクロミック染料を含むコーティングパターン31に入射する点では、上述した第1の実施形態と同等であるので、フォトクロミック染料を含むコーティングパターン31による発色の持続時間は格段に延長され、フォトクロミック装飾されたボディ部材の耐光性の著しい向上を図ることができる。本出願人は、上述した第1の実施形態で説明した耐光性試験と同様に、図3に示した構成のボディ部材に紫外線を照射する試験を行い、150時間の照射を経てもフォトクロミック染料による発色に劣化が生じないことを確認している。
【0052】
また、図3に示した第3の実施形態のボディ部材においても、フォトクロミック染料を含む塗料あるいは白色塗料による塗装が透明なアクリル樹脂板11の観察される面の逆側に施される点は同様であるので、上述した第1の実施形態によるフォトクロミック装飾されたボディ部材と同様に、塗装面の揺らぎが感じられない高度な滑らかさと均一な質感を観察者に印象付けることができる。
【0053】
(第4の実施形態)
図4に、本発明にかかわるフォトクロミック装飾されたボディ部材の第4の実施形態を示す。
【0054】
図4に示したフォトクロミック装飾されたボディ部材は、図1に示した透明アクリル樹脂板11に代えて、紫外線吸収剤が拡散された透明樹脂板41の内側面に、フォトクロミック染料を含むコーティング膜12を形成し、更にこのコーティング膜12に重ねて白色あるいは淡色の反射層13を形成することによって実現されている。
【0055】
紫外線吸収剤が拡散された透明樹脂板41は、例えば、アクリルやポリカーボネート、ポリスチレン、ABS樹脂、ナイロン、ポリプロピレンなどの透明な樹脂ペレットに、適切な吸収帯を持つ紫外線吸収剤を添加して溶融させ、これを射出成型などの成型技術を利用して板状に加工することによって実現される。また、上述したプラスチック素材以外でも、可視光に対して透明であり、かつ、紫外線吸収作用を持つ素材であって、外装材として外部環境から内部の電子部品などを保護する強度があれば、いかようなものでも、フォトクロミック染料を含むコーティング膜12および反射層13を形成する基材として用いることができる。
【0056】
このように、紫外線吸収剤が拡散された透明樹脂板41の内側に、フォトクロミック染料を含むコーティング膜12と白色あるいは淡色の反射層13とを形成したボディ部材を、透明樹脂板41の塗装されていない面の側から観察すると、屋内では反射層13による白色あるいは淡色の外観が呈され、太陽光線の下では、コーティング膜12に拡散させられたフォトクロミック染料による発色による色彩を伴った外観が呈される。
【0057】
図4に示した第4の実施形態のボディ部材が屋外において呈するフォトクロミック染料による発色は、上述した先願において開示したフォトクロミック装飾されたボディ部材が屋外において呈するフォトクロミック染料による発色と比べて遜色ない程度に明確に観察される。
【0058】
ここで、フォトクロミック染料では、図5に示すように、波長350nm付近に吸収帯をもっており、この波長域の紫外線のエネルギーを吸収して発色作用が奏される。これは、例えば、スピロオキサジン型フォトクロミック染料では、染料分子構造におけるスピロ炭素と酸素原子間の結合を切断するエネルギーに相当する波長が約340nmであり、この結合の切断によってフォトクロミック染料分子は特定の波長帯を吸収する構造となるからである。
【0059】
したがって、図5に細い実線で示すように、波長340nm以下の比較的高いエネルギーの紫外線を吸収する特性を持つ紫外線吸収剤を用いて透明樹脂板41を形成することにより、フォトクロミック染料を含むコーティング膜12に発色作用を惹き起こす波長域の紫外線を到達させつつ、フォトクロミック染料の過剰な消耗を防ぐことができる。
【0060】
上述したような吸収特性を有する紫外線吸収剤としては、TINUVIN 1577FF CIBAなどが知られており、本出願人は、この紫外線吸収剤を適用して作成したフォトクロミック装飾されたボディ部材について、第1の実施形態で説明した耐光試験を行い、耐光性が著しく向上されることを確認している。
【0061】
その一方、図5に細い破線で示すように、波長400nm以下の広い波長領域の紫外線を吸収する特性を持つ紫外線吸収剤(例えば、TINUVIN 326 CIBA)を適用した場合には、フォトクロミック染料を含むコーティング膜12に到達する発色作用を惹き起こす波長域の紫外線が減少するために、屋外での発色性能が低下することが観察された。また、図5に細い一点鎖線で示すように、波長300nm以下の高エネルギーの紫外線を選択的に吸収する特性を持つ紫外線吸収剤(例えば、TINUVIN 312 CIBA)を適用した場合には、フォトクロミック染料の発色は妨げられないものの、フォトクロミック染料の過剰な消耗を防ぐ効果が低下することが、上述と同様の耐光試験によって確認された。
【0062】
