説明

フタロシアニン化合物

【課題】800〜1000nmの近赤外線の波長域に最大吸収波長を有し、かつ600〜610nmの赤色光を特異的に透過することができるフタロシアニン化合物を提供する。
【解決手段】フタロシアニン骨格のα位に−NHCH(R)(R)もしくは−ORを導入し、さらにβ位に−ORもしくは−SRを導入したフタロシアニン化合物、または、4個のα位および該α位に隣接する4個のβ位を−X−Ar−X−で環化し、フタロシアニン骨格の残りの4個のα位に−NHCH(R)(R)を導入し、さらに、残りの4個のβ位に−ORもしくは−SRを導入したフタロシアニン化合物またはその位置異性体。この際、RまたはRのいずれか一方は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換フェニル基、置換もしくは非置換ナフチル基、または置換もしくは非置換アントリル基であり、残りの一方は、炭素原子数1〜4個のアルキル基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フタロシアニン化合物に関するものである。詳しくは、本発明は、800〜1000nmの近赤外線の波長域に最大吸収波長を有し、かつ600〜610nmの赤色光を特異的に透過することができるフタロシアニン化合物に関するものである。本発明のフタロシアニン化合物は、特に、プラズマディスプレイ用近赤外吸収フィルターに好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
近年、薄型で大画面にできるディスプレイとしてフラットパネルディスプレイが注目されている。なかでも、プラズマディスプレイパネル(PDP:Plasma Display Panel)や液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)等が市場に大きく広がり注目されている。しかしながら、PDPは、プラズマ放電の際に近赤外線が発生し、この近赤外線が家電用テレビ、クーラー、ビデオデッキ等のリモコン等の周辺電子機器、さらには伝送系光通信の誤動作を誘発することがあり、この近赤外線をカットする近赤外線吸収フィルターを前面に設置することが必要とされる。
【0003】
上記目的として、可視光線透過率が高く、ディスプレイの鮮明度を損なわず、ディスプレイから出る800〜1000nmの比較的長波長域の近赤外線光を効率よくカットできる、すなわち、当該波長域の近赤外線の選択吸収能に優れたフタロシアニン系色素およびこれらを用いた近赤外線吸収フィルターについて、様々な研究がなされてきた(例えば、特許文献1〜3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−026748号公報
【特許文献2】特開2001−106689号公報
【特許文献3】特開2004−309655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、PDPの放電時には、上述の近赤外線光の他に、ネオンガスへの放電によってオレンジ色光(590nm近傍)が生じる。このオレンジ色光は、PDPにおいて、色再現性悪化の原因となるので、通常、上述の近赤外線を吸収する色素に加えて、590nm近傍のオレンジ色光を特異的に吸収する色素等を分散したフィルター等を用いてネオンガス由来のオレンジ色光をカットする手法が用いられている。ところが、上述のように590nm近傍のオレンジ色光を特異的に吸収する色素等を用いると、オレンジ色光の吸収と同時に、オレンジ色光と波長が近い赤色光(600nm近傍)も一部吸収されてしまい、その結果、赤色の純度が落ちて、色再現性が悪化するという問題点を有していた。より高い色再現性が追及されるPDPにおいては、赤色の純度を高めるために、赤色光(600〜610nm)の透過率を向上することが求められていた。
【0006】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされ、800〜1000nmの近赤外線の波長域に最大吸収波長を有し、かつ600〜610nmの赤色光を特異的に透過することができるフタロシアニン化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、フタロシアニン骨格のα位に−NHCH(R)(R)もしくは−ORを導入し、Z、Z、Z、Z、Z、Z12、Z13、およびZ16のうちの少なくとも4個は、NHCH(R)(R)であり、さらにフタロシアニン骨格のβ位に−ORもしくは−SRを導入したフタロシアニン化合物、または、フタロシアニン骨格の4個のα位および該α位に隣接する4個のβ位を−X−Ar−X−で環化し、フタロシアニン骨格の残りの4個のα位に−NHCH(R)(R)を導入し、さらに、フタロシアニン骨格の残りの4個のβ位に−ORもしくは−SRを導入したフタロシアニン化合物またはその位置異性体において、RまたはRのいずれか一方に、それぞれ独立して、置換もしくは非置換フェニル基、置換もしくは非置換ナフチル基、または置換もしくは非置換アントリル基を導入し、残りの一方に、炭素原子数1〜4個のアルキル基を導入することによって800〜1000nmの近赤外線光の波長域に最大吸収波長を有することを見出した。そして、上記知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、上記目的を達成するための本発明は、下記式(1):
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Z、Z、Z、Z、Z、Z12、Z13、およびZ16は、それぞれ独立して、NHCH(R)(R)またはORを表し、Z、Z、Z、Z、Z、Z12、Z13、およびZ16のうちの少なくとも4個は、NHCH(R)(R)であり、Z、Z、Z、Z、Z10、Z11、Z14、およびZ15は、それぞれ独立して、ORまたはSRを表し、この際、RまたはRのいずれか一方は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換フェニル基、置換もしくは非置換ナフチル基、または置換もしくは非置換アントリル基を表し、残りの一方は、炭素原子数1〜4個のアルキル基を表し、RおよびRは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のフェニル基、置換もしくは非置換のアラルキル基、または置換もしくは非置換の炭素原子数1〜20個のアルキル基を表し、Mは、無金属、金属、金属酸化物、または金属ハロゲン化物を表す。)で示されるフタロシアニン化合物または
下記式(2):
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、Xは、それぞれ独立して、酸素原子(−O−)または硫黄原子(−S−)を表し、Arは、それぞれ独立して、o−フェニレン基、o−ナフチレン基、またはo−アントリレン基を表し、Z、Z、Z12、およびZ16は、それぞれ独立して、NHCH(R)(R)を表し、Z、Z、Z11、およびZ15は、それぞれ独立して、ORまたはSRを表し、この際、RまたはRのいずれか一方は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換フェニル基、置換もしくは非置換ナフチル基、または置換もしくは非置換アントリル基を表し、残りの一方は、炭素原子数1〜4個のアルキル基を表し、RおよびRは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のフェニル基、置換もしくは非置換のアラルキル基、または置換もしくは非置換の炭素原子数1〜20個のアルキル基を表し、Mは、無金属、金属、金属酸化物、または金属ハロゲン化物を表す。)で示されるフタロシアニン化合物もしくはその位置異性体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のフタロシアニン化合物は、800〜1000nmの波長域で高い近赤外線カット効率を発揮し、かつ600〜610nmの赤色光を特異的に透過することができる。したがって、本発明のフタロシアニン化合物は、PDP用近赤外線吸収フィルターに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1〜5ならびに比較例1および2の波長域400〜1100nmにおける透過率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明は、下記式(1):
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、Z、Z、Z、Z、Z、Z12、Z13、およびZ16は、それぞれ独立して、NHCH(R)(R)またはORを表し、Z、Z、Z、Z、Z、Z12、Z13、およびZ16のうちの少なくとも4個は、NHCH(R)(R)であり、Z、Z、Z、Z、Z10、Z11、Z14、およびZ15は、それぞれ独立して、ORまたはSRを表し、この際、RまたはRのいずれか一方は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換フェニル基、置換もしくは非置換ナフチル基、または置換もしくは非置換アントリル基を表し、残りの一方は、炭素原子数1〜4個のアルキル基を表し、RおよびRは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のフェニル基、置換もしくは非置換のアラルキル基、または置換もしくは非置換の炭素原子数1〜20個のアルキル基を表し、Mは、無金属、金属、金属酸化物、または金属ハロゲン化物を表す。)で示されるフタロシアニン化合物または
下記式(2):
【0019】
【化4】

