説明

フッ素アパタイトの乾燥粒子および吸着装置

【課題】原料に起因するアンモニア等の不純物を少なく、もしくは極めて少なくすることにより、フッ素の遊離が抑制され耐酸性の改善が図られたフッ素アパタイトの乾燥粒子、および、かかるフッ素アパタイトの乾燥粒子またはこの乾燥粒子を焼結して得られた焼結粒子を吸着剤として備える吸着装置を提供する。
【解決手段】本発明のフッ素アパタイトの乾燥粒子は、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部が、フッ化水素が備えるフッ素原子で置換されてなるフッ素アパタイトで構成されるものであり、前記乾燥粒子を平均粒径40μm±5μmの大きさに分級し、分級した後の粒子2gを、純水20mLに混合して混合液を得、該混合液中で前記乾燥粒子を沈降させた際の上清液中でのフッ素濃度が12ppm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素アパタイトの乾燥粒子および吸着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フッ素アパタイトは、ハイドロキシアパタイトとほぼ同一の結晶構造を有しており、このため、ハイドロキシアパタイトとほぼ等しいタンパク質の吸着特性(吸着能)を備えている。
【0003】
また、フッ素アパタイトは、ハイドロキシアパタイトと比較するとフッ素アパタイトの方がより安定な物質であるため、耐酸性が高いという性質を有する。このため、フッ素アパタイトは、酸性溶液に対する耐久性が高く、酸性溶液中でのタンパク質の分離が可能であるという利点を有する。
【0004】
このようなフッ素アパタイトは、一般に、ハイドロキシアパタイトを含むスラリー中に、フッ素源としてフッ化水素アンモニウムを添加(混合)することにより合成される(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、かかる方法で合成されたフッ素アパタイトには、アンモニアが不純物として吸着する。アパタイト類は、アンモニアに対する吸着能が高いため、合成されたフッ素アパタイトを含むスラリーを噴霧乾燥(造粒)して粒子を得た場合、得られた粒子中にアンモニアが残留してしまう。すなわち、粒子からアンモニアを除去するのが極めて困難である。
【0006】
このため、製造される粒子は、ロット毎に、そのアンモニアの残留量が異なり、粒子の特性の均一化を図ることが困難である。
【0007】
また、フッ素アパタイト中へアンモニアが残留するため、フッ素とハイドロキシアパタイトとの結合力が充分に得られず、フッ素がフッ素アパタイト中から遊離し易くなり、さらなる耐酸性の向上が期待できないという問題もある。
【0008】
さらに、フッ素アパタイトは、より多くのタンパク質を分離し得るように、タンパク質の吸着量が大きいものであるのが好ましく、かかる観点から、その比表面積が大きいものが好適に用いられる。
【0009】
これらのことから、フッ素の遊離が少なく耐酸性に優れたフッ素アパタイトがタンパク質の分離に好適に用いられ、さらに、比表面積が大きいものが特に好適に用いられる。
【0010】
【特許文献1】特開2004−330113号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、原料に起因するアンモニア等の不純物を少なく、もしくは極めて少なくすることにより、フッ素の遊離が抑制され耐酸性の改善が図られたフッ素アパタイトの乾燥粒子、および、かかるフッ素アパタイトの乾燥粒子またはこの乾燥粒子を焼結して得られた焼結粒子を吸着剤として備える吸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的は、下記(1)〜(8)の本発明により達成される。
(1) ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部が、フッ化水素が備えるフッ素原子で置換されてなるフッ素アパタイトで構成される乾燥粒子であって、
前記乾燥粒子を平均粒径40μm±5μmの大きさに分級し、分級した後の粒子2gを、純水20mLに混合して混合液を得、該混合液中で前記乾燥粒子を沈降させた際の上清液中でのフッ素濃度が12ppm以下であることを特徴とするフッ素アパタイトの乾燥粒子。
【0013】
このフッ素アパタイトの乾燥粒子は、原料に起因するアンモニア等の不純物を少なく、もしくは極めて少なくすることにより、かかる範囲内にフッ素の遊離が抑制されており、耐酸性に優れる。
【0014】
(2) 前記上清液は、攪拌および超音波付与の処理を前記混合液に施した後、該混合液を遠心分離することにより得られたものである上記(1)に記載のフッ素アパタイトの乾燥粒子。
【0015】
これにより、フッ素アパタイトの乾燥粒子から遊離したフッ素原子を、上清液中に遊離したフッ素濃度として確実に測定することができる。
【0016】
(3) 前記乾燥粒子の比表面積が30m/g以上である上記(1)または(2)に記載のフッ素アパタイトの乾燥粒子。
【0017】
このような比表面積を有する乾燥粒子は、より多くのタンパク質を分離するのに十分な大きさの比表面積を有するものとなる。また、焼結粒子は、通常、この焼結粒子を得る際の温度を高くしたり、処理時間を長くすることにより、焼結粒子の比表面積が小さくなる傾向を示すが、上述のように乾燥粒子の比表面積が大きいと、乾燥粒子から焼結粒子を得る際の温度や処理時間等の処理条件を設定することにより、所望の比表面積を有する焼結粒子を得ることができるという利点もある。
【0018】
(4) 前記乾燥粒子の平均粒径が30〜50μmである上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のフッ素アパタイトの乾燥粒子。
