説明

フッ素含有水の処理方法および処理装置

【課題】発生する汚泥量が少なく、装置の小型化(コンパクト化)が可能なフッ素含有水の処理方法を提供する。
【解決手段】フッ素含有水からフッ素を除去するフッ素含有水の処理方法において、前記フッ素含有水にカルシウム含有物を添加するカルシウム添加工程(カルシウム添加手段15)と、前記カルシウム添加フッ素含有水を固液分離する固液分離工程(第2反応槽21)と、前記固液分離により生じた液体を膜分離する膜分離工程(膜分離槽31)を有し、前記膜分離工程で得られた固形分を前記カルシウム添加工程および前記固液分離工程の少なくとも一方に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有水の処理方法およびそれに用いる処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスや液晶表示装置製造プロセス等においては、フッ素が使用されており、この結果、多量のフッ素含有水が排出されることになる。フッ素含有水を、そのまま自然に放出することは、環境汚染となり、また人体にも悪影響を及ぼすため、フッ素含有水からフッ素を除去する処理をして清浄水を放出している。また、除去処理されたフッ素は、回収されて、フッ素源としてリサイクルされている。従来のフッ素含有水の処理方法としては、フッ素含有水にカルシウム化合物を添加し、フッ素含有水中のフッ素をフッ化カルシウム(CaF)として沈殿させて固液分離する凝集沈殿法がある。また、この凝集沈殿法の改良法として、スラッジブランケットタイプの固液分離槽を用いるものがある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
しかし、これらの凝集沈殿法等は、凝集剤等の薬剤を使用するため、発生する汚泥量が多く、しかも、汚泥のCaF純度が低いために、CaF含有汚泥の再利用にも適さないという問題がある。この問題を解決するために、晶析法が開発されている(例えば特許文献2、3参照)。
【特許文献1】特許第3196640号公報
【特許文献2】特開昭60−206485号公報
【特許文献3】特開平11−33564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これらの従来の処理方法では、処理工程が複雑であり装置が大型化してしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、装置の小型化(コンパクト化)及び発生汚泥量の低減が可能なフッ素含有水の処理方法およびそれに用いる処理装置の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の処理方法は、フッ素含有水からフッ素を除去するフッ素含有水の処理方法であって、前記フッ素含有水にカルシウム含有物を添加するカルシウム添加工程と、前記カルシウム添加工程で生成したカルシウム添加フッ素含有水を固液分離する固液分離工程と、前記固液分離により生じた液体を膜分離する膜分離工程を有し、前記膜分離工程で得られた固形分を前記カルシウム添加工程および前記固液分離工程の少なくとも一方に供給する処理方法である。
【0007】
また、本発明の処理装置は、フッ素含有水からフッ素を除去するフッ素含有水処理装置であって、第1反応槽、第2反応槽および膜分離槽を有し、これらは前記順序で流路により連結され、前記第1反応槽は、フッ素含有水にカルシウム含有物を添加するカルシウム添加手段を備え、前記第2反応槽は、固液分離手段を備え、これにより、前記カルシウム添加手段により生成したカルシウム添加フッ素含有水を固液分離し、前記膜分離槽は、膜分離装置を備え、これにより前記固液分離で生じた液体を膜分離し、前記膜分離槽と前記第1反応槽および前記第2反応槽とは、それぞれ返送流路で連結され、これにより、前記膜分離で分離された固形分を前記第1反応槽および前記第2反応槽の少なくとも一方に供給する処理装置である。
【発明の効果】
【0008】
