説明

フッ素樹脂組成物

【課題】強度、耐熱性、耐吸湿性、撥水性、離型性(剥離性)等の各種物性に優れ、かつ表面抵抗値を制御できるフッ素樹脂組成物を提供する。
【解決手段】フッ素含有芳香族系重合体と、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体の分散体とを含むフッ素樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂組成物に関する。より詳しくは、電気・電子部品や機械部品、光学部品等の各種用途に好適に利用されるフッ素樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素含有重合体を含むフッ素樹脂組成物は、重合体の有するフッ素原子に由来して撥水性を発揮することができ、耐熱性や電気的特性、光学特性等にも優れるものであるため、電気・電子部品や機械部品、光学部品等の各種用途に好適に利用されている。
このようなフッ素樹脂組成物の一つの用途として、最近では、複写機やファクシミリ、プリンタ、それらの複合機等の画像形成・記録装置における定着や転写用のベルト(ベルト状のシート、フィルム)用途が検討されている。従来の画像形成・記録装置では、感光ドラム等の像担持体にトナー等の現像剤を用いて形成された像を被記録材上に直接定着させる方式が採用されていたが、装置寿命や定着速度の向上等のため、最近では、定着ベルトや転写ベルト等のベルト状シートやフィルムを介して、像担持体上の像を被記録材に転写又は定着を行う方式が採用されつつある。
【0003】
従来の画像形成・記録装置用ベルトに使用されるものとしては、例えば、特許文献1には、転写ベルトとして、有機極性溶媒に特定のカーボンブラックを分散させ、これに水を添加してカーボンブラック分散液を調製した後、この分散液に酸二無水物成分及びジアミン成分を溶解し、重合させて得たカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液から形成されるポリイミドが開示されている。また、特許文献2には、定着フィルムとして、フッ素化ポリイミドを主成分とし、かつフッ素樹脂が分散・混合された材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−292656号公報(第2頁、第4〜5頁)
【特許文献2】特許第3069041号明細書(第1頁等)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、画像形成・記録装置における定着や転写用のベルト用途に用いられる組成物に関する技術が種々検討されている。しかしながら、特許文献1において具体的に開示されているのは、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とp−フェニレンジアミン(PDA)とを反応させて得られるポリアミド酸から形成されるポリイミドのみである。また、特許文献2で具体的に開示されているのは、CF基で一部置換された芳香環を有する構成単位を含むフッ素化ポリイミドと、PFA樹脂(四フッ化エチレン−パーフロロアルコキシエチレン共重合体)又はFEP樹脂(四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン樹脂)とを含むフッ素樹脂組成物である。これらのポリイミドやフッ素樹脂組成物では、画像形成・記録装置用ベルトの材料に求められる耐熱性や耐吸湿性、撥水性、離型性等の各物性を充分に発揮するとはいえず、より高いレベルでこれらの物性を発揮することが求められる。また、ムラのない優れた複写性能を発揮するために、画像形成・記録装置用ベルトの材料には、表面抵抗(電気抵抗)を制御できることも求められる。したがって、これらの要求を満たし、画像形成・記録装置用ベルトにより好適に用いることができる材料を開発する工夫の余地があった。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、強度、耐熱性、耐吸湿性、撥水性、離型性(剥離性)等の各種物性に優れるとともに、表面抵抗値を制御するができ、画像形成・記録装置用ベルト等の材料として好適に用いることができる樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、強度、耐熱性、耐吸湿性、撥水性、離型性等の各種物性に優れた樹脂組成物について種々検討したところ、樹脂組成物を、フッ素含有芳香族系重合体と、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体の分散体とを含むフッ素樹脂組成物とすると、当該物性を充分に発揮することができる組成物となり、画像形成・記録装置用ベルトの材料をはじめとする電気・電子部品、機械部品、光学部品等の各種用途に好適に適用できることを見出した。