説明

フッ素ガス生成装置

【課題】フッ化水素を吸着除去する精製装置の閉塞を防止し、安定して、高純度なフッ素ガスを供給可能なフッ素ガス生成装置を提供する。
【解決手段】電解槽1の溶融塩から気化して陽極7から生成されたフッ素ガスに混入したフッ化水素を吸着剤によって吸着除去する精製装置20を備え、精製装置20は、電解槽1にて発生したフッ素ガスを含む主生ガスを通過させる筒状部材と、前記筒状部材の温度を調節する温度調節器と、前記筒状部材内に設けられた吸着剤保持具と、を備え、前記吸着剤保持具は、前記筒状部材内に前記主生ガス流路を確保するための空隙を形成するように設けられていることを特徴とするフッ素ガス生成装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素ガスを発生させるフッ素ガス生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フッ化水素を含む溶融塩からなる電解浴中でフッ化水素を電解する電解槽を備え、陽極側にフッ素ガスを主成分とする主生ガスを発生させると共に、陰極側に水素ガスを主成分とする副生ガスを発生させるフッ素ガス生成装置が知られている。
【0003】
この種のフッ素ガス生成装置では、電解槽の陽極から発生するフッ素ガスには溶融塩から気化したフッ化水素ガスが混入する。そのため、陽極から発生するガスからフッ化水素を分離してフッ素ガスを精製するために、フッ化ナトリウム(NaF)等の吸着剤を充填した処理筒を有した精製装置が設けられる。
【0004】
電解槽から発生するフッ素や水素ガスには、電解槽中に含まれる溶融塩から気化したフッ化水素や溶融塩自体のミスト成分が含まれており、これらの成分が吸着剤の劣化の原因となっている。特に、濃度の高いフッ化水素によって、処理筒入口付近の吸着剤が膨張や融着することがあり、吸着剤の目詰まりが生じる場合があった。このような目詰まりが生じると、ガスの流れが抑えられ、閉塞を引き起こすことが問題となっていた。
【0005】
この問題点を改善する技術として、特許文献1には、フッ化ナトリウム(NaF)等の吸着剤を充填した精製装置において、ガス導入口と吸着剤の間に空間を形成させる隔離手段を設け、この空間内にミスト成分の液滴を、放散、沈降させ、吸着剤と溶融塩のミスト成分の液滴を接触しにくい構成とし、吸着剤の目詰まりを抑制して、精製装置のメンテナンスの頻度を少なくする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−215588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、フッ素ガス生成装置を長時間運転する場合や発生するガスの流量が大きくなる場合、それに伴い、吸着剤と接するフッ化水素ガスやミスト成分も増加する。そのため、特許文献1に記載の吸着剤が密に充填された精製装置を用いる構成では、一度、吸着剤が目詰まりを起こすと、ガスの流路が確保されなくなり、精製装置が閉塞してしまい、フッ素ガス発生装置の連続運転が中断される問題点があった。
【0008】
このように、従来のフッ素ガス生成装置の電解槽にて生成されるフッ素ガスや水素ガスに含まれるフッ化水素を吸着除去する精製装置において、フッ化水素を吸着する吸着剤が密に充填される構成では、精製装置内の閉塞を完全に防止することが難しかった。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、フッ化水素を吸着除去する精製装置の閉塞を防止し、安定して、高純度なフッ素ガスを供給可能なフッ素ガス生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、フッ化水素を吸着除去する精製装置に設けられ、電解槽にて生成されたガスを通過させる筒状部材の内部に、吸着剤を保持する吸着剤保持具を設け、さらに、この吸着剤保持具を、筒状部材の内部空間にて、筒状部材の内部を通過するガス流路を確保するための空隙を形成させるように配置することによって、精製装置