説明

フッ素アパタイトの製造方法、フッ素アパタイトおよび吸着装置

【課題】結晶性を向上させることにより、耐酸性の改善を図ったフッ素アパタイトを製造し得るフッ素アパタイトの製造方法、耐酸性の高いフッ素アパタイトおよびかかるフッ素アパタイトを備える吸着装置を提供する。
【解決手段】ハイドロキシアパタイトを含むスラリーを調製する工程と、フッ化水素を含有するフッ化水素含有液を調製する工程と、前記スラリーと前記フッ化水素含有液とを混合して、前記スラリーのpHを2.5〜5に調整し、この状態で、前記スラリー中において前記ハイドロキシアパタイトと前記フッ化水素とを反応させることにより、前記ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部を、フッ素原子で置換してフッ素アパタイトを得る工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素アパタイトの製造方法、フッ素アパタイトおよび吸着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フッ素アパタイトは、ハイドロキシアパタイトとほぼ同一の結晶構造を有しており、このため、ハイドロキシアパタイトとほぼ等しいタンパク質の吸着特性(吸着能)を備えている。
【0003】
また、フッ素アパタイトは、ハイドロキシアパタイトと比較するとフッ素アパタイトの方がより安定な物質であるため、耐酸性が高いという性質を有する。このため、フッ素アパタイトは、酸性溶液に対する耐久性が高く、酸性溶液中でのタンパク質の分離が可能であるという利点を有する。
【0004】
このようなフッ素アパタイトは、一般に、ハイドロキシアパタイトを含むスラリー中に、フッ素源としてフッ化水素アンモニウムを添加(混合)することにより合成される(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、かかる方法で合成されたフッ素アパタイトには、アンモニアが不純物として吸着する。アパタイト類は、アンモニアに対する吸着能が高いため、合成されたフッ素アパタイトを含むスラリーを噴霧乾燥(造粒)して粒子を得た場合、得られた粒子中にアンモニアが残留してしまう。すなわち、粒子からアンモニアを除去するのが極めて困難である。
【0006】
このため、製造される粒子は、ロット毎に、そのアンモニアの残留量が異なり、粒子の特性の均一化を図ることが困難である。
【0007】
また、フッ素アパタイト中へアンモニアが残留するため、アンモニアがフッ素と水酸基の置換を阻害し置換率が、ある程度までしか上がらずさらなる耐酸性の向上が期待できないという問題もある。
【0008】
【特許文献1】特開2004−330113号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、原料に起因するアンモニア等の不純物を少なく、もしくは極めて少なくすることにより、耐酸性の改善を図ったフッ素アパタイトを製造し得るフッ素アパタイトの製造方法、耐酸性の高いフッ素アパタイトおよびかかるフッ素アパタイトを備える吸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記(1)〜(12)の本発明により達成される。
(1) ハイドロキシアパタイトを含むスラリーを調製する工程と、
フッ化水素を含有するフッ化水素含有液を調製する工程と、
前記スラリーと前記フッ化水素含有液とを混合して、前記スラリーのpHを2.5〜5に調整し、この状態で、前記スラリー中において前記ハイドロキシアパタイトと前記フッ化水素とを反応させることにより、前記ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部を、フッ素原子で置換してフッ素アパタイトを得る工程とを有することを特徴とするフッ素アパタイトの製造方法。
【0011】
これにより、フッ素源としてフッ化水素を用いるので、不純物の残留がないか、または極めて少ないフッ素アパタイトを得ることができる。かかる点から、結晶性の高いフッ素アパタイトを得ることができる。また、低いpH領域で合成を行うため、反応により生成したフッ素アパタイトが一旦溶解傾向を示した後に、再結晶化することが考えられ結晶性の高いフッ素アパタイトを得ることができる。さらに、アンモニアなどの不純物が少ないため置換率が上昇する。このようなことから、得られるフッ素アパタイトの耐酸性が改善する。
【0012】
(2) 前記スラリーと前記フッ化水素含有液との混合は、前記スラリー中に前記フッ化水素含有液を滴下することにより行われる上記(1)に記載のフッ素アパタイトの製造方法。
【0013】
これにより、比較的簡便に、ハイドロキシアパタイトとフッ化水素とを反応させることができる。また、スラリーのpHをより容易かつ確実に前記範囲に調製することができる。このため、ハイドロキシアパタイト自体の分解や、溶解等を防止することができ、高収率で高純度のフッ素アパタイト一次粒子を得ることができる。
【0014】
(3) 前記フッ化水素含有液を滴下する速度は、1〜20L/時間である上記(2)に記載のフッ素アパタイトの製造方法。
【0015】
これにより、ハイドロキシアパタイトとフッ化水素とを、より穏やかな条件で反応させることができる。
【0016】
(4) 前記フッ化水素含有液中の前記フッ化水素の含有量は、1〜60wt%である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のフッ素アパタイトの製造方法。
【0017】
これにより、ハイドロキシアパタイトとフッ化水素とを反応させる際に、スラリーのpHを目的の範囲に調製するのが容易である。また、フッ化水素含有液のpHが極端に低くならず、安全に取り扱うこともできる。
【0018】
(5) 前記スラリー中のハイドロキシアパタイトの含有量は、1〜20wt%である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のフッ素アパタイトの製造方法。
