説明

フッ素含有芳香族系重合体

【課題】耐熱性と撥水性とに優れるために、耐熱撥水材料として好適に用いることができる重合体を提供する。
【解決手段】特定の構造の繰り返し単位を有するフッ素含有芳香族系重合体。すなわち、代表的な構造としては1,4−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンズブチルアミド)ベンゼンおよび2,2ージフェニル−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)を塩基性触媒、例えば炭酸カリウム存在下に重縮合する工程により製造される高分子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有芳香族系重合体に関する。より詳しくは、ポリマー材料として各種用途に好適に利用されるフッ素含有芳香族系重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素含有芳香族系重合体は、フッ素原子及び芳香環に起因して耐熱性や機械特性等に優れた重合体である。このような重合体は、高い機能性を発揮する重合体として注目され、種々の研究、開発が進められている。
従来のフッ素含有芳香族系重合体としては、例えば、特定の構造を有する含フッ素アリールアミドエーテル重合体が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、その他にも、工業的に入手可能な2,3,4,5,6−ペンタフルオロ安息香酸(PFBA)を出発原料として合成される芳香族フルオライドと、ビスフェノール類やビスチオフェノール類とを芳香族求核置換反応させることによって得られる2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−フェニレン構造を有するポリエーテルケトン、又は、含フッ素ポリエーテルオキサジアゾール等が合成され、その機能が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−327690号公報(第1−2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したようなフッ素含有芳香族系重合体は、芳香環に付加したフッ素原子に主に由来して耐熱性と低吸湿性とを有することが確認されている。
しかしながら、フッ素原子を芳香環に有する芳香族系重合体は、優れた撥水性を有しているとまでは言えず、撥水性材料としての展開はなされていないのが現状である。耐熱性や機械特性等といった特性に加え、優れた撥水性という機能が加わることで、重合体から形成される各種材料の性能向上を図ることができ、また、フッ素含有芳香族系重合体の用途展開を拡大することができる。
一方、従来の撥水性材料としては、ポリオレフィンや、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のアルキルフッ素群のポリマーが挙げられるが、それらの軟化温度、ガラス転移温度は耐熱性材料として用いるには充分ではなく、耐熱性を必要とする用途に用いるのは難しいものであった。
このように、耐熱性と撥水性とを併せ持つポリマー材料として好適に用いることのできるものは未だ開発されていないのが現状であるが、離形フィルムや複写機用転写ベルト等のように、耐熱性と撥水性とを同時に求められる分野が多数存在し、耐熱性と撥水性とに優れたポリマー材料の開発が求められているところであった。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、耐熱性と撥水性とに優れ、耐熱撥水材料として好適に用いることができる重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、耐熱性と低吸湿性とを有するフッ素含有芳香族系重合体について種々検討を行い、フッ素含有ポリアリールエーテル、中でもアミド基を有するものに着目した。そして、そのような重合体におけるアミド基のN−H結合をアルキル基で置換することにより、耐熱性だけでなく、撥水性にも優れた重合体となることを見出した。更にこの重合体は、種々の溶媒に対して可溶であり、フィルム等への成形も容易であることをも見出した。このように、重合体を特定の構造を有するフッ素含有芳香族系重合体とすることによって、上記課題を見事に解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。このような重合体は、耐熱性と撥水性とに優れていることから、離形フィルムや複写機用転写ベルトへの応用が期待できるものである。
【0008】
すなわち本発明は、一般式(1);
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、炭素数2〜20のアルキル基、又は、置換基を有する炭素数2〜20のアルキル基を表す。Ar及びArは、同一又は異なって、2価の芳香族基を表す。Xは、同一又は異なって、酸素原子又は硫黄原子を表す。mは、同一又は異なって、芳香環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。)で表される繰り返し単位を有することを特徴とするフッ素含有芳香族系重合体である。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体は、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体であり、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を必須とするものである限り、その他の繰り返し単位を含んでいてもよいが、上記一般式(1)で表される繰り返し単位がフッ素含有芳香族系重合体を構成する繰り返し単位の主成分であることが好ましい。繰り返し単位の主成分であるとは、繰り返し単位全体に対する上記一般式(1)で表される繰り返し単位の割合が50モル%以上であることである。より好ましくは、70モル%以上であり、更に好ましくは、90モル%以上である。
なお、本発明のフッ素含有芳香族系重合体においては、上記一般式(1)で表される繰り返し単位の構造は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。異なる繰り返し単位により構成される場合には、交互、ブロック状、ランダム状等いずれの重合様式であってもよい。
【0012】
上記一般式(1)におけるR及びRは、同一又は異なって、炭素数2〜20のアルキル基、又は、置換基を有する炭素数2〜20のアルキル基を表す。
上記アルキル基としては、直鎖状、分岐状、又は、環状アルキル基が挙げられる。これらの中でも、直鎖状が好ましい。アルキル基を直鎖状とすることにより、更に重合体の撥水性を向上させることができる。
上記アルキル基の炭素数としては、3〜15が好ましい。より好ましくは、4〜10である。アルキル基の鎖長をこのような範囲とすることにより、より重合体の撥水性を向上させることができる。
【0013】
上記置換基を有するアルキル基における置換基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基やハロゲン置換アルコキシ基;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;シアノ基等が挙げられる。これらの中でも、ハロゲン置換アルコキシ基、ハロゲン原子が好ましく、より好ましくは、フルオロアルコキシ基、フッ素原子である。特に好ましくは、フッ素原子である。
上記置換基を有するアルキル基は、当該アルキル基の有する水素原子全てが置換基によって置換されていてもよいし、その一部が置換基によって置換されていてもよい。また、上記置換基を有するアルキル基が置換基を複数有する場合には、該置換基は全て同一であってもよいし、異なるものであってもよい。
このように、上記一般式(1)におけるR及びRが、同一又は異なって、炭素数3〜15のアルキル基、又は、炭素数3〜15のフッ素化アルキル基であることもまた、本発明の好適な実施形態の一つである。
なお、上記ハロゲン置換アルコキシ基には、アルコキシ基の有する水素原子全てがハロゲン原子で置き換えられた全ハロゲン置換アルコキシ基と、アルコキシ基の有する水素原子のうちの一部がハロゲン原子で置き換えられた部分ハロゲン置換アルコキシ基とが含まれる。
【0014】
上記アルキル基としては、エチル基、n−又はi−プロピル基、n−、i−又はt−ブチル基、n−、s−又はt−アミル基、ネオペンチル基、n−、s−又はt−ヘキシル基、n−、s−又はt−ヘプチル基、n−、s−又はt−オクチル基、2−エチルヘキシル基、カプリル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、ペンタデシル基、セチル基、ヘプタデシル基、ステアリル基、ノナデシル基、エイコシル基、セリル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、4−メチルシクロヘキシル基、4−t−ブチルシクロヘキシル基、トリシクロデカニル基、イソボルニル基、アダマンチル基、ジシクロペンタニル基等が挙げられる。
また、上記置換基を有するアルキル基としては、上記アルキル基の有する水素原子の全て又は一部が上記置換基で置換されたものが挙げられる。
これらの中でも、上記R及びRとしては、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ヘプタフルオロブチル基(例えば、CFCFCFCH−)、ペンタデカフルオロオクチル基(例えば、CFCFCFCFCFCFCFCH−)が特に好ましい。
【0015】
上記一般式(1)におけるAr及びArは、同一又は異なって、2価の芳香族基を表す。
上記Arとしては、下記一般式(2−1)〜(2−14)で表される基が好適である。
【0016】
【化2】

