説明

フッ素含有排水の処理方法及び処理装置

【課題】金属イオンを不純物として含むフッ素含有排水にフッ素の不溶化剤を添加してフッ素を難溶性フッ化物として分離するに当たり、フッ素イオン濃度分析において妨害物質となる金属イオンをマイクロリアクタで除去した後フッ素イオン濃度を測定し、この値に基いてフッ素含有排水への不溶化剤添加量を的確に制御する。
【解決手段】フッ素含有排水中の金属イオンを除去した後の水のフッ素イオン濃度を測定し、この測定値に基いてフッ素含有排水への不溶化剤添加量を制御する。一端に被処理液導入用マイクロチャンネル3Aと抽出剤導入用マイクロチャンネル3Bが連結し、他端に抽出処理液排出用マイクロチャンネル3Cと廃抽出剤排出用マイクロチャンネル3Dが連結する集合チャンネル部3Xを有するマイクロリアクタ3を用い、被処理液導入用マイクロチャンネル3Aにフッ素含有排水を導入して、抽出剤導入用マイクロチャンネル3Bに導入した抽出剤と集合チャンネル部3Xで界面接触させる液−液抽出により、フッ素イオン排水中の金属イオンを除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有排水の処理方法及び処理装置に係り、特に、金属イオンを不純物として含むフッ素含有排水にフッ素の不溶化剤を添加してフッ素を難溶性フッ化物として分離するに当たり、フッ素イオン濃度分析において妨害物質となる金属イオンをマイクロリアクタで除去した後フッ素イオン濃度を測定し、この値に基いてフッ素含有排水への不溶化剤添加量を的確に制御するフッ素含有排水の処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体、液晶などの電子部品分野又は各種金属材料などの表面処理分野などにおいては、多量のエッチング剤が使用されている。このエッチング剤としては、主にフッ化水素やフッ化水素とフッ化アンモニウムを主成分とするものが用いられている。従って、上記の分野からは、フッ素を大量に含む排水が排出される。
【0003】
このようなフッ素含有排水は、一般的に分別処理あるいは、他の排水と共に総合排水として処理されている。その処理方法としては、水酸化カルシウム(Ca(OH))等のカルシウム塩を不溶化剤として添加して、フッ素をフッ化カルシウム(CaF)の不溶解性成分として析出させ、これを固液分離する凝集沈殿法が一般的に採用されている。
【0004】
このような凝集沈殿法においては、通常、被処理排水中のフッ素イオン濃度を分析し、Ca(OH)などの不溶化剤の添加量を決定することが行われている。そのフッ素イオン濃度の分析法としては、吸光度法、又はイオン電極法(JIS法)が一般的である。
【0005】
しかしながら、これらの方法では、被処理排水中に含まれる鉄(Fe)やアルミニウム(Al)などの金属イオンが妨害物質となり、正確なフッ素イオン濃度を分析することができず、測定値は一般に実際よりも低い値を示す。従って、Ca(OH)などの不溶化剤の添加量は、この測定誤差を見込んで、通常、イオン電極法などの分析結果より求めた必要量より大過剰に設定されている。
【0006】
なお、水中の金属イオンの除去方法としては、従来、水蒸気蒸留、分液漏斗を使用する溶剤抽出法やイオン交換法などが知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フッ素含有排水の処理において、Ca(OH)等のフッ素の不溶化剤を必要量よりも大過剰に添加する方法では、薬剤コストの面で不利であるだけでなく、汚泥量が増加し、汚泥処理コストの面でも不利である。
【0008】
フッ素イオン濃度測定において妨害物質となるフッ素含有排水中の金属イオンを予め除去することにより、フッ素イオン濃度測定において、正確な測定値を得ることができ、この測定値に基いて、フッ素の不溶化剤の添加量を過不足なく制御することができることが予想されるが、前述の従来の金属イオンの除去方法、例えば水蒸気蒸留法では金属イオンの除去に長時間を要し、また、操作が煩雑であったり、装置コスト、処理コストが高くつくなどの問題がある。特に金属イオンの除去に長時間を要することはフッ素イオン濃度の測定に到るまでの時間が長く、原水の水質変動に対応して、即時的な薬注制御を行うことができないことになり、分析の前処理手段としては、不適当である。
【0009】