【0019】
これにより、ハイドロキシアパタイトとフッ化水素とを反応させる際に、より効率よくハイドロキシアパタイトが有する水酸基をフッ素原子で置換することができる。また、比較的小さいエネルギーで、スラリーを十分に撹拌することができ、さらに十分にスラリーを攪拌できることから、ハイドロキシアパタイト間でのフッ素原子による置換率の均一化を図ることができる。
【0020】
(6) 前記スラリーと前記フッ化水素含有液とを、前記フッ化水素のフッ素量が前記ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の量に対して0.65〜1.25倍となるように混合する上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のフッ素アパタイトの製造方法。
【0021】
これにより、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基をフッ素原子に、より効率よく置換することができる。
【0022】
(7) 前記ハイドロキシアパタイトと前記フッ化水素とを、5〜50℃の範囲の温度で反応させる上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のフッ素アパタイトの製造方法。
【0023】
これにより、スラリーのpHを低く調整した場合でも、ハイドロキシアパタイトの分解等を防止することができる。また、ハイドロキシアパタイトとフッ化水素との反応率を向上させることができる。さらに、生成したフッ素アパタイトの再結晶を効率よく促すことができる。
【0024】
(8) 前記ハイドロキシアパタイトに前記フッ化水素を、30分〜16時間の範囲の時間をかけて加える上記(7)に記載のフッ素アパタイトの製造方法。
【0025】
これにより、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基をフッ素原子で十分に置換することができる。
【0026】
(9) 前記ハイドロキシアパタイトは、カルシウム源とリン酸源との少なくとも一方を溶液として用いる湿式合成法により合成された一次粒子である上記(1)ないし(8)のいずれかに記載のフッ素アパタイトの製造方法。
【0027】
このような方法を用いると、微細なハイドロキシアパタイト一次粒子が形成されるとともに、この一次粒子が均一に分散されたスラリーを得ることができる。また、スラリーを簡便に、かつ効率よく調製することができる。さらに、このような湿式合成法では、高価な製造設備を必要とせず、容易かつ効率よくハイドロキシアパタイトを合成することができる。
【0028】
(10) 上記(1)ないし(9)のいずれかに記載のフッ素アパタイトの製造方法を用いて製造されたことを特徴とするフッ素アパタイト。
【0029】
これにより、不純物を少なく、もしくはきわめて少なくすることにより、耐酸性の改善を図ったフッ素アパタイトが得られる。
【0030】
(11) ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部が、フッ素原子で置換されてなるフッ素アパタイトであって、
当該フッ素アパタイトを用いて平均粒径40μm±5μmの大きさに造粒した乾燥粒子を焼成して得られた焼結粒子をカラムの充填空間に充填して、pH5の緩衝液(常温)を通液速度1.0mL/minで、前記カラムに50CV通液直後に流出する流出液1mLを回収したとき、該流出液中のCa濃度が12ppm以下であることを特徴とするフッ素アパタイト。
かかるフッ素アパタイトは、耐酸性に優れる。
【0031】
(12) 上記(10)または(11)に記載のフッ素アパタイトを造粒した乾燥粒子、または、当該乾燥粒子を焼成して得られた焼結して得られた焼結粒子を吸着剤として備える吸着装置。
これにより、吸着装置は、耐酸性の高い吸着剤を備えるものとなる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、フッ素源としてフッ化水素を用いるので、不純物の残留がないか、または極めて少ないフッ素アパタイトを得ることができる。かかる点から、結晶性の高いフッ素アパタイトを得ることができる。また、低いpH領域(酸性領域)で合成を行うため、合成されたフッ素アパタイトは、耐酸性の高いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明のフッ素アパタイトの製造方法、フッ素アパタイトおよび吸着装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0034】
まず、本発明のフッ素アパタイトの製造方法について説明する。
本発明のフッ素アパタイトの製造方法は、スラリー調製工程S1と、フッ化水素含有液調製工程S2と、フッ素アパタイト合成工程S3とを有している。以下、これらの工程について、順次説明する。
【0035】
[S1] スラリー調製工程
まず、ハイドロキシアパタイトを含むスラリーを調製する。
【0036】
以下、ハイドロキシアパタイト一次粒子およびその凝集体が分散されたスラリーを調製する方法について説明する。
【0037】
ハイドロキシアパタイト一次粒子は、各種合成方法を用いて得ることができるが、カルシウム源とリン酸源との少なくとも一方を溶液として用いる湿式合成法によって合成するのが好ましい。このような方法を用いると、微細なハイドロキシアパタイト一次粒子が形成されるとともに、この一次粒子の凝集体が均一に分散されたスラリーを得ることができる。
【0038】
また、湿式合成法を用いることにより、高価な製造設備を必要とせず、スラリーを簡便に、かつ効率よくハイドロキシアパタイトを合成すること、すなわち、ハイドロキシアパタイト一次粒子が製造できる。
【0039】
さらに、ハイドロキシアパタイト一次粒子は、その形状が小さいため、後述する工程[S3]において、フッ化水素との反応性が極めて高い。このため、得られるフッ素アパタイト一次粒子におけるフッ素の置換率を高めることができる。
【0040】
