説明

フッ素吸着剤によるフッ素イオン含有排水の処理方法

【課題】 本発明は、水中のフッ化物イオンを吸着剤により吸着除去する方法であり、長時間にわたってフッ素放出基準値以下まで処理できるフッ素吸着処理方法を提供する。
【解決手段】 ジルコニウムを含むフッ素吸着剤が充填された固定床反応槽にフッ素含有排水を通液することにより、排水中のフッ素イオンを該反応槽内で吸着除去するフッ素処理方法において、該反応槽への通液線速度LVが0.5〜20m/h、通液空間速度SVが10〜30h−1であって、該反応槽の入口pH(原水pH)と出口pH(処理水pH)とのpH勾配値(ΔpH)が1.0〜3.0の範囲内となるように通液することを特徴とするフッ素吸着剤を用いたフッ素イオン含有排水の処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素吸着剤を用いたフッ素イオン含有排水の処理方法に関する。より詳細には、フッ素吸着剤が充填された固定床反応塔にフッ素イオン含有排水を通液する際の通液量を調整し、反応槽前後でのpH勾配が所定の範囲内となるように制御することで、フッ素放出基準値以下にフッ素を低減するフッ素イオン含有排水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素は、金属精錬、ガラス、電子材料工業等からの排水に多く含まれることが多い。フッ素の人体への影響が懸念されており、過剰に摂取すると、斑状歯、骨硬化症、甲状腺障害等の慢性フッ素中毒症を引き起こすことが知られている。
フッ素の除去および回収は、地球環境保護のために、今後も一層強化されると考えられ、そのための経済的、効率的な除去技術が求められている。
従来、水溶液中のフッ素イオンの除去には、被処理液中にカルシウム塩を添加して難溶性のフッ化カルシウムの沈殿を生成する方法や、アルミニウム系凝集剤を用いた凝集沈澱法があるが、これらの方法では、現行の排水基準値である8mg/lを下回ることが困難であり、結果的に15〜20mg/l程度の低濃度フッ素が残存するという問題があるため、凝集処理の後段に活性アルミナ、ジルコニウム系吸着剤、セリウム系吸着剤をはじめとするフッ素吸着剤によりフッ素を吸着除去する方法が提案されている。(特許文献1〜6)
【0003】
フッ素吸着剤を用いたフッ素イオンの吸着処理は、フッ素吸着剤を充填した反応槽などにフッ素イオン含有排水を通液し、フッ素吸着剤と接触させることによってフッ素を除去する方法である。一般に市販されているジルコニウム系やセリウム系などのフッ素吸着剤はフッ素イオン含有排水のpHに応じてフッ素吸着能力が多少異なるが、一般に酸性域であるほど性能が高くなることが知られている。そのためフッ素イオン含有排水は、反応槽に通液される前にpHを予め調整してから通液される。しかしながら、pHが低すぎるとフッ酸による吸着剤の劣化(吸着元素の溶出など)が起き、繰り返し再生して使用する際の連続使用性が低下してしまう。逆にpHが高すぎると吸着剤のフッ素吸着能力が低下して十分にフッ素を除去することが困難となる。
【0004】
このため最適なpH値としては3から7あるいは3から5の範囲に調整されて通液する、あるいは反応槽内のpHを3〜5の範囲になるようにpH調整剤を添加して所定のpHに維持する方法が開示されている(特許文献7〜9)。
【0005】
また、フッ素などの吸着剤として、Zr、Ce、Hf、La、Yから選ばれる1種以上を含有する含水酸化鉄粒子と、エチレンビニルアルコール共重合樹脂又はポリビニルアセタール樹脂の一種以上から選ばれる有機高分子樹脂との複合造粒物からなる吸着剤が知られている(特許文献10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許3866837号公報
【特許文献2】特開2005−28312号公報
【特許文献3】特開2007−21436号公報
【特許文献4】特開2007−14826号公報
【特許文献5】特開2006−305551号公報
【特許文献6】特開昭63−287547号公報
【特許文献7】特許第4103031号公報
【特許文献8】特許第4231770号公報
【特許文献9】特許第4263078号公報
【特許文献10】特開2009−72773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、水中に存在する低濃度のフッ素イオンを排水基準値あるいは各フッ素放出基準値に応じたレベルまで効率良く、長時間にわたって経済的に除去できるフッ素吸着処理法法は未だ提供されていない。
【0008】
即ち、前出特許文献1には、チタン、ジルコニウムおよびスズの含水亜酸鉄塩と樹脂との混合硬化物からなるフッ素イオン吸着剤が記載されており、前出特許文献2、3には、希土類元素含水酸化物と高分子樹脂との成形物からなるフッ素吸着剤が記載されており、前出特許文献4には、ジルコニウムと鉄との水和酸化物などの無機イオン吸着体と有高分子樹脂を含んでなる多孔性成形体からなる有害イオン吸着剤について記載されており、前出特許文献5には、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、セリウムを含有する含水酸化鉄粒子からなるリン、フッ素イオン吸着剤について記載されており、前出特許文献6には、希土類元素から選ばれた1種以上の金属酸化物からなる溶存弗化物イオンの吸着剤について記載されている。しかしながら、いずれも排水中のフッ素イオンを環境基準値(0.8mg/l)以下のレベルまで高度に除去するための吸着剤について記載されているが、排水基準値(8mg/L)以下のレベルを達成しながら、長時間にわたって経済的に除去する方法についての記載はされていない。
【0009】
前出特許文献7には、カルシウム化合物と鉄塩を用いて2段処理法を行い、この処理水をフッ素吸着体と接触させることにより、最終処理水のフッ素濃度を1mg/l以下に低減するフッ素イオン含有排水の処理方法について記載されているが、排水基準値以下に長時間かつ経済的に除去する方法についての記載はされていない。また、カルシウム化合物と鉄塩を用いた2段処理法だけでは、安定的に排水基準を満たすことは難しいという問題があった。
【0010】
前出特許文献8には、ジルコニウムを含む吸着剤からなるフッ素またはリン酸吸着剤が充填された反応槽での吸着処理工程および酸性の活性化剤を通液する活性化工程における通液が上向流で流動床の様態で行うことを特徴とするフッ素またはリン酸吸着剤の再生方法について記載されている。また、前出特許文献9には、ハフニウム、チタン、ジルコニウム、鉄、アルミニウム及びランタノイド類から選択される金属元素を金属酸化物として母体上に吸着または担持した吸着剤を充填された反応槽にフッ素含有排水を通水する態様を上向流での流動床とし、前記反応槽内のpHを3〜5の範囲で一定に維持することを特徴とするフッ素含有排水の処理方法について記載されている。しかしながら、いずれも排水中のフッ素イオンを環境基準値以下のレベルまで高度に除去するための方法について記載されているが、排水基準値以下のレベルを達成しながら、長時間にわたって経済的に除去する方法については記載されていない。