内の閉塞を防止し、安定して、高純度なフッ素ガスを供給できることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、フッ化水素を含む溶融塩中のフッ化水素を電気分解することによって、フッ素ガスを生成するフッ素ガス生成装置であって、前記フッ素ガス生成装置は、フッ化水素を含む溶融塩からなる電解浴中でフッ化水素を電解することによって陽極側にフッ素ガスを主成分とする主生ガスを発生させると共に、陰極側に水素ガスを主成分とする副生ガスを発生させる電解槽と、前記主生ガスに混入したフッ素水素を吸着剤によって除去する精製装置を備え、前記精製装置は、前記主生ガスを通過させる筒状部材と、前記筒状部材の温度を調節する温度調節器と、前記筒状部材内に設けられた吸着剤保持具と、を備え、前記吸着剤保持具は、前記筒状部材内に前記主生ガスの流路を確保するための空隙を形成するように設けられていることを特徴とするフッ素ガス生成装置である。
【0012】
また、本発明は、前記吸着剤保持具は、前記筒状部材内において、前記主生ガスの流路が蛇行状となるように、複数以上、設けられていることを特徴とするフッ素ガス生成装置である。
【0013】
また、本発明は、前記吸着剤保持具は、盆状部材であり、該盆状部材は、ガスを流通させるための切欠部が設けられた底板部と、前記底板部の切欠部を除く外縁に立設された外縁側壁部と、前記底板部の切欠部側に立設する切欠側壁部と、前記盆状部材本体の上端開口部と、を有し、前記外縁側壁部を、前記筒状部材の内壁に内接するように配置したことを特徴とするフッ素ガス生成装置である。
【0014】
また、本発明は、前記底板部には、貫通孔が設けられていることを特徴とするフッ素ガス生成装置である。
【0015】
また、本発明は、前記盆状部材とその隣に配置された盆状部材との距離が、前記筒状部材の内径の1/5以上、内径以下、であることを特徴とするフッ素ガス生成装置である
また、本発明は、前記切欠部が設けられた底板部の面積が、前記筒状部材の内径部の面積の50%以上、95%以下、であることを特徴とするフッ素ガス生成装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、精製装置に設けられ、電解槽にて生成されたガスを通過させる筒状部材の内部に、吸着剤が充填されていない空隙を形成し、常に、ガス流路が確保される構成となっているため、吸着剤の一部が目詰まりを起こした場合でも、閉塞することなく、安定して、高純度なフッ素ガスを供給可能なフッ素ガス生成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係るフッ素ガス生成装置の系統図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る精製装置の概略図である。
【図3】図2のA−Aの断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る盆状部材の一例である。
【図5】本発明の実施の形態に適用可能な精製装置の精製能力試験を行った実験装置の概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。図1を参照して、本発明の実施の形態に係るフッ素ガス生成装置100について説明する。
【0019】
フッ素ガス生成装置100は、電気分解によってフッ素ガスを生成し、生成されたフッ素ガスを外部装置4へと供給するものである。外部装置4としては、例えば、半導体製造装置であり、その場合、フッ素ガスは、例えば半導体の製造工程においてクリーニングガスとして使用される。
【0020】
フッ素ガス生成装置100は、電気分解によってフッ素ガスを生成する電解槽1と、電解槽1から生成したフッ素ガスを外部装置4へと供給するフッ素ガス供給系統2と、フッ素ガスの生成に伴って生成された副生ガスを処理する副生ガス処理系統3とを備える。
【0021】