【0017】
上記一般式(2−1)〜(2−14)中、Y、Y、Y及びYは、同一又は異なって、置換基を表す。なお、1つの芳香環は、0〜4個のY、Y、Y又はYを置換基として有していることを意味し、該置換基としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;ハロゲン原子やシアノ基等の置換基を有していてもよいアルキル基;ハロゲン原子やシアノ基等の置換基を有していてもよいアルコキシ基が好適である。より好ましくは、炭素数が1〜30であって、ハロゲン原子やシアノ基等の置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基である。
上記Arとしては、これらの中でも、(2−3)、(2−4)、(2−5)、(2−8)、(2−10)、(2−11)が好ましい。特に好ましくは、(2−3)である。すなわち、一般式(1)におけるArがフェニレン基であることもまた、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0018】
上記Arとしては、下記一般式(3−1)〜(3−16)で表される基が好適である。
【0019】
【化3】

【0020】
上記一般式(3−1)〜(3−16)中、Y、Y、Y及びYは、上記一般式(2−1)〜(2−14)中のY、Y、Y及びYと同様である。
上記Arとしては、これらの中でも、下記一般式(4−1)〜(4−12)で表される2価の芳香族基であることがより好ましい。特に好ましくは、(4−3)である。
【0021】
【化4】

【0022】
上記一般式(1)におけるXは、同一又は異なって、酸素原子又は硫黄原子を表す。このうち、上記Xが酸素原子であることもまた、本発明の好適な実施形態の一つである。
上記一般式(1)におけるmは、同一又は異なって、芳香環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。これは、一般式(1)中の芳香環が、4つの水素原子の一部又は全部がフッ素原子に置換された構造となっていることを表しており、1つの芳香環における水素原子とフッ素原子との合計が4となる。
上記mとしては、フッ素含有芳香族系重合体におけるアミド基のN−H結合による撥水性への影響を低減させる観点から、3〜4の整数であることが好ましく、特に好ましくは、4である。このように、上記一般式(1)におけるmが4であるフッ素含有芳香族系重合体もまた、本発明の好適な実施形態の一つである。
また、本発明においては、上記一般式(1)中の芳香環の水素原子は、フッ素原子以外の他の置換基により置換されていてもよい。
【0023】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体の好ましい構造としては、上記一般式(1)におけるR及びRが、同一又は異なって、炭素数3〜15のアルキル基、又は、炭素数3〜15のフッ素化アルキル基であり、Arがフェニレン基であり、Xが酸素原子であるN−アルキル置換フッ素含有ポリアリールアミドエーテルが挙げられる。このような、上記一般式(1)におけるR及びRが、同一又は異なって、炭素数3〜15のアルキル基、又は、炭素数3〜15のフッ素化アルキル基であり、Arがフェニレン基であり、Xが酸素原子であるフッ素含有芳香族系重合体もまた、本発明の好適な実施形態の一つである。
上記フッ素含有芳香族系重合体のより好ましい構造としては、更に上記一般式(1)におけるR及びRが、同一又は異なって、炭素数4〜10のアルキル基であり、mが4である、N−アルキル置換フッ素含有ポリアリールアミドエーテルが挙げられる。
【0024】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体の重量平均分子量は、要求される特性等に応じて適宜設定することができるが、20000〜400000であることが好ましい。重量平均分子量が20000未満であると、成膜した場合の膜強度が弱く、膜自体が脆くなる可能性があり、400000より大きいと、粘度が高く、薄膜を作製しにくくなるおそれがある。より好ましくは、30000〜200000である。
重量平均分子量は、ポリスチレン換算によるゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC装置、展開溶媒;テトラヒドロフラン)によって以下の装置及び測定条件で測定することができる。
高速GPC装置:HLC−8220GPC(東ソー社製)
測定条件:
展開溶媒 テトラヒドロフラン(THF)
カラム TSK−gel GMHXL ×2本
溶離液流量 1ml/min
カラム温度 40℃
【0025】
上記フッ素含有芳香族系重合体の粘度は、0.3〜2.5dl/gであることが好ましい。粘度がこのような範囲であることによって、フッ素含有芳香族系重合体を成膜する場合に、良好な膜を作製することが可能となる。より好ましくは、0.5〜2.0dl/gである。
粘度は、オストワルド粘度計を使い、ジメチルアセトアミド(DMAc)中濃度0.5g/dl、温度25℃で測定することができる。
【0026】
上記フッ素含有芳香族系重合体のガラス転移温度(Tg)は、150℃以上であることが好ましい。Tgが150℃以上であれば、耐熱性に優れた重合体として耐熱性の求められる用途に好適に用いることができる。より好ましくは、180℃以上である。
ガラス転移温度(Tg)は、示差走査型熱量計(製品名「DSC−7」、パーキンエルマー社製)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定することができる。
【0027】
上記フッ素含有芳香族系重合体の10%重量減少温度は、350℃以上であることが好ましい。10%重量減少温度が350℃以上であれば、耐熱性に優れた重合体として耐熱性の求められる用途に好適に用いることができる。より好ましくは、370℃以上である。
10%重量減少温度は、熱重量測定計(製品名「TGA−7」、パーキンエルマー社製)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定することができる。
【0028】
上記フッ素含有芳香族系重合体の水に対する接触角は、90°以上であることが好ましい。水に対する接触角がこのような範囲であることによって、重合体が撥水性に優れたものと評価することができるものとなり、撥水性に優れた重合体として撥水性の求められる用途に好適に用いることができる。より好ましくは、93°以上であり、更に好ましくは、95°以上であり、特に好ましくは、99°以上である。なお、上限は360°以下であればよい。
水に対する接触角は、フッ素含有芳香族系重合体から作製されるポリマーフィルムを用いて、接触角計CA−D(製品名、協和界面科学社製)により測定することができる。
【0029】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体の製造方法としては、特に制限されないが、例えば、下記一般式(5);
【0030】
【化5】