【0020】
(式中、Xは、それぞれ独立して、酸素原子(−O−)または硫黄原子(−S−)を表し、Arは、それぞれ独立して、o−フェニレン基、o−ナフチレン基、またはo−アントリレン基を表し、Z、Z、Z12、およびZ16は、それぞれ独立して、NHCH(R)(R)を表し、Z、Z、Z11、およびZ15は、それぞれ独立して、ORまたはSRを表し、この際、RまたはRのいずれか一方は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換フェニル基、置換もしくは非置換ナフチル基、または置換もしくは非置換アントリル基を表し、残りの一方は、炭素原子数1〜4個のアルキル基を表し、RおよびRは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のフェニル基、置換もしくは非置換のアラルキル基、または置換もしくは非置換の炭素原子数1〜20個のアルキル基を表し、Mは、無金属、金属、金属酸化物、または金属ハロゲン化物を表す。)で示されるフタロシアニン化合物もしくはその位置異性体に関するものである。
【0021】
以下、上記式(1)で示されるフタロシアニン化合物について詳細に説明する。
【0022】
まず、上記式(1)中、Z、Z、Z、Z、Z、Z12、Z13、およびZ16(一括して、「α位」とも称する)は、それぞれ独立して、NHCH(R)(R)またはORを表す。この際、Z、Z、Z、Z、Z、Z12、Z13およびZ16は、同一であってもあるいは異なるものであってもよく、複数のR〜Rが存在する場合には、これらのR〜Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよい。
【0023】
そして、Z、Z、Z、Z、Z、Z12、Z13、およびZ16のうちの少なくとも4個(すなわち、Z、Z、Z、Z、Z、Z12、Z13、およびZ16のうちの4〜8個)は、NHCH(R)(R)である。このうち、Z、Z、Z、Z、Z、Z12、Z13、およびZ16のうちの4〜7個がNHCH(R)(R)であることが好ましく、4〜6個がNHCH(R)(R)であることがより好ましく、4個または5個がNHCH(R)(R)であることがさらに好ましく、4個がNHCH(R)(R)であることが特に好ましい。
【0024】
また、上記式(1)中、Z、Z、Z、Z、Z10、Z11、Z14、およびZ15(一括して、「β位」とも称する)は、それぞれ独立して、ORまたはSRを表す。この際、Z、Z、Z、Z、Z10、Z11、Z14、およびZ15は、同一であってもあるいは異なるものであってもよく、複数のRおよびRが存在する場合には、これらのRおよびRは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよい。
【0025】
そして、上記RまたはRのいずれか一方は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換フェニル基、置換もしくは非置換ナフチル基、または置換もしくは非置換アントリル基を表す。この際、複数のRおよびRは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよい。このうち、RまたはRのいずれか一方は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換フェニル基であることが好ましく、非置換のフェニル基であることがより好ましい。また、RまたはRの残りの一方は、メチル基であることが好ましい。
【0026】
さらに、上記RまたはRの残りの一方は、炭素原子数1〜4個のアルキル基を表す。表炭素原子数1〜4個のアルキル基とは、炭素原子数1〜4個の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基のいずれかである。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基等が挙げられる。このうち、メチル基、エチル基、およびn−プロピル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0027】
また、上記Rおよび上記Rは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のフェニル基、置換もしくは非置換のアラルキル基、または置換もしくは非置換の炭素原子数1〜20個のアルキル基を表す。この際、複数のRおよびRが存在する場合には、これらのRおよびRは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよい。
【0028】
ここで、アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基等が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
なお、上記Rまたは上記Rにおける、置換もしくは非置換フェニル基、置換もしくは非置換ナフチル基、または置換もしくは非置換アントリル基、あるいは、上記R3および上記R4におけるフェニル基、もしくはアラルキル基に存在しうる置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アシル基、アルキル基、フェニル基、アルコキシル基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アルキルチオ基、カルバモイル基、アリールオキシカルボニル基、オキシアルキルエーテル基、シアノ基等が例示できるが、これらに限定されるものではない。これらの置換基は、フェニル基またはアラルキル基に1〜5個、ナフチル基に1〜7個、アントリル基に1〜9個置換可能であり、これらの置換基の種類も、複数個置換する場合には同種もしくは異種のいずれであってもよい。上記置換基よりその一部をより具体的な例を挙げて以下に示す。
【0030】
まず、上記フェニル基、ナフチル基、アントリル基、またはアラルキル基に存在しうる置換基のうちハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子である。
【0031】
また、上記フェニル基、ナフチル基、アントリル基、またはアラルキル基に存在しうる置換基のうちアシル基としては、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ブチルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、ヘキシルカルボニル基、ベンゾイル基、p−t−ブチルベンゾイル基等が挙げられ、これらのうち、エチルカルボニル基が好ましい。
【0032】
また、上記フェニル基、ナフチル基、アントリル基、またはアラルキル基に存在しうる置換基のうちアルキル基とは、炭素原子数1〜20個の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−イソプロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、2−メチル−1−イソプロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。これらのうち、メチル基およびエチル基が好ましい。
【0033】
上記フェニル基、ナフチル基、アントリル基、またはアラルキル基に存在しうる置換基のうち、アルコキシル基は、炭素原子数1〜20個の直鎖、分岐鎖または環状のアルコキシル基である。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、1,2−ジメチル−プロポキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、1,3−ジメチルブトキシ基、1−イソプロピルプロポキシ基等が挙げられる。これらのうち、メトキシ基およびエトキシ基が好ましい。
【0034】
上記フェニル基、ナフチル基、アントリル基、またはアラルキル基に存在しうる置換基のうち、ハロゲン化アルキル基とは、炭素原子数1〜20個の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基の一部がハロゲン化されたものである。具体的には、クロロメチル基、ブロモメチル基、トリフルオロメチル基、クロロエチル基、2,2,2−トリクロロエチル基、ブロモエチル基、クロロプロピル基、ブロモプロピル基等が挙げられる。
【0035】
上記フェニル基、ナフチル基、アントリル基、またはアラルキル基に存在しうる置換基のうち、ハロゲン化アルコキシル基とは、炭素原子数1〜20個の直鎖、分岐鎖または環状のアルコキシル基の一部がハロゲン化されたものである。具体的には、クロロメトキシ基、ブロモメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、クロロエトキシ基、2,2,2−トリクロロエトキシ基、ブロモエトキシ基、クロロプロポキシ基、ブロモプロポキシ基等が挙げられる。
【0036】
上記フェニル基、ナフチル基、アントリル基、またはアラルキル基に存在しうる置換基のうち、アルキルアミノ基とは、炭素原子数1〜20個のアルキル部位を有するアルキルアミノ基である。具体的には、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n−プロピルアミノ基、n−ブチルアミノ基、sec−ブチルアミノ基、n−ペンチルアミノ基、n−ヘキシルアミノ基、n−ヘプチルアミノ基、n−オクチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基等が挙げられる。これらのうち、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n−プロピルアミノ基およびn−ブチルアミノ基が好ましい。
【0037】
上記フェニル基、ナフチル基、アントリル基、またはアラルキル基に存在しうる置換基のうち、アルコキシカルボニル基とは、アルコキシル基のアルキル基部分にヘテロ原子を含んでもよい炭素原子数1〜8個のアルコキシカルボニル、またはヘテロ原子を含んでもよい炭素原子数3〜8個の環状アルコキシカルボニルを示す。具体的には、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基等が挙げられる。これらのうち、メトキシカルボニル基およびエトキシカルボニル基が好ましい。
【0038】
一方、非置換の炭素原子数1〜20個のアルキル基は、炭素原子数1〜20の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基のいずれかである。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−イソプロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、2−メチル1−イソプロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。これらのうち、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基およびn−ブチル基が好ましい。
【0039】
また、上記炭素原子数1〜20個のアルキル基に存在しうる置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルコキシル基、ヒドロキシアルコキシル基、アルコキシアルコキシル基、ハロゲン化アルコキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基等が例示できるが、これらに限定されるものではない。これらの置換基の種類は、複数個置換する場合には同種もしくは異種のいずれであってもよい。これらの置換基の一部のより具体的な例としては、先にフェニル基、ナフチル基、アントリル基、またはアラルキル基に存在しうる置換基の一部のより具体的な例として挙げたものであつてもよいため、ここでは省略する。
【0040】
さらに、上記式(1)中、Mは、無金属、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物を表す。この際、無金属とは、金属以外の原子、例えば、2個の水素原子であることを意味する。また、金属としては、鉄、マグネシウム、ニッケル、コバルト、銅、パラジウム、亜鉛、バナジウム、チタン、インジウム、錫等が挙げられる。金属酸化物としては、チタニル、バナジル等が挙げられる。金属ハロゲン化物としては、塩化アルミニウム、塩化インジウム、塩化ゲルマニウム、塩化錫(II)、塩化錫(IV)、塩化珪素等が挙げられる。このうち、Mは、銅(Cu)またはバナジル(VO)であることが好ましい。
【0041】
次に、上記式(2)で示されるフタロシアニン化合物について詳細に説明する。
【0042】
まず、上記式(2)中、Xは、それぞれ独立して、酸素原子(−O−)または硫黄原子(−S−)を表す。この際、複数のXが、それぞれ、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。
【0043】
また、上記式(2)中、Arは、それぞれ独立して、o−フェニレン基、o−ナフチレン基、またはo−アントリレン基を表す。この際、複数のArが、それぞれ、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。
【0044】
そして、上記式(2)中、Z、Z、Z12、およびZ16は、それぞれ独立して、NHCH(R)(R)を表す。この際、複数のRまたはRは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよい。
【0045】
また、上記式(2)中、Z、Z、Z11、およびZ15は、それぞれ独立して、ORまたはSRを表す。この際、Z、Z、Z11、およびZ15は、同一であってもあるいは異なるものであってもよく、複数のRおよびRが存在する場合には、これらのRおよびRは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよい。
【0046】
なお、上記式(2)において、R〜Rは、上記式(1)におけるR〜Rと同様である。
【0047】
また、上記式(2)中、Mは、上記式(1)中のMと同様である。
【0048】
さらに、上記式(2)で示されるフタロシアニン化合物の位置異性体も、本発明の技術的範囲に含まれる。ここで、位置異性体とは、一般的には、分子中の置換基の位置の違いにより生ずる構造異性体をいう。上記フタロシアニン上記式(2)で示されるフタロシアニン化合物における位置異性体としては、ZおよびZ、ZおよびZ、Z11およびZ12、またはZ15およびZ16と、これら一対の置換基と同一のイソインドール環(下記式(2’)の破線部)に結合する−X−Ar−X−との位置が入れ替わった化合物が挙げられる。こうした置換基の位置の入れ替わりは、フタロシアニン化合物の4個のイソインドール環においてそれぞれ独立して起こり得る。このような位置異性体の一例としては、下記式(2’)で示される化合物が挙げられる。
【0049】
【化5】