フッ素含有排水の処理現場において、フッ素含有排水のフッ素イオン濃度測定に先立つフッ素含有排水中の金属イオンの除去方法としては、簡便かつ短時間で、しかも低コストで金属イオンを確実に除去できることが望まれるが、従来において、このような方法が知られておらず、このために、フッ素含有排水の処理におけるフッ素の不溶化剤の添加量制御のためのフッ素イオン濃度測定において、これに先立ち金属イオンの除去が行われていないのが現状である。
【0010】
本発明は上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、金属イオンを不純物として含むフッ素含有排水にフッ素の不溶化剤を添加してフッ素を難溶性フッ化物として分離するに当たり、フッ素イオン濃度分析において妨害物質となる金属イオンをマイクロリアクタで除去した後フッ素イオン濃度を測定し、この値に基いてフッ素含有排水への不溶化剤添加量を的確に制御するフッ素含有排水の処理方法及び処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明(請求項1)のフッ素含有排水の処理方法は、金属イオンを含むフッ素含有排水にフッ素の不溶化剤を添加して該排水中のフッ素を難溶性フッ化物として分離するフッ素含有排水の処理方法において、該フッ素含有排水中の金属イオンをマイクロリアクタで除去した後の水のフッ素イオン濃度を測定し、この測定値に基いて前記フッ素含有排水への不溶化剤添加量を制御することを特徴とする。
【0012】
請求項2のフッ素含有排水の処理方法は、請求項1において、一端に被処理液導入用マイクロチャンネルと抽出剤導入用マイクロチャンネルが連結し、他端に抽出処理液排出用マイクロチャンネルと廃抽出剤排出用マイクロチャンネルが連結する集合チャンネル部を有するマイクロリアクタを用い、該マイクロリアクタの被処理液導入用マイクロチャンネルに前記フッ素含有排水を導入して、該抽出剤導入用マイクロチャンネルに導入した抽出剤と該フッ素含有排水とを該集合チャンネル部で界面接触させる液−液抽出により、前記フッ素含有排水中の金属イオンを除去することを特徴とする。
【0013】
請求項3のフッ素含有排水の処理方法は、請求項2において、前記被処理液導入用マイクロチャンネル、抽出剤導入用マイクロチャンネル、抽出処理液排出用マイクロチャンネル、廃抽出剤排出用マイクロチャンネル及び集合チャンネル部は、幅50〜200μm、深さ40〜100μm、長さ3〜12cmであることを特徴とする。
【0014】
本発明(請求項4)のフッ素含有排水の処理装置は、金属イオンを含むフッ素含有排水にフッ素の不溶化剤を添加して該排水中のフッ素を難溶性フッ化物として分離するフッ素含有排水の処理装置において、該フッ素含有排水中の金属イオンをマイクロリアクタで除去する金属イオン除去手段と、該金属イオン除去手段で金属イオンが除去された水のフッ素イオン濃度を測定するフッ素イオン濃度測定手段と、該フッ素イオン濃度測定手段の測定値に基いて前記フッ素含有排水への不溶化剤添加量を制御する不溶化剤添加量制御手段とを備えてなることを特徴とする。
【0015】
請求項5のフッ素含有排水の処理装置は、請求項4において、前記金属イオン除去手段が、一端に被処理液導入用マイクロチャンネルと抽出剤導入用マイクロチャンネルが連結し、他端に抽出処理液排出用マイクロチャンネルと廃抽出剤排出用マイクロチャンネルが連結する集合チャンネル部を有し、該処理液導入用マイクロチャンネルに前記フッ素含有排水を導入して、該抽出剤導入用マイクロチャンネルに導入した抽出剤と該フッ素含有排水とを該集合チャンネル部で界面接触させる液−液抽出により、前記フッ素含有排水中の金属イオンを除去するマイクロリアクタであることを特徴とする。
【0016】
請求項6のフッ素含有排水の処理装置は、請求項5において、前記被処理液導入用マイクロチャンネル、抽出剤導入用マイクロチャンネル、抽出処理液排出用マイクロチャンネル、廃抽出剤排出用マイクロチャンネル及び集合チャンネル部は、幅50〜200μm、深さ40〜100μm、長さ3〜12cmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフッ素含有排水の処理方法及び処理装置によれば、金属イオンを不純物として含むフッ素含有排水にフッ素の不溶化剤を添加してフッ素を難溶性フッ化物として分離するに当たり、フッ素イオン濃度分析において妨害物質となる金属イオンをマイクロリアクタで予め除去した後フッ素イオン濃度を測定することにより、金属イオンの影響を受けることなく、フッ素含有排水中のフッ素イオン濃度を精度良く、正確に測定することができる。従って、この正確な測定値に基いて、必要量のフッ素の不溶化剤を算出して、不溶化剤添加量を過不足制御することができる。このため、不溶化剤添加量の不足によるフッ素の残留を防止した上で、不溶化剤添加量を十分に抑えて、薬剤コスト、汚泥発生量の低減を図ることができる。