【0031】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、炭素数2〜20のアルキル基、又は、置換基を有する炭素数2〜20のアルキル基を表す。Arは、2価の芳香族基を表す。(m+1)は、同一又は異なって、芳香環に付加しているフッ素原子の数を表し、mは1〜4の整数である。)で表されるフッ素含有芳香族系化合物と、下記一般式(6);
H−X−Ar−X−H (6)
(式中、Arは、2価の芳香族基を表す。Xは、同一又は異なって、酸素原子又は硫黄原子を表す。)で表される化合物とを、塩基性触媒の存在下で重縮合する方法で製造されることが好ましい。
上記一般式(6)におけるAr、Xは、上記一般式(1)におけるAr、Xと同様である。
ここで、特に、上記一般式(1)におけるXが酸素原子であるフッ素含有芳香族系重合体を製造する場合には、上記一般式(6)で表される化合物としては、下記一般式(7);
HO−Ar−OH (7)
(式中、Arは、2価の芳香族基を表す。)で表されるジヒドロキシ化合物を用いることとなる。なお、上記一般式(7)におけるArは、上記一般式(1)におけるArと同様である。
このような、上記一般式(5)で表されるフッ素含有芳香族系化合物と、ジヒドロキシ化合物とを、塩基性触媒存在下に重縮合する工程を含むフッ素含有芳香族系重合体の製造方法もまた、本発明の一つである。
【0032】
上記製造方法は、上記重縮合工程を含む限り、その他の工程を含んでいてもよい。また、上記重縮合工程は、フッ素含有芳香族系化合物、ジヒドロキシ化合物、塩基性触媒を含んで行われる限り、溶媒等その他の成分を含んで行われてもよく、重縮合工程に供される各成分は、それぞれ1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0033】
上記フッ素含有芳香族系化合物は、上記一般式(5)で表される化合物であるが、上記一般式(5)におけるR、R、Ar、及び、mは、上記一般式(1)と同様である。
また、上記ジヒドロキシ化合物は、上記一般式(5)で表されるフッ素含有芳香族系化合物と重縮合することができれば特に制限されないが、フェノール性水酸基を2個有するジフェノール化合物であることが好ましい。ジヒドロキシ化合物としてより好ましくは、下記一般式(8−1)〜(8−12)で表される化合物である。更に好ましくは、(8−2)、(8−3)、(8−4)、(8−7)、(8−9)、(8−12)であり、特に好ましくは、(8−3)である。
【0034】
【化6】

