説明

フォークリフトのシートベルト未装着防止装置

【課題】 フォークリフトの運転者が、シートベルトを確実に、かつ容易に装着できるようにすることである。
【解決手段】 フォークリフト100の運転部5において、運転席6の左側前方に、ベルト格納部17から引き出されたシートベルト19のタング19aを引っ掛けて連結するための引掛け部22を取り付ける。フォークリフト100の非運転状態で、シートベルト19は引掛け部22の引掛け部本体23と連結され、運転席6とハンドル7との間に形成される第1空間部Q1を平面視において斜めに横切り、ハンドル7の直上方の第2空間部Q2に配置される。運転席6に着席した運転者は、シートベルト19によって運転操作を行うことが困難になるため、シートベルト19の存在を視認できる。そして、外したシートベルト19のタング19aを、そのままバックル18に係合させることが容易にできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、 フォークリフトの運転者がシートベルトを未装着の状態で運転することを防止する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フォークリフトの運転席には2点式のシートベルト装置が装備されていて、フォークリフトの運転者は、シートベルトを装着して運転することが義務付けられている。しかし、シートベルト装置のシートベルトを格納するベルト格納部は、運転席の側部に取り付けられているため目立たず、運転者がシートベルト装置に気付かずにフォークリフトを運転してしまうおそれがある。
【0003】
これを防止するため、フォークリフトの運転を開始する毎に、画面上に「シートベルトをする事」と警告表示したり(特許文献1を参照)、シートベルト未装着時に警報音を発したりする技術(特許文献2を参照)が開示されている。
【0004】
しかし、上記した各技術では、運転者がシートベルトを未装着のままでフォークリフトを運転することに対して警告を発することはできるが、それ以上の動作(例えば、運転者に強制的にシートベルトを装着させる動作)を強要するものではない。このため、運転者が警告を無視してフォークリフトを運転してしまうおそれがある。
【0005】
また、上記した各技術では、運転者にシートベルトの存在を認識させることはできるが、運転者がシートベルトを装着する動作は従来のままであり、その操作を容易にするものではない。
【特許文献1】特開2001−226100号公報
【特許文献2】特開2004−268874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑み、フォークリフトの運転者が、シートベルトを確実に、かつ容易に装着できるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
上記した課題を解決するための本発明は、
フォークリフトの運転者がシートベルトを未装着の状態で運転することを防止する装置であって、
運転席に着席した運転者の胴部を押圧するシートベルトと、
フォークリフトの正面視における運転席の左側に取り付けられ、前記シートベルトを巻き取って格納するベルト格納部と、
同じく右側に取り付けられ、前記ベルト格納部から前記運転席に着席した運転者の胴部を押圧するように引き出されたシートベルトを引っ掛けて巻取り不能にロックする第1引掛け部と、
運転席の前方に取り付けられ、前記ベルト格納部からフォークリフトのハンドルの上方又はその周囲に形成される空間部に架かるようにして引き出されたシートベルトを引っ掛けて巻取り不能にロックし、前記運転席に着席した運転者がそのままの状態でフォークリフトの運転を行うことを困難にする第2引掛け部と、
を備えることを特徴としている。
【0008】
そして、前記シートベルトを、前記ハンドルの直上方の空間部で前記第2引掛け部と解除可能に連結することができる。
【0009】
本発明に係るフォークリフトのシートベルト未装着防止装置は、上記したように構成されていて、非運転状態で、フォークリフトの正面視における運転席の左側(進行方向における運転席の右側)に取り付けられたベルト格納部から引き出されたシートベルトは、運転席の前方に取り付けられた第2引掛け部に引っ掛けられて、ハンドルの上方又はその周囲の空間部に架かっている。このため、フォークリフトに乗り込んだ運転者は、確実にシートベルトを視認できる。そして、運転者が、フォークリフトの正面視における運転席の右側(進行方向における運転席の左側)から乗車する場合、運転者は、シートベルトに干渉することなくそのまま乗車できる。また、シートベルトが既に引き出されているため、運転席に着席した運転者が、ベルト格納部からシートベルトを引き出す操作が不要となる。
【0010】