また本発明者は、この樹脂組成物に導電性カーボンを添加すると、表面抵抗値を一定の範囲にコントロールすることが可能となり、画像形成・記録装置用ベルトの材料として更に好適な組成物となることや、更には、このようなフッ素含有芳香族系重合体がポリイミドに比較して種々の溶媒に溶解するため、溶媒選択の幅が広く、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体や導電性カーボンを添加した組成物とするための設計の自由度が高いことや、フッ素含有芳香族系重合体がポリイミドよりも低温で焼成できることから、基材の選択の幅が広く、種々の基材上に塗膜を形成することができることも見出し、上記課題を見事に解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、フッ素含有芳香族系重合体と、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体の分散体とを含むフッ素樹脂組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明のフッ素樹脂組成物は、フッ素含有芳香族系重合体と、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体の分散体とを必須として含むものであるが、これらをそれぞれ1種含むものであってもよく、2種以上含むものであってもよい。また、必要に応じ、フッ素含有芳香族系重合体、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体の分散体以外の更に他の成分(添加剤)を含んでもよい。
【0010】
上記フッ素含有芳香族系重合体は、芳香環を有する重合体であって、フッ素原子を必須として持つ重合体であればよいが、芳香環を有しフッ素原子を必須として持つポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルアミド、及び、ポリエーテルエステルからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、フッ素含有ポリアリールエーテル系重合体、及び/又は、フッ素含有ポリアリールスルフィド系重合体であることがより好ましい。
【0011】
上記フッ素含有ポリアリールエーテル系重合体は、フッ素原子を必須として持ち、芳香環及びエーテル結合を有する重合体であり、上記フッ素含有ポリアリールスルフィド系重合体は、フッ素原子を必須として持ち、芳香環及びチオール結合を有する重合体であって、共にその結合順序やフッ素原子の結合している位置は特に制限されないが、繰り返し単位における芳香環の少なくとも1つにフッ素原子を持つ重合体であることが好ましい。
【0012】
上述したものの中でも、上記フッ素含有芳香族系重合体は、繰り返し単位として、下記式(1);
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Zは、同一若しくは異なって、2価の有機基又は直接結合を表す。mは、同一又は異なって、芳香環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。Rは、同一又は異なって、2価の有機基である。Yは、同一若しくは異なって、酸素原子又は硫黄原子を表す。)で表される構造を有する重合体であることが好ましい。
上記繰り返し単位は、上記式(1)で表される繰り返し単位以外のその他の繰り返し単位を含んでいてもよいが、上記(1)で表される繰り返し単位が上記フッ素含有芳香族系重合体を構成する繰り返し単位の主成分であることが好ましい。繰り返し単位の主成分であるとは、繰り返し単位全体に対する上記一般式(1)で表される繰り返し単位の割合が50mol%以上であることである。より好ましくは、繰り返し単位全体に対する上記一般式(1)で表される繰り返し単位の割合が70mol%以上であることである。
なお、上記式(1)で表される繰り返し単位の構造は、同一であっても異なっていてもよく、異なる繰り返し単位により構成される場合には、ブロック状、ランダム状等のいずれの形態であってもよい。フッ素含有ポリアリールエーテル系重合体がフッ素含有ポリアリールエーテルケトン構造を含む繰り返し単位、フッ素含有ポリアリールスルフィド構造を含む繰り返し単位の両方を有するものである場合、両者の構成比率は特に制限されない。
【0015】
上記一般式(1)中、Zは、2価の有機基又はベンゼン環が直接結合していることを表す。2価の有機基として、C、S、N及び/又はO原子を含むことが好ましい。より好ましくはカルボニル基、スルフィド基、スルホン基、複素環を含有する2価の有機基であり、更に好ましくは下記式(2−1)〜(2−10)である。これらの中で(2−5)〜(2−7)、(2−9)が特に好ましい。
【0016】
【化2】

【0017】
上記式(2−5)〜(2−8)中、Xは、2価の有機基であるが、例えば下記式(3−1)〜(3−19)であることが好ましい。
【0018】
【化3】

【0019】
上記式(3−1)〜(3−19)中、Y、Y、Y及びYにおける置換基として、例えば、水素、置換基を有してもよいアルキル基、アルコキシル基が好適である。より好適なものとしては、炭素数1〜30であって、置換基を有してもよいアルキル基、アルコキシル基である。
【0020】
上記Xとしてより好ましくは、下記(4−1)〜(4−20)であり、更に好ましくは下記(4−6)、(4−7)、(4−15)、(4−20)である。最も好ましくは、(4−6)である。
【0021】
【化4】

【0022】
上記式(1)中、Rは上記Xと同様である。なお、Rが上記Xと同様であるとは、Rと上記Xとが同じ基であることが好ましいことを意味するのではない。Rと上記Xとは、同一又は異なっていてもよい。
【0023】