【0035】
上記重縮合工程におけるフッ素含有芳香族系化合物及びジヒドロキシ化合物の配合割合としては、フッ素含有芳香族系化合物のモル数と、ジヒドロキシ化合物のモル数とが等しい又はほぼ等しいことが好ましい。具体的には、上記一般式(7)で表されるジヒドロキシ化合物の使用量は、上記一般式(5)で表されるフッ素含有芳香族系化合物1モルに対して、0.8〜1.2モルとなるようにすることが好ましい。このような配合割合で反応を行うことにより、反応をより効率的に行うことができる。より好ましくは、0.9〜1.1モルである。
【0036】
上記重縮合工程において用いられる塩基性触媒(塩基化合物)としては、重縮合反応によって生成するフッ化水素を捕集することにより重縮合反応を促進するように作用することができる化合物であれば特に制限されないが、例えば、炭酸カリウム、炭酸リチウム及び炭酸ナトリウム等の炭酸金属塩や炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム及び炭酸水素金属塩が挙げられる。これらの中でも、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウムが好ましい。
【0037】
上記塩基性触媒の使用量としては、例えば、一般式(6)で表される化合物1モルに対して、塩基性触媒中の活性カチオン種が0.8〜10モルとなるようにすることが好ましい。より好ましくは、1.8〜4.0モルである。なお、塩基性触媒中の活性カチオン種とは、塩基性触媒中に含まれる、触媒として活性のあるカチオン種を表し、塩基性触媒中に含まれる金属カチオンをさす。例えば、炭酸カリウムの場合は、Kであり、炭酸水素ナトリウムの場合はNaである。
【0038】
上記重縮合工程は、必要に応じて、有機溶媒中で行うことができる。上記有機溶媒としては、特に制限されず適宜選択することができるが、例えば、N−メチルピロリドン(NMP)、N−エチルピロリドン等のN−アルキルピロリドンやN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、ベンゾニトリル、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒等の極性溶媒が好適に用いられる。これらの中でも、N−メチルピロリドン(NMP)やN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)を用いることがより好ましい。
また必要に応じて、トルエン等の芳香族系の溶媒やシクロヘキサン等を併用することもできる。トルエンや他の同様の溶媒を反応の初期段階で使用する際には、フェノキシド生成の際に副生する水を、溶媒の種類に関係なく溶媒との共沸物として除去することができる。
【0039】
上記有機溶媒の使用量としては、特に制限されず、重縮合反応が充分に進行するまで、反応容器中の反応系ができるだけ均一に攪拌することができるように適宜設定することができる。例えば、重縮合反応後のポリマー固形分が5〜50質量%となるようにすることが好ましい。より好ましくは、10〜40質量%となるような量で用いることが適当である。
【0040】
上記重縮合工程における重合温度としては、適宜設定することができるが、20〜250℃とすることが好ましい。より好ましくは、40〜200℃である。また、反応時間は、使用する原料や溶媒の種類及び割合、反応温度等の条件によって適宜選定すればよいが、好ましくは、1〜24時間である。
【0041】
上記重縮合工程における反応圧力としては、特に制限されず、常圧、加圧のいずれでもよいが、通常は常圧で好適に行うことができる。反応雰囲気としては、特に制限はないが、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
なお、上記重縮合工程においては、必要に応じてフッ素含有芳香族系重合体の生成を阻害しない範囲で他の成分、例えば、分子量調節剤、分岐剤や反応促進剤等を適宜添加又は共存させてもよい。
【0042】
本発明の製造方法としては、重縮合工程を行った後、通常行われる分離、精製法等の適当な後処理工程を行い、目的生成物であるフッ素含有芳香族系重合体を反応混合物から分離して、所望の精製割合の重合体として回収することができる。例えば、固体状に析出した重合体を、ブレンダー等を用いて粉砕し、次いで水やメタノール等の適当な洗浄液によって充分に洗浄し適宜乾燥する方法等により、重合体を得てもよい。或いは、有機溶媒−水の分液により水層に移動する副生塩を取り除いても良い。
【0043】
上述のように、本発明のフッ素含有芳香族系重合体の製造方法は、上記一般式(5)で表されるフッ素含有芳香族系化合物と、ジヒドロキシ化合物とを、塩基性触媒存在下に重縮合する工程を含むものであるが、当該製造方法において用いられる上記一般式(5)で表されるフッ素含有芳香族系化合物自体も本発明の一つである。
すなわち、下記一般式(5);
【0044】
【化7】

【0045】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、炭素数2〜20のアルキル基、又は、置換基を有する炭素数2〜20のアルキル基を表す。Arは、2価の芳香族基を表す。(m+1)は、同一又は異なって、芳香環に付加しているフッ素原子の数を表し、mは1〜4の整数である。)で表されるフッ素含有芳香族系化合物もまた、本発明の一つである。
【0046】
本発明のフッ素含有芳香族系化合物は、例えば、下記一般式(9);
【0047】
【化8】