このように、本発明の処理方法および処理装置では、カルシウム添加、固液分離と膜分離とを組み合わせ、かつ膜分離で分離した固形分を前記カルシウム添加、固液分離の少なくとも一方に返送する。このようにすれば、前記膜分離で分離した固形分には、フッ化カルシウム結晶の微粒子が存在し、これが種結晶となり、前記カルシウム添加工程、固液分離工程において、フッ化カルシウム結晶の成長が促進され、この結果、固液分離効率が向上するようになる。したがって、大きなフッ化カルシウム結晶を得ることができ、固液分離で得られる固形分(汚泥)のフッ素含有率は高くなって高品質化するとともに、フィルタープレス後の含水率は低くなり、この結果、フッ素含有汚泥の発生量を低減でき、運搬コストも低減できる。また、本発明の構成はシンプルなので、小型化が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の処理方法において、前記固液分離工程は、上向流式反応槽において、カルシウム添加フッ素含有水を下から上に向かって流し、この流れにおいて沈降する固形分を分離回収することが好ましい。
【0010】
本発明の処理方法において、前記上向流式反応槽に整流板を配置して、水流を整えてもよいし、前記上向流式反応槽にじゃま板を配置して、水流を攪拌してもよい。整流板を設置して水流を整えれば、固液分離しやすく、かつ固液分離で生じる結晶粒子の粒径を揃えることができる。また、じゃま板を設置して攪拌すれば、乱流を起こし接触効率が上がるため、反応を促進させることが可能となる。前記整流板の配置は、例えば、槽の中間に板を垂直方向に等間隔、格子状に並べ、上向流の流速を均一にする。前記じゃま板の配置は、例えば、流速方向に対して垂直に板を設けるなどして、その板の上流側には乱流層を形成し、反応または晶析を促進し、下流側には整流層を形成し、固液分離(沈降)を促進する。なお、本発明では、整流板とじゃま板を併用してもよい。
【0011】
本発明の処理方法において、前記膜分離工程の分離膜に対し、エアーによるクロスフロー洗浄を行うことが好ましい。
【0012】
本発明の処理方法において、前記カルシウム添加工程および固液分離工程の少なくとも一方の工程において、カルシウム添加フッ素含有水のpHを、pH4〜11の範囲に調整することが好ましく、pH4〜5の酸性の範囲に調整することがより好ましい。このpHの範囲では、コロイド状のフッ化カルシウムの微粒子が晶析する反応速度が速くなるため、大きな粒子に成長しやすくなる。この大きく成長したフッ化カルシウムの粒子は、沈殿しやすいため、フッ素含有水から分離することが容易になる。
【0013】
本発明の処理方法において、カルシウム含有物は、特に制限されないが、消石灰が好ましい。また、反応効率および接触効率を増大させるために、消石灰は、微粉末状で添加することが好ましい。その他、前記カルシウム含有物は、スラリー状で添加してもよい。
【0014】
本発明の処理方法において、固液分離工程に移行する前あるいは前記固液分離工程中に、さらにリン酸含有物をフッ素含有水に添加することが好ましい。固液分離工程に移行する前にリン酸含有物を添加すれば、フッ化カルシウムより難溶性のフルオロアパタイトが形成され、固液分離の効率がさらに向上するからである。また、前記固液分離工程中にリン酸含有物を添加すれば、フッ化カルシウムが沈殿除去された後の上澄み液にリン酸含有物を添加することになり、リン酸含有物の添加量が低減される。
【0015】
また、リン酸含有物の添加によって、膜分離工程で分離される固形分中にもフルオロアパタイトの微小結晶が含まれ、これが固液分離工程に返送されると、これが種結晶となり、フルオロアパタイト結晶の成長が促進され、この結果、固液分離効率がさらに向上する。
【0016】
本発明の処理方法において、前記リン酸含有物添加後の前記フッ素含有水のpHが、pH5〜11の範囲であることが好ましく、pH6〜9の範囲に調整することがより好ましい。このpHに調整することにより、フルオロアパタイトは不溶化しやすくなる。
【0017】
本発明の処理装置において、前記第2反応槽が、上向流式反応槽であり、この反応槽において、カルシウム添加フッ素含有水が下から上に向かって流れ、この流れにおいて沈降する固形分が分離回収されることが好ましい。
【0018】
本発明の処理装置において、前述と同様の理由により、前記上向流式反応槽に、整流板が配置されていてもよいし、前記上向流式反応槽に、じゃま板が配置されていてもよいし、前記両板を併用してもよい。
【0019】
本発明の処理装置において、さらに、前記膜分離装置に対するエアーによるクロスフロー洗浄手段を有することが好ましい。
【0020】
本発明の処理装置においては、前述と同様の理由により、さらに、pH調整手段を有し、前記第1反応槽および前記第2反応槽の少なくとも一方において、前記カルシウム添加フッ素含有水のpHが、pH4〜11の範囲に調整されることが好ましく、pH4〜5の酸性の範囲に調整されることがより好ましい。