【0019】
かかる範囲内の平均粒径を有する乾燥粒子や、この乾燥粒子を焼結して得られた焼結粒子が、吸着装置が備える吸着剤等として好適に用いられる。
【0020】
(5) 前記フッ素アパタイトは、前記ハイドロキシアパタイトを含むスラリーと、前記フッ化水素を含有するフッ化水素含有液とを混合した分散液中において、前記ハイドロキシアパタイトと前記フッ化水素とを反応させることにより、前記ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部が、フッ素原子で置換されて得られたものである上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のフッ素アパタイトの乾燥粒子。
【0021】
このようにして得られたフッ素アパタイトで構成される乾燥粒子は、この乾燥粒子を平均粒径40μm±5μmの大きさに分級し、分級した後の粒子2gを、純水20mLに混合して混合液を得た場合、前記上清液中でのフッ素濃度を、前記範囲内に確実に設定することが可能である。
【0022】
(6) 前記分散液は、そのpHが2.5〜5.0である上記(5)に記載のフッ素アパタイトの乾燥粒子。
【0023】
これにより、前記上清液中で遊離するフッ素濃度を前記範囲内により確実に設定することが可能である。
【0024】
(7) 前記スラリーは、カルシウム源とリン酸源との少なくとも一方を溶液として用いる湿式合成法により合成されたハイドロキシアパタイトの一次粒子を含む上記(5)または(6)に記載のフッ素アパタイトの乾燥粒子。
【0025】
このような方法を用いると、微細なハイドロキシアパタイト一次粒子が形成されるとともに、この一次粒子の凝集体が均一に分散されたスラリーとすることができる。
【0026】
(8) 上記(1)ないし(7)のいずれかに記載のフッ素アパタイトの乾燥粒子、または、当該乾燥粒子を焼成して得られた焼結粒子を吸着剤として備える吸着装置。
これにより、吸着装置は、耐酸性の高い吸着剤を備えるものとなる。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部をフッ素原子で置換する際のフッ素源としてフッ化水素を用いて得られたフッ素アパタイトで構成される乾燥粒子であるので、乾燥粒子は、不純物の残留がないか、または極めて少ないフッ素アパタイトで構成される。そのため、この乾燥粒子を平均粒径40μm±5μmの大きさ分級し、分級した後の粒子2gを、純水20mLに混合して混合液を得た場合、この混合液中で乾燥粒子を沈降させた際の上清液中でのフッ素濃度が12ppm以下となる。その結果、フッ素アパタイトの乾燥粒子は耐酸性に優れるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明のフッ素アパタイトの乾燥粒子および吸着装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0029】
本発明のフッ素アパタイトの乾燥粒子は、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部が、フッ化水素が備えるフッ素原子で置換されてなるフッ素アパタイトで構成されるものである。
【0030】
すなわち、本発明の乾燥粒子を構成するフッ素アパタイトは、下記組成式(I)で表わされるものであり、この組成式(I)中のフッ素原子がフッ化水素に由来するフッ素アパタイトである。
【0031】
Ca10(PO(OH)2−2x2X ・・・ (I)
[ただし、式(I)中、xは0<x≦1である。]
【0032】
このような本発明の乾燥粒子を構成するフッ素アパタイトは、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部が、フッ化水素が備えるフッ素原子で置換されたものであることから、フッ素源としてフッ化水素アンモニウムを用いた場合のように、フッ素アパタイトの乾燥粒子に、アンモニア等の不純物が混入することが確実に防止される。そのため、当該フッ素アパタイトの乾燥粒子を平均粒径40μm±5μmの大きさに分級し、分級した後の粒子2gを、純水20mLに混合して混合液を得、この混合液中で乾燥粒子を沈降させた際の上清液中でのフッ素濃度が12ppm以下となる。このようにフッ素原子の遊離が抑制されたフッ素アパタイトは、結晶性の高いものであることから、優れた耐酸性を示すものとなる。
【0033】
前記フッ素濃度、すなわち上清液中で遊離するフッ素原子の濃度は、12ppm以下であればよいが、できる限り低く「0ppm」により近い方が好ましく、具体的には、10ppmであるのが好ましく、6ppmであるのがより好ましい。これにより、フッ素アパタイトの乾燥粒子は、より優れた耐酸性を示すものとなる。
【0034】
なお、純水中に混合する、フッ素アパタイトの乾燥粒子を一定の範囲内の大きさのものに分級するのは、上清中に遊離するフッ素原子の量が、混合する粒子の粒径に依存するためである。そして、本発明において、その大きさを平均粒径40μm±5μmの大きさのものに規定するのは、平均粒径が30〜50μmの乾燥粒子や、この乾燥粒子を焼結して得られた焼結粒子が、後述する吸着装置の吸着剤等として好適に用いられるためであり、かかる大きさの範囲内に規定するのが妥当であると考えられる。
【0035】
また、前記上清液としては、攪拌および超音波付与の処理を前記混合液に施し、かかる処理が施された混合液を遠心分離することにより得られたものを用いるのが好ましい。これにより、フッ素アパタイトの乾燥粒子から遊離したフッ素原子を、上清液中に遊離したフッ素濃度として確実に測定することができる。