まず、電解槽1について説明する。電解槽1には、フッ化水素(HF)を含む溶融塩が貯留される。本実施の形態では、溶融塩として、フッ化水素とフッ化カリウム(KF)の混合物(KF・2HF)が用いられる。
【0022】
電解槽1の内部は、溶融塩中に浸漬された区画壁6によって陽極室11と陰極室12とに区画される。陽極室11及び陰極室12の溶融塩中には、それぞれ陽極7及び陰極8が浸漬される。陽極7と陰極8の間に電源9から電流が供給されることによって、陽極7ではフッ素ガス(F2)を主成分とする主生ガスが生成され、陰極8では水素ガス(H2)を主成分とする副生ガスが生成される。陽極7には炭素電極が用いられ、陰極8には軟鉄、モネル、又はニッケルが用いられる。
【0023】
電解槽1内の溶融塩液面上には、陽極7にて生成されたフッ素ガスが導かれる第1気室11aと、陰極8にて生成された水素ガスが導かれる第2気室12aとが互いのガスが行き来不能に区画壁6によって区画される。このように、第1気室11aと第2気室12aは、フッ素ガスと水素ガスとの混触による反応を防ぐため、区画壁6によって完全に分離される。これに対して、陽極室11と陰極室12の溶融塩は、区画壁6によって分離されず区画壁6の下方を通じて連通している。
【0024】
KF・2HFの融点は71.7℃であるため、溶融塩の温度は91〜93℃に調節される。電解槽1の陽極7及び陰極8から生成したフッ素ガス及び水素ガスのそれぞれには、溶融塩からフッ化水素が蒸気圧分だけ気化して混入する。このように、陽極7にて生成され第1気室11aに導かれるフッ素ガス及び陰極8にて生成され第2気室12aに導かれる水素ガスのそれぞれには、フッ化水素ガスが含まれている。
【0025】
次に、フッ素ガス供給系統2について説明する。第1気室11aには、フッ素ガスを外部装置4へと供給するための第1メイン通路15が接続される。
【0026】
第1メイン通路15には、第1気室11aからフッ素ガスを導出して搬送する第1ポンプ17が設けられる。第1ポンプ17には、ベローズポンプやダイアフラムポンプ等の容積型ポンプが用いられる。第1メイン通路15における第1ポンプ17の上流には、フッ素ガスに混入したフッ化水素を捕集してフッ素ガスを精製する精製装置20が設けられる。精製装置20については、後に詳述する。
【0027】
次に、副生ガス処理系統3について説明する。第2気室12aには、水素ガスを外部へと排出するための第2メイン通路30が接続される。
【0028】
第2メイン通路30には、第2気室12aから水素ガスを導出して搬送する第2ポンプ31が設けられる。第2メイン通路30における第2ポンプ31の下流には除害部34が設けられ、第2ポンプ31にて搬送された水素ガスは除害部34にて無害化されて放出される。
【0029】
フッ素ガス生成装置100は、電解槽1の溶融塩中にフッ素ガスの原料であるフッ化水素を供給して補充するための原料供給系統5も備える。以下では、原料供給系統5について説明する。
【0030】
電解槽1は、電解槽1に補充するためのフッ化水素が貯留されたフッ化水素供給源40と原料供給通路41を介して接続される。フッ化水素供給源40に貯留されたフッ化水素は、原料供給通路41を通じて電解槽1の溶融塩中に供給される。
【0031】
また、原料供給通路41には、キャリアガス供給源45から供給されるキャリアガスを原料供給通路41内に導くキャリアガス供給通路46が接続される。キャリアガスは、フッ化水素を溶融塩中に導くためのガスであり、不活性ガスである窒素ガスが用いられる。窒素ガスは、フッ化水素と共に陰極室12の溶融塩中に供給され、溶融塩中にはほとんど溶けず、第2気室12aから第2メイン通路30を通じて排出される。
【0032】
次に、精製装置20について説明する。精製装置20は、フッ素ガスに混入したフッ化水素をフッ化ナトリウム(NaF)等の吸着剤に吸着させ、フッ素ガス中に混入したフッ化水素を除去する装置である。
【0033】
精製装置20には、陽極7にて生成されたフッ素ガスを導く入口経路51aと、精製装置20からフッ素ガスを導出するための出口経路52aが接続される。また、精製装置20には、フッ素ガスが通過する筒状部材31aを備え、さらに、筒状部材31aの内部には、フッ化水素を吸着する吸着剤を保持するための吸着剤保持具が設けられる。