【0050】
上記式(2’)で示されるフタロシアニン化合物は、ZおよびZと、ZおよびZと同一のイソインドール環に結合する−X−Ar−X−との位置が入れ替わった構造を有する。
【0051】
次に、本発明のフタロシアニン化合物の好ましい形態を説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、これらの化合物に制限されるものではない。
【0052】
上記のような、本発明のフタロシアニン化合物の好ましい一例としては、下記式(3):
【0053】
【化6】

【0054】
で示されるフタロシアニン化合物(略称;CuPc({2,5−(CHPhO}{2,6−(CHPhO}(PhCH(CH)NH))が挙げられる。上記式(3)で示される化合物は、8個のα位の置換基のうち、4個がD,L−1−フェニルエチルアミノ基であり、残りの4個が2,6−ジメチルフェノキシ基である。なお、上記の化合物の略称において、Pcはフタロシアニン核を表し、Cuは中心金属の銅を表し、Pcのすぐ後にβ位に置換する8個の置換基を表し、そのβ位に置換する置換基の後にα位に置換する8個の置換基を表す。上記式(3)で示される化合物のうち、4個のイソインドール環ユニット全てにおいて、各イソインドール環の2個のα位のうち1個がD,L−1−フェニルエチルアミノ基であり、残りの1個が2,6−ジメチルフェノキシ基である、[2,3,9,10,16,17,23,24−オクタキス(2,5−ジメチルフェノキシ)−C,C,C,1−テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−C,C,C,4−テトラキス(D,L−1−フェニルエチルアミノ)−29H,31H−フタロシアニナト(2−)−N29,N30,N31,N32]銅であることがより好ましい。
【0055】
また、本発明のフタロシアニン化合物の他の好ましい一例としては、下記式(4):
【0056】
【化7】

【0057】
で示されるフタロシアニン化合物(略称;CuPc({2−CHPhO}{2,6−(CHPhO}(PhCH(CH)NH))が挙げられる。上記式(4)で示される化合物は、8個のα位の置換基のうち、4個がD,L−1−フェニルエチルアミノ基であり、残りの4個が2,6−ジメチルフェノキシ基である。上記式(4)で示される化合物のうち、4個のイソインドール環ユニット全てにおいて、各イソインドール環の2個のα位のうち1個がD,L−1−フェニルエチルアミノ基であり、残りの1個が2,6−ジメチルフェノキシ基である、[2,3,9,10,16,17,23,24−オクタキス(2−メチルフェノキシ)−C,C,C,1−テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−C,C,C,4−テトラキス(D,L−1−フェニルエチルアミノ)−29H,31H−フタロシアニナト(2−)−N29,N30,N31,N32]銅であることがより好ましい。
【0058】
また、本発明のフタロシアニン化合物の他の好ましい一例としては、下記式(5):
【0059】
【化8】

【0060】
で示されるフタロシアニン化合物(略称;CuPc({2,5−ClPhO}{2,6−(CHPhO}(PhCH(CH)NH))が挙げられる。上記式(5)で示される化合物は、8個のα位の置換基のうち、4個がD,L−1−フェニルエチルアミノ基であり、残りの4個が2,6−ジメチルフェノキシ基である。上記式(5)で示される化合物のうち、4個のイソインドール環ユニット全てにおいて、各イソインドール環の2個のα位のうち1個がD,L−1−フェニルエチルアミノ基であり、残りの1個が2,6−ジメチルフェノキシ基である、[2,3,9,10,16,17,23,24−オクタキス(2,5−ジクロロフェノキシ)−C,C,C,1−テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−C,C,C,4−テトラキス(D,L−1−フェニルエチルアミノ)−29H,31H−フタロシアニナト(2−)−N29,N30,N31,N32]銅であることがより好ましい。
【0061】
また、本発明のフタロシアニン化合物の他の好ましい一例としては、下記式(6):
【0062】
【化9】

【0063】
で示されるフタロシアニン化合物(略称;VOPc({2−CHPhO}{2,6−(CHPhO}((PhCH(CH)NH))が挙げられる。上記式(6)で示される化合物は、8個のα位の置換基のうち、4個がD,L−1−フェニルエチルアミノ基であり、残りの4個が2,6−ジメチルフェノキシ基である。上記式(6)で示される化合物のうち、4個のイソインドール環ユニット全てにおいて、各イソインドール環の2個のα位のうち1個がD,L−1−フェニルエチルアミノ基であり、残りの1個が2,6−ジメチルフェノキシ基である、[2,3,9,10,16,17,23,24−オクタキス(2,5−ジクロロフェノキシ)−C,C,C,1−テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−C,C,C,4−テトラキス(D,L−1−フェニルエチルアミノ)−29H,31H−フタロシアニナト(2−)−N29,N30,N31,N32]バナジウムオキサイドであることがより好ましい。
【0064】
また、本発明のフタロシアニン化合物の他の好ましい一例としては、下記式(7):
【0065】
【化10】

【0066】
で示されるフタロシアニン化合物(略称;CuPc({4−CHPhO}{2,6−(CHPhO}((PhCH(CH)NH))が挙げられる。上記式(7)で示される化合物は、8個のα位の置換基のうち、4個がD,L−1−フェニルエチルアミノ基であり、残りの4個が2,6−ジメチルフェノキシ基である。上記式(7)で示される化合物のうち、4個のイソインドール環ユニット全てにおいて、各イソインドール環の2個のα位のうち1個がD,L−1−フェニルエチルアミノ基であり、残りの1個が2,6−ジメチルフェノキシ基である、[2,3,9,10,16,17,23,24−オクタキス(4−メチルフェノキシ)−C,C,C,1−テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−C,C,C,4−テトラキス(D,L−1−フェニルエチルアミノ)−29H,31H−フタロシアニナト(2−)−N29,N30,N31,N32]銅であることがより好ましい。
【0067】
上記式(3)〜(7)で示されるフタロシアニン化合物は、800〜1000nmの近赤外線の波長域に最大吸収波長を有し、かつ波長域600〜610nmの赤色光を特異的に透過する。したがって、上記式(3)〜(7)で示されるフタロシアニン化合物をPDP用近赤外線吸収フィルターに用いることによって、従来の近赤外線吸収効果に加えて、赤色光の透過を高めることができるため、PDPの赤色の純度が高まり、色再現性が向上しうる。
【0068】
本発明のフタロシアニン化合物の製造方法は、特に制限されるものではなく、特開2001−106689号公報、特開2005−220060号公報および特開2008−231153号公報等の従来公知の方法を適宜採用することができるが、好ましくは溶融状態または有機溶媒中で、フタロニトリル化合物と金属塩とを環化反応する方法が特に好ましく使用できる。以下、本発明のフタロシアニン化合物の製造方法の特に好ましい実施形態を記載する。ただし、本発明は、下記の好ましい実施形態に制限されるものではない。
【0069】
例えば、本発明の上記式(1)で示されるフタロシアニン化合物を合成するには、下記式(8):
【0070】
【化11】