【0048】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、炭素数2〜20のアルキル基、又は、置換基を有する炭素数2〜20のアルキル基を表す。Arは、2価の芳香族基を表す。)で表されるジアミン化合物と、フッ素置換安息香酸クロリドとを反応させることによって製造することができる。これらジアミン化合物、及び、フッ素置換安息香酸クロリドとしては、それぞれ1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
上記フッ素置換安息香酸クロリドは、安息香酸クロリドの芳香環にフッ素原子が置換した構造を有するものであり、例えば、2,3,4,5,6−ペンタフロオロ安息香酸クロリドを用いることが好ましい。
上記ジアミン化合物は、上記一般式(9)で表されるものであるが、上記一般式(9)におけるR、R、Arは、上記一般式(1)におけるR、R、Arと同様である。
上記ジアミン化合物の使用量としては、フッ素置換安息香酸クロリド1モルに対して、0.3〜0.6モルであることが好ましい。0.3モル未満では、フッ素置換安息香酸クロリドが過剰に残り、生産性の面で好ましくない。また、0.6モルよりも多い場合には、未反応のジアミン化合物が過剰に残り、生産面で好ましくない。より好ましくは、0.4〜0.5モルである。
【0050】
上記フッ素含有芳香族系化合物の製造においては、酸捕捉剤として塩基を用いてもよい。そのような塩基としては、例えば、ピリジン、トリエチルアミン等の有機アミン化合物が挙げられる。これらの中でも、ピリジン、トリエチルアミンが好ましい。
これら塩基としては、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
上記塩基の使用量としては、用いられるジアミン化合物100質量%に対して、100〜300質量%であることが好ましい。より好ましくは、150〜250質量%である。
【0051】
上記フッ素含有芳香族系化合物の製造は、必要に応じて、溶媒中で行われてもよい。使用できる溶媒としては、特に制限されず、適宜選択することができるが、例えば、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)、クロロホルムやジクロロメタン等のハロゲン系溶媒等が挙げられる。これらの中でも、ジメチルアセトアミド、ハロゲン系溶媒が好ましい。
これら溶媒としては、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
上記溶媒の使用量としては、用いられるフッ素置換安息香酸クロリドの濃度が、1〜50質量%となる範囲で用いることが好ましい。より好ましくは、5〜30質量%である。
また、上記フッ素含有芳香族系化合物の製造は、反応系を攪拌状態に保ちながら、30℃以下の温度で行われることが好ましい。
【0053】
上述の製造方法によって製造されるフッ素含有芳香族系化合物は、水を投入することにより粗生成物として得ることができる。これを必要に応じて、更にメタノールやエタノール等の有機溶媒で再結晶を行い白色結晶として得てもよい。
【0054】
上記一般式(9)で表されるジアミン化合物を製造する方法としては、例えば、下記非特許文献1に開示の方法が挙げられる。それによると、例えば、1,4−シクロヘキサジオンと、アルキルアミンとをエタノール中、空気をバブリングしながら反応させることで、ジアミン化合物としてN,N´−ジアルキル−p−フェニレンジアミンを製造することが可能である。
非特許文献1:L.T.Higham、K.Konno、J.L.Scott、C.R.Strauss、T.Yamaguchi、Green Chemistry(英国)、2007年、第9号、80−84頁
【0055】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体は、上述のような構造を有するために、耐熱性と撥水性とに優れた重合体であるが、このような重合体は、種々の溶媒に対して可溶性を有しているために、成膜することが可能なものであり、成膜して膜状とすることで、耐熱性と撥水性とを兼ね備えたフィルム(膜)として好適に用いることができるものである。このような、本発明のフッ素含有芳香族系重合体を含有する膜もまた、本発明の一つである。
【0056】
上記膜は、本発明のフッ素含有芳香族系重合体を含む限り、その用途に応じて適宜その他の成分を含有させた膜とすることができる。
上記膜は、単独で薄膜やフィルム等として用いられたり、基材上にコーティングして用いられたりすることができる。
【0057】
上記基材としては、用いられる用途に応じて適宜選択することができるが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、Si基板等が挙げられる。
【0058】
上記膜は、本発明のフッ素含有芳香族系重合体を成膜することにより製造することができる。上記成膜方法としては、特に制限されず、例えば、溶液キャスト法(流延法)、スピンコーティング(回転塗布法)、ロールコーティング、スプレイコーティング、バーコーティング、リップコーティング、ダイコーティング、フレキソ印刷及びディップコーティング等の通常の手法を用いて、フッ素含有芳香族系重合体を基材に塗布し、その後加熱乾燥処理を行う方法などが挙げられる。
【0059】
上記膜は、更にアニール処理を施すことによって、更に高い撥水性を有する膜(アニール処理膜)とすることができる。通常の加熱乾燥においては、本発明のフッ素含有芳香族系重合体におけるアミド基のN−H結合に置換しているアルキル基(すなわち、一般式(1)におけるR及びR)の一部又は全部が膜の内部に入り込んでしまっている可能性がある。このような膜にアニール処理を施すことによって、疎水性である当該アルキル基が膜の表面に偏在化し、膜の撥水性が向上するものと考えられる。上記アニール処理は、上記膜を基材シートに挟んで一定時間加熱することにより行うことができる。
【0060】
上記アニール処理における加熱温度としては、アニール処理の効果が充分発揮されるようにするために、本発明のフッ素含有芳香族系重合体におけるアミド基のN−H結合に置換しているアルキル基の分子運動を活発にし、アニール処理前には膜の内部に存在している当該アルキル基を膜表面に偏在させることができる温度であればよく、そのような温度範囲において適宜設定することができる。具体的には、90〜350℃で行われることが好ましい。より好ましくは、100〜250℃である。
このように90〜350℃でアニール処理することにより得られる膜もまた、本発明の好適な実施形態の一つである。また、本発明のフッ素含有芳香族系重合体を含有する膜を、90〜350℃でアニール処理する膜の製造方法もまた、本発明の一つである。
【0061】
上記アニール処理における加熱時間としては、膜に含有されるフッ素含有芳香族系重合体の種類や、アニール処理の加熱温度等に応じて、適宜設定することができるが、例えば、0.5〜6時間が好ましい。より好ましくは、0.7〜3時間である。
【0062】
上記アニール処理に用いる基材シートとしては、上述したように、アニール処理により疎水性のアルキル基を膜表面に引き出すことから、疎水性の高い基材が好ましく、耐熱性との兼ね合いを考慮すると、PTFEやPFA等を用いたフッ素系フィルム基材がより好ましい。
【0063】
上記膜は、撥水性に優れたものであるが、上記膜の水に対する接触角としては、90°以上であることが好ましい。水に対する接触角がこのような範囲であることによって、撥水性に優れた膜として評価することができるものとなり、撥水性の求められる用途に好適に用いることができる。より好ましくは、93°以上であり、更に好ましくは、95°以上であり、特に好ましくは、99°以上である。
そして、上記アニール処理膜は、アニール処理により更に撥水性に優れたものとなっているが、その水に対する接触角としては、100°以上であることが好ましい。
水に対する接触角は、接触角計CA−D(製品名、協和界面科学社製)を用いて測定することができる。
【0064】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体は、上述したように、耐熱性と撥水性とに優れているものであることから、例えば、離形フィルムや複写機用転写ベルトといった用途への応用が期待されるものである。
【0065】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体を複写機用転写ベルトとして用いる場合、例えば、本発明のフッ素含有芳香族系重合体、カーボンブラック、分散剤、及び、有機溶媒等を含む組成物を、本発明の膜を製造するのと同様にして成膜し、それによって得られる膜から、複写機用転写ベルトを製造することができる。
【発明の効果】
【0066】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体は、上述の構成よりなり、耐熱性と撥水性とに優れるために、耐熱性撥水剤等の耐熱撥水材料として好適に用いることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、合成例1で得られたC4−BPAのIRスペクトル図である。
【図2】図2は、合成例1で得られたC4−BPAのNMRスペクトル図である。
【図3】図3は、合成例2で得られたC6−BPAのIRスペクトル図である。
