説明

フッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体とフラーレンとの混合膜及びその製造方法

【課題】弾性率が高く、透明であり、結晶配向性に優れた膜であって、更にPr値(残留分極値)が高く、より角形に近いヒステリス曲線を得る混合膜及びその製造方法を提供する。
【解決手段】フッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンの共重合体と水酸化フラーレンと溶媒に溶解後所定時間静置し、これを溶液キャストして得られた膜(キャスト膜)を延伸し、その後、熱処理結晶化することを特徴とするフッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体とフラーレンとの混合膜の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体(P(VDF/TrFE)) とフラーレンの誘導体との混合膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強誘電性高分子P(VDF/TrFE)共重合体は、その透明性や柔軟性、加工性を生かした不揮発性メモリや圧電センサー、赤外線焦電センサーなどのフレキシブルデバイスへの応用が注目されている。非特許文献1には、一軸延伸したP(VDF/TrFE)共重合体を常誘電相で熱処理結晶化することにより単結晶状膜の作製に成功し、通常得られるラメラ状微結晶膜よりも優れた強誘電性、圧電性を示すことが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】HirojiOhigashi,Kenji Omote,and Teruhisa Gomyo,Appl.Phys.Lett.66,3281 (1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の強誘電性高分子P(VDF/TrFE)共重合体は、弾性率が低く、また不透明であり、更に結晶配向性に劣るという欠点を有しており、各種の用途に対して、不十分な特性であった。
【0005】
本発明の課題は、弾性率が高く、透明であり、結晶配向性に優れた膜であって、更に残留分極値(Pr値)が高く、より角形に近いヒステリス曲線を与える混合膜及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の混合膜は、強誘電性高分子共重合体に機能性有機分子を分散させた配向結晶膜を得ることで、従来の問題点を解決する。
【0007】
本発明の請求項1の混合膜は、フッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体(P(VDF/TrFE)又はP(VDF/TeFE))とフラーレンとの混合物からなることを特徴とするフッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体とフラーレンとの混合膜である。
本発明の請求項2の混合膜は、前記フラーレンが、水酸化フラーレンであることを特徴とするフッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体とフラーレンとの混合膜である。
本発明の請求項3の混合膜は、前記水酸化フラーレンが、フッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体(P(VDF/TrFE)又はP(VDF/TeFE))100重量部に対して、0.1〜15重量部の割合で溶媒に添加されたことを特徴とするフッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体と水酸化フラーレンとの混合膜である。
【0008】
本発明の請求項4の混合膜の製造方法は、フッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンの共重合体と水酸化フラーレンとを溶媒に溶解後所定時間静置し、キャスト後に延伸し、さらに熱処理結晶化することを特徴とするフッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体とフラーレンとの混合膜の製造方法である。
本発明の請求項5の混合膜の製造方法は、フッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンの共重合体と水酸化フラーレンとを溶媒に溶解後所定時間静置し、未延伸状態で、さらに熱処理結晶化することを特徴とするフッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体とフラーレンとの混合膜の製造方法である。