【0021】
本発明の処理装置において、カルシウム含有物は、特に制限されないが、消石灰が好ましい。また、反応効率、接触効率を増大させるために、消石灰は、微粉末状で添加することが好ましい。その他、消石灰は、スラリー状で添加してもよい。
【0022】
本発明の処理装置において、前述と同様の理由により、リン酸含有物供給手段を有し、これにより、第2反応槽に移行する前のフッ素含有水にリン酸含有物を添加することが好ましい。
【0023】
本発明の処理装置において、前述と同様の理由により、リン酸含有物供給手段を有し、第2反応槽と膜分離槽の間に第3反応槽を設け、前記第2反応槽から流出したフッ素含有水にリン酸含有物を添加することが好ましい。
【0024】
本発明の処理装置において、前記リン酸含有物添加後の前記フッ素含有水のpHが、pH5〜11の範囲であることが好ましく、pH6〜9の範囲に調整することがより好ましい。このpHの好ましい範囲は、前述と同様である。
【0025】
つぎに、本発明について、さらに詳しく説明する。
(フッ素含有水)
本発明において処理対象となるフッ素含有水は、特に制限されず、例えば、半導体製造産業、液晶製造産業、その他、電子、電気産業やその原料提供産業、発電所等からの排水、回収フロン処理場、リサイクル産業、ごみ焼却等廃棄物処理産業等の環境事業から発生する排水、アルミニウム電解精錬工業、リン酸肥料の製造業、リン系及びフッ素系化合物等の製造業の排水、並びに土木建設、鉱業、金属処理業の排水、医療や農業、上下水処理設備等の排水、河川、地下水等、ありとあらゆるフッ素を含む水が対象となる。
【0026】
前記フッ素含有水中のフッ素濃度は、例えば、液中のフッ素として、10ppm〜40%(フッ素質量/容積:以下同様)であることが好ましく、さらに好ましくは10ppm〜15%程度である。また、含有状態は特に制限されず、例えば、溶解状態であってもよいし、懸濁状態であってもよい。フッ素は、イオン状態であってもよいし、化合物であってもよい。
【0027】
本発明の処理によりフッ素が除去されるが、除去後の処理水中のフッ素濃度は、例えば、10ppm以下、好ましくは8ppm以下、より好ましくは5ppm以下である。
(カルシウム含有物)
本発明で使用するカルシウム含有物は、特に制限されないが、少なくともその一部がフッ素と反応してフッ化カルシウム結晶を生成できるものであればよい。カルシウム含有物としては、例えば、消石灰、生石灰、炭酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、過酸化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム等が挙げられる。これらは、天然に産するものでもよいし、各種製造業で主産物、または、副産物として製造されるものでもよい。
【0028】
これらのカルシウム含有物において、特に好ましいカルシウム化合物は、消石灰及び炭酸カルシウムである。消石灰は、重金属が排水中に含まれる場合に重金属も除去できるので好ましく、炭酸カルシウムは、処理によって生成するスラッジが少ないため好ましい。また、例えば、処理装置や配管等の材質として充分な耐腐食性を有するものを採用する場合や回収汚泥に塩化物が含まれても良い場合は、溶解度の高い塩化カルシウムも好ましく使用される。
【0029】
本発明において、カルシウム含有物の添加量は、フッ素含有水中のフッ素濃度、カルシウム化合物の種類、その溶解度等によって適宜選択されるが、例えば、フッ素濃度の0.1〜5倍当量、好ましくは0.5〜2倍当量程度である。なお、カルシウム含有物は、一つの種類を単独で使用しても良いし、二種類以上を併用してもよい。
(リン酸含有物)
リン酸含有物の使用は、本発明において、任意である。リン酸含有物としては、リン酸自体でもよいが、リン酸とアルカリ性化合物の中和反応により生成したリン酸塩などのリン酸化合物であってもよい。
【0030】