【図4】図4は、合成例2で得られたC6−BPAのNMRスペクトル図である。
【図5】図5は、合成例3で得られたC8−BPAのIRスペクトル図である。
【図6】図6は、合成例3で得られたC8−BPAのNMRスペクトル図である。
【図7】図7は、実施例1で得られたC4−PAEのIRスペクトル図である。
【図8】図8は、実施例2で得られたC6−PAEのIRスペクトル図である。
【図9】図9は、実施例3で得られたC8−PAEのIRスペクトル図である。
【図10】図10は、比較例1で得られたC0−PAEの粘弾性測定結果を表すチャート図である。
【図11】図11は、実施例1で得られたC4−PAEの粘弾性測定結果を表すチャート図である。
【図12】図12は、実施例2で得られたC6−PAEの粘弾性測定結果を表すチャート図である。
【図13】図13は、実施例3で得られたC8−PAEの粘弾性測定結果を表すチャート図である。
【図14】図14は、実施例1〜3で得られたポリマーから作製される膜に関して、アニール処理前、及びアニール処理一定時間後における水に対する接触角の変移を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0068】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0069】
以下の合成例において得られた化合物、又は、実施例において得られた重縮合物の、赤外分光吸光度測定(IRスペクトル測定)、NMRスペクトル測定は、それぞれ下記の測定条件により行った。
<赤外分光吸光度測定>
赤外分光吸光度測定は、JASCO社製FT/IR−400赤外分光光度計を用いて行った。
<NMRスペクトル測定>
NMRスペクトル測定は、下記装置を用いて測定した。
NMR装置:JOEL社製AL300 SC−NMR,300MHz(H)
【0070】
(合成例1;1,4−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンズブチルアミド)ベンゼン(C4−BPA)の合成)
1,4−シクロヘキサジオン 0.28gとブチルアミン 0.37gをエタノール中、空気をバブリングしながら25℃で4時間攪拌した。エタノールを減圧留去し、得られた固体を少量のアセトンに溶かした。その後32%塩酸を10滴加え、この溶液を濾過した。濾液に水酸化ナトリウムを加えて、析出した固体をジエチルエーテルに溶解させ、水洗した。ジエチルエーテルを留去し、粗生成物を得た。メタノールで再結晶し、N,N’−ジブチル−p−フェニレンジアミンを得た。
ジメチルアセトアミド(以下、DMAc) 33mlに、N,N’−ジブチル−p−フェニレンジアミン 2.20g、ピリジン 1.58gを溶解させた。この溶液を−5℃に冷却し、撹拌下2,3,4,5,6−ペンタフルオロ安息香酸クロリド(以下、PFBC) 4.61gをゆっくりと滴下した。0℃で2時間、25℃で12時間反応した。反応溶液を多量の水中へ投入し、沈殿物を濾別、乾燥した。メタノールで再結晶し、目的物であるC4−BPA 2.19g(収率36%)を得た。
得られたC4−BPAの赤外分光吸光度測定(IRスペクトル測定)、及び、NMRスペクトル測定を行った。図1に、C4−BPAのIRスペクトル測定結果を、図2に、C4−BPAのNMRスペクトル測定結果を示す。
【0071】
(合成例2;1,4−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンズヘキシルアミド)ベンゼン(C6−BPA)の合成)
ブチルアミン 0.37gをヘキシルアミン 0.51gに変更した以外は合成例1と同様にして、N,N’−ジヘキシル−p−フェニレンジアミンを得た。そして、N,N’−ジヘキシル−p−フェニレンジアミン 2.76gを、合成例1と同様の方法でPFBCと反応させてC6−BPA 1.66g(収率25%)を得た。
得られたC6−BPAの赤外分光吸光度測定(IRスペクトル測定)、及び、NMRスペクトル測定を行った。図3に、C6−BPAのIRスペクトル測定結果を、図4に、C6−BPAのNMRスペクトル測定結果を示す。
【0072】
(合成例3;1,4−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンズオクチルアミド)ベンゼン(C8−BPA)の合成)
ブチルアミン 0.37gをオクチルアミン 0.64gに変更した以外は合成例1と同様にして、N,N’−ジオクチル−p−フェニレンジアミンを得た。そして、N,N’−ジオクチル−p−フェニレンジアミン 3.33gを、合成例1と同様の方法でPFBCと反応させてC8−BPA 1.51g(収率21%)を得た。
得られたC8−BPAの赤外分光吸光度測定(IRスペクトル測定)、及び、NMRスペクトル測定を行った。図5に、C8−BPAのIRスペクトル測定結果を、図6に、C8−BPAのNMRスペクトル測定結果を示す。
【0073】
(合成例4;1,4−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンズアミド)ベンゼン(C0−BPA)の合成)
特開2003−327690号に記載の方法に準じて、C0−BPAを作製した。
【0074】
以下の実施例において得られた重縮合物の各種物性評価は、それぞれ下記の測定条件により行った。
<粘度測定>
粘度(ηsp/C)は、オストワルド粘度計を使い、DMAc中濃度0.5g/dl、温度25℃で測定を行った。
<熱的特性評価>
熱的特性評価は、示差走査型熱量計(製品名「DSC−7」、パーキンエルマー社製)、及び、熱重量測定計(製品名「TGA−7」、パーキンエルマー社製)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定を行った。
<溶解性の評価>
得られたポリマーを0.2g/dlの濃度で各種溶媒に投入し、室温における溶解性を調べた。
評価基準:
+・・・溶媒に溶解した。
−・・・溶媒に溶解しなかった。
<撥水性>
得られたポリマーから溶媒キャスト法によりポリマーフィルムを作製し、接触角計CA−D(製品名、協和界面科学社製)を用いて、水、及び、デカンに対する接触角を測定した。
<粘弾性>
得られたポリマーからフィルムを作製し、粘弾性装置Rheovibron DDV−11−EP(製品名、Orientec社製)を用いて、測定周波数110Hz、振幅16μm、静的張力10gf、昇温速度2℃/minの測定条件で測定した。
【0075】
(実施例1;C4−BPAとビスフェノールAF(BisAF)との重合)
還流管とDean−Starkトラップを取り付け絶乾した10mlナスフラスコに、2,2−ジフェニル−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF(BisAF)) 0.42g(1.24mmol)、炭酸カリウム 0.17g(1.24mmol)、N−メチルピロリドン(NMP) 3.5ml、トルエン 3.5mlを入れた。窒素気流下、攪拌しながら180℃で2時間共沸脱水を行い、BisAFのカリウム塩を合成した。量論量の水が出てきたら、トルエンを留去した。所定温度(表1に記載の重合温度)になった後、BisAFと等モル量のC4−BPA 0.75g(1.24mmol)を加え、攪拌しながら所定時間(表1に記載の重合時間)重合した。重合終了後、反応溶液を1%酢酸水溶液中に投入し、水とメタノールで洗浄後、ポリマーを濾別し、50℃で一晩乾燥させた。DMAcに溶解し、メタノールで再沈澱を行い精製し、C4−BPAとBisAFとの重縮合物(C4−PAE)を得た。得られたC4−PAEの各種物性評価を行った。また、得られたC4−PAEの赤外分光吸光度測定(IRスペクトル測定)を行った。図7に、C4−PAEのIRスペクトル測定結果を示す。
【0076】
(実施例2;C6−BPAとビスフェノールAF(BisAF)との重合)
C4−BPA 0.75g(1.24mmol)を、C6−BPA 0.82g(1.24mmol)に変更した以外は実施例1と同様にして、C6−BPAとBisAFとの重縮合物(C6−PAE)を得た。得られたC6−PAEの各種物性評価を行った。また、得られたC6−PAEの赤外分光吸光度測定(IRスペクトル測定)を行った。図8に、C6−PAEのIRスペクトル測定結果を示す。
【0077】
(実施例3;C8−BPAとビスフェノールAF(BisAF)との重合)
C4−BPA 0.75g(1.24mmol)を、C8−BPA 0.89g(1.24mmol)に変更した以外は実施例1と同様にして、C8−BPAとBisAFとの重縮合物(C8−PAE)を得た。得られたC8−PAEの各種物性評価を行った。また、得られたC8−PAEの赤外分光吸光度測定(IRスペクトル測定)を行った。図9に、C8−PAEのIRスペクトル測定結果を示す。
【0078】
(比較例1;C0−BPAとビスフェノールAF(BisAF)との重合)
特開2003−327690号に記載の方法に準じて、C0−BPAとBisAFとの重縮合物(C0−PAE)を作製した。
実施例1〜3の、重合条件、収率、及び、生成重縮合物の粘度を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
また、実施例1〜3及び比較例1で得られた重縮合物(ポリマー)の熱的特性評価の結果を表2に示す。
【0081】
【表2】