【0071】
で示されるフタロニトリル化合物(A)、下記式(9):
【0072】
【化12】

【0073】
で示されるフタロニトリル化合物(B)、下記式(10):
【0074】
【化13】

【0075】
で示されるフタロニトリル化合物(C)、および下記式(11):
【0076】
【化14】

【0077】
で示されるフタロニトリル化合物(D)を、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物および有機酸金属(本明細書中では、一括して「金属塩」とも称する)からなる群から選ばれる1種と環化反応させることによって製造できる。なお、上記式(8)〜(11)中、Z〜Z16は、所望のフタロシアニン化合物(1)の構造によって規定され、上記式(1)の定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0078】
または、上記式(1)中のZ、Z、Z、Z、Z、Z12、Z13、およびZ16のいずれかがアミノ基(上記式(1)中のNHCH(R)(R))である場合には、上記フタロニトリル化合物(A)〜(D)を、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物および有機酸金属からなる群から選ばれる1種と環化反応させた後、該反応生成物をさらに下記式:NHCH(R)(R)で示されるアミノ化合物(以下、単に「アミノ化合物」とも称する)と反応させることによって、本発明のフタロシアニン化合物を製造してもよい。
【0079】
具体的には、上記フタロニトリル化合物(A)〜(D)を、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物、および有機酸金属からなる群から選ばれる1種と環化反応させることによって、アミノ基(上記式(1)中のNHCH(R)(R))を持たないフタロシアニン誘導体を合成し、次に、このようにして合成されたフタロシアニン誘導体をさらに上記式のアミノ化合物と反応させることによって、本発明のフタロシアニンを製造することができる。当該方法は、上記式のアミノ化合物のアミノ基との求核置換反応性がハロゲン原子およびSRの順で高く、ORはほとんど求核置換反応性を示さないことを利用したものであり、SRまたはハロゲン原子、特にハロゲン原子が上記式のアミノ化合物と求核置換反応することによりアミノ基(上記式(1)中のNHCH(R)(R))が形成される。このため、フタロシアニン骨格の所望の位置に効率よくアミノ基(上記式(1)中のNHCH(R)(R))を導入できる。
【0080】
上記製造方法において、上記フタロニトリル化合物(A)〜(D)は、所望のフタロシアニン構造に応じて適宜選択され、それぞれに異なる4種類のフタロニトリル化合物を用いてもよいし、1種類のフタロニトリル化合物のみを用いてもよい。
【0081】
上記態様において、出発原料である式(8)〜(11)のフタロニトリル化合物(A)〜(D)は、特開昭64−45474号公報に開示されている方法等の、従来既知の方法により合成でき、また、市販品を用いることもできるが、好ましくは、下記式(12):
【0082】
【化15】

【0083】
式中、X、X、X、およびXは、それぞれ独立して、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子等のハロゲン原子、好ましくはフッ素原子および塩素原子、特に好ましくはフッ素原子を表す、
で示されるフタロニトリル誘導体を、HORまたはHSR(RおよびRは、上記式(1)の定義と同様である)と反応させることによって得る。この際、HORまたはHSRの割合は、目的とするフタロニトリル化合物の構造によって適宜選択される。また、HORまたはHSRの使用量は、これらの反応が進行して所望のフタロニトリル化合物を製造できる量であれば特に制限されないが、例えば、フタロニトリル誘導体に1個のHORまたはHSRを導入する場合には、HORまたはHSRを、それぞれ、フタロニトリル誘導体1molに対して、通常、1〜10mol、好ましくは1〜3molの量で、フタロニトリル誘導体を反応させる。
【0084】
また、該フタロニトリル化合物は、前記式(12)で示されるフタロニトリル誘導体を、HORまたはHSRと反応させることによって得られる。この際、該フタロニトリル誘導体とHORまたはHSRとの反応は、無溶媒下であるいは有機溶媒中で行われてもよいが、好ましくは有機溶媒中で行われる。この際使用できる有機溶媒としては、アセトニトリルおよびベンゾニトリル等のニトリル;アセトンおよび2−ブタノン等の極性溶媒等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、アセトニトリル、ベンゾニトリル、およびアセトンである。溶媒を使用する際の有機溶媒の使用量は、フタロニトリル誘導体の濃度が、通常、2〜40(w/v)%、好ましくは10〜30(w/v)%となるような量である。また、このフタロニトリル誘導体とHORまたはHSRとの反応は、反応中に発生するハロゲン化水素(例えば、フッ化水素)等を除去するために、これらのトラップ剤を使用することが好ましい。トラップ剤を使用する際の具体的なトラップ剤の例としては、フッ化カリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、および炭酸マグネシウム等が挙げられ、これらのうち、フッ化カリウム、炭酸カルシウム、および水酸化カルシウムが好ましく、フッ化カリウムが最も好ましい。また、トラップ剤を使用する際のトラップ剤の使用量は、反応中に発生するハロゲン化水素等を効率よく除去できる量であれば特に制限されないが、フタロニトリル誘導体1molに対して、通常1.0〜4.0mol、好ましくは1.1〜2.0molである。
【0085】
上記方法において、環化反応は、式(8)〜(11)のフタロニトリル化合物(A)〜(D)と金属、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物、および有機酸金属からなる群から選ばれる1種を溶融状態または有機溶媒中で反応させることが好ましい。この際使用できる金属、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物、および有機酸金属としては、反応後に得られる式(1)のフタロシアニンのMに相当するものが得られるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、上記式(1)におけるMは、鉄、銅、亜鉛、バナジウム、チタン、インジウム、およびスズ等の金属、当該金属の、塩化物、臭化物、ヨウ化物等の金属ハロゲン化合物、酸化バナジウム、酸化チタニル及酸化銅等の金属酸化物、酢酸塩等の有機酸金属、ならびにアセチルアセトナート等の錯体化合物、およびカルボニル鉄等の金属カルボニル等が挙げられる。これらのうち、好ましくは金属、金属酸化物、および金属ハロゲン化物である。
【0086】
また、上記方法において、環化反応は無溶媒中でも行えるが、有機溶媒を使用して行うことが好ましい。有機溶媒は、出発原料としてのフタロニトリル化合物との反応性の低い、好ましくは反応性を示さない不活性な溶媒であればいずれでもよく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1−クロロナフタレン、1−メチルナフタレン、エチレングリコール、およびベンゾニトリル等の不活性溶媒;ならびにピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトフェノン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、1−クロロナフタレン、1−メチルナフタレン、およびベンゾニトリルが、より好ましくは、ベンゾニトリルが使用される。
【0087】
上記式(8)〜(11)で示すフタロニトリル化合物(A)〜(D)と金属化合物との反応条件は、当該反応が進行する条件であれば特に制限されるものではないが、例えば、有機溶媒100部(以下、「質量部」を意味する)に対して、該フタロニトリル化合物を2〜40部、好ましくは20〜35部の範囲の合計量で、かつ金属化合物を該フタロニトリル化合物4molに対して1〜2mol、好ましくは1.1〜1.5molの範囲で仕込んで、反応温度30〜250℃、好ましくは80〜200℃の範囲で反応させる。なお、反応後は、従来公知のフタロシアニンの合成方法に従って、ろ過、洗浄、乾燥することにより、次工程に用いることのできるフタロシアニン誘導体を効率よく、しかも高純度で得ることができる。
【0088】
該フタロシアニン誘導体と上記式のアミノ化合物との反応は、必要であれば、反応に用いる化合物と反応性のない不活性な液体の存在下で混合し、一定の温度に加熱することにより行うことができ、好ましくは、反応させるアミノ化合物中で、一定の温度に加熱することにより行う。不活性な液体としては、例えば、ベンゾニトリル、アセトニトリル等のニトリルやN−メチルピロリドンまたはジメチルホルムアミド等のようなアミドを単独であるいは2種以上の混合液の形態で用いることができる。
【0089】
上記反応では、式(1)のフタロシアニンのZ〜Z16の置換位置に所望の置換基を設計通りに導入することができるように、適宜最適な範囲を選択すればよいが、例えば、以下の条件が使用できる。すなわち、上記式のアミノ化合物を、フタロニトリル化合物(A)〜(D)と金属化合物との環化反応により得られるフタロシアニン誘導体1molに対して、通常、1mol以上、好ましくは4〜36molの範囲で仕込む。次に、この反応産物に、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等の無機分を、発生してくるハロゲン化水素をトラップする目的で、フタロシアニン誘導体1molに対して、1〜16mol、好ましくは3〜8molの範囲でトラップ剤を仕込む。この際、使用できるトラップ剤は、上記環化反応におけるものと同様である。また、アルキルアミノ化合物を反応させる場合の反応温度は、20〜200℃、好ましくは30〜150℃であり、アリールアミノ化合物を反応させる場合の反応温度は、80〜250℃、好ましくは100〜200℃の範囲である。反応時間は、通常2〜30時間、好ましくは4〜20時間である。このように、比較的高温で長時間アミノ化合物と反応させることにより、フタロニトリル化合物中の全てのハロゲン原子をアミンに置換することが可能である。なお、反応後は、従来公知のフタロシアニンの置換反応による合成方法に従って、無機分をろ過し、アミノ化合物を留去(洗浄)することにより、目的とする本発明のフタロシアニン化合物を複雑な製造工程を経ることなく効率よく、しかも高純度で得ることができる。
【0090】
また、本発明の上記式(2)で示されるフタロシアニン化合物またはその位置異性体を合成するには、例えば、下記式(13):
【0091】
【化16】