本発明の請求項6の混合膜の製造方法は、前記フッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体(P(VDF/TrFE)又はP(VDF/TeFE))を、前記溶媒へ、1〜15重量%,より好ましくは3〜6重量%添加することを特徴とするフッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体とフラーレンとの混合膜の製造方法である。
本発明の請求項7の混合膜の製造方法は前記請求項に係わる方法で得られたフッ化ビニリデンとトリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体と水酸化フラーレンの混合膜を分極化操作により安定な膜面に垂直な永久分極を付与させた混合膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本願の請求項1、2、3,4に係る混合膜の発明によれば、延伸により延伸方向に分子鎖が高度に配向するのみならず, 結晶面(110)/(200)が膜面に平行に選択配向した、選択配向性が優れた、フッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体とフラーレンとの混合膜を得ることができる。
本願の請求項4、5,6,7に係る混合膜の製造方法によれば、水酸化フラーレン(9.0重量%〜12重量%)を混合しても、水酸化フラーレンの存在がP(VDF/TrFE)(75/25)の結晶性や結晶配向性には強くは影響を与えずに、フッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体とフラーレンとの混合膜を得ることができる。
【0010】
本発明によれば、弾性率が高く、透明であり、結晶配向性に優れた膜であって、更にPr値(残留分極値)が高く、より角形に近いヒステリス曲線を有する、誘電率の大きい、フッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体とフラーレンとの混合膜及びその製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本願発明の混合膜(水酸化フラーレン12重量%)未延伸混合(キャスト膜)の作成方法とX線回折測定結果を示す図。
【図2】本発明の混合膜(水酸化フラーレン9.0重量%)の製造工程を示す図。
【図3】P(VDF/TrFE)(75/25)共重合体に、9.0重量%の水酸化フラーレンを添加して作製した一軸延伸膜混合膜をクロスニコル下で観察した偏光顕微鏡写真。
【図4】本発明の混合膜(酸化フラーレン9.0重量%含有)のキャスト未延伸膜と延伸、熱処理結晶化膜の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像。
【図5】延伸、熱処理結晶化した本発明の混合膜(水酸化フラーレン9.0重量%含有)の延伸方向の配向を結晶(001)面のX線回折で調べた結果の概要を示す図。
【図6】延伸、延伸して熱処理結晶化した本発明の混合膜(水酸化フラーレン9.0重量%含有)の延伸方向に垂直に向いた結晶a軸とb軸の選択配向性を求めるために行った結晶面(110)、(200)、(020)、(310)のX線回折結果の概要を示す図。
【図7】延伸、熱処理結晶化した本発明の混合膜(水酸化フラーレン9.0重量%含有)の延伸方向のに垂直に向いた結晶a軸とb軸の選択配向性を求めるために行った結晶面(110)、(200)のX線回折ロッキング曲線を示す図。
【図8】本発明の一軸延伸結晶化混合膜(水酸化フラーレン2.0重量%含有)の強誘電性に基づくD−Eヒステリシス曲線。
【図9】本発明の一軸延伸結晶化混合膜(水酸化フラーレン4.76重量%含有)の強誘電性に基づくD−Eヒステリシス曲線。
【図10】本発明の一軸延伸結晶化混合膜(水酸化フラーレン9.09重量%含有)の強誘電性に基づくD−Eヒステリシス曲線。
【図11】一軸延伸結晶化混合膜(水酸化フラーレン9.09重量%含有)の本発明による透明混合膜の複素誘電率を同じ水酸化フラーレン含有量の不透明膜とP(VDF/TrFE)のみの膜の複素誘電率の周波数分散を比較した図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の混合膜は、フッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体とフラーレンとの混合物からなることを特徴とするフッ化ビニリデンとトリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体とフラーレンとの混合膜であり、前記フラーレンが、水酸化フラーレンであることを特徴とする。
本発明の混合膜は、以下の条件にて、作製される。
即ち、P(VDF/TrFE)の溶媒(DMF)中への添加量は1〜15重量%が好ましく、3〜6重量%がより好ましい。この範囲とすることにより延伸時における混合膜の切断がより一層少なくなる。また、水酸化フラーレンは、P(VDF/TrFE)100重量部に対して、0.1〜15重量部の割合で溶媒に添加することが好ましい。