【0011】
また、特許文献9では、フッ素吸着剤が充填された反応槽にフッ素含有排水を通水して、その処理水pHあるいは反応槽内pHを3〜5の範囲になるようにpH調整剤を添加して所定のpHに維持することが記載されているが、実施例には入口のpHを7.0、処理水pH(維持pH)を常時4.0としており、4.0以外の他のpH値で維持した場合の処理性に関しては言及されていない。
【0012】
また、出口pHを3.0〜4.0に維持する場合においては、吸着剤からのOHの放出によるpH上昇を考慮して、必然的に入口側pHはそれらよりやや低い値である必要があることから、入口付近では吸着剤の劣化(吸着元素の溶出)を招く恐れがある。特にpH3.0付近で維持する場合、フッ酸による吸着剤の構成元素が耐酸性の低い鉄などを含有する場合においては、通液に伴い、処理水中へ鉄が溶出するために好ましいpH値であるとは言い難い。さらに、上向流で、かつ、流動床の態様を取ることによって、吸着塔内のpHをより均一にし、ジルコニウムの溶出が抑えられると記載されているが、吸着剤が破過する(1mg/lを超える)までの吸着時間は30〜32時間と短く、頻繁に再生を行わなければならなかった。さらにpHを維持するためには、随時pH調整剤を添加しなければならず、特に処理水量が多い場合においては薬剤使用量の増加を招き、ランニングコストの面からも好ましくない。
【0013】
特許文献10には、細孔容積及び圧縮強度を限定した吸着剤が記載されているが、被処理水と吸着剤とを単に接触させてフッ素などを吸着することが記載されるのみで、効果的なフッ素イオン含有排水の処理方法は記載されていない。
【0014】
また、従来の吸着によるフッ素処理法では、フッ素処理レベルが1mg/l以下程度と低く、破過点付近では通液量の増加に伴い、フッ素リーク濃度は急激に増加する傾向にあり、吸着剤への負荷が必然的に大きくなる結果、吸着剤成分の溶出を回避するためには、交換までのフッ素吸着量(フッ素交換容量)を多くてもフッ素吸着剤1l当り12g程度として通水を停止し、交換(再生処理)を行う必要があり、吸着剤を用いた処理費用の増大につながっていた。
【0015】
一方、現在のフッ素に関する排水基準値は未だ8mg/lと比較的高く、前記のような8mg/l以下までの高度処理のニーズは飲料水用途を別として、必ずしも多いとは言えず、各フッ素放出基準値に応じて柔軟に処理でき、なおかつ長時間にわたって適用可能な吸着処理方法は今まで存在しなかった。
【0016】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、フッ素イオン含有排水をジルコニウムを含むフッ素吸着剤が充填された固定床反応槽へ通液する際の通液線速度LVを0.5〜20m/hr、かつ通液空間速度SVを10〜30h−1に調整し、該反応槽の入口pH(原水pH)と出口pH(処理水pH)とのpH勾配値(ΔpH)が1.0〜3.0の範囲内に入るようにすることで、処理水中のフッ素濃度をフッ素放出基準値以下に抑え、なおかつ吸着剤に吸着するフッ素吸着量を高め、長期にわたって吸着性能を維持することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0018】
即ち、本発明は、フッ素吸着剤が充填された固定床反応槽にフッ素イオン含有排水を通液することにより、排水中のフッ素イオンを該反応槽内で吸着除去するフッ素処理方法において、前記反応槽への排水の通液線速度LVが0.5〜20m/hであって通液空間速度SVが10〜30h−1であり、前記反応槽の入口pH(原水pH)と出口pH(処理水pH)とのpH勾配値(ΔpH)が1.0〜3.0の範囲内となるように通液することを特徴とするフッ素吸着剤を用いたフッ素イオン含有排水の処理方法である(本発明1)
【0019】
また、本発明は、固定床反応槽出口での処理水のpHが4.5〜6.5の範囲であることを特徴とする本発明1記載のフッ素イオン含有排水の処理方法である(本発明2)。
【0020】
また、本発明は、固定床反応槽入口での処理水のpHが3.1〜3.9の範囲であることを特徴とする本発明1又は2記載のフッ素イオン含有排水の処理方法である(本発明3)
【0021】
また、本発明は、固定床反応槽への通液方向が下向流である本発明1乃至3のいずれかに記載のフッ素イオン含有排水の処理方法である(本発明4)
【0022】
また、本発明は、固定床反応槽へ充填されるフッ素吸着剤が、ジルコニウムを含有する含水酸化鉄粒子及び/又は酸化鉄粒子と、エチレンビニルアルコール共重合樹脂又はポリビニルアセタール樹脂の一種以上から選ばれる有機高分子樹脂との複合造粒物からなる吸着剤であって、該吸着剤の平均粒径が0.3〜3.0mmであって、細孔容積が0.1〜0.5cm/gであって、圧縮強度が3〜20Nであり、含水酸化鉄粒子及び/又は酸化鉄粒子中のジルコニウム含有量が3.0〜30wt%であり、吸着剤中の前記有機高分子樹脂の含有量が3.0〜10wt%であることを特徴とする本発明1乃至4のいずれかに記載のフッ素含有排水の処理方法である(本発明5)
【0023】
また、本発明は、フッ素吸着剤が充填された固定床反応槽のフッ素吸着量(運転交換容量)が吸着剤1l当たり13〜25gで通水を停止し、再生処理を実施することを特徴とする本発明1乃至5のいずれかに記載のフッ素イオン含有排水の処理方法である(本発明6)。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るフッ素イオン含有排水の処理方法により、排水中に存在する低濃度のフッ素イオンを排水基準値あるいは各フッ素放出基準値に応じたレベルまで効率良く、長時間にわたって経済的に除去することができる。
【0025】
また、本発明に係るフッ素イオン含有排水の処理方法は、フッ素吸着量の増加とともに、吸着剤からの吸着元素であるジルコニウム等が溶出することなく、長時間にわたってフッ素吸着性能の維持が可能となる。
【0026】
また、本発明に係るフッ素イオン含有排水の処理方法は、フッ素吸着量(運転交換容量)が増加することで、吸着剤使用量の低減および再生頻度の低下を実現でき、さらに処理水を放流する際のpH調整に使用される薬品の量も低減されることからフッ素吸着処理に伴うランニングコストの低減ができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0028】
本発明において処理されるフッ素イオン含有排水としては、半導体関連工場からの排水や、発電所、リン酸肥料製造工程などから排出されるフッ素含有排水が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
フッ素イオン含有排水としては、フッ素をフッ化物イオンの状態で含んでいれば良く、含有されるフッ化物イオンの濃度は20mg/l以下、より好ましくは15mg/l以下である。フッ化物イオン濃度が20mg/lより高いと、吸着剤成分の溶出が顕著となり、繰り返し使用時における性能劣化が起こるために好ましくない。
【0030】
まず、本発明におけるフッ素吸着剤について述べる。
【0031】