カルシウム源としては、例えば、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム等を用いることができる。一方、リン酸源としては、リン酸、リン酸アンモニウム等を用いることができる。これらの中でも、特に、カルシウム源として水酸化カルシウムまたは酸化カルシウムを主成分とするものが、また、リン酸源としてリン酸を主成分とするものが好ましい。
【0041】
かかるカルシウム源およびリン酸源を用いることにより、ハイドロキシアパタイト一次粒子をより効率よくかつ安価に製造することができ、また、容易にハイドロキシアパタイト一次粒子やその凝集体が分散したスラリーを得ることができる。
【0042】
具体的には、例えば、容器内で、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)または酸化カルシウム(CaO)の懸濁液中に、リン酸(H3PO4)溶液を滴下し、撹拌混合することにより、ハイドロキシアパタイトが合成され、ハイドロキシアパタイト一次粒子が生成し、スラリーが得られる。
【0043】
このようなハイドロキシアパタイト一次粒子の凝集体の平均粒径は、1〜20μm程度であるのが好ましく、5〜12μm程度であるのがより好ましい。これにより、前記凝集体の粒子が小さくなりすぎることによって取り扱いが困難になるのを効果的に防止しすることができる。また、凝集体の大きさが十分小さくなっているのでフッ化水素と接触しやすくなり、より効率よくハイドロキシアパタイトが有する水酸基をフッ素原子で置換することができる。
【0044】
また、スラリー中におけるハイドロキシアパタイト一次粒子の含有量は、1〜20wt%程度であるのが好ましく、5〜12wt%程度であるのがより好ましい。これにより、後述する工程[S3]において、より効率よくハイドロキシアパタイトが有する水酸基をフッ素原子で置換することができる。また、後述する工程[S3]において、比較的小さいエネルギーで、スラリーを十分に撹拌することができ、さらに十分にスラリーを攪拌できることから、ハイドロキシアパタイト一次粒子間でのフッ素原子による置換率の均一化を図ることができる。
【0045】
[S2] フッ化水素含有液調製工程
一方、ハイドロキシアパタイトを含むスラリーとは別に、フッ化水素を含有するフッ化水素含有液を調製する。
【0046】
フッ化水素を溶解する溶媒は、後述する工程[S3]における反応を阻害しないものであれば、いかなるものも使用が可能である。
【0047】
かかる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール等のアルコール類等が挙げられ、これらを混合して用いることもできるが、中でも、特に、水であるのが好ましい。溶媒として水を用いれば、後述する工程[S3]における反応の阻害をより確実に防止することができる。
【0048】
フッ化水素含有液中のフッ化水素の含有量は、1〜60wt%程度であるのが好ましく、2.5〜10wt%程度であるのがより好ましい。フッ化水素の含有量がこのような範囲であれば、後述する工程[S3]において、スラリーのpHを目的とする範囲内に調整するのが容易である。また、フッ化水素含有液のpHが極端に低くならず、安全に取り扱うこともできる。
【0049】
[S3] フッ素アパタイト合成工程
次に、前記工程[S1]で調製されたスラリーと前記工程[S2]で調製されたフッ化水素含有液とを混合することにより、フッ化水素含有液を含むスラリー中において、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とを反応させて、フッ素アパタイト一次粒子を得る。
【0050】
すなわち、ハイドロキシアパタイト一次粒子に、フッ化水素を接触させることで、次式(I)に示すように、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部をフッ素原子で置換して、フッ素アパタイトに変換して、フッ素アパタイト一次粒子を得る。
【0051】
Ca10(PO(OH)
Ca10(PO(OH)2−2x2X ・・・ (I)
[ただし、式(I)中、xは0<x≦1である。]
【0052】
このように、ハイドロキシアパタイト一次粒子を含むスラリー中で、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素を反応させることにより、フッ素アパタイト一次粒子を簡便に製造することができる。
【0053】
また、一次粒子の段階でハイドロキシアパタイトが有する水酸基がフッ素原子により置換されるので、得られるフッ素アパタイト一次粒子においてフッ素原子による水酸基の置換率が特に高くなる。
【0054】
また、フッ素源として、フッ化水素(HF)を用いるので、フッ化水素アンモニウム(NHF)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化カリウム(KF)、フッ化マグネシウム(MgF)やフッ化カルシウム(CaF)等を用いる場合に比較して副反応生成物の生成がないか、あるいは極めて少ない。このため、フッ素アパタイト一次粒子中に混入する不純物の含有量を少なくすることができ、フッ素アパタイト一次粒子の耐酸性を向上させることができる。なお、ここでいう不純物とは、フッ素アパタイトの原料に起因するアンモニアやリチウム等を指す。
【0055】
具体的には、フッ素アパタイト中の不純物濃度は、できる限り低いことが好ましく、300ppm以下であるのが好ましく、100ppm以下であるのがより好ましい。これにより、フッ素アパタイト一次粒子は、不純物濃度が低くなることに起因して、より耐酸性の高いものとなる。
【0056】
なお、本発明によれば、ハイドロキシアパタイト(一次粒子)とフッ化水素との反応条件(例えば、pH、温度、時間等)を調整することにより、フッ素アパタイト一次粒子中の不純物濃度を前記範囲とすることが可能である。
【0057】