【0018】
特に請求項2,5に従って、マイクロリアクタを用いる液−液抽出を行うことにより、フッ素含有排水中の金属イオンを簡易かつ安価な装置で迅速かつ確実に除去することができる。
【0019】
即ち、本発明者らは、フッ素イオン濃度測定において妨害物質となるフッ素含有排水中の金属イオンの除去法について精査したところ、マイクロチャンネル内において、オキシン/クロロホルム溶液などを抽出剤として用いて液−液抽出する方法であれば、例えば15秒以下というような短時間で迅速かつ低コストに金属イオンを除去できることを見出した。これは、マイクロチャンネルが連結する集合チャンネル部において、フッ素含有排水と抽出剤とを合流させて、連続界面を形成させつつ界面接触させるマイクロリアクタであれば、液量に対して大きな接触界面を確保することができ、液−液抽出に有効な層流現象によって、効率的な液−液抽出を行うことができることによる。しかも、このようなマイクロチャンネルを有するマイクロリアクタであれば、少量のフッ素含有排水について金属イオンを除去してフッ素イオン濃度の測定に供給することができ、分析のための排液量が著しく少ないという点においても非常に有利である。
【0020】
請求項3,6のように、マイクロリアクタのマイクロチャンネル及び集合チャンネル部を、幅50〜200μm、深さ40〜100μm、長さ3〜12cmとすることにより、マイクロリアクタによる上記効果を確実に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に図面を参照して本発明のフッ素含有排水の処理方法及び処理装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
図1は本発明のフッ素含有排水の処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【0023】
図1では、原水を配管11より原水槽1に導入し、この原水槽1に不溶化剤槽2からフッ素の不溶化剤をポンプPにより配管12を経て添加して原水中のフッ素を不溶化処理して沈殿させ、上澄水を配管13より処理水として取り出す。
【0024】
このような原水の処理において、原水の一部をポンプPにより分岐配管14より分取し、マイクロリアクタ3の被処理水導入用マイクロチャンネル3Aから導入する。一方、抽出剤槽4内の抽出剤をポンプPにより、配管15からマイクロリアクタ3の抽出剤導入用マイクロチャンネル3Bに導入する。
【0025】
被処理水導入用マイクロチャンネル3Aから導入された原水と抽出剤導入用マイクロチャンネル3Bから導入された抽出剤とは、マイクロリアクタ3の集合チャンネル部3Xで界面接触し、この集合チャンネル部3Xにおける液−液抽出で原水中の金属イオンが抽出剤側に抽出除去される。金属イオンが除去された原水は、抽出処理液排出用マイクロチャンネル3C及び配管16を経て分析槽6に送給される。一方、原水中の金属イオンを抽出した廃抽出剤は廃抽出剤排出用マイクロチャンネル3D及び配管17を経て廃抽出剤槽5に送給される。なお、図1ではマイクロリアクタを1個図示しているが、同じものを複数個並列に連ねて使用することができる。複数個設けることにより、試料量が多く必要とされる場合でも短時間で処理することができて好ましい。
【0026】
分析槽6では、配管16から導入された金属イオン除去水について、分析センサ6Aによりフッ素イオン濃度の測定を行われ、測定排水は配管18より系外へ排出される。
【0027】
分析センサ6Aの測定結果は演算器7に入力される。演算器7ではこのフッ素イオン濃度の測定値に基いて、不溶化剤の必要量を以下の通り算出して出力する。
不溶化剤添加量=A×フッ素イオン濃度の測定値
(なお、Aは、フッ素イオンと不溶化剤との反応式から求められる値であるが、予め机上試験により、求めた値であってもよい。)