P(VDF/TrFE)と水酸化フラーレンを溶媒に溶解後、3日間以上,より好ましくは1週間以上静置する。攪拌しっぱなしの状態では、透明膜を得ることができない。また、延伸時に切断してしまう。
【実施例】
【0013】
(実施例1)
P(VDF/TrFE)(75/25)共重合体と水酸化フラーレン(Frontier Carbon 社製、nanom spectra D100)(この水酸化フラーレンはフラーレンC60に1分子あたり平均10個の水酸基OHが結合している)を溶媒(DMF)に溶解させ、この分散溶液をシャーレ上にキャストし,減圧下で溶媒を蒸発させて透明な膜を得た。一軸延伸機で、前記分散膜を4〜5倍に延伸した後、延伸機をオーブンに移し、大気圧下140℃(常誘電相)で1時間熱処理結晶化を行った。
【0014】
得られた一軸延伸膜を偏光顕微鏡で観察するとともに、さらに、延伸膜の結晶配向性を詳細に調べるために透過法によるX線回折の計測を行った。
【0015】
図1は、溶媒(DMF)に対して5重量%の
P(VDF/TrFE)(75/25)共重合体を溶解した溶液に、共重合体に対して12.0重量%の水酸化フラーレンを添加し、50℃で一晩攪拌し、一週間室温静置し、ついで、50℃で6時間攪拌し、シャーレ内に溶液をキャストし、オーブン内で60℃、12時間減圧乾燥して溶媒を除去した。
得られた混合膜のX線回折測定の結果を図1のグラフに示す。
図1のグラフでは、不透明な混合膜と、透明な混合膜との比較のデータを示す。
図1のグラフにて、点線で囲った範囲を見ると、不透明な混合膜の場合は、2θが5〜10oの間に回折のピークが見られ、透明な混合膜の場合は、2θが5〜10oの間には、ピークが見られないという相違があることが分かる。
上記のピークの有り、無しは、混合膜(膜中の水酸化フラーレンの集合状態)の違いに起因して起こるものと考えれる。すなわち,透明な膜は水酸化フラーレンが分子レベルで膜中に分散しているが,不透明な膜では約100個の分子の集合体が膜中に分散し、その分子集合体によるX線の散乱が5-10oのピークとして現れると推察される。
【0016】
(実施例2)
図2は、P(VDF/TrFE)(75/25)共重合体に、9.0重量%の水酸化フラーレンを添加して作製した混合膜を延伸熱処理結晶化する過程を示してある。キャスト膜が不透明である膜の延伸過程を図の上段に、透明膜の場合を下段に示す。不透明膜では膜がもろく、延伸途上で破断する。一方透明膜では延伸はネッキングの発生を通して進行し、5倍程度の延伸が可能であった。酸化フラーレンの重量濃度が15%でも、延伸は可能であった。このように高濃度でブレンドしても延伸可能であることは極めて珍しく、多くの解明すべき現象を含んでいる。
延伸操作に引き続いて140℃で2時間、熱処理をおこなった。この熱処理によって高度に配向結晶化した、透明な膜が得られた。強誘電性結晶であるP(VDF/TrFE)は常温(強誘電相)では分子鎖の運動は不活発であるが、相転移温度(キュリー温度Tc)以上の相(常誘電相)では分子鎖の運動は活発となり、分子鎖に沿っては熱拡散運動で移動が容易となる。本実施例でも用いたP(VDF/TrFE)(75/25)はVDFとTrFEの共重合体組成モル比は75/25であり、Tcは約125℃、融点は150℃である。この常誘電相で延伸膜を熱処理すると、分子鎖は安定な場所を求めて移動し、分子鎖の配列の乱れの少ない結晶化膜となるのである。
【0017】
(実施例3)
実施例2の方法で作成した延伸熱処理結晶化したP(VDF/TrFE)と水酸化フラーレン(9.0重量%)混合膜(BLF)の配向状態をクロスニコル下で観察した偏光顕微鏡写真を図3に示す。図3には比較のために、P(VDF/TrFE)(75/25)を延伸熱処理結晶化した単結晶状膜(SCF)とP(VDF/TrFE)の未延伸膜を熱処理結晶化したラメラ結晶化からなる膜(LC)の偏光顕微鏡写真も図2に示してある。
BLFでLCでも延伸膜表面にはラメラ状結晶や、球晶は観察されず、試料回転に対して90°ごとに暗黒(写真BLF1,SC1)になった。これは混合膜が延伸軸方向に一軸光学軸を持ち、分子鎖が混合膜内で延伸方向に均一に配向しているためである。また、偏光の偏向方向に対して延伸方向が、SCFでは均一な明るい像となるが(SC2),水酸化フラーレンを分散させた膜では、不均一な明暗が現れた(BLF2)。また、延伸方向に沿って黒い微小塊が並んだものも観察された、これは延伸熱処理過程で形成された水酸化フラーレン凝集体と考えられる。ただしこの凝集体の数密度は不透明膜より少ない。
本実施例の結果から、延伸、結晶化した混合膜はP(VDF/TrFE)の単結晶状膜に比較して膜内部に局部的には不均一構造が多いものの、ラメラ結晶のような大きい不均一構造のない、よく一軸配向した膜となっていることが明らかとなった。
【0018】
(実施例4)
