説明

フッ素含有芳香族系重合体

【課題】耐熱性、低吸湿性に優れるだけでなく、耐溶剤性、基材への密着性にも優れた架橋体の塗膜をより低温の加熱で形成することができるフッ素含有芳香族系重合体を提供する。
【解決手段】特定の構造のフッ素化芳香族化合物由来の構成単位と不飽和炭化水素基を少なくとも1つ有するビスフェノール化合物由来の構成単位とを含むフッ素含有芳香族系重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有芳香族系重合体に関する。より詳しくは、電子材料分野等の用途に用いられるフッ素含有芳香族系重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素含有芳香族系重合体は、フッ素を含有していることに起因して吸水性が低く、また耐熱性等の特性に優れるものであることから、各種フィルム、燃料電池用電解質膜やエンジニアリングプラスチック等の原料として幅広い産業分野において利用されている。各種工業用材料の高機能化、高性能化の要求に伴い、近年、様々な産業分野において、これらフッ素含有芳香族系重合体等の含フッ素化合物が注目されているが、更に幅広い分野へ利用が拡大するためには、耐熱性や低吸湿性に加え、各種分野毎に要求される特性をも備えたものを開発することが求められる。
【0003】
耐熱性や低吸湿性に加え、これら以外の特性にも優れたフッ素含有芳香族系重合体を開発することを目的として架橋性官能基を有するフッ素含有芳香族系重合体や、その重合体を架橋して得られる架橋体について検討されている。
従来の架橋性官能基を有するフッ素含有芳香族系重合体として、電気・電子材料等として用いられるフッ素化シアノアリールエーテル重合体であって、シアノ基が結合したベンゼン環に反応性不飽和基が結合した構造のものや、その重合体を更に架橋させることによって得られる架橋体が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、フッ素が付加したベンゼン環を重合体の主鎖骨格に含むポリエーテルケトンであって、主鎖に架橋基が結合した構造を有するもの、及び、その重合体を架橋することにより得られる架橋体が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−10796号公報
【特許文献2】特開2002−322271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、架橋性官能基を有するフッ素含有芳香族系重合体が検討されている。しかしながら、特許文献1に開示のフッ素化シアノアリールエーテル重合体は、溶剤溶解性を有し、架橋後の塗膜は耐溶剤性が向上されたものであるが、更に基材への密着性により優れた塗膜を形成することができる重合体とする工夫の余地がある。また、特許文献2の重合体は、架橋反応を進行させるためには、270〜280℃に加熱することが必要となるため、より低温でも架橋体を形成することができるものとする工夫の余地がある。
このように従来の架橋性官能基を有するフッ素含有芳香族系重合体は、塗膜の耐溶剤性と密着性とに共に優れたものとすることや、架橋体の形成しやすさの点に課題を有している。低吸水性であり、絶縁性の高いフッ素含有芳香族系重合体を更に耐溶剤性に優れたものとすることができれば、膜の積層が可能となるため、絶縁膜用途への応用が期待でき、更に塗膜の基材への密着性に優れたものとすることができれば、膜の剥がれが抑制された良好な塗膜とすることができる。また、このような塗膜をより低温の加熱で形成することができれば作業効率の上から好ましい。したがって、このような要求を満たすことができるフッ素含有芳香族系重合体が求められている。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、耐熱性、低吸湿性に優れるだけでなく、耐溶剤性、基材への密着性にも優れた架橋体の塗膜をより低温の加熱で形成することができるフッ素含有芳香族系重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、耐溶剤性、基材への密着性に優れた架橋体の塗膜を形成することができるフッ素含有芳香族系重合体について種々検討したところ、フッ素含有芳香族系重合体を、不飽和炭化水素基を有するビスフェノール化合物由来の構造と特定のフッ素含有芳香族系化合物由来の構造とを重合体の主鎖骨格に有するものとすると、そのフッ素含有芳香族系重合体から得られる架橋体の塗膜が耐熱性、低吸湿性に加え、耐溶剤性にも優れ、また、基材への密着性にも優れた柔軟性のある塗膜となることを見いだした。また、このフッ素含有芳香族系重合体は、各種溶剤への溶解性に優れ、塗膜を容易に形成することができるとともに、200℃程度の温度でも架橋し、従来のフッ素含有芳香族系重合体架橋体に比べてより低い加熱温度で耐溶剤性等に優れた架橋体の塗膜を形成することができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、下記一般式(1);
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Rは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、アルコキシ基、若しくは、アルキルアミノ基、又は、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、アリールアミノ基、若しくは、アリールチオ基を表す。R及びRは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基又は水素原子を表し、ベンゼン環に付加するR及びRは、それぞれ1つであってもよく複数であってもよい。ベンゼン環に付加するR及びRの少なくとも1つは、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基である。Xは、下記(3−1)〜(3−10)の官能基のいずれかである。)で表される繰り返し単位及び/又は下記一般式(2);
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、Xは、Xは、下記(3−1)〜(3−10)の官能基のいずれかである。Yは2価の有機基又は直接結合を表す。R及びRは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基又は水素原子を表し、ベンゼン環に付加するR及びRは、それぞれ1つであってもよく複数であってもよい。ベンゼン環に付加するR及びRの少なくとも1つは、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基である。m及びm’は、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、0〜4の整数であり、m+m’は1以上である。)で表される繰り返し単位を有することを特徴とするフッ素含有芳香族系重合体
【0013】
【化3】