特に、本発明では、フッ化水素含有液を混合することにより、スラリーのpHを2.5〜5の範囲内に調整し、この状態で、ハイドロキシアパタイト(一次粒子)とフッ化水素を反応させることを特徴とする。なお、本明細書中において、スラリーのpHとは、フッ化水素含有液の全量をスラリーに混合した時点のpHとする。
【0058】
ここで、スラリーのpHを2.5未満に調製すると、ハイドロキシアパタイト自体が溶解する傾向を示し、フッ素アパタイトに変換して、一次粒子を得ることが困難となる。さらに、一次粒子にフッ化水素含有液を混合する際に用いる装置の構成成分が溶出し、得られる一次粒子の純度が低下するという問題も生じる。さらに、フッ化水素含有液を使用してpH2.5未満である低いpHにスラリーを調整することは、技術的に極めて困難である。
【0059】
一方、フッ化水素含有液を用いて、スラリーのpHを5超に調整するには、スラリー中に大量の水を添加せざるを得ない。このため、スラリーの全量が極めて多くなり、スラリー全量に対するフッ素アパタイト一次粒子の収率が低下することから、工業的にも不利である。
【0060】
これらに対して、スラリーのpHを2.5〜5に調整することにより、反応により生成したフッ素アパタイト(一次粒子)が一旦溶解傾向を示した後に、再結晶することになる。このため、結晶性の高いフッ素アパタイト一次粒子を得ることができる。
【0061】
なお、スラリーのpHは、2.5〜5に調整すればよいが、2.5〜4.5程度に調整するのが好ましく、2.7〜4程度に調整するのがより好ましい。かかる範囲にスラリーのpHを調整することにより、より簡便かつ高収率で、結晶性の高いフッ素アパタイト一次粒子を得ることができる。
【0062】
また、スラリーとフッ化水素含有液とは、これらを一時(同時)に混合するようにしてもよいが、スラリー中にフッ化水素含有液を滴下することにより混合するのが好ましい。このように、スラリー中にフッ化水素含有液を滴下することにより、比較的簡便に、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とを反応させることができる。また、スラリーのpHをより容易かつ確実に前記範囲に調製することができる。このため、ハイドロキシアパタイト自体の分解や、溶解等を防止することができ、高収率で高純度のフッ素アパタイト一次粒子を得ることができる。
【0063】
フッ化水素含有液を滴下する速度は、1〜20L/時間程度であるのが好ましく、3〜10L/時間程度であるのがより好ましい。このような滴下速度でフッ化水素含有液をスラリー中に混合(添加)することにより、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とを、より穏やかな条件で反応させることができる。
【0064】
また、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素との反応は、スラリーを撹拌しつつ行うのが好ましい。撹拌によって、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とが均一に接触し、反応を効率よく進行させることができる。また、得られるフッ素アパタイト一次粒子間でのフッ素原子の置換率をより均一なものとすることができ、例えば、かかるフッ素アパタイト一次粒子を用いて、吸着剤(乾燥粒子または焼結粒子)を製造した場合、その特性のバラツキが小さくなり、信頼性の高いものとなる。
【0065】
この場合、スラリーを撹拌する撹拌力は、スラリー1Lに対して、1〜10kW程度の出力であるのが好ましく、1〜5kW程度の出力であるのがより好ましい。撹拌力をこのような範囲の値とすることにより、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素との反応の効率をより向上させることができる。
【0066】
また、フッ化水素の混合量は、フッ素量がハイドロキシアパタイトが有する水酸基の量に対して0.65〜1.25倍程度となるようにするのが好ましく、0.75〜1.15倍程度となるようにするのがより好ましい。これにより、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基をフッ素原子に、より効率よく置換することができる。
【0067】
ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とを反応させる際の温度は、特に限定されないが、5〜50℃程度であるのが好ましく、20〜40℃程度であるのがより好ましい。このような温度範囲に設定することにより、スラリーのpHを低く調整した場合でも、ハイドロキシアパタイト(一次粒子)の分解や溶解等を防止することができる。また、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素との反応率を向上させることができる。さらに、生成したフッ素アパタイトの再結晶を効率よく促して、フッ素アパタイト一次粒子を得ることができる。
【0068】
この場合、ハイドロキシアパタイト一次粒子にフッ化水素を滴下する時間(加える時間)は、30分〜16時間程度かけて行うのが好ましく、1〜8時間程度かけて行うのがより好ましい。このような滴下時間で、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とを反応させることにより、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基をフッ素原子で十分に置換することができる。なお、滴下時間を上記の上限値を越えて長くしても、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素との反応の進行は、それ以上期待できない。
【0069】
以上のようにしてハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部がフッ素原子で置換されたフッ素アパタイトが得られる。
【0070】