【0036】
混合液に対する攪拌および超音波付与の処理は、特に限定されないが、混合液に対する超音波付与の前後に、混合液を攪拌するのが好ましい。これにより、フッ素アパタイトから遊離しているフッ素原子を確実に純水中に溶解させることができる。
【0037】
より具体的には、超音波を付与する前の攪拌時間は、5〜15分程度であるのが好ましく、10分程度であるのがより好ましい。また、超音波を付与した後の攪拌時間は、0.5〜10分程度であるのが好ましく、1分程度であるのがより好ましい。さらに、超音波を付与する時間は、1〜10分程度であるのが好ましく、5分程度であるのがより好ましい。
【0038】
さらに、混合液を遠心分離する際の条件は、回転数が好ましくは1000〜3000rpm程度、より好ましくは2000rpm程度、処理時間が好ましくは5〜15分程度、より好ましくは、10分程度に設定される。
【0039】
また、フッ化水素が備えるフッ素原子で置換されたフッ素アパタイトは、その比表面積が多くのタンパク質を分離するのに十分な大きさとなっている。
【0040】
具体的には、かかる方法で得られたフッ素アパタイトの一次粒子を用いて造粒した乾燥粒子の比表面積は、30.0m/g以上となっているのが好ましく、35.0m/g以上となっているのがより好ましい。このような比表面積を有する乾燥粒子は、より多くのタンパク質を分離するのに十分な大きさの比表面積を有するものとなる。また、焼結粒子は、通常、この焼結粒子を得る際の温度を高くしたり、処理時間を長くすることにより、焼結粒子の比表面積が小さくなる傾向を示すが、上述のように乾燥粒子の比表面積が大きいと、乾燥粒子から焼結粒子を得る際の温度や処理時間等の処理条件を設定することにより、所望の比表面積を有する焼結粒子を得ることができるという利点もある。
【0041】
上記のような本発明のフッ素アパタイトは、ハイドロキシアパタイトとフッ化水素とから、例えば、以下に示すような製造方法により製造される。
【0042】
本実施形態でのフッ素アパタイトの製造方法は、スラリー調製工程S1と、フッ化水素含有液調製工程S2と、フッ素アパタイト合成工程S3とを有している。以下、これらの工程について、順次説明する。
【0043】
[S1] スラリー調製工程
まず、ハイドロキシアパタイトを含むスラリーを調製する。
【0044】
以下、このスラリーとして、ハイドロキシアパタイト一次粒子およびその凝集体が分散されたスラリーを調製する方法について説明する。
【0045】
ハイドロキシアパタイト一次粒子は、各種合成方法を用いて得ることができるが、カルシウム源とリン酸源との少なくとも一方を溶液として用いる湿式合成法によって合成するのが好ましい。このような方法を用いると、微細なハイドロキシアパタイト一次粒子が形成されるとともに、この一次粒子の凝集体が均一に分散されたスラリーを得ることができる。
【0046】
また、湿式合成法を用いることにより、高価な製造設備を必要とせず、スラリーを簡便に、かつ効率よくハイドロキシアパタイトを合成すること、すなわち、ハイドロキシアパタイト一次粒子が製造できる。
【0047】
さらに、ハイドロキシアパタイト一次粒子は、その形状が小さいため、後述する工程[S3]において、フッ化水素との反応性が極めて高い。このため、得られるフッ素アパタイト一次粒子におけるフッ素の置換率を高めることができる。
【0048】
カルシウム源としては、例えば、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム等を用いることができる。一方、リン酸源としては、リン酸、リン酸アンモニウム等を用いることができる。これらの中でも、特に、カルシウム源として水酸化カルシウムまたは酸化カルシウムを主成分とするものが、また、リン酸源としてリン酸を主成分とするものが好ましい。
【0049】
かかるカルシウム源およびリン酸源を用いることにより、ハイドロキシアパタイト一次粒子をより効率よくかつ安価に製造することができ、また、容易にハイドロキシアパタイト一次粒子やその凝集体が分散したスラリーを得ることができる。
【0050】
具体的には、例えば、容器内で、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)または酸化カルシウム(CaO)の懸濁液中に、リン酸(H3PO4)溶液を滴下し、撹拌混合することにより、ハイドロキシアパタイトが合成され、ハイドロキシアパタイト一次粒子が生成し、スラリーが得られる。
【0051】
このようなハイドロキシアパタイト一次粒子の凝集体の平均粒径は、1〜20μm程度であるのが好ましく、5〜12μm程度であるのがより好ましい。これにより、前記凝集体の粒子が小さくなりすぎることによって取り扱いが困難になるのを効果的に防止しすることができる。また、凝集体の大きさが十分小さくなっているのでフッ化水素と接触しやすくなり、より効率よくハイドロキシアパタイトが有する水酸基をフッ素原子で置換することができる。
【0052】
また、スラリー中におけるハイドロキシアパタイト一次粒子の含有量は、1〜20wt%程度であるのが好ましく、5〜12wt%程度であるのがより好ましい。これにより、後述する工程[S3]において、より効率よくハイドロキシアパタイトが有する水酸基をフッ素原子で置換することができる。また、後述する工程[S3]において、比較的小さいエネルギーで、スラリーを十分に撹拌することができ、さらに十分にスラリーを攪拌できることから、ハイドロキシアパタイト一次粒子間でのフッ素原子による置換率の均一化を図ることができる。
【0053】
[S2] フッ化水素含有液調製工程
一方、ハイドロキシアパタイトを含むスラリーとは別に、フッ化水素を含有するフッ化水素含有液を調製する。
【0054】