【0014】
である。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0015】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体は、下記一般式(1);
【0016】
【化4】

【0017】
(式中、Rは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、アルコキシ基、若しくは、アルキルアミノ基、又は、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、アリールアミノ基、若しくは、アリールチオ基を表す。R及びRは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基又は水素原子を表し、ベンゼン環に付加するR及びRは、それぞれ1つであってもよく複数であってもよい。ベンゼン環に付加するR及びRの少なくとも1つは、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基である。Xは、下記(3−1)〜(3−10)の官能基のいずれかである。)で表される繰り返し単位及び下記一般式(2);
【0018】
【化5】

【0019】
(式中、Xは、下記(3−1)〜(3−10)の官能基のいずれかである。Yは2価の有機基又は直接結合を表す。R及びRは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基又は水素原子を表し、ベンゼン環に付加するR及びRは、それぞれ1つであってもよく複数であってもよい。ベンゼン環に付加するR及びRの少なくとも1つは、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基である。m及びm’は、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、0〜4の整数であり、m+m’は1以上である。)
【0020】
【化6】

【0021】
で表される繰り返し単位の少なくとも一方を有するものであり、これらの両方を有するものであってもよい。また、一般式(1)で表される繰り返し単位や一般式(2)で表される繰り返し単位に該当する繰り返し単位を1種有していてもよく、2種以上有していてもよい。
また本発明のフッ素含有芳香族系重合体は、上記一般式(1)で表される繰り返し単位及び/又は一般式(2)で表される繰り返し単位を有する限り、その他の繰り返し単位を有していてもよい。本発明のフッ素含有芳香族系重合体が2種類以上の繰り返し単位により構成されるものである場合、ブロック状、ランダム状等のいずれの形態であってもよい。
本発明のフッ素含有芳香族系重合体が一般式(1)で表される繰り返し単位及び一般式(2)繰り返し単位以外の、その他の繰り返し単位を有するものである場合、フッ素含有芳香族系重合体を構成する繰り返し単位全体100モル%に対して、一般式(1)で表される繰り返し単位及び一般式(2)繰り返し単位の合計が30〜100モル%であることが好ましい。より好ましくは、50〜100モル%であり、更に好ましくは、70〜100モル%である。
【0022】
上記一般式(1)で表される繰り返し単位、及び、上記一般式(2)で表される繰り返し単位は、ともに、フッ素化芳香族化合物由来の構成単位と不飽和炭化水素基を少なくとも1つ有するビスフェノール化合物由来の構成単位とを含むものである。このような繰り返し単位を有するフッ素含有芳香族系重合体は、フッ素化芳香族化合物由来の構成単位を有することに起因して低吸水性、絶縁性に優れるものである。また、このフッ素含有芳香族系重合体は、溶剤溶解性に優れ、溶剤に溶解した溶液を塗布することにより容易に塗膜を形成することができるものである。そして、このような構造の重合体において、ビスフェノール化合物由来の構成単位に付加した不飽和炭化水素基で架橋構造を形成することで得られる架橋体の塗膜は、耐溶剤性に優れたものであるだけでなく柔軟性も有し、基材への密着性にも優れたものである。
なお、本発明において、ビスフェノール化合物とは、2つのフェノールが2価の連結基を介して結合した構造を有する化合物を意味する。
【0023】
上記一般式(1)で表される繰り返し単位は、フッ素化ベンゾニトリル由来の構成単位とビスフェノール化合物由来の構成単位とから構成される繰り返し単位である。ビスフェノール化合物由来の構成単位において、R及びRは、ベンゼン環にそれぞれ1〜4つ付加している。また、R及びRのうち少なくとも1つは置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基である。すなわち、ビスフェノール化合物由来の構成単位に含まれる2つのベンゼン環のうち少なくとも一方に、置換基を有していてもよい炭素数2〜7 の不飽和炭化水素基が少なくとも1つ付加している限り、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基が2つ以上付加していてもよく、2つ以上付加している場合には、同じベンゼン環に付加していてもよく、異なるベンゼン環に付加していてもよい。
これらの中でも、R及びRのそれぞれの少なくとも1つが置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基であること、すなわち、ビスフェノール化合物由来の構成単位に含まれる2つのベンゼン環の両方に置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基が少なくとも1つずつ付加した構造が好ましい。より好ましくは、2つのベンゼン環の両方に置換基を有していてもよい炭素2〜7の不飽和炭化水素基が1つずつ付加した構造である。
上記一般式(1)で表される繰り返し単位において、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基が付加する位置は特に制限されないが、ベンゼン環を構成する炭素原子のうち、酸素と結合した炭素原子に対してオルト位の炭素に付加していることが好ましい。
【0024】
上記一般式(1)、一般式(2)で表される繰り返し単位において、R及びRは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基又は水素原子を表すが、不飽和炭化水素基は、炭素数2〜4のものが好ましい。
また不飽和炭化水素基としては、ビニル基、アルケニル基、アルキニル基等が好ましい。より好ましくは、アルケニル基である。
すなわち、R、Rの少なくとも1つは、置換基を有していてもよい炭素数1〜3のアルケニル基であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0025】
上記アルケニル基としては、アリル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、2−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、1−メチル−1−ブテニル基、1−メチル−2−ブテニル基、1−メチル−3−ブテニル基、2−メチル−1−ブテニル基、2−メチル−2−ブテニル基、2−メチル−3−ブテニル基、3−メチル−1−ブテニル基、3−メチル−2−ブテニル基、3−メチル−3−ブテニル基、1−エチル−1−プロペニル基、1−エチル−2−プロペニル基、2−エチル−1−プロペニル基、2−エチル−2−プロペニル基が好ましい。これらの中でも、アリル基、2−メチル−2−プロペニル基がより好ましい。最も好ましくは、アリル基である。
【0026】
上記一般式(1)、一般式(2)で表される繰り返し単位において、Xは、上記式(3−1)〜(3−10)で表される官能基のいずれかであるが、その中でも(3−1)、(3−2)、(3−5)、(3−9)のいずれかが好ましい。より好ましくは、(3−1)、(3−2)である。
【0027】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体の好ましい構造の一例を具体的に現すと、下記一般式(4);
【0028】
【化7】