【0028】
図1の装置では、演算器7から演算結果を不溶化剤添加ポンプPの作動信号として出力することにより不溶化剤添加量を制御する。
【0029】
即ち、Ca(OH)等の不溶化剤は、原水中のフッ素イオン量に対して反応当量を添加すれば良く、従って、原水中の正確なフッ素イオン量を求めることができるならば、その値に基いて、このフッ素イオン量を不溶化させるに必要な不溶化剤量はフッ素イオンと不溶化剤との化学反応式から求められる。本発明では、予め原水中の金属イオンを除去することにより原水中のフッ素イオン濃度を精度良く測定することができるため、このようにして求められる不溶化剤の理論量の0〜10%増程度の不溶化剤添加量で原水中のフッ素を確実に処理して、高水質の処理水を得ることができる。
【0030】
なお、このフッ素イオン濃度の測定結果に基く不溶化剤添加量の制御は閾値制御であっても良い。
【0031】
図1において、原水中の金属イオンの液−液抽出に用いるマイクロリアクタ3の設計条件は、原水の水質(金属イオンの種類や濃度)、用いる抽出剤の種類、要求される抽出効率等によっても異なるが、各マイクロチャンネル3A〜3D及び集合チャンネル部3Xは、幅50〜200μm、深さ40〜100μm、長さ3〜12cmであることが好ましい。特にマイクロチャンネル部3A〜3Dの幅は50〜100μmであることが好ましく、集合チャンネル部3Xの幅は、マイクロチャンネル3A〜3Dの幅の1倍又は2倍に設計されていることが好ましい。
【0032】
また、被処理水導入用マイクロチャンネル3Aから導入された原水と抽出剤導入用マイクロチャンネル3Bから導入された抽出剤とが混合されることなく、集合チャンネル部3Xにおいて良好な層流となって界面接触し得るように、被処理水導入用マイクロチャンネル3Aと抽出剤導入用マイクロチャンネル3Bとの交差角度θは60゜以下、特に30〜50゜の範囲であることが好ましい。また、集合チャンネル部3Xで界面接触した後の抽出処理液と廃抽出剤とが再び各々のマイクロチャンネル3C,3Dに流入するために、抽出処理液排出用マイクロチャンネル3Cと廃抽出剤排出用マイクロチャンネル3Dとの交差角度θは60゜以下、特に30〜50゜の範囲であることが好ましい。
【0033】
このマイクロリアクタ3は、一般的には、ガラス基板等の板上に、このようなマイクロチャンネル3A〜3Dと集合チャンネル部3Xとが形成された構成とされているが、更に集合チャンネル部3X内に、原水と抽出剤との混合を防止するための凸条などが形成されていても良い。また、抽出処理液排出用マイクロチャンネル3Cに廃抽出剤が混合する場合には、抽出処理液排出用マイクロチャンネル3Cから排出された液を層分離し、抽出処理液のみを分析に供するような構成とされていても良い。
【0034】
本発明において処理対象となる原水は、金属イオンを含むフッ素含有排水であって、このような排水としては、前記の半導体、液晶などの電子部品分野や各種金属材料等の表面処理分野などから排出されるエッチング排水が挙げられる。
【0035】
また、このようなフッ素含有排水中のフッ素の不溶化剤としては、Ca(OH)等のカルシウム塩やアルミニウム塩等が挙げられる。
【0036】
また、原水中の金属イオンを抽出除去するための抽出剤としては、金属イオンの種類や原水の水質等に応じて適宜決定されるが、0.01〜0.5Mオキシン/クロロホルム溶液、オキシン/ベンゼン溶液等が挙げられる。
【0037】
このような抽出剤と原水のマイクロリアクタへの導入流量は用いるマイクロリアクタのマイクロチャンネルの寸法等の構成や、原水と抽出剤の性状等に応じて適宜決定されるが、供給液流速が過度に速いと抽出効率が悪くなり、一方、過度に遅いとコントロールが難しく処理速度が遅くなる。従って、被処理水導入用マイクロチャンネル3Aと抽出剤導入用マイクロチャンネル3Bとが同等の寸法である場合において、原水と抽出剤とを同流速で1〜5μl/分となるように流通させることが好ましい。
【0038】
本発明の方法は、金属イオンとして、Fe等の重金属イオンやAl等の金属イオンを0.1〜100mg/L程度、フッ素イオンを1〜500mg/L程度含む排水に、上述のような不溶化剤を添加して排水中のフッ素を難溶性フッ化物として固液分離するフッ素含有排水の処理に有効に適用される。なお、難溶性フッ化物の固液分離手段としては特に制限はなく、凝集沈殿槽、凝集槽と沈殿槽との組み合わせ、凝集槽と膜分離装置との組み合わせなどが挙げられる。また、凝集剤は配管注入するようにしてもよい。
