説明

フサリウム抑制剤

【課題】水産魚介類(例えば、カニ類又はエビ類など)のフサリウム症を防除するためのフサリウム抑制剤、特にカブトガニやクルマエビ類の病原カビであるフサリウム菌を防除するためのフサリウム抑制剤を提供すること。
【解決手段】酪酸、酪酸塩又は酪酸エステルを有効成分として含む、フサリウム抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フサリウム抑制剤、およびそれを用いた魚介類におけるフサリウム症の防除方法に関する。より詳細には、本発明は、酪酸、酪酸塩又は酪酸エステルを用いたフサリウム抑制剤、およびそれを用いた魚介類におけるフサリウム症の防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カブトガニ(Tachypleus tridentatus)は、日本では岡山県や山口県、大分県等で生息が確認されているが海洋汚染やカブトガニの生息地である干潟の埋め立てによる生息地の減少などから生息数は減少しており生態保護の観点から問題となっている。生態保護や人口種苗育成の研究等の研究はされているが飼育中の病気によるカブトガニの変死に対する研究はあまりされていない。アメリカカブトガニ(Limulus polyphemus)ではcyanobacteria(Oscillatoria)が原因となり、鰓の膨張や組織の損失、眼球への影響等の報告や、アオカビ種あるScopulariopsis brumptiとExophiala pisciphilusの感染が報告されているが有効な治療法などの研究はあまりされていない。
【0003】
一方、クルマエビは、日本での漁獲量の約50%が養殖で担われ、限られた面積で養殖を行うため、高密度養殖が行われている。クルマエビは周りの環境に影響されやすく、高密度飼育や環境の悪化が直接、液性免疫や細胞性免疫など生体防御能の低下を引き起こす。病原体による疾病被害を軽減するためには、クルマエビの養殖環境を整えることが必要である。真菌病の一つであるフサリウム菌(Fusarium solani)が引き起こす鰓黒病は、高密度の養殖環境で多発する疾病で、一度発生すると周年感染を繰り返すことから、大きな問題となっている。しかしながら、フサリウム症に対する有効な治療・予防法はほとんどない。
【0004】
【非特許文献1】桃山和夫 フサリウム症罹病クルマエビ体内におけるフサリウム菌の分布 魚病研究 1983;22:15−23
【非特許文献2】川名 林岩 標準微生物学大6版 株式会社 医学書院 322−351
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、消費者の食への安全性の要請を満たすことができる水産魚介類(例えば、カニ類又はエビ類など)のフサリウム症を防除するためのフサリウム抑制剤、特にカブトガニやクルマエビ類の病原カビであるフサリウム菌を防除するためのフサリウム抑制剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鰓の黒色化および甲羅の溶解したカブトガニから分離・同定したフサリウム菌に対して、アンホテリシンB、ビホナゾール、メチオニンアナログ、5%クエン酸、80%乳酸、及び酪酸を用いてディスク法にて薬剤感受性試験を行った結果、酪酸がフサリウムの抑制に特に有効であることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0007】
即ち、本発明によれば、酪酸、酪酸塩又は酪酸エステルを有効成分として含む、フサリウム抑制剤が提供される。
好ましくは、本発明のフサリウム抑制剤は、魚介類におけるフサリウム症の防除に使用するためのものである。
【0008】
本発明の別の側面によれば、上記した本発明のフサリウム抑制剤を含む、魚介類用飼料が提供される。
【0009】
本発明のさらに別の側面によれば、酪酸を魚介類に付与することを含む、魚介類におけるフサリウム症を防除する方法が提供される。
【0010】
好ましくは、魚介類は甲殻類である。さらに好ましくは、魚介類はカニ類又はエビ類である。