フッ化水素を溶解する溶媒は、後述する工程[S3]における反応を阻害しないものであれば、いかなるものも使用が可能である。
【0055】
かかる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール等のアルコール類等が挙げられ、これらを混合して用いることもできるが、中でも、特に、水であるのが好ましい。溶媒として水を用いれば、後述する工程[S3]における反応の阻害をより確実に防止することができる。
【0056】
フッ化水素含有液中のフッ化水素の含有量は、1〜60wt%程度であるのが好ましく、2.5〜10wt%程度であるのがより好ましい。フッ化水素の含有量がこのような範囲であれば、後述する工程[S3]において、スラリーのpHを目的とする範囲内に調整するのが容易である。また、フッ化水素含有液のpHが極端に低くならず、安全に取り扱うこともできる。
【0057】
[S3] フッ素アパタイト合成工程
次に、前記工程[S1]で調製されたスラリーと前記工程[S2]で調製されたフッ化水素含有液とを混合することにより、フッ化水素含有液を含むスラリー中において、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とを反応させて、フッ素アパタイト一次粒子を得る。
【0058】
すなわち、ハイドロキシアパタイト一次粒子に、フッ化水素を接触させることで、次式(II)に示すように、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部をフッ素原子で置換して、フッ素アパタイトに変換して、フッ素アパタイト一次粒子を得る。
【0059】
Ca10(PO(OH)
Ca10(PO(OH)2−2x2X ・・・ (II)
[ただし、式(II)中、xは0<x≦1である。]
【0060】
このように、ハイドロキシアパタイト一次粒子を含むスラリー中で、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素を反応させることにより、フッ素アパタイト一次粒子を簡便に製造することができる。
【0061】
また、一次粒子の段階でハイドロキシアパタイトが有する水酸基がフッ素原子により置換されるので、得られるフッ素アパタイト一次粒子においてフッ素原子による水酸基の置換率が特に高くなる。
【0062】
また、フッ素源として、フッ化水素(HF)を用いるので、フッ化水素アンモニウム(NHF)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化カリウム(KF)、フッ化マグネシウム(MgF)やフッ化カルシウム(CaF)等を用いる場合に比較して副反応生成物の生成がないか、あるいは極めて少ない。このため、フッ素アパタイト一次粒子中に混入する不純物の含有量を少なくすることができ、フッ素とハイドロキシアパタイトとの結合力が充分に得られ、フッ素アパタイト一次粒子の耐酸性を向上させることができる。なお、ここでいう不純物とは、フッ素アパタイトの原料に起因するアンモニアやリチウム等を指す。
【0063】
具体的には、フッ素アパタイト中の不純物濃度は、できる限り低いことが好ましく、300ppm以下であるのが好ましく、100ppm以下であるのがより好ましい。これにより、フッ素アパタイト一次粒子は、不純物濃度が低くなることに起因して、フッ素アパタイトからのフッ素原子の遊離が抑制され、より耐酸性の高いものとなる。
【0064】
なお、ハイドロキシアパタイト(一次粒子)とフッ化水素との反応条件(例えば、pH、温度、時間等)を調整することにより、フッ素アパタイト一次粒子中の不純物濃度を前記範囲内に、ひいては前記上清液中で遊離するフッ素濃度を前記範囲内に確実に設定することが可能である。
【0065】
特に、スラリーのpHを、フッ化水素含有液を混合することにより、好ましくは2.5〜5程度、より好ましくは2.7〜4程度の範囲内に調整し、この状態で、ハイドロキシアパタイト(一次粒子)とフッ化水素を反応させる。これにより、前記濃度をより確実に前記範囲内に設定することが可能である。なお、本明細書中において、スラリーのpHとは、フッ化水素含有液の全量をスラリーに混合した時点のpHとする。
【0066】
ここで、スラリーのpHを2.5未満に調製すると、ハイドロキシアパタイト自体が溶解する傾向を示し、フッ素アパタイトに変換して、一次粒子を得ることが困難となる恐れがある。さらに、一次粒子にフッ化水素含有液を混合する際に用いる装置の構成成分が溶出し、得られる一次粒子の純度が低下するという問題も生じ得る。さらに、フッ化水素含有液を使用してpH2.5未満である低いpHにスラリーを調整することは、技術的に極めて困難である。
【0067】
一方、フッ化水素含有液を用いて、スラリーのpHを5超に調整するには、スラリー中に大量の水を添加せざるを得ない。このため、スラリーの全量が極めて多くなり、スラリー全量に対するフッ素アパタイト一次粒子の収率が低下することから、工業的にも不利である。
【0068】
これらに対して、スラリーのpHを2.5〜5に調整することにより、反応により生成したフッ素アパタイト(一次粒子)が一旦溶解傾向を示した後に、再結晶することになる。このため、結晶性の高いフッ素アパタイト一次粒子を得ることができる。
【0069】
また、スラリーとフッ化水素含有液とは、これらを一時(同時)に混合するようにしてもよいが、スラリー中にフッ化水素含有液を滴下することにより混合するのが好ましい。このように、スラリー中にフッ化水素含有液を滴下することにより、比較的簡便に、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とを反応させることができる。また、スラリーのpHをより容易かつ確実に前記範囲に調製することができる。このため、ハイドロキシアパタイト自体の分解や、溶解等を防止することができ、高収率で高純度のフッ素アパタイト一次粒子を得ることができる。