リン酸含有物としては、例えば、正リン酸(オルトリン酸)、次亜リン酸、亜リン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、トリメタリン酸、ウルトラリン酸、テトラメタリン酸、イソテトラポリリン酸、テトラポリリン酸、ヘキサメタリン酸、及び更なる縮合リン酸等があげられる。この他、リン酸含有物としては、リン酸アンモニウム(リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸三アンモニウム)、リン酸ナトリウム(リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム)、リン酸カリウム(リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、リン酸三カリウム)、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性メタリン酸ナトリウム、酸性メタリン酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム、トリメタリン酸ナトリウム、トリメタリン酸カリウム、ウルトラリン酸ナトリウム、ウルトラリン酸カリウム、テトラメタリン酸ナトリウム、テトラメタリン酸カリウム、イソテトラポリリン酸ナトリウム、イソテトラポリリン酸カリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸カリウム、次亜リン酸カルシウム、リン酸カルシウム、更には、その他の金属とリン酸から生成するリン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、リン酸鉄などのリン酸塩等のリン酸化合物が挙げられる。
【0031】
上記リン酸カルシウムとしては、トリカルシウムフォスフェート(第三リン酸カルシウム)、ダイカルシウムフォスフェート(第二リン酸カルシウム)、モノカルシウムフォスフェート(第一リン酸カルシウム)、オクタカルシウムフォスフェート、テトラカルシウムフォスフェート等の一般的なリン酸カルシウムが挙げられるが、これら以外であっても、ハイドロキシアパタイトに代表されるアパタイト構造のものであってもよく、また天然に産するリン酸化合物であるリン鉱石であってもよい。
【0032】
これらのリン酸含有物において、好ましくは、縮合リン酸を含むリン酸であり、さらに好ましくは正リン酸である。また、上記リン酸類やリン酸化合物は、一種又は二種以上を併用することも可能である。
【0033】
リン酸含有物の添加量は、その種類により適宜決定されるが、例えば、フッ素濃度の1〜6倍当量、好ましくは2〜4倍当量である。フルオロアパタイトの化学式は、Ca10(PO4)であり、フッ素とリン酸が過不足なく反応するとすれば、フッ素の3倍当量のリン酸添加が適量となるが、反応効率及びフッ化カルシウムでの分離を考慮しての添加量である。
【0034】
また、前述のように、pHを調整することが好ましいが、その際に使用されるpH調整剤としては、例えば、塩酸(HCl)、硫酸(HSO)、リン酸(HPO)などの鉱酸等の酸や、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH))等のアルカリを用いることができる。これらのうち、水酸化カルシウム(Ca(OH))は、前記pH調整剤および前記カルシウム含有物として兼用できる。
【0035】
本発明において、凝集剤を使用することもできる。但し、回収されたフッ化物汚泥を、フッ素源としてリサイクルする観点からは、凝集剤を使用しないことが好ましいし、一方、処理水の清浄度を向上させる観点からは、凝集剤を使用することが好ましい。
【0036】
本発明の処理方法において、前記固液分離工程は、晶析工程および沈殿分離工程に分かれていてもよい。この場合に、前記膜分離工程で分離された固形分は、前記晶析工程に返送される。また、本発明の処理装置において、前記第2反応槽は、晶析槽と沈殿分離槽とから構成されていてもよい。この場合、前記膜分離槽で分離された固形分は、前記晶析槽に返送される。
【実施例】
【0037】
つぎに、本発明の処理方法および処理装置の実施例について、図面に基づき説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0038】
(実施例1)
図1に、本発明の処理装置の一例の構成を示す。
【0039】
図示のように、この装置は、第1反応槽11と、第2反応槽21と、膜分離槽31を主要構成要素とし、この順序で流路(パイプ)により連結され、かつ、第1反応槽11と膜分離槽31および第2反応槽21と膜分離槽31とは、それぞれ返送流路(パイプ)で連結されている。前記第1反応槽11には、フッ素含有水14導入用のパイプが導入されており、また、カルシウム含有物供給手段15を備える。そして、第1反応槽11には、攪拌手段が設置されており、これは、駆動モータ13と、これに連結する攪拌羽根12から構成される。