【発明の効果】
【0011】
本発明ノフサリウム抑制剤は、フサリウム症を防除するのに有効であり、特にカブトガニやクルマエビ類の病原カビであるフサリウム菌を効果的に防除することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態についてさらに詳細に説明する。
本発明によるフサリウム抑制剤は、酪酸、酪酸塩又は酪酸エステルを有効成分として含む。本発明で用いる酪酸は、遊離した状態の酪酸でもよいし、酪酸塩の形態でもよいし、酪酸エステルの形態でもよい。酪酸の塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩、又はマグネシウム塩やカルシウム塩などのアルカリ土類金属塩を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。酪酸エステルとしては、酪酸エチル、酪酸グリセリドなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
本発明のフサリウム抑制剤は、フサリウム菌の抑制のために使用することができる。甲殻類のフサリウム症は1972年に日本の養殖クルマエビで報告されて以来、多くの国で報告されるようになった。フサリウム症は一旦発症すると有効な治療法がないため、多大な被害を与える。フサリウム症のクルマエビの鰓を顕微鏡で観察すると、鰓糸内で繁殖した菌糸が鰓外に伸長し、大分生子や小分生子を産生しているのを観察することができる。フサリウム症の主たる病原菌は、Fusarium solaniであるが、Fusarium moniliformeやFusarium graminiarum、F.oxysporumを原因とするフサリウム症もある。
【0014】
本発明のフサリウム抑制剤の使用の対象となるフサリウム菌の種類は特に限定されず、例えば、Fusarium solani、Fusarium moniliforme、Fusarium graminiarum、又はFusarium oxysporumの何れに対しても使用することができる。特に好ましくは、本発明のフサリウム抑制剤は、Fusarium solaniの抑制のために使用することができる。
【0015】
本発明のフサリウム抑制剤は、生体におけるフサリウム症の防除に使用することができる。本発明で言う生体とは、ヒトを含めて最も広義に解釈されるものであり、例えば、魚介類(養殖魚介類を含む)、家畜、家禽、ペット、ヒトなどが挙げられる。より具体的には、ハマチ、マダイ、フグ、マグロ、ヒラメ、シマアジ、マアジ、サケ、ギンザケ、コイ、ウナギ、ニジマス、アユ、エビ類(クルマエビ、ボタンエビ、イセエビ、ロブスター、ブラックタイガー等)、カニ類(カブトガニ、タラバガニ、ズワイガニ、ワタリガニ、ケガニ等)、貝類(アワビ、サザエ等)等の魚介類;豚、牛、馬、ヤギ、鹿、ウサギ、ミンク、羊、山羊等の家畜類、ニワトリ(ブロイラー、採卵鶏の両方を含む)、七面鳥、アヒル、ウズラ、カモ、キジまたはガチョウ等の家禽類、犬又は猫などのペットなどが挙げられる。特に好ましくは、本発明のフサリウム抑制剤は、魚介類におけるフサリウム症の防除に使用することができる。魚介類としては上記したものの中でも、カニ類又はエビ類などの甲殻類が好ましい。
【0016】
本発明のフサリウム抑制剤は、魚介類用飼料、家畜・家禽用飼料、食品用、医療用、建材・塗料用、農園芸用等として、広汎な分野で使用することができるが、好ましくは、魚介類用飼料として使用することができる。好ましくは、フサリウム症(鰓黒病など)の防除を目的として、酪酸を、餌に混合したり、あるいは魚介類に直接噴霧したり浸漬することなどにより、魚介類に酪酸を投与することができる。また、酪酸を養殖場の水中に直接投与することも可能である。さらに、養殖に用いる器具を、浸漬などの方法によって酪酸で処理することもできる。
【0017】