本発明におけるフッ素吸着剤は、ジルコニウムを構成元素として含有する酸化物、水酸化物等の化合物の単体、あるいはジルコニウムを含有する化合物を、母体に吸着又は付着させたものであってもよい。母体としては、強酸又は強アルカリ領域にて溶解せず、ジルコニウム含有化合物を吸着又は付着できるものであれば特に限定させるものではない。その中でも、特にジルコニウムを含有する含水酸化鉄粒子及び/又は酸化鉄粒子が好ましく、さらに好ましくは、ジルコニウムを含有する含水酸化鉄粒子である。
【0032】
本発明における含水酸化鉄粒子としては、α−FeO(OH)(ゲータイト)、β−FeO(OH)(アカゲナイト)、γ−FeO(OH)(レッピドクロサイト)が挙げられる。好ましくはα−FeO(OH)(ゲータイト)及び/又はγ−FeO(OH)(レッピドクロサイト)であり、酸化鉄粒子としては、α−Fe(ヘマタイト)、γ−Fe(マグへマイト)、Fe(マグネタイト)が挙げられる。
【0033】
本発明における含水酸化鉄粒子及び酸化鉄粒子は0.1〜1.5wt%の炭素を含有することが好ましい。0.1wt%未満の場合には、有害イオンの吸着が十分とは言い難い。1.5wt%を超える場合には、量産時の効率(生産性)が悪くなる点と、使用時に若干炭酸ガスが発生するために好ましくはない。含水酸化鉄粒子及び酸化鉄粒子の炭素含有量はより好ましくは0.1〜1.2wt%であり、さらにより好ましくは0.2〜1.0wt%である。
【0034】
本発明における含水酸化鉄粒子及び酸化鉄粒子の粒子形状は針状、紡錘状、粒状、板状等であって特に限定されるものではない。
【0035】
本発明における含水酸化鉄粒子及び酸化鉄粒子のBET比表面積値は30〜300m/gが好ましく、より好ましくは50〜280m/gである。BET比表面積値が30m/g未満の場合には、有害アニオンと吸着剤の接触面積が小さくなるので好ましくない。300m/gを超える場合には、有害アニオンの吸着には問題ないが、工業的に生産するには困難であり、取扱いにおいても困難である。
【0036】
本発明における含水酸化鉄粒子及び酸化鉄粒子の平均粒子径は10〜500nmが好ましい。好ましくは30〜300nmである。
【0037】
本発明における含水酸化鉄粒子及び酸化鉄粒子は、ジルコニウム元素を含水酸化鉄子及び酸化鉄粒子に対して3.0〜30wt%含有する。好ましいジルコニウムの含有量は3.0〜28wt%、より好ましくは5.0〜25wt%である。ジルコニウムを含水酸化鉄及び酸化鉄粒子に含有させることによって有害イオンの吸着能が著しく向上する。ジルコニウムの含有量が3.0wt%未満の場合は、これらの元素を含有させた効果がみられない。また、30wt%を超える含有量にした場合、含有量を増やした効果が現れず、コスト高に繋がり好ましくない。
【0038】
本発明におけるフッ素吸着剤の平均粒径は0.3〜3.0mmである。平均粒径が0.3mm未満の場合は、固定床反応槽に充填して使用する際に圧力損失が高くなり、装置の設計が困難となる。3.0mmを超える場合は、フッ素イオンとの接触効率が悪くなり、吸着剤の使用量の増加や反応槽の能力低下に繋がり好ましくない。さらに、低pH領域でフッ素イオンを吸着する際に、含水酸化鉄粒子及び/又は酸化鉄粒子に含有されるジルコニウム元素が溶出しやすくなる。形状は特に制限されるものではないが、球状、円柱状、中空を有する円柱状、粒状などである。好ましい平均粒径は0.3〜2.5mmである。
【0039】
本発明におけるフッ素吸着剤は、固定床反応槽に充填して使用する際の圧力損失とフッ素イオンとの接触効率等を考慮して、前記含水酸化鉄粒子及び/又は酸化鉄粒子と有機高分子樹脂との複合造粒物から構成される吸着剤を用いるのが好ましい。
【0040】
なお、本発明におけるフッ素吸着剤は、造粒の核となるような第3成分を加えて、含水酸化鉄粒子及び/又は酸化鉄粒子と有機高分子樹脂成分とを核の周囲に複合化して形成することで吸着剤成分の使用量を低減することも可能である。
【0041】
本発明におけるフッ素吸着剤の造粒物は、含水酸化鉄粒子及び/又は酸化鉄粒子と有機高分子樹脂成分により形成されるのが好ましいが、形成された造粒物の表面が完全に樹脂成分で覆われてしまうと、含水酸化鉄粒子及び/又は酸化鉄粒子の吸着機能が発現しない。一方、樹脂成分が少なすぎると水中で吸着剤としての使用時に造粒品が崩壊して、含水酸化鉄粒子及び/又は酸化鉄粒子が放出されて回収が困難となり、また、処理後の水質に吸着剤が混入する可能性があり、本発明の目的を達成できない。
【0042】
本発明におけるフッ素吸着剤の細孔容積は0.1〜0.5cm/gである。細孔容積が0.1cm/g未満の場合は、吸着剤内部へのフッ素イオンを含む水溶液の浸透が十分でなく、結果的にフッ素イオンの吸着容量が小さくなってしまう。0.5cm/gを超える場合は、フッ素イオンの吸着容量は高いが、吸着剤の強度が低くなってしまうので、カラムなどに充填して再生・繰り返し使用すると、微粉化して充填層内が目詰まりしてしまう。好ましい細孔容積は0.12〜0.45cm/gである。
【0043】
本発明におけるフッ素吸着剤の圧縮強度は3〜20Nが好ましい。圧縮強度が3N未満の場合は、カラムなどに充填して再生・繰り返し使用すると、微粉化又は崩壊して充填層内が目詰まりしてしまう。圧縮強度が20Nを超える場合は、結果的に樹脂成分が過剰な状態となっているため、含水酸化鉄粒子及び/又は酸化鉄粒子によるフッ素イオンの吸着を阻害され、吸着容量が極端に低下してしまう。より好ましくは3〜18N、さらに好ましくは3〜15Nである。
【0044】
本発明におけるフッ素吸着剤のBET比表面積値は30〜200m/gが好ましい。BET比表面積値が30m/g未満の場合には、フッ素イオンと吸着剤の接触面積が小さくなるので好ましくない。200m/gを超える場合には、フッ素イオンの吸着には問題ないが、結着剤としての樹脂成分が過少な状態となっており、吸着剤の強度が不足して、カラムなどに充填して再生・繰り返し使用すると、微粉化して充填層内が目詰まりしたり、使用中に崩壊してしまったりするので好ましくない。
【0045】
本発明におけるフッ素吸着剤の有機高分子樹脂成分は、エチレンビニルアルコール共重合樹脂又はポリビニルアセタール樹脂を使用することができる。これらの樹脂は、適度の親水性を有しながら、耐水性及び耐薬品性(耐酸性、耐アルカリ性)を兼ね備えたものである。さらに、本発明における含水酸化鉄粒子及び酸化鉄粒子との相性が優れており、少量の添加量で吸着剤の必要強度が得られ、含水酸化鉄粒子及び酸化鉄粒子が有する有害イオンの吸着特性を十分に発揮させることができる。その他の樹脂を使用して吸着剤を調製すると、必要強度を得るために樹脂の添加量が増えて有害イオンの吸着性能が顕著に低下したり、ジルコニウム元素が溶解しやすくする。あるいは、有害イオンの吸着性能は問題ないものの耐水性や耐薬品性に劣るものしか得られない。
【0046】