【0070】
フッ化水素含有液を滴下する速度は、1〜100L/時間程度であるのが好ましく、3〜100L/時間程度であるのがより好ましい。このような滴下速度でフッ化水素含有液をスラリー中に混合(添加)することにより、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とを、より穏やかな条件で反応させることができる。
【0071】
また、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素との反応は、スラリーを撹拌しつつ行うのが好ましい。撹拌によって、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とが均一に接触し、反応を効率よく進行させることができる。また、得られるフッ素アパタイト一次粒子間でのフッ素原子の置換率をより均一なものとすることができ、例えば、かかるフッ素アパタイト一次粒子を用いて、吸着剤(乾燥粒子または焼結粒子)を製造した場合、その特性のバラツキが小さくなり、信頼性の高いものとなる。
【0072】
この場合、スラリーを撹拌する撹拌力は、スラリー1Lに対して、0.1〜3W程度の出力であるのが好ましく、0.5〜1.8W程度の出力であるのがより好ましい。撹拌力をこのような範囲の値とすることにより、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素との反応の効率をより向上させることができる。
【0073】
また、フッ化水素の混合量は、フッ素量がハイドロキシアパタイトが有する水酸基の量に対して0.65〜1.25倍程度となるようにするのが好ましく、0.75〜1.15倍程度となるようにするのがより好ましい。これにより、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基をフッ素原子に、より効率よく置換することができる。
【0074】
ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とを反応させる際の温度は、特に限定されないが、5〜50℃程度であるのが好ましく、20〜40℃程度であるのがより好ましい。このような温度範囲に設定することにより、スラリーのpHを低く調整した場合でも、ハイドロキシアパタイト(一次粒子)の分解や溶解等を防止することができる。また、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素との反応率を向上させることができる。さらに、生成したフッ素アパタイトの再結晶を効率よく促して、フッ素アパタイト一次粒子を得ることができる。
【0075】
この場合、ハイドロキシアパタイト一次粒子にフッ化水素を滴下する時間(加える時間)は、30分〜16時間程度かけて行うのが好ましく、1〜8時間程度かけて行うのがより好ましい。このような滴下時間で、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とを反応させることにより、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基をフッ素原子で十分に置換することができる。なお、滴下時間を上記の上限値を越えて長くしても、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素との反応の進行は、それ以上期待できない。
【0076】
以上のように、ハイドロキシアパタイトを含むスラリーと、フッ化水素を含有するフッ化水素含有液とを混合した分散液中において、ハイドロキシアパタイトとフッ化水素とを反応させることにより、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部がフッ素原子で置換されたフッ素アパタイトが得られる。そして、このようにして得られたフッ素アパタイトで構成される乾燥粒子は、この乾燥粒子を平均粒径40μm±5μmの大きさに分級し、分級した後の粒子2gを、純水20mLに混合して混合液を得た場合、前記上清液中でのフッ素濃度を、前記範囲内に確実に設定することが可能である。
【0077】
このフッ素アパタイトは、組成式(I)に示したように、必ずしも純粋なフッ素アパタイト(すなわちハイドロキシアパタイトの水酸基が完全にフッ素原子により置換されたハロゲン化度、式(I)中のxが1のもの)に限らず、ハイドロキシアパタイトの水酸基の一部のみがフッ素原子により置換されたものも含まれる。
【0078】
なお、本発明では、ハイドロキシアパタイト一次粒子の表面ばかりでなく、その内部までも、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基がフッ素原子により置換されたものとなる。具体的には、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基をフッ素原子により、75%以上置換されたものとすることが可能であり、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素との反応条件(例えば、pH、温度、時間、フッ化水素の混合量等)を適宜調整することにより、95%以上置換することも可能である。なお、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基をフッ素原子により、50%以上置換されたものは、耐酸性が特に優れており、好ましい。