また、本発明のフサリウム抑制剤としては、酪酸、酪酸塩又は酪酸エステルをそのまま使用してもよいし、あるいは、通常用いられる固体担体、液体担体、乳化分散剤等と酪酸とを混合した後、錠剤、粉剤、水和剤、乳剤、カプセル剤等の形に製剤化してもよい。上記担体としては、水、アルコール、ゼラチン、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、ラクトース、鉱物粉末、アラビアゴム、植物油等が挙げられる。
【0018】
酪酸を飼料(好ましくは魚介類用飼料)に配合する場合、当該飼料における酪酸、酪酸塩又は酪酸エステルの含有量は特には限定されないが、一般的には0.001重量%〜10重量%であり、好ましくは0.01重量%〜1.0重量%の範囲である。
【0019】
酪酸、酪酸塩又は酪酸エステルを魚介類に摂取させる場合における投与量としては、1日の体重当たりの酪酸の摂取量として、一般的には、0.01mg〜10,000mg/体重kg/日であり、好ましくは1mg〜500mg/体重kg/日である。また、魚介類を酪酸、酪酸塩又は酪酸エステルに浸漬する場合の酪酸、酪酸塩又は酪酸エステルの使用量(濃度)としては、飼育水に散布溶解させる場合は飼育水1t当たり10〜10,000g(即ち、0.001重量%〜1.0重量%)であり、浸漬薬浴させる場合は、浸漬時間(30秒〜5分)によって異なるが、一般的には、浸漬水1t当たり100〜250,000g(0.01重量%〜25重量%)である。
【0020】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
実施例1:カブトガニ(Tachypleus tridentatus)からの菌分離と同定
(i)材料および方法
(1)供試カブトガニ
鰓の黒色化した体重:3680g、体長:57.4cmのカブトガニ(Tachypleus tridentatus)と体重:642g、体長:19.5cmのカブトガニ、および甲羅の溶解した143g、11.5cmのカブトガニを用いた。
(2)培養条件
D−(+)グルコース(ナカライテスク)4g、トリペプトン(Difco)1g、寒天粉末(和光純薬工業)1.5gを蒸留水100mlに溶解したサブロー寒天培地を用いた。
【0022】
(3)分離方法
鰓の黒色化した2検体からは、黒色化した組織部分を、甲羅の溶解した検体は甲羅組織を数mmに切り取ったものをサブロー寒天培地上に置き菌分離を行うとともに、解剖し内臓部分からも菌分離を行った。分離菌は20℃で1週間培養した。
【0023】
(4)シクロヘキシミドへの感受性
シクロヘキシミド(和光純薬)5mgを滅菌蒸留水0.5mlに溶解したのち滅菌済みの直径8mmのディスク(東洋製作所)に、ピペットマンを用いて薬剤を50μl染み込ませたものを混釈培地上にのせ20℃で培養、10日後に阻止円を観察した。
【0024】
(5)同定方法
シャーレに流し込んだサブロー寒天培地をさいの目に切り取り、スライドガラス上に載せ、菌を四隅に植菌し、カバーガラスで被いシャーレ内に置き、蓋をしたのち20℃で3日間培養後、カバーガラスをはがし培地片を静かに取り除いたのち、メチレンブルー(Chroma-cesellschaft)を用いて染色後、顕微鏡下(×400)にて菌糸、胞子等の形状等を観察、同定表を用いて同定した。
【0025】
(ii)結果
体重:3680g、体長:57.4cmのカブトガニの鰓の黒色下した組織から白色の綿毛状のコロニーが形成され、同じく鰓の黒色下した鰓の黒色化した体重:642g、体長:19.5cmのカブトガニの異常組織からも白色の綿毛状のコロニーの形成が観察された。また、143g、11.5cmのカブトガニの溶解した甲羅組織と内臓部、からも白色の綿毛状のコロニーの形成が見られた。顕微鏡下では1細胞以上の胞子が観察され、またその胞子には横のみに隔壁が観察された。大部分の胞子は2細胞以上、カヌー形通常粘魂となっていたことからFusariumu sp.に同定した(養殖 2005;5:3:41;図説 臨床検査法 細菌・真菌学 三輪谷俊夫 医歯薬出版株式会社 1982 305-341;及び魚病学概論 室賀喜可雄 室井周三 株式会社垣星社厚生閣 1996 152-153)。さらにシクロヘキシミドに耐性を有し、大小2種類の胞子、隔壁を有する長い分生子形成細胞の先端に小分生子が塊状に形成、厚膜胞子の形成が観察されることからFusariumu solaniに同定した(山陽新聞ファンブックスカブトガニ 惣路紀通 山陽新聞社 1993)。体重:3,680kg、体長:57.4cmの黒色化した鰓組織から分離した菌をStrain No.1とし、体重:642g、体長:19.5cmの黒色化した鰓組織から分離した菌をStrain No.2、甲羅の溶解した体重:143g、体長:11.5cmのカブトガニから分離した菌をStrain No.3とした(図1)。