エチレンビニルアルコール共重合樹脂又はポリビニルアセタール樹脂の含有量は吸着剤に対して3.0〜10wt%である。これらの樹脂含有量が3.0wt%未満の場合は、有害イオンの吸着容量は高いが、樹脂による含水酸化鉄粒子及び/又は酸化鉄粒子の粒子間結合強度が低くなってしまうので、カラムなどに充填して再生・繰り返し使用すると、微粉化又は崩壊して充填層内が目詰まりしてしまう。10wt%を超える場合は、吸着剤の強度は高いが、含水酸化鉄粒子及び/又は酸化鉄粒子表面を樹脂成分によって完全に覆ってしまうために、含水酸化鉄粒子及び酸化鉄粒子による有害イオンの吸着を阻害し、吸着容量が極端に低下してしまう。さらに、含水酸化鉄粒子に含有されるジルコニウム元素が、低pH領域での有害イオン吸着時に溶出しやすくなる。より好ましくは3.5〜10wt%、さらに好ましくは4.0〜9.0wt%である。
【0047】
本発明におけるフッ素吸着剤のエチレンビニルアルコール共重合樹脂のエチレン組成は25〜35mol%であることが望ましい。エチレン組成が25mol%未満の場合は耐水性が低下し、35mol%を超える場合は親水性の低下に伴い必要強度を得るための樹脂添加量が増えてしまう。
【0048】
本発明におけるフッ素吸着剤のポリビニルアセタール樹脂のビニルアルコール組成は12〜25wt%であることが望ましい。ビニルアルコール組成が12wt%未満の場合は耐水性が低下し、25wt%を超える場合は親水性の低下に伴い必要強度を得るための樹脂添加量が増えてしまう。ポリビニルアセタール樹脂のビニルアルコール組成は15〜25wt%がより好ましい。
【0049】
本発明におけるフッ素吸着剤のポリビニルアセタール樹脂の平均重合度は600〜1000であることが望ましい。平均重合度が600未満の場合は耐水性が悪くなり、1000を超える場合は、アルコールなどの溶媒で溶解した際の溶液粘度が高くなってしまい、含水酸化鉄粒子との混合・複合化時の均一性が悪くなり、吸着剤の強度が低下する傾向がある。
【0050】
なお、本発明の効果を損なわない限りにおいて、上記のエチレンビニルアルコール共重合樹脂およびポリビニルアセタール樹脂は、他の共重合成分を有していてもよい。また、これらの樹脂に他の樹脂を配合した混合物であってもよい。さらに、これらの樹脂は一部架橋された構造であってもよい。
【0051】
本発明におけるフッ素吸着剤の炭素含有量は2.0〜9.0wt%が好ましい。炭素量の大部分は樹脂中の炭素に起因したものであるため、2.0wt%未満の場合、樹脂による結着力が小さくなり、炭素量が9.0wt%を超えると含水酸化鉄粒子による吸着機能が低下する。より好ましい炭素含有量は2.4〜9.0wt%、さらに好ましくは2.5〜8.5wt%である。
【0052】
次に、本発明における含水酸化鉄粒子及び酸化鉄粒子の製造法について述べる。
【0053】
本発明における含水酸化鉄粒子は、鉄原料と少なくとも炭酸アルカリを含むアルカリ原料とを混合し、反応溶液のpHを6.0〜10.0に制御して酸化反応を行って得ることができる。
【0054】
本発明における含水酸化鉄粒子の鉄原料としては、硫酸第一鉄水溶液、塩化第一鉄水溶液等を使用することができる。
【0055】
アルカリ原料は、炭酸アルカリ水溶液としては炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸アンモニウム水溶液等であり、水酸化アルカリ水溶液として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を使用することができる。
【0056】
炭酸アルカリ水溶液、又は炭酸アルカリと水酸化アルカリとの混合水溶液の使用量は、第一鉄塩水溶液中の全Feに対する当量比として1.3〜3.5、好ましくは1.5〜2.5である。1.3未満の場合には、マグネタイトが混在することがあり、3.5を越えるとコスト高の傾向となり工業的に好ましくない。
【0057】
反応時のpHは6.0〜10.0が好ましい。pHが6.0未満の場合には、含水酸化鉄に含まれる炭素量が0.1wt%以下となり、有害イオンの吸着能が低下し、吸着剤として好ましくない。pH10.0を越える場合は、炭素量は0.1wt%以上となる場合も有るが、有害イオンの吸着能が低く、含水酸化鉄粒子として好ましくない。
【0058】
反応温度は、通常、含水酸化鉄粒子が生成する80℃以下の温度で行えば良い。80℃を超える場合には、Fe2+を含有するマグネタイト粒子が混在する。
【0059】
酸化反応の前に窒素吹き込みによる脱炭酸反応を伴う熟成を行い、炭素含有量を調整してもよい。
【0060】
前記含水酸化鉄粒子の生成反応における酸化手段は、酸素含有ガス(例えば空気)を液中に通気することにより行う。
【0061】
本発明におけるジルコニウムを含有する含水酸化鉄粒子を製造する際は、前記反応において、ジルコニウム原料を添加して混合、熟成すればよい。ジルコニウム原料としては、硫酸ジルコニウムなどの4価のジルコニウム塩である。なお、ジルコニウムの他に、セリウム、ハフニウム、ランタン、イットリウムの金属元素が少量混在してもよい。
【0062】
本発明における酸化鉄粒子のうち、α−Fe(ヘマタイト)粒子は、例えば、前記含水酸化鉄粒子粉末を空気中200〜800℃の温度範囲で加熱脱水処理を行って得ることができる。
【0063】
本発明における酸化鉄粒子のうち、Fe(マグネタイト)粒子は、例えば、前記ヘマタイト粒子を還元性雰囲気下、300〜600℃で加熱還元して得ることができる。
【0064】
また、第一鉄塩水溶液と水酸化アルカリ水溶液、炭酸アルカリ水溶液等のアルカリ水溶液との中和反応沈澱物を含む懸濁液中に反応温度80℃以上にて空気等の酸素含有ガスを通気することによっても得ることができる。この反応において、ジルコニウムを含有するマグネタイト粒子を製造する際は、ジルコニウム原料を添加して混合、熟成すればよい。
【0065】
本発明における酸化鉄粒子のうち、γ−Fe(マグヘマイト)粒子は、例えば、前記マグネタイト粒子粉末を空気中200〜600℃で加熱酸化して得ることができる。
【0066】
次に、前記含水酸化鉄粒子及び/又酸化鉄粒子と有機高分子樹脂との複合造粒物からなる吸着剤の製造法について述べる。
【0067】
本発明における含水酸化鉄粒子及び/又は酸化鉄粒子と有機高分子樹脂成分との混合・複合化は、含水酸化鉄粒子及び/又は酸化鉄粒子100重量部に対して、エチレンビニルアルコール共重合樹脂又はポリビニルアセタール樹脂を含む溶液を樹脂固形分換算で3.0重量部〜12.0重量部加え、混合、混練及び造粒をワンプロセスで行うか、混合、混練プロセスと、押し出しなどによる造粒を別プロセスで行うことができる。
樹脂溶液の溶媒としては、水/アルコール混合液あるいはアルコールが好ましい。樹脂溶液の濃度としては5〜30wt%が好ましい。必要に応じて、界面活性剤などの添加剤を加えてもよい。
【0068】
混合、混練及び造粒をワンプロセスで行う乾式装置としては、攪拌混合造粒機、流動層造粒機などがある。また、含水酸化鉄粒子と樹脂成分をスラリー化して、湿式の噴霧造粒機や真空凍結造粒機を使用することも可能である。混合及び混練を行う装置としては、リボンミキサー、ニーダ、パグミル、サンドミル、ヘンシシェルミキサーなどの固定容器型、コンクリートミキサーなどの回転容器型、ロールミルなどのロール型混練機を用いることができる。造粒プロセスを行う装置としては、転動造粒機、押出し造粒機、破砕造粒機、ロールプレス圧縮造粒機、タブレッティング圧縮造粒機などが挙げられる。