【0034】
ここで言う筒状部材とは、内部にフッ化水素を吸着する吸着剤を収容し、電解槽1から発生したフッ素ガスを通過させ、フッ素ガス中のフッ化水素を吸着除去するための容器のことを表し、形状などは特に制限されない。筒状部材の材質としては、フッ素ガス及びフッ化水素ガスに対して耐性を有するものであることが好ましく、例えば、ステンレス鋼、モネル、ニッケルなどの合金、金属などが挙げられる。
【0035】
吸着剤には、フッ化ナトリウム(NaF)からなる多数の多孔質ビーズが用いられる。フッ化ナトリウムは吸着能力が温度により変化するため、筒状部材31aの周囲には筒状部材31a内の温度を調整するための温度調節器として、ヒーター41aが設けられる。
【0036】
温度調節器は、筒状部材内の温度を調整できるものであれば特に限定されないが、例えば、ヒーター、蒸気加熱、熱媒または冷媒を使用した加熱冷却装置を用いてもよい。
【0037】
吸着剤に用いる薬剤としては、NaF、KF、RbF、CsF等のアルカリ金属フッ化物を使用することもできるが、その中でも、NaFが特に好ましい。
【0038】
吸着剤保持具は、筒状部材31aの内部にて、ガス流路を確保するための空隙を形成するように配置される。これによって、吸着剤の一部が目詰まりを起こした場合でも、閉塞することなくガスを流通させることができる構造となっている。
【0039】
ここで言う吸着剤保持具とは、精製装置の筒状部材内に設けられ、筒状部材内の空間にて、所定量の吸着剤を収容保持するものを表す。また、吸着剤保持具は、ある一定の間隔空け、複数個設けるようにしてもよい。
【0040】
さらに、筒状部材内を流通するガスに接触する吸着剤の表面積の割合を大きくするために、吸着剤保持具には、貫通孔を設けるようにすることが好ましい。ここで言う貫通孔とは、吸着剤を保持でき、かつ、ガスが通過できる孔の大きさであれば特に制限がなく、適宜設計されるものである。また、ガスに接触する吸着剤の表面積の割合を考慮すると、吸着剤保持具は多孔質状やメッシュ状にすることが好ましい。
【0041】
吸着剤保持具の具体的な形状としては、筒状部材内のガス流路を確保し、かつ、吸着剤を収容保持できるものであれば特に制限はないが、例えば、金網(メッシュ状)で作製された球状や円筒状の籠型部材に吸着剤を充填する形態、盆状の容器などの盆状部材に吸着剤を充填する形態、シート状の金属(メッシュ状を含む)などに吸着剤を挟み込む形態、などが挙げられる。
【0042】
吸着剤材保持具を精製装置の筒状部材内に設ける方法は、筒状部材内にガス流路を確保するための空隙を形成するように配置すれば特に制限されないが、例えば、上記説明のような形態の吸着剤保持具を筒状部材内の空間内に吊るす方法、筒状部材の内壁に固定して設ける方法などが挙げられる。
【0043】
このように、筒状部材内にガス流路を確保するための空隙を形成するように配置される吸着剤材保持具を用いることによって、吸着剤の一部が目詰まりを起こした場合でも、筒状部材内において、常に、ガス流路を確保することができることとなり、閉塞を防止し、かつ、ガスの精製を効率的に行うことができる。
【0044】
吸着剤保持具へ貫通孔を設ける際の加工性、筒状部材への設置、吸着剤の充填し易さなどの実用上の取り扱いを考慮すると、吸着剤保持具は、盆状部材が特に好ましい。ここで言う盆状部材とは、物体を収容できる平たい容器を示すものであり、吸着剤を収容できるものであれば、特に、略円状や略四角状など形状は問わず、筒状部材の形状によって適宜設計されるものである。
【0045】
以下、吸着剤保持具の好適な一例として、盆状部材を挙げ、盆状部材を設けた精製装置20について、図2を参照して説明する。なお、以下、吸着剤保持具として盆状部材を例として説明するが、本発明における吸着剤保持具は、盆状部材に限定されるものではない。
【0046】
また、図3は、精製装置20のA−A断面図を示すものである。また、図4は、吸着剤保持具として用いる盆状部材の構造の一例を示す図である。