【0026】
(iii)考察
クルマエビにおけるフサリウム真菌症の原因菌は主にF.solani、F.moniliforme、F.graminiarum、F.oxysporumが報告されている。F.solaniの特徴は長いフィアラドの先端に分生子が塊状に、F.moniliformeは小分生子が連鎖状に形成され、F.graminiarumは小分生子が形成されず、大分生子のみ形成され、F.oxysporumは分生子柄上に薪を束ねたように分生子が形成されるのが特徴である。このことから、本分離菌はF.solaniの特徴を満たしている。カブトガニの鰓の黒色化および死亡原因は、鰓の黒色化はメラニン色素の沈着が原因と考えられ、株1を分離したカブトガニはすべての鰓書から黒色化を観察できたことから、死亡原因は鰓にF.solaniが寄生することにより鰓組織の破壊や菌糸および壊死組織、これらの血球等による被包物が鰓の血管を閉鎖することによる呼吸障害が主として考えられる(金井 興美 細菌・真菌検査 第3版 財団法人日本公衆衛生協会 1966 N2-N21 M2-M49)。株2を分離したカブトガニは鰓の黒色化よりも蓋板、第一付属肢、第四付属肢に損傷が見られた。特に蓋板は損傷が酷く半分しか残っていない状態であった。また、膨張が見られ、中には血液が溜まっていた。解剖時には白乳化が見られた。また、第一、四付属肢は鰓書の破損も見られ、腐敗臭も感じられた。株2を分離したカブトガニは鰓書よりも付属肢に黒色化が観察され菌の分離が行えたが、黒色化の見られない鰓書部分からは菌は分離されなかった。甲殻類のメラニン蓄積のメカニズムは、生体内のフェノール酸化によって引き起こされる。甲羅の溶解を病調とする株3を分離したカブトガニは甲羅のほかに内臓部からもF.solaniの分離が認められたことから、甲羅に寄生したF.solaniが内臓部分に転移したためであると考えられる。また、鰓の黒色化は見られず分離も行えなかった。
【0027】
実施例2:分離菌を用いた感染実験
(i)材料および方法
(1)感染実験方法
鰓の黒色化、甲羅の腐食およびF.solaniの菌が認められないことを確認済みのアメリカカブトガニ(Limulus polyphemus)を用いた。
(2)接種菌株
実施例1でカブトガニから分離した菌株Strain No.1、2、3株を用いた。
(3)生理食塩水
塩化ナトリウム(和光純薬)1.35g、塩化カリウム(和光純薬)0.06g、塩化カルシウム二水和物(和光純薬)0.033g、炭酸水素ナトリウム(和光純薬)0.002g、塩化マグネシウム(試薬特級 関東化学)0.035gおよび尿素(和光純薬)2.5gを100mlの蒸留水に溶解した。
【0028】
(4)菌の調節
分生子数が5.0×105conidia/mlになるよう血球計算板を用いて生理食塩水で調節した。
(5)菌の接種
アメリカカブトガニに調節した菌液を0.05mlを体節に注射した。
(6)飼育方法
1Lのビーカーに約1cm砂を敷き詰め、止水飼育を行った、飼料は市販の配合飼料を与えた。
【0029】
(7)対照区の調節
対照区として鰓等に異常のないカブトガニを、1Lのビーカーに約1cm砂を敷き詰め、止水飼育を行った、飼料は市販の配合飼料を与えた。
(8)観察材料の接種・同定
瀕死直後のカブトガニを採取したのち、病変部および体内からサブロー寒天培地上に菌分離を行った。分離菌のコロニーの性状および分離菌の塗沫標本を作製し、メチレンブルーで染色し顕微鏡で菌糸、胞子の形状を観察、同定表を用いて同定、および、接種した分離菌と比較する。
【0030】
(ii)結果