【0079】
また、このようなフッ素アパタイト一次粒子は、不純物が極めて少なく、安定しているため、フッ素原子の遊離が好適に抑制されているため、優れた耐酸性を有している。
【0080】
このようなフッ素アパタイト一次粒子を含むスラリーは、乾燥や造粒することにより、乾燥粒子を得、さらに、この乾燥粒子を焼成して焼結粒子とすることができる。吸着剤としては、機械的強度の点から焼結粒子であることが好ましいが、吸着剤への負荷が比較的少ない場合等には、乾燥粒子であってもよい。この吸着剤をクロマトグラフィー(吸着装置)の固定相として用いれば、被検体(例えばタンパク質等)の分離条件や吸着条件の選択の幅を広げることが可能である。したがって、かかるクロマトグラフィーは、さらに広い領域(分野)への適用が可能となる。
【0081】
なお、一次粒子を含むスラリーを乾燥や造粒する方法としては、特に限定されないが、例えば、スラリーをスプレードライヤー等により噴霧乾燥する方法等が挙げられる。また、噴霧乾燥の温度は、120〜200℃程度であるのが好ましい。
【0082】
また、乾燥粒子を焼成する際の焼成温度は、200〜800℃程度であるのが好ましく、400〜700℃程度であるのがより好ましい。かかる範囲内に設定することにより、一次粒子内や一次粒子同士間(凝集体)で形成される間隙(空孔)を残存させつつ、機械的強度にも優れる吸着剤を得ることができる。
【0083】
さらに、フッ素アパタイトは、吸着剤への適用のみならず、例えば、前記乾燥粒子を成形した成形体を焼成することにより得られた焼結体を、人工骨や人工歯根等として用いることもできる。
【0084】
以上、本発明のフッ素アパタイトの乾燥粒子および吸着装置について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0085】
例えば、前記実施形態では、フッ化水素含有液を用いてフッ素アパタイトを得る際に、ハイドロキシアパタイトが一次粒子である場合を代表に説明したが、ハイドロキシアパタイトは、一次粒子を造粒した後の乾燥粒子であってもよい。ただし、本実施形態のように、一次粒子に含まれる水酸基をフッ素原子で置換する構成とすることにより、フッ素原子による置換率を向上させて、ハイドロキシアパタイトから遊離するフッ素原子の量を抑制することができ、得られるフッ素アパタイトをより耐酸性に優れたものとすることができる。
【実施例】
【0086】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.フッ素アパタイトの製造
(実施例)
まず、水酸化カルシウムを純水に懸濁させ、その中へ、リン酸水溶液を滴下していき、かつ十分に撹拌した。これにより、10wt%のハイドロキシアパタイト一次粒子を含むスラリー500Lを得た。
【0087】
なお、得られた合成物がハイドロキシアパタイトであることを粉末X線回折法により確認した。
【0088】
一方、フッ化水素を、5wt%となるように純水に溶解して、フッ化水素含有液を調製した。
【0089】
次に、スラリーを0.5KWの撹拌力で撹拌した状態で、フッ化水素含有液41.84Lを、速度5L/時間で滴下した。
【0090】
なお、フッ化水素含有液の滴下を終了した時点において、スラリーのpHは、3.00であった。また、フッ化水素の混合量は、フッ素量がハイドロキシアパタイトが有する水酸基の量に対して約1.05倍であった。
【0091】
引き続き、このスラリーを、温度30℃で24時間、0.5KWの撹拌力で撹拌を行った。これにより、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とを反応させ、フッ素アパタイト一次粒子を含むスラリーを得た。
【0092】
なお、スラリー中の反応生成物がフッ素アパタイトであることを粉末X線回折法により確認した。また、粉末X線回折の結果、フッ素アパタイト一次粒子におけるフッ素原子の置換率は、約100%であった。
【0093】
また、粉末X線回折の結果、フッ素アパタイト乾燥粒子中、フッ素アパタイト以外の生成物は、確認できなかった。
【0094】
次に、フッ素アパタイト一次粒子を含むスラリーを、噴霧乾燥機(大川原化工機社製、「OC−20」)を用いて、150℃で噴霧乾燥して、球状の乾燥粒子を製造した。
【0095】
また、乾燥粒子の一部を中心粒径約40μmで分級した後、400℃×4時間、電気炉で焼成して焼結粒子1とした。さらに、乾燥粒子の一部を中心粒径約40μmで分級した後、700℃×4時間、電気炉で焼成して焼結粒子2とした。
【0096】
なお、得られたフッ素アパタイト焼結粒子1および焼結粒子2(吸着剤)の平均粒径は、それぞれ、ともに約40μmであった。
【0097】
(比較例)
まず、前記実施例と同様にして、10wt%でハイドロキシアパタイト一次粒子を含むスラリーを得た。
【0098】
次に、20Lのスラリーを22Wの撹拌力で撹拌した状態で、6Mのフッ化水素アンモニウム水溶液4.5Lを、速度1.2L/時間で滴下した。
【0099】
なお、フッ化水素アンモニウム水溶液の滴下を終了した時点において、スラリーのpHは、7.00であった。
【0100】
引き続き、このスラリーを、温度30℃で24時間、22Wの撹拌力で撹拌を行った。これにより、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素アンモニウムとを反応させ、フッ素アパタイト一次粒子を含むスラリーを得た。
【0101】
なお、スラリー中の反応生成物がフッ素アパタイトであることを粉末X線回折法により確認した。また、粉末X線回折の結果、フッ素アパタイト一次粒子におけるフッ素原子の置換率は、約70%であった。
【0102】