【0029】
(式中、Rは、上記一般式(1)と同様である。)で表される繰り返し単位及び/又は下記一般式(5);
【0030】
【化8】

【0031】
(式中、Y、m及びm’は、上記一般式(2)と同様である。)で表される繰り返し単位を有するフッ素含有芳香族系重合体である。
【0032】
上記一般式(1)、一般式(4)で表される繰り返し単位において、Rは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、アルコキシ基、若しくは、アルキルアミノ基、又は、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、アリールアミノ基、若しくは、アリールチオ基を表す。
上記炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基等が好適である。
上記炭素数1〜12のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基、フルフリルオキシ基、アリルオキシ基等が好適である。
上記炭素数1〜12のアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、プロピルアミノ基、n−ブチルアミノ基、sec−ブチルアミノ基、tert−ブチルアミノ基等が好適である。
【0033】
上記炭素原子数6〜20のアリールオキシ基としては、フェノキシ基、ベンジルオキシ基、ヒドロキシ安息香酸及びそのエステル類(例えば、メチルエステル、エチルエステル、メトキシエチルエステル、エトキシエチルエステル、フルフリルエステル及びフェニルエステル等)由来の基、ナフトキシ基、o−、m−又はp−メチルフェノキシ基、o−、m−又はp−フェニルフェノキシ基、フェニルエチニルフェノキシ基、クレソチン酸及びそのエステル類由来の基等が好適である。
上記炭素原子数6〜20のアリールアミノ基としては、アニリノ基、o−、m−又はp−トルイジノ基、1,2−又は1,3−キシリジノ基、o−、m−又はp−メトキシアニリノ基、アントラニル酸及びそのエステル類由来の基等が好適である。
上記炭素原子数6〜20のアリールチオ基としては、フェニルチオ基、フェニルメタンチオ基、o−、m−又はp−トリルチオ基、チオサリチル酸及びそのエステル類由来の基等が好適である。
上記Rとしては、これらのうち、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアミノ基が好ましい。より好ましくは、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基である。ただし、Rには、2重結合若しくは3重結合が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。
【0034】
上記Rおける置換基としては、上述のような炭素数1〜12のアルキル基;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;シアノ基、ニトロ基、カルボキシエステル基等が好適である。また、これら置換基の水素がハロゲン化されていてもよいし、されていなくてもよい。これらの中でも、好ましくは、ハロゲン原子、水素がハロゲン化されていてもよいし、されていなくてもよいメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基及びカルボキシエステル基である。
上記R、Rおける置換基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;シアノ基、ニトロ基、カルボキシエステル基等が好適であり、カルボキシエステル基の水素がハロゲン化されていてもよいし、されていなくてもよい。これらの中でも、好ましくは、ハロゲン原子、水素がハロゲン化されていてもよいし、されていなくてもよいカルボキシエステル基である。
【0035】
上記一般式(2)、一般式(5)におけるYは、2価の有機基又は直接結合を表すが、2価の有機基としては、C、S、N、及び/又は、O原子を含むことが好ましい。より好ましくは、カルボニル基、メチレン基、スルフィド基、スルホキサイド基、スルホン基、複素環等を含有することである。更に好ましくは、下記一般式(6−1)〜(6−17)で表される基のいずれかであることである。中でも好ましくは、(6−1)、(6−10)、(6−11)、(6−13)及び(6−14)で表される基のいずれかである。
【0036】
【化9】