【0069】
含水酸化鉄粒子及び/又は酸化鉄粒子と樹脂成分と混合・複合化した吸着剤は、続いて乾燥処理を行い、吸着剤中の水又は/及びアルコール溶媒を十分に取り除く。乾燥温度は40〜120℃、好ましくは60〜100℃、さらに好ましくは60〜90℃である。40℃未満の場合は、乾燥に長時間要するので効率的でない。120℃を超える場合は、吸着剤の吸着性能が低下してしまうので好ましくない。
なお、本発明における吸着剤は、造粒の核となるような第3成分を加えて、含水酸化鉄粒子及び/又は酸化鉄粒子と樹脂成分を核の周囲に複合化して形成することでこれらの使用量を低減することも可能である。第3成分としては0.1〜2mm程度の所望のサイズのセラミックビーズや樹脂製のビーズまたは円柱などのその他の形状のものを用いることができる。その複合化の方法は、含水酸化鉄粒子及び/又は酸化鉄粒子と樹脂成分の総量が100重量部に対して、第3成分を50〜2000重量部添加し、攪拌混合造粒機などの装置を用いて高速混合、分散及び造粒をワンプロセスで行うとよい。
【0070】
次に、本発明に係るフッ素イオン含有排水の処理方法について述べる。
【0071】
本発明に係るフッ素イオン含有排水の処理方法は、吸着剤である顆粒物や造粒物などの組成物が充填された固定床反応槽にフッ素含有排水を通液することにより行われる。本発明における固定床反応槽はフッ素イオン含有排水とフッ素吸着剤を接触させ、フッ素イオン含有排水に含まれるフッ素イオンをフッ素吸着剤に吸着させることができるものであれば、任意のカラムや反応槽を使用でき、その形状、大きさ、材質などは特に限定されるものではない。
【0072】
本発明に係る固定床塔へのフッ素イオン含有排水の通液方法としては、通液方向は反応槽内でのpH勾配が存在しやすい下向流での通水が好ましい。上向流での流動床の態様では反応槽内のpH勾配値が小さくなり、吸着剤へのフッ素負荷が高まることで、放出基準値を超過するまでの吸着時間が短縮されてしまうため好ましくない。
【0073】
本発明に係るフッ素イオン含有排水の処理方法において、反応槽へフッ素イオン含有排水を通液する際の線速度LVが0.5〜20m/hかつ空間速度SVが10〜30h−1に調整することで、反応槽内のpH勾配を適正な範囲内に調整するものである。線速度及び空間速度を前記範囲に調整することにより、フッ素吸着剤によるフッ素吸着能力の維持が可能であり、フッ素吸着剤を劣化させることなく、各フッ素放出基準値に準じた処理ができ、なおかつ長期に渡って吸着能力を維持させることが可能となる。
【0074】
空間速度SV値が10h−1未満ではフッ素イオン含有排水と吸着剤との接触時間が長くなり、系内pHが上昇して性能が低下するとともに、多量の水を処理する場合に効率的ではなく、30h−1より大きいと、接触時間が短く、長時間フッ素放出基準値以下にフッ素を処理することが困難となり、交換までの時間が短くなるために好ましくない。より好ましい空間速度SV値は12〜28h−1、更により好ましくは15〜25h−1である。
【0075】
また、空間速度SV値が適正範囲内であっても線速度LV値が0.5m/h未満では圧力損失が小さく、フッ素を吸着することは可能だが、吸着容量が小さくなるために好ましくなく、20m/hより大きいと圧力損失が増大してしまうために不利であり、さらにフッ素吸着性能が低下するために好ましくない。より好ましい線速度LV値は0.8〜15m/h、更により好ましくは1.0〜12m/hである。
【0076】
本発明に係るフッ素イオン含有排水の処理方法において、固定床反応槽の入口pH(原水pH)と出口pH(処理水pH)とのpH勾配値(ΔpH)が、常に1.0〜3.0の範囲内となるように通液する必要がある。ΔpHが1.0未満では通水初期での吸着性能は十分であり、1mg/l以下の高度処理も可能であるが、早期にジルコニウムが溶出し、ジルコニウム溶出を回避するためには運転交換容量を小さくしなければならないために好ましくない。またΔpHが3.0より大きい場合にはジルコニウムの溶出はほとんど起こらない反面、フッ素吸着性能が低下し、早期にフッ素がリークして基準値を超えてしまうため好ましくない。
【0077】
本発明に係るフッ素イオン含有排水の処理方法において、固定床反応槽の入口側のpHとしては、処理するフッ素イオン含有排水に含有されるフッ素濃度により微調整を行うが、3.1〜3.9の間に調整されることが好ましい。通液量を制御し、なおかつ、このpH範囲に調整することで、反応槽内でのフッ素吸着に伴うOHの放出とジルコニウムとフッ素との錯体形成を伴ったフッ素の取込みがバランスよく行われ、所定の通液速度において、反応槽内のpH勾配値(ΔpH)が本発明で規定した適正な範囲内となって、上記の効果を満足する。入口のpH調整は厳密に行われる必要があり、pH3.1未満では、通水初期ではフッ素が1mg/l以下まで高度に処理されるものの、フッ素吸着量が吸着剤1l当たり10〜12g前後でフッ素がリークし始めると同時に、吸着剤からのジルコニウムの溶出が顕著に起こり、劣化を引き起こすため好ましくない。またpHが3.9より高いと、フッ素吸着に伴う吸着剤からのOH放出により反応槽内のpHが直ちに上昇してしまい、吸着能力が低下するため好ましくない。より好ましい入口側のpHは3.4〜3.8である。
【0078】
本発明に係るフッ素イオン含有排水の処理方法において、固定床反応槽前後でのpHの測定は、pHメーターなど任意の公知の手段により測定が可能であり、特に限定されるものではない。また反応槽前段でのpH測定は凝集沈澱した処理水を一旦原水槽として貯留し、その槽内で行うことも可能である。また通液速度を制御し、入口側pHを一旦3.1〜3.9の範囲内に調整することで通液中でのpH調整の必要はないが、反応槽前後で測定されたpH勾配値(ΔpH)を自動で監視するシステムとして、この範囲内から外れた場合には、ポンプ圧の調整により所定のSVの範囲内でSV値を調整するか、pH調整剤を添加して所定の入口側のpH範囲内でpH値を調整することで所定のΔpH範囲内に制御するシステムを設けることも可能である。なお、入口側でのpH調整は、任意のpH調整剤を使用することができ、酸としては硫酸、塩酸、硝酸など、塩基としては水酸化ナトリウムなどが挙げられる。
【0079】
本発明に係るフッ素イオン含有排水の処理方法において、固定床反応槽出口での処理水のpHが4.5〜6.5の範囲であることが好ましい。本発明においては、固定床反応槽出口のpHを前記範囲とすることができるので、処理水を放流する際のpH調整に使用される薬品の量も低減することができる。
【0080】
本発明に係るフッ素イオン含有排水の処理方法において、フッ素イオン含有排水中のフッ素イオンがフッ素吸着剤に吸着され、フッ素含有量が低減された処理水が得られる。また、本発明に係るフッ素イオン含有排水の処理方法では、従来の1mg/l未満までの高度処理の用途ではなく、処理水のフッ素濃度は排水基準値である8mg/l以下、あるいはそれぞれの定めるフッ素放出基準値及び自主基準値(3mg/l以下, 5mg/l以下など)に応じて処理することが可能である。