【0092】
で示されるフタロニトリル化合物(E)、下記式(14):
【0093】
【化17】

【0094】
で示されるフタロニトリル化合物(F)、下記式(15):
【0095】
【化18】

【0096】
で示されるフタロニトリル化合物(G)、および下記式(16):
【0097】
【化19】

【0098】
で示されるフタロニトリル化合物(H)を、上記式(1)の合成と同様に、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物、および有機酸金属(本明細書中では、一括して「金属塩」とも称する)からなる群から選ばれる1種と環化反応させることによって製造できる。なお、上記式(13)〜(16)中、X、Ar、Z、Z、Z12、およびZ16、ならびにZ、Z、Z11、およびZ15、は、所望のフタロシアニン化合物(2)の構造によって規定され、上記式(2)の定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0099】
また、上記式(2)中のZ、Z、Z12、およびZ16のアミノ基(上記式(2)中のNHCH(R)(R))は、上記式(2)の合成と同様、上記フタロニトリル化合物(E)〜(H)を、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物、および有機酸金属からなる群から選ばれる1種と環化反応させた後、該反応生成物をさらに下記式:NHCH(R)(R)で示されるアミノ化合物と反応させることによって、本発明のフタロシアニン化合物を製造してもよい。
【0100】
上記態様において、出発原料である式(13)〜(16)のフタロニトリル化合物(E)〜(H)は、以下に制限されるものではないが、例えば、上記式(1)の合成において用いた、上記式(12)で示されるフタロニトリル誘導体をORまたはSR(RおよびRは、上記式(2)の定義と同様である)と反応させた後、HX−Ar−XHと環化反応させることによって得る。この際、上記式(12)で示されるフタロニトリル誘導体のXにORまたはSRを導入する際の反応条件は、上記式(1)の合成と同様の条件を用いることができる。前記反応によって得られた化合物とHX−Ar−XHとの環化反応においては、HX−Ar−XHの使用量は、これらの反応が進行して所望のフタロニトリル化合物を製造できる量であれば特に制限されないが、例えば、HX−Ar−XHをそれぞれ、フタロニトリル誘導体1molに対して、通常、1〜10mol、好ましくは1〜3molの量で、フタロニトリル誘導体を反応させる。なお、フタロニトリル誘導体とHX−Ar−XHの反応におけるその他の反応条件は、上記式(1)の合成のフタロニトリル誘導体とHORまたはHSRとの反応の際の反応条件と同様の条件を用いることができる。
【0101】
上述の本発明のフタロシアニン化合物は、800〜1000nmの波長域で高い近赤外線カット効率を発揮することができる。したがって、本発明のフタロシアニン化合物は、例えば、PDP用近赤外線吸収フィルターに好適に用いられうる。すなわち、本発明の他の実施形態であるPDP用近赤外線吸収フィルターは、本発明のフタロシアニン化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む。以下、本発明のPDP用近赤外線吸収フィルターについて詳細に説明する。
【0102】
本発明のプラズマディスプレイ用フィルターにおいて使用することのできるフタロシアニン化合物は、上記式(1)または上記式(2)で表されるフタロシアニン化合物であればいずれのものも制限なく用いることができる。
【0103】
本発明のプラズマディスプレイ用フィルターは、上記式(1)または上記式(2)で表されるフタロシアニン化合物を基材に含有してなるもので、本発明でいう基材に含有するとは、基材の内部に含有されることはもちろんのこと、基材の表面に塗布した状態、基材と基材の間に挟まれた状態などを意味する。基材としては、透明樹脂板、透明フィルム、透明ガラス等が挙げられる。上記フタロシアニン化合物を用いて、本発明のプラズマディスプレイ用フィルターを作製する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の3つの方法が利用できる。
【0104】
本発明のプラズマディスプレイ用フィルターは、上記式(1)で表されるフタロシアニン化合物を基材に含有してなるもので、本発明でいう基材に含有するとは、基材の内部に含有されることはもちろんのこと、基材の表面に塗布した状態、基材と基材の間に挟まれた状態などを意味する。基材としては、透明樹脂板、透明フィルム、透明ガラス等が挙げられる。上記フタロシアニン化合物を用いて、本発明のプラズマディスプレイ用フィルターを作製する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の3つの方法が利用できる。
【0105】
すなわち、(1)樹脂に上記フタロシアニン化合物を混練し、加熱成形して樹脂板あるいはフィルムを作製する方法;(2)上記フタロシアニン化合物を含有する塗料(液状ないしペースト状物)を作製し、透明樹脂板、透明フィルムあるいは透明ガラス板上にコーティングする方法;および(3)上記フタロシアニン化合物を接着剤に含有させて、合わせ樹脂板、合わせ樹脂フィルム、合わせガラス等を作製する方法、等である。
【0106】
まず、樹脂に上記フタロシアニン化合物を混練し、加熱成形する(1)の方法において、樹脂材料としては、樹脂板または樹脂フィルムにした場合にできるだけ透明性の高いものが好ましく、具体例としては、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル等のビニル化合物、およびそれらのビニル化合物の付加重合体、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリシアン化ビニリデン、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体、シアン化ビニリデン/酢酸ビニル共重合体などのビニル化合物またはフッ化系化合物の共重合体、ポリトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン等のフッ素を含む樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリペプチド、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等を挙げることができるが、これらの樹脂に限定されるものではなく、ガラス代替となるような高硬度、高透明性を有する樹脂、チオウレタン系等の熱硬化樹脂、ARTON(登録商標、日本合成ゴム株式会社製)、ZEONEX(登録商標、日本ゼオン株式会社製)、OPTPOREZ(日立化成株式会社製)、O−PET(鐘紡株式会社製)等の光学用樹脂を用いることも好ましい。
【0107】
本発明のプラズマディスプレイ用フィルターの作製方法としては、用いるベース樹脂によって、加工温度、フィルム化条件等が多少異なるが、通常、(I)本発明のフタロシアニン化合物を、ベース樹脂の粉体あるいはペレットに添加し、150〜350℃に加熱、溶解させた後、成形して樹脂板を作製する方法、(II)押出機によりフィルム化する方法、および(III)押出機により原反を作製し、30〜120℃で2〜5倍に、1軸ないし2軸に延伸して10〜200μm厚のフィルムにする方法等が挙げられる。なお、混練する際に、紫外線吸収剤、可塑剤等の通常の樹脂成形に用いる添加剤を加えてもよい。本発明のフタロシアニン化合物の添加量は、作製する樹脂の厚み、目的の吸収強度、目的の可視光透過率等によって異なるが、通常、該樹脂に対して0.0005〜20質量%、好ましくは0.0010〜10質量%である。また、本発明のフタロシアニン化合物とメタクリル酸メチルなどの塊状重合によるキャスティング法を用いた樹脂板、樹脂フィルムを作製することもできる。
【0108】
次に、塗料化してコーティングする(2)の方法としては、本発明のフタロシアニン化合物をバインダー樹脂および有機系溶媒に溶解させて塗料化する方法、フタロシアニン化合物を数μm以下に微粒化してアクリルエマルジョン中に分散して水系塗料とする方法、等がある。前者の方法では、通常、脂肪族エステル系樹脂、アクリル系樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、芳香族エステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリオレフィン樹脂、芳香族ポリオレフィン樹脂、ポリビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニル系変成樹脂、(PVB、EVA等)あるいはそれらの共重合樹脂をバインダー樹脂として用いる。さらに、ARTON(登録商標、日本合成ゴム株式会社製)、ZEONEX(登録商標、日本ゼオン株式会社製)、OPTPOREZ(日立化成株式会社製)、O−PET(鐘紡株式会社製)等の光学用樹脂を用いることもできる。溶媒としては、ハロゲン系、アルコール系、ケトン系、エステル系、脂肪族炭化水素系、芳香族炭化水素系、エーテル系溶媒、あるいはそれらの混合物系などを用いることができる。
【0109】
本発明のフタロシアニン化合物の濃度は、コーティングの厚み、目的の吸収強度、目的の可視光透過率等によって異なるが、バインダー樹脂の質量に対して、通常、0.1〜30%である。また、バインダー樹脂濃度は、塗料全体に対して、通常、1〜50%である。アクリルエマルション系水系塗料の場合も同様に、未着色のアクリルエマルション塗料に本発明のフタロシアニン化合物を微粉砕950〜500nm)したものを分散させて得られる。塗料中には、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の通常塗料に用いるような添加物を加えてもよい。上記の方法で作製した塗料は、透明樹脂フィルム、透明樹脂板、透明ガラス等の上にバーコーダー、ブレードコーター、スピンコーター、リバースコーター、ダイコーターあるいはスプレーなどでコーティングして、本発明のプラズマディスプレイ用フィルターを作製することができる。コーティング面を保護するために保護層を設けたり、透明樹脂板、透明樹脂フィルム等をコーティング面に貼り合わせることもできる。また、キャストフィルムも本方法に含まれる。