上記フッ素含有芳香族系重合体の重量平均分子量としては、要求される特性等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、30000以上であることが好ましい。重量平均分子量が30000未満である場合、フィラーを多く含む場合のバインダーとしての機能低下が懸念される。より好ましくは、60000以上であり、更に好ましくは90000以上である。また、500000以下であることが好ましい。500000を超える場合、樹脂粘度自体が高くなりフィラーの分散性が低下し、塗工性も低下する。より好ましくは300000以下である。特に好ましくは、200000以下である。
上記重量平均分子量は、ポリスチレン換算によるゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC装置、展開溶媒;テトラヒドロフラン)によって以下の装置、及び、測定条件で測定することができる。
高速GPC装置:HLC−8220GPC(東ソー社製)を用いて測定した。
展開溶媒 THF
カラム TSK−gel GMHXL ×2本
溶離液流量 1ml/min
カラム温度 40℃
【0024】
本発明のフッ素樹脂組成物に含まれる上記フッ素含有芳香族系重合体の含有量としては、フッ素樹脂組成物の固形分100質量%に対して20〜95質量%であることが好ましい。より好ましくは、40〜90質量%であり、更に好ましくは、60〜80質量%である。フッ素含有芳香族系重合体の含有量が20質量%未満の場合、他方のフッ素樹脂組成物成分の影響を大きく受けることから、バインダー性能の低下、基材への密着性や塗料粘度の低下等の影響の可能性がある。
【0025】
本発明において用いられるフッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体としては、フッ素原子を持つオレフィン(フルオロオレフィン)に由来する構成単位を有する重合体であれば特に制限されず、上記フルオロオレフィンとしては、例えば、フッ化ビニリデン(PVDF)、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン等が挙げられる。このようなフッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体を含むものとすることにより、組成物の機械的強度、撥水性や離型性を高めることができる。
上記フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体として具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン樹脂(FEP)、四フッ化エチレン−エチレン共重合体(ETFE)、三フッ化塩化エチレン樹脂(PCTFE)、三フッ化塩化エチレン−エチレン共重合体(ECTFE)、パーフロロ環状重合体、フッ化ビニル樹脂(PVF)等が好適である。
【0026】
上記フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体の一次粒子径は、1μm以下であることが好ましい。フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体の一次粒子径がこのような範囲のものを用いることにより、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体が、フッ素樹脂組成物中においてより良好な分散体として存在することになると共に、膜作製後の塗膜の表面粗さを2μm以下にすることができる。一次粒子径としてより好ましくは、0.8μm以下であり、更に好ましくは、0.5μm以下である。また、一次粒子径は、0.1μm以上であることが好ましい。
上記一次粒子径は、上記フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体の粒度分布を測定することにより算出することができる。
【0027】
上記フッ素樹脂組成物における、フッ素原子を持つオレフィンに由来する重合体の分散体の含有量は、フッ素樹脂組成物の固形分100重量部に対して、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体の固形分が5〜80重量部であることが好適である。5重量部未満であると、充分な撥水性や離型性が得られないおそれがあり、80重量部を超えると、機械的強度をより高めることができなくなるおそれがある。より好ましくは10〜60重量部、更に好ましくは20〜40重量部である。
【0028】
上記フッ素樹脂組成物は、更に、カーボンブラックを含むことが好ましい。カーボンブラックを含むことにより、表面抵抗値をより好ましい範囲に制御することが可能となり、組成物が画像形成・記録装置用ベルトの材料としてより好ましいものとなる。カーボンブラックとしては、導電性カーボンブラックとして上市されているものが挙げられるが、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、気体又は液体の原料を反応炉中で連続的に熱分解し製造するファーネスブラック、特にエチレン重油を原料としたケッチェンブラック、原料ガスを燃焼させて、その炎をチャンネル鋼底面にあて急冷し析出させたチャンネルブラック、ガスを原料とし燃焼と熱分解を周期的に繰り返すことにより得られるサーマルブラック、特にアセチレンガスを原料とするアセチレンブラック等が挙げられ、また、カーボンナノチューブを使用することもできる。中でも、結晶子やストラクチャーが高度に発達したケッチェンブラックやアセチレンブラック、カーボンナノチューブが好適である。また、これらは単独で使用してもよいし、2種以上の混合物として使用してもよい。