このフッ素アパタイトは、式(I)に示したように、必ずしも純粋なフッ素アパタイト(すなわちハイドロキシアパタイトの水酸基が完全にフッ素原子により置換されたハロゲン化度、式(I)中のxが1のもの)に限らず、ハイドロキシアパタイトの水酸基の一部のみがフッ素原子により置換されたものも含まれる。
【0071】
なお、本発明によれば、ハイドロキシアパタイト一次粒子の表面ばかりでなく、その内部までも、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基をフッ素原子により置換することが可能である。具体的には、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基をフッ素原子により、75%以上置換することが可能であり、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素との反応条件(例えば、pH、温度、時間、フッ化水素の混合量等)を適宜調整することにより、95%以上置換することも可能である。なお、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基をフッ素原子により、50%以上置換されたものは、耐酸性が特に優れており、好ましい。
【0072】
また、このようなフッ素アパタイト一次粒子は、不純物が極めて少なく、安定しているため、優れた耐酸性を有している。
【0073】
この耐酸性の程度は、例えば、以下のようにして規定することができる。
すなわち、フッ素アパタイト一次粒子、この一次粒子を造粒して得られた乾燥粒子を焼成することにより得られた焼結粒子を、酸性溶液に接触させた際に、溶出するCaの量によって規定することができる。
【0074】
例えば、当該フッ素アパタイトを用いて平均粒径40μm±5μmの大きさに造粒した粒子(乾燥粒子)を焼成して得られた焼結粒子をカラムの充填空間に充填して、pH5の緩衝液(常温)を通液速度1.0mL/minで、カラムに50CV(1CV=1.256mL)通液直後の流出する流出液1mLを回収したとき、この流出液中のCa濃度を測定することにより規定することができる。
【0075】
このような条件で、測定されるCa濃度は、できる限り低く「0ppm」により近い方が好ましい。具体的には、前記Ca濃度が12ppm以下であるのが好ましく、10ppm以下であるのがより好ましく、5ppm以下であるのがさらに好ましい。このように、前記粒子から溶出するCa濃度が低いフッ素アパタイト(焼結粒子)は、極めて高い耐酸性を有するものと判断することができる。
【0076】
ここで用いる緩衝液としては、特に限定されないが、例えば、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸、酢酸、クエン酸、炭酸、コハク酸およびグリシン緩衝液等が挙げられる。
【0077】
さらに、緩衝液の塩濃度としては、100〜700mM程度であるのが好ましく、300〜500mM程度であるのがより好ましい。
【0078】
このようなフッ素アパタイト一次粒子を含むスラリーは、乾燥や造粒することにより、乾燥粒子を得、さらに、この乾燥粒子を焼成して焼結粒子とすることができる。吸着剤としては、機械的強度の点から焼結粒子であることが好ましいが、吸着剤への負荷が比較的少ない場合等には、乾燥粒子であってもよい。この吸着剤をクロマトグラフィー(吸着装置)の固定相として用いれば、被検体(例えばタンパク質等)の分離条件や吸着条件の選択の幅を広げることが可能である。したがって、かかるクロマトグラフィーは、さらに広い領域(分野)への適用が可能となる。
【0079】
なお、一次粒子を含むスラリーを乾燥や造粒する方法としては、特に限定されないが、例えば、スラリーをスプレードライヤー等により噴霧乾燥する方法等が挙げられる。
【0080】
また、乾燥粒子を焼成する際の焼成温度は、200〜800℃程度であるのが好ましく、400〜700℃程度であるのがより好ましい。かかる範囲内に設定することにより、一次粒子内や一次粒子同士間(凝集体)で形成される間隙(空孔)を残存させつつ、機械的強度にも優れる吸着剤を得ることができる。
【0081】
さらに、フッ素アパタイトは、吸着剤への適用のみならず、例えば、前記乾燥粒子を成形した成形体を焼成することにより得られた焼結体を、人工骨や人工歯根等として用いることもできる。
【0082】
以上、本発明のフッ素アパタイトの製造方法、フッ素アパタイトおよび吸着装置について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0083】
例えば、前記実施形態では、フッ化水素含有液を用いてフッ素アパタイトを得る際に、ハイドロキシアパタイトが一次粒子である場合を代表に説明したが、ハイドロキシアパタイトは、一次粒子を造粒した後の乾燥粒子または焼結粒子であってもよい。ただし、本実施形態のように、一次粒子に含まれる水酸基をフッ素原子で置換する構成とすることにより、フッ素原子による置換率を向上させることができ、得られるフッ素アパタイトをより耐酸性に優れたものとすることができる。
【実施例】
【0084】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.フッ素アパタイトの製造
(実施例1)
まず、水酸化カルシウムを純水に懸濁させ、その中へ、リン酸水溶液を滴下していき、かつ十分に撹拌した。これにより、10wt%のハイドロキシアパタイト一次粒子を含むスラリー500Lを得た。
【0085】
なお、得られた合成物がハイドロキシアパタイトであることを粉末X線回折法により確認した。
【0086】
一方、フッ化水素を、5wt%となるように純水に溶解して、フッ化水素含有液を調製した。
【0087】
次に、スラリーを1kWの撹拌力で撹拌した状態で、フッ化水素含有液41.84Lを、速度5L/時間で滴下した。
【0088】
なお、フッ化水素含有液の滴下を終了した時点において、スラリーのpHは、3.00であった。また、フッ化水素の混合量は、フッ素量がハイドロキシアパタイトが有する水酸基の量に対して約1.05倍であった。