【0110】
さらに、上記フタロシアニン化合物を接着剤に含有させて、合わせ樹脂板、合わせ樹脂フィルム、合わせガラス等を作製する(3)の方法においては、接着剤として、一般的なシリコン系、ウレタン系、アクリル系等の樹脂用あるいは合わせガラス用のポリビニルブチラール接着剤(PVA)、エチレン−酢酸ビニル系接着剤(EVA)等の合わせガラス用の公知の透明接着剤が使用できる。本発明のフタロシアニン化合物を0.1〜30質量%添加した接着剤を用いて透明な樹脂板同士、樹脂板と樹脂フィルム、樹脂板とガラス、樹脂フィルム同士、樹脂フィルムとガラス、ガラス同士を接着してフィルターを製作する。また、熱圧着する方法もある。さらに、上記の方法で作製したフィルムあるいは板を、必要に応じて、ガラスや、樹脂板上に貼り付けることもできる。フィルターの厚みは作製するプラズマディスプレイの仕様によって異なるが、通常、0.1〜10mm程度である。また、フィルターの耐光性を上げるためにUV吸収剤を含有した透明フィルム(UVカットフィルム)を外側に貼り付けることもできる。
【0111】
本発明において、プラズマディスプレイ用の誤動作防止フィルターとして、ディスプレイからでる近赤外線光をカットするためにディスプレイの前面に設置するため、可視光線の透過率が低いと、画像の鮮明さが低下するため、フィルターの可視光線の透過率は高いほどよく、少なくとも60%、好ましくは70%以上必要である。また、近赤外線光のカット領域は、リモコンや伝送系光通信に使用されている750〜1100nm、好ましくは800〜1000nmであり、その領域の平均光線透過率が15%以下、好ましくは10%以下になるように設計する。このために必要であれば、上記式(1)または上記式(2)で表されるフタロシアニン化合物を2種以上組み合わせてもよい。また、フィルターの色調を変えるために、可視領域に吸収を持つ他の色素を加えることも好ましい。また、色調用色素のみを含有するフィルターを作製し、後で貼り合わせることもできる。特にスパッタリングなどの電磁波カット層を設けた場合、元のフィルター色に比べて色合いが大きく異なる場合があるため、色調は重要である。
【0112】
上記の方法で得たフィルターをさらに実用的にするためには、プラズマティスプレーから出る電磁波を遮断する電磁波カット層、反射防止(AR)層、ノングレア(AG)層を設けることもできる。それらの作製方法は、特に制限を受けない。例えば、電磁波カット層は、金属酸化物等のスパッタリング方法が利用できるが、通常はSnを添加したIn(ITO)が、一般的である。また、誘電体層と金属層を基材上に交互にスパッタリングなどで積層させることで、近赤外線、遠赤外線から電磁波まで1100nm以上の光をカットすることもでききる。誘電体層としては、酸化インジウム、酸化亜鉛などの透明な金属酸化物であり、金属層としては、銀あるいは銀−パラジウム合金が一般的であり、通常、誘電体層よりはじまり3層、5層、7層あるいは11層程度積層する。この場合、ディスプレイより出る熱も同時にカットできるが、本発明のフタロシアニン化合物は、熱線遮蔽効果に優れるため、より耐熱効果を向上できる。基材としては、本発明のフタロシアニン化合物を含有するフィルターをそのまま利用してもよいし、樹脂フィルムあるいはガラス上にスパッタリングした後に該フタロシアニン化合物を含有するフィルターと貼り合わせてもよい。また、電磁波カットを実際に行う場合は、アース用の電極を設置する必要がある。反射防止層は、表面の反射を抑えてフィルターの透過率を向上させるために、金属酸化物、フッ化物、ホウ化物、炭化物、窒化物、硫化物等の無機物を、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト法等で単層あるいは多層に積層させる方法、アクリル樹脂、フッ素樹脂等の屈折率の異なる樹脂を単層あるいは多層に積層させる方法等がある。また、反射防止処理を施したフィルムを該フィルター上に貼り付けることもできる。また、必要であれば、ノングレア(AG)層を設けることもできる。ノングレア(AG)層は、フィルターの視野角を広げる目的で、透過光を散乱させるために、シリカ、メラミン、アクリルなどの微粉体をインキ化して、表面にコーティングする方法等を用いることができる。インキの硬化は、熱硬化あるいは光硬化等を用いることができる。また、ノングレア処理をしたフィルムを該フィルター上にはり付けることもできる。さらに必要であれば、ハードコート層を設けることもできる。
【0113】
プラズマティスプレー用のフィルターの構成は、必要に応じて変更することができる。通常、近赤外線吸収化合物を含有するフィルター上に反射防止層を設けたり、さらに必要であれば、反射防止層の反対側にノングレア層を設ける。また、電磁波カット層を組み合わせる場合は、近赤外線吸収化合物を含有するフィルターを基材として、その上に電磁波カット層を設けるか、あるいは近赤外線吸収化合物を含有するフィルターと電磁波カット能を有するフィルターを貼り合わせて作製できる。その場合、さらに、両面に反射防止層を作製するか、必要であれば、片面に反射防止層を作製し、その反対面にノングレア層を作製することもできる。また、色補正するために、可視領域に吸収を有する色素を加える場合は、その方法については制限を受けない。本発明のプラズマディスプレイ用フィルターは、600〜610nmの波長域の赤色光を特異的に透過することができるため、ディスプレイの赤色の純度が損なわれず、かつディスプレイから出る800〜1000nm付近の近赤外線光を効率よくカットするため、ディスプレイの色再現性の向上に加え、周辺電子機器のリモコン、伝送系光通信等が使用する波長に悪影響を与えず、それらの誤動作を防ぐことができる。
【実施例】
【0114】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0115】
[合成例1]3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−メチルフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルの合成
500mlの四つ口セパラブルフラスコにテトラフルオロフタロニトリル50g(0.25mol)、フッ化カリウム32.0g(0.55mol)、およびアセトン100gを仕込み、さらに滴下ロートに2,5−ジメチルフェノール64.1g(0.52mol)およびアセトン75gを仕込んだ。−1℃で攪拌しながら、滴下ロートより2,5−ジメチルフェノールのアセトン溶液を約2時間かけて滴下した後、さらに2時間攪拌を続けた。その後、反応温度を室温までゆっくりと上昇させながら一晩攪拌した。次に、このフラスコに2,6−ジメチルフェノール34.2g(0.28mol)、フッ化カリウム16.3g(0.28mol)、およびアセトン20gを仕込み、40℃で10時間撹拌した。冷却後、反応液をろ過し、ロータリーエバポレーターでろ液からアセトンを留去し、メタノールを加えて再結晶を行った。得られた結晶をろ過し、真空乾燥により、3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジメチルフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリル97.6g(収率73.2mol%)を得た。
【0116】
[合成例2]3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2−メチルフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルの合成
500mlの四つ口セパラブルフラスコにテトラフルオロフタロニトリル50g(0.25mol)、フッ化カリウム32.0g(0.55mol)、およびアセトン50gを仕込み、さらに滴下ロートに2−メチルフェノール59.5g(0.55mol)およびアセトン60gを仕込んだ。−1℃で攪拌しながら、滴下ロートより2−メチルフェノールのアセトン溶液を約2時間かけて滴下した後、さらに2時間攪拌を続けた。その後、反応温度を室温までゆっくりと上昇させながら一晩攪拌した。次に、このフラスコに2,6−ジメチルフェノール34.2g(0.28mol)、フッ化カリウム16.3g(0.28mol)、およびアセトン20gを仕込み、40℃で10時間撹拌した。冷却後、反応液をろ過し、ロータリーエバポレーターでろ液からアセトンを留去し、メタノールを加えて再結晶を行った。得られた結晶をろ過し、真空乾燥により、3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2−メチルフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリル72.6g(収率60.7mol%)を得た。
【0117】
[合成例3]3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルの合成
500mlの四つ口セパラブルフラスコにテトラフルオロフタロニトリル60g(0.30mol)、フッ化カリウム41.8g(0.72mol)、およびアセトン160mlを仕込み、さらに滴下ロートに2,5−ジクロロフェノール97.8g(0.60mol)およびアセトン110mlを仕込んだ。−1℃で攪拌しながら、滴下ロートより2,5−ジクロロフェノールのアセトン溶液を約2時間かけて滴下した後、さらに2時間攪拌を続けた。その後、反応温度を室温までゆっくりと上昇させながら一晩攪拌した。次に、このフラスコに2,6−ジメチルフェノール36.6g(0.30mol)、フッ化カリウム20.9g(0.36mol)、およびアセトン21.7mlを仕込み、40℃で10時間撹拌した。冷却後、反応液をろ過し、ろ液をロータリーエバポレーターでろ液からアセトンを留去し、メタノールを加えて再結晶を行った。得られた結晶をろ過し、真空乾燥により、3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリル144.8g(収率82.1mol%)を得た。