【0081】
本発明に係るフッ素イオン含有排水の処理方法において、フッ素イオン吸着後の吸着剤は、アルカリ水溶液と接触させることで吸着したフッ素を脱離させることが可能である(再生処理)。アルカリ溶液のpH範囲はpH10以上であればフッ素の脱離は進行するが、脱離率を向上させるためにはpH13以上が好ましい。またアルカリ濃度は0.1〜15wt%の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.5〜10wt%の範囲である。0.1wt%より低いと高い脱離率が得られず、15wt%より高いとアルカリ使用量が多くなりコスト増加につながるため好ましくない。
【0082】
アルカリ水溶液の通液速度は、特に制限はないが、SV値が1〜15h−1の範囲が好ましく、さらに好ましくはSV値が1〜10h−1の範囲が好ましい。アルカリ水溶液の種類は、特に制限は無いが、水酸化ナトリウム水溶液は、脱離効率が高いために好ましい。
【0083】
また、吸着剤の再生に使用したフッ素を含有したアルカリ溶液は、別途反応槽に移して、水酸化カルシウムなどのCa系薬剤を添加し、純度の高いフッ化カルシウムとして析出させてフッ素を回収する手段を取ることが可能である。また、凝集沈澱処理に戻して再度処理することでフッ素処理自体のコストを低下させることが可能であり好ましい。
【0084】
本発明に係るフッ素イオン含有排水の処理方法において、フッ素を脱離した反応槽内のpHは高い状態であるため、連続してフッ素イオン含有排水を通液するとフッ素吸着性能が低く、フッ素吸着に使用するとフッ素がリークしてしまう。そのため、酸性の水溶液を用いて、反応槽内のpHを所定の値まで低下させる必要がある(中和処理)。
【0085】
酸性水溶液の種類は、特に制限は無いが、塩酸、硫酸などの水溶液が挙げられる。濃度は0.001wt%〜5wt%であればよい。0.001wt%より低いと大量の水を必要とするため好ましくない。また5wt%より高いと吸着剤の劣化が著しく好ましくない。
【0086】
酸性水溶液の通水速度は特に制限は無いが、SV値が1〜100h−1の範囲が好ましい。SV値が1h−1より低いと処理時間が長く効率が低下するため好ましくない。SV値が100h−1より大きいと接触効率が低下し好ましくない。
【0087】
本発明におけるフッ素イオン吸着後のフッ素吸着剤について、再生処理後の酸処理(中和処理)は、酸水溶液槽と反応槽の間で水溶液を循環させることが好ましい。一般に耐酸性が低い物質を含有する吸着剤を使用する場合では、物質の溶解を回避するために、pHが比較的高い酸水溶液を使用しなければならず、ワンパスでの通水では所定のpHまで低下させるのに処理水量が増大し効率的ではない。これに対して酸水溶液槽を設けて反応槽との間で随時酸水溶液を添加しながら循環させることで、装置のコンパクト化と処理水量および酸使用量を低減でき、効率的にpHを低下させることが可能となる。
【0088】
酸処理時における反応槽からの出口側のpHを随時計測し、あるpH値(終点pHとする)に達するまで酸溶液を通液する。終点pHはフッ素放出基準値によって異なる値とすることが好ましい。終点pH値を高くするほど通水初期でのフッ素リーク濃度が高くなるため、1mg/L以下まで処理する場合では終点pHを3〜5に調整する。また1mg/L〜8mg/Lの場合では終点pHを5〜10に調整することが好ましい。放出基準値に依らず終点pHを常時3付近まで低下させてもよいが、通液初期での吸着性能が高くなり、必要以上にフッ素を除去し、フッ素吸着剤への負荷が増加するために、各放出基準値に基づいて終点pHを調整することが好ましい。
【0089】
本発明におけるフッ素吸着剤の再生処理の時期、いわゆる運転交換容量は、吸着剤1l当たり13〜25gとすることが好ましい。13g未満では、処理速度を高めた場合に再生処理を頻繁にする必要があり、ランニングコストの増大につながるため好ましくない。また25gより大きい場合ではフッ素のリーク濃度が上昇するとともに、吸着剤からのジルコニウムの溶出が顕著となり、繰り返しでの使用性能が低下するため好ましくない。
【0090】
なお、フッ素吸着量の算出は、定期的に処理水を採取しフッ素濃度を測定して求めるか、処理水側にフッ素濃度計を設けて定期的に数値をプロットして算出してもよい。また通水量あるいは通液時間など種々のパラメータを用いて管理することが可能である。
【0091】
本発明におけるフッ素吸着剤の交換時期に関しては、固定床反応槽への通水量や通液時間、処理水フッ素濃度のほか、pHの管理によってもなされる。通水前の入口側pHの調整値の違い及び通液前に実施される酸処理の終点pHの違いにより、通液初期においてpHは変動するものの、通液定常時において、本発明で規定した反応槽前後でのpH勾配値(ΔpH)が0.5以上1.0未満となった時点が交換の目安となる。これはフッ素吸着に起因するOHの放出がほとんど行われなくなったことを示唆しており、吸着剤へのフッ素吸着が終了したことを示している。これ以上通液すると、フッ素のリークあるいはジルコニウムの溶出が起こるため好ましくない。
【0092】
<作用>
本発明において重要な点は、本発明に係るフッ素イオン含有排水の処理方法を用いることにより、排水中のフッ素濃度をフッ素放出基準値以下に抑え、なおかつ吸着剤に吸着するフッ素吸着量を高め、長期にわたって吸着性能を維持できるという事実である。
【0093】
従来のフッ素吸着剤およびそれを用いたフッ素イオン含有排水の処理方法は、環境基準値(0.8mg/l)以下のレベルまで高度に処理するためのものであり、排水基準値(8mg/l)や自主基準(1〜8mg/l)を安定的に達成しながら、長期間にわたって経済的に除去することはできなかった。
【0094】
本発明におけるフッ素吸着剤についても、通常の処理方法では環境基準値以下を達成できるが、市場ニーズを調査した結果、環境基準値以下まで高度にフッ素除去する需要だけでなく、排水基準以下を安定的かつ経済的に除去したい需要も数多くあることがわかった。
【0095】
本発明者らは、上記市場ニーズを解決すべく鋭意に研究を進めた結果、実際にはジルコニウム系吸着剤においては出口側pH(処理水pH)が4.0あるいは5.0を超える場合においてもフッ素処理能力を有しており、必ずしもpH3〜5あるいは3〜4の範囲に常時pHを維持するなどの操作は必要無く、反応槽への通液速度を調整して反応槽内でのpH勾配を適切な範囲内とすることにより、吸着剤からの吸着元素であるジルコニウムの流出を抑制でき、なおかつ長期にわたるフッ素吸着性能の維持が可能となることを見出した。
【0096】
本発明におけるフッ素吸着剤は、フッ素イオン以外のリン、ヒ素及びセレンを含有するイオンに対して高い吸着能を有するとともに、イオンの吸着選択性を有しているので、他のアニオンなどの共存イオンを含有する場合であっても、高い吸着能を維持することができる。
【0097】
また、本発明におけるフッ素吸着剤は、フッ化物イオンを吸着処理した後、通常の再生処理方法、例えば、吸着剤を充填したカラムに水酸化ナトリウムなどの強アルカリ水溶液を通水してフッ化物イオンを脱離・回収させ、続いて塩酸などの酸を用いて吸着剤を中和させるなどの処理により、脱離および再生させ、繰り返し使用することができる。