【0089】
引き続き、このスラリーを、温度30℃で24時間、1kWの撹拌力で撹拌を行った。これにより、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とを反応させ、フッ素アパタイト一次粒子を含むスラリーを得た。
【0090】
なお、スラリー中の反応生成物がフッ素アパタイトであることを粉末X線回折法により確認した。また、粉末X線回折の結果、フッ素アパタイト一次粒子におけるフッ素原子の置換率は、約100%であった。
【0091】
また、粉末X線回折の結果、フッ素アパタイト乾燥粒子中、フッ素アパタイト以外の生成物は、確認できなかった。
【0092】
次に、フッ素アパタイト一次粒子を含むスラリーを、噴霧乾燥機(大川原化工機社製、「OC−20」)を用いて、150℃で噴霧乾燥して、球状の乾燥粒子を製造した。
【0093】
また、乾燥粒子の一部を中心粒径約40μmで分級した後、400℃×4時間、電気炉で焼成して焼結粒子1とした。さらに、乾燥粒子の一部を中心粒径約40μmで分級した後、700℃×4時間、電気炉で焼成して焼結粒子2とした。
【0094】
なお、得られたフッ素アパタイト焼結粒子1および焼結粒子2(吸着剤)の平均粒径は、それぞれ、ともに約40μmであった。
【0095】
(実施例2)
フッ化水素含有液に純水を添加して、フッ化水素含有液の滴下を終了した時点において、スラリーのpHが3.36となるように調整した以外は、前記実施例1と同様にして、フッ素アパタイト一次粒子を得て、フッ素アパタイト乾燥粒子および焼結粒子1、2を製造した。
【0096】
なお、フッ素アパタイト一次粒子におけるフッ素原子の置換率は、約75%であった。
また、粉末X線回折の結果、フッ素アパタイト乾燥粒子中、フッ素アパタイト以外の生成物は、確認できなかった。
【0097】
なお、得られたフッ素アパタイト乾燥粒子および焼結粒子1、2(吸着剤)の平均粒径は、それぞれ、ともに約40μmであった。
【0098】
(実施例3)
フッ化水素含有液に純水を添加して、フッ化水素含有液の滴下を終了した時点において、スラリーのpHが3.96となるように調整した以外は、前記実施例1と同様にして、フッ素アパタイト一次粒子を得て、フッ素アパタイト乾燥粒子および焼結粒子1、2を製造した。
【0099】
なお、フッ素アパタイト一次粒子におけるフッ素原子の置換率は、約50%であった。
また、粉末X線回折の結果、フッ素アパタイト乾燥粒子中、フッ素アパタイトとハイドロキシアパタイト以外の生成物は、確認できなかった。
【0100】
なお、得られたフッ素アパタイト乾燥粒子および焼結粒子1、2(吸着剤)の平均粒径は、それぞれ、ともに約40μmであった。
【0101】
(比較例1)
純水を添加して、フッ化水素含有液の滴下を終了した時点において、スラリーのpHが6.03となるように調整した以外は、前記実施例1と同様にして、フッ素アパタイト一次粒子を得て、フッ素アパタイト乾燥粒子および焼結粒子1、2を製造した。
【0102】
なお、フッ素アパタイト一次粒子におけるフッ素原子の置換率は、約25%と実施例に比較し、低い値であった。
【0103】
また、粉末X線回折の結果、フッ素アパタイト乾燥粒子中、フッ素アパタイとハイドロキシアパタイト以外の生成物は、確認できなかった。
【0104】
さらに、得られたフッ素アパタイト乾燥粒子および焼結粒子1、2(吸着剤)の平均粒径は、それぞれ、ともに約40μmであった。
【0105】
なお、本比較例では、噴霧乾燥する前のフッ素アパタイト一次粒子を含むスラリー中におけるフッ素アパタイトの含有量は、0.14wt%であり、実施例1のスラリー中におけるフッ素アパタイトの含有量(9.0wt%)の約1.6×10−2倍であった。そのため、実施例1で得られたフッ素アパタイト乾燥粒子と同量の乾燥粒子を本比較例で得るには、実施例1のスラリーと比較して、約64倍のスラリーが必要となり、噴霧乾燥の際に時間と手間を要することから、工業的な使用は難しいと考えられた。
【0106】
(比較例2)
まず、前記実施例1と同様にして、10wt%でハイドロキシアパタイト一次粒子を含むスラリーを得た。
【0107】
次に、20Lのスラリーを1kWの撹拌力で撹拌した状態で、6Mのフッ化水素アンモニウム水溶液4.5Lを、速度1.2L/時間で滴下した。
【0108】
なお、フッ化水素アンモニウム水溶液の滴下を終了した時点において、スラリーのpHは、7.00であった。
【0109】
引き続き、このスラリーを、温度30℃で24時間、1kWの撹拌力で撹拌を行った。これにより、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素アンモニウムとを反応させ、フッ素アパタイト一次粒子を含むスラリーを得た。
【0110】
なお、スラリー中の反応生成物がフッ素アパタイトであることを粉末X線回折法により確認した。また、粉末X線回折の結果、フッ素アパタイト一次粒子におけるフッ素原子の置換率は、約70%であった。
【0111】
次に、フッ素アパタイト一次粒子を含むスラリーを、前記実施例1と同様の噴霧乾燥機を用いて、150℃で噴霧乾燥して、球状の乾燥粒子を製造した。
【0112】
また、乾燥粒子の一部を中心粒径約40μmで分級した後、400℃×4時間、電気炉で焼成して焼結粒子1とした。さらに、乾燥粒子の一部を中心粒径約40μmで分級した後、700℃×4時間、電気炉で焼成して焼結粒子2とした。
【0113】
なお、得られたフッ素アパタイト焼結粒子1および焼結粒子2(吸着剤)の平均粒径は、それぞれ、ともに約40μmであった。
また、合成後、噴霧乾燥後、および400℃焼成後のフッ素アパタイトである乾燥粒子および焼結粒子1をそれぞれ純水で三回洗い、一昼夜静置した後、上清中にネスラー試薬を添加したところ、いずれも褐色を呈した。このことから、フッ素アパタイト一次粒子からアンモニアの一部が遊離しているものと考えられる。同様に、実施例1〜3で得られたフッ素アパタイト乾燥粒子および焼結粒子1に対してもネスラー試薬を添加したが、いずれも褐色にはならなかった。