【0037】
上記(6−1)〜(6〜17)中、Zは、芳香族炭化水素基を含む2価の有機基を示す。なかでも、ベンゼン環を含む2価の有機基であることが好ましい。例えば、下記(7−1)〜(7−19)である。
【0038】
【化10】

【0039】
上記(7−1)〜(7−19)中、Y、Y、Y及びYにおける置換基として、例えば、置換基を有してもよいアルキル基、アルコキシル基が好適である。より好ましくは、炭素原子数1〜30であって、置換基を有してもよいアルキル基、アルコキシル基である。
これらの中でもZとしては、下記(8−1)〜(8〜20)がより好ましい。
【0040】
【化11】

【0041】
上記一般式(2)、一般式(4)で表される繰り返し単位において、m及びm’は、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、0〜4の整数であるが、1〜4であることが好ましい。より好ましくは、2〜4であることであり、更に好ましくは、4である。すなわち、m及びm’が4であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数が多いと、得られる重合体がより吸水性の低いものとなる。
【0042】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体において、上記一般式(1)で表される繰り返し単位及び/又は一般式(2)で表される繰り返し単位の繰り返し数pは、1〜3,000の範囲が好ましく、1〜1,000の範囲がより好ましい。更に好ましくは、1〜500の範囲である。
本発明のフッ素含有芳香族系重合体が上記一般式(1)で表される繰り返し単位及び一般式(2)で表される繰り返し単位の両方を有する場合、これらの繰り返し単位の繰り返し数の合計がこのような値であることが好ましい。
【0043】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体は、重量平均分子量が3,000〜200,000の範囲にあることが好ましい。重量平均分子量がこのような範囲にあると、架橋反応時の加熱により重合体の主鎖骨格が動きやすく、架橋が効率的におこるため好ましい。また、重量平均分子量が大きすぎると、主鎖骨格が固くなり、フッ素含有芳香族系重合体から得られる塗膜が固脆いものとなるおそれがある。より好ましくは、5,000〜100,000であり、更に好ましくは、7,000〜80,000である。
重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、実施例に記載の条件で測定することができる。
【0044】
本発明はまた、不飽和炭化水素基を有するビスフェノール化合物由来の構造を重合体の主鎖骨格に有するフッ素含有重合体の製造方法であって、上記製造方法は、分子内にフッ素原子を3個以上有するフッ素含有単量体と、不飽和炭化水素基を有するビスフェノール化合物とを塩基性触媒の存在下に重縮合させる工程を含むことを特徴とするフッ素含有重合体の製造方法でもある。
ビスフェノール化合物と他の単量体とを重縮合させて重合体を製造する場合、他の単量体としてフッ素原子を有する単量体を用いると、反応温度を150℃を超えるような高温にしなくても重縮合反応が進行する。その為、塩が共存する状況下において、加熱によって不飽和炭化水素基が反応してしまうおそれが小さく、重合体の主鎖骨格に不飽和炭化水素基が付加した構造の重合体を好適に製造することができる。特に、不飽和炭化水素基を有するビスフェノール化合物と脱塩重縮合反応させる単量体として芳香族化合物を用いる場合、フッ素原子が付加していない芳香族化合物を用いた場合に比べ、フッ素原子が付加した芳香族化合物を用いると、重縮合反応の温度を低くすることができるため、不飽和炭化水素基が重縮合反応時につぶれることがなく、重合体の主鎖骨格に不飽和炭化水素基が付加した構造の重合体を好適に製造することができる。
本発明のフッ素含有重合体の製造方法は、分子内にフッ素原子を3個以上有するフッ素含有単量体と、不飽和炭化水素基を有するビスフェノール化合物とを塩基性触媒の存在下に重縮合させる工程を含む限り、その他の工程を含んでいてもよい。
【0045】
上記分子内にフッ素原子を3個以上有するフッ素含有単量体としては、分子内にフッ素原子を3個以上有する化合物であれば特に制限されず、フッ素原子以外の置換基が付加していてもよい。
また、フッ素含有単量体が有するフッ素原子の数は3個以上であれば特に制限されないが、得られる重合体がより吸水性の低いものとなる点からはフッ素原子の数が多いほうが好ましい。
【0046】
上記フッ素含有単量体としては、下記一般式(9);
【0047】
【化12】