【0047】
まず、図2、3を参照して、盆状部材を設けた精製装置20の概略について説明する。図2、3に示されるように、盆状部材211の一部は、精製装置20に備えられた筒状部材31aの内壁に固定される。また、盆状部材211の一部には、ガスを流通させるための切欠部212が形成されており、この切欠部212を設けることによって、ガスが常に流通することができ完全に閉塞しない構造となっている。なお、吸着剤70は盆状部材211に充填されている。
【0048】
盆状部材211を筒状部材31aの内壁に固定する位置は、ガスの流れを確保することができれば特に制限されないが、ガスと吸着剤を十分に接触させ、ガスの精製効率を向上させるようにすると良い。例えば、図2に示されるように、筒状部材内31aのガスの入口から出口方向にかけての流れ方向において、切欠部212が左右交互になるように、盆状部材211を筒状部材31aの内壁に、複数以上、交互となるように設けることが好ましい。この構成にすることによって、ガスの流れが蛇行状になり、筒状部材31a内でのガスの入口から出口流路にかけて距離を大きくすることができ、ガスの精製効率を大幅に向上させることができる。
【0049】
また、盆状部材を、離隔して複数以上設ける場合、盆状部材211とその隣に配置された盆状部材との距離が、筒状部材31aの内径の1/5以上、内径以下、とすることが好ましい。この距離が、1/5より短い場合は、ガスがスムーズに流れないことがあり、内径より長い場合は、ガスの流れを十分に蛇行状にすることができず、ガスを十分に吸着剤と接触させることができない。
【0050】
盆状部材211の数(段数)は、精製装置の閉塞を完全に防止し、フッ化水素の吸着能力を向上させるためには、複数段設けることが好ましいが(後述の実施例1参照)、吸着させるフッ化水素の量や使用する精製装置の大きさなど装置の状況によって適宜設定されることが好ましい。
【0051】
また、盆状部材211の大きさ、配置状況は、ガスの流れを妨げるようなものでなければ、特に制限はされることはなく、盆状部材を設ける筒状部材の大きさ等などの状況によって適宜設定されることが好ましい。
【0052】
次に、図4を参照して、本発明における盆状部材の構造の一例について詳細に説明する。
【0053】
図4に示すように、本発明の盆状部材211は、ガスを流通させるための切欠部212が設けられた底板部211aと、底板部211aの切欠部211を除く外縁に立設された外縁側壁部211bと、底板部211aの切欠部側に立設する切欠側壁部211cと、盆状部材211本体の上端開口部211dと、を有する。
【0054】
また、図3に示すように、盆上部材211の切欠部212を除く側壁部211bは、筒状部材31a内の内壁に内接するように設けると良い。このような構成にすることによって、充填する吸着剤70の量を増やし、ガスと吸着剤を十分に接触させ、ガスの精製効率をさらに向上させることができる。
【0055】
筒状部材31a内の空間にて、切欠部212を設けた盆状部材211を配置する位置はガスの流れを確保できる形状のものであれば特に制限がなく、適宜設計されるものであるが、例えば、充填する吸着剤70の量を十分に収容し、かつ、ガスを十分に効率よく流通させるには、切欠部212が設けられた底板部211aの面積を、筒状部材31aの内径部の面積の50%以上、より好ましくは50〜95%、さらに好ましくは、85〜95%とするとよい。50%未満では、吸着剤70の量を十分に収容し、かつ、ガスの流れを蛇行状にして、十分に吸着剤に接触させにくい。一方、95%より大きい場合では、圧力損失が大きくなり、ガスがスムーズに流れないことがあるので好ましくない。
【0056】
また、筒状部材31a内の空間にて、盆状部材211を配置固定する方法は、ガスの流れを確保できれば、複数の盆状部材211同士を接触させる、もしくは、離隔して配置することができ特に限定されない。例えば、筒状部材31a内にて複数の盆状部材211同士を接触させて、切欠部212が左右交互になるように積み上げて配置固定する場合などは、切欠側壁部211cの高さを外縁側壁部211bの高さより低くして、この高低差による空隙にてガスの流路を確保するようにしてもよい。このような構成にすると、盆状部材211同士を積み上げるだけなので、筒状部材31aの内壁に盆状部材211を別途固定する手間が省けるという利点がある。