【0029】
本発明のフッ素樹脂組成物がカーボンブラックを含む場合においては、カーボンブラックの含有量としては、フッ素樹脂組成物の固形分100重量部に対して、カーボンブラックが20重量部以下であることが好適である。20重量部より多く含有する場合、導電性は飽和して殆ど変わらない一方で、膜強度の低下や粘度調整が困難となる。このような質量比であると、フッ素樹脂組成物の表面抵抗値を充分に制御可能となる。より好ましくは、10重量部以下である。また、0.1重量部以上であることが好ましい。本発明のフッ素樹脂組成物においては、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体の含有量が上記好ましい範囲であり、かつ、カーボンブラックの含有量がこのような範囲であることが好ましい。このようにフッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体、カーボンブラックのいずれもが好ましい範囲であることによって、組成物におけるフッ素含有芳香族系重合体、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体、及び、カーボンブラックの配合比率が好ましいものとなり、得られる組成物が、機械的強度、撥水性や離型性、及び、表面抵抗値の制御性の全ての特性をバランスよく発揮するものとなる。
【0030】
上記フッ素樹脂組成物では、上述したように、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体が組成物中に分散している形態であるが、自己分散であっても分散剤使用による分散であってもよい。また、フッ素樹脂組成物が更にカーボンブラックを含む場合には、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体及びカーボンブラックがフッ素含有芳香族系重合体に分散している形態であることが好適である。本発明においては、上述したフッ素含有芳香族系重合体を用いることにより、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体の分散体を、更には、カーボンブラックをもフッ素樹脂組成物中に均一に分散することが可能となる。これは、ポリイミド樹脂の組成物の場合、膜形成時に硬化が伴うため、硬化工程の際にフッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体やカーボンブラックの分散状態が崩れ偏在する可能性があるのに対し、本発明のフッ素樹脂組成物ではフッ素含有芳香族化合物は溶媒が除かれるだけなので分散状態を壊しにくいと思われる。その結果、耐熱性や撥水性等に優れるのみならず、表面抵抗値(電気抵抗値)のバラツキが低減され、例えば、画像形成・記録装置用ベルトに用いた場合には、ムラ等の発生が抑制され、良好な画像を転写・定着等することが可能になる。
【0031】
上記フッ素樹脂組成物を調製する方法としては、例えば、このフッ素含有芳香族系重合体と、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体の分散体とを混合分散する方法等が挙げられる。
【0032】
有機溶媒としては、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体を分散できる溶媒であれば特に限定されない。
なお、フッ素樹脂組成物にカーボンブラックを含める場合には、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体とともにカーボンブラックも有機溶媒に分散させてフッ素樹脂組成物を調製するのが好ましいが、その場合には、分散剤を用いることが好適である。有機溶媒としては、カーボンブラックを分散できる溶媒であれば特に限定されない。
本発明のフッ素樹脂組成物は、上記のように、フッ素含有芳香族系重合体を合成する際の有機溶媒、及び、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体の分散やカーボンブラックを分散させる際の有機溶媒を含み得るものである。フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体の分散液やカーボンブラックを分散した分散液の混合時の添加ショック(凝集)を抑えるためには、これらの溶媒(分散媒)が同じで、且つフッ素含有芳香族系重合体の溶媒も同じであることが好ましい。フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体やカーボンブラックの分散に共通の溶媒を見つけ、更にフッ素含有芳香族系重合体も溶解しなければならないが、フッ素含有芳香族系重合体は比較的種々の溶媒に可溶で溶媒の選択幅が広がるため、組成物設計の自由度が高い。
【0033】
上記分散剤としては特に限定されないが、例えば、アニオン性、ノニオン性又はカチオン性界面活性剤や、高分子分散剤等が挙げられ、1種又は2種以上を使用することができる。中でも、分散性能の点から高分子分散剤を使用することが好ましい。