【0114】
(参考例)
前記実施例1と同様にして、ハイドロキシアパタイト一次粒子を含むスラリーを得た。
【0115】
次に、ハイドロキシアパタイト一次粒子を含むスラリーを、前記実施例1と同様の噴霧乾燥機を用いて、150℃で噴霧乾燥して、球状の乾燥粒子を製造した。
【0116】
また、乾燥粒子の一部を中心粒径約40μmで分級した後、400℃×4時間、電気炉で焼成して焼結粒子1とした。さらに、乾燥粒子の一部を中心粒径約40μmで分級した後、700℃×4時間、電気炉で焼成して焼結粒子2とした。
【0117】
なお、得られたハイドロキシアパタイト焼結粒子1および焼結粒子2(吸着剤)の平均粒径は、それぞれ、ともに約40μmであった。
【0118】
2.評価
2−1.粉末X線回折による結晶性評価
実施例1〜3および比較例1、2で得られたフッ素アパタイト焼結粒子1に対して、粉末X線回折を行った。
【0119】
その結果、メインピークのカウント数等から、各実施例のフッ素アパタイト焼結粒子1は、結晶性が高く、これに対して、各比較例のフッ素アパタイト焼結粒子1は、結晶性が低いことが判った。
【0120】
なお、代表として、実施例1、実施例2および比較例2のフッ素アパタイト焼結粒子の粉末X線回折パターンを、図1に示した。
【0121】
2−2.Ca溶出による結晶性評価
次に、実施例1および比較例2の400℃で焼成した焼結粒子1および700℃で焼成した焼結粒子2を、それぞれ、カラム(杉山商事社製、「LCI-1116WF -4.0×100-2 PL-PEEK」、内径4.0mm×長さ100mm)の充填空間にほぼ満量となるように充填して、実施例1および比較例2の焼結粒子1および焼結粒子2が充填されたカラムを製造した。
【0122】
なお、カラムの充填空間の容積は、1.256mLであった。
そして、各カラムに、400mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH5、温度25℃)を、通液速度1.0mL/minで、50CV(1CV=1.256mL)通液直後に流出する流出液1mLを回収した。
【0123】
以上のようにして、実施例1および比較例2の各粒子を充填したカラムから回収した流出液中におけるCa濃度を表1に示す。
【0124】
【表1】

【0125】
表1に示すCa濃度の値から明らかなように、実施例1の焼結粒子は、比較例2の焼結粒子と比較して、流出液中へのCaの遊離が好適に抑制されていることが明らかとなった。
【0126】
したがって、このことから実施例1のフッ素アパタイト焼結粒子は、比較例2のフッ素アパタイト焼結粒子と比較して、優れた耐酸性を示すものと推察される。また、実施例2の400℃で焼結したフッ素アパタイト焼結粒子1および参考例の400℃で焼結したハイドロキシアパタイト焼結粒子1でも同様にしてカラムを製造し、同様の操作でCa濃度を測定したところ、表1に示すように、それぞれ、6.37ppmおよび70.60ppmであった。
【0127】
2−3.タンパク質吸着能変化の評価
次に、各(実施例および比較例の)フッ素アパタイト焼結粒子1および参考例のハイドロキシアパタイト焼結粒子1を、それぞれ、カラム(杉山商事社製、「LCI-1116WF -4.0×100-2 PL-PEEK」、内径4.0mm×長さ100mm)の充填空間にほぼ満量となるように充填して、カラムを製造した。
なお、カラムの充填空間の容積は、1.256mLであった。
【0128】
次に、各前記カラムに、125.6mLの400mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH5、温度25℃)を、通液速度1.0mL/minで通液した。
【0129】
次に、ミオグロビン 5mg/mL、オバルブミン 10mg/mL、α−キモトリプシノーゲンA 5mg/mL、チトクロムC 5mg/mLとなるように、1mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.8)に溶解させた試料50μLを、各カラムに供給した。
【0130】
その後、リン酸緩衝液(pH6.8)を流速1mL/minで22分間、カラム内に供給して、カラム内から流出するリン酸緩衝液の波長280nmにおける吸光度を測定した。
【0131】
なお、この際、リン酸緩衝液(pH6.8)は、10mMリン酸緩衝液に対する400mMリン酸緩衝液の混合率が、1〜16分の間で0%〜75%まで増加するようにし、16分後からの5分間では、400mMリン酸緩衝液の混合率が100%となるように通液した。
【0132】
なお、pH5のリン酸ナトリウム緩衝液をカラムに通液する前にも、同様の条件で、タンパク質の分離を行っておいた。
【0133】
そして、pH5のリン酸ナトリウム緩衝液をカラムに通液する前後において、タンパク質の分離特性における変化を確認した。
【0134】
その結果、各実施例のフッ素アパタイト焼結粒子1を充填したカラムでは、いずれも、タンパク質の分離特性における変化は認められなかった。
【0135】
これに対して、各比較例のフッ素アパタイト焼結粒子1を充填したカラムおよび参考例のハイドロキシアパタイト焼結粒子1を充填したカラムでは、いずれも、pH5のリン酸ナトリウム緩衝液をカラムに通液した後において、ミオグロビンの溶出時間が早くなる傾向を示した。
【0136】
これは、フッ素アパタイト焼結粒子1およびハイドロキシアパタイト焼結粒子1からCaが溶出し、その結果、Caサイトに吸着する中性タンパク質であるミオグロビンが、これらの焼結粒子1に吸着し難くなったことが原因であると考えられる。
【0137】
なお、代表として、実施例1、実施例2および比較例2のフッ素アパタイト焼結粒子1を充填したカラムにおけるタンパク質の分離特性の変化を示すグラフを、それぞれ、図2〜図4に示した。
【0138】
2−4.pH変化によるステンレスの溶解性評価