【0048】
(式中、Rは、上記一般式(1)と同様である。)で表される化合物及び/又は下記一般式(10);
【0049】
【化13】

【0050】
(式中、Y、m及びm’は、上記一般式(2)と同様である。)で表される化合物のような構造を有するものが好ましい。
【0051】
上記一般式(9)で表される化合物としては、例えば、4−フェノキシ−2,3,5,6−テトラフルオロベンゾニトリル等が挙げられる。
上記一般式(10)で表される化合物としては、例えば、4,4’−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル、2,2−ビス(4−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイルオキシ)フェニル)プロパン、4,4’−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイルオキシ)ジフェニルエーテル、1,4−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイルアミノ)ベンゼン、2,5−ジペンタフルオロフェニル−1,3,4−オキサジアゾール、パーフルオロベンゾフェノン等が挙げられる。
【0052】
上記不飽和炭化水素基を有するビスフェノール化合物としては、下記一般式(11);
【0053】
【化14】

【0054】
(式中、X、R、Rは、上述した一般式(1)と同様である。)のような構造のものが好ましい。
フッ素含有単量体として上記一般式(9)又は(10)で表される化合物の少なくとも一方を用い、不飽和炭化水素基を有するビスフェノール化合物として上記一般式(11)で表されるものを用いることで、上記一般式(1)又は(2)で表される繰り返し単位を有するフッ素含有芳香族系重合体を製造することができる。
【0055】
上記一般式(11)で表される不飽和炭化水素基を有するビスフェノール化合物としては、2,2−ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル]プロパン(2,2’−ジアリルビスフェノールA)、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル]メタン、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル] スルホキシド、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル] スルフィド、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル] エーテル、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル] スルホン、1,1−ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル]シクロヘキサン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス−[4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル]プロパン、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル] ケトン、9,9−ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル]フルオレン、3,3−ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル]フタリド、ビス[2−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル]メタン、2,2−ビス[4−ヒドロキシ−3−メチル−5−(2−プロペニル)フェニル]プロパン、ビス[2−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル] ケトン、2−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル 4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル ケトン、2,2−ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル]プロパン、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル]メタン、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル] スルホキシド、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル]スルフィド、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル] エーテル、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル] スルホン、1,1−ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル]シクロヘキサン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス−[4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル]プロパン、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル] ケトン、9,9−ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル]フルオレン、3,3−ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル]フタリド、ビス[2−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル]メタン、2,2−ビス[4−ヒドロキシ−3−メチル−5−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル]プロパン、ビス[2−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル] ケトン及び2−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル 4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニルケトン等が挙げられる。
【0056】
上記分子内にフッ素原子を3個以上有するフッ素含有単量体と、不飽和炭化水素基を有するビスフェノール化合物とを反応させる際のフッ素含有単量体とビスフェノール化合物との比率としては、フッ素含有単量体1モルに対して、ビスフェノール化合物を0.8〜1.2モルの割合で加えて反応させることが好ましい。より好ましくは、フッ素含有単量体1モルに対して、ビスフェノール化合物を0.9〜1.1モルの割合で加えて反応させることである。
【0057】
上記重縮合工程に用いる塩基性触媒としては、反応系中のフッ化水素(HF)を捕捉することができる塩基性物質であれば特に制限されず、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸リチウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、フッ化カリウム、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン等を用いることができる。これら塩基性物質の使用量は、例えば炭酸カリウムを用いる場合、上記フッ素含有単量体1モルに対して0.8〜5モルであることが好ましい。より好ましくは、0.8〜2モルである。これら塩基性物質は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0058】
上記重縮合工程に使用できる溶媒としては、脱塩重縮合反応が進行する溶媒であれば制限されず、通常用いられる溶媒を用いることができるが、非プロトン性の溶媒を用いることが好ましい。非プロトン性溶媒の中でも、アセトン、メチルエチルケトンシクロヘキサノン、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等が好ましい。より好ましくは、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジメチルアセトアミドである。これらの溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0059】
上記溶媒中における分子内にフッ素原子を3個以上有するフッ素含有単量体、及び、不飽和炭化水素基を有するビスフェノールの濃度は、それぞれ1〜40質量%であることが好ましい。溶媒中におけるフッ素含有単量体やビスフェノールの濃度がこの範囲を外れると、反応の効率が低下することになる。より好ましくは、5〜30質量%である。
【0060】
上記重縮合工程の反応条件は、特に制限されないが、反応温度としては0〜150℃が好ましく、より好ましくは0〜130℃、更に好ましくは0〜100℃である。反応時間としては、1時間以上が好ましい。これらの条件下で反応を行うことにより、上述したフッ素含有化合物を高い収率で得ることができる。また、反応は、常圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。
上記反応により生成した生成物は、析出塩を取り除いた上で再沈殿を行うことで精製したり、水を用いて液−液抽出することによりポリマー成分を抽出し、その他の成分と分離して得ることができる。
【0061】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体は、種々の溶媒に対して良好な溶解性を示すため、フッ素含有芳香族系重合体を溶媒に溶解して基材に塗布することにより、平滑な塗膜を容易に形成することができる。
このような本発明のフッ素含有芳香族系重合体と溶媒とを含む塗工用樹脂組成物もまた、本発明の1つである。
【0062】
上記塗工用樹脂組成物を基材に塗布して塗膜を形成した後、フッ素含有芳香族系重合体を架橋させることで架橋体の塗膜を形成することができる。
このような塗工用樹脂組成物を架橋させて得られる架橋体もまた、本発明の1つである。
【0063】
上記フッ素含有芳香族系重合体を架橋させる方法は特に制限されず、重合開始剤を用いる方法、光を照射する方法、熱を加える方法等のいずれの方法を用いてもよいが、熱を加える方法が好ましい。熱を加えることで重合体の主鎖を動きやすくし、架橋の効率を高めることができる。
本発明のフッ素含有芳香族系重合体は、200℃以下の温度で架橋させることができ、架橋体の塗膜を形成することができることから、架橋体の塗膜を形成する際の作業効率の点で好ましい。
フッ素含有芳香族系重合体を加熱することにより架橋させる場合、加熱温度は、120〜200℃が好ましい。このような温度で加熱することで、架橋効率を充分に高めて架橋反応を進行させることができる。より好ましくは、150〜200℃である。
【0064】
上記架橋体の塗膜は、フッ素含有芳香族系重合体に由来する低吸水性、絶縁性に優れる特性の他、耐溶剤性にも優れたものであることから、膜の積層が可能であり、高周波電子部品、高周波配線基板、プリント配線板表面配線、半導体素子及びリード線、有機薄膜トランジスタのゲート絶縁膜等の様々な電子部品の絶縁膜として好適に用いることができる。