そして、運転席に着席した運転者がフォークリフトの運転を行おうとするときにシートベルトが運転の障害となるため、運転者は第2引掛け部からシートベルトを外さざるを得なくなる。第2引掛け部から外されたシートベルトは、そのまま、フォークリフトの正面視における運転席の右側(進行方向における運転席の左側)に取り付けられた第1引掛け部に引っ掛けられることにより、運転席に着席した運転者の胴部を押圧する。即ち、運転者は、シートベルトに掛けた手をそのまま第1引掛け部に移動させるだけで済むため、シートベルトを装着する操作が容易である。また、フォークリフトの運転を終了して運転席から降車しようとするとき、運転者は、第1引掛け部から外したシートベルトをそのまま第2引掛け部に引っ掛けるだけで済む。
【0011】
前記第2引掛け部は、フォークリフトの正面視における右側前方の支柱に取り付けられ、
前記シートベルトが前記第2引掛け部に引っ掛けられたとき、該シートベルトを、前記運転席と前記ハンドルとの間の空間部を平面視において斜めに横切って配置することができる。
【0012】
これにより、運転者の乗降に支障をきたすことなく、かつ運転の障害になるようにシートベルトを配置できる。このため、運転者は、確実にシートベルトを外さざるを得なくなり、シートベルトの装着率が高まる。
【0013】
前記第2引掛け部は、リール状に巻回される引掛け部本体と、前記引掛け部本体の先端部に設けられ、前記シートベルトと係合する引掛け片と、前記引掛け部本体を所定の巻取り力をもって巻取り状態で収容するケース体とを備えている。
【0014】
シートベルトが第2引掛け部に引っ掛けられていないとき、第2引掛け部の引掛け部本体はケース体に巻取り力をもって収容されている。このため、第2引掛け部がフォークリフトの運転の支障となることはない。
【0015】
前記第2引掛け部と係合して連結されたシートベルトは、前記運転席に着席した運転者がフォークリフトの運転席から降車するときの通路を妨げないように配置されることが望ましい。
【0016】
これにより、運転者がフォークリフトに乗降するときに、シートベルトが支障となることはない。
【0017】
更に、フォークリフトのキースイッチがオフの状態で、前記シートベルトが前記第2引掛け部に引っ掛けられていないときに警告が発せられるようにすることができる。
【0018】
これにより、運転者がシートベルトを未装着の状態でフォークリフトを運転することを確実に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施例について説明する。図1は本発明の実施例のフォークリフト100の側面図、図2は同じく平面図、図3はフォークリフト100の運転部5の平面図である。
【実施例1】
【0020】
最初に、フォークリフト100の全体構成について説明する。図1及び図2に示されるように、フォークリフト100は、車体1と、その前部に装備される荷役装置2とを備えている。フォークリフト100の車体1には、複数本の支柱(本実施例の場合、2本の前支柱3aと2本の後支柱3b)が立設されている。各支柱3a,3bの上端部には、ヘッドガード4が敷設されている。
【0021】
車体1において、各支柱3a,3bとヘッドガード4とで囲まれた部分には運転部5が設けられている。運転部5には、運転者(図示せず)が着席する運転席6が取り付けられている。また、運転部5における運転席6の前方には、ハンドル7と複数本(本実施例の場合、4本)の操作レバー8が取り付けられていて、同じく床面には、アクセルペダル9とブレーキペダル10が取り付けられている(図3参照)。
【0022】
荷役装置2は、車体1の前部に垂直面内で傾動自在に取り付けられたマスト11と、マスト11に対して昇降可能に取り付けられた2本のフォーク12とを備えている。マスト11の傾動操作と、フォーク12の昇降操作は、運転部5に設けられた操作レバー8によってなされる。なお、図1において、13はフォークリフト100の前輪であり、14は同じく後輪である。
【0023】
次に、図3を参照しながら、フォークリフト100の運転部5について詳細に説明する。運転部5の両側方部分で、アクセルペダル9とブレーキペダル10とが取り付けられている床面よりも一段低くなった部分には、それぞれステップ15,16が設けられている。フォークリフト100の運転者は、左右のいずれかのステップ15,16から運転部5に乗り込んで、運転席6に着席する。運転者は、いずれのステップ15,16から運転部5に乗り込むことも可能であるが、進行方向における運転席6よりも右側の部分(フォークリフト100の正面視における運転席6の左側の部分)には操作レバー8が配置されて通路が狭くなっているため、左側のステップ15から乗り込む場合が多い。なお、以降における「運転席の右側」の記載は、「進行方向における運転席の右側(換言すれば、フォークリフトの正面視における運転席の左側)」を意味する。
【0024】
フォークリフト100の運転部5には、シートベルト装置200(シートベルト未装着防止装置)が装備されている。本実施例のシートベルト装置200は、運転席6の右側部に設置されたベルト格納部17と、同じく左側部に設置されたバックル18(第1引掛け部)と、ベルト格納部17に格納されているシートベルト19と、後述する引掛け部22(第2引掛け部)とを備えている。ベルト格納部17には図示しないベルト巻取り手段(例えば、ぜんまい)が内装されていて、シートベルト19は、ベルト巻取り手段の巻取り力により、常にベルト格納部17に巻き取られて格納される方向に付勢されている。