【0040】
さらに、第1反応槽11には、フッ素濃度検出手段16が設置されており、カルシウム添加フッ素含有水中のフッ素濃度がモニターされる。さらに、第1反応槽11には、pH調整剤18導入用のパイプが導入されていてもよく、また、pH検出手段19が設置されていてもよい。これらでpH調整手段を構成し、前記pH調整手段で、カルシウム添加フッ素含有水中のpHが調整される。
【0041】
第1反応槽11からパイプ17が導出され、これはパイプ25の一端に連結し、パイプ25の他端は、第2反応槽(上向流式反応槽)21の下部に配置した散水管37に連結している。第2反応槽21にも、前記第1反応槽11と同様に、pH調整剤28導入用のパイプおよびpH検出手段29からなるpH調整手段を設けてもよい。好ましくは、第1反応槽11および第2反応槽21の双方に、pH調整手段を設けることである。
【0042】
第2反応槽21は、その下部が、底に行くにしたがい、テーパー状に狭くなっている。第2反応槽21の底部には、その途中にポンプ22が配置されたパイプの一端が連結し、この他端は、汚泥回収槽23に連結している。なお、前記パイプのポンプ22と汚泥回収槽23の間の位置にパイプ27の一端を設けて分岐路とし、前記パイプ27の他端を第1反応槽11に導入するようにしてもよい。これにより、第2反応槽21の底部から回収される固形分の一部を第1反応槽11に返送可能となる。
【0043】
また、第2反応槽21の上部からは、パイプ26が導出され、これは膜分離槽31に連結している。膜分離槽31の内部には、膜分離装置32が配置されており、この膜分離装置32から排出される処理水は、パイプ34により系外に排出される(41)。
【0044】
前記膜分離装置32は、例えば複数の外圧式の中空糸膜モジュールを平行かつ垂直方向に沿って配置したものである。この装置の膜分離装置32は、槽内の水頭を利用して重力濾過する方式のものであるが、処理水排出系に吸引ポンプ(図示省略)を設けて強制吸引濾過する方式のものでも良い。また、分離膜は、特に制限されず、例えば、浸漬膜である平膜、内圧式の中空糸膜、セラミック膜などがある。また、膜分離装置32の下方には、エアー噴射手段が配置され、これはブロアー36と連結されている。エアー噴射手段により、膜分離装置32の分離膜がクロスフロー洗浄される。膜分離層31の底部には、その途中にポンプ33が配置されたパイプ35の一端が連結している。
【0045】
パイプ35は、ポンプ33より先で2つに分岐し、その一端は、第1反応槽11に導入されるようになっており、膜分離された固形分が第1反応槽11に返送可能となっている。パイプ35のもう一方の他端は、パイプ25と合流して、第2反応槽21と連結して膜分離された固形分が第2反応槽21に返送可能となっている。第2反応槽21に返送された固形分は、散水管37により、下から上に向かって放出される。
【0046】
この装置を用いたフッ素含有水の処理は、例えば、つぎのようにして実施される。
【0047】
すなわち、まず、フッ素含有水14を、第1反応槽11に導入し、ここで、カルシウム含有物供給手段15により、カルシウム含有物を添加する。この際、攪拌手段12,13により、攪拌する。また、カルシウム含有物の添加は、検出手段16により、フッ素濃度をモニターしながら行うことが好ましい。さらに、pH調整剤18を、第1反応槽11に導入することが好ましく、pH調整剤の添加は、pH検出手段19により、pHを調整しながら行うことが好ましい。
【0048】
カルシウム添加後のフッ素含有水は、パイプ17,25を通って、第2反応槽21に導入される。この際、pH調整剤28を、第2反応槽21に導入することが好ましく、pH調整剤の添加は、pH検出手段29により、pHを調整しながら行うことが好ましい。このとき、前記フッ素含有水は、散水管37により下から上に向かって放出されるため、第2反応槽21内では、下から上への方向の流れが生じる。この流れにおいて、添加されたカルシウムとフッ素とが反応して生じたフッ化カルシウム結晶等の固形分のうち、前記流れの線速度よりも沈降速度が大きいものが、沈降して行く。したがって、前記流れの線速度は、特に制限されず、第2反応槽21の底部から回収するフッ化カルシウム等の固形分の性状等により適宜決定される。沈降した固形分は、第2反応槽21の底部から、ポンプ22により、パイプを通して汚泥回収槽23に回収される。沈降した固形分の一部を、これを含む液体と共に、パイプ27を通して、第1反応槽11に返送してもよい。