【実施例】
【0098】
本発明の代表的な実施の形態は次の通りである。
【0099】
本発明における粒子粉末の結晶相の同定は、「X線回折装置RINT2500(理学電機(株)製)」(管球:Cu、管電圧:40kV、管電流:300mA、ゴニオメーター:広角ゴニオメーター、サンプリング幅:0.010°、走査速度:4.00°/min、発散スリット:1/2°、散乱スリット:1/2°、受光スリット:0.15mm)を使用して行った。
【0100】
本発明における粒子形状及び平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、吸着剤の平均粒径は、「レーザー回折式湿式粒度分布計((株)堀場製作所製)」を用いて測定した。
【0101】
本発明における粒子粉末のBET比表面積値はBET法により測定した値で示した。
【0102】
本発明における粒子粉末のジルコニウム元素の含有量の分析は、該粒子粉末を塩酸などで溶解し、「プラズマ発光分光分析装置(ICP)iCAP6300(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製)」で測定して求めた。
【0103】
本発明における吸着剤の細孔容積は、「細孔分布測定装置トライスター3000((株)島津製作所製)」を用いて測定した。
【0104】
本発明における吸着剤の圧縮強度は、「デジタルフォースゲージZP‐500N((株)イマダ製)」を用いて測定した。
【0105】
(製造例)
ジルコニウム含有含水酸化鉄粒子粉末からなる吸着剤の製造
毎分650lの割合で窒素ガスを流すことによって非酸化性雰囲気に保持された900l反応容器中に、1.6mol/lのNaCO水溶液620lを投入した後、Fe2+370molの硫酸第一鉄とZr4+83molの硫酸ジルコニウムを溶解させた混合溶液280l(NaCO/FeSO;モル比0.37、NaCO/Zr(SO;モル比0.083、Zr/Fe22.5mol%)を添加・混合し、温度40℃においてpH8.5のFeCOとZr(COを含む懸濁液を生成した。
上記懸濁液中に、引き続き、毎分650lの割合で窒素ガスを流しながら、温度40℃で60分間保持して熟成した後、毎分900lの空気を当該懸濁液中に3時間通気して黄褐色沈澱粒子を生成させた。黄褐色沈澱粒子は、pH調整、濾別、水洗、乾燥、粉砕した。
得られた黄褐色粒子粉末は、平均一次粒子径が0.12μm、BET比表面積が228m/gの紡錘状を呈した粒子からなり、ジルコニウムの含有量が14.8wt%であり、X線回折の結果、ゲータイト(α−FeO(OH))のみのピークが検出された。
【0106】
続いて、容量10lの混練機「ニーダ(KDH−10;(株)ダルトン製)」に前記含水酸化鉄粒子粉末を2.0kg投入し、撹拌しながら15wt%エチレンビニルアルコール共重合樹脂溶液(ソアノール16DX;日本合成化学(株)製,溶媒;水/アルコール=50/50重量比)850gを徐々に添加し、10分間混練した。得られた混練物を押出し造粒機「ファインディスクペレッター(PV−5型;(株)ダルトン製)」を用いて、スクリーン0.7mm、回転数65rpmの条件で押出し造粒し、さらに整粒機「マルメライザー(QJ−230型;(株)ダルトン製)」で整粒を行った。この造粒物を80℃で乾燥し、篩により分級して500〜710μmの粒径をもつ吸着剤を製造した。
得られた吸着剤の粉体特性は、平均粒径が0.62mm、細孔容積が0.32cm/g、圧縮強度11.1Nであった。
【0107】
実施例1
反応槽は内径20mm、高さ40cmであり、底部にグラスウールを詰めて前記製造例で製造した吸着剤を50ml充填した。吸着剤は予めpH3の塩酸で洗浄処理したものを用いた。反応槽上部にはフッ素イオン含有排水を供給するライン、底部には処理水を排出するラインが接続されている。供給ラインには原水槽と接続されており、フッ素イオン含有排水は供給ラインに設置されているポンプより原水槽から一定の通液速度で反応槽へ送液される。また原水槽及び反応槽の各出口にはpH計が設置され、反応槽入口でのフッ素イオン含有排水のpHと、反応槽出口での処理水のpHが監視できるようになっている。
原水槽にフッ素濃度が10mg/lとなるようにフッ化ナトリウムを溶解し、さらに塩酸を添加してpH3.7に調整したフッ素含有模擬排水を調製した。
調整したフッ素イオン含有排水をSV20h−1, LV3.2m/hで反応槽上部から下向流で通水し、処理水中のフッ素濃度が3mg/lを超過するまで継続した(ここではフッ素濃度3mg/lをフッ素放出基準値とした)。この通液条件において吸着剤は固定床の状態であった。また反応槽から流出する処理水のpHを随時測定し、入口でpH調整したpH値とのpH勾配値(ΔpH)をプロットした。また一定時間毎に処理水を採取してフッ素濃度をイオンクロマトにより測定してフッ素放出基準値(ここでは3mg/l)を超えた時点までの総フッ素吸着量を算出した。さらに基準値の超過時点での処理水中に溶出したジルコニウム量をICPにより測定した。
【0108】
実施例2
フッ素イオン含有模擬水のフッ素濃度を15mg/l、pHを3.6、フッ素放出基準値を5mg/lとした以外は、実施例1と同様にして吸着操作を実施した。
【0109】
実施例3
固定床反応槽として内径80mm、高さ60cmのものを使用し、製造例で製造した吸着剤を1.5l充填した。フッ素イオン含有模擬排水のフッ素濃度を10mg/l、pHを3.5に調整し、反応槽へSV20h−1, LV6.0m/hで反応槽上部から下向流で通水し、実施例1と同様にして吸着操作を実施した。
【0110】
実施例4
フッ素イオン含有模擬排水のフッ素濃度を15mg/l、フッ素放出基準値を5mg/lとして通水した以外は実施例3と同様にして吸着操作を実施した。
【0111】
比較例1
空間速度SVを5h−1とした以外は実施例1と同様にして吸着操作を実施した。
【0112】
比較例2
空間速度SVを40h−1とした以外は、実施例3と同様にして吸着操作を実施した。
【0113】
比較例3
反応槽を内径40mm、高さ40cmのものを用い、SVを10h−1、線速度LVを0.4m/hとした以外は、実施例1と同様にして吸着操作を実施した。
【0114】
比較例4
反応槽を内径40mm、高さ150cmのものを用いて、線速度LVを23.9m/hとした以外は実施例3と同様にして吸着操作を実施した。
【0115】
比較例5、6
pHを3.0及び4.0とした以外は実施例3と同様にして吸着操作を実施した。
【0116】
比較例7
空間速度SVを5h−1とした以外は実施例2と同様にして吸着操作を実施した。
【0117】
比較例8
空間速度SVを40h−1とした以外は実施例4と同様にして吸着操作を実施した。
【0118】
比較例9
反応槽を内径40mm、高さ40cmのものを用い、空間速度SVを10h−1、線速度LVを0.4m/hとした以外は実施例2と同様にして吸着操作を実施した。
【0119】
比較例10
反応槽を内径40mm、高さ150cmのものを用いて、線速度LVを23.9m/hとした以外は、実施例4と同様にして吸着操作を実施した。