このような本発明の塗工用樹脂組成物を架橋させて得られる架橋体を含む絶縁膜もまた、本発明の1つであり、この絶縁膜を必須構成要素とする電子部品もまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0065】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体は、上述の構成よりなり、低吸水性、絶縁性に優れ、溶剤への溶解性が良好であって塗膜を容易に形成することができるものである。また、その塗膜を比較的低温の加熱条件で加熱することで架橋体をとすることができ、得られた架橋体の塗膜は、耐溶剤性に優れたものとなることから、膜の積層が可能であり、電子部品に使用される絶縁膜等として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例1で合成した重合体AのH−NMRの測定チャート、及び、シグナルの帰属を示した図である。
【図2】実施例2で合成した重合体BのH−NMRの測定チャート、及び、シグナルの帰属を示した図である。
【図3】実施例3で合成した重合体CのH−NMRの測定チャート、及び、シグナルの帰属を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0068】
以下の実施例において、重合体の重量平均分子量測定は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、以下の条件で行った。
測定機器:東ソー社製GPC(型番HLC−8120)
分子量カラム:東ソー社製TSKgel GMHXL
溶離液:THF
検量線用標準物質:ポリスチレン
また、重合体の構造同定に関しては、H−NMR測定を以下の条件で行った。
H−NMR
測定機器:Varian社製NMR(Unity Plus 400)
溶媒 :CDCl
周波数:400MHz
【0069】
<実施例1>
4−フェノキシ−2,3,5,6−テトラフルオロベンゾニトリル(PTFBN)と2,2’−ジアリルビスフェノールA(2,2’−ジアリルBisA)との重合反応
PTFBN 53.43g(200mmol)、2,2’−ジアリルBisA 61.69g(200mmol)、モレキュラーシーブス3A(20×30) 34g、及び、メチルエチルケトン(MEK) 320gを混合した。PTFBNの溶解を確認後、炭酸カリウム微粉(日本曹達社製) 55.28g(400mmol)を投入して79℃で重合を9時間行った。その後、メチルイソブチルケトン(MIBK) 350gを投入した。
冷却後、500メッシュの金網で濾過し、一晩放置後、10μm及び1μmのフィルターを用いて加圧濾過を行った。濾過後の溶液に、MIBKを投入し、水を用いて分液洗浄した。分液洗浄を行った後、MIBKを濃縮することで固形分50質量%の重合体溶液(溶媒MIBK)を得た。
得られた重合体Aは、98g(固形分換算)であり、得られた重合体の重量平均分子量Mwは、15,000であった。得られた重合体AのH−NMRの測定結果及びシグナルの帰属を図1に示す。
【0070】
<実施例2>
4,4’−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル(以下BPDE)と2,2’−ジアリルBisAとの重合反応
BPDE 72.58g(130mmol)、2,2’−ジアリルBisA 40.09g(130mmol)、モレキュラーシーブス3A(20×30) 30g、MEK 320gを混合した。BPDEの溶解を確認後、炭酸カリウム微粉(日本曹達社製) 35.93g(260mmol)を投入して79℃で重合を8時間行った。その後、MIBK 350gを投入した。
冷却後、500メッシュの金網で濾過し、一晩放置後、10μm及び1μmのフィルターを用いて加圧濾過を行った。濾過後の溶液に、MIBKを投入し、水を用いて分液洗浄した。分液洗浄を行った後、MIBKを濃縮することで固形分30質量%の重合体溶液(溶媒MIBK)を得た。
得られた重合体Bは、98g(固形分換算)であり、得られた重合体の重量平均分子量Mwは、62,000であった。得られた重合体BのH−NMRの測定結果シグナルの帰属を図2に示す。
【0071】
<実施例3>
PTFBNと、2,2’−ジアリルBisAとビスフェノールA(2,2’−ジアリルBisAとビスフェノールAとのモル比1:1)との重合反応
PTFBN 53.43g(200mmol)、2,2’−ジアリルBisA 30.84g(100mmol)、ビスフェノールA 22.83g(100mmol)、モレキュラーシーブス3A(20×30) 34g、MEK 320gを混合した。PTFBN、BisAの溶解を確認後、炭酸カリウム微粉(日本曹達社製) 55.28g(400mmol)を投入して79℃で重合を9時間行った。その後、MIBK 350gを投入した。
冷却後、500メッシュの金網で濾過し、一晩放置後、10μm及び1μmのフィルターを用いて加圧濾過を行った。濾過後の溶液に、MIBKを投入し、水を用いて分液洗浄した。分液洗浄を行った後、MIBKを濃縮することで固形分30質量%の重合体溶液(溶媒MIBK)を得た。
得られた重合体Cは、91g(固形分換算)であり、得られた重合体の重量平均分子量Mwは、33,000であった。得られた重合体CのH−NMRの測定結果シグナルの帰属を図3に示す。
【0072】
<重合体の溶解性評価>
実施例1〜3で得られた重合体A〜Cの一部を取り、メタノールを用いて再沈殿を行った後、減圧乾燥した。減圧乾燥後の重合体1gを下記表1に示す種々の溶媒9gに溶かして、25℃でのポリマーの溶解性を評価した。結果を表1に示す。評価は、完全に溶解したものを○、溶け残ったものを×とした。
【0073】
【表1】