【0039】
本発明において、不溶化剤の添加制御は、図1の如く、自動薬注制御方式で行っても良く、演算器の演算結果に基いて手動にて制御するようにすることもできるが、自動薬注制御方式が好適である。
【実施例】
【0040】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0041】
なお、以下の実施例及び比較例においては、神奈川県水に試薬のフッ化水素を添加して、フッ素濃度を0.1〜50mg/Lの範囲で変動させると共に、100mg/LのAlイオンを添加した合成排水を原水とし、実施例と比較例との原水条件を同条件とするために実施例と比較例とは並行して行った。不溶化剤としては3重量%Ca(OH)水溶液を用い、Ca(OH)水溶液の添加量は、フッ素イオン濃度の測定結果に基いて算出されたCa(OH)の化学反応当量とした。
【0042】
実施例1
図1に示す装置により、原水の処理を行った。
用いたマイクロリアクタ3は、各マイクロチャンネル3A〜3D及び集合チャンネル部3Xがそれぞれ幅100μm、深さ40μm、長さ12cmで、マイクロチャンネル3Aとマイクロチャンネル3Bとの間の角度θ及びマイクロチャンネル3Cとマイクロチャンネル3Dとの間の角度θは45゜のものである。なお、マイクロリアクタは20系列を並列に連ねて試験を行った。原水は10L/分の流量で48時間、容量100Lの原水槽1に通水し、この原水のうちの一部2μL/分をマイクロリアクタ3の被処理液導入用マイクロチャンネル3Aに送給した。また、抽出剤としては0.1Mオキシン/クロロホルム溶液を用い、この抽出剤を2μL/分で抽出剤導入用マイクロチャンネル3Bに送給し、集合チャンネル部3Xで界面接触させて、Alイオンを抽出除去した。
【0043】
抽出処理液排出用マイクロチャンネル3CからのAl除去水を容量10mLの分析槽6に受け、分析センサ(フッ素イオン電極)6Aによりフッ素イオン濃度の測定を行った。なお、分析槽6内の液は60分に1回排出し、この排出後、分析槽6に液が貯まる毎にフッ素イオン濃度の測定を60分に1回の頻度で行った。このフッ素イオン濃度の測定結果に基き、演算器7でCa(OH)の必要量を算出し、この算出結果に基いて、Ca(OH)水溶液の添加量制御を行った。
【0044】
このようにして原水を処理したときの原水のフッ素イオン濃度の測定結果と、原水槽1内の残留フッ素イオン濃度を測定し結果を正しく示した。
【0045】
なお、原水槽1内の残留フッ素イオン濃度は、原水槽1から採水した水を水蒸気蒸留した後、フッ素イオン電極で測定した。
【0046】
比較例1
実施例1において、原水中のAlイオンを除去せず、そのまま分析槽に導入してフッ素イオン濃度の測定を行い、この測定結果に基いてCa(OH)水溶液の添加量制御を行ったこと以外は同様にして原水の処理を行い、原水のフッ素イオン濃度の測定結果と原水槽内の残留フッ素イオン濃度の測定結果を表1に示した。
【0047】
比較例2
実施例1において、原水中のAlイオンの除去にマイクロリアクタを用いず、原水の200mLについて12時間に1度水蒸気蒸留(所要時間60分)することによりAlイオンを除去した後、分析槽に導入してフッ素イオン濃度の測定を行い、この測定結果に基いてCa(OH)水溶液の添加量制御を行ったこと以外は同様にして原水の処理を行い、原水のフッ素イオン濃度の測定結果と原水槽内の残留フッ素イオン濃度の測定結果を表1に示した。
【0048】
【表1】

【0049】
表1より次のことが明らかである。
【0050】
比較例1では、フッ素イオン濃度の測定に先立ち原水中のAlイオンを除去しないため、測定値が低目になり、この結果に基いてCa(OH)水溶液の添加量制御行ったため、原水槽内の残留フッ素濃度が多い。比較例2では、フッ素イオン濃度の測定に先立ち水蒸気蒸留により原水中のAlイオンを除去したため、比較的正確な測定結果が得られるが十分ではなく、従って、比較例1の場合よりも少ないものの原水槽にはフッ素イオン濃度が残留する。
【0051】
これに対して、マイクロリアクタによる液−液抽出でAlイオンを除去した実施例1では、Alイオンを迅速に除去することができるため、精度の良いフッ素イオン濃度測定を行うことができ、この結果に基いてCa(OH)水溶液の添加量制御を行うことにより、フッ素イオンを確実に除去することができる。