【0049】
そして、第2反応槽21の上部から、沈降しない固形分を含む液体を取り出し、パイプ26を通して、膜分離槽31に導入する。ここで、膜分離装置32により膜分離され、その結果、ろ過された処理水は、パイプ34を通り、系外に排出される(41)。
【0050】
一方、膜分離により分離された固形分は、これを含む液体と共に、ポンプ33により、パイプ35を通り、第1反応槽11および第2反応槽21の少なくとも一方に返送される。返送された固形分中のフッ化カルシウムの微小結晶が種結晶となり、第1反応槽11および第2反応槽21におけるフッ化カルシウムの結晶成長を促進し、その結果、大きな結晶が得られ、固液分離の効率が向上する。
【0051】
なお、図示していないが、回収されたフッ化物は、フィルタープレス後、回収先に搬送されるのが、一般的であり、凝集剤や塩化物を含んだ薬剤を使用しない場合には、フッ素含有率が高く、品質の良いリサイクル品として好ましく使用され、また、フィルタープレス後の含水率も低くなり、運搬コストが低減できる。
【0052】
(実施例2)
つぎに、本発明の装置のその他の例を、図2に基づき説明する。なお、図2において、図1と同一部分には同一符号を付している。
【0053】
図示のように、この装置では、固液分離工程を、晶析工程と沈殿分離工程とに分けて処理するものであり、前記図1に示す装置の例の第2反応槽21に代えて、晶析槽211と沈殿分離槽212とを備える。晶析槽211には、攪拌手段が設置されており、これは、駆動モータ215と、これに連結する攪拌羽根214から構成される。第1反応槽11から導出されたパイプ17は、前記晶析槽211に連結しており、この晶析槽211からはパイプ213が導出され、これは沈殿分離槽212の下部に配置された散水管37と連結している。また、膜分離槽31から導出されたパイプ35の一端は、前記パイプ17と連結している。その他の構成は、図1に示す装置と同じである。なお、この装置において、pH調整剤28導入用のパイプおよびpH検出手段29からなるpH調整手段を晶析槽211に設けてもよい。
【0054】
この装置では、第1反応槽11において、カルシウム含有物がフッ素含有水に添加され、これがパイプ17により、晶析槽211に導入され、ここで、結晶が生成および成長する。そして、この結晶を含む液体が、パイプ213により沈殿分離槽212の下部に導入され、そこに配置された散水管37により、上方向に向かって放出され、ここで沈殿分離が行われる。一方、膜分離槽31で生じた固形分を含む液体は、パイプ35およびパイプ17を通して晶析槽211に返送され、前記固形分が、結晶種として使用される。この装置において、これら以外は、図1に示す装置と同様にしてフッ素含有水の処理が実施される。
【0055】
(実施例3)
つぎに、本発明の処理装置のその他の例について、図3に基づき説明する。なお、図3において、図1と同一部分には同一符号を付している。
【0056】
図3において、この装置では、リン酸含有物供給手段38を有し、これからパイプが導出され、このパイプの先端は、パイプ25と合流している。その他は、図1の装置と同じ構成である。
【0057】
この装置では、リン酸含有物供給手段38により、固液分離の前に、フッ素含有水にリン酸を供給できる。このため、第2反応槽21での固液分離工程において、フルオロアパタイトが生成し、固液分離効率がより向上する。また、固液分離工程で分離されなかった微小なフルオロアパタイトは、膜分離槽31の膜分離工程で捕捉されて固液分離工程に返送され、ここで種結晶として機能する。このため、この装置では、フルオロアパタイトの結晶成長が促進され、これにより固液分離がより促進される。
【0058】
(実施例4)
つぎに、本発明の処理装置のその他の例について、図4に基づき説明する。なお、図4において、図1および図3と同一部分には同一符号を付している。
【0059】
図4において、第2反応槽21と膜分離槽31との間に第3反応槽51を設け、前後の槽とパイプ52,53で接続している。パイプ52にはリン酸含有物供給手段38により、リン酸含有物を供給できる。さらにパイプ52にはpH調整剤54導入用のパイプを接続し、第3反応槽51に設置したpH検知手段55とでpH調整手段を構成している。第3反応槽51には、駆動モータ57と、これに連結する攪拌羽根56から構成される攪拌手段が設置されている。