【0025】
運転席6に着席した運転者(図示せず)は、ベルト格納部17からベルト巻取り手段の巻取り力に抗してシートベルト19を引き出し、引き出されたシートベルト19を自身の胴部21に巻き付けて、その先端に設けられているタング19aをバックル18に係合させる。これにより、シートベルト19が運転者の胴部21を運転席6に押し付ける。この結果、運転者は、フォークリフト作業を的確に行うことができる。
【0026】
本発明に係るシートベルト装置200では、ベルト格納部17から引き出されたシートベルト19のタング19aを、バックル18以外の部分に引っ掛ける引掛け部22(第2引掛け部)が取り付けられている。本実施例の引掛け部22は、リール状に巻き取られる引掛け部本体23と、引掛け部本体23を巻取り状態で収容するケース体24とを備えていて、運転席6の左側前方の前支柱3aにおけるミラー25の直下に取り付けられている。ケース体24には、該ケース体24から引き出された引掛け部本体23を巻取り方向に付勢する巻取り手段(例えば、ぜんまい)が設けられている。この引掛け部本体23の先端部には鉤状のフック部23aが設けられていて、このフック部23aが、ベルト格納部17から引き出されたシートベルト19のタング19aの孔部20に引っ掛けられる。これにより、シートベルト19と引掛け部本体23とが連結される。このとき、シートベルト19はベルト格納部17に設けられた巻取り手段の付勢力により巻取り方向に付勢され、引掛け部本体23はケース体24に設けられた巻取り手段の付勢力により巻取り方向(シートベルト19の巻取り方向と反対の方向)に付勢される。このため、シートベルト19と引掛け部本体23は、一定の張力をもって互いに引っ張り合う状態で配置される。
【0027】
本発明に係るシートベルト装置200の作用について説明する。フォークリフト100の非運転状態(運転部5に誰もいない状態)では、ベルト格納部17から引き出されたシートベルト19は、運転席6よりも左斜め前方の前支柱3aに取り付けられたケース体24から引き出された引掛け部本体23と連結されている。シートベルト19と引掛け部本体23は、いずれも所定の張力で巻取り方向に付勢されているため、シートベルト19が垂れ下がることはない。ベルト格納部17が運転席6の右側に設置されているため、引掛け部本体23と連結されたシートベルト19は、運転席6とハンドル7との間に形成される空間部Q1を平面視において斜めに横切り、かつハンドル7の上方に形成される空間部Q2(図2参照)に配置される。ここで、運転者がフォークリフト100の運転部5に乗り込むとき、操作レバー8等の障害物が少ない運転席6の右側のステップ15から乗り込むことが多い。この場合、運転者は、運転席6とハンドル7との間に形成される空間部Q1に自身の胴部21を滑り込ませ、胴部21によってシートベルト19を運転席6から遠ざける方向に押し付けながら、運転席6に着席する。このため、張り状態で配置されているシートベルト19が、運転者が運転席6に着席するときの障害となることはない。
【0028】
このとき、運転席6に着席した運転者の胴部21の一部(右側の部分)には、シートベルト19が掛かっている。また、ハンドル7の上方には、シートベルト19が張り状態で位置されている。このため、運転席6に着席した運転者は、確実にシートベルト19を視認する。
【0029】
運転席6に着席した運転者は、そのままの状態でシートベルト19と引掛け部本体23との連結を解除することができる。即ち、シートベルト19と引掛け部本体23との連結部がハンドル7の上方の空間部Q2に配置されていて、運転席6に着席した運転者はそのまま手を伸ばし、シートベルト19と引掛け部本体23とに手を掛けてそれらの連結を解除することができる。
【0030】
シートベルト19と引掛け部本体23との連結を解除した運転者は、解除したシートベルト19の先端部(タング19aを支持している部分)を把持したまま、該シートベルト19を自身の胴部21に巻き付けながらバックル18と係合する。これにより、運転者は、容易にシートベルト19を装着することができる。
【0031】
フォークリフト100の運転を終了した運転者が運転席6から離れるときは、上記した工程と逆の工程の操作を行う。即ち、シートベルト19とバックル18との係合を解除したときにシートベルト19の先端部を把持している手を、そのまま自身の前方に移動させ、シートベルト19のタング19aを引掛け部本体23のフック部23aに引っ掛ける。このとき、運転者がシートベルト19を持ち変えたり、シートベルト19を把持する位置を変えたりすることは不要であり、その操作が容易である。これにより、運転者の左側に降車のための通路が形成される。運転者は自身の胴部21を左向き(平面視において反時計回りの方向)に回転させ、ステップ15に足を掛けて降車する。このとき、運転者がシートベルト19を引っ掛けるおそれはない。
【0032】