【0052】
なお、Alイオンの除去のためにマイクロリアクタに送給する原水量は上述の如く、ごく微量であり、また、原水がマイクロリアクタを通過する時間は12秒という極短時間であるので、Alイオン除去がフッ素イオン濃度測定に要する時間を長くする要因とはならず、また、測定による排液量もごく少量で良い。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明のフッ素含有排水の処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【符号の説明】
【0054】
1 原水槽
2 不溶化剤槽
3 マイクロリアクタ
3A,3B,3C,3D マイクロチャンネル
3X 集合チャンネル部
4 抽出剤槽
5 廃抽出剤槽
6 分析槽
6A 分析センサ
7 演算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンを含むフッ素含有排水にフッ素の不溶化剤を添加して該排水中のフッ素を難溶性フッ化物として分離するフッ素含有排水の処理方法において、
該フッ素含有排水中の金属イオンをマイクロリアクタで除去した後の水のフッ素イオン濃度を測定し、この測定値に基いて前記フッ素含有排水への不溶化剤添加量を制御することを特徴とするフッ素含有排水の処理方法。
【請求項2】
請求項1において、一端に被処理液導入用マイクロチャンネルと抽出剤導入用マイクロチャンネルが連結し、他端に抽出処理液排出用マイクロチャンネルと廃抽出剤排出用マイクロチャンネルが連結する集合チャンネル部を有するマイクロリアクタを用い、
該マイクロリアクタの被処理液導入用マイクロチャンネルに前記フッ素含有排水を導入して、該抽出剤導入用マイクロチャンネルに導入した抽出剤と該フッ素含有排水とを該集合チャンネル部で界面接触させる液−液抽出により、前記フッ素含有排水中の金属イオンを除去することを特徴とするフッ素含有排水の処理方法。
【請求項3】
請求項2において、前記被処理液導入用マイクロチャンネル、抽出剤導入用マイクロチャンネル、抽出処理液排出用マイクロチャンネル、廃抽出剤排出用マイクロチャンネル及び集合チャンネル部は、幅50〜200μm、深さ40〜100μm、長さ3〜12cmであることを特徴とするフッ素含有排水の処理方法。
【請求項4】
金属イオンを含むフッ素含有排水にフッ素の不溶化剤を添加して該排水中のフッ素を難溶性フッ化物として分離するフッ素含有排水の処理装置において、
該フッ素含有排水中の金属イオンをマイクロリアクタで除去する金属イオン除去手段と、
該金属イオン除去手段で金属イオンが除去された水のフッ素イオン濃度を測定するフッ素イオン濃度測定手段と、
該フッ素イオン濃度測定手段の測定値に基いて前記フッ素含有排水への不溶化剤添加量を制御する不溶化剤添加量制御手段とを備えてなることを特徴とするフッ素含有排水の処理装置。
【請求項5】
請求項4において、前記金属イオン除去手段が、一端に被処理液導入用マイクロチャンネルと抽出剤導入用マイクロチャンネルが連結し、他端に抽出処理液排出用マイクロチャンネルと廃抽出剤排出用マイクロチャンネルが連結する集合チャンネル部を有し、
該処理液導入用マイクロチャンネルに前記フッ素含有排水を導入して、該抽出剤導入用マイクロチャンネルに導入した抽出剤と該フッ素含有排水とを該集合チャンネル部で界面接触させる液−液抽出により、前記フッ素含有排水中の金属イオンを除去するマイクロリアクタであることを特徴とするフッ素含有排水の処理装置。
【請求項6】
請求項5において、前記被処理液導入用マイクロチャンネル、抽出剤導入用マイクロチャンネル、抽出処理液排出用マイクロチャンネル、廃抽出剤排出用マイクロチャンネル及び集合チャンネル部は、幅50〜200μm、深さ40〜100μm、長さ3〜12cmであることを特徴とするフッ素含有排水の処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−281057(P2006−281057A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102844(P2005−102844)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】