次に、フッ素アパタイト一次粒子を含むスラリーを、前記実施例と同様の噴霧乾燥機を用いて、150℃で噴霧乾燥して、球状の乾燥粒子を製造した。
【0103】
また、乾燥粒子の一部を中心粒径約40μmで分級した後、400℃×4時間、電気炉で焼成して焼結粒子1とした。さらに、乾燥粒子の一部を中心粒径約40μmで分級した後、700℃×4時間、電気炉で焼成して焼結粒子2とした。
【0104】
なお、得られたフッ素アパタイト焼結粒子1および焼結粒子2(吸着剤)の平均粒径は、それぞれ、ともに約40μmであった。
【0105】
また、合成後、噴霧乾燥後、および400℃焼成後のフッ素アパタイトである乾燥粒子および焼結粒子1をそれぞれ純水で三回洗い、一昼夜静置した後、上清中にネスラー試薬を添加したところ、いずれも褐色を呈した。このことから、フッ素アパタイト一次粒子からアンモニアの一部が遊離しているものと考えられる。同様に、実施例で得られたフッ素アパタイト乾燥粒子および焼結粒子1に対してもネスラー試薬を添加したが、いずれも褐色にはならなかった。
【0106】
(参考例)
前記実施例と同様にして、ハイドロキシアパタイト一次粒子を含むスラリーを得た。
【0107】
次に、ハイドロキシアパタイト一次粒子を含むスラリーを、前記実施例と同様の噴霧乾燥機を用いて、150℃で噴霧乾燥して、球状の乾燥粒子を製造した。
【0108】
また、乾燥粒子の一部を中心粒径約40μmで分級した後、400℃×4時間、電気炉で焼成して焼結粒子1とした。
【0109】
なお、得られたハイドロキシアパタイト焼結粒子1(吸着剤)の平均粒径は約40μmであった。
【0110】
2.評価
2−1.粉末X線回折による結晶性評価
実施例および比較例で得られたフッ素アパタイト焼結粒子1に対して、粉末X線回折を行い、図1に示すような、実施例および比較例のフッ素アパタイト焼結粒子の粉末X線回折パターンが得られた。
【0111】
その結果、メインピークのカウント数等から、実施例のフッ素アパタイト焼結粒子1は、結晶性が高く、これに対して、比較例のフッ素アパタイト焼結粒子1は、結晶性が低いことが判った。
【0112】
2−2.比表面積の評価
実施例、比較例および参考例で得られた乾燥粒子および焼結粒子1について、全自動比表面積計(「Macdel model−1201」、マウンテック社製)を用いて比表面積を測定した。
【0113】
その結果を、下記の表1に示す。
下記表1から明らかなように、実施例および比較例の乾燥粒子および焼結粒子1は、参考例の乾燥粒子および焼結粒子1と比較して、それぞれが対応する粒子間で、比表面積が小さくなる傾向を示したが、多くのタンパク質を分離するのに充分な大きさの比表面積を有することが判った。
【0114】
2−3.粒子破壊強度の評価
実施例、比較例および参考例で得られた乾燥粒子および焼結粒子1について、微少圧縮試験機(「MCT−W200−J」、島津製作所社製)を用いて、圧縮試験することにより、粒子破壊強度を測定した。
【0115】
その結果を、下記の表1に示す。
下記表1から明らかなように、実施例および比較例の乾燥粒子および焼結粒子1は、参考例の乾燥粒子および焼結粒子1と比較して、それぞれが対応する粒子間で、粒子破壊強度が大きくなる傾向を示し、優れた強度を示すことが判った。また、実施例の乾燥粒子は、未焼成であるにもかかわらず、一般的なクロマトグラフィーの吸着剤として利用されている参考例の焼結粒子1よりも、大きな粒子破壊強度を示すことが判った。
【0116】
2−4.遊離フッ素濃度の評価
実施例および比較例で得られたフッ素アパタイトの乾燥粒子および焼結粒子1、2について、2g秤量し、これらの粒子を、それぞれ、20mLの純水に混合して混合液を得た。
【0117】
次に、これらの混合液を、それぞれ、ローテーターで10分間攪拌した後、超音波洗浄機で5分間分散させたものを、再びローテーターで1分間攪拌した。そして、かかる処理を施した混合液を、遠心分離器を用いて2000rpm×10分間の条件で、遠心分離させることにより上清液を得た。
【0118】
次に、実施例および比較例で得られた上清液9mLに対してTISAB(Total Ionic Strength Adjustment Buffer:酢酸、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウムに水酸化ナトリウムを添加してpH5.5に調製したもの)1mLを加え攪拌した溶液の電位を測定した。そして、測定された電位から図4に示す溶液の電位と溶液中に遊離するフッ素の濃度との関係を示す検量線を用いて、各上清液中に含まれる遊離フッ素濃度を求めた。
【0119】
以上のようにして求められた、実施例および比較例の上清液中に含まれる遊離フッ素原子の濃度を、下記の表1に示す。
【0120】
下記表1から明らかなように、実施例の焼結粒子1および焼結粒子2と比較例の焼結粒子1および焼結粒子2とでは、遊離フッ素濃度に大きな違いは認められないものの、実施例の乾燥粒子と、比較例の乾燥粒子とでは、それぞれ、遊離フッ素濃度が実施例の乾燥粒子の方が低くなる傾向を顕著に示した。
【0121】
【表1】

【0122】
2−5.タンパク質吸着能変化の評価
次に、実施例および比較例のフッ素アパタイトの焼結粒子1を、それぞれ、カラム(杉山商事社製、「LCI-1116WF -4.0×100-2 PL-PEEK」、内径4.0mm×長さ100mm)の充填空間にほぼ満量となるように充填して、カラムを製造した。
なお、カラムの充填空間の容積は、1.256mLであった。
【0123】
次に、各前記カラムに、125.6mLの400mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH5、温度25℃)を、通液速度1.0mL/minで通液した。