【0057】
また、ガスに接触する吸着剤の表面積を大きくし、吸着の効率を向上させるために、盆状部材211を構成する部材に、適宜、貫通孔を設けるようにしてもよい。盆状部材211を構成する部材すべてに貫通孔を設けてもよいが、ガスに接触する吸着剤の表面積を大きくするためには、特に、底板部211aや切欠側壁部211cに貫通孔を設けることが好ましく、例えば、底板部211a又は/及び切欠側壁部211cに貫通孔が設ける構成にするとよい。この構成にすることによって、さらに、ガスと吸着剤を十分に接触させ、ガスの精製効率をさらに向上させることができる。
【0058】
盆状部材211に貫通孔を設ける方法は、特に制限されないが、例えば、パンチング加工などが挙げられる。また、貫通孔を有するものとしては、多孔質状やメッシュ状の部材を用いるとよい。特に、よりガスと吸着剤の表面積を大きくするためには、底板部211aをメッシュ状にすることが、特に好ましい(後述の実施例1参照)。
【0059】
なお、底板部211aをメッシュ状にした場合、メッシュの部分に目詰まりが生じたとしても、切欠部212においてガス流路が確保されているので完全に閉塞することを防ぐことができる。
【0060】
盆状部材211を構成する部材の材質としては、フッ素ガス及びフッ化水素ガスに対して耐性を有するものであることが好ましく、例えば、ステンレス鋼、モネル、ニッケルなどの合金、金属などが挙げられる。また、多孔質状やメッシュ状にする場合の材質においても、上述と同様な材質にすることが好ましい。
【0061】
次に、本実施形態のフッ素ガス生成装置100を運転させた際のガスの流れについて、精製装置20の動作を中心に説明する。
【0062】
電解槽1の陽極7にて生成されたフッ素ガスは、第1メイン通路15を介して、精製装置20に導かれ、開状態の入口弁13aを通過して、精製装置20の筒状部材31aに設けられた入口通路51aから、筒状部材31a 内部へ導かれる。このとき、筒状部材31a内部の温度は、筒状部材31aの周囲に設けられたヒーター41aによって調整される。筒状部材31a内の温度は、望まれるフッ素の純度(フッ素ガス中のフッ化水素濃度)によって、適宜設定されることが好ましいが、電解槽1から導かれたフッ素ガス中のフッ化水素濃度を1000ppm未満にするには、筒状部材31a内の温度を70〜100℃の範囲にすることが好ましい。
【0063】
さらに、フッ素ガスは、吸着剤保持具を設けた筒状部材31a内部を通過し、その際、フッ素ガスは筒状部材31a内に設けられた吸着剤保持具に収容保持された吸着剤と接しながら、フッ化水素が吸着される。このとき、フッ素ガスは筒状部材内の空隙を流通し、さらに、筒状部材31a内を通過したガスは、出口通路52aから、精製装置20外へ排出され、半導体製造装置等の外部装置4に導かれる。
【0064】
上述では、電解槽1の陽極7にて生成されたフッ素ガスの生成について説明したが、電解槽1の陰極8にて生成された水素ガスについても、同様な構成の精製装置を用いて、同様な操作を行うことによって、陰極に生成された水素ガスの精製を行うようにすることも可能である。
【0065】
また、上述の実施形態では、精製装置20を通過するガスの流れ方向に関して、図1、図2では、精製装置を流れるガスの方向は筒状部材の下部から上部へ流れる場合について示したが、精製装置を通過するガスの流れ方向について、特に制限がなく、筒状部材の下部から上部もしくは上部から下部へ流すようにしてもよい。
【0066】
以上の実施の形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0067】