【0082】
なお、表2中の、「Tg」はガラス転移温度を表し、示差走査型熱量計により測定された値である。「10% weight loss」は、10%重量減少温度を表し、また、「Char yield」は、600℃での炭素残渣率を表しており、いずれも熱重量測定計により測定された値である。
表2の結果から、窒素雰囲気下、10%重量減少温度はいずれのポリマーにおいても400℃付近と高い値を示した。600℃での炭素残渣率も50%付近と高い値を示し、いずれのポリマーも耐熱性に優れていることを確認した。また、得られたポリマーはいずれも融点を持たず非晶性であり、ガラス転移温度(Tg)は190℃以上と高い値を示した。
【0083】
実施例1〜3で得られたポリマーの溶解性試験の結果を表3に示す。
【0084】
【表3】

【0085】
なお、表3中の略号は、以下のとおりである。
SO:硫酸
NMP:N−メチルピロリドン
DMAc:ジメチルアセトアミド
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド
THF:テトラヒドロフラン
CHCl:クロロホルム
表3の結果から、実施例1〜3で得られたポリマーは、硫酸だけでなく、極性非プロトン性溶媒であるNMPやDMAcにも可溶であることが確認された。
【0086】
実施例1〜3及び比較例1で得られたポリマーの撥水性を評価するために、接触角を測定した結果を表4に示す。
【0087】
【表4】