【0060】
第3反応槽51は、その下部が、底に行くにしたがい、テーパー状に狭くなっている。第3反応槽51の底部には、その途中にポンプ58が配置されたパイプの一端が連結し、この他端は、汚泥回収槽59に連結している。一方、膜分離槽31内で、膜分離装置32により分離された固形分は、これを含む液体と共に、ポンプ33により、パイプ35を通り、第3反応槽51に返送される。
【0061】
上記の構成において、カルシウム添加後のフッ素含有水は、パイプ17,25を通って、第2反応槽21に導入される。このとき、前記フッ素含有水は、散水管37により下から上に向かって放出されるため、第2反応槽21内では、下から上への方向の流れが生じる。この流れにおいて、添加されたカルシウムとフッ素とが反応して生じたフッ化カルシウム結晶等の固形分のうち、前記流れの線速度よりも沈降速度が大きいものが、沈降して行く。
【0062】
一方、第2反応槽21の上部から、沈降しない固形分を含む液体、すなわちフッ化カルシウムが沈殿除去された上澄み液が、パイプ52を通り、第3反応槽51へ流入する。このパイプ52の途中で、リン酸含有物供給手段38によりリン酸を供給し、pH調整手段によりpHを5〜11に調整することにより、第3反応槽51内では、フルオロアパタイトが生成される。この生成は、駆動モータ57と、これに連結する攪拌羽根56から構成される攪拌手段により促進される。
【0063】
また、pH調整剤54の添加は、第3反応槽51内に設けられたpH検知手段55により検知されたpHに応じて決定される。すなわち、第2反応槽21内でフッ化カルシウムの沈殿分離に適したpH範囲は4〜5の酸性であり、第3反応槽51内でフルオロアパタイトの沈殿分離に適したpH範囲は6〜9であることから、パイプ52に供給するpH調整剤54は、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH))等のアルカリを用いることが好ましい。
【0064】
また、膜分離槽31から排出される固形分は、フルオロアパタイトの微細結晶であり、パイプ35を通じて第3反応槽51へ返送することにより、これが種結晶となり、フルオロアパタイト結晶の成長が促進され、この結果、固液分離効率がさらに向上する。
【0065】
このようにフッ化カルシウムの生成および晶析を第2反応槽21で、フルオロアパタイトの生成および晶析を第3反応槽51で行なうことにより、各反応槽で同一の種結晶による晶析となり、晶析反応が促進される。さらに第3反応槽51では、フッ化カルシウムを沈殿分離させた後の上澄み液をリン酸と反応、すなわちフルオロアパタイト法で高度処理できるため、リン酸含有物の供給量を少なくできる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明してきたように、本発明の処理方法および処理装置は、例えば、半導体製造プロセスや液晶表示装置の製造プロセスで排出されるフッ素含有水の処理に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の処理装置の一例の構成図
【図2】本発明の処理装置のその他の例の構成図
【図3】本発明の処理装置のその他の例の構成図
【図4】本発明の処理装置のその他の例の構成図
【符号の説明】
【0068】
11 第1反応槽
12、56、214 回転羽根
13、57、215 駆動モータ
14 フッ素含有水
15 カルシウム含有物供給手段
16 フッ素濃度検出手段
17、25、26、27、34、35、52、53、213 パイプ
18、28、54 pH調整剤
19、29、55 pH検出手段
21 第2反応槽(上向流式反応槽)
22、33、58 ポンプ
23、59 汚泥回収槽
31 膜分離槽
32 膜分離装置
36 ブロアー
37 散水管
38 リン酸含有物供給手段
41 処理水
51 第3反応槽
211 晶析槽
212 沈殿分離槽


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有水からフッ素を除去するフッ素含有水の処理方法であって、前記フッ素含有水にカルシウム含有物を添加するカルシウム添加工程と、前記カルシウム添加工程で生成したカルシウム添加フッ素含有水を固液分離する固液分離工程と、前記固液分離により生じた液体を膜分離する膜分離工程を有し、前記膜分離工程で得られた固形分を前記カルシウム添加工程および前記固液分離工程の少なくとも一方に供給するフッ素含有水の処理方法。