また、図4に示した第4の実施形態のボディ部材においても、フォトクロミック染料を含む塗料あるいは白色塗料による塗装が透明なアクリル樹脂板11の観察される面の逆側に施される点は同様であるので、上述した第1の実施形態によるフォトクロミック装飾されたボディ部材と同様に、塗装面の揺らぎが感じられない高度な滑らかさと均一な質感を観察者に印象付けることができる。
【0063】
(第5の実施形態)
以下、上述した各実施形態においてフォトクロミック染料を含むコーティング膜を形成するために用いられるコーティング液の作成方法について詳細に説明する。
【0064】
塗料は、一般に、樹脂と、この樹脂を溶解し塗膜としての性能(レベリング性や揮発速度など)を制御する希釈剤と、着色剤とから形成され、これらに必要に応じてつや消し剤などの添加剤が混合させる。
【0065】
例えば、樹脂成分として典型的なアクリル系樹脂を使用する場合には、アクリル系樹脂を溶解して塗膜化するために適切な希釈剤を選択し、この希釈剤に着色剤となるフォトクロミック染料を溶解させて染料溶液を作成する。予め、希釈剤における溶解度の範囲内において、フォトクロミック染料の溶解量と形成されたコーティング層を有する製品が太陽光の下で呈する着色濃度との関係を実験などで調べておくことにより、この実験結果に基づいて、所望の着色濃度が得られる溶解量を決定することができる。なお、上述した実施形態においてフォトクロミック染料を含むコーティング膜の形成に用いたコーティング液では、希釈剤に対して2重量パーセントのフォトクロミック染料を溶解させた染料溶液が混合されている。
【0066】
このようにして生成したフォトクロミック染料溶液に、上述したアクリル系樹脂とこの樹脂を硬化させるための硬化剤とを混合し、十分に攪拌してフォトクロミック染料を含むコーティング液を生成する。このアクリル系樹脂とフォトクロミック染料溶液との混合割合は、必要とされる膜厚や混合の結果得られる塗膜としてのレベリング性などを考慮して決定することができる。
【0067】
なお、塗料の樹脂成分としてウレタン樹脂やエポキシ樹脂を用いる場合およびアクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂を混合して用いる場合にも、同様にして、樹脂成分に適合する希釈剤を選択してフォトクロミック染料を溶解させ、得られたフォトクロミック染料溶液と樹脂成分を混合することで、フォトクロミック染料を含むコーティング層を形成するために適切なコーティング液を生成することができる。
【0068】
(第6の実施形態)
以下、上述した各実施形態におけるフォトクロミック染料を含むコーティング膜の耐光性を更に向上するコーティング液の作成方法について詳細に説明する。
【0069】
第4の実施形態において説明したように、図4に示した透明樹脂板41に紫外線吸収剤を拡散させた場合には、フォトクロミック染料を含むコーティング膜には、上述したスピロ炭素と酸素原子間の結合を切断する程度のエネルギーかそれ以下のエネルギーをもつ光(可視光、紫外線の双方を含む)が選択的に到達する。
【0070】
この場合に、コーティング膜に到達した光のエネルギーでは、フォトクロミック染料分子におけるスピロ炭素と酸素原子間の結合以外の結合は切断されない。しかしながら、フォトクロミック染料分子およびその他の塗料成分の一部が、この光のエネルギーを吸収して活性化したラジカルとなり、このようなラジカルが、フォトクロミック染料分子におけるスピロ炭素と酸素原子間の結合以外の結合を含む様々な結合を切断する反応を連鎖的に惹き起こす場合がある。そして、このような切断は、スピロ炭素と酸素原子間の結合の切断とは異なり、不可逆な反応であるために、上述したようなラジカルは、塗膜およびフォトクロミック染料の耐光性を著しく劣化させる要因となり得る。
【0071】
このようなラジカルによる劣化は、上述した第5の実施形態で説明したフォトクロミック染料を含む塗料に、添加剤としてヒンダードアミン系やヒンダードフェノール系の光安定剤を混合し、図6に示すように、フォトクロミック染料とともに光安定剤を含むコーティング膜51を形成することによって防ぐことができる。このようなコーティング膜51は、例えば、上述した第5の実施形態において説明したようにしてスピロオキサジン型フォトクロミック染料を含む塗料を生成し、この塗料に更にヒンダードアミン系光安定剤を添加して得られた塗料を、紫外線吸収剤を含む透明樹脂板41の内側面に吹きつけ塗装することによって形成される。
【0072】
このようにして形成されたコーティング膜51では、このコーティング膜51に到達した光を吸収して生成されたラジカルが上述した光安定剤によって捕捉されるので、フォトクロミック染料分子や塗膜を構成する樹脂成分などの分子構造における様々な結合が連鎖的に切断される反応が抑制される。
【0073】