【0088】
表4の結果から、水との接触角は、アルキル鎖を有しないC0−PAEでは98.1°であったのに対し、アルキル鎖を導入した系(実施例1〜3)ではアルキル鎖が長くなるにつれ、99.2°から104.3°と接触角が大きくなり、撥水性が増大することを確認した。
【0089】
比較例1及び実施例1〜3で得られたポリマーの粘弾性を測定した結果を図10〜13に示す。図10〜13の結果から、比較例1及び実施例1〜3で得られたいずれのポリマーにおいても、ジフェニルエーテル骨格を有する芳香族ポリマーに特徴的な−50℃付近でのエーテルのねじれ運動による分散が見られた。また、ガラス転移温度に対応する分散も検出された。
また、C4−PAE、C6−PAE、C8−PAEのアルキル鎖については、−90℃に末端メチル基の局所運動による分散と50℃〜90℃にかけて鎖全体の熱運動による分散が観測された。
なお、図10〜13中、E´は、貯蔵弾性率を、E´´は、損失弾性率を、tanδは、損失角正接をそれぞれ表している。また、αはガラス転移温度に対応する分散を、γはエーテルのねじれ運動による分散を表している。
【0090】
(実施例4;アニール処理膜の作製)
フィルム表面の分子鎖は、内部の分子鎖と環境が違うために自由度が大きい。その為、アルキル鎖をフィルム表面に偏在させることによって、更なる撥水性の向上が期待できる。ここで上述したように、粘弾性測定の結果より、側鎖のアルキル鎖の分子運動が50〜90℃に観測されることから、実施例1〜3で得られた各ポリマーをキャスト成膜して得られるフィルムをテフロン(登録商標)シートで挟み、アルキル鎖の緩和温度以上である120℃で1時間アニール処理を行った。
アニール処理前後、及び、アニール処理1日後、5日後に、接触角計CA−D(製品名、協和界面科学社製)を用いて、水との接触角を測定した。結果を図14に示す。アニール処理を行うことで、水との接触角がC4−PAEでは99°から103°、C6−PAEでは101°から104°、C8−PAEでは104°から106°へ増大した。また、アニール処理1日後及び5日後における水との接触角測定の結果、アニ−ル処理をした後に経時的に僅かに接触角は低下したが、5日後においても高い撥水性を維持することが分かった。なお、アニール処理による撥水性の向上効果は、側鎖のアルキル鎖が短い方がより顕著に見られることが確認される。これは、側鎖のアルキル鎖が長い場合には、アニール処理前から既にフィルム表面に存在するアルキル鎖が多いのに対して、側鎖のアルキル基が短い場合には、ほとんどのアルキル鎖がアニール処理前には膜の内部に存在しアニール処理によって初めてフィルム表面に偏在してくるためであると考えられる。
【0091】
実施例及び比較例の結果から、以下のことが分かった。
本発明のフッ素含有芳香族系重合体が、耐熱性と撥水性とに優れたポリマーであることが実証された。そして、そのようなポリマーから作製された膜に対して、更に、アニール処理を施すことにより、更に膜の撥水性を高めることができることが分かった。また、そのアニール処理後の膜の撥水性はアニール処理5日後においても高い状態を維持することが分かった。
なお、上記実施例においては、フッ素含有芳香族系重合体として特定のものが用いられているが、ポリマーが耐熱性と撥水性とに優れたものとなる機構は、本発明におけるフッ素含有芳香族系重合体を用いた場合には全て同様である。
従って、上記実施例の結果から、本発明の技術的範囲全般において、また、本明細書において開示した種々の形態において本発明が適用でき、有利な作用効果を発揮することができると言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1);
【化1】

(式中、R及びRは、同一又は異なって、炭素数2〜20のアルキル基、又は、置換基を有する炭素数2〜20のアルキル基を表す。Ar及びArは、同一又は異なって、2価の芳香族基を表す。Xは、同一又は異なって、酸素原子又は硫黄原子を表す。mは、同一又は異なって、芳香環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。)で表される繰り返し単位を有することを特徴とするフッ素含有芳香族系重合体。
【請求項2】
前記フッ素含有芳香族系重合体は、一般式(1)におけるmが4であることを特徴とする請求項1に記載のフッ素含有芳香族系重合体。
【請求項3】
前記フッ素含有芳香族系重合体は、一般式(1)におけるR及びRが、同一又は異なって、炭素数3〜15のアルキル基、又は、炭素数3〜15のフッ素化アルキル基であり、Arがフェニレン基であり、Xが酸素原子であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフッ素含有芳香族系重合体。
【請求項4】
フッ素含有芳香族系重合体を製造する方法であって、
該製造方法は、一般式(5);
【化2】

(式中、R及びRは、同一又は異なって、炭素数2〜20のアルキル基、又は、置換基を有する炭素数2〜20のアルキル基を表す。Arは、2価の芳香族基を表す。(m+1)は、同一又は異なって、芳香環に付加しているフッ素原子の数を表し、mは1〜4の整数である。)で表されるフッ素含有芳香族系化合物と、ジヒドロキシ化合物とを、塩基性触媒存在下に重縮合する工程を含むことを特徴とするフッ素含有芳香族系重合体の製造方法。
【請求項5】
一般式(5);
【化3】

(式中、R及びRは、同一又は異なって、炭素数2〜20のアルキル基、又は、置換基を有する炭素数2〜20のアルキル基を表す。Arは、2価の芳香族基を表す。(m+1)は、同一又は異なって、芳香環に付加しているフッ素原子の数を表し、mは1〜4の整数である。)で表されることを特徴とするフッ素含有芳香族系化合物。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載のフッ素含有芳香族系重合体を含有することを特徴とする膜。
【請求項7】
前記膜は、90〜350℃でアニール処理することにより得られる膜であることを特徴とする請求項6に記載の膜。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載のフッ素含有芳香族系重合体を含有する膜を、90〜350℃でアニール処理することを特徴とする膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−255057(P2012−255057A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127634(P2011−127634)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】