本発明の実施の形態によると、精製装置に設けられた電解槽にて生成されたガスを通過させる筒状部材の内部に、吸着剤が充填されていない空隙を形成し、常に、ガス流路が確保される構成となっているため、吸着剤の一部が目詰まりを起こした場合でも、閉塞することなく、安定して、高純度なフッ素ガスを供給可能なフッ素ガス生成装置を提供することができる。
【0068】
さらに、本発明の実施の形態によると、吸着剤の一部が目詰まりを起こした場合でも、筒状部材内に、常にガス流路が確保されているため、精製装置に充填された目詰まりを起こしていない部分の吸着剤を有効に活用することが可能となり、吸着剤を効率的に使用することが可能となる。
【0069】
本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0070】
例えば、精製装置は2つ以上設置し、切り替えながら使用するようにしてもよい。また、例えば、精製装置は、水素ガスを発生する陰極側のみ設けるようにする、又は、フッ素ガスが生成される陽極側及び水素ガスが生成される陰極側に設けるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、フッ素ガスを生成する装置に適用することができ、フッ化水素を吸着除去する吸着剤を回収、交換するメンテナンス作業の負荷を低減させることができる。
【実施例】
【0072】
図5に示すような装置を用い、本発明の実施の形態に適用可能な精製装置の精製能力試験を行った。精製能力試験として、繰り返し使用における精製装置ガス入口Aと出口Bでの差圧測定と出口ガスにおけるフッ化水素濃度を測定した。以下、吸着剤保持具の一例である盆状部材として、トレイ型容器を用いた精製装置をトレイ型精製装置と呼び説明する。
【0073】
具体的には、フッ化水素を吸着剤に吸着させる吸着工程とフッ化水素の脱着工程を繰り返し行い、繰り返し回数都度において、精製装置ガス入口Aとガス出口Bの差圧とガス出口Bのフッ化水素濃度を測定した結果を表1に示す。なお、同様な実験条件において、縦型充填精製装置を用いた場合を比較例として示した。ここで言う縦型充填精製装置とは、吸着剤をそのまま、精製装置に設けられた筒状部材の内部に密に充填するものを表す。
【0074】
[実施例1]
盆状部材としては、図4に示す、略円状のトレイ型容器(ステンレス製、外径80mm)を用い、トレイ型容器の底板部の面積が筒状部材の内径部の面積の90%になるように、トレイ型容器の一部に切欠部を設けた。また、トレイ型容器は、底板部を繰り抜き加工し、メッシュ状の金属シートを挿入し、トレイ型容器の底板部と切欠側壁部に、貫通孔(メッシュ状)が設けられている容器を使用した。なお、トレイ型容器の材質はステンレス製のものを使用し、筒状部材としては、円筒型(内径80mm)、材質はステンレスのものを使用した。
【0075】
図5に示されるように、ガスの流れが蛇行状になるように、ガスの入口から出口方向にかけて、切欠部の位置が左右交互に、筒状部材内の内壁に対して略垂直になるように8段設けた。トレイ型容器は、切欠部を除く外縁側壁部のすべてを筒状部材内の内壁に内接するように配置した。吸着剤としてフッ化ナトリウムをトレイ型容器にそれぞれ80g充填した(8段で総量640g)。また、筒状部材外周に設けられたヒーターによって筒状部材内の温度を100℃と調整した。
【0076】
サンプルガスとして、窒素ガスによって希釈した9%のフッ化水素ガスを0.7cm/secの流速で15時間流通させ、精製装置のガス入口Aとガス出口Bの差圧を圧力計によって測定し、あわせて、15時間流通後のガス出口Bのフッ化水素濃度をフーリエ変換赤外分光(FT−IR)によって分析した。
【0077】
次いで、筒状部材外周に設けられたヒーターによって、筒状部材内の温度を250℃に調整し、窒素ガスを2.1cm/secの流速で流通させ、吸着剤(フッ化ナトリウム)に吸着したフッ化水素の脱着操作を行った。
【0078】