ここで、フッ化水素含有液を滴下する際に用いる滴下装置や、スラリーを攪拌する際に用いる攪拌装置は、フッ化水素含有液に曝されることとなるが、これらの装置の耐酸性が低いと装置の構成材料が溶出し、得られるフッ素アパタイト一次粒子の純度が低下するという問題が生じる。そのため、これらの装置の主材料として好適に用いられるSUS304の溶解性試験を行った。なお、SUS304の溶解性評価にあたっては、高価なガラス器具を使用することになるが、フッ化水素含有液はガラス器具を腐食してしまう。そこで今回は、酸によるステンレスの溶解性を評価できればよいので、フッ化水素含有液の代わりに、硝酸溶液を代用することにした。
【0139】
まず、溶解性試験に用いる試験片として、内径6mm×外径16mmのSUS304リングを3つ用意した。
【0140】
次に、pH4.0、3.0、2.0の硝酸溶液を、それぞれ、25mLずつ調製した。
次に、各pHの硝酸溶液(25mL)中に、それぞれ、1つのSUS304リングを1時間浸漬した。なお、このとき硝酸溶液を、ロテーターを用いて攪拌した。
【0141】
そして、各pHの硝酸溶液(上清液)を1mL採取し、これらの溶液中におけるFe(鉄)の含有量をICP(Inductive Coupled Plasma)装置(「ICPS−7500型番」、島津製作所社製)を用いて測定した。
【0142】
以上のようにして測定された、各pHと硝酸溶液中に含まれるFeの溶出量との関係を示すグラフを、図5に示した。
【0143】
図5から明らかなように、pHが低くなるとFeの溶出量が指数関数的に増加することから、得られるフッ素アパタイト一次粒子の純度を向上させるためには、滴下するフッ化水素含有液のpHを2.0以上にするのが良いことが判った。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】実施例1、実施例2および比較例2の400℃で焼成したフッ素アパタイト焼結粒子の粉末X線回折パターンである。
【図2】実施例1の400℃で焼成したフッ素アパタイト焼結粒子を充填したカラムにおけるタンパク質の分離特性の変化を示すグラフである。
【図3】実施例2の400℃で焼成したフッ素アパタイト焼結粒子を充填したカラムにおけるタンパク質の分離特性の変化を示すグラフである。
【図4】比較例2の400℃で焼成したフッ素アパタイト焼結粒子を充填したカラムにおけるタンパク質の分離特性の変化を示すグラフである。
【図5】各pHと硝酸溶液中に含まれるFeの溶出量との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロキシアパタイトを含むスラリーを調製する工程と、
フッ化水素を含有するフッ化水素含有液を調製する工程と、
前記スラリーと前記フッ化水素含有液とを混合して、前記スラリーのpHを2.5〜5に調整し、この状態で、前記スラリー中において前記ハイドロキシアパタイトと前記フッ化水素とを反応させることにより、前記ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部を、フッ素原子で置換してフッ素アパタイトを得る工程とを有することを特徴とするフッ素アパタイトの製造方法。
【請求項2】
前記スラリーと前記フッ化水素含有液との混合は、前記スラリー中に前記フッ化水素含有液を滴下することにより行われる請求項1に記載のフッ素アパタイトの製造方法。
【請求項3】
前記フッ化水素含有液を滴下する速度は、1〜20L/時間である請求項2に記載のフッ素アパタイトの製造方法。
【請求項4】
前記フッ化水素含有液中の前記フッ化水素の含有量は、1〜60wt%である請求項1ないし3のいずれかに記載のフッ素アパタイトの製造方法。
【請求項5】
前記スラリー中のハイドロキシアパタイトの含有量は、1〜20wt%である請求項1ないし4のいずれかに記載のフッ素アパタイトの製造方法。
【請求項6】
前記スラリーと前記フッ化水素含有液とを、前記フッ化水素のフッ素量が前記ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の量に対して0.65〜1.25倍となるように混合する請求項1ないし5のいずれかに記載のフッ素アパタイトの製造方法。
【請求項7】
前記ハイドロキシアパタイトと前記フッ化水素とを、5〜50℃の範囲の温度で反応させる請求項1ないし6のいずれかに記載のフッ素アパタイトの製造方法。
【請求項8】
前記ハイドロキシアパタイトに前記フッ化水素を、30分〜16時間の範囲の時間をかけて加える請求項7に記載のフッ素アパタイトの製造方法。
【請求項9】
前記ハイドロキシアパタイトは、カルシウム源とリン酸源との少なくとも一方を溶液として用いる湿式合成法により合成された一次粒子である請求項1ないし8のいずれかに記載のフッ素アパタイトの製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載のフッ素アパタイトの製造方法を用いて製造されたことを特徴とするフッ素アパタイト。
【請求項11】
ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部が、フッ素原子で置換されてなるフッ素アパタイトであって、
当該フッ素アパタイトを用いて平均粒径40μm±5μmの大きさに造粒した乾燥粒子を焼成して得られた焼結粒子をカラムの充填空間に充填して、pH5の緩衝液(常温)を通液速度1.0mL/minで、前記カラムに50CV通液直後に流出する流出液1mLを回収したとき、該流出液中のCa濃度が12ppm以下であることを特徴とするフッ素アパタイト。
【請求項12】
請求項10または11に記載のフッ素アパタイトを造粒した乾燥粒子、または、当該乾燥粒子を焼成して得られた焼結粒子を吸着剤として備える吸着装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−35464(P2009−35464A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203553(P2007−203553)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】