【0118】
[合成例4]3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(4−メチルフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルの合成
500mlの四つ口セパラブルフラスコにテトラフルオロフタロニトリル50g(0.25mol)、フッ化カリウム32.0g(0.55mol)、およびアセトン50gを仕込み、さらに滴下ロートに4−メチルフェノール59.5g(0.55mol)およびアセトン60gを仕込んだ。−1℃で攪拌しながら、滴下ロートより4−メチルフェノールのアセトン溶液を約2時間かけて滴下した後、さらに2時間攪拌を続けた。その後、反応温度を室温までゆっくりと上昇させながら一晩攪拌した。次に、このフラスコに2,6−ジメチルフェノール34.2g(0.28mol)、フッ化カリウム16.3g(0.28mol)、およびアセトン20gを仕込み、40℃で10時間撹拌した。冷却後、反応液をろ過し、ロータリーエバポレーターでろ液からアセトンを留去し、メタノールを加えて再結晶を行った。得られた結晶をろ過し、真空乾燥により、3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(4−メチルフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリル94.0g(収率78.6mol%)を得た。
【0119】
[実施例1][2,3,9,10,16,17,23,24−オクタキス(2,5−ジメチルフェノキシ)−C,C,C,1−テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−C,C,C,4−テトラキス(D,L−1−フェニルエチルアミノ)−29H,31H−フタロシアニナト(2−)−N29,N30,N31,N32]銅の合成
100mlの四つ口フラスコに上記で得られた合成例1で得られた3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジメチルフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリル15.00g(0.030mol)、塩化銅(I)0.78g(0.008mol)、1−オクタノール22.5gを仕込み、150℃で撹拌しながら5時間反応させた。反応終了後、反応液をメタノール225g中に滴下して結晶を析出させ、吸引ろ過後ウェットケーキを得た。次に、200mlの四つ口フラスコに上記で得られたケーキ、炭酸カルシウム1.78g(0.018mol)、D,L−1−フェニルエチルアミン28.71g(0.237mol)、およびベンゾニトリル22.5gを仕込み、150℃で30時間反応させた。反応終了後、反応液を吸引ろ過し、得られたろ液をメタノール353g中に滴下して結晶を析出させ、吸引ろ過を行った。得られたケーキを再度メタノール176gで撹拌洗浄し、吸引ろ過した。得られたケーキを真空乾燥機を用いて、100℃で24時間乾燥後、目的物の黒色ケーキ11.45gを得た(収率62.0%)。
【0120】
[実施例2][2,3,9,10,16,17,23,24−オクタキス(2−メチルフェノキシ)−C,C,C,1−テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−C,C,C,4−テトラキス(D,L−1−フェニルエチルアミノ)−29H,31H−フタロシアニナト(2−)−N29,N30,N31,N32]銅の合成
100mlの四つ口フラスコに上記で得られた合成例1で得られた3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2−メチルフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリル18.80g(0.039mol)、塩化銅(I)1.02g(0.010mol)、1−オクタノール28.2gを仕込み、150℃で撹拌しながら4時間反応させた。反応終了後、反応液をメタノール282g中に滴下して結晶を析出させ、吸引ろ過後ウェットケーキを得た。次に、200mlの四つ口フラスコに上記で得られたケーキ、炭酸カルシウム2.36g(0.024mol)、D,L−1−フェニルエチルアミン76.1g(0.628mol)、およびベンゾニトリル22.5gを仕込み、160℃で63時間反応させた。反応終了後、反応液を吸引ろ過し、得られたろ液をメタノール644.2g中に滴下して結晶を析出させ、吸引ろ過を行った。得られたケーキを再度メタノール322.1gで撹拌洗浄し、吸引ろ過した。得られたケーキを真空乾燥機を用いて、100℃で18時間乾燥後、目的物の黒色ケーキ14.52gを得た(収率61.5%)。
【0121】
[実施例3][2,3,9,10,16,17,23,24−オクタキス(2,5−ジクロロフェノキシ)−C,C,C,1−テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−C,C,C,4−テトラキス(D,L−1−フェニルエチルアミノ)−29H,31H−フタロシアニナト(2−)−N29,N30,N31,N32]銅の合成
100mlの四つ口フラスコに上記で得られた3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリル10.70g(0.018mol)、塩化銅(I)0.47g(0.004mol)、1−オクタノール21.4gを仕込み、150℃で3時間反応させた。反応終了後、反応液をメタノール85.5g中に滴下して結晶を析出させ、吸引ろ過後ウェットケーキを得た。次に、200mlの四つ口フラスコに上記で得られたケーキ、炭酸カルシウム1.09g(0.011mol)、D,L−1−フェニルエチルアミン70.54g(0.582mol)、およびベンゾニトリル16.05gを仕込み、140℃で10時間反応させた。反応終了後、反応液を吸引ろ過し、得られたろ液をメタノール486.7g中に滴下して結晶を析出させ、吸引ろ過を行った。得られたケーキを再度メタノール243.2gで撹拌洗浄し、吸引ろ過した。得られたケーキを真空乾燥機を用いて、100℃で18時間乾燥後、目的物の黒色ケーキ6.9gを得た(収率54.1%)。
【0122】
[実施例4][2,3,9,10,16,17,23,24−オクタキス(2,5−ジクロロフェノキシ)−C,C,C,1−テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−C,C,C,4−テトラキス(D,L−1−フェニルエチルアミノ)−29H,31H−フタロシアニナト(2−)−N29,N30,N31,N32]バナジウムオキサイドの合成
100mlの四つ口フラスコに上記で得られた3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリル22.5g(0.038mol)、塩化バナジウム(III)2.26g(0.014mol)、1,2,4−トリメチルベンゼン33.75g、およびベンゾニトリル3.67gを仕込み、160℃でMガス(窒素と酸素の混合ガス、酸素濃度7%)を液相部に吹き込みながら撹拌下21時間反応させた。反応終了後、反応液をメタノール338g中に滴下して結晶を析出させ、吸引ろ過後ウェットケーキを得た。次に、200mlの四つ口フラスコに上記で得られたケーキ、炭酸カルシウム2.30g(0.023mol)、ベンズヒドリルアミン148.3g(1.224mol)、およびベンゾニトリル32.2gを仕込み、170℃で30時間反応させた。反応終了後、反応液を吸引ろ過し、得られたろ液をメタノール992g中に滴下して結晶を析出させ、吸引ろ過を行った。得られたケーキを再度メタノール496gで撹拌洗浄し、吸引ろ過した。得られたケーキを真空乾燥機を用いて、100℃で18時間乾燥後、目的物の黒色ケーキ12.6gを得た(収率46.7%)。
【0123】
[実施例5][2,3,9,10,16,17,23,24−オクタキス(4−メチルフェノキシ)−C,C,C,1−テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−C,C,C,4−テトラキス(D,L−1−フェニルエチルアミノ)−29H,31H−フタロシアニナト(2−)−N29,N30,N31,N32]銅の合成
100mlの四つ口フラスコに上記で得られた合成例1で得られた3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(4−メチルフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリル18.80g(0.039mol)、塩化銅(I)1.02g(0.010mol)、1−オクタノール28.2gを仕込み、150℃で撹拌しながら4時間反応させた。反応終了後、反応液をメタノール282g中に滴下して結晶を析出させ、吸引ろ過後ウェットケーキを得た。次に、200mlの四つ口フラスコに上記で得られたケーキ、炭酸カルシウム2.36g(0.024mol)、D,L−1−フェニルエチルアミン76.1g(0.628mol)、およびベンゾニトリル22.5gを仕込み、160℃で31時間反応させた。反応終了後、反応液を吸引ろ過し、得られたろ液をメタノール644.2g中に滴下して結晶を析出させ、吸引ろ過を行った。得られたケーキを再度メタノール322.1gで撹拌洗浄し、吸引ろ過した。得られたケーキを真空乾燥機を用いて、100℃で18時間乾燥後、目的物の黒色ケーキ7.43gを得た(収率31.5%)。
【0124】
[比較例1]
特開平2001−106689号公報の実施例7で製造された下記式(17)で示される、フタロシアニン化合物(略称;VOPc(2,5−ClPhO){2,6−(CHPhO}{PhCH2NH}4)を使用した。
【0125】
【化20】