上記高分子分散剤としては、例えば、分子内に複数のカルボキシル基を有するポリカルボン酸系高分子分散剤、分子内に複数のアミノ基を有するポリアミン系高分子分散剤、分子内に複数のアミド基を有する高分子分散剤、分子内に複数の多環式芳香族化合物を含有する高分子分散剤等が好適であり、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記ポリカルボン酸系高分子分散剤としては、例えば、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体、無水マレイン酸共重合体とアルキルアミン等の各種アミンやアルコールとのアミド化又はエステル化物、ポリ(メタ)アクリル酸共重合体等のポリカルボン酸のポリエステルやポリアルキレングリコールをグラフトさせた櫛型ポリマー等が挙げられる。
なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。
【0034】
上記ポリアミン系高分子分散剤としては、例えば、ポリアルキレンアミン、ポリアリルアミンやN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート等のポリアミンにポリエステルをグラフトさせた櫛型ポリマー等が挙げられる。
上記分子内に複数のアミド基を有する高分子分散剤としては、例えば、縮合反応によって得られるポリアミド、ポリビニルピロリドン、ポリN,N−ジメチルアクリルアミドの共重合体や、これらにポリエステルやポリアルキレングリコールをグラフトさせた櫛型ポリマー等が挙げられる。
上記多環式芳香族化合物を含有する高分子分散剤としては、例えば、ピレンやキナクリドン骨格を有するビニルモノマーと各種モノマーとの共重合体が挙げられる。
【0035】
上記分散剤を使用する場合、分散を好適に行う観点から、分散対象物(フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体やカーボンブラック)を事前に溶媒に分散させた分散液を用いる方が好ましい。
【0036】
本発明のフッ素樹脂組成物が含むフッ素含有芳香族系重合体の製造方法としては、例えば、原料として用いられる単量体を、金属塩触媒の存在下において、脱塩重縮合反応させることによって製造する方法が挙げられる。なお、上記フッ素含有芳香族系重合体の製造を脱塩重縮合反応により行う場合には、通常脱塩重縮合反応として行われる反応と同様の反応条件により行うことができる。
【0037】
上記原料として用いられる単量体としては、脱塩重縮合反応により本発明において用いられるフッ素含有芳香族系重合体を生成することができるものであれば特に制限されないが、例えば、ハロゲン原子や水酸基、チオール基、及び、メルカプト基等の置換基を2つ以上有する化合物の中から、脱塩重縮合反応により本発明に用いられるフッ素含有芳香族系重合体を生成することができる単量体を適宜選択して1種類又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。1種類の単量体のみで脱塩重縮合反応が起こる単量体としては、例えば、1つの分子中にハロゲン元素と水酸基との両方を置換基として有する化合物、1つの分子中にハロゲン元素とチオール基との両方を置換基として有する化合物等が挙げられる。これらの化合物は1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。また、1分子中に同一の置換基を2つ以上有する単量体同士の2種類以上の組み合わせとしては、例えば、臭素、塩素、フッ素等ハロゲン元素を2つ以上有する化合物と2つ以上の水酸基を有する化合物の組み合わせ、ハロゲン元素を2つ以上有する化合物とチオール基を2つ以上有する化合物との組み合わせ等が挙げられる。具体的な例が、特開2001−064226号や、特開2007−119756号に記載されている。
【0038】
上記フッ素含有芳香族系重合体を得るための重合反応工程は、有機溶媒中で行われることが好適である。有機溶媒としては、フッ素含有芳香族系重合体の原料の重合反応が効率よく進行でき、かつ、該原料に対して不活性であれば、特に限定されるものではない。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、N−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。好ましくは、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体やカーボンブラックを分散するものと同じ溶媒、或いはアセトンやメチルエチルケトン等比較的沸点の低い溶媒で溶媒置換が容易にできるものが好ましい。これらの有機溶媒は、単独で使用されてもよいし、2種以上の混合物として使用されてもよい。
また、重合において好ましくは抽出により洗浄する工程を含むものが好ましい。フッ素含有芳香族系重合体に含まれる金属塩の量をほぼ無くすことで、その後の抵抗値のコントロールがしやすくなる。
【0039】
上記フッ素樹脂組成物は更に、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、分散剤、有機溶媒、無機充填材、離型剤、カップリンク剤、難燃剤等の各種添加剤が挙げられる。
【0040】