図4は、混合膜(水酸化フラーレン9重量%を含有したP(VDF/TrFE)膜)の未延伸膜表面と、実施例2に示した方法で作成した一軸配向、熱処理結晶化処理膜の表面を走査型電子顕微鏡で観察した像である。表面の状態は両者で顕著な差は観測されず、おおむね均一な構造をもつ。しかし、後者の膜表面には寝る処理時析出したと見られる水酸化フラーレンの凝集粒子が観測され、また、この周りのいくつかには、この粒子の存在によって発生したと見られる小さなボイドが観測された。
(実施例5)
【0019】
P(VDF/TrFE)と水酸化フラーレン混合膜の一軸延伸膜の結晶配向性についてより詳細な知見を得るためにP(VDF/TrFE)の結晶面や結晶軸が膜中でどのように配向しているかをX線回折法で調べた。また比較のためにP(VDF/TrFE)の単結晶状膜(SCF)もあわせて計測した。試料は、P(VDF/TrFE)(75/25)共重合体に、9.0重量%の水酸化フラーレンを添加して作製した延伸結晶化混合膜とである。なお、比較試料の単結晶状膜(SCF)未分極である。
延伸方向の配向状態(結晶c軸、結晶面(001)を調べた結果を図5に示してある。試料台回転軸と延伸方向が垂直になるように混合膜を配置してX線回折を行った結果、2θが35°の位置に(001)強く、線幅の狭い回折ピークが観測された(図5右の図)。ピーク最大強度の回折角で2θを固定し、ロッキングカーブを計測したところ、混合(ブレンド)膜もc軸が非常に良く選択配向し(図5左の図)、偏光顕微鏡観察結果を支持する結果であった。ロッキング曲線から求めたc軸の配向係はf=0.91であり、単結晶状膜の配向係数よりは小さいが、分子鎖は延伸軸の方向によく配向していることが分かった。
【0020】
(実施例6)
P(VDF/TrFE)の単結晶状膜では結晶軸はc軸が延伸軸方向に高度に配向することに加えて、c軸に垂直なa、b軸も延伸軸の周りに選択配向している。これと同じ状態が、水酸化フラーレンを混合したP(VDF/TrFE)混合膜でも延伸、熱処理結晶化た膜でも出現しているのかを実施例5と同様な手段を用いてX線回折で(110),(200)、(310),(020)の配向を調べた。未分極試料では(110)面と(200)面の回折は区別できないので(110)/(200)の回折、同様に(310)/(020)の回折を測定した。θ−2θでスキャンした測定結果を図6に、ロッキング曲線を図7に示す。
その結果によれば、9.0重量%の水酸化フラーレンを含むP(VDF/TrFE)延伸結晶化膜はP(VDF/TrFE)の単結晶状膜と同様に結晶のb軸(分極軸)は選択配向しており、その方向は延伸軸に垂直で、かつ、膜面に平行か、または、膜面から±60o、±120の方向に選択的に配向ていること、またc軸に垂直でb軸に垂直なa軸は膜面に垂直か±60o、±120oの方向に向いていることが分かった。図6,図7のぞれぞれに上段に示してあるのは延伸方向に沿って投影した結晶格子の逆格子点である。
これらの測定結果から、a軸、b軸の配向係数fa(これはb軸の配向係数fbに等しい)は水酸化フラーレンを含む延伸結晶化膜ではfa=0.89、比較のために測定したP(VDF/TrFE) 単結晶状膜では0.96であった
水酸化フラーレンという不純物を濃い濃度で含むにもかかわらず、延伸膜の高度な配向が保たれていることは、P(VDF/TrFE)とフラーレンとの間に配向にとって不都合な相互作用が働いていないことを示している。このような強い選択配向は他の高分子材料には全く知られていない。
【0021】
(実施例7)
P(VDF/TrFE)やP(VDF/TeFE)は強誘電性をもつので電場によって分極の向きを反転できる。この反転は電場と電気変位Dの関係を反転分極法で測定すると分極の大きさや、分極反転に必要な電場の大きさが分かる。また、これらの情報は、本発明の混合膜を圧電素子や焦電素子に応用する場合には不可欠である。そこで、重量濃度の異なる水酸化フラーレンを混入した延伸結晶化膜を実施例2に示した方法で作成し、そのD−Eヒステリシス曲線を測定した。P(VDF/TrFE)混合膜の−Eヒステレシス曲線を示してある。
図8,図9,図10にそれれ、2.0重量%と4.76重量%および、9.0重量%の水酸化フラーレンを含むP(VDF/TrFE)混合膜のD−Eヒステレシス曲線を示した。いずれの濃度の混合膜も分極反転は電場Eの変化に対して急峻に変化し、残留で分極Prも110mC/m2以上である。P(VDF/TrFE)単結晶状膜のPrの価が、100mC/mm2であることを考えると、混合膜は優れた圧電材料としてりようできることを示している。
【0022】
(実施例8)