【0124】
次に、ミオグロビン 5mg/mL、オバルブミン 10mg/mL、α−キモトリプシノーゲンA 5mg/mL、チトクロムC 5mg/mLとなるように、1mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.8)に溶解させた試料50μLを、各カラムに供給した。
【0125】
その後、リン酸緩衝液(pH6.8)を流速1mL/minで22分間、カラム内に供給して、カラム内から流出するリン酸緩衝液の波長280nmにおける吸光度を測定した。
【0126】
なお、この際、リン酸緩衝液(pH6.8)は、10mMリン酸緩衝液に対する400mMリン酸緩衝液の混合率が、1〜16分の間で0%〜75%まで増加するようにし、16分後からの5分間では、400mMリン酸緩衝液の混合率が100%となるように通液した。
【0127】
なお、pH5のリン酸ナトリウム緩衝液をカラムに通液する前にも、同様の条件で、タンパク質の分離を行っておいた。
【0128】
そして、pH5のリン酸ナトリウム緩衝液をカラムに通液する前後において、タンパク質の分離特性における変化を確認した。
【0129】
その結果、図2および図3に示すように、実施例のフッ素アパタイト焼結粒子1を充填したカラムでは、タンパク質の分離特性における変化は認められなかった。
【0130】
これに対して、比較例のフッ素アパタイト焼結粒子1を充填したカラムでは、pH5のリン酸ナトリウム緩衝液をカラムに通液した後において、ミオグロビンの溶出時間が早くなる傾向を示した。
【0131】
これは、比較例のフッ素アパタイト焼結粒子1のフッ素原子がより多く遊離していること、すなわち比較例のフッ素アパタイト焼結粒子1の耐酸性が低下していることに起因してCaが溶出し、その結果、Caサイトに吸着する中性タンパク質であるミオグロビンが、これらの焼結粒子1に吸着し難くなったことが原因であると考えられる。
【0132】
2−6.まとめ
以上のことから、実施例のフッ素アパタイトは、比較例のフッ素アパタイトと比較して、ほぼ同等の比表面積および粒子破壊強度を維持しつつ、結晶性が高いことに起因して、フッ素原子の遊離が好適に抑制されており、このフッ素アパタイトで構成される乾燥粒子を平均粒径40μm±5μmの大きさに分級し、分級した後の粒子2gを、純水20mLに混合して混合液を得た場合、この混合液中でこの乾燥粒子を沈降させた際の上清液中でのフッ素濃度が12ppm以下となることが判った。そして、かかる範囲内にフッ素原子の遊離が抑制された乾燥粒子、および、この乾燥粒子を焼結して得られた焼結粒子は、優れた耐酸性を示すことが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】実施例および比較例の400℃で焼成したフッ素アパタイト焼結粒子の粉末X線回折パターンである。
【図2】実施例の400℃で焼成したフッ素アパタイト焼結粒子を充填したカラムにおけるタンパク質の分離特性の変化を示すグラフである。
【図3】比較例の400℃で焼成したフッ素アパタイト焼結粒子を充填したカラムにおけるタンパク質の分離特性の変化を示すグラフである。
【図4】溶液の電位と溶液中に遊離するフッ素の濃度との関係を示す検量線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部が、フッ化水素が備えるフッ素原子で置換されてなるフッ素アパタイトで構成される乾燥粒子であって、
前記乾燥粒子を平均粒径40μm±5μmの大きさに分級し、分級した後の粒子2gを、純水20mLに混合して混合液を得、該混合液中で前記乾燥粒子を沈降させた際の上清液中でのフッ素濃度が12ppm以下であることを特徴とするフッ素アパタイトの乾燥粒子。
【請求項2】
前記上清液は、攪拌および超音波付与の処理を前記混合液に施した後、該混合液を遠心分離することにより得られたものである請求項1に記載のフッ素アパタイトの乾燥粒子。
【請求項3】
前記乾燥粒子の比表面積が30m/g以上である請求項1または2に記載のフッ素アパタイトの乾燥粒子。
【請求項4】
前記乾燥粒子の平均粒径が30〜50μmである請求項1ないし3のいずれかに記載のフッ素アパタイトの乾燥粒子。
【請求項5】
前記フッ素アパタイトは、前記ハイドロキシアパタイトを含むスラリーと、前記フッ化水素を含有するフッ化水素含有液とを混合した分散液中において、前記ハイドロキシアパタイトと前記フッ化水素とを反応させることにより、前記ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部が、フッ素原子で置換されて得られたものである請求項1ないし4のいずれかに記載のフッ素アパタイトの乾燥粒子。
【請求項6】
前記分散液は、そのpHが2.5〜5.0である請求項5に記載のフッ素アパタイトの乾燥粒子。
【請求項7】
前記スラリーは、カルシウム源とリン酸源との少なくとも一方を溶液として用いる湿式合成法により合成されたハイドロキシアパタイトの一次粒子を含む請求項5または6に記載のフッ素アパタイトの乾燥粒子。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載のフッ素アパタイトの乾燥粒子、または、当該乾燥粒子を焼成して得られた焼結粒子を吸着剤として備える吸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−84119(P2009−84119A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257674(P2007−257674)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】