上記フッ素樹脂組成物は、上述したように耐熱性、耐吸湿性、撥水性、離型性(剥離性)、絶縁性、電気特性等に優れ、しかも電気抵抗値のバラツキが充分に小さいものであるため、電気・電子部品、機械部品、光学部品等の各種用途に好適に適用できるものである。中でも、ムラ等が発生することなく、優れた定着性、転写性及び離型性等を有することから、耐久性の高い画像形成・記録装置用ベルトを得ることが可能となるため、画像形成・記録装置用ベルト用途に用いることが好適であり、例えば、転写ベルトや定着ベルト等(ベルト状のシート、フィルム)として特に好ましく用いられる。このようなベルトを用いれば、安定的に連続して画像形成・記録を行うことができる。このように、上記フッ素樹脂組成物が、画像形成・記録装置用ベルト形成用組成物である形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
【0041】
本発明はまた、上記フッ素樹脂組成物が基材上に塗布されてなる複合膜でもある。
上記フッ素樹脂組成物の基材上への塗布方法としては、例えば、キャスティング(流延法)、スピンコーティング(回転塗布法)、ロールコーティング、スプレイコーティング、バーコーティング、リップコーティング、ダイコーティング、フレキソ印刷及びディップコーティング等の通常の手法で行うことができる。そして、例えば、上述のようにしてフッ素樹脂組成物を基材上に塗布した後、例えば、加熱乾燥処理を行うことによって複合膜を得ることができる。
【0042】
上記加熱乾燥処理は、複合膜を形成することができるよう適宜設定することができるが、通常、40〜260℃で行うことが好ましい。より好ましくは、60〜120℃で乾燥した後、120〜260℃でアフターヒートして溶媒を1%以下まで除くことが好ましい。また、加熱乾燥時間としては、5分〜5時間が好ましい。
本発明のフッ素樹脂組成物では、ポリイミドを含む組成物が一般的に300℃以上の焼成を必要とするのに比べて低い焼成温度でも乾燥させることができるため、高温処理ができない基材上にも塗膜を形成することができ、基材の選択の幅が広い点において、優れた組成物であるといえる。
【0043】
上記基材としては、例えば、金属やプラスチックフィルム(ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート等)等が挙げられる。
【0044】
上記フッ素樹脂組成物としては、固形分濃度が3〜60質量%に設定されていることが好適である。この範囲外であると、基材に塗布した場合に均一に展開できず、形成される膜の厚みにバラツキが生じるおそれがある。より好ましくは5〜45質量%である。
なお、上述のようにして得られるフッ素樹脂組成物により形成される膜の厚みは特に限定されず、用いられる用途に応じて適宜設定すればよい。例えば、画像形成・記録装置用ベルトに用いる場合には、0.5〜50μmであることが好ましく、1〜30μmであることがより好ましい。
このように、上記フッ素樹脂組成物、又は、上記複合膜を用いて形成される画像形成・記録装置用ベルトもまた、本発明の1つである。
【0045】
上記フッ素樹脂組成物は、特に撥水性に優れるものであるが、撥水性は、その表面の水に対する接触角により評価することができる。例えば、本発明のフッ素樹脂組成物は、上述したフッ素含有芳香族系重合体とフッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体とを含むことによって、水に対する接触角を85°以上とすることが可能なものである。より好ましくは90°以上、更に好ましくは95°以上である。特に好ましくは、100°以上である。
なお、水に対する接触角は、実施例で後述するように接触角計「CA−X(商品名、協和界面科学社製)」を用いて測定することができる。
【0046】
また上記フッ素樹脂組成物は、表面抵抗値を一定の範囲に制御することができるものであるが、特に、画像形成・記録装置用ベルトを構成する材料として好適なものとするためには、フッ素樹脂組成物の表面抵抗値が10〜1017Ω/□であることが好ましい。この範囲内で任意に表面抵抗値を変えることができることで、目的に併せた使用が可能となる。
なお、表面抵抗値は、実施例で後述するように超絶縁計「DSM−8104(商品名、日置電機社製)」を用いて測定することができる。
【0047】
上記フッ素樹脂組成物は、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体を含むにも関わらず、更にはカーボンブラックを含む場合においてさえ、膜を形成させた際に表面粗さ(Ra)を一定の範囲に制御することが可能なものである。特に画像形成・記録装置用ベルトを構成する材料として好適なものとするためには、フッ素樹脂組成物から形成された膜の表面粗さが、0.01〜2μmであることが好ましい。より好ましくは、0.01〜0.7μmであり、更に好ましくは、0.01〜0.5μmである。
なお、表面粗さ(Ra)は、実施例で後述する方法により測定することができる。
【発明の効果】
【0048】
本発明のフッ素樹脂組成物は、上述の構成よりなり、強度、耐熱性、耐吸湿性、撥水性、離型性(剥離性)等の各種物性に優れ、かつ表面抵抗を制御することが可能なものであることから、電気・電子部品、機械部品、光学部品等の各種用途に好適に適用でき、中でも、画像形成・記録装置用ベルトに特に有用なものである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
下記の実施例・比較例において、分子量測定、表面抵抗値、及び、水による接触角は、以下のようにして測定した。
【0050】
<分子量測定>