【0074】
<架橋体の耐溶剤性評価>
重合体A〜CのMIBK溶液(固形分30質量%)をアルミ板の上にアプリケータを用いて塗布し、100℃×5分乾燥して塗膜を形成した。その後、表2に示す所定の温度条件で架橋し、架橋膜を得た。
その後、得られた架橋膜についてトルエンを用いてラビング試験及びスポット試験を行い、耐溶剤性を評価した。比較例として、PTFBNとビスフェノールAとから得られた重合体D(Mw50,000)を用いて、同様の試験を行った。結果を表2に示す。
ラビング試験、スポット試験の方法は以下のとおりである。
[ラビング試験]
試験溶媒であるトルエンをガーゼに含ませて、ラビングを30回行い、試験後の膜の状態を目視で確認した。
○・・・変化なし △・・・膜にキズ ×・・・剥がれあり
[スポット試験]
架橋膜上にトルエンを1滴滴下し、トルエンが自然に乾燥するまで放置し、膜の溶解の有無を目視で確認した。
○・・・膜の溶解なし ×・・・膜の溶解あり
【0075】
【表2】

【0076】
<重合体の耐電圧評価>
重合体A、重合体B、重合体Cそれぞれにプロピレングリコールモノメチルアセテート(PGMAc)を加えて、固形分15%の溶液を調製した。
この溶液を用いて、ITOパターン基板の上にスピンコーターを用いて0.9μmの膜厚になるように塗工して塗膜を形成し、100℃で5分乾燥した。その後、重合体Aの塗膜は170℃×3時間、重合体B及び重合体Cの塗膜は200℃×3時間加熱した。
その後、上部電極を金蒸着により作製し、試験片を作製した。
ソースメーター(KEITHLEY社製 型番2400A)を用いて、0Vから200Vまで電圧をかけて電流値を測定することにより耐電圧測定を行ったところ、いずれの試験片も200Vまで絶縁性を維持した。
【0077】
<重合体の基材への密着性評価>
重合体A〜CのMIBK溶液(固形分30質量%に調整)をカプトンフィルム(50μm)の上にアプリケータ(wet100μm)を用いて塗布し、100℃×5分乾燥して塗膜を形成した。その後、表2に示す所定の温度条件で架橋し、カプトン上に架橋膜を得た。
この膜にクロスカット(2mm幅で25マス)を入れて、セロテープ(登録商標)剥離を行い、カプトンへの密着性を以下の基準で評価した。結果を表3に示す。
○・・・剥がれなし ×・・・剥がれあり
また、カプトン上の積層したフィルムをφ2mmで曲げたが、フィルムにクラック等は入らなかった。
【0078】
【表3】

【0079】
上記実施例、比較例の結果から、本発明のフッ素含有芳香族系重合体は、各種溶剤への溶解性に優れ、容易に塗膜を形成することができ、また、200℃以下の加熱で架橋反応を進行させ、耐溶剤性、基材への密着性に優れた架橋体の膜を形成することができることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1);
【化1】

(式中、Rは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、アルコキシ基、若しくは、アルキルアミノ基、又は、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、アリールアミノ基、若しくは、アリールチオ基を表す。R及びRは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基又は水素原子を表し、ベンゼン環に付加するR及びRは、それぞれ1つであってもよく複数であってもよい。ベンゼン環に付加するR及びRの少なくとも1つは、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基である。Xは、下記(3−1)〜(3−10)の官能基のいずれかである。)で表される繰り返し単位及び/又は下記一般式(2);
【化2】

(式中、Xは、下記(3−1)〜(3−10)の官能基のいずれかである。Yは2価の有機基又は直接結合を表す。R及びRは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基又は水素原子を表し、ベンゼン環に付加するR及びRは、それぞれ1つであってもよく複数であってもよい。ベンゼン環に付加するR及びRの少なくとも1つは、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基である。m及びm’は、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、0〜4の整数であり、m+m’は1以上である。)で表される繰り返し単位を有することを特徴とするフッ素含有芳香族系重合体。
【化3】

【請求項2】
前記R、Rの少なくとも1つは、置換基を有していてもよい炭素数2〜4のアルケニル基であることを特徴とする請求項1に記載のフッ素含有芳香族系重合体。
【請求項3】
前記一般式(1)におけるRは、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフッ素含有芳香族系重合体。
【請求項4】
前記一般式(2)におけるm及びm’は、ともに4であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフッ素含有芳香族系重合体。
【請求項5】
不飽和炭化水素基を有するビスフェノール化合物由来の構造を重合体の主鎖骨格に有するフッ素含有重合体の製造方法であって、
該製造方法は、分子内にフッ素原子を3個以上有するフッ素含有単量体と、不飽和炭化水素基を有するビスフェノール化合物とを塩基性触媒の存在下に重縮合させる工程を含むことを特徴とするフッ素含有重合体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のフッ素含有芳香族系重合体と溶媒とを含むことを特徴とする塗工用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の塗工用樹脂組成物を架橋させて得られることを特徴とする架橋体。
【請求項8】
請求項7に記載の架橋体を含むことを特徴とする絶縁膜。
【請求項9】
請求項8に記載の絶縁膜を必須構成要素とすることを特徴とする電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−35959(P2013−35959A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174000(P2011−174000)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】