【0126】
[比較例2]
特開平2001−106689号公報の実施例3で製造された下記式(18)で示される、フタロシアニン化合物(略称;VOPc(2,5−ClPhO){2,6−(CHPhO}{PhCH2NH}F)を使用した。
【0127】
【化21】

【0128】
<透過率およびグラム吸光係数の測定>
上記で得られた化合物について、波長400〜1100nmにおける透過率および最大吸収波長(λmax)におけるグラム吸光係数を測定した。測定には分光光度計(島津製作所製、UV−1650PC)を用い、クロロホルム溶液中での最大吸収波長(λmax)が透過率10%となるように調整して測定した。また、グラム吸光係数(ε)の測定には、以下の方法を用いた。まず、該フタロシアニン化合物の0.016mg/mlクロロホルム溶液を調製して、この溶液の最大吸収波長(λmax)の吸光度を測定した。そして、得られた最大吸収波長(λmax)の吸光度の値を下記数式1に代入して算出することによって求めた。なお、吸光度を求める際のセル長は10mmであり、対照液はクロロホルムを用いた。
【0129】
【数1】

【0130】
上記実施例1〜5ならびに比較例1および2の600nm、605nm、および610nmにおける透過率ならびにグラム吸光係数の結果を以下の表1に示す。
【0131】
【表1】

【0132】
上記表1より、実施例1〜5の600nm、605nm、および610nmにおける透過率は、比較例1および2と比較して、有意に高いことがしめされた。また、実施例1〜5のグラム吸光係数は、比較例1および2と比較して、有意に高いことがしめされた。これは、実施例1〜5は少量であっても優れた近赤外線吸収効率を発揮することを意味する。
【0133】
また、上記実施例1〜5ならびに比較例1および2の400〜1100nmにおける透過率のグラフを図1に示す。
【0134】
図1より、実施例1〜5は、比較例1および2と比較して、波長域800〜1000nmの近赤外線吸収効率は同等であるが、波長域600〜610nmの赤色光の透過率が特異的に高いことが示された。
【0135】
以上の結果より、実施例1〜5のフタロシアニン化合物は、波長域800〜1100nmで高い近赤外線吸収効率を有し、かつ波長域600〜610nmの赤色光の透過率が特異的に高いことが示された。したがって、このようなフタロシアニン化合物をPDP用近赤外線吸収フィルターに用いることによって、PDPの赤色の純度が高まり、色再現性が向上しうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

(式中、Z、Z、Z、Z、Z、Z12、Z13、およびZ16は、それぞれ独立して、NHCH(R)(R)またはORを表し、Z、Z、Z、Z、Z、Z12、Z13、およびZ16のうちの少なくとも4個は、NHCH(R)(R)であり、Z、Z、Z、Z、Z10、Z11、Z14、およびZ15は、それぞれ独立して、ORまたはSRを表し、この際、RまたはRのいずれか一方は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換フェニル基、置換もしくは非置換ナフチル基、または置換もしくは非置換アントリル基を表し、残りの一方は、炭素原子数1〜4個のアルキル基を表し、RおよびRは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のフェニル基、置換もしくは非置換のアラルキル基、または置換もしくは非置換の炭素原子数1〜20個のアルキル基を表し、Mは、無金属、金属、金属酸化物、または金属ハロゲン化物を表す)で示されるフタロシアニン化合物または
下記式(2):
【化2】

(式中、Xは、それぞれ独立して、酸素原子(−O−)または硫黄原子(−S−)を表し、Arは、それぞれ独立して、o−フェニレン基、o−ナフチレン基、またはo−アントリレン基を表し、Z、Z、Z12、およびZ16は、それぞれ独立して、NHCH(R)(R)を表し、Z、Z、Z11、およびZ15は、それぞれ独立して、ORまたはSRを表し、この際、RまたはRのいずれか一方は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換フェニル基、置換もしくは非置換ナフチル基、または置換もしくは非置換アントリル基を表し、残りの一方は、炭素原子数1〜4個のアルキル基を表し、RおよびRは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のフェニル基、置換もしくは非置換のアラルキル基、または置換もしくは非置換の炭素原子数1〜20個のアルキル基を表し、Mは、無金属、金属、金属酸化物、または金属ハロゲン化物を表す)で示されるフタロシアニン化合物もしくはその位置異性体。
【請求項2】
前記RまたはRのいずれか一方は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換フェニル基を表し、残りの一方は、メチル基を表す、請求項1に記載のフタロシアニン化合物もしくはその位置異性体。
【請求項3】
前記Mは、銅(Cu)またはバナジル(VO)を表す、請求項1または2に記載のフタロシアニン化合物もしくはその位置異性体。

【図1】
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