ポリスチレン換算によるゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC装置、展開溶媒;テトラヒドロフラン)によって以下の装置及び測定条件で測定した。
高速GPC装置 HLC−8220GPC(東ソー社製)
展開溶媒 THF
カラム TSK−gel GMHXL ×2本
溶離液流量 1ml/min
カラム温度 40℃
<表面抵抗値>
アプリケーターを用いてカプトン上にフッ素樹脂組成物を塗工し、100℃×10分、200℃×60分の乾燥を行い、カプトン上に載ったフッ素樹脂組成物の膜(膜厚:10μm)を作製した。このフィルムを用いて、下記装置及び測定条件により表面抵抗値を求めた。
装置
絶縁計:デジタル超絶縁計DSM−8104(商品名、日置電機社製)
電極:平板試料電極SME−8311(商品名、日置電機社製)
測定条件
測定電圧:0.5V
測定時間:300ms
<表面粗さ>
以下の装置及び測定条件で測定した。
装置
接触式段差計:Dektak3030
測定条件
測定長さ:5cm
荷重 :20mg
<水による接触角>
アプリケーターを用いてアルミ基材上にフッ素樹脂組成物を塗工し、100℃×10分、200℃×60分の乾燥を行い、アルミ基材上に載ったフッ素樹脂組成物の膜(膜厚:10μm)を作製した。この試験片を用いて、下記装置及び測定条件により水による接触角を求めた。
装置
接触角計:接触角計CA−X(商品名、協和界面科学社製)
測定条件
液滴2μlを用い、滴下直後と30秒後に測定した。それぞれ5回ずつ測定を行い、それらの平均値を接触角とした。
【0051】
合成例1
(フッ素含有芳香族系重合体Aの合成)
4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル(BPDE) 41.85g(75mmol)、2,2−ジヒドロキシフェニル−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(BisAF) 25.20g(75mmol)、炭酸カリウム 16.58g(120mmol)、モレキュラーシーブ 18g及びメチルエチルケトン(MEK) 310gを仕込んで、79℃で7時間反応した。その後、この反応液をメチルイソブチルケトン(MIBK)で希釈した後濾過を行い、そのポリマー溶液を脱イオン水で3回洗浄した。ポリマー溶液から再沈殿のメタノールを用いて再沈殿を行い、再度アセトンに溶解して脱イオン水で再沈殿工程を2回繰り返すことで、フッ素含有芳香族系重合体Aを得た。フッ素含有芳香族系重合体Aは、下記式(5);
【0052】
【化5】

【0053】
で表される構造の繰り返し単位を有する重合体であり、その重量平均分子量は、72000であった。
【0054】
合成例2
(フッ素含有芳香族系重合体Bの合成)
6FBAのかわりに、9,9−ビスフェノールフルオレン(BPF)26.25g(75mmol)を用いた以外は、合成例1と同様にしてフッ素含有芳香族系重合体Bを得た。フッ素含有芳香族系重合体Bは、下記式(6);
【0055】
【化6】

【0056】
で表される構造の繰り返し単位を有する重合体であり、その重量平均分子量は、100300であった。
【0057】
合成例3
(フッ素含有芳香族系重合体Cの合成)
ジパーフルオロオキサジアゾール(10F−oxadiazole)8.04g(20mmol)、BisAF 6.72g(20mmol)、炭酸カリウム 4.42(32mmol)、モレキュラーシーブ 5.2g、MEK 100gを仕込んで、79℃で5.5時間反応した。この反応液をメチルイソブチルケトン(MIBK)で希釈した後濾過を行い、そのポリマー溶液を脱イオン水で3回洗浄した。ポリマー溶液から再沈殿のメタノールを用いて再沈殿を行い、再度アセトンに溶解して脱イオン水で再沈殿工程を2回繰り返すことでフッ素含有芳香族系重合体Cを得た。フッ素含有芳香族系重合体Cは、下記式(7);
【0058】
【化7】

【0059】
で表される構造の繰り返し単位を有する重合体であり、その重量平均分子量は、62000であった。
【0060】
調製例1
(カーボン分散液Aの調製)
ケッチェンブラックEC−300J(商品名、ライオン(LION)社製) 4g、分散剤としてポリビニルピロリドン K−30(商品名、日本触媒社製) 0.4g、N−メチルピロリドン(以下、NMP)95.6gを加えて、ペイントシェーカーで1時間分散処理を行い、カーボン分散液Aを得た。
【0061】
実施例1
フッ素含有芳香族系重合体A 0.7gをNMP 3.55gに溶解した。その後、PTFE分散NMP溶液KD−1000AS(商品名、喜多村社製 分散媒:NMP、固形分:40%、粒径:300nm)0.75gを加えて混合し、フッ素樹脂組成物1を作製した。
そして上述のようにして、フッ素樹脂組成物1をアルミ板上に塗工、乾燥して膜を形成し、表面抵抗値、表面粗さ、及び、水による接触角を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
実施例2
フッ素含有芳香族系重合体A 0.69gをNMP 3.31gに溶解した。次に、PTFE分散NMP溶液KD−1000AS 0.75gを加えて混合し、更に、カーボン分散液A 0.25gを加えて混合攪拌し、フッ素樹脂組成物2を作製した。
そして上述のようにして、フッ素樹脂組成物2をアルミ板上に塗工、乾燥して膜を形成し、表面抵抗値、表面粗さ、及び、水による接触角を測定した。結果を表1に示す。
【0063】
実施例3〜6