引掛け部22にセンサ(図示せず)を組み込み、シートベルト19と引掛け部本体23との連結が解除された状態で、フォークリフト100のキースイッチ(図示せず)がオフにされると、警告(例えば、警報音を発する)がなされるようにしてもよい。これにより、降車しようとしてシートベルト19とバックル18との係合を解除した後、運転者がそのままシートベルト19をベルト格納部17に格納してしまうことが防止される。
【0033】
本発明のシートベルト装置200は、既存のフォークリフト100に引掛け部22を追加するだけで済む。このため、安価で、しかも簡単な構成により、運転者にシートベルト19を確実に装着させるようにすることができる。
【0034】
本実施例のシートベルト装置200の場合、引掛け部22のケース体24を、フォークリフト100の前支柱3aに取り付けている。しかし、前支柱3a以外の部分、例えば運転部5のインストルメントパネルの部分に取り付けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例のフォークリフト100の側面図である。
【図2】同じく平面図である。
【図3】フォークリフト100の運転部5の平面図である。
【図4】引掛け部22の引掛け部本体23にシートベルト19を引っ掛ける状態の作用説明図である。
【符号の説明】
【0036】
100 フォークリフト
200 シートベルト装置(シートベルト未装着防止装置)
3a 前支柱(支柱)
6 運転席
7 ハンドル
15 ステップ(降車するときの通路)
17 ベルト格納部
18 バックル(第1引掛け部)
19 シートベルト
21 胴部
22 引掛け部(第2引掛け部)
23 引掛け部本体
23a フック部(引掛け片)
24 ケース体
Q1 第1空間部(運転席とハンドルとの間の空間部)
Q2 第2空間部(ハンドルの直上の空間部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォークリフトの運転者がシートベルトを未装着の状態で運転することを防止する装置であって、
運転席に着席した運転者の胴部を押圧するシートベルトと、
フォークリフトの正面視における運転席の左側に取り付けられ、前記シートベルトを巻き取って格納するベルト格納部と、
同じく右側に取り付けられ、前記ベルト格納部から前記運転席に着席した運転者の胴部を押圧するように引き出されたシートベルトを引っ掛けて巻取り不能にロックする第1引掛け部と、
運転席の前方に取り付けられ、前記ベルト格納部からフォークリフトのハンドルの上方又はその周囲に形成される空間部に架かるようにして引き出されたシートベルトを引っ掛けて巻取り不能にロックし、前記運転席に着席した運転者がそのままの状態でフォークリフトの運転を行うことを困難にする第2引掛け部と、
を備えることを特徴とするフォークリフトのシートベルト未装着防止装置。
【請求項2】
前記シートベルトは、前記ハンドルの直上方の空間部で前記第2引掛け部と解除可能に連結されることを特徴とする請求項1に記載のフォークリフトのシートベルト未装着防止装置。
【請求項3】
前記第2引掛け部は、フォークリフトの正面視における右側前方の支柱に取り付けられ、
前記シートベルトが前記第2引掛け部に引っ掛けられたとき、該シートベルトは、前記運転席と前記ハンドルとの間の空間部を平面視において斜めに横切って配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載のフォークリフトのシートベルト未装着防止装置。
【請求項4】
前記第2引掛け部は、リール状に巻回される引掛け部本体と、前記引掛け部本体の先端部に設けられ、前記シートベルトと係合する引掛け片と、前記引掛け部本体を所定の巻取り力をもって巻取り状態で収容するケース体と、を備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のフォークリフトのシートベルト未装着防止装置。
【請求項5】
前記第2引掛け部と係合して連結されたシートベルトは、前記運転席に着席した運転者がフォークリフトの運転席から降車するときの通路を妨げないように配置されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のフォークリフトのシートベルト未装着防止装置。
【請求項6】
フォークリフトのキースイッチがオフの状態で、前記シートベルトが前記第2引掛け部に引っ掛けられていないときに警告が発せられることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のフォークリフトのシートベルト未装着防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−214661(P2009−214661A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59356(P2008−59356)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(390005670)豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Fターム(参考)】