【請求項2】
前記固液分離工程は、上向流式反応槽において、前記カルシウム添加フッ素含有水を下から上に向かって流し、この流れにおいて沈降する固形分を分離回収する請求項1記載のフッ素含有水の処理方法。
【請求項3】
前記上向流式反応槽に整流板を配置して、水流を整える請求項2記載のフッ素含有水の処理方法。
【請求項4】
前記上向流式反応槽にじゃま板を配置して、水流を攪拌する請求項2記載のフッ素含有水の処理方法。
【請求項5】
前記膜分離工程における分離膜に対し、エアーによるクロスフロー洗浄を行う請求項1記載のフッ素含有水の処理方法。
【請求項6】
前記カルシウム添加工程および固液分離工程の少なくとも一方の工程において、カルシウム添加フッ素含有水のpHを、pH4〜11の範囲に調整する請求項1記載のフッ素含有水の処理方法。
【請求項7】
カルシウム含有物として、消石灰を使用する請求項1記載のフッ素含有水の処理方法。
【請求項8】
固液分離工程に移行する前あるいは前記固液分離工程中に、さらにリン酸含有物をフッ素含有水に添加する請求項1記載のフッ素含有水の処理方法。
【請求項9】
前記リン酸含有物添加後の前記フッ素含有水のpHが、pH5〜11の範囲である請求項8記載のフッ素含有水の処理方法。
【請求項10】
フッ素含有水からフッ素を除去するフッ素含有水の処理装置であって、第1反応槽、第2反応槽および膜分離槽を有し、これらは前記順序で流路により連結され、前記第1反応槽は、フッ素含有水にカルシウム含有物を添加するカルシウム添加手段を備え、前記第2反応槽は、固液分離手段を備え、これにより、前記カルシウム添加手段により生成したカルシウム添加フッ素含有水を固液分離し、前記膜分離槽は、膜分離装置を備え、これにより前記固液分離で生じた液体を膜分離し、前記膜分離槽と前記第1反応槽および前記第2反応槽とは、それぞれ返送流路で連結され、この返送流路により、前記膜分離槽で分離された固形分を前記第1反応槽および前記第2反応槽の少なくとも一方に供給するフッ素含有水の処理装置。
【請求項11】
前記第2反応槽は、前記カルシウム添加フッ素含有水が下から上に向かって流れ、この流れにおいて沈降する固形分を分離回収する上向流式反応槽である請求項10記載のフッ素含有水の処理装置。
【請求項12】
前記上向流式反応槽に、整流板が配置されている請求項11記載のフッ素含有水の処理装置。
【請求項13】
前記上向流式反応槽に、じゃま板が配置されている請求項11記載のフッ素含有水の処理装置。
【請求項14】
さらに、前記膜分離装置に対するエアーによるクロスフロー洗浄手段を有する請求項10記載のフッ素含有水の処理装置。
【請求項15】
さらに、pH調整手段を有し、前記第1反応槽および前記第2反応槽の少なくとも一方において、前記カルシウム添加フッ素含有水のpHが、pH4〜11の範囲に調整される請求項10記載のフッ素含有水の処理装置。
【請求項16】
カルシウム含有物として、消石灰を使用する請求項10記載のフッ素含有水の処理装置。
【請求項17】
リン酸含有物供給手段を有し、これにより、第2反応槽に移行する前のフッ素含有水にリン酸含有物を添加する請求項10記載のフッ素含有水の処理装置。
【請求項18】
リン酸含有物供給手段を有し、第2反応槽と膜分離槽の間に第3反応槽を設け、前記第2反応槽から流出したフッ素含有水にリン酸含有物を添加するとともに、前記膜分離槽と前記第3反応槽とは返送流路で連結され、この返送流路により、前記膜分離槽で分離された固形分を前記第3反応槽に供給する請求項10記載のフッ素含有水の処理装置。
【請求項19】
前記リン酸含有物添加後の前記フッ素含有水のpHが、pH5〜11の範囲である請求項17または18記載のフッ素含有水の処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−159176(P2006−159176A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−116884(P2005−116884)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】