【0120】
比較例11、12
pHを3.0及び4.0とした以外は実施例4と同様にして吸着操作を実施した。
【0121】
比較例13
反応槽を内径20mm、高さ200cmのものを用いて、吸着剤の充填量を500mlとし、フッ素イオン含有排水を反応槽下部から流入させて上部から排出する上向流として、線速度LVを31.8m/hとした以外は実施例4と同様にして吸着操作を実施した。なお、この操作において吸着剤は流動床の状態であった。
【0122】
表1及び表2に実施例1〜4及び比較例1〜13のフッ素イオン含有模擬排水の通液条件及びフッ素イオンの吸着量並びにZr溶出量を示し、表3には実施例1〜4及び比較例4〜6、10〜12における処理時間を示す。なお、吸着量は処理水中のフッ素イオン濃度が目標とする基準値を超えた時点までの吸着剤が吸着したF吸着量の合計量である。また、溶出量は処理水中のフッ素イオン濃度が目標とする基準値を超えた時点での処理水中へのZrの溶出量であり、処理時間は通液開始から基準値を超えるまでに要した時間を示している。
【0123】
実施例1から4では入口pHと出口pHのpH勾配値(ΔpH)は、1.0〜2.9であり、フッ素放出基準値を超過するまでのフッ素吸着量は吸着剤1l当たり15.2gから21.3gと良好な吸着量が得られた。またいずれの場合も処理水中へのジルコニウムの溶出は確認されなかった。
【0124】
一方、比較例1、2及び7、8では、フッ素イオン含有模擬排水の通液速度のうち空間速度SV値をそれぞれ5および40としたところ、実施例に比べてSV5h−1の場合では、ΔpHが3.3から3.5まで上昇し、それとともに吸着性能が低下し吸着量が減少した。また同時にジルコニウムの溶出も確認された。SV40h−1の場合にはΔpHが0.3から0.5まで低下し、早期での破過が確認された。
【0125】
比較例3、4および9、10では、フッ素イオン含有模擬排水の通液速度のうち線速度LV値を0.4m/hおよび23.9m/hとしたところ、実施例に比べLV0.4m/hの場合ではΔpHが高くなり、吸着量は減少する傾向にあった。またLV23.9m/hの場合にはΔpHがやや低く、この場合においても吸着量は低下した。
【0126】
比較例5、6および11、12では、フッ素イオン含有模擬排水のpHを3.0および4.0とした場合、実施例に比べてpH3.0ではΔpHが極端に低下し、基準値超過時においてジルコニウムの溶出が確認された。pH4.0では通水初期よりΔpHが急激に上昇し、ジルコニウム溶出は無いものの、吸着量は低下した。
【0127】
比較例13では通液方向を上向流、LVを31.8m/hとした場合、吸着剤は流動床となり、ΔpHが小さく、処理水フッ素濃度は1mg/l以下の低い値で推移したが、吸着量は低下し、なおかつジルコニウムの溶出が確認された。
【0128】
また、処理時間に関して、実施例1、3及び2、4では基準値を超えるまでに要した時間が123時間、109時間及び71時間、62時間であったのに対して、実施例と同じ空間速度(SV20h−1)である比較例4、5、6及び10,11,12では6〜64時間及び7〜49時間であり、実施例に比べて早期に基準値を超過した。
【0129】
<参考例> 吸着剤の再生・再使用性試験
実施例2で使用した吸着剤を充填した反応槽に0.2Nの水酸化ナトリウム水溶液、次いでpH3の塩酸水溶液を通液し、酸処理における処理水のpH(終点pH)が7.0となるまで処理して吸着剤の再生を行った。その後、再度実施例2と同条件でフッ素イオン含有排水を通水し、フッ素吸着量を算出したところ、1回目と同等の吸着量17.0g(吸着量1l当たり)が得られ、ジルコニウムの溶出も確認されなかった。
さらに同吸着剤を用いて同じ操作を20回繰り返して実施したが、吸着剤の顕著な性能劣化は確認されなかった。
【0130】
前記実施例からも明らかなとおり、反応槽への通液量、通液速度を制御することで、反応槽内でフッ素吸着に最適なpH勾配が得られ、フッ素放出基準値を超えるまでのフッ素吸着量をより高くすることができ、さらに吸着剤からのジルコニウムの溶出も抑制される。
【0131】
【表1】

【0132】
【表2】

【0133】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明に係るフッ素吸着処理方法は、フッ素放出基準値まで処理できるとともに、吸着剤の劣化を抑制しながら、高いフッ素吸着量を維持できるため好適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素吸着剤が充填された固定床反応槽にフッ素イオン含有排水を通液することにより、排水中のフッ素イオンを該反応槽内で吸着除去するフッ素処理方法において、前記反応槽への排水の通液線速度LVが0.5〜20m/hであって通液空間速度SVが10〜30h−1であり、前記反応槽の入口pH(原水pH)と出口pH(処理水pH)とのpH勾配値(ΔpH)が1.0〜3.0の範囲内となるように通液することを特徴とするフッ素吸着剤を用いたフッ素イオン含有排水の処理方法。
【請求項2】
固定床反応槽出口での処理水のpHが4.5〜6.5の範囲であることを特徴とする請求項1記載のフッ素イオン含有排水の処理方法。
【請求項3】
固定床反応槽入口での処理水のpHが3.1〜3.9の範囲であることを特徴とする請求項1又は2記載のフッ素イオン含有排水の処理方法。
【請求項4】
固定床反応槽への通液方向が下向流である請求項1乃至3のいずれかに記載のフッ素イオン含有排水の処理方法。
【請求項5】
固定床反応槽へ充填されるフッ素吸着剤が、ジルコニウムを含有する含水酸化鉄粒子及び/又は酸化鉄粒子と、エチレンビニルアルコール共重合樹脂又はポリビニルアセタール樹脂の一種以上から選ばれる有機高分子樹脂との複合造粒物からなる吸着剤であって、該吸着剤の平均粒径が0.3〜3.0mmであって、細孔容積が0.1〜0.5cm/gであって、圧縮強度が3〜20Nであり、含水酸化鉄粒子及び/又は酸化鉄粒子中のジルコニウム含有量が3.0〜30wt%であり、吸着剤中の前記有機高分子樹脂の含有量が3.0〜10wt%であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のフッ素含有排水の処理方法。
【請求項6】
フッ素吸着剤が充填された固定床反応槽のフッ素吸着量(運転交換容量)が吸着剤1l当たり13〜25gで通水を停止し、再生処理を実施することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のフッ素イオン含有排水の処理方法。

【公開番号】特開2011−194335(P2011−194335A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64813(P2010−64813)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【出願人】(391051393)富士化水工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】