フッ素樹脂組成物の配合を表1のようにした以外は、実施例2と同様にしてフッ素樹脂組成物3〜6を作製した。そして、上述のようにして、フッ素樹脂組成物3〜6をアルミ板上に塗工、乾燥して膜を形成し、表面抵抗値、表面粗さ、及び、水による接触角を測定した。結果を表1に示す。
【0064】
比較例1
フッ素含有芳香族系重合体A 1.0gをNMP 4.0gに溶解し、フッ素樹脂組成物7を作製した。
そして上述のようにして、フッ素樹脂組成物7をアルミ板上に塗工、乾燥して膜を形成し、表面抵抗値、表面粗さ、及び、水による接触角を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
比較例2
フッ素含有芳香族系重合体A 0.97gをNMP 3.28gに溶解した。次に、カーボン分散液A 0.75gを混合攪拌して、フッ素樹脂組成物8を作製した。
そして上述のようにして、フッ素樹脂組成物8をアルミ板上に塗工、乾燥して膜を形成し、表面抵抗値、表面粗さ、及び、水による接触角を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1中の記号等は、以下のとおりである。
バインダー:フッ素含有芳香族系重合体
フィラー:フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体
PTFE:ポリテトラフルオロエチレン
NMP:N−メチルピロリドン
バインダー/フィラー/導電剤:フッ素含有芳香族系重合体固形分と、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体の固形分と、カーボンブラックとの質量比
【0068】
上記実施例、比較例の結果から、フッ素樹脂組成物を、フッ素含有芳香族系重合体と、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体とを含むものとすることによって、撥水性に優れるものとなること、及び、カーボン添加することで表面抵抗値をより好ましい範囲内に制御することが可能となることが確認された。
また、フッ素樹脂組成物は、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体、更にはカーボンブラックを含んでいるにも関わらず、表面粗さを好ましい範囲内に制御することが可能となっていることが分かる。
なお、上記実施例においては、フッ素含有芳香族系重合体として特定の構造を有するフッ素含有ポリアリールエーテルを、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体としてPTFEを用いているが、本発明のフッ素樹脂組成物が、強度、耐熱性、耐吸湿性、撥水性、離型性(剥離性)等の各種物性に優れるようになり、かつ表面抵抗値を制御できるようになるというような効果が現れる機構は、フッ素含有芳香族系重合体と、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体とを用いていれば全て同様である。従って、上記実施例、比較例の結果から、本明細書において開示した種々の形態において本発明が適用でき、有利な作用効果を発揮することができると言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有芳香族系重合体と、フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体の分散体とを含むことを特徴とするフッ素樹脂組成物。
【請求項2】
前記フッ素樹脂組成物は、更に、カーボンブラックを含むことを特徴とする請求項1に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項3】
前記フッ素樹脂組成物は、画像形成・記録装置用ベルト形成用組成物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項4】
前記フッ素原子を持つオレフィンに由来する構成単位を有する重合体の一次粒子径は、1μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項5】
前記フッ素含有芳香族系重合体は、繰り返し単位として、下記一般式(1):
【化1】

(式中、Zは、同一若しくは異なって、2価の有機基又は直接結合を表す。mは、同一又は異なって、芳香環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。Rは、同一又は異なって、2価の有機基である。Yは、同一若しくは異なって、酸素原子又は硫黄原子を表す。)で表される構造を有する重合体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物が基材上に塗布されてなることを特徴とする複合膜。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物、又は、請求項6に記載の複合膜を用いて形成されることを特徴とする画像形成・記録装置用ベルト。

【公開番号】特開2011−140604(P2011−140604A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3323(P2010−3323)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】