図11に9.0重量%の水酸化フラーレンを含有した熱処理結晶化膜(延伸はしていない)の複素誘電スペクトルを示した。図中には透明な水酸化フラーレン含有膜と透明でない膜のスペクトル、さらには P(VDF/TrFE)(75/25)単独の熱処理結晶化膜のスペクトルも示した。この図で1MHz付近に存在する誘電緩和は、P(VDF/TrFE)(75/25)の分子鎖のミクロブラウン運動に起因する緩和である。この図より、水酸化フラーレンを含む膜には低周波域に特徴的な緩和が存在し、水酸化フラーレンを含まない膜よりも誘電率実部と誘電率虚部(直流導電率)が大きいことが分かる。この緩和は水酸化フラーレンの導電性に由来する緩和であると考えられる。また、水酸化フラーレンを含む透明な膜とそうでない膜で緩和周波数が異なることが分かった。この緩和周波数の違いは、P(VDF/TrFE)(75/25)膜内の水酸化フラーレンの分散状態に起因していることが、X線回折の結果から示唆された。
【0023】
上の結果より、結論として、以下の事項が分かった。
水酸化フラーレン(9.0重量%)を混合しても、 P(VDF/TrFE)(75/25)の結晶性や結晶配向性には強くは影響を与えず、水酸化フラーレンは、 P(VDF/TrFE)の結晶核にはならない。
また、c軸は、延伸方向に平行に選択配向し、b軸は、膜面に平行な面から0,±60°傾いて選択配向する。
さらに、強誘電体膜として高分子として、おおきい分極をもつことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明のフッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体とフラーレンとの混合膜及びその製造方法によれば、産業上(焦電型赤外センサー,圧電センサー、振動発電材料)の分野の利用に最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体とフラーレンとの混合物からなることを特徴とするフッ化ビニリデンとトリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体とフラーレンとの混合膜。
【請求項2】
前記フラーレンは、水酸化フラーレンであることを特徴とする請求項1記載のフッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体とフラーレンとの混合膜。
【請求項3】
前記水酸化フラーレンは、フッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体(P(VDF/TrFE)又はP(VDF/TeFE))100重量部に対して、0.1〜15重量部の割合で溶媒に添加されたことを特徴とする請求項2記載のフッ化ビニリデンと、リフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体とフラーレンとの混合膜。
【請求項4】
フッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンの共重合体と水酸化フラーレンとを溶媒に溶解後所定時間静置し、キャスト後に延伸し、さらに熱処理結晶化することを特徴とするフッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体とフラーレンとの混合膜の製造方法。
【請求項5】
フッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンの共重合体と水酸化フラーレンとを溶媒に溶解後所定時間静置し、未延伸状態で、さらに熱処理結晶化することを特徴とするフッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体とフラーレンとの混合膜の製造方法。
【請求項6】
前記フッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体(P(VDF/TrFE)又はP(VDF/TeFE))を、前記溶媒へ、1〜15重量%添加、あるいは3〜6重量%添加するすることを特徴とする請求項4または5記載のフッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体とフラーレンとの混合膜の製造方法。
【請求項7】
前記請求項4−6に記載のフッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体と水酸化フラーレンの混合膜に電場を加えて共重合体の強誘電性に基づく安定な分極を付与されたフッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレン又はテトラフルオロチレンとの共重合体と水酸化フラーレンの混合膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−80058(P2011−80058A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205859(P2010−205859)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(502344178)株式会社イデアルスター (59)
【Fターム(参考)】