分離菌株Strain No.1を接種したアメリカカブトガニは21日後に死亡が確認でき、Strain No.2を接種したアメリカカブトガニは29日後に死亡が確認された。二匹の鰓には黒色化を確認できた。鰓の黒色部および体内から白色の綿毛上のコロニーが確認され、顕微鏡下では1細胞以上の胞子が観察され、またその胞子には横のみに隔壁が観察された。大部分の胞子は2細胞以上、カヌー形通常粘魂となり、シクロヘキシミドに対して耐性を示した。上記の通り、鰓の黒色化を病調とするカブトガニ2検体から分離された分類菌Strain No.1、2を接種し感染実験を行ったアメリカカブトガニから鰓の黒色化が観察され、再現性が確認されたことから鰓の黒色化の原因菌は、F.solaniであると考えられる。
【0031】
実施例3:薬剤感受性試験1
アンホテリシンB、ミコナゾール、メチオニンアナログ、5%クエン酸、80%乳酸、酪酸を用いて薬剤感受性試験をディスク法にて行いF.solaniにして有効な薬剤を検討した。
(i)材料および方法
(1)培養培地
実施例1と同様の培地を使用。
(2)生理食塩水
実施例2と同様の生理食塩水を使用。
(3)供試菌の調節
滅菌生理食塩水に1mlに分離菌を2白金耳浮遊させたものをディスク法では使用した。液体希釈法では分離菌を滅菌生理食塩水1mlに対して2白金耳量の菌を浮遊させた。なお、供試菌はサブロー寒天培地上で20℃、1週間培養したものを用いた。
【0032】
(4)菌の接種
ディスク法では調節した菌液1mlをサブロー寒天培地に混釈した。液体希釈法では調節した菌液を0.1mlとり、調節した試験管内の薬剤に混ぜ合わせた。対称区として5.0mlの滅菌生理食塩水にも菌液を同量摂取した。
(5)薬剤調節
アンホテリシンB(Makor Chemicals)は5mgを滅菌蒸留水0.5mlに溶解した薬剤を滅菌蒸留水で10倍、100倍希釈した。メチオニンアナログ、5%クエン酸、80%乳酸、酪酸も同様に原液を滅菌蒸留水を用いて10倍、100倍希釈した。
【0033】
(6)法薬剤接種法
滅菌済みの直径8mmのディスク(東洋製作所)に、原液、10倍、100倍濃度の薬剤をアンホテリシンB(Makor Chemicals)は50μl染み込ませ、メチオニンアナログ、クエン酸、乳酸、酪酸は20μl薬剤を染み込ませた。
【0034】
(7)ディスクの接種・培養条件
薬剤を染み込ませたディスクを作成し混釈培地の中心にのせ、20℃、1週間培養した。
(8)測定方法
阻止円の直径9〜18mmを「+」、19〜22mmを「++」、30〜「+++」、00「−」と4段階で評価した。
【0035】
(ii)結果
結果を表1及び図2に示す。アンホテリシンB(16mg/ml)に対しては3株ともに薬剤感受性を示した。メチオニンアナログは原液の結果がStrain No.1ではふたつとも27mmを示し、Strain No.2では15、14mm、Strain No.3では14、13mmという結果になり10倍、100倍濃度では3株ともに耐性だった。5%クエン酸原液ではStrain No.1では16、17mmとなりStrain No.2では13、15mm、Strain No.3ではふたつとも16mmを示した。10倍、100倍濃度では3株ともに耐性だった。80%乳酸の結果はStrain No.1では18、12mm性となりStrain No.2では19、18mm、10倍希釈では17、18mmを示した。Strain No.3では21、19mmを示した。Strain No.1、3ともに10倍、100倍希釈では耐性を示した。酪酸ではStrain No.1では原液で71、66mm、10倍希釈では20、16mmを示したが、100倍希釈では耐性を示した。Strain No.2は69、47mmを示し、10倍希釈では20、21mmを示したが、100倍希釈では耐性となった。Strain No.3では原液がふたつとも57mm、10倍希釈では18、21mmを示した。100倍希釈では耐性となった(表1)。
【0036】
(iii)考察