本出願人は、上述した吹きつけ塗装によって形成された10μmのコーティング膜51を60度で1時間乾燥させた後、白色塗料による反射層13を形成し、QUV340光源を用いて、図6に示した構成のボディ部材の観察面(と奏されていない面)側から紫外線を照射する耐光促進試験を行い、150時間の照射を経た後に太陽光の下で行った観察によって、フォトクロミック染料による発色に劣化が生じないことを確認している。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上に説明したように、本発明にかかわるフォトクロミック装飾されたボディ部材は、透明な素材の内側にフォトクロミック染料を用いた装飾を施すことにより、フォトクロミックによる装飾効果を発揮しつつ、外装材としての用途を十分に果たすことができる程度の耐光性を備えている。
【0075】
これにより、フォトクロミック装飾されたボディ部材を電子機器の外装に適用する際の課題であった耐光性の低さを克服することが可能となるので、カメラや携帯電話、ノートパソコンやこれに付属する無線LANアダプタやカードリーダなどの付属機器、携帯音楽プレーヤーに代表される携帯機器の外装の分野において極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明にかかわるフォトクロミック装飾されたボディ部材の第1の実施形態を示す図である。
【図2】本発明にかかわるフォトクロミック装飾されたボディ部材の第2の実施形態を示す図である。
【図3】本発明にかかわるフォトクロミック装飾されたボディ部材の第3の実施形態を示す図である。
【図4】本発明にかかわるフォトクロミック装飾されたボディ部材の第4の実施形態を示す図である。
【図5】フォトクロミック染料および紫外線吸収剤の特性を説明する図である。
【図6】本発明にかかわるフォトクロミック装飾されたボディ部材の第6の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0077】
11…透明アクリル樹脂板、12、51…コーティング膜、13…反射層、21…散乱材拡散層、31…コーティングパターン、41…透明樹脂板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋外と屋内との双方で利用される携帯機器の外装となるボディ部材であって、透明な基材の内側面の少なくとも一部に、フォトクロミック染料を含むコーティング膜を備えた
ことを特徴とするフォトクロミック装飾されたボディ部材。
【請求項2】
請求項1に記載のフォトクロミック装飾されたボディ部材において、
前記透明な基材がプラスチックであることを特徴とするフォトクロミック装飾されたボディ部材。
【請求項3】
請求項2に記載のフォトクロミック装飾されたボディ部材において、
プラスチックである前記透明な基材に、前記フォトクロミック染料の発色を呈させる波長域よりも短い波長の紫外線を吸収する紫外線吸収剤が拡散されていることを特徴とするフォトクロミック装飾されたボディ部材。
【請求項4】
請求項1に記載のフォトクロミック装飾されたボディ部材において、
前記フォトクロミック染料を含むコーティング膜を覆うように形成され、前記透明な基材および前記フォトクロミック染料を含むコーティング膜を透過した光を散乱反射する反射層を備えた
ことを特徴とするフォトクロミック装飾されたボディ部材。
【請求項5】
請求項4に記載のフォトクロミック装飾されたボディ部材において、
前記反射層は不透明な塗料膜である
ことを特徴とするフォトクロミック装飾されたボディ部材。
【請求項6】
請求項4に記載のフォトクロミック装飾されたボディ部材において、
前記フォトクロミック染料を含むコーティング膜と前記透明な基材との間に形成され、粒状または薄片状の散乱材を含む層を備えた
ことを特徴とするフォトクロミック装飾されたボディ部材。
【請求項7】
請求項3に記載のフォトクロミック装飾されたボディ部材において、
前記コーティング膜は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂のいずれかあるいはこれらを混合してなる樹脂成分に、フォトクロミック染料を溶解して生成されるコーティング液によって形成される
ことを特徴とするフォトクロミック装飾されたボディ部材。
【請求項8】
請求項7に記載のフォトクロミック装飾されたボディ部材において、
前記コーティング液は、ヒンダードアミン系あるいはヒンダードフェノール系の光安定剤を含む
ことを特徴とするフォトクロミック装飾されたボディ部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−279425(P2008−279425A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177092(P2007−177092)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】