さらに、同様なフッ化水素を吸着剤に吸着させる吸着工程とフッ化水素の脱着工程を15回行い、差圧測定とフッ化水素濃度の測定をそれぞれの回数において測定した。表1に示すように、15回繰り返し行った場合においても、トレイ型精製装置では、精製装置のガス入口Aとガス出口Bでは大きな差圧が発生しなかった。また、15回すべての回数におけるガス出口Bのフッ化水素濃度は1000ppm以下であった。
【0079】
この結果より、トレイ型精製装置を使用することによって、精製装置内において閉塞することなく、フッ化水素を効率的に吸着除去することができることが分かる。
【0080】
[比較例1]
精製装置として、筒状部材内部に吸着剤保持具を設けていない縦型充填精製装置(吸着剤であるフッ化ナトリウム640gをそのまま密に充填)を用いた以外は実施例1に同様な実験条件で精製能力試験を行った。
【0081】
その結果、縦型充填精製装置では、15すべての回数において、ガス出口Bのフッ化水素濃度は1000ppm以下であったが、繰り返し回数が6回目において、差圧が10000Pa以上になり、完全に閉塞した。
【0082】
[実施例1]及び[比較例1]より、トレイ型精製装置は縦型充填精製装置と同等の精製能力を持ち、かつ、閉塞しにくいということが分かる。
【表1】

【符号の説明】
【0083】
100 フッ素ガス生成装置
1 電解槽
2 フッ素ガス供給系
3 副生ガス供給系
4 外部装置
5 原料供給系
7 陽極
8 陰極
11a 第1気室
12a 第2気室
15 第1メイン通路
17 第1ポンプ
31 第2ポンプ
20 精製装置
211 盆状部材
211a 底板部
211b 外縁側壁部
211c 切欠側壁部
211d 上端開口部
212 切欠部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化水素を含む溶融塩中のフッ化水素を電気分解することによって、フッ素ガスを生成するフッ素ガス生成装置であって、
前記フッ素ガス生成装置は、
フッ化水素を含む溶融塩からなる電解浴中でフッ化水素を電解することによって陽極側にフッ素ガスを主成分とする主生ガスを発生させると共に、陰極側に水素ガスを主成分とする副生ガスを発生させる電解槽と、
前記主生ガスに混入したフッ素水素を吸着剤によって除去する精製装置を備え、
前記精製装置は、
前記主生ガスを通過させる筒状部材と、
前記筒状部材の温度を調節する温度調節器と、
前記筒状部材内に設けられた吸着剤保持具と、を備え、
前記吸着剤保持具は、前記筒状部材内に前記主生ガスの流路を確保するための空隙を形成するように設けられていることを特徴とするフッ素ガス生成装置。
【請求項2】
前記吸着剤保持具は、前記筒状部材内において、前記主生ガスの流路が蛇行状となるように、複数以上、設けられていることを特徴とする請求項1に記載のフッ素ガス生成装置。
【請求項3】
前記吸着剤保持具は、盆状部材であり、該盆状部材は、ガスを流通させるための切欠部が設けられた底板部と、前記底板部の切欠部を除く外縁に立設された外縁側壁部と、前記底板部の切欠部側に立設する切欠側壁部と、前記盆状部材本体の上端開口部と、を有し、前記外縁側壁部を、前記筒状部材の内壁に内接するように配置したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のフッ素ガス生成装置。
【請求項4】
前記底板部には、貫通孔が設けられていることを特徴とする請求項3に記載のフッ素ガス生成装置。
【請求項5】
前記吸着剤保持具は、前記筒状部材内に、離隔して複数以上設けられ、前記盆状部材とその隣に配置された盆状部材との距離が、前記筒状部材の内径の1/5以上、内径以下、であることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のフッ素ガス生成装置。
【請求項6】
前記切欠部が設けられた底板部の面積が、前記筒状部材の内径部の面積の50%以上、95%以下であることを特徴とする請求項3乃至請求項5の何れかに記載のフッ素ガス生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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