抗真菌剤であるアンホテリシンB、ミコナゾールよりも分離菌はメチオニンアナログ、5%クエン酸、80%乳酸、酪酸等の酸に対して強い感受性を示し、特に酪酸に対してより強い感受性を示したことから、酪酸による治療法が有効であると考えられる。有機酸であるこれらの酸は、pHを下げ、至適条件から外れた条件下におくことにより、酵素の活性を下げることで分離菌の発育を抑制できたと考えられる。特に酪酸はpH1付近と強酸であることから分離菌に対して強い感受性を示したと考えられる。クエン酸、乳酸、酪酸のpka値はそれぞれ3.13、3.83、4.82であることから、pkh値が高い程分離菌に対して強い感受性を示していることが分かった。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例4:薬剤感受性試験2
クルマエビ(Penaeus Japonicus)から単離したFusarium solani(Strain No.1とStrain No.2の2株)を用いて、実施例3と同様に薬剤感受性試験を行った。薬剤としては、メチオニンアナログ、5%クエン酸、80%乳酸、及び酪酸の原液、10倍希釈及び100倍希釈を用いた。結果を以下の表2に示す。
【0039】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、感染したカブトガニから単離した菌を示す。メチレンブルー染色。a:黒色化した鰓孔のカブトガニから単離した菌(Strain No.1)(×400)。菌糸体及び分生子(矢印)。b:黒色化した鰓孔のカブトガニから単離した菌(Strain No.2)(×400)。菌糸体及び分生子(矢印)。c:甲羅の溶解したカブトガニから単離した菌(Strain No.2)(×400)。菌糸体及び分生子(矢印)。
【図2】図2は、アンホテリシンB、ミコナゾール、メチオニンアナログ、5%クエン酸、80%乳酸、酪酸を用いた薬剤感受性を試験の結果を示す。図aでは、アンホテリシンBを使用し、7日目で、Strain No.1の阻止円は17mm又は18mmであった。図bでは、ミコナゾールを使用し、7日目で、Strain No.1の阻止円は認められなかった。図cでは、メチオニンアナログを使用し、7日目で、Strain No.1の阻止円は27mmであった。図dでは、5%クエン酸を使用し、7日目で、Strain No.3の阻止円は16mm又は17mmであった。図eでは、80%乳酸を使用し、7日目で、Strain No.2の阻止円は19mm又は18mmであった。図eでは、酪酸を使用し、7日目で、Strain No.2の阻止円は69mm又は47mmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酪酸、酪酸塩又は酪酸エステルを有効成分として含む、フサリウム抑制剤。
【請求項2】
魚介類におけるフサリウム症の防除に使用するための請求項1に記載のフサリウム抑制剤。
【請求項3】
魚介類が甲殻類である、請求項2に記載のフサリウム抑制剤。
【請求項4】
魚介類がカニ類又はエビ類である、請求項2又は3に記載のフサリウム抑制剤。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載のフサリウム抑制剤を含む、魚介類用飼料。
【請求項6】
酪酸を魚介類に付与することを含む、魚介類におけるフサリウム症を防除する方法。
【請求項7】
魚介類が甲殻類である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
魚介類がカニ類又はエビ類である、請求項6又は7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−320936(P2007−320936A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155715(P2006−155715)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(500514074)物産バイオテック株式会社 (3)
【出願人】(506192249)学校法人 福山大学 (